首吊りの話。トン、トントン、トンという不規則で陰鬱なノック音、扉を開ければ魔理沙ちゃんがいました。魔理沙ちゃんにはかつての生気も快活さもなく、ううと言いながら幽霊のようにこちらを見上げます。そんな魔理沙ちゃんが空虚な瞳で、枝毛だらけのロングヘアで、指先を震わせながら、自殺したいけど失敗したら怖いと泣きそうな声で言うので、情けは人のためならず、お手伝いしてあげることにしました。震える魔理沙ちゃんのお手手を取って、魔法の森にエスコートします。静かな樹海は自殺の名所。見つかる心配がない上、王道首吊り自殺が出来る場所が、両手足の指でも数えきれないほどあるからです。大木を見繕うと、持参した縄を太い枝に縛り付け、輪っかを作ります。魔理沙ちゃんは人生最後の舞台が作り上げられる光景をぼんやりとした瞳で見守っていました。魔理沙ちゃんは震えだします。ぜいぜいと息をします。怖い？大丈夫。首吊りは自殺の王様、十秒かからずに失神できる、苦痛はほぼ無い。費用も安く、準備も手軽。早い安いうまい。それに、魔理沙ちゃんだってどうしても耐えられないことがあったから自殺したいと思ったんだから、少しぐらいの怖さは我慢しないと。死んでしまうことより、生きてることのほうが怖いから、自殺するんでしょう。魔理沙ちゃんはぽろぽろ涙を流しながら、ゆっくりと台の上に登ります。地面に足がついていても首吊りは出来るけれど、足がついていなければ失敗の原因が一つ減ります。魔理沙ちゃんは縄の輪を両手でつかみ、金きらの瞳で輪の向こうの樹海を眺めます。冬の樹海は裸の森、名残惜しそうにへばりついた枯れ葉がひらりひらりと舞っています。魔理沙ちゃんが流し目でこちらを見ます。大丈夫だよ、失敗しそうになったら、すぐに助けてあげる。絶対、苦しい思いはしないよ。魔理沙ちゃんは無言で輪に頭を通し、数秒全ての人生を振り返ると、ここではないどこかへ足を踏み出しました。魔理沙ちゃんが宙に浮かび、枝がぎしぎしと悲鳴をあげます。蹴飛ばした踏み台ががらんがらんと転がります。衝撃で枯れ葉が舞い散ります。魔理沙ちゃん、かすれるようなうめき声、しかしそれもつかの間で終わり、瞼が降りて、あたりはしんと静かになりました。魔理沙ちゃんの両腕が脱力します。舌がつき出ています。両目はわずかに開いていますが、意識はもうありません。ただ、死んでも居ません。脳への血流が阻害されて、意識がないだけなのです。魔理沙ちゃんはまだ生きています。お手手もお腹も温かいです。枯れ葉が舞います。ただ静かです。反射により両腕がゆらりと上がり、やがて下がっていきます。あとはただ、安楽な死があるだけです。そして２０分、魔理沙ちゃんが息を引き取ったことを確認しました。筋肉が弛緩して、ドロワースが糞尿で汚れています。乙女の死体を汚いまま放置するわけにはいきません。それに、自殺を最後まで手伝うと約束もしました。オムツをさせておけば、始末はもう少し楽だったでしょうが、仕方ありません。ドロワースを下ろし、ついでに衣服も取り払います。真っ白な、人形のような肢体です。そこにへばりついた糞尿を、大きな布で丁寧に丁寧に拭き取りました。恐怖でひきつっていた顔も、時間の経過とともに筋肉が弛緩し、安らかなものに変わっていきました。舌に手を添え口に戻し、半開きの瞼を下ろしてあげます。眠るように美しい首吊死体になりました。冬の大気で体温を失ってゆく魔理沙ちゃんの体、その頭頂を撫で、乱れた髪を優しく整え、なにもない世界への旅立ちを祝福しました。こうして、幻想郷のムードメーカー、魔理沙ちゃんという小さな太陽が沈んだのです。めでたし、めでたし。余談ですが、死体は勝手にセックスしても強姦罪にはあたらず、原則として、死体損壊の罪にも問われないそうです。来年はうまい線画を描いて、色ぬりもできる人になりたいです(ぜいたく)
