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『TOHONOPHOBIA』 作者: だおもん

TOHONOPHOBIA

作品集: 最新 投稿日時: 2010/04/23 15:54:21 更新日時: 2010/04/24 00:54:21

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分類
妖夢ちゃん一筋☆咲夜ちゃん
おしっこ
レズ
74.0kb
 ※尿シーン、百合シーン、少量のリョナシーンが含まれています



 妖夢ちゃんへひたむきな愛を注ぎ続けている私は十六夜咲夜。
 日夜彼女のために尽くし、彼女の気を惹こうと試行錯誤している。
 冥界の亡霊嬢が起こした異変で知り合って一目惚れしてからは、毎日彼女の所へ会いに行った。
 ただ始めはお互い顔しか知らないものだから、どう付き合えばいいのかわからない事だらけだった。

「こんにちは。魂魄さんで良かったかしら?」
「あなたは、この前の。別に妖夢でいいわよ」
「あらそう? 妖夢ねえ。妖夢ちゃんでも良い?」
「いや、ちゃん付けっていうのはちょっと……」
「妖夢ちゃん可愛いよ妖夢ちゃんウフフ」
「……」
「私のことも咲夜で良いわよ。何なら咲夜ちゃんって呼んでもらえる?」
「いや……咲夜で」

 自己紹介するだけで緊張した。
 別に人見知りするタイプではないと思っていたのだが、彼女の近くにいるだけで胸がドキドキした。
 向こうも戸惑っている部分があるのだろう。
 私が無理に近づこうとすると恥ずかしいのか、止めてくれと言ってきたりもする。

「妖夢ちゃん、こんにちは! 今日も可愛いわね!」
「……」
「妖夢ちゃんにもっと近づきたいわウフフ」
「や、止めてよ」
「ねぇ妖夢ちゃん、ちゅっちゅってご存知?」
「知らないけど……」
「あらあら、幻想郷ではそれぐらい常識よ? ちゅっちゅっていうのは……」
「とりあえず気持ち悪いから、帰ってよ!」
「妖夢ちゃんウフフ」

 彼女が私のことを理解し、私も彼女のことを理解していった。
 次第に私と彼女の距離は縮まっていく。

「こんにちは妖夢ちゃん、スペルカードの決闘しましょうよ」
「咲夜は気持ち悪いから嫌」
「あなたのために新しい弾幕考えたの。あなたを愛する気持ちが少しで伝われば良いと思って……」
「帰れよ」
「妖夢ちゃんウフフ」
「……」

 そして私は決意する。自分の一生を共にしたいと思える伴侶として、彼女を選ぶことを。

「妖夢ちゃん!」
「何よもう……」
「結婚しましょう! そして毎日ちゅっちゅするのよ! 素晴らしいでしょう?」
「最悪」
「ありがとう! あなたならそう言ってくれると思ったわ! 早速博麗神社で結婚式しましょう!」
「話聞きなさいよ、ちょっと!」
「そうと決まれば服を用意しないといけないわね。私がタキシード着るから、妖夢ちゃんがウェディングドレス着てくれない?」
「死ね」
「愛してる! 妖夢ちゃんウフフ」
「……」

 そして結婚式当日。彼女が恥ずかしがってか、出てきてくれないので白玉楼ですることにした。

「ねえ咲夜」
「何よ霊夢」
「あんたが妖夢と結婚するって冗談じゃないの? 妖夢は嫌がってるじゃないの」
「何よ、私と妖夢ちゃんの愛を否定するっていうの! あなたは黙って式を執り行なっていれば良いのよ!」
「横暴ね」
「何のために大金と大量の酒をあなたに贈ったと思っているのよ!」
「いや、本気ですると思ってなかったし……。どのみち本人が嫌がって出てこないことには……」
「はい! 私十六夜咲夜は魂魄妖夢ちゃんと結婚することをここに宣言します! これで問題無しね!」
「は?」
「……ちょっと待ってよ、何で霊夢と咲夜がここにいるの?」
「あら、妖夢ちゃん。遅かったじゃないの……」
「目的はすでに果たしてしまったわよ……咲夜がね」
「じょ、冗談じゃ……!」
「ついに私は妖夢ちゃんと一つになった。もう誰も私を止めることはできない」

 念願が叶った瞬間であった。私は大喜びした。彼女も喜んでくれた。
 これはからは毎日がより一層楽しいものになるだろう。より一層幸せなものになるだろう。
 私はこれまで人生を歩んできて、ここまで喜べる日は無かった。
 早速私は妖夢ちゃんを置いていき、自分の部屋を改築した。
 なぜ妖夢ちゃんを連れて帰られらないのかって?
 当然結婚したのだから同棲が一番だが、彼女は私のように従うべき主人がいる。
 妖夢ちゃんが手の平を返すように「レミリア様万歳!」と言い出すなら話は別だが。
 私がレミリアお嬢様に忠誠を誓うように、妖夢ちゃんも幽々子に忠誠を誓っているだろう。
 さすがにそれを無視しろとまでは言わない。彼女の意思を尊重すべきだと思っている。
 まあ週一ぐらいの頻度で、一緒の布団で寝るのは構わないだろう。

「妖夢ちゃん可愛い可愛い……ああ、今最高に幸せだわ」
「私は最悪よ!」
「ま! ブラウスが汗でビシャビシャじゃないの!」
「まあ、今夏だし……庭仕事してたらビシャビシャにもなるけど」
「体のラインが透けていやらしいですわ」
「見るな」
「汗を良く吸っていて、匂いがキツくなっていそうな襟の部分舐めて良い?」
「気持ち悪い」
「ぺろぺろ」
「死ね」
「妖夢ちゃん愛してる♪」

 様々な場所で妖夢ちゃんとの愛を積み重ねて行った。
 白玉楼では畳の上で愛を営み、紅魔館では彼女を部屋に閉じ込めてみるというアブノーマルな愛にも挑戦した。
 永遠亭では無断で医療器具を借りて楽しんだ。私と彼女との愛は器具では量ることが出来なかった。
 山の上にある、洩矢神社では御柱というものを彼女の一物に置き換えてみると非常に興奮してしまい、それを舐めていた。
 地底にあるという、地霊殿では主が動物達をペットにしていたのをヒントに妖夢ちゃんをペットの様に扱ってみるプレイをしてみた。
 里の付近に出来たという命蓮寺へ遊びに行ったときは、愛の修行ということで彼女を正座させてみた。
 トイレに行きたいと彼女がねだったら、ナイフの刃を頬に当てて我慢させた。
 彼女が失禁する姿はとても素晴らしいものであった。興奮しきった私はそのとき我慢しきれず、絶頂に達してしまった。

 彼女と愛を育むことも平和なものではなかった。
 特にレミリアお嬢様と妖夢ちゃんの主人、西行寺幽々子が私のことを「気持ち悪い」等と批判してきた。
 正確に言うと紅魔館の住民達プラス幽々子。いやもっと正確に数えると、誰に会ってもそう言われていた気がした。
 なぜ幻想郷に住む者達が私を変態呼ばわりするのかは全く理解できなかった。
 妖夢ちゃんを溺愛しているだけである。愛を囁くだけでも満足できるが、やはり行為として何かしたくなるだけだ。
 その結果として着衣のまま排泄行為をさせたり、私の嘔吐物を食べさせたり、半霊を舐めたりしているだけである。
 それなのに周りの人々は私のことをまるで変質者であるかの様に扱うのである。
 誠に遺憾である。私は愛のために生き、愛のために妖夢ちゃんを愛でているだけだというのに。

   ※ ※ ※

 近頃館内の動きが怪しくなり始めた。私を排除しようという動きが見られるのだ。
 そこまでして私の存在を否定したらしい。
 だがまさか私が命を捧げるつもりで働いてきたお嬢様に捨てられるというのは、信じられるものではなかった。
 門番の紅美鈴は私を見ると逃げていくし、パチュリー様は私のことを避けているように思える。
 妹様はいつもの様に接してくださるが、小悪魔とはというと私を見て悲鳴を上げるほど。
 実に心外である。私は依然と変わらぬというのに、皆私が妖夢ちゃんとの結婚をきっかけに、別人みたいになったと言うのだ。
 この前お嬢様に呼ばれて「真剣な話をしよう」と言われて話し合いをしたが、馬鹿げてた話でしかなかった。

「咲夜、単刀直入に言うわ。あの半人半霊と別れなさい」
「無理ですね。彼女は私の女神です」
「どうしても? 私の命令でも?」
「無理ですね。彼女は私の嫁です」
「気持ち悪いよ。レズビアンそのものを否定しているわけじゃないけど、もうちょっと普通に愛し合ってなさいよ」
「無理ですね。色々と我慢出来なくなります」
「我慢しなさい! 傍から見ていれば、彼女も嫌がっているじゃない!」
「だから何だと言うのです? まさかお嬢様も彼女が私との行為を嫌がっていると、批判なさるおつもりですか?」
「そうよ!」
「これだから妖夢ちゃんの気持ちを理解していない人は……お嬢様は彼女の何なのです?」
「……何でもないけど」
「私が妖夢ちゃんの膀胱にカテーテルを挿入して飲尿行為に及んだとしても、彼女は嫌がってなどいません。嫌がっている振りをして私を楽しませてくれているだけです」
「と、とにかくプライベートでこそこそと隠れるだけならともかく、公の場でもそういうことするのは止めなさい!」
「何をです?」
「その……尿を飲んだりよ」
「食糞なら良いんですね?」
「そういう問題じゃないわよ! ああんもう……瀟洒なあたなは一体どこへ行ったのよ!」
「言っている意味がわかりません。私は未来永劫、お嬢様のために働くメイドですよ」
「……もういい。部屋に戻ってて」
「かしこまりました」

 彼女と別れろだなんて、馬鹿げているとしか表現のしようがない話である。
 お嬢様は私が妖夢ちゃんのことをどれだけ愛しているのか全く理解していないから、こんなことを平気で仰るのだろう。
 私は屈しない。如何なる者に阻まれようとも、私の愛はどんな敵にも打ち勝つのだ。

   ※ ※ ※

 ある日幽々子がこの館にやってきた。美鈴は彼女を喜んでもてなし、お嬢様のいる奥の部屋へ案内していた。
 私の許可なしに余計な真似をしてくれたものだ。
 おそらく私のことで話し合いをしているに違いない。
 妖夢ちゃんのベストを羽織って悦に浸っていながらも、私は部屋の入り口付近を観察していた。
 さすがに壁に耳を当てて会話を盗み聞きすることはできない。お嬢様に気づかれてしまうからだ。
 隣にいる妖夢ちゃんがトイレに行きたいと行ってきたので鎖で繋いであげた。
 私のすぐ傍でお漏らしさせるためである。
 今日は彼女のおしっこを飲まないと決めた日である。
 ではなぜ彼女が失禁するようにしているかって? それは彼女が失禁する光景を楽しみたいからである。
 おしっこの匂い、おしっこが床に落ちていく音、股を閉じて目を瞑って泣いている妖夢ちゃんの姿。
 彼女の下着、ドロワーズに出来たおしっこの染みを指先で擦る。
 その指を舐めて尿の味を堪能したいという要求を我慢するという、ある種のマゾヒスト的快楽。それがまた良いものなのである。
 妖夢ちゃんがとうとう大声で泣き出したので、私は部屋の観察を諦めて自室に戻ることとする。
 と、帰り際にパチュリー様もお嬢様の部屋へ入って行くのを目撃。
 パチュリー様が部屋の扉を開けると幽々子の声が彼女を招きいれた。
 どうやら幽々子とパチュリー様がすでに何かしら行動を起こしている様である。
 扉が閉まる瞬間に「アレの準備は順調よ」と聞こえたからだ。
 アレとは一体何なのだろう? 私の寝込みを襲って、何かしらの結界でも張って私を封じ込めようとでもいうのだろうか。
 そう思った私はすぐさま自分の部屋に引きこることに。

 念のために一通り部屋を調べてみたが、結界らしいものは見当たらなかった。魔法の痕跡や、術の跡も。
 前準備をしている様子が感じられないが、油断はできなかった。
 いまだに泣き止まない妖夢ちゃんを抱き寄せ、頬を舌で舐め取る。涙の味に喜び、妖夢ちゃんの体液を舐めたという事実に興奮した。
 愛くるしくて、美しいこの魂魄妖夢ちゃんとの仲を誰かに引き裂かれたりなんてことはあってはならない。
 万が一にでも私以外の女性が妖夢ちゃんと接触しようものなら、私はそいつを地獄の果てまで追いかけて殺してやる。

 今日はきっと良い夢を見られるだろう。
 すぐ傍にいる、親愛なる妖夢ちゃんが私を見つめてくれているのだから。
 私が咀嚼したものをお皿に盛って彼女に差し出すと、彼女は手を震わせてスプーンを握り締めた。
 妖夢ちゃんもようやく私との生活に慣れてきたようである。
 とはいえ嘔吐物を口に入れることにまだ抵抗があるようで、彼女は私が用意したものをすぐに吐き出してしまった。
 その彼女の嘔吐物を私は食べた。胃酸が混じっているので普通の人は抵抗を感じるかもしれない。
 だが私にとっては素晴らしいご馳走である。
 彼女の体液が混ざったものだ、美味しくないわけがないのだから。
 お風呂に入りたいと妖夢ちゃんがお願いしてきたので、バスタブへ案内する。
 私が妖夢ちゃんの服を脱がせると、私はその脱いだ服を少し千切って食べることにした。
 彼女の汗を吸ったであろうブラウスは勿論のこと。
 下着のドロワーズは良いダシが取れるので、これでリゾットでも作るつもりだ。
 そのことを妖夢ちゃんに伝えると、また彼女は物を吐き出そうとした。
 私は時間を止めて、これを容器に入れて保存した。今度のおやつにするつもりである。
 妖夢ちゃんが頭に被っているカチューシャをしゃぶりつつ、妖夢ちゃんの乳首を重点的に洗ってあげた。
 彼女の乳首をいじってあげると、彼女は止めてと私の手を叩き落とすのだが、それがまた快感である。
 嫌よ嫌よも、好きのうち。おそらくそれに当たる行為なのだ。
 彼女の薄い桃色の乳首を舐めてあげると彼女はまたもや嫌がるのだが、その反応が病みつきになってしまう。

 妖夢ちゃんとの入浴をひとしきり楽しむと、今度は服を着せてあげる時間だ。
 今夜は妖夢ちゃんのボディラインに合わせて作ったメイド服を着せることにする。
 白のガーターベルトは忘れず、靴下はオーバーニーソックス。
 手首にはレースのついたリストバンドを巻いてあげ、頭には私の被っている様なホワイトブリムを。
 我慢できなくなった私は妖夢ちゃんの足の指を靴下越しに舐めた。
 彼女は嫌がった。私は気持ち良くなった。

 今夜はこのまま寝ることにした。妖夢ちゃんとの新婚生活は幸せの連続だ。
 今この瞬間を録画して残しておきたい、と思う状況がたくさんである。
 だが残したり、繰り返しているというのはやはり飽きてくると思う。
 今日の午後二時に飲むおしっこの味と明日の午後二時に飲むおしっこが同じ味でない様に、その時々で何かしら変化があるものだ。
 だからその変化を楽しまないと。もっともっと色々な時間を妖夢ちゃんと過ごせるように結婚したのだから。

   ※ ※ ※

 周りの気配がおかしい。空気がまるで違う。部屋の匂いも全然違う。ベッドの感触もまるで違う。
 目を開ける。やはりおかしかった。紅魔館の部屋の天井ではない。まるで牢屋の天井だ。
 照明器具がぶら下がっていない。そして部屋には明かりもない。窓もない。
 ただ、真っ暗というわけではなかった。ぼんやりと明るく、部屋の中がそれとなく見渡せる。
 空気自体が明るみを帯びている、とでも言うのだろうか。
 光源がないにも関わらず、足元が見えるのでそうとしか言い様が無い。
 そして一番おかしな点は隣に寝かせていたはずの妖夢ちゃんが居ないという事実。
 彼女の匂いもしない。気配を感じない。半霊の気配さえも。
 私はどこか知らない所へ連れ去れ、今いる狭い部屋に閉じ込められたのかもしれない。
 かねてからパチュリー様が私を館から追い出そうと企んでいたことを思い出す。
 まさかあの魔女の仕業なのだろうか。もしそうであれば許しがたい行為である。
 今頃妖夢ちゃんはあの魔女に縄で縛られ、おしっこを飲まれ、半霊を振動する器具で責めているに違いない。
 何とも妬ましい光景──いや失礼、何とも腹立たしい光景だ。
 想像しただけで体が震えだし、意識が飛びそうになった。気持ちよくなっている場合ではないのに、私は達しそうになったのだ。
 落ち着いて周りを見てみることにした。
 私が今すべきことは自慰行為ではなく、この空間から脱出して妖夢ちゃんと感動の再開を果たすことだ。

 まずは私自身の確認から。服は普段着のメイド服である。寝間着に変えていた気がするのだが……誰かが着替えさせたのだろうか。
 服に忍ばせたりしているナイフもある。懐中時計もあった。時計が示す時刻は二時すぎ。深夜の二時なのか、午後の二時かはわからない。
 普段持ち歩いている物がそっくりそのままあるようだ。懐に入れたりしているお菓子もあった。
 
 部屋のベッドはとても硬く、ベッドというよりもテーブルと表現した方が良さそうな代物である。
 ベッドに皮の様なカバーをかけているだけというもの。こんな物の横になっていて、どうしてすぐに運ばれたことを気付けなかったのだろうか。
 部屋を改めて見渡すと、ベッドの他に小さな棚を発見。そこには包帯やガーゼの入った応急セットが仕舞われていた。
 他には容器に入れられた透明な液体。「飲料水」とのラベルが貼られている。恐る恐る口に含んでみると、確かに普通の水である。
 その隣には大きな鉈の様な武器が置かれている。これらを持って冒険でもしろとでも言うのだろうか?
 鉈は少し錆びている様だが、ベッドのカバーを容易く切ってしまう程度の切れ味が残っていた。
 大きいだけに普段使い慣れているナイフよりも使いにくそうだと思った私は、鉈を元の所へ戻した。
 再度部屋を見渡し、一つだけある扉を発見。鍵がかかっているのでは、と思ったが鍵はかかっていなかった。
 意味がわからない。私をここへ連れ込んで、どうするつもりだったのだろうか。
 私がここから逃げ出せるのかどうか試しているのかもしれない。もしそうだとしても、私は決して挫けない。
 絶対に脱出し、生きて妖夢ちゃんちゅっちゅをもう一度味わうのだ。
 水分を取ったところだし、と思って早速出発しようと思ったのだが……私は猛烈な尿意に襲われてしまった。
 先ほど見たときに気づいたが、この部屋にはトイレがない。普通に用を足すことはできないのだろうか。
 トイレを探してみるついでに、とまずは扉をくぐることにした。

 扉の先はまるで異次元、というよりグロテスクな世界であった。
 人が二人通れるほどの廊下。行き先は左右に別れている。通路の先は部屋の中の様に薄暗く、見通しはあまり良くない。。
 天井はなく、遥か上の方まで壁が延びている。その壁には歪な肉の塊、とでも言うべきものがへばり付いていた。
 その肉塊は時折鼓動しているかの様に自らを動かしている。
 そんなものが壁や床に張り付いており、各々で不規則な胎動を繰り返していた。
 何かしらの生き物の様にも見えるし、内臓の様にも思える。試しに床にへばり付いている奴を踏みつけてみると、硬いゴムの様な感触がした。
 匂いは酷いもので、血生臭い感じである。 あまり観察したいものではないが、その肉塊には多数の血管が通っていた。
 さらにその肉塊は不明な粘液で覆われている。靴底にそれがひっついたお陰でうまく歩くことが出来なくなった。
 普段世話をしているお嬢様の食事には、血が含まれているので血に近い匂いには慣れているが、それでもずっと嗅いでいたいとは到底思わない。
 慣れていない者であれば気分を悪くし、胃の中のものを吐いているだろう。
 もしこの肉塊らが内臓の一部だとすれば、この廊下は腸の様なものと表現して良いのかもしれない。
 腸と言っても溶かされる液体で満たされているわけでもないが、何者かの体の一部みたいに見えるということだ。
 とはいえ体の一部がこんなにバカデカいのはありえない話だ。この廊下の天井が見えていないのだから。
 上空は赤黒いもやの様なもの、もしくは雲の様なもので覆われている。
 試しに飛んで上まで昇ってみようと思ったとき、自分の体がおかしいことに気づいた。
 空を飛ぶことができないのだ。まさか、と思って時間を止めたいと念じる。時間は止められなかった。
 まさか私の能力が一切使えない? そう思うと何とも言い難い恐怖に襲われた。
 今まで頼ってきた特殊な力が使えないとなると、色々と面倒である。
 空が飛べないということは歩き、または走りでしか移動ができない。
 先ほど感じた尿意を思い出し、私はとりあえず左に伸びている方向へ走った。漏らすわけにはいかないからだ。
 
 肉塊を踏んでしまわないよう避けながら先を急ぐ。
 通路の先があまり見えないのだが、そう遠くまで延びているわけではなかった。走って二分三分も経たないうちに行き止まりにぶつかったのだ。
 その途中、トイレのようなものは見つからなかった。別の部屋さえも。
 女性というのは男性と比べておしっこを我慢することができない体である。尿道の筋肉が男性と比べて少ないからだ。
 男性には陰茎というものがあるから長い尿道がある。しかし女性はそう長くない。
 このままではもう漏らす、或いは屈みこんで廊下で用を足すしかなかった。
 下着を尿で濡らすわけにはいかないので、私は屈んで用を済ませることを選ぶ。
 幸いにもこの空間には私しかいないのだから、恥ずかしいことはないだろうと思った。だがその考えは甘かったらしい。
 背後、今来た道の方向から何者かが近づいている気配がするのだ。
 その者は随分と体重のある者らしく、歩くと廊下が少し揺れる程。
 薄暗いせいで姿を確認できないのだが、荒い呼吸音から獰猛な生物であると予想してしまう。
 間近に迫ってきたところでようやく姿を視認できた。
 その者は真っ黒な皮膚をしており、陰茎のない男性の体に見える。
 皮膚に艶があり、金属製に思えた。私のナイフで貫けるかどうか疑わしい程堅そうだ。
 顔はのっぺりとしており、表情は伺えない感じ。身の丈は三メートル以上あるかもしれない。
 ぼんやりと光っている、顔の中央上寄りにある一つ目のオレンジ色の瞳は焦点が合っていないのか、私を見ている様には見えなかった。
 用を足そうとドロワーズをずり降ろしたことを後悔しつつ、屈んだままナイフを手に取った。
 もし襲ってくるのであれば、応戦するまでである。
 だがその巨大な人型生物は私をすり抜け、行き止まりの壁の前で止まった。……かと思うと、反対を向いて歩いていった。
 私が見えていないのだろうか? 視野が狭く、しゃがんでいる私が見えなかった、とでも言うのだろうか?
 怪物が見えなくなくなるまで他所へ行ったのを確認してから私は溜息をつき、この生臭い廊下で始めての放尿行為を試みた。

   ※ ※ ※

 あれから私は目が覚めた所の部屋に戻って休息を取った。
 部屋にあった錆びた鉈を持っていくことを決意し、水分を取って部屋を出る。
 行き止まりの反対側、まだ行っていない右の方角へ急いだ。
 その先にはやはりあの巨大な怪物が闊歩していた。
 武器があるとはいえ無理にリスクを負う必要は無いだろう。
 そう思ってしゃがんで怪物共をやり過ごしながら、妖夢ちゃんが待っているであろう場所へ急ぐ。

 この空間、というか今いる世界というのは五感を刺激させるのが好きなようであった。
 怪物の呼吸音、肉塊の血の腐った様な匂い、目を背けたくなるような肉欲的すぎる光景。
 肉塊の感触、水道水の無機質な味。
 背徳的、退廃的なものに慣れていない者であれば気味の悪さに元居た部屋から出なくなっているだろう。
 そして餓死を待ち、何とかしようと慌てて部屋を出たところで怪物に襲われる。そんな最期を想像してしまった。
 餓死、というと私は食べ物が欲しいと思っていないことに気づく。
 この世界へ放り込まれて何時間、何日経ったかわからないが、食べ物を口にした記憶が無い。
 どれだけ活動していようが水分しか欲していない気がした。
 空気中に「食べ物成分」が含まれていて、呼吸するだけでエネルギーを吸収できてしまう不思議気体で満たされた空間という可能性。
 ……というものを想像した。だがありえない話ではないはずだ。
 何せここは常識が通じなさそうな世界からだ。

 水分を取るたび、数時間後には便器のない所で排尿をする。
 時々妖夢ちゃんの名前を呟いたりして、肉塊が発生している廊下を歩き続ける。
 あれからいまだに別の部屋へは辿り着いていない。
 実はこの空間からはもう出ることが許されておらず、封じ込められているのではと何度も思った。
 その度妖夢ちゃんを助けるという使命を思い出し、自身を奮起させた。

   ※ ※ ※

 この空間に迷いだして数十時間ほど経ったときのことだろうか。
 巨人の怪物をやり過ごしながら長い長い廊下を歩き続けている内に気づいたことがある。
 廊下の床や壁にへばり付いている肉塊が少なくなっていること、だ。
 地の床、壁が見える綺麗な通路になりつつあった。
 その通路というのは黒く、冷たい石を加工して作ったものであった。
 単に黒一色ではなく、黒の薄い石と黒の濃い石とを混ぜてグラデーションが楽しめる仕様になっていた。
 この世界を作り上げた者、或いは者達の趣味なのだろう。
 肉塊を殆ど見なくなってからは巨人さえ見なくなった。
 何も無い、静かな廊下をひたすら突き進んでいると今度は別の音が聞こえてくる。
 音の発生源はわからないが、確かに聞こえてくる。
 天井の見えない、遥か上空から聞こえてくる気がするし足元や壁の中から聞こえてくる気もする、何かしらの駆動音。
 河童の発明品といわれている、原動機の音に近いものだ。
 道を進むたび音は大きくなっていく。仕舞いには音の震えが強すぎるために胸の中まで震えてくるほど。
 自分の呼吸音が聞こえず、こうして考えているときの自分の声しか聞こえてこなくなってきた。

 否、明らかにおかしな音が聞こえてきた。背後の方向、遠くから。
 体を震えさせるほど低音の響いているこの空間で認識できる音、それは悲鳴の様な高音であった。
 後ろを振り向く。真っ白い仮面を被り、大きな黒いマントで全身を隠した者が私の方へ向かってきているのだ。
 巨人の怪物とは明らかに違う。巨人達はマイペースで、ゆっくりと進むが目の前にいる者は走っている。
 一つ目すら持たない仮面の怪物と呼ぶことにするが、その仮面の怪物は仮面の裏で私を睨んでいるに違いない。
 私が急いで走りだすと、その怪物はさらに走る速度を上げてきた。
 低く唸っている何かの駆動音に負けじと、甲高い叫び声の様なものを辺りに撒き散らしながら私を追いかける。
 今これほど自分の能力が使えないことに焦ったことはない。
 仮面の怪物には腕が生えている様だ。数メートルはありそうな黒い腕を伸ばして私を捕まえようとしてくる。
 期待せずにナイフを投げつけてやるが、長い腕に振り払われてしまい、効果は無かった。
 足を止めて鉈で応戦してみようか、と悩んだところで通路の先が行き止まりになっていることを確認。
 長かった廊下が終わったのだ。そしてその行き止まりには扉が見えている。
 奇声を上げながら腕を振り回してくる仮面の怪物の攻撃をやり過ごしながら、私は扉に飛び込んだ。
 すぐさま体を起こして反転し、怪物の攻撃に備えなければ。
 そう思っていたが、その必要は無さそうだった。
 仮面の怪物が扉を前にして足を止め、今来た方向へ名残惜しそうに帰って行っているからだ。
 小さくなっていく、マントに隠された仮面の怪物の後姿。それが完全に居なくなるまで私は通路から視線をずらせなかった。
 ようやく見えなくなってから安心し、扉を閉めた。幸いなことに、扉を越えた先には怪物が居なかった。

 落ち着いてきたところで、長い通路を抜けてようやく辿り着いた、まだ踏み入れてないこの部屋を見渡した。
 ここもまた随分と細長い部屋で、通路に近いものであった。ただ天井がある所ではある。だから部屋なのだろう。
 部屋の壁には大きな絵画らしきものがたくさん並べられてて、いや敷き詰められていると言った方が正しい。
 両側の壁にびっしりと絵がひっかけられているのだ。この世界の主の趣味なのだろうか?
 少なくとも遭遇してきた怪物共の仕業ではないことは明らかだ。奴らは本能のみで動いてそうな、単純な生物みたいだから。
 部屋の中央には細長いテーブルが置かれている。食堂にでも置いておくような奴だ。
 テーブルには燭台が置かれている以外注目するようなことはなかった。
 数十メートル先には新しい扉が見えている。まだまだ先があるようだ。
 部屋の隅にある棚を見てみると「飲料水」のラベルが貼っている容器を発見。
 私は手持ちの水を飲み干し、新しい方の容器を持ち運ぶことにした。
 妖夢ちゃんのことを思い出しながら、私はこの部屋で少し休むことにしよう。
 時計を見る限りではもうすぐ日付が変わる。もしくは、お昼の時間か。
 休めるときに出来るだけ休んでおくことに越したことはないはず。
 妖夢ちゃんを一刻も早く助け出し、彼女のおしっこを飲みたいが焦っても仕方がない。
 目を瞑ると眠気はすぐにやってきた。意識はあっという間に落ちる。

   ※ ※ ※

 目が覚める。所持品があることや服の乱れがないことを確認して、怪物共がこの部屋に入ってきていないことを知る。
 扉を潜れない理由でもあるのだろうか? 私にとっては都合の良いことなので、どうでもいいことではあるが……。
 お腹が減っていないことにも慣れてしまった。
 しかし腹が減らないというのは何とも不便である。何となくで今の時刻がわからないからだ。
 懐中時計が無かったら、生活習慣というものが狂ってしまってしまうところ。
 ちなみに私は床に座り込んで寝ていた。そのせいか、体の節々が痛い。今度からは無理してでも横になるべきか。
 飲料水を口に含みながら、目覚めの排泄を部屋の隅で済ませることにした。
 飲料水を飲み込んでしまい、残り少ない懐紙で股を拭いて下着を着用し、靴下を正して部屋の奥へ。
 その途中、壁の絵でも見ながら行ってみようと思ったが、絵画は実に趣味の悪い──いや、ある意味趣味の良い絵ばかりだった。

 キリストの様に磔にされて腹を槍で突かれ、血を流して苦しんでいる少女の絵。
 甲冑を着込んだ騎士の様な少女が太い杭で貫かれ、大量の血を流している絵。
 体中を掻き毟り、自分で自分の血を流しながら泣いている少女の絵。

 お腹を拳で殴られ、苦しそうな表情で血を吐いている少女の絵。
 体中に銀色のナイフを投げつけられて苦しんでいる少女の絵。
 暗い色の回転鋸で体を切り刻まれ、血を流している少女の絵。
 真紅の色をした槍で体を貫かれ、血を流している少女の絵。
 体を爆散させられ、血から内臓までを飛び散らしている少女と思わしき者の絵。

 絵の数がありすぎるので例を挙げるとキリがないが、その中には紅魔館の住民がモデルになっているであろう絵が含まれていた。
 先ほど取り上げた絵なんてまんまである。私まであることには驚きを隠せない。
 ここにこんな絵があるということは、この世界の主は幻想郷の関係者であることは間違いない。
 それもかなり高位な存在の者の仕業であろう。そう思うと、真っ先に八雲紫が頭に浮かんだ。
 奴なら可能だ。いや、奴にしかこんな手のこんだことは出来やしない。
 これだけ大掛かりな、とてつもなく長い廊下や、普通の妖怪とはかけ離れた怪物何かを用意できる者は紫しか思いつかない。
 しかしそうだとしても、一体何が目的なのだろう? まさか幽々子から声をかけられ、私を殺そうとしているのだろうか?
 いや、それはきっとない。紫ほどの妖怪であれば、私一人を消すぐらい造作もないだろうから。
 しかし先ほどから絵を見ていて思うことがある。全て共通して、ある少女が血を流しているということだ。
 それも全て髪が白く、短い。少女の隣に幽霊の様な物が描かれている絵もある。
 私にしゃぶってもらいたそうなデザインの、黒いカチューシャが描かれている絵もある。
 間違いない。これらの絵で殺されているのは妖夢ちゃんだ。
 そう理解すると、一気に怒りが込みあがってきた。何がなんでも私をここへ連れてきた犯人を見つけ出し、殺してやる。
 そうしなければ気が済まない。もしかすると、この世界の主はこれらの絵の様に妖夢ちゃんを殺害しようと企んでいるかもしれない。
 もしそうであれば居てもたっても居られなくなり、私は奥の扉を目指した。
 今すぐ殺したい。絶対殺す。私と妖夢ちゃんを侮辱したことは許されざる行為。
 ナイフで何度も何度も切り刻み、犯人に罪を数えさせたい。

 私は急いでこの部屋を出ることにする。妖夢ちゃんに万が一のことがあったら、を考えて。
 扉の先はまた部屋になっていた。部屋の中央、巨大な檻の中で何者かが作業をしていた。
 鉈を握り締め、警戒しながら近づいていく。やがてその作業をしている者が、さっき会った仮面の怪物であることがわかった。
 どうしてここに居るのだろう? こちらとは反対側の方向へ消えて行った気がするのだが……。
 檻の中では妖夢ちゃんの半霊が今まさに拷問にかけられようという状況であった。
 半霊は椅子の様なところに縛り付けられていて、怪物の手が今にも届いてしまうという状況。
 怪物は怖い。だが妖夢ちゃんの半霊は全力で守ってあげなければ。半霊も彼女の半分なのだから。
「こっちを向きなさい、怪物! 彼女から手を引いて!」
 思い切って叫んでみた。仮面の怪物は私の言葉がわかったみたいで、驚いたみたいに仰け反って半霊から離れて行った。
 半霊は依然暴れており、束縛から逃れようと必死である。私が何とかしてあげなければ……。
 そう思って打開策を考えているうちに、怪物が檻の中からゆっくり出てきたではないか。
 すると怪物は鍵らしき物を地面に落とした。この鍵を拾うことができれば妖夢ちゃんの半霊を助けられる、と言いたいのだろうか?
 私は鉈を握りなおした。深呼吸し、仮面の怪物を睨みつける。足を広げて構え、怪物の動きを警戒する。
 どう考えても「鍵が欲しければ私を倒してみろ」というシチュエーション。だからここは腹を決める所だろう。
 仮面の怪物は動かない。呼吸でもしているのか、僅かに体が揺れている。
 向こうが何もしないのであれば、と思って利き手で鉈を構えながら反対の手にナイフを。
 効果は殆どないだろうが、牽制程度にはなると思って、だ。
 だがナイフを見た怪物の反応は意外なものだった。鍵から離れて行き、部屋の奥へ消えて行ったのだ。

 落ち着いてきたところで注意深く部屋を見渡してみると、この部屋には中央に檻がある以外何もない部屋であった。
 部屋の奥は暗がりになっており、良く見えない。
 仮面の怪物が逃げた方向ではあるが、その方向からは怪物の気配は感じられなかった。
 ……部屋の奥には怪物が逃げ込むスペースでもあるのだろうか? とりあえず私は鍵を広い、半霊を開放してあげた。
 半霊は嬉しそうに飛び回り、おじぎするみたいに頭をぺこぺこ下げた。私にとってはこれぐらい当然のことだ。
 まあ、感謝されることは別に悪いとは思わない。私は半霊を抱き寄せ、自分の舌を押し付けた。
 この世界に迷い込んだせいなのか、少し不味くなってしまっていた。だが暫く舐めていると本来の味が戻ってきた。
 もう暫く半霊を舐めるとしよう。あの怪物を追い払い、助けたのだから何かしらの形で、報酬に近いものを受け取る権利は当然だろうから。
「半霊ちゃんちゅっちゅちゅっちゅ。ああん、やっぱりこの味ですわ。半分死んでる妖夢ちゃんも素敵ですわ」
 ぶるぶると半霊が震えている。私に舐められて恥ずかしいのだろう。照れちゃうなんて、やっぱり妖夢ちゃんは可愛い。
 さすが私の嫁。私がこの世で一番好きな味である。私の脳味噌が一番喜ぶ味である。
「ついでに、ここでもうちょっとちゅっちゅしましょうねウフフ」
 怪物が戻ってくる気配はない。とはいえ正体不明の怪物がそこら辺を歩いている世界だ。
 いちゃつく行為は無防備となる、危険な行動だ。しかし私は妖夢ちゃんから引き離されて何十時間となっているのだ。
 要求不満にもなるというもの。五分、いや十分だけ彼女と愛し合う時間を取ったところで問題はないはずだ。

 私から離れようとする半霊をしっかりと抱きしめ、逃げられないようにする。
 嫌よ嫌よも好きの内ですわ、と呟きながら半霊を地面に押し付けて覆いかぶさった。
 暴れまわる妖夢ちゃんの半霊をしっかり押さえて唇を近づける。フレンチキスの一つぐらいさせてもらわないと落ち着かない。
 決して冷たくはなく、それでいて暖かいわけでもない温度の半霊に口付け。その感触はナタデココに近かった。
 唇の先で突く様な軽いキスをしながら、舌の先を伸ばす。今すぐにでも舌を挿れたい衝動を押さえながら、ねちっこいキスを続けた。
 ここで「飲料水」を取り出し、私は半霊へ水を上からぶっかけた。
 最初からこうやって洗ってあげてからキスをすれば良かったと思ったが、それはそれでまたキスが出来ると思えば何も問題はない。
 液体に全身を濡らした半霊は言葉を失う程に艶美な姿であった。私は興奮する余り、ナイフを手に取った。
 手を切ってしまわない様注意しながらナイフの刃を持ち、ナイフの柄を半霊に押し付ける。
 男性器を模した張形を彼女へ押し付けている様に錯覚し、ねじこむと同時に私は達してしまった。

   ※ ※ ※

 目が覚める。妖夢ちゃんの半霊を探す。彼女は部屋の隅でガタガタと震えていた。
 だが小便は済ませないで欲しい。もし小便するのであれば私に跨ってして頂きたい。
 とはいえ、半霊は死んでいるというか、幽霊みたいなものだから排泄などしない。残念である。
 半霊と軽いセックスをしたときに汗をかいたのか、下着が随分と臭うようになってきた。いや、何時間も替えていないし当然か。
 腹が空くことはやはりなく、じっとしているだけでは死なない世界であることを思い出す。慣れるにはもう少し時間がかかりそうだ。
 妖夢ちゃんの半霊ともう一度セックスしたいという性衝動を抑え、彼女の生きている方を助けようとしよう。
 半霊に声をかけ、生きている方が居る方向を教えて欲しいと頼む。すると半霊は尻尾の様な部分を部屋の奥へ向けた。
 こうやって奥へ奥へ行き続けていれば会えるということなのだろう。私から逃げて行く様に部屋の奥を目指す半霊を追いかける。
 追いかけっこをしようと誘ってくれているということに違いない。半霊の移動速度はなかなか速く、全速力で走っても追いかけるのに必死だった。
 もうちょっとゆっくり飛んでもらわないとちゅっちゅできないではないか。薄暗い通路は長く、先が見えない程であった。
 最初の部屋から伸びていた、延々と続いていた廊下を思い出す。またあの時並みに時間がかかるのだろうか。
 通路の壁を見ていると、石を加工したものに例の肉塊がつきはじめた。
 機械が動いているような音は薄れ始め、代わりに肉が胎動する音が良く聞こえる様になってくる。
 とうとう石の床が完全に隠れてしまい、内臓の道になってしまった。
 腐った肉と血なまぐさい臭いがし始め、グロテスクな世界へと変貌していく。
 後ろを振り向いてももやのせいで何も見えず、半霊を追いかけなければはぐれてしまいそうな状態。

 と、半霊がふいに止まった。今の内に追いつこうと力を振り絞って踏み込むと、先に大きな扉が見えてきた。
 どうやら半霊は扉をくぐれない様子。それなら、とここでセックスしようと企むが諦めることにする。
 こんな生臭い場所でなんてとてもじゃないが、出来ないからだ。
 扉を開けようと思ったところで、鍵がかかっていることに気づく。しかし鍵穴は見つからない。
 と、半霊が尻尾の部分で扉の脇を指し示した。見てみるとどうやら仕掛け扉になっている。
 その仕掛けの部分とやらは、おろし器の様なものになっていた。古いものなのか、錆びていた。
 それの受け皿には乾いた血が付いている。このおろし器に血を流し込めとでも言うのだろうか?
 妖夢ちゃんの名前を呟いてみた所で思い出す。大量の絵画を飾っていた部屋を。
 あの部屋にある絵に出てくる妖夢ちゃんがどれも血を流していたこと。そして受け皿に付着している血。
 やはりここへ血を流し込めということなのだろう。
 とはいえあの絵同様、妖夢ちゃんに血を流させるわけにはいかなかった。というか……半霊からは血が出ないではないか。
 ならばどうしろと言うのだろう。私の血でも大丈夫なのだろうか?
 おろし器に手でも乗せて、一思いに手を引いて犠牲にしろと言うのだろうか。
 そういうことなのだろう。試しにナイフで指先を切り、血をポタポタ押としてみたが無反応だった。
 ただ血を流すだけでは仕掛けが作動しないということ。妖夢ちゃんを助けるためには手を一つ犠牲にしなければいけないらしい。
 私は利き手でない方の手を伸ばし、錆びて変色した歯に手の平を押し付けた。それだけで激痛が走り、血が流れ出た。
 ぶちぶちと皮膚の繊維が裂かれているのが分かる。しかし仕掛けはまだ動かなかった。
 随分と古そうな装置のくせに刃は研がれているようだ。
 覚悟を決めて手を引き裂かないと駄目なのだろうか。たぶんやらなければいけないのだろう。
 迷っていると、横で鈍い音がする。半霊がなんと肉塊の床に撃墜したのである。
 触ろうとすると私から逃げるのだが、元気が無さそうであった。もしや、生きている方の妖夢ちゃんに何かあったのだろうか?
 私は意を決して自分の手を捨てることにした。もう迷っている暇はない。
 おろし器の歯が鋭いせいで、押さえつけているだけでも泣きたくなる程痛いが、堪えるしかない。
 体が震え始めた。肩が動かない。体に力が入らない。
 手一つで妖夢ちゃんを救えるのに、と考えても恐怖に支配されて腕をコントロールできない。
 私は深呼吸をし、妖夢ちゃんと一緒にしたいことを思い浮かべた。
 彼女のおしっこで雑炊を作って食べたい。彼女のカチューシャを彼女の唾液に浸してしゃぶりたい。
 彼女のブラウスでダシを取り、その鍋で湯豆腐を食べたい。
 そう想像してみると非常に激しい興奮を覚え、恐怖も吹き飛んだ。

 思い切ってやろう。中途半端は止めだ。ゆっくりやると痛みが長続きするに違いない。
 手を引いた。腹を決めて。皮膚が剥がされていく感覚に襲われる。
 手首から手の平、そして指先の皮が無くなっていった。
 食い込んだ無数の刃は私の手の平が好きなのか、手の平ごと持って行くつもりだったらしい。
 血で真っ赤に染まった皮膚の千切れカスがおろし器にたくさん残っている。
 手におろし器の歯が刺さっている感覚がまだ残っていた。
 自分の手はほとんど皮が剥がれてしまって、肉が見えているかの様な状態。
 とはいえ出血と痛みが酷すぎてまともに確認なんて出来ない。
 咄嗟にエプロンで手を包み込んで包帯替わりにしてみるが出血は止まらない。
 傷が大きすぎるからだ。そして激痛の余り、周囲りを見ている余裕なんて無かった。
 半霊の様子を見ていることも、扉の仕掛けがきちんと動作したのかどうか確かめることも出来ない。
 体の震えが止まらない。痛みも治まらない。足をバタつかせ、子供がだだをこねる様なことしか出来ないでいる。
 いっそのこと手を斬り落としたいとも思えてきた。
 こんなにも痛いのなら、手などいらぬ。そう言いたい程。
 痛みに耐えているせいで他のことに集中できない中、ここまで持ってきた鉈を思い出した。
 そこら辺に転がっているはず。体をうずくませたまま周りを見渡し、鉈を発見。
 肉の床を這いずって鉈を拾いに行く。肉塊を覆っているであろう粘液で服と顔を汚しながらも、鉈を拾いに行く。
 やっとの思いで鉈に辿り着いた私は早速利き手で鉈を握り締め、振り上げた。
 次に痛みの元凶であるもう片方の手を肉に覆われた地面に押し付ける。
 どうせこの傷だ、回復には相当な時間を要するだろう。おまけにこんな世界だ、怪我の処置もろくにできない。
 放っておけばばい菌が傷口から入って来るだけである。それならいっそ手を落としてしまった方が傷口が狭くなる。
 余りの痛みに涙が溢れ出、うまく前が見えなかった。だがこの手は斬り落としてしまわなければいけない。
 手が落ちてくれるのならもうどこでも良い。上げていて攣りそうになった利き手を遠慮なしに振り下ろした。
 床の肉塊ごと切れたのか、肉塊から血が吹き出てくる。手はどうなったのだろう。感覚がない。
 肉塊からも血が噴出してきたために辺りが血の海と化した。
 肉塊の出血から逃れるためにその場から離れてみると、利き手でない方の手が転がっているのが見えた。
 指も動かせない。動かそうと努力してみても、動いているという感覚はなかった。
 確かに手は落ちた。だが今度は手が落ちた痛みで苦しいのである。
 覚悟はしていたが、予想を遥かに超える痛みであった。
 痛すぎて呼吸困難になってしまい、頭がパニックになっていった。
 手首の先からは先ほどよりも異常に多い量で血が噴出している。
 このまま出血多量で死んでしまうのではないか?
 半霊の姿が見えないことに気づき、とてつもないピンチに陥っているのではと考える。
 ネガティブなことばかり思い浮かび、正常な判断が一切できなくなってきた。
 もういっそここで死んであらゆる苦しみから解放されたい。そう思ってしまった。

   ※ ※ ※

 目が覚める。どうやら気絶していた様だ。利き手は動く。反対側の手は動かない。
 しかし痛みはなかった。血も驚いたことに止まっている。この世界では出血がすぐに止まる様にでも出来ているのか?
 周りを観察すると半霊はいなかった。一人で扉の向こうへ行ったのだろうか?
 それならそれで、私を置いて行こうとしないで欲しい。それとも、妖夢ちゃんなりの放置プレイというものなのだろうか。
 もしそうなら、私は喜びの余り絶頂してしまいそうである。
 斬り落とした方のブラウスの袖を結んでおいた。切断面の血が止まっているとはいえ、すーすーしているのは落ち着かない。
 落ちている鉈を拾い、仕掛け扉を調べてみると、鍵は開いてくれていた。
 あれだけのことをして鍵が開いていなかったら嘆くでは済まない、と泣き言を言うしかないところであった。
 片手がないのが不便だが、幻想郷に帰ることさえ出来ればどうなろうが構わない。
 例え手足が食われて頭と体だけになろうとも、妖夢ちゃんを連れて帰るつもりなのだから。
 右手に体重を乗せるように扉を開けた。随分と重たくて分厚い扉なのか、開くのに時間の要るものだった。

 扉が開いてまず思ったことは、廊下以上に生臭い空気が充満しているということ。
 匂いをかぐだけで気絶しそうなほどであった。
 床や壁には肉塊がびっしりついていて、まさに内臓の中にいる様な部屋であった。
 鼓動する音が部屋中に響き渡り、私の全身を音の振動が襲った。鼓膜が痛い程である。
 内臓らしきものの胎動の迫力に負けぬ様歯を食いしばり、意地で部屋の中へと入って行く。
 部屋の構造自体は前にいた部屋とそっくりであった。中央に檻の様なものがあることも。
 ただ違うことは、檻も肉で出来たものになっていた。
 そして檻の中には、妖夢ちゃんが磔にされていたのだった。
「妖夢ちゃん!」
「さ、咲夜!?」
「助けにきたわよ、妖夢ちゃん! もう安心していいからね!」
「うう〜、気持ち悪いけど……今はあなたに頼るしかないわね! でも気をつけて、マントの妖怪がいるみたいだから!」
「え? あれ妖怪なの?」
「いや、適当にそう呼んでるだけ……」
 噂をすれば何とやらか。檻の向こう側から仮面の怪物が現れた。長く、黒い腕を妖夢ちゃんに伸ばしている。
 妖夢ちゃんの傍にいる半霊が震えている。あの怪物がきっと怖いのだ。
「私の妖夢ちゃんに汚い手で触るな、この怪物!」
「勝手に咲夜のものにしないでよ!」
「妖夢ちゃんウフフ」
「はぁ……」
 仮面の怪物は檻の中へ入り込み、妖夢ちゃんの可愛い顎を指先でなぞっている。実に不愉快だ。
 今すぐにでも目の前にいる怪物を殺したい。いや、殺す。絶対に殺す。
「怪物! こっちへ来なさい! 妖夢ちゃんを攫った借りを返してあげるわ!」
「……」
 私の言葉を聞いてか、仮面の怪物は檻から出てきた。足音を立たせずに私の近くまで寄ってくる。
「さぁ覚悟しなさい。この鉈であなたを真っ二つに割ってやる」
「気付かないの?」
「え?」
 仮面の怪物が喋った。気付く? 一体何に?
「まさか、私の声を聞いてもわからないの?」
 マントの中から幼い子供の様な腕が出てきて、仮面を取っ払った。
 そこには黒いマントで身を隠したお嬢様がお見えになったのだ。
 磔にされた妖夢ちゃんも今始めてお嬢様が化け物の正体だと知ったのか、たいそう驚いている。
「お、お嬢様! そんな、仮面の怪物がお嬢様だっただなんて!」
「本当に気付かなかったの? 私の気配がわからないなんて、よっぽどそこの半人半霊のことしか考えていなかったのね」
「……」
 仮面の怪物だったお嬢様がマントも脱ぎ捨て、いつもの姿に戻られた。
 なんということだ。この異世界はお嬢様が用意したということなのだろうか?
「お前が気にしていそうなことを全部話してあげる。これはパチェと私、冥界の亡霊とで仕組んだことなのよ」
「え? 幽々子様が? ちょっとレミリア、それはどういうことなのよ!」
「妖夢、あなたは咲夜のことを心底気持ち悪がっている。そうでしょう?」
「ええ」
「妖夢ちゃん可愛いよ妖夢ちゃんウフフ」
「咲夜はちょっと黙っていなさい。迷惑がっている咲夜から引き離す手伝いをしてあげようと思って、わざわざ大掛かりな仕掛けを用意したのよ」
「それが、この異世界みたいなところ?」
「そうよ。まあ子供騙しの、どこぞの大学生が作った様な、お化け屋敷程度の出来だけどね」
 これがお化け屋敷だって? おどろおどろしい肉塊の壁や床なんて、とても真似のできるものではないと思う。
 だがこれで紫が関わっていないことを知った。お嬢様にこんな異世界を作る力まであったとは。
 悪魔の中でも高位の、膨大な魔力を持つ吸血鬼だからそんな真似をやってのけるのだろう。
「別に難しい話ではない。私の催しものに咲夜を誘ったようなもの。咲夜の言う、この異世界……私は迷宮と呼んでいるんだけど、その迷宮のスタート地点に咲夜を置いて、ゴールであるここに妖夢を置いておいた。そして咲夜は私の用意した怪物共をすり抜け、私の襲撃も上手くかわして仕掛け扉もクリアし、ここへ辿り着くことが出来た」
「迷宮ですか? 迷宮と呼ぶには、お粗末では。殆ど一本道ででしたし……」
「後はもうわかるでしょう? さっき半霊を拘束していたとき逃げたのはまあ、あなたに怒鳴られて私がびっくりしてしまったからよ。私の気配が悟られたのでは、と思ってね。結局そんなことは無かったみたいだけど」
「それで、この後はどうなるのです? 無事ゴールに辿りついたのですから、妖夢ちゃんを返していただけるのですね?」
「何を言っているの、私はこの世界を迷宮と呼んだのよ? その迷宮で迷い続けるのはあなたの魂。私を見てくれないあなたを、この世界に閉じ込めて嫌でも私に振り向かせる」
「わかりましたわお嬢様。私はあなたと全力で闘い、あなたを倒す! ……ところで、あと一つだけ質問が」
「何?」
「どうしてこの世界では私の能力が一切使えないのでしょう? それだけが不思議で仕方ありません」
「簡単なことじゃないの、私の作った世界なのよ? 私がルール。私が時間操作を禁じれば、あなたの能力が使えない。ただそれだけよ」
「……」
「こんなことも察することが出来ないようじゃ、やはりあなたはまだまだ未熟ね!」
「妖夢ちゃん、私に力を貸して!」
 お嬢様が腕に力を蓄えている。吸血鬼の圧倒的な膂力で私を粉砕なさるおつもりなのだろう。
 だがこちらには例の鉈がある。愛用のナイフもまだ残っている。勝機はこちらにある。
 勝負は一瞬で着いた。私が飛び込み、お嬢様が暴力的な腕を振り回す。
 私がそれを避け、懐に飛び込んで鉈をお嬢様の平らな胸に差し込む。それだけだった。
 呻き声を上げることもなく、肉塊の床に沈まれるお嬢様。名前を呼んでも、返事はなかった。
 死んだわけではないはずだ。この世界はお嬢様の世界。お嬢様の掌の上。きっとこの世界では何をしてもお嬢様を倒せない。
 再び目を覚まされる前に、妖夢ちゃんを連れてこの世界から脱出するしか生きる方法はないだろう。
「さぁ妖夢ちゃん、私と一緒に逃げるわよ!」
「逃げるのなら私一人で良いんだけど……というか、ここから逃げられるの?」
「……」
 確かにそれを考えていなかった。改めて部屋を見渡してみると、入り口以外に扉がない。
 天井も肉に覆われているだけで、壁も同様。
 かといって入り口から外へ出たとことろで、結局スタートまで戻るだけ。どうしようもなかった。
「ねえ、あそこ怪しくない?」
「あれは……魔方陣?」
 妖夢ちゃんが指差した方向は部屋の奥。そこは台座の様な所になっており、何かしらの魔方陣が描かれていた。
 もしかすると、あそこが元いた世界とを繋ぐ結界の類なのかもしれない。
「良い所に目をつけたわね。確かにそこは、紅魔館にある私の部屋と繋がっているわ」
 そう答えたのはお嬢様の声。もう復活なさったのか、高速で移動して一瞬のうちに私達の前に回られた。
「でももうここまで。咲夜、あなただけはここから出られない」
 お嬢様の胸に突き刺した鉈はまだ刺さっている。血が流れ出ている。しかしお嬢様は気にも留めない様子。
 すると、魔方陣から眩い光が放たれた。強すぎる閃光。慌てて腕で目を隠した。
 光はすぐに収まる。腕を退けると、その魔方陣にパチュリー様が立っているではないか。
「あら、レミィ」
「ええ、パチェ」
「丁度良いタイミングじゃない。そろそろ妖夢を白玉楼へ返してあげましょう」
「そうね、早く咲夜を一人占めしたくって仕方ないし」
 呆気に取られている間に妖夢ちゃんが一人魔方陣へ行き、再び強い光が辺りを照らす。
 次に目を開けたときには妖夢ちゃんとパチュリー様は消えており、ここにいるのはお嬢様と私だけとなった。
「そんな……妖夢ちゃん、妖夢ちゃん! 妖夢ちゃんが! 私の妖夢ちゃん!」
「お前の妖夢など、どうでもいいのよ。あなたを私のものにしてやる!」
 お嬢様の怒号が肉塊の部屋に響き渡る。胸に未だ刺さっている鉈を引き抜き、足元へ捨てた。
 出血には目もくれず、重心を低く構えられる。今度は私に飛びかかられるのだろう。
「待ってくださいお嬢様! 確かに私は妖夢ちゃんを溺愛していますけども、お嬢様の、メイドとしての職務を忘れたことなど一度もありません!」
「お前の意見など聞いていないのよ! 私が咲夜を自分のものにする! これは私の命令なのよ!」
 最早問答無用、ということらしい。しかし、いくらお嬢様の命令とはいえこれには応じられない。
 昔お嬢様に忠誠を誓ったことを思い出す。今までの名前を捨て、お嬢様に新しい名前を賜ったこと。
 メイドという形でお嬢様の僕にしていただいたこと。門番をしている妖怪、美鈴との出会い。
 お嬢様の親友として紅魔館に住み着いているパチュリー様。そしてお嬢様の妹君である、フラン様との思い出。
 人生を歩んできて見て来たもの、得たもの、嬉しかったことから悲しかったことまで色々なことが次々と思い浮かんだ。
 そう、今私は今まで積み上げてきたものを自分で壊そうとしているのだ。

 私は妖夢ちゃんという、幻想郷に来てから出来た婚約者と一生を全うしたい。
 お嬢様は私という忠実な部下である、忠誠を誓ってくれた人間を自分のものにしたい。
 私が目的を果たすには、忠誠を破ってお嬢様に反逆してこの障壁を飛び越えなければいけない。
 お嬢様が欲望を叶えるには、ここで私の脱出を阻止しなければいけない。
 お嬢様に逆らうということは、私の今までの人生を、紅魔館を、メイドの職を捨てなければいけないのだ。
 果たしてそれは、妖夢ちゃんとを天秤にかけてどちらが勝るのだろう?
 妖夢ちゃんだ。妖夢ちゃんの方がずっと大事だ。
 お嬢様のために命を削る思いで今まで働いてきた。生きてきた。
 でもお嬢様は私の愛人ではない。愛しているの方向が違う。
 妖夢ちゃんのカチューシャはしゃぶってみたいと思う。でもお嬢様のリストバンドはしゃぶってみたいと思わない。
 お嬢様を思い浮かべての自慰行為はいまいちであった。妖夢ちゃんを思い浮かべての自慰行為は非常に興奮した。
 この差であろう。お嬢様では余り興奮できない。
 だが春が来なくなった異変が起き、そのとき妖夢ちゃんと出会ってからというもの、毎日妖夢ちゃんと接吻することを夢見てしまっていた。
 お嬢様と妖夢ちゃんでは体格的にはほとんど変わらない。
 どちらも身長百四十センチメートル未満で、幼児体形をしている。妖夢ちゃんウフフ。
 体重もおそらく殆ど変わらない。でも髪質は全然違う。
 お嬢様は悪魔、というか吸血鬼であることもあって、髪の毛にも魔力が感じられる。
 この魔力というものが中々どうして、人間の舌は「苦い」と判別するようなのだ。
 片や妖夢ちゃんの髪の毛は美味しい。美味しくてたまらない。
 彼女は半人半霊である。そのせいで髪の毛に妖力というか、霊力が混ざっているのである。
 この霊力というもの、人間の舌では「すっぱい」と感じるのだが、彼女は半人半霊なために適度なすっぱさとなっているのだ。
 確かに苦いものを無理やり口に入れるというのは、殿方からすると興奮されるのかもしれない。
 でも私は女性だし、お嬢様も妖夢ちゃんも女性である。それにやはり、口に入れるのなら美味しいものが良いに決まっている。

 次に気になるのは、お二人の服装の味や香りの違い。
 お嬢様はドレスを好まれる。妖夢ちゃんは標準的な服装を好まれる。
 別にお嬢様の服は嫌いではない。今までお嬢様が着用したドレスの襟のところを舐めたりしてきた。
 でも満足しきれなかった。興奮は出来るのだが、物足りなさを感じていた。
 そんな折、白玉楼に招かれたときに衝撃を受けたのだった。
 偶然にも天気が悪くなって、泊まっていくことになったのだが、そのとき興味本位で妖夢ちゃんの部屋のタンスを漁ったのだ。
 そのとき見つけた妖夢ちゃんのブラウスの香りが何とも言えない、爽やかなものであった。私はその夜、それだけで達してしまった。
 勿論ファッションセンスというのも重要である。
 この点においてもお嬢様より妖夢ちゃんの方が好みなのだ。
 私がメイド服を好むのは清潔感があり、体にピッタリとした衣服を好むからだ。
 その点、妖夢ちゃんの服は私のと構造が酷似している。違うのはスカートの部分、エプロンの有無ぐらいだろう。
 お嬢様の場合はもうちょっと違う。別に清潔感がないとは言わないが、味が濃すぎるのだ。
 少女趣味的すぎるのである。言うなれば、妖夢ちゃんの服装が普段の食事で、お嬢様の服装は奮発して食べにいく外食の様な物。
 お嬢様の着こなしも嫌いではないのだが、普段そこまで欲しいとは思わない。やはり妖夢ちゃんが欲しくなる。
 妖夢ちゃんのブラウスの袖をしゃぶり、腋の辺りを舐め回し、襟の部分を切り取って切り刻んでスパゲティに乗せて食べたい程である。
 お嬢様の衣服ではそこまでしたいと思わない。せいぜい抱きしめつつ匂いを嗅いだりする程度だ。
 ということは、依然として私の嫁に相応しいのはお嬢様ではなく妖夢ちゃんということになる。
 こんな不気味な世界で埋もれるわけにはいかない。何としてでもお嬢様に打ち勝たなければ。

 お嬢様の突撃に対して待ち構える。気持ちは悪党が銃を抜くのを待ち構えている、保安官。
 手に一本のナイフを取り、逆手で握る。低姿勢で突撃してくるであろうお嬢様にこれを突き立ててやろう。
 最早目の前にいるのは私の上司ではない。レミリア・スカーレットという、私の敵だ。
「さようならお嬢様……いや、レミリア・スカーレット! あなたとはここでお別れにします!」
「あなたとはここで永遠に暮らすのよ。お前の血を吸い、肉を食らって心身共に一つになるのよ!」
 ここで一つ私が忘れていたことがある。ここはレミリアの作り出した世界だ。
 レミリアがルール。レミリアが規則。レミリアの我侭で色々な法則が無視される可能性もあるということを。
 レミリアは動いた。確かにレミリアは真っ直ぐこちらへ突撃した。
 その突撃にカウンターを入れる要領で私はナイフを突き刺した──つもりだったらしい。
 瞬間的に加速したレミリアは、私のナイフが届く寸前で私に体当たりを食らわせた。
 吹き飛び、肉壁に叩きつけられる。嫌な弾力性のお陰で致命傷にはならなかった。
 だが体が言うことを聞かない。体当たりされただけなのに、胸が猛烈に痛い。
 咳き込む。手で口を覆うと、掌に血が付いた。吐血しているようだ。あばら骨が折れて、内臓にでも刺さったのかもしれない。
「うぐっ……げぇっ! げほ、ごぼっ……!」 
「無様ね。脆い人間のお前が私に叶うわけなかろう。ましてや、この迷宮世界で勝とうなんてね」
「うううっ……まだ、まだ闘える!」
「闘えるからと言って何が出来る? 銀のナイフで私を切り裂く? 言っておくけど、この私の世界では日光、流水、炒り豆、にんにく、十字架、銀製の武器、木の杭。何れを使っても私を追い払うことすらできないよ。私が吸血鬼の弱点のない世界を作り上げたのだから」
「……」
「くくく……やっぱり人間は美味しいわね! 人間が絶望の余りに顔を歪ませる瞬間は、心が躍る! ましてや私が愛している人間のものとなると、それは格別!」
 何ということだ。始めから勝負は着いていた。結果が見えていた。
 格闘技で言うところの、反則技を使われた試合を強いられていたのだ。
 咳が止まらない。吐血も止まらない。痛みと疲労から私は尻もちをついた。
 立ち上がろうにも、目の前で悪魔らしいニヤついた笑顔を見せるレミリアが怖くて立ち上がることが出来ない。
「顔を上げなさい。恐怖に怯える表情を見せなさい。私を倒すと意気込んでいたのはどこへ行ったのよ?」
 思考がどんどんネガティブな方向へ行く。立ち上がることは出来ない。彼女の目を見て罵詈雑言を浴びせることすら怖くて出来ない。
 かといって今更助けて、と命請いなど到底出来ない。気がついたときには、私は泣いていた。声を押し殺すかのように、すすり泣いていた。
「あらあら、どうしたの? 恐怖の余り泣いちゃったの? お〜、よちよち。咲夜ちゃん、泣かないで〜」
 レミリアが赤ん坊をあやす様な感じで話しかけてくる。でも私は反応できない。反応したくなかった。
「最初からこうすれば手っ取り早くはあったんだけど……それだとつまらない。だから私は部屋と通路を幾つも用意し、アクションゲームでもやっているかの様なステージを作っておいた。鉈は武器、飲料水は回復アイテムと言ったところかしら。一つ目の怪物が雑魚敵で、私がボス担当。そしてあなたは脱出を目指しつつ囚われの半人半霊を助け出すことが目的だった」
「……」
「だけどあなたは私に敗北した。すなわちゲームオーバー。これから私に咀嚼されるというバッドエンディングを迎えるの」
「嫌よ。私は妖夢ちゃんと……」
「自分の無力さを呪いなさい! さあ来なさい、奥の部屋へ案内してあげるわ!」

   ※ ※ ※

 レミリアに腕を掴まれ、引きずられる形で奥の部屋と呼んだところへ移動させられる。
 魔方陣の向こう側の肉壁が女性器の様な形に変化した。そのすぐ上にある、陰核らしく物体をレミリアが飛び道具で刺激する。
 すると膣の様な部分が開き、正体不明の液体が吹き出てきた。そこから奥へ入り込み、肉の通路を突き進む。
 暫くすると膜が見えてきたのだが、レミリアは鋭い爪で引っかいて膜を破ってさらに奥へ。
 子宮の様な部分にでも繋がっているのだろうか、と想像しながら辿りついた場所はその様で、分厚そうな肉に覆われた部屋に出たのだった。
「ようこそ、私の部屋へ。ああ、今から咲夜にすることを妄想するだけで絶頂してしまいそうだわ!」
 その部屋を見渡してみると、それはもう気持ちの悪い部屋であった。
 天井からは無数の触手が伸びており、私を犯したいと言わんばかりに卑猥な先端を見せてくる。
 壁には回転している機械鋸が幾つも設置されていた。バチバチと火花を散らす程、電気を帯びている壁面もある。
 床には三角木馬や分娩台、通常の寝具としては使えなさそうな特殊な形のベッドが複数台置かれている。
 そのうちの一部には卑猥な形の触手が伸びてきているベッドもあった。死んでもあんな所になど近づきたくない。
 レミリアが部屋の隅に行ったかと思うと、肉壁に手を突っ込んだ。すると壁が大きく開き、性的な意味で使うのであろう道具が山ほど出てきたのだ。
 今のうちに逃げようと閃いた瞬間、入り口が閉まる。
 辛うじて残っていた最後のナイフを掴み、入り口へ投げ飛ばしたが効果はなかった。ナイフは肉壁を貫通したのだが、それっきり。
 頼みの武器を失った瞬間である。最早打つ手無し。
「ほらほら咲夜ちゃん〜、こっち来て私と楽しいことしましょうね〜!」
「嫌っ! 助けて、妖夢ちゃん助けて!」
「まだあの女の名を呼ぶのね……あんな中途半端な女のどこが良いって言うのよ! 誇り高き吸血鬼である私の、何がいけないのよ!」
「妖夢ちゃん、妖夢ちゃんとちゅっちゅしたい……」
「もう二度と私のことをお嬢様と、慕ってはくれないの?」
「死んでもお断りしますわ。私と妖夢ちゃんの仲を引き裂いた罪は許せない」
「……そうね、それでこそあなただわ。死に瀕したとしても自分の信念を曲げようとしない所が私は大好きなのよ」
 レミリアは手に取った器具を捨てた。すると天井の触手や壁の回転鋸が消え、奇妙な形のベッドも消えた。
「予想はしていたけど、ここまで意地を張るとは思わなかった。これから調教してやろうと脅せば、悔い改めると思っていた。でも効果は無かった。おそらく絞首台に吊るしたとしても、あの女を愛していると言うのでしょうね」
「妖夢ちゃんのおしっこで喉を潤わせたいですわ」
「気持ち悪い……本当にどうしようもなくなったわね。まあいいわ、もう余興やショーをする気はない。今ここで今すぐ、あなたを殺して喰ってあげる」
「私を殺した後は、どうするの? ここに引きこもるの? それとも、今まで通り幻想郷で?」
「そりゃあ幻想郷に戻るわよ。パチェやフラン、美鈴のいる幻想郷が好きなんだもの。……そこに咲夜もずっと加わっていて欲しかったけどね」
「そう、ですか」
 部屋に響き渡る心臓の鼓動音がどんどん小さくなっていく。もうすぐこの世界は消滅してしまうのかもしれない。
「最後に言い残すことでもあれば、言わせてあげるわよ」
「妖夢ちゃんウフフ」
「……そんなのが遺言だなんて、本当にどうしようもないわね。まあいいわ、今すぐお前を殺して取り込んでやる」
 鋭い爪に魔力をこめ、ゆっくりと近づいてくる。とうとう殺されてしまうのだろう。
 嬲られずに殺されるのなら、ある意味良いかもしれない。出来ることなら、私のこの体は妖夢ちゃんに捧げたいのだから。
「さあいらっしゃい、私の中へ」
 レミリアがそう言うと、私を地面に押し付けた。もう反抗する元気もない私はされるがまま。
 胸元に爪を引っ掛けたかと思うと、そのまま爪を下へ弾く。ベストを引き裂かれ、ブラウスのボタンが飛んだ。
「っ……!」
「恥ずかしい? 別にそんなこともないでしょう。女同士なのだから」
 成長しきっていない胸に無理やり着けていたブラジャーを取り去られ、乳房の頂を抓られる。
 まるでセックスをさせられている様な行為。刺激を受けて私は悲鳴を上げた。
「あら、こういうコトは初めてだったかしら? それとも……あの女とこういうことをしたかった? あっはっはっは!」
「くぅっ!」
 乳首を手の平で転がされながら、唇を奪われる。すかさず舌を挿れられそうに。
 唇に力を入れて侵入を拒むのだが、乳首を弄ばれてしまって上手く力が入らなかった。
 容易く口を犯され、妖夢ちゃん以外の唾液が私の口内を覆っていく。
「んー! んー!」
「うふふ、美味しい。私は何度こういうことを望んで生きてきたか……お前にはわからないかしら?」
「し、知りたくもないわ!」
「……そう」
 爪が変化し、尖った針状になった。するとそれを乳首へ差し込んできた。両手で左右の乳首を同時に突き刺されている。
 未知の痛みだった。声をあげることすら出来ず、軽い呼吸困難になる。
 乳首にじんわりとした痛みが広がったと思うと胸の中、体の中にまで痛みが走った。
「わかるかしら? 今私の爪を介してあなたの肉体に魔力を注入し、体の内部を破壊していってるの」
「はあっ……! くう……ふぅっ!」
「その様子じゃあ、随分と苦しそうね。返事も出来ないみたいだし。まあ気絶出来ないよう、精力もたっぷり混じった魔力を流し込んであげているから」
 真っ直ぐに伸ばした指先を曲げられた。胸の奥にまで届いている爪が内部を弄くり回している。
 私の肉体を粘土の様に扱われているような感じ。もがいて逃れようと思っても、体は動かなかった。
 乳首の先からは血が出っぱなし。激痛の余り何度も気を失っている。
 だが気絶には至らない。気絶を許してもらえない。きっと魔力のせいで気絶できないのだ。
 意識が途切れ途切れになっている最中に、乳首から垂れている血を舐め取られていく。
「まだ眠るには早いわよ。意識を落とすことは許さない」
 まるで絶頂しているかの様な気分。意識が途切れ途切れになりながら、何も考えられなくなる状態だ。
 乳首に爪が刺さったまま、レミリアの指だけが離れて行く。爪を切り離したのだろう。
 胸の痛みはそのままで、今度は下半身に手を伸ばされた。
「待ちかねたかしら? 今からあなたの心臓の次に大切な……子宮を破壊してあげる」
「や……止めて!」
「おやおや、恐怖の余り声を出せないのかと思ってたわ」
「も、もう……一思いに殺して!」
「何を言っているの? こうやって体の内部を少しずつ潰していくのが一番楽しいんじゃないの。心臓を握り潰すぐらい朝飯前だけど……あなたはまだ生きてるんですもの。もうちょっと楽しみながら、焦らしながら殺さないと損だわ」
 レミリアの指先から新たに生えた爪が伸びていく。その長さといったら、私の腕ぐらい……およそ数十センチメートルはありそうな爪になった。
「な、何をするつもりなのよ!」
「あなたの胸を破壊したように、あなたの下腹部も破壊するのよ」
 スカートをめくられ、下着のドロワーズを破かれた。咄嗟に股を閉じようとするが、やはり体は動かない。
「無駄よ、私の魔力が体に回っているから身動きは取れないわ」
「ううっ……!」
「そういえば、あなたはまだ男と寝たことが無かったかしら?」
「わ、私は同姓としか寝たくありません!」
「……あの女と、と言いたいんでしょうね」
「……」
「ふん、そんなことを考える余裕を奪ってやる!」
 人差し指と中指の爪を膣内へねじ込まれる。二本の異様に長くなった悪魔の爪が私の下腹部を陵辱していく。
「うぐっ……あああぁぁぁぁぁぁぁっ! 嫌、嫌ぁあああ!」
「あっはっはっはっは! そうよ、そう! その泣き声よ! その声をもっと聞かせて頂戴!」
 未開通の性器を破壊されていく。
 決して乱暴に爪を入れられているわけではないが、猛烈な痛みが腰からお腹にかけて響いている。
 きっとレミリアの爪に膣壁を切り裂かれているんだ。切り裂かれながら、その奥を狙われているんだ。
「うふふ、美味しい」
 レミリアが私の膣から垂れているであろう血液を舐めている。辱めを受けていると思い知らされ、改めて悔しさがこみ上げてきた。
 人差し指を中指を左右に広げられる。無理やり膣を広げられ、流れ出る血はますます増えていく。そしてその血を呑んでいくレミリア。
「あはは、うふふふ! 処女の血は最高ね! ましてや私が愛している人間のものとなると、それは格別!」
 だらしなく口を開け、鼻を伸ばして私の血液を啜っている。何と吸血鬼らしい姿だろう。
 その間にも胸と下腹部の痛みで何度も意識を失いかける。そしてその度、魔力で目を覚めさせられる。
 生き地獄とはまさにこのこと。これなら先ほどの天井から生えてきていた触手達に襲われていた方が遥かにましかもしれなかった。
 少しずつ性器の奥へ奥へ爪が伸びていき、突然レミリアの指が止まる。
「あら、奥へ着いたみたいよ」
「……」
「どうやらあなたの体力も限界みたいね。魔力で無理やりあなたの意識を繋いでいるけど、もうすぐキャパシティを超えてしまうかもね」
「こ、超えたら……わ、私は……」
「死ぬだけよ」
 レミリアは短く、ただそうとだけ答えた。本当にもう死んでしまうんだ、と思うと涙が出てきた。
 体中の力が入らなくなり、気がつくと私は失禁してしまっている。
「あはは! 咲夜ったらいけない子! おしっこ漏らしてるじゃない!」
「あ……うう……」
「勿体ないわね、飲んであげる♪」
 そう言ってレミリアが私の黄色い尿を直で飲み始めた。
 ちょろちょろと少しずつ出て行く私のおしっこを飲んでいく。血と尿が混じった液体を飲んでいく。
 喉を動かし、美味しそうに。
「いつもこうやって、あの半人半霊の尿を飲んでいるんでしょう?」
「……」
「んー、もうちょっと強めに魔力を注いでみようかしら。フィナーレまでもうちょっとあるんだからね」
 止まっていたレミリアの指が動き始める。力をこめられ、奥深くまで一気に押し込められた。
 指ごと、腕ごと私の性器にねじ込まれる。もう自分の体がどうなっているのかわからなくなった。
 下腹部の痛みが腹まで上がってくる。そして胸の痛みとも合わさり、とうとう体全体に痛みを広げられた。
「う……あ……ああぁ……」
「さすがに大声を上げる元気は回復しそうになさそうね。……残念」
 またもや爪を切り離したのか、レミリアの指が私の体から離れていく。
 最早生きているのか死んでいるのかわからない状態。
 未だに意識は落ちず、自分の体が壊されていく様子を見せ付けられている。
「お待ちかねのラストシーンよ。お疲れ様、よくここまでがんばったわね」
 私の後頭部と肩を持ち上げられた。上体を起こされた姿勢になる。
 レミリアは笑いが止まらないのか、今にも口が裂けそうな程口が釣りあがっていた。
「それじゃあ、いただきまぁす♪ あなたの肉体と、魂を……」
 鋭く伸びた犬歯を見せ付けられ、レミリアの口が私の首筋に近づく。そして私は吸血鬼らしいやり方で血を吸われた。
 もう声を上げることは出来ないのだろう。今から死ぬからだ。
 四肢の感覚が消えていく。意識も遠のいていく。いや、体に残った魔力がまだ意識を保たせている。
 レミリアが私の両脚を引きちぎって食べていた。ふくらはぎの肉を食べられている。
 骨付きの鶏肉でも食べているように、私の肉体を体に取り込んでいる。骨さえも咀嚼されていく。
 両腕ももぎ取られた。いや、正確に言えばもぎ取られた気がする、だ。
 未だに意識が残っているだけでも信じられないことなのに、今の自分がどうなっているか何てわかるはずがない。
 ぼやけた視界にレミリアの笑顔が映った。口の周りを血で汚したレミリアが私の目玉を引き抜こうとしている。
 目玉も食べられるのだろう。そして私はとうとう視界を失った。
 音も聞こえなくなり、味などわからず、私の一切の感覚神経は機能を停止した。
 嫌だ。死にたくない。かといって足掻く手足はない。このまま意識が亡くなるのを待つしかない。
 せめて、せめて最後に彼女の名前を。親愛なる彼女の名前を呼ばせて欲しい。
 だから最後に顎を動かせて欲しい。最後に一呼吸させて欲しい。どうか、私の声が彼女に届く様に。
「……」
「ん?」
「……」
「へぇ、まだ息があったのね」
「……」
「あはは、必死に口動かしてる! がんばって!」
「……」
「ほらほら、もうちょっと!」
「よ」
「……」
「よ……」
「まだあの女の名を言うか!」
「よ……む」
「死ねっ!」
「妖夢っ!」


   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 私の名前はレミリア・スカーレット。紅魔館の主にして、誇り高き吸血鬼の末裔。
 ついこの前、最愛にして紅魔館のメイド長である十六夜咲夜を失った。いや、食べた。
 彼女の魂は私と一つになり、私と共に生きて行くのだ。
 私の作り出した、仮想の迷宮世界で彼女の肉体と精神を取り込んだ後吸収してやった。
 あれから私は幻想郷に戻り、いつもと変わらぬ生活を続けている。
 家事をしてくれる者が居なくなったのは面倒であったが、パチェが作ってくれたゴレームがそれを解決してくれた。
 メイド妖精は今まで通り居たい者だけ居れば良い、と勝手にしておいたがやはり妖精。余り役には立たない。
 妖精が働いてくれない仕事をゴーレムにさせることで紅魔館の平和は保たれた。

 今日は例の亡霊がいる白玉楼へ遊びに行ってやろう。
 事後報告をしておいた方が良いだろうし、今まで咲夜を野放しにしていたことに関して謝罪しなければならない。
 従者の悪事は主人の責任。咲夜が妖夢をストーカーした挙句、籍を入れさせた罪について謝っておかなければ。
 別に無視することだって出来ないことはないが、被害者である妖夢はこの幻想郷においてパワーバランスの一部を担っている西行寺幽々子の従者だ。
 側近同士の揉め事は後々主人同士の揉め事に発展する可能性だってある。
 仮に白玉楼、冥界の住民達との争いになったところで逃げたり白旗を上げたりする気は毛頭無いが、面倒なのは目で見るより明らか。
 それに幽々子は簡単に出し抜ける様な相手ではない。喧嘩を売られれば買うが、無理に暴力を振るべきではない。

 午後。夜行性の私は無理をして紅魔館を後にする。冥界の住民が夜行性でないから昼間会いに行ってやるのだ。
 いつもならそう言って相手に気を遣わせようとするのだが、今日はそういう余計なことは言わないつもり。
 門を任せている美鈴に声をかけ、一人で白玉楼を目指した。
 顕界と冥界との結界を越え、白玉楼へ。
 すぐさま刀を二本差した妖夢が出てきたので、幽々子のところへ案内させた。

 綺麗な畳が敷き詰められた広間に案内される。
「レミリアの方からわざわざ出向いてくれるなんてね。こちらからお酒でも呑みに行こうと思ってたのに」
 幽々子はすぐに出てきた。こちらの従者が迷惑をかけたというのに、丁重な挨拶で出迎えてくれた。
 幽々子の隣に座っている妖夢がお茶を出してくれるが、頂ける気分ではなかった。
「お酒なら持ってきてあげたわよ。ウイスキーだけどね。……咲夜のことならもう心配ないわ」
「ああ、そのことね。妖夢が帰ってきてからこっちには来ていないから、どうしたものかと」
「……殺してやったわ」
「あなたが?」
「部下の不始末は上司の責任。だから私が処分しておいた」
「そう……。ありがとう、と言うべきかしら」
「いいや、どちからと言えば私が謝るべきよ」
 土下座をしようと姿勢を正すと、幽々子は手を伸ばして私を制した。
「そこまでしなくてもいいわ。確かに妖夢が心底嫌がってたけど、私は見ていて楽しかったし」
「……」
 自尊心の強い私が土下座をするという行為の重さを理解してくれているのだろう。
「でも、あのメイド……大切だったんでしょう?」
「もういいのよ。こうするしかないほど、咲夜の心は妖夢に奪われていた。もう二度と私には振り向いてくれそうに無かったから……」
「レミリア……」
 本当にこうする以外選択肢は無かったと思う。何百年と生きてきた私だからわかった。
 咲夜の頭がどうしようもない程、バカになってしまっていたことぐらい察しがついていた。
 おまけに最後の最後で、私のことをお嬢様と慕うのを辞められたものだ。
 たくさん可愛がってきたのに、あれだけ目にかけてやったのに、とっても愛していたのに。
「レミリア?」
「……ごめんなさい」
「随分思いつめている様だけど、大丈夫なの?」
「……」
 幽々子に私の気持ちを言い当てられて何も言えなかった。
「レミリア、この話はまた今度ゆっくりしましょう。あなたに気を遣っているつもりではないけど、今のあなたは言葉遊びをする余裕さえ感じられない」
「……そうさせて頂くわ」
 幽々子の親切が素直に嬉しかった。
 咲夜を食べたからといって、彼女と一つになったからといってもうお嬢様と呼ぶ彼女はいない。
 自分でこの世から消し去ったとはいえ、非常に惜しいことをしたと悔いが残る。
 あそこまで心を許した人間など居なかったし、咲夜ほど愛しく思える者は居なかったから。
 その咲夜亡き今、私の心にはポッカリと穴が開いている感じである。
 これ以上長居したところで幽々子の言うとおり、話し相手にもなれないだろう。
「それじゃあ幽々子、私はそろそろ……」
 紅魔館へ帰ろうと思ったとき、体の様子がおかしいことに気付く。息がし辛い。
 眩暈がする。胸が苦しい。頭が痛い。手足が千切れそうだ。
 何なんなのだろう、この気分は? 座っていることさえ出来ずに私は畳に倒れた。
「レ、レミリア? 一体どうしたの! 妖夢、水でも持ってきて!」
「は、はい!」
「うぐっ……がっ! な、何なの……頭が割れそうに痛い。うぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 私の中にいる何かが暴れまわっているような感触。私の中にいる何か? 何なのよそれは!
『妖夢ちゃん!』
「なっ! さ、咲夜! 咲夜の声がする!」
『妖夢ちゃんが目の前にいるじゃないの! 妖夢ちゃんこっち向いて! 妖夢ちゃんとちゅっちゅしたい!』
「そ、そんなバカなことが……咲夜の声が聞こえてくる!」
「え? 咲夜? え? 幽々子様、一体どういう……」
 気が遠退いていく。意識が消えそうになる。自己認識が薄れていく。
 飲み込み、消化してやったと思った咲夜の魂が私の中で暴れている。
 私の肉体と精神を乗っ取ろうとしている。私が咲夜を食べた様に、咲夜が私を食べようとしている。
 私の意思を書き換えようとしている。私の五感を奪おうとしている。私の思考を洗脳しようとしている。
 一段と強烈な頭痛に襲われたところで私の意識が途切れた。


   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 私は死んでなど居なかった。妖夢ちゃんともう一度会いたいという強い願望が私を生かしているに違いない。
 この世に強い未練を残した者が亡霊となって、幻想郷に居るのと同じ原理なのだろう。
 私の魂がお嬢様の中で残っているのだ。ならば私はどうする? もう一度妖夢ちゃんの温もりを味わいたい。
 もう一度彼女の声を聞き、自慰行為に耽りたい。彼女の下着を被りたい。彼女のカチューシャをしゃぶりたい。
 今私が、いや、レミリアがいる場所はどこだろう? レミリアの視界を覗いてやればわかることだ。
 おや? ちょうど近くに妖夢ちゃんが映っているではないか!
 隣に幽々子がいる。おそらくここは白玉楼だ。
 レミリアは私が妖夢ちゃんに注いできた愛を非難し、おまけにそのことについて謝罪しようとしている。
 何て無意味な行動なのだろう。私を犯罪者の様に仕立てていることが理解できない。
 一体私が何をしたというのだろう? 非常に嫌な気持ちだ。私は何も悪いことをしていないのに。
 自分で自分を動かせる体が欲しい。すぐ近くにいる妖夢ちゃんを襲いたい。
 今すぐレミリアを自由に動かすことが出来ればいいのに。
 レミリアの体を乗っ取り、股間に陰茎を生やし、時間を止めて性交したい。
 妖夢ちゃんの唇に舌をねじこませながら、妖夢ちゃんの乳首をつまみたい。
 妖夢ちゃんの胸のリボンをしゃぶりながら、妖夢ちゃんの股間の割れ目に指を挿れたい。
 十分に湿った妖夢ちゃんの幼い縦筋に舌を這わせ、下り物を舐め取りたい。
 妖夢ちゃんの未開通な処女膣に私の怒張した男根をねじこみ、何度も腰を打ちつけた後膣内射精をしてみたい。
 鎮まることを知らない陰茎でまたピストン運動を繰り返し、二度目の膣内射精を体験したい。
 もういっそ紅魔館へ持ち帰りたい。私の部屋に監禁して私無しでは生きられない体に調教したい。
 彼女の時間を私のものにしたい。彼女の全てが欲しい。彼女の肉体、精神ごと。魂も欲しい。
 
 ああ、そうか。そういうことなのか。レミリアが私を食べたがっていた理由が今始めて理解できた。
 レミリアは私のことを愛していたのだ。
 私を何とかして手に入れようとして、迷宮なんていう仕掛けを作ってまでして閉じ込めたかったんだ。
 しかし、しかしだ。だからと言ってレミリアに同情して甘んじる私ではない。
 今度は私がレミリアを食う番だ。レミリアという人格を破壊し、私がそこへ住み着いてやる。
 そうすることでレミリアという外見をした十六夜咲夜が生まれるという寸法。
 なんて素晴らしい解決策なんだろう。どうしてすぐに思いつかなかったのだろう。
 人間を止めてしまうことになるが、人間の私はもう死んだ。
 妖夢ちゃんと一つになるには、今この瞬間にチャンスを掴むしかないだろう。

「レミリア! 私はあなたを殺してやる! 内からあなたの精神を食いつくし、破壊してやる!」
『辞めて、辞めなさい! 嫌……辞めて頂戴……』
 嬉しいことに、レミリアは打つ手無しの様であった。
 人間の魂を取り込んでおいて、それをコントロール出来ないとは。何と無様であろうか。
『おとなしく私の中で眠っていれば良いものを!』
「妖夢ちゃん! 妖夢ちゃん! 妖夢ちゃん! 妖夢ちゃん! 妖夢ちゃん!」
 レミリア・スカーレットとあろう者がこんなにも弱いと思わなかった。
 いや、何かで聞いたことがある。妖怪の類は精神に関係する攻撃に弱いという話。
『辞めなさい……あなたは一体何が望みなの……』
「妖夢ちゃんともう一度セックスがしたいのですわ」
『ま、待ちなさい! 私の人格を破壊すればこの体はもぬけの殻、廃人状態となって肉体が崩壊するのよ!』
「嘘ですね。私に諦めさせようとしたとこどろで、無駄ですわ。さぁ、私にその体を寄越しなさい!」
 レミリアの意識を食い破っていく。レミリアの記憶、思想、思考を破壊して私のものを植えつけていく。
 レミリアという精神が崩れていき、その開いたイスに私が座るという寸法。
『嘘……嘘よ! 私がこんな人間に、こんな形で殺されるなんて!』
「でも、それが現実ですわ。レミリア、あなたの好きな運命というものだと思って、受け入れなさい!」
『あ、あぁ……意識が遠退いていく。美鈴、パチェ、フラン……』
「ご安心くださいませ、私が新たな紅魔館の当主となりますから。安心して消滅してください」
『まさか、まさか咲夜に……私の大好きな咲夜に消されてしまうなんて』
「肉体の方はありがたく頂戴しておきますよ。それではさようなら、レミリア」

  ※ ※ ※

 目が覚める。和室の部屋で寝かされていたようだ。
 自分の体を確かめてみた。吸血鬼の体。羽があり、牙があり、妖夢ちゃんと同じぐらいの体格をしている。
 やはりあのときレミリアの体を乗っ取ることに成功したのだ。
 だが残念なことに時を操る能力は失われてしまっていた。
 その代わり悪魔としての力が使えるのだから良しとしよう。
「失礼するわよ」
 妖夢ちゃんの声が襖の向こう側から聞こえてきた。私は「どうぞ」と言ってみた。
 自分の声がレミリアの物に変わっている。レミリアの体だから仕方ないか。
 だがこれで私がレミリアではなく、咲夜だとわかるまい。案の定妖夢ちゃんはそうと知らずに寄ってきた。
 以前は私から逃げようとしていたのに、今はそんなことしない。やはり気付いていない。
 絶好のチャンスだった。
「あら、もう起きてたの、レミリア?」
「ええ、私どうしてたのかしら……」
「突然苦しみだして、気を失ったのよ。それでとりあえず客間に寝かせておいたんだけど……」
「そうだったのね、ありがとう妖夢」
「どういたしまして。まあそうする様に言ったのは幽々子様だけど」
 妖夢ちゃんウフフ。一歩踏み出せば手が届く距離に彼女がいる、と思っただけで欲情してしまった。
「どうするの? さっき帰るって言ってたけど」
「妖夢ちゃんをお持ち帰りしたいですわウフフ」
「……! なっ!」
「あらあら、ウフフ。いけない、いけない」
「気持ち悪い……レミリアはいつから咲夜みたいなことを言うようになったのよ!」
 妖夢ちゃんが刀に手を伸ばした。だが抜刀されるより先に飛び掛り、彼女の唇を奪うことに成功する。
「んー! むーむー!」
「妖夢ちゃんちゅっちゅ! あぁん、妖夢ちゃんと会いたかったわ! 私のことは咲夜って呼んでね!」
「い、一体何なのよ! あなたレミリアじゃないの?」
「肉体はレミリアよ。でも精神は咲夜なの。これからまた毎日私と一緒にイイコトしようねウフフ」
「放して、放して! 幽々子様助けてください!」
 妖夢ちゃんが暴れまわるが、簡単に取り押さえることができた。それも吸血鬼の持つ力のお陰。
 ブラウス越しに妖夢ちゃんの胸を擦る。もうそれだけで絶頂を迎えそうな程、私は興奮していた。
 すると突然、部屋の襖が大きく開く。顔を上げると、幽々子が凄んだ表情で立っていた。
 身の危険を感じ、残念に思いながらも妖夢ちゃんから放れようとした瞬間、幽々子が私に向けた扇子から眩い光線を飛ばしてきた。
 咄嗟に腕で防御体制を取るがその威力はすさまじく、私の体を吹き飛ばした。
 砂利の地面に落ちる。どうやら壁を貫通して庭にまで吹き飛ばされてしまったらしい。
 さすがは白玉楼の主だ。この頑丈な吸血鬼の体に重症を負わさせるとは。
「妖夢、もう安心しなさい。そこの吸血鬼、今死ぬから」
「幽々子様、それはどういう……」
「見ていればわかる」
 体の様子がおかしい。体の端から肉体が少しずつ消えていく。
 いくら幽々子の攻撃が強かったといっても、そう簡単に殺される体ではないはずだ。何がおかしい。
「レミリア……いいや、咲夜。あなたは何を不思議がっているの?」
「え……?」
「あなたの体は吸血鬼なのよ。日光の下で何ができる?」
 言われて上を見上げた。太陽が出ている。暖かい太陽が出ている。
 人間の私にとっては気持ちの良い太陽。だがこの体にとって、太陽は毒だった。
 私は忘れていたのだ。吸血鬼になったと喜んでいたために、吸血鬼としてのデメリットを忘れていた。
「そんな、こんな終わり方なんて……!」
 今ならまだ間に合うはずだ。急いで屋根の下に隠れればまだ助かるかもしれない。
 そう思っているうちに妖夢ちゃんが上から降ってきた。刃先を倒れている私の体に向けて。
「死ねっ!」
 短くそう言われた。胸に突き立てられた妖夢ちゃんの刀。
 地面にまで深く突き刺さった刀は私を拘束した。逃げようにも逃げられず、太陽光を浴び続けることになる。
 もう身動きなど取れる状態ではなかった。足が消え、手も消えた。もうじき体全体が塵になって死ぬのだろう。
 嫌だ。死にたくない。かといって足掻く手足はない。このまま肉体が滅びるのを待つしかない。
 せめて、せめて最後に彼女の名前を。親愛なる彼女の名前を呼ばせて欲しい。
 だから最後に顎を動かせて欲しい。最後に一呼吸させて欲しい。どうか、私の声が彼女に届く様に。
「……」
「死ね!」
「よ……」
「死んでよ!」
「よ……む、ちゃん」
「気持ち悪い咲夜は死ね!」
「妖夢」
「いい加減に死ね!」
「ちゃ」
咲夜ちゃんの魂は不滅です。決して滅ぶことはありません。
魂だけの姿になっても映姫様の弾幕を避けきり、彼岸から抜け出して白玉楼へ向かいます。
咲夜ちゃんの、妖夢ちゃんへの愛は永遠なのです。

あ、でも白楼剣で斬られたら終わりかもね!

タイトルは某ゲームをもじったわけですが、元ネタの雰囲気はほんのちょっとしか再現できませんでした。
だおもん
http://plaza.rakuten.co.jp/negitoro406/
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/04/23 15:54:21
更新日時:
2010/04/24 00:54:21

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分類
妖夢ちゃん一筋☆咲夜ちゃん
おしっこ
レズ
74.0kb
1. 複乳団 ■2010/04/25 14:53:26
妖夢ちゃん可愛いねウフフ
2. 名無し ■2010/04/25 20:31:41
うん、愛は不滅だね。愛は偉大だね
3. 名無し ■2010/04/26 01:03:24
ソウルクレイドルの裏ルートを思い出した
4. 名無し ■2010/04/26 04:20:13
愛は全ての障害を打ち倒す、か…
5. 紅のカリスマ ■2010/04/26 08:54:51
この咲夜……凄まじ過ぎる。
6. 名無し ■2010/04/27 01:56:04
元ネタのエンディングは『作者は病気』と言うに相応しい……
よくあんなえげつないエンディング思い浮かんだよなぁ
7. 名無し ■2010/04/28 15:05:05
妖夢に取り憑くかと思った
8. 名無し ■2010/05/02 14:40:44
ハッピーエンド?
9. 名無し ■2012/11/10 19:09:07
この咲夜のエネルギーはとんでもない
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