〜紫を「らりるれろ」で苛めてみた(声のイメージは元ネタ通り、故・青○武氏で)〜 突如として幻想郷を襲ってきた謎の武装テロリスト。 藍からの報告により、博麗大結界が外部から干渉されたことが判明。直後に彼女も連絡を絶ってしまう。 その時、紫に体内通信で語りかけてくるものが現れた。 『聴こえるかね。八雲紫』 「誰?この巫山戯たテロの犯人かしら?」 『ふふ…確かに、君達からすればテロ行為に映るだろう。だがこれは……"演習"だ』 「お遊戯なら他所でやってくれないかしら。死にたくなければ帰りなさい」 『死ぬ?…我々が死ぬ事などない。我々は人でも妖怪でも、神でもない。我々に実体はない』 『我々はお前達人間がこの二千年以上に渡って築いてきた"秩序"や"規範"そのものなのだ』 「なんですって…(はったり?…この私が何処から通信しているのか手繰れないとは…)」 『誰にも我々を抹殺する事はできない。この国が存在し続ける限り、我々は存在し続ける』 「その規範が、どうして私の幻想郷を襲うのかしら。此処には、国への害意など有り得ないわ」 『いいや。あるとも。君達の存在こそが、我々の国の進化の妨げとなるのだ』 「私達の存在が?」 『そうだ……有史以来、人は様々な幻想を作り上げてきた』 『見透かせない闇の中に何かの存在を感じて怯え…自然現象を神の業と信じて畏れ敬った』 『だが、やがて人間は科学や技術で武装する事を覚えた。幻想という胡乱な存在は駆逐され、淘汰され始めた』 『その結果は君もよく知っているはずだ。今の世界に、最早君達の居場所は無い』 「ええ。だから私はここを築き上げた。外界に忘れられ、幻想となった者のための安住の地を」 『幻想のための…か。ふっふっふ…』 「何が可笑しいの?」 『……話を戻させてもらう。科学技術の発展により、かつて人が畏れた幻想は消え失せつつある』 『これまでの歴史の中で謎として語り継がれてきた夢物語もその実態を露わにし、虚実だったとして片が付き、  真実として加工され、整理されていく…もはや旧き幻想は消え行く定めなのだ』 『しかし、同時に弊害も出た。現在では人々が立てる他愛もない噂や、日常的に生まれる下らない幻想が  デジタル上で保存され、延々と世界に垂れ流され、活き続けている。劣化する事無く…永遠に』 「……………」 『それは少なからず人々の進化を妨げる。見えないものへの恐怖が、人を停滞させる』 『幻想と言うそれそのものが、我々にとっては不都合なのだ』 「その事と、今やっている愚かな行いの関連性が見えないわ」 『関連はあるとも。箱庭に引き篭もっている幻想を引っ張り出し、内部に住む幻想の姿を人間達の前に明らかにするのだ』 『そうすることで、露わになった幻想は単なる動物へと姿を変わるだろう』 『人々の目は恐怖から興味本位のそれに変わり、すぐに実験の対象となる。  そしてお前達を解析することで、人々の進化に繋がる可能性も見えてくる』 『これまでの長い歴史の中で人間がひり出してきた糞の山のような幻想を、我々が価値あるものに変えてやろうというのだ』 「…傲慢な連中ですわ。反吐が出そう」 『傲慢で結構だとも。我々には支配者たる責任と義務があるのだからな』 「幻想は誰の手にも渡る事はないわ。それに、私達にとって何が必要かは、私達が決める」 『…それは本当にお前の言葉か?』 「―――えっ?」 『宇佐見蓮子がお前に語った言葉ではないのか?』 「……………。どうしてお前達があの子を知っているの!?」 『ほう。声音が変わったな』 『最初に言ったはずだ。我々はこの国が存在する限り、消えることは無い。  それは現在のみを指すわけではない。君達が虐げられてきた過去も、君が来た未来も例外ではないのだ』 『度し難いことに、時間を越えて過去へ渡る物好きは多い。その恩恵とでも言うべきか、その都度"我々"から我々へ情報が  齎されている。が、生憎と確実に望んだ未来に至る道を識ることは適わない。断片的な情報を下に模索し続けるしかないのだ』 「それで、この"演習"とやらも、その模索の一環だと…」 『その通り。未来の一つでは幻想郷は消滅している。我々が最終的に望むのは"それ"だ』 『もしかすると君の居た未来も、そうなのではないかな?』 「さて、どうでしょう?」 『ふふふ…』 『ついでだ。もう一つ教えてやろう。外界から逃れた者が集うコミュニティなら他にもある。  未来から現在へ渡ってきた人間も腐るほどいる。しかし我々は、あえて君と君の幻想郷を選んだ。何故だか分かるか?』 「?」 『君だけが、過去から目を背け続けているからだ。他の者は皆、過去に立ち向かうために今にいるというのに…』 「私が逃げているというの!?」 『そうだ。違うと言い切れるか?…未来から過去に渡り、この箱庭を創って、君は何を待ち続けている?』 「……………」 『ふふん。それが君の無能を表している。君に幻想の価値を謳う資格はない』 「違う!私は…!」 『"私"などというものが君に在るのか?』 『時と共に、自分の都合の好い様に姿を変え、在り方を変え続けた。  君の思っている"私"なぞ、せいぜい身を守るための言い訳に過ぎんのではないか?』 『世間に溢れている出来合いの真実の中から、その時々に気持ちよく思えるものをツギハギしただけではないのか?』 『あるいは、もっともらしい権威の下に身を寄せて手に入れたつもりになっている借り物か』 「違う!」 『うん?誰かにそう言ってもらいたいのか?…良かろう。言ってやれ』 『貴女は立派よメリー!こんなに素敵な淑女になるだなんて!』 「……このっ!」 『どうした。聞きたかった声ではなかったのか?』 『それとも、迷ったか。それなら、「自分探し」でもしてみるか?』 『だが、そうやって自分で作った「自分」にも関わらず、何か都合が悪い事が起きると、それを他の誰かのせいにする』 『私のせいじゃない。君のせいじゃない』 『そしてまた別の口当たりのよい幻想を探して、そこに癒しを求める』 『今まで利用してきた幻想をあっさり使い捨ててな』 『そんな君に幻想を選べるのか?』 『その自由を使う権利があるのか?』 『…君は幻想を食い潰している』 『…君は自由を得るに値しない』 『氾濫する幻想で世界を逼塞させるのは、君のような者達だ』 『本来此処の幻想は弱いが無力ではない。むしろ世界を壊すほど危険な存在だ』 『夜に殺人鬼が現れたと噂が出れば国中にその情報が伝播し、関係の無い地域まで恐怖を抱くようにな…』 『そしてデジタルのテクノロジーがさらにその個を強くした。それは今の君達には過ぎた力だ』 『幻想を野放しにしておけば雑霊どもが模倣犯となってその形を纏うだろう。そして彼らは、やがて君の箱庭に至る』 『我々はその暴挙を許しはしない。暴走する幻想に歯止めをかけ、人々をその暴威から救ってやらなければならない義務がある』 『我々は、君達の保護者だからな』 「幻想をお前達が管理しようというの?」 『その通りだ。現代ではどんなものでも数値化できる。これはそれを実証する資料の蒐集も兼ねた演習なのだ』 『数値化されたものは、既にデータに過ぎない。幻想すらも、データと言う存在に落とし込むことでその威を失う』 『君の幻想郷を選んだのも、ここが外界から完全に隔絶した世界を創り上げているからだ』 『実に見事な箱庭だ。あるいは、君のいう"私"とやらを厳重に護る為の殻とでも呼ぶべきかな?』 『此処であれば、どれだけ暴れようと、盗みを働こうと、誰にも分からない。気付かない。演習には打ってつけと言うわけだ』 『…今回の演習で使用した巫女はこの箱庭の結界の干渉と相殺に成功した。これで我々は何時でも君達(幻想)を狩りに行ける』 『そして巫女ももう用済みだ。彼女とそちらの巫女との戦闘結果を持って、本演習は終了する』 『金と時間と手間はかかったが、この結果に比べれば実に些細なものだ』 『それでは、マエリベリー・ハーン』 『我々の造った博霊か、君の造った博麗か。いずれも愛しき怪物たちによる血の饗宴、せいぜい楽しませてくれたまえ…』 …通信は一方的に断ち切られた。結局、発信源は掴めなかった。 同時に、博麗神社で戦闘が行われているという報せが、神社を監視している低級な式から届く。 紫は眉間を指で強く揉みながら、式の式を呼んだ。 彼女がいる限り、式は生きている。心配は無用だ。 「………橙、胃薬を持ってきて頂戴」