博麗神社では幻想少女達の宴会が開かれている 少女達だけの宴会なのでそれ以外の者が介入しても、何が起きても認識されない。 「こんばんはー!今日の主役でーす!」 騒がしくにぎやかな博麗神社の宴会場。今夜も宴が催され少女達がワイワイと飲み食いしている中、突如として障子が開き、見知らぬ男が声も高らかに侵入してきた。 「いやー、今日の宴会もにぎやかだねー、皆楽しそうだね!見ているだけでこっちも楽しくなっちゃうよ!」 男はさもいつも宴会に参加しているような口ぶりで辺りを見回す。言葉の通り宴会場のあちこちで少女達は笑顔で酒を交わし、言葉を交わし、楽しい時間を共有していた。 しかしひとつ違う点は、この場に招かれていない男が宴会場に来て、大声をあげても誰も意に介さない、気にしていない、気づいていない。いや、"認識していない"。 「楽しそうなのはいいんだけどさー、俺が来たんだからちょっとは喜んで迎えてくれてもいいじゃん?」 男がひとり愚痴を言っても喧騒にかき消されたのか、"声を認識していないのか"、誰一人として振り向かない。 「まあいーや!俺も宴会に参加するよー!駄目な人手ぇ上げて!…いないね!よし!」 男がまた少女達に向かって声をかけるも、やはり応える者はおらず、闖入者は堂々と宴会場に足を踏み入れた。土足で。 □  ■  □  ■  □  ■ 「おっ、村紗ちゃんじゃん!おひさー!元気ー?たぶん俺の事知らないだろうけど。」 男は宴会場で早速近くに居た水兵服の少女に話しかける。もちろん少女は男に"気づいていない"。 ただ他の少女達と酒を酌み交わし、楽しげに会話している。 「顔も赤いし、結構飲んでるねー…って、村紗ちゃんお寺で修行しているんじゃないの?!お酒飲んじゃ駄目じゃん!しかもよく見たら皆も飲んでるし!」 命蓮寺の面々の周りにはすでにいくつもの酒瓶が転がっていた。すでに結構な量を飲んでいても少女達の手は止まらない。 「もう飲んじゃ駄目って言っても聞いてくれそうにないね…ならいっそのこと俺が浴びるほど飲ませてあげるよ!」 おもむろに男はまだ開いていない一升瓶を手に取ると栓を開けて、飲み続ける少女の頭にドボドボと酒を文字通り浴びせ始めた。 酒は水兵帽を汚し、黒髪を濡らし、服に染みこみ、全身に芳しい麹の香りを纏わせていく。 瓶が空になる頃には、全身が酒で濡れて、服の白い生地が透けて肌が見え隠れする酔いどれ少女が出来上がっていた。 「おお、まさに水も…いや、酒も滴るいい女になったねー、村紗ちゃん!すっごい酒臭いけど…」 酔った少女は酒を浴びせられるという無礼な仕打ちにも"気づかず"、顔を赤くして上機嫌で笑っていた。 「村紗ちゃんだけじゃ不公平だよね、せっかくだし命蓮寺の皆にも振る舞ってあげよう!別に俺の酒じゃないけど。」 そして男はまったく同じように、命蓮寺の面々一人ひとりに大量の酒を浴びせていく。袈裟に、ケープに、腰巻に、黒ニーソに、上等な酒は吸われていき、溢れた分も畳に染みを広げていった。 やがてそこには仏門に従う者たちが、酒臭さを振り撒きながら、宴会を楽しんでいる姿があった。 「って、俺土足で上がってたの忘れてた!これじゃ畳が汚れちゃう!よっこいしょ、と。あ、響子ちゃん、テーブルに上がってもいいかな、いいよね?失礼しまーす!」 男がまた少女達に向かって声をかけるも、やはり応える者はおらず、侵入者は料理と酒の並ぶテーブルに乗った。 「おっとっと、ごめんよー、ちょっと通るよー。」 更に男は邪魔だと言わんばかりに、少女達が箸を付ける料理を踏みにじり、酒の注がれたグラスを蹴ったくり、他の少女達のテーブルに向かっていった。土足で。 □  ■  □  ■  □  ■ 「よっと、前をごめんねー、あっ、霊夢ちゃん、お邪魔してまーす。」 男はえっちらおっちら、机の隙間を縫うように、料理の上を歩いていた。潰れた冷ややっこに足跡が刻まれ、雑煮の入った椀はひっくり返って机にダシの効いた水面を広げていく。 しかし少女達は目の前の粗相よりも歓談に夢中だ。いや、粗相が起きていると"わかっていない"。あるのは宴会の馬鹿騒ぎだけだ。 赤い巫女服の少女の眼中に男の存在は無い。ネギと一緒に砂の薬味を纏った冷ややっこだったものに箸を付け、じゃりじゃりと音を立てながら咀嚼している。 男は次にどの少女の机に行こうかきょろきょろしつつ、料理を足で薙ぎ払っていく。ふと青い特徴的な髪形の女性が目に付いた。 「おや…貴方は…青い仙人…青娥さんだ!こんばんは!」 青菜の胡麻和えの上で歩みを止めれば、そこには稚児髷が特徴的な青髪の女性が焼き鳥をつまみに酒を飲んでいた。 「青娥さんも飲んでるみたいだねー。美味しい?ちょっと飲ませてよ。」 男は机から降りて話しかけるや否や、返事も待たずに飲みかけのグラスを奪い取り、酒を飲み干した。 「うーんなかなか辛口で美味しいね!ありがとう!」 ぞんざいに近くの瓶の酒を注ぎ直すと男はグラスを元の位置に戻した。そこで女性の胸元に目が移る。 「青娥さんって胸元がなんだかエッチだね…」 女性の服は胸元が大きくはだけた構造で、時折胸の谷間がちらつき、男の視線を奪う。 男は女性のすぐ横で胸元を凝視するも、女性は飲んでいるばかりでその視線に"気づいていない"。しばらくして男は胸元と焼き鳥の盛ってある皿を交互に視線を移し始めた。 「…そうだ、青娥さんが焼き鳥をもっと食べやすいようにしてあげよう!」 突拍子もない事を言い出した男は、手短な机にあった焼き鳥を手に取ると、女性の胸元に詰めはじめた。 一本、三本、五本。ねぎま、鳥皮、正肉、ぼんじり。大きく開けた胸元にどんどん焼き鳥が詰められ、柔肌に粘ついたタレがこびりつき、服に香ばしい染みを作っていく。 やがて女性の胸元は数十本もあろうかという焼き鳥で満ちていた。その間女性はただ酒を呷るばかりだった。 「いやー、これなら青娥さんも食べやすくなったよね?うんうん、良い事したなあ…」 男は満足そうに焼き鳥の器と化した谷間を一瞥すると、再び机の上に上がって、他の机に歩んでいった。土足で。 □  ■  □  ■  □  ■ 「おっとっと、ここら辺はだいぶ食べつくされてるねえ…」 あたかも土を踏むように料理の上を歩いてみたり、路傍の小石を蹴るように料理をひっくり返しながら男は机の上を練り歩いていたが、既に食べ終わった皿が目立つようになってきた。 「皆食べるペースはあんまり変わらないのに…」 白髪のおかっぱ頭の少女が箸をつついている煮物の厚揚げを、男は靴のつま先で弄びながら、なんとはなしに視線を先に向けた。 「ん…?うわっ!」 視線の先には数十枚とあろう皿が積み重なって、もはや塔と化している。その傍らでは着物を纏った桃色の髪の女性がたった今、新たに皿の上の料理を食べ終わるところであった。 「何かと思えば…これ全部幽々子さんが食べたの?恐ろしいね…」 男が塔を指さし、女性に問いかけるも、女性は食べるのに夢中なのか"問いかけに反応することは無かった"。 「これじゃあ他の人が食べる分が無くなっちゃうよ!どうしよう…あ、あれは…よし、あれを使おう!」 新しい皿の塔を積み上げようとする女性の食べるペースをなんとかして落とそうと、男が辺りを見回すと、雑煮がたっぷりと入った寸胴鍋が鎮座していた。 宴会の参加者に振る舞うためであろう、何十人分という量の入った大きい鍋だった。作りたてなのか湯気をもうもうと上げている。 男は早速鍋を持ち上げると、ひいふう息を切らしつつなんとか女性の下に運び、正座している女性の膝の上に乗せた。 火から上げられて間もなく熱を帯び、なみなみと雑煮で満たされた寸胴が、着物越しの女性の膝に容赦ない熱と重量を伝える。一見それは拷問さながらの風景だ。 しかし、女性は"気にも留めない様子で"、料理を味わいながら涼しい顔をしているだけだった。 「ようし、幽々子さんがそんなに食べたいなら…俺が食べさせてあげるよ!」 男は親切心でモノを分け与えるように、笑顔でお玉を持ち、女性の顔を上に向かせ、無理やり口を開かせると、女性の口の中に雑煮を注ぎ始めた。 既に女性の口の中には煮物のいんげんと鶏肉が咀嚼されてる最中だったが、男は無視して雑煮を流し込ませる。 一回掬い、美味しそうに具を噛み砕き飲み込む。 二回掬い、汁も一緒に注がれて噛むのに時間がかかる。 三回掬い、まだ具が残っているが次の雑煮が流し込まれる。 四回掬い、噛む前に熱い汁ごと飲みこまないと間に合わない。 五回掬い、口の中が雑煮で満たされた。 六回掬い、入りきらない分が溢れ、女性の顔を汚す。 七回掬い、入りきらない分が溢れ、首筋に汁が垂れる。 八回掬い、入りきらない分が溢れ、着物に雑煮の具が散りばめられる。 九回掬い、なんとか飲みこんだ分がすぐに新しく注がれる。入りきらない分が溢れる。 十回、十一回、十二回… しばらく時間が経ち、何十回と掬われて寸胴鍋も空になった。鍋の中身の大半は女性が食べさせられ、腹の中に押し込まれていた。 しかし食べ損ねた量も多く、女性の着物には染みついたダシが広がっている。具も辺りに散らばり、まるで雑煮を頭から浴びたような姿になっていた。 「いやはや、幽々子さんもこれならお腹いっぱいになったでしょ!満足だよね!んじゃ!」 男は幽々子のダシ染めの桜の着物姿に満足したのか、女性の膝に乗せた寸胴鍋をどけることもせず、再び机の上に上がって、他の机に歩んでいった。土足で。 そして、女性は鍋を膝に乗せたまま、うめき声を上げたかと思えば、鍋の中に向かって───────。