※「○○いぢめ」の作者本人ではありません。別人です。  『お前は…○質氏ではないのか!?』  『残念だったなぁ。パロディだよ…』 ※色々改変してあります。ルール面は特に。 ※キャラ崩壊注意。しゃべり方とか呼び方とかかなり怪しい。 ※太子様不在注意。 〜布都いぢめ〜 ステェジ:大祀廟 プレイヤァ:物部布都 ---------------------------------------------------------------------------------------- ※※※※ 読みかけの新聞が枕元にある。 布都は視界から自分が布団に入っていることに気が付いた。 眠った覚えは、ない。 「むぅ…いつの間にか眠っておったのか」 「おはようございます」 「うわっ」 布都の傍に亡霊が座っていた。 「なんだ屠自古か。人の枕元に立つと…は?」 掛け布団を身から放した布都は、自分の姿に疑問を抱いた。 不思議な事に服が寝巻きではない。 普段着ている装束と袴だ。烏帽子も傍にある。 確か昨夜は着替えたはず。となると… 「…屠自古。おぬしまさか」 「勘違いしないでください。それがデフォルト装備です」 「デフォ…なに?」 「E:ぬののふく、です」 意味が分からない。布都は目覚めきれていない頭を困惑させた。 屠自古はそんなことより、と言って一枚の紙を渡してきた。 「これは?」 --------------------------------------------------------- 『レイビョウ カラ デラレレバ アナタ ノ カチ』 【やっちゃやーよ!リスト】 ・自室に長居するな ↓ ・キョンシーに挑むな ・屠自古を倒そうとするな  『雷を落とされる』 ・青娥を倒そうとするな ・磐舟使用禁止 ・死ぬな ・太子様の寝室には行くな  『行くな』 ・どや顔すんなカス ※※※※ ---------------------------------------------------------- それはとても奇妙な内容の紙だった。 「何だこの"やっちゃやーよ"というのは?」 挙がっている項目や、下の方の「※」など気になる点はあったが、 特に理由もなく突っ込んでしまった。 「やってやんよ!」 「…は?」 疑問を投げかけた相手の突然のシャウトに、布都はぽかんと口を開けた。 だが瞬きした直後に映った屠自古の顔は無表情もとい仏頂面だった。 訳が分からない。これ自体に深い意味はないと判断し、布都は次に移ることにした。 「件のリスト、最後の一行だけ筆跡が違うが?」 「さぁ、なんのことでしょう」 わざとらしく視線を逸らされてしまった。 絶対コイツの仕業だ。 他にも『雷を落とされる』『行くな』は自分の物っぽい字に思える。 本当に、奇妙な紙だった。 「ゲームスタートです、布都」 淡々とした話し方だった。 「ゲーム?起きたばかりで遊戯を迫るとは奇怪な」 布都は渋い顔をした。 屠自古はたまに自分をからかうが、今回は輪をかけて性質が悪い。 馬鹿馬鹿しい。布都はそう思って紙を懐に入れた。 「戯れなら食事の後でよかろうが。行くぞ?」 それを聞いた屠自古は明らかに落胆の溜め息をついて見せた。 まるで「またですか」とでも言いたげな素振り。 それが妙に印象に残る。視線を屠自古に留めたまま、自室の襖を開いた。その時―― 「見ーつけーたぞー!」 廊下の奥から声がした。 「む!」 この所々間延びした独特の発音に布都は心当たりがあった。 予想通りの人物がピョンピョン飛び跳ねながらやってくる。 仙人、青娥が飼っているキョンシー・芳香だ。 「せめて使役しているとか、使い魔だとか表現できないのですか」 「我の思考に口を挟むな。彼奴らのやり取りを見ているとそうとしか思えんのだ」 布都にとってはペット感覚としか思えなかった。きっとあながち誤った認識でもないはずだ。 「見つけたとは何だ。芳香、我に何か用―――」 布都は相手から発せられている敵意を感じ取った。 そして芳香は何も言わず、こちらに向けて突っ込んでくる。 彼女は頭は単純だが力は非常に強い。ぶつかっただけで大事に至りかねない。 「止まれ芳香。出合い頭に無礼であろう!」 布都はけん制のつもりで弾幕を放とうとした、しかし、 (力が、出ない!?) 芳香へ向けて差し出した手先からは、何も出なかった。 復活したてでもある程度は発揮できたものがまるで出せない。 不可思議な事態に布都は大いに戸惑った。 その間にも、芳香のほうは動いている。 跳ねるのを止め、浮遊したかと思った直後、目にも留まらぬ速さでスライドしてきた。 「!?」 布都はその思わぬ速さに驚愕した。同時に周囲を見渡す。 廊下という場所もあり左右に逃げ場がない。とてもではないが避けられるものではなかった。 「ふおおぉ!?」 ばひゅーん ずーん… そのまま廊下の端に置かれた岩盤へと叩きつけられてしまった。結構な距離を飛ばされた気がする。 (あれ?なんでこんな所に岩盤が…ぐふぅ) 顔面が岩に埋もれた危機的状態にもかかわらず、布都は妙に冷静に突っ込みを入れていた。 「もーおわりかー?」 芳香の間延びした声が嘲りに聴こえた。が、恐らくそうではないのだろう。ただの疑問なのだ。 しかし両手でぎゅぎゅうと岩盤に押し付けられてしまっている布都には返答はできない。 そのまま、意識が薄れるのと同期するかのように、体が足から消滅していった。 「はい、アウト。一機消失ね」 呆れた様子で屠自古がそう宣言する。 進歩がない、とでも言いたげだ。 屠自古のアウト宣告の後も、芳香が手を離す気配はない。 布都が完全に消滅するまで待機するつもりのようだ。 ・キョンシーに挑むな 岩盤との望まぬ接吻を強いられながら、布都はこの一行を深く心に刻んだ。 「いや、書いてあるもの全てを刻みつけておいてください」 屠自古のツッコミは、意識を失った布都には届かなかった。 ※※※◎ ヴァー! ------------------------------------------- ※※※ 読みかけの新聞が枕元にある。 布都はぱちっと目を覚まし、掛け布団を強引に引っぺがして叫んだ。 「夢か!」 「はい」 即行で肯定が来た。傍にはやはり屠自古がいた。 そして、見覚えのある紙を手渡してくる。 --------------------------------------------------------- 『レイビョウ カラ デラレレバ アナタ ノ カチ』 【やっちゃやーよ!リスト】 ・自室に長居するな ↓ ・キョンシーに挑むな ・屠自古を倒そうとするな  『雷を落とされる』 ・青娥を倒そうとするな ・磐舟使用禁止 ・死ぬな ・太子様の寝室には行くな  『行くな』 ・どや顔すんなカス ※※※ ---------------------------------------------------------- 紙には自分が握った跡がちゃんと残っていた。 「夢ではなかったか」 それを見て布都が軽くうな垂れてしまう。 「夢ですってば」 冷めた声に対して「そういう意味で言ったのではない」と軽く手を振ってあしらう。 「残機は3ですよ」 「残機?」 いぶかしむ布都に対し、屠自古は言葉では返さず、指で紙の一点を示す。 改めて見てみると紙面の※印が3つになっている。 (ん?確かここは4つあったはずだが?) そういえば前はちゃんと見れていなかったし、そもそも質問するのを忘れていた。 「………」 (どうやら状況を確認するには彼女に事の次第を説明してもらうしかないようだ) 布都は屠自古にゲームのルールについて詳しく聴くことにした。 屠自古は額に指を当て、若干考え込むような姿勢で以下の事をすらすらと話した。 --------------------------------------------------------------------------------------- (※布都フィルタ ON) この世界は現実ではない。あくまで我の見ておる夢だという。人物含む この世界はループしており、我はクリアするまで何度も挑戦させられる(な、なんだとう!?) この世界の住人の行動は(主に我を殺すように)プログラムされている(記録者・屠自古は例外) ・カタカナで書かれている条件を満たせばステージクリア(霊廟を出ればよいのか) 【ルール】 ・『やっちゃやーよ!リスト』の行為を行なった場合、死亡のリスクが高まる。 ・残機が無くなると記憶がリセットされて最初の状態に戻ってしまう(コンティニューという) ・残機の数は表面の※の数でわかる(それで3つに減っておるのだな…) 【紙について】 ・ここに書かれておる内容はコンティニューしても消えない ・この紙を無くしてしまうと次のコンティニューまで再発行されない (紙は無くす前の状態で発行される…って再発行時には我は覚えておらぬわ!) ・『やっちゃやーよ!リスト』はリタイヤした場合にのみ自動でその死因が追記される 【記録者について】 ・ゲームのルール説明、記録を行なう者。ゲーム中に一人だけ存在する。屠自古のことか ・『やっちゃやーよ!リスト』を行なったプレイヤーを殺害する役割も持っているため注意が必要 ・故意にプレイヤーを妨害することは無い。手助けもしない。余計な事はよくしゃべる。 --------------------------------------------------------------------------------------- 説明が終わると屠自古は喋るのを止め、じっと布都を見つめた。 「おぬしが…我の夢が造った偽者だと?」 「はい」 あっさりと肯定する屠自古。 布都には彼女は本物にしか見えないし、思えない。 自分の夢から産まれたのだから"自分の思っている屠自古像"の形をしている彼女を布都が見て、 『この人物は屠自古である』と信じられるのは当然なのだろうが。 「おぬしも、我を殺すのか?」 恐る恐る確認する。 「布都次第です」 素っ気無い答えが来た。 「例えば、自刃なさろうとすれば刃に雷を落として殺しますし、  神子の寝室に入った時点でも雷を落として殺します」 物騒な補足が後から付いてきた。布都は思わず頬を引きつらせるが、屠自古は構わず続ける。 「喧嘩を売るならやってやんよ。烏帽子なんて捨てて、かかって来い」 飛びきり嫌な笑みで言われた。喧嘩を売っているのはどっちだ。 「おぬしは我に何か恨みでも―――」 「違います。ルールですので」 「………」 屠自古は怨恨の有無については答えなかった。 「ちなみに準禁止行動やマーダースイッチの設定はOFFです。  プログラマーの青g…んんっ!…が面倒がったので」 「…なんだそれは。しかも今何か言いかけたな?」 「布都に向けたものではありません。無視してください」 「やむを得ぬ。再挑戦と行こう」 「立ち直りが早いのですね」 「当然だ。何故こんな事になったかは分からぬが、クリア条件があるならさっさと解いしまうべきであろう?」 「今の状況を否定なさらないので?」 「否定して自刃しようとすれば、おぬしは我を殺すのであろう?それに…」 それに、眠りについていた千四百年のことを思えば、このくらい大した問題ではない…という気持ちがあった。 千四百年。神子とともに復活を願って待ち続けた年月。 泥のような眠りの中で無数の夢をさ迷い、時には悪夢に苦しんだ。 気付けば霊廟は浮世を離れており、見知らぬ幻想の地にまで至っていたが…事は成った。 (巫女や剣士の乱入はあったが)神子と自分は無事に復活し、今は屠自古や青娥らと幻想郷の住人として暮らしている。 元々考えていた"人の世に復活する"という展望とは異なる、人妖入り乱れる世での復活と相成ったが、 ここから始められる何かがきっとあるはず。 今、神子はこの幻想郷と言う不思議に満ちた世界の先を見つめようと努めている。 彼女がこれから成そうとするものが何であるかは分からない。だが、その時には自分も傍にありたい。一緒に見ていたい。 そのためにはこんな遊戯で詰まっている暇などないのだ。 布都は、そう自分に言い聞かせた。 「どれだけ失敗を繰り返しても現実での時間は一夜ですので、ご安心を」 「心を読むな!」 無粋な突っ込みにシリアスな思考がブレイクしてしまった。 布都は溜め息一つ吐き、例の紙を手に取ってもう一度目を通し始めた。 特に自分が書いたのであろう部分を注視する。 「これは我からの"だいいんぐめっせーじ"というやつなのだな」 「そうです。これまでの数十人の布都が死に行く中で書き綴った、クリアへの道標です」 「数十…そんなにか。その割りには随分と書込みが少ないな?」 「………」 「何か言え」 布都は屠自古の無言の姿勢から言いたそうなことを汲み取ろうとしたが、自分にとって望ましい答えが 得られそうにもないという予感がしたので追求を止めた。 「それよりも…よろしいのですか?」 「は?何が?」と頓狂な顔をした布都の耳に、床を跳ねる音が届いた。 「この部屋に"長居"してしまって」 その後すぐに自室の襖がピシャッと勢いよく開かれた。芳香だ。 「うわわわわわ!」 敵の到来に、先ほどの屈辱的な場面・岩盤とのキスがフラッシュバックして布都は慌てふためいた。 「はっ!そうか。紙にあった『長居するな』とはこのことか!」 嫌な記憶のついでに紙にあった文章が思い浮かんだ。 芳香は構わず突っ込んでくる。万事休す! 「うおおおお!?く、来るなっ!…ええい、来い!雨の磐舟ッ!」 「あ」 屠自古が間抜けな音を漏らした。言ってから布都自身も気が付いた。 紙にあったではないか。「・磐舟を使うな」と。 (しまった!つい呼んでしま―――) ヴィー!ヴィー!ヴィー!ヴィー! 「!?」 けたたましいサイレンが霊廟中に鳴り響く。   WARNING!!   A HUGE BATTLE SHIP    GREAT THING  IS APPROACHING FAST 目の前いっぱいに広がる横文字。 真っ赤な「WARNING!!」の部分が点滅している。 文字が消えると、目の前の空間が突然歪み出し、室内にもかかわらず嵐が吹き荒れた。 その次元の気流の中から巨大な船…のようなモノが姿を現す。 当然、布都の駆る磐舟とはまるで違う。そもそも自分の舟にこんな演出はない。 その船は、鉄と思しき素材で造られ、無数の針を体の各部に備えた恐ろしい姿の怪物だった。 「なんぞこれぇ!」 「すげー。ジーティー!」 驚く布都とは対照的に、何故か芳香は感動している。ジーティーってなんだぁ? ズズズズズズ……… 現れたそれは、物凄くでかかった。磐舟など小魚に等しい。 その威容を前にして、布都は聖白蓮一派が所有するという空を飛ぶ船の話を思い出した。 直に飛ぶ姿をこの目で見たわけではないが、天狗の新聞(バックナンバー)にあった船の姿は とても大きかった。眼前のものはその船とは異質な外見だが同じくらいに大きい。 そいつは、巨大な魚の形をしたその船は、周囲に角のような物を向けて一斉に弾幕を張り始めた。 「またですか \(^o^)/」 屠自古が万歳している。 「また…だと…まさかコイツを知っておるのか屠自古!」 「布都、これで3回目です」 「何?」 屠自古は質問には答えず、何かの回数を返してきた。何故か額に指を当てている。 弾幕が周囲の一切合財を粉砕していく。 船はそのまま直進し、布都を襲いに来ていた芳香をも吹っ飛ばした。 だがそれで布都が助かったわけではなかった。船はこちらへ向けて突っ込んでくる。 次元の嵐から抜け出て全容が露わになったその巨体に、不思議と布都は見覚えがある気がした。 確か書物で見た覚えがある。あれはいつだったか…とにかく見た気がする。 (そいつは書物ではもっと真っ黒で、手足が生えていておぞましい姿だったはずだが) 布都は記憶を探り、何とか名前を思い出した。 「そうだ!こやつは……鯨だ!(ドヤァ)」 返答は、以前見た箒に乗った魔法使いが放つ光線を遥かに凌ぐ量と太さを備えた 強烈無比な光の束によって為された。 空を飛ぶ事はおろか弾幕すら張れない今の布都に抗う術は……ない。 (太子様は無事だろうか) ここの住人が皆偽者だということは屠自古の説明でもあった。 それでも神子の身を案じてしまう自分に、布都は苦笑した。しながら、消滅した。 ※※◎ ティウンティウン ----------------------------------------------------- ※※ 読みかけの以下略。 布都は掛け布団を(略) 傍に屠自古が(ry 「幻想郷には恐ろしい魚がいるのだな」 「あれは違いますよ。二重の意味で違います」 嵐の中から一点、舞台はすっかり自室に戻っていた。 (なるほど、ループとはこういうことか…となるとここにとどまるのは不味いな) 先の件を憂慮した布都は、早々に部屋を出て廊下を過ぎ、別室に避難した。 芳香が周囲にいない事を確認すると、先ほど消える前に抱いた疑問を屠自古に向かって投げかける。 「おぬし、さっき我が倒れる前に妙な事を口走っていたな?」 そう。この亡霊は確かに"3回目"と言った。 「え?…あぁ、詮無いことですよ」 アレを詮無き事で片付けるとは恐れ入る。 「よもや我の死ぼ…いや、失敗を数えておるのか?」 「ええ。布都の『死亡』は全て記録されていますよ…聞きます?」 布都があえて口に出すのを避けた"しぼう"の三文字をいやに強調しながら、 屠自古は憐れみの色を含んだ瞳で見つめてくる。 「聞かせてくれ」 布都は緊張しながら先を促した。自分の死に触れる話を前にして額に汗が浮かぶ。 すると、屠自古は額に手を当て、以下の内容をつらつらと告げた。 ・芳香にボコられる     29回 ・磐舟を呼んで鯨に倒される  3回 ・屠自古に倒される      6回 ・青娥に倒される      10回 ・自刃して死ぬ        1回 ・神子に襲い掛かって死ぬ   1回 ある程度予測できていたが芳香での死ぼ…もといリタイアが多い。 布都は予想以上に多い死亡回数に落ち込みそうな気持ちになったが、 それよりも後半2つが非常に気になって仕方がなかったのでなんとか持ちこたえた。 自刃は…まだ分からなくもない。 こんな異常な状況下で追い詰められれば血迷いもするだろう。 大方これが夢だと知るや「そんな馬鹿なことがあるか」と言ってやってしまったに違いない。 今の自分でも想定できるのだから、判断が鈍った状態だと余計にやりかねなかった。 それはいい。今の自分がその愚を犯さねば済む話だ。だが、 「太子様に襲い掛かって死ぬとは何ぞ?」 こればかりは考えがたい。例え気が触れようと自分が神子を害するなどあるはずがない。 「残機ゼロの時に青娥様と遭遇して深手を負い"どうせ死ぬのなら"と眠っている神子の寝室に飛び込んで…詳しく聞きます?」 布都が話の途中で表情を曇らせたので屠自古は中断して再度の意思確認をしてきた。 「…いや、いい」 手を振って自分から打ち切ることにした。ろくでもない結末に終わったのが見えたからだ。 そうして二人の間での会話が途絶えた。 過去の失態から目を背ける布都と、喋るのを止めた屠自古の間に、(布都の主観で)気まずい雰囲気が漂い始める。 すると屠自古が、まるで今日の献立を思いついた、というような調子でぽんと手を叩いた。 「――ああ。そういえばこのやり取りはこれが初めてですね」 まるで昔の出来事を懐かしむような口調でそんなことを言いだした。 不意のことについ「はぢめて?」などとオウム返しをしてしまう布都。 「はい。以前は死亡の詳細を話そうとした途中で『いや、やっぱりいい。聴きたくない』と言って打ち切りましたから」 その話を聞いて布都はそいつを「意気地無し」と罵りたい気持ちに駆られた。 「ご自分のことですよ?」 「心を読むな。覚りか、おぬしは」 「そんな大層なことをせずとも、顔を見れば分かります」 現実で屠自古にも太子様にも言われた覚えがある台詞に、布都は「うっ」と呻いてしまった。 (…そんなに顔に出るものなのだろうか) あごに手を当てて悩む。が、今少し考えたところで解決しそうなものでもないと気付いて止める。 そして二人とも話さなくなって場が静かになった時、 「…………」 「…………」 布都の耳に声が届いた。 「ん?今何か言ったか屠自古」 「いいえ」 一応確認を取るも、屠自古ではないことは分かっていた。 そもそも声は遠かった。傍にいる彼女のものであれば判るはずだ。 「…………」 「…………」 二度目。確かに話し声が聴こえる。それは襖を挟んだ隣の部室かららしかった。 こちらの会話も向こうに聞こえるはず。どうやら相手は後からやって来たらしい。 (一部屋違えば鉢合わせではないか。あぶないあぶない) 布都はその事に僅かに安堵しながら、最警戒の体制で部屋の隅っこまで進み、隣室との隔たりとなっている襖に耳を近づけた。 「見失った。どうすればいい?」 「見失った…って、布都様の部屋と、廊下しか探せてないでしょう」 「そうだったかも知れぬ」 声が鮮明に聴こえ、その主が誰か判った布都の背筋に、冷たいものが過ぎった。 (この声は…芳香と、青娥殿!) 思わず襖に当てた手が滑って、襖が少し開いてしまった。 ぎくりとした布都はその場で固まった。 「屠自古様は見た?」 「屠自古?…って誰だっけ?」 向こう側が気付いたような素振りはない。 幸い相手には気付かれなかったようだ。 会話は続いている。 布都は恐る恐る目を凝らし、向こう側を覗き見た。 「襖とか気にしなくていいから突っ込んじゃいなさい」 「神子様に怒られないかー」 「いいのいいの。今は特別なの」 「そうかー。で、何をすればいいんだっけ?」 「あらら…」 目で見て再確認できた。襖を挟んだ向こう側で話しているのは芳香と、その主人・青娥だ。 自分を殺した人物と、過去に自分を殺しているらしい人物を前にして戦慄する布都。 「あの青娥様も、布都の心の中のイメージから生み出された者に過ぎません」 いつの間にかすぐ後ろに屠自古がいた。まったく気配がしなかったので布都は竦んでしまった。 ビビリだと思われたくないので、なるべく動揺を隠して話すよう努める。 「そ、そうだったな。しかしどう見ても青娥殿だ」 「布都の中の青娥様へのイメージから生まれているので当然です」 布都は「そうか?」と思い自分の中の青娥への印象を思い起こした。 ・物腰柔らかな印象 ・よく微笑んでいる ・油断ならない ・胡散臭い ・妖しい ・不敵 ・ 礼儀正しく思えるが時々慇懃無礼 ・さでずむ ・竹 「…………」 こうして改めて列挙してみるとあまり好印象でない部分が浮き彫りになることがよく分かる。 「なるべくしてなった、という感じですかね」 屠自古が布都の心象を代弁してくれた。 もはや突っ込む気にもなれない。 なおも会話は続いている。 「よし。じゃあ私が壁を抜くから、外から中を探して飛び込んじゃいなさい」 「りょーかーい…って、誰を探すんだっけ?」 「あらあらこの子ったら。じゃあ銀髪をしていて、足が大根じゃない人を襲いなさい」 「? 大根はおいしいぞ?」 「えっと…それなら、亡霊じゃない方。これでいいわ」 「? 亡霊もうーまーいーぞー?」 「う〜ん。じゃあ両方食べちゃってもいいわよ」 「おーけー」 要領を得ているような得ていないような奇妙な会話だった。 聞き捨てならぬと飛び出しかける屠自古を肘鉄で黙らせ、布都は二人が去るのを待った。 後から肘鉄は不味いと思ったが屠自古からの反撃はなかった。 物凄く怖い目で睨まれたが、倒すことが目的ではなかったのでセーフらしい。 青娥は髪留めにもなっている鍬を手に取り、壁に走らせた。 どういう仕組みか布都には分からないが、それで人が通れるくらいの穴がぽっかり開いた。 そして二人はその穴から外へ出て行く。 先に行ったとおり、外から中を探るつもりのようだ。 この時、布都に電流走る! (占めた!壁を抜きっぱなしだ!) 壁にはぽっかりと穴が開いている。 布都はこれを好機だと思った。 ゲームのクリア条件は霊廟を出ろとの話だったが、何も霊廟を出入り口から抜けろとは言われなかった。 ならば、偶然空いた穴から抜け出してもいいはず。 念のため屠自古に視線を送る。 …彼女は何も言わなかった。 布都は彼女から視線を外し、周囲に誰もいないことを確認すると壁の穴へと飛び込んだ。 そして、体が霊廟の外に出る、 …その刹那、急に壁が修復され、布都の手足を巻き込んだ。 体の一部を拘束された布都は壁に縫い付けられる形になってつんのめった。 「うおおお!?」 思わず声が漏れる。無論、それで脱せられるほど甘くはない。 「ま、まさかこれは…!?」 「うふふ…布都様はカワイソウな方ですね。主におつむが」 「げぇっ!青娥殿!?」 いつのまにかすぐ傍に邪仙が来ていた。キャーニャンニャーン 「あらあら。壁に埋まってしまいましたのね。でも大丈夫。すぐに楽になりますわ」 字面とは裏腹にその声は嗜虐に満ちており、顔にも悪そうな笑みが浮かんでいる。 「布都様も壁になってしまえばよろしいのです」 次いで、とんでもない事をさらりと告げた。手にはあの鍬が握られている。 やられた。布都は悔しがった。まんまと敵の誘いに乗ってしまったのだ。 「さて。穴の開いた壁は"ないない"しないとねー」 言いながら鍬で壁をなぞり、布都が挟まったままなのに鼻歌交じりで修復作業を始めた。 (こ、この毒婦!) 布都は青娥をそう罵ろうとしたが、既に顔の半分が壁に埋まってしまい適わなかった。 「*かべのなかにいる* …なんてね」 「ちなみに青娥様に殺られた中では、この死に方は3回目ですよ。布都」 辛うじて拾えたそれらの言葉が布都の聴いた最後の台詞となった。 ※◎ ムネン アトヲ タノム ---------------------------------------------------- ※ 読みかk「芳香に屠自古をぶつけてきしめんにしれくれるわわあああああ!!」 がしっ。ぼかっ。ばきっ。ぬぷっ。ピッシャァァーン! 我は死んだ。 ピチューン(笑) ◎  コノママデハオワランゾー! ----------------------------------------------------  (残機0。次でコンティニューでゲソ) 読みかけの新聞を引っ掴んで両手で裂いた。 「勿体無い。あとで焼き芋を作ろうと思ったのに」 「……ならこれをくれてやるっ。使うがよかろう!」 傍にいる亡霊に向けて両手いっぱいの紙片を宙に撒く。 「何ですか今の奇行」 眼前から下へと舞い散る新聞紙の残骸を目で追いながら 若干…否、かなり不機嫌な様子で屠自古がそう文句を言ってきた。 ここでの"今の"というのは新聞紙のことではない。芳香に向けて自分を投げたことを言っている。 ついかっとなってやった。申し開きをするつもりにもなれない。 「どうするんですか。0機ですよ」 「もういい」 布都は屠自古を押しのけて布団から出た。 「おぬしは自分で言っておったろう?」 屠自古は不思議そうに見つめ返してくる。 「"私は我の妄想が産んだ偽者です"…だとな」 「はい…って、妄そ、へぶっ!?」 布都はあえて屠自古が突っ込みそうな単語を選んで吐き、冷ややかな態度で返そうとした亡霊の 横っ面をパーでしばいた。 (そう。こやつは偽者。自身の夢の産物なのだ) 布都は自分にそう言い聞かせて眼前の障害を蹴っ飛ばした。 身近な者に暴力を振るう事に対する罪悪感や心苦しさはどうしても拭いきれなかったが、 此処を脱せなければ本当の太子様や屠自古には会えない! 布都は心を鬼にして手を天に(正確には天井)向けて突き出した。 恥ずかしいが、正攻法では今の状況を打破する事は難しい。 しかしこの苦境を引っ繰り返す手段が自分には残されているではないか。 「出でよ!磐舟!」 「はぁっ!?」 ルールに沿って布都を殺そうとしていた屠自古が(布都の予想通り)愕然とした 表情を見せて固まった。布都、気にせず指パッチン。 直後、あの、やかましいが不思議と耳障りにはならない警告音が鳴り響く。続いて例の文字。 ヴィー!ヴィー!ヴィー!ヴィー!  WARNING!! A HUGE BATTLE SHIP  HYPER GREAT THING IS APPROACHING FAST 「何考えているんですかあなたは!?」 自分も巻き込まれる事態を前にして抗議する亡霊を無視し、布都は再現される次元の嵐を凝視する。 果たして次元嵐の中からは鉄の戦艦―――"鯨"が姿を現した。 鉄の巨体が嵐を抜け、廊下を破壊しながら進んでくる。 そいつが無差別破壊を始める前に… 「とうっ!」 「!?」 布都は斜め前――鯨の頭に向けて一気に跳躍した。そのまま、鯨の上に着地する。 「飛べぬようにはされたが、甘かったな。我にはこの足がある!跳ぶことなど造作もない」 自身の腿をパンッと平手で叩いて見せながら布都は鯨の上に載った己を誇示する。 その様子を屠自古は「ぐぬぬ…」などと喚いて悔しがっている。 同時に鯨の身体中に着いた装備が一斉に火を噴き、次元嵐と体当たりで崩壊した霊廟内を 光線やミサイルで蹂躙した。堪らず空を飛んで逃れる屠自古。 「我こそは死せずして復活を遂げた尸解仙・物部布都である!(ドヤァ…)」 実は周囲で行われるえげつない破壊にビビッてしまって両足が震えたが、なんとか堪えた。 眼下には豆粒にも等しい大きさに思える亡霊の姿。 「布都!そんなところにいては危ないですよ!また死にますよ!4回目ですよ!下着見えてますよ!」 大声でそんなことを言ってくるが聴く耳を持つ必要はない。 「もう此処のおぬしには付き合うつもりはない!これで一挙解決を図らせてもらう!」 「なっ!そんな無茶苦茶な!」 五月蝿い。この状況の方が余程無茶苦茶だ。布都は半ば自棄(ヤケ)になっていた。 今ある勢いをそのままに、知人の皮を被ったにっくき紛い物に人差し指を突きつける。 「そしてこれを聴いたおぬしは次にこう言う。どや顔すんなカス、と」 「くっ!…どや顔すんなカs―――はっ!?」 自分の想定外の出来事に悪態をついた屠自古だったが、台詞を言い当てられてうろたえてしまった。 その一瞬の間が命取りとなった。(亡霊だからとっくに命はないのだが) 敵味方を区別しない鯨が放った一本のドリルミサイルが直撃し、屠自古は爆炎に包まれて消滅した。 「ぬわーーーーーーっ!」 「………っ!」 偽者とはいえ、間接的にとはいえ、彼女を手にかけたことは布都にとってはやはり辛かった。 こんなことを誰が始めたのか。布都は元凶をこの鯨で亡き者にしてやりたくなった。 そんな彼女の気持ちとは裏腹に鯨は周囲への砲撃を続ける。 鯨の行動には布都を探している素振りはない。これはただ破壊を行うだけの代物のようだ。 前の時も、きっとその前も、これは目の前に布都がいたから攻撃しただけに過ぎないのだろう。 そう考えると複雑な思いだったが今となってはどうでもよいことだ。 壊され続ける霊廟を目にして、布都は思いを馳せるべきは過去よりも現在だと結論付けた。 屠自古が狼狽していたことから分かるように、これは過去に"自分たち"が通ったものとは著しく 異なる展開に違いない。 正直かなり強引なことだとは理解している。 これで『実は現実でした』なんてオチが出たら自分は気が狂うだろう。 冗談のような光景を前にしながら、そんな万が一の話を考えて自嘲する。 自室が、そして神子や屠自古の部屋が焼け落ちていく。 「かつて寺を焼いた自分が、今度は己の霊廟を破壊することになるとは…太子様、お許しください!」 鯨の艦体にへばり付き、兵器群の死角に身を潜ませながら布都は破壊の只中で 再び焼かれているであろう神子のことを想った。 こうなるのなら彼女の寝込みを襲うべきであったかと少しだけ後悔したが、 それで1回死んだ(らしい)という屠自古の話を思い出し、頭を振って考えを追い出した。 「いかんいかん。我は何を血迷うておるのだ…って、うわっ!危ない!」 余計な事を考えていたせいで、危うく鯨の体から手が離れそうになった。 慌てて布都は鯨に掴まり直して吹き飛ばされないようにしっかりと身を固めた。 布都の苦労など何処吹く風。鯨…G.Tは眼前をただただ破壊し続けた。 霊廟は数分で跡形もなく破壊された。 布都は(当人はすっかり忘れていたが)クリア条件の霊廟脱出を果たしたのだ。 G.Tはそのまま上昇し、やがて地上に達するとその巨体で付近にあった墓地や命蓮寺をも粉砕した。 当然住人は酷い目に遭ったことだろう。 しかし其処に思いを馳せる余裕は今の布都にはない。彼女はG.Tに掴まるので必死だったからだ。 ただ掴まり続けるだけとはいえ、霊廟の崩壊や地上に出る際の地面の崩落などの衝撃は 常人であればとっくに振り落とされているくらい強烈なもののはずである。 にもかかわらず彼女がこうして耐えられている事実は、自称とはいえ尸解仙として在る身が 伊達ではないことを物語っていた。 もっとも、それすらも布都の心の産物なのだが…(G.Tは例外) 「…霊廟から出られたはいいが、この先どうするか全く考えてなかった」 布都が霊廟を出たことを自覚したのは鯨が既に幻想郷の空へと躍り出た頃のことだった。 地上を離れ、砲撃を止めて上昇を続けるG.Tから降りるに降りられず布都は蛙のように へばり付いた姿で今後について思案する。 「ぬう。人は"眠りに落ちる"という…であれば、こうして昇っていけばいずれは覚醒できるはず!」 夢の中とは思えぬ幻想郷の美しい風景や蒼い空を前にしながら、布都は勝手にそう納得した。 「短絡的だなー」 「うわっ」 急に湧いて出た声と姿に布都はびっくりして再び鯨から手を離しかけた。 声の主は、霊廟と共に吹っ飛んだと思っていた芳香だった。 「ステージクリアーおめでえええぇぇぇ…」 「やめんか。なんだそのトラウマ」 顔がただれなかったのがせめてもの救いである。 すると、芳香は彼女にしては妙に滑らかな動きでその場に腰掛けた。 そこは砲台の上だぞ、と布都は言いたかったが鯨も気にしていないようなので止めた。 「おつかれー。ここまま眠ってていいぞー」 芳香は動きは滑らかになっていたが、喋りは変わっていなかった。 攻撃の意思はないらしい。本当にゲームクリアなのか? 布都は油断しない程度に警戒を解いて芳香に問いかけた。 「結局、此度のことはなんだったのだ?」 「たーだのゲェムだー気にするなー」 ゲーム。またそれかと布都は思った。 『真似のつもりで始めた余興にしては、なかなか楽しめましたわ』 突然芳香の口から別人の声がして布都は驚いた。だがその声には聞き覚えがある。 「その声は青娥、殿?」 これまでのことが脳裏を過ぎり、思わず殿付けが遅れた。 まさか上昇する戦艦の上でラストバトルか、とへばり付いたまま身を強張らせる布都。 『そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。このまま、この子で送って差し上げますから』 そう言って芳香の手が鯨の体をぽんぽんと叩く。 『だから、ゆっくりとお眠りくださいな…』 「な…に……?」 視界が滲む。不味いと布都は思ったが既に遅かった。 「う、うぉ…目まい、が……」 そのまま、急にやってきた猛烈な睡魔にあっさりと敗北してしまった。 脱力した体が、艦体を離れる…が、G.Tの砲台の一つが動いて彼女の身を受け止めた。 砲台は更に向きを変え、布都の体を平坦な場所へと動かした。 何故かそこには布団が敷かれている。 芳香は腰を上げると眠っている布都を拾って布団のところまで歩き、掛け布団を載せた。 そして布都の懐へ手を差し入れると、例の紙を引き抜いた。 --------------------------------------------------------- 『レイビョウ カラ デラレレバ アナタ ノ カチ』 【やっちゃやーよ!リスト】 ・自室に長居するな ↓ ・キョンシーに挑むな ・屠自古を倒そうとするな  『雷を落とされる』 ・青娥を倒そうとするな ・磐舟使用禁止 ・死ぬな ・太子様の寝室には行くな  『行くな』 ・どや顔すんなカス ---------------------------------------------------------- …びりびりっ! 芳香(を操っている青娥)は、その紙を両手で引き裂き、宙へと放った。 ゲームの紙はそのまま風に乗って舞い、布都の夢の中に広がる、蒼い空の彼方へと消えていった。 『所詮は紛い物。布都様を玩ぶ程度の機能しか作れなかったわ。  …さて、"本家"を考え出した連中は…果たしてあの子を救えるのかしら?  それとも……ふふ……』 不気味に呟いた芳香の顔が、青娥の嗜虐に満ちた笑みを浮かべ、沈黙する。 そして彼女の体は、白い粒状となって崩れ、散っていった紙の後を追うかのように、霧散した                                                     〜完〜