わ傘（若さ）の秘訣お茶漬け

私は縁側に腰掛け、庭に設置した
鍋の様子を窺っていた。
鍋から漂ってくる良い香りは
私の食欲を誘った。



「風流ですねぇ〜」
私、寅丸星は庭に置いた
小傘入り鍋を見て溜め息をついた。


小傘は今熱湯の中で喘ぎ苦しんでいる。
大きな鍋の中で煮られている。
小傘が動く度に体が溶け、
悲鳴を上げている。

この悲鳴がたまらない。
私が生きていることを実感させる。





『ふぎゃあぁあ！あづい！あづいよぉぉ！！』
命蓮寺全体に響くようなその声・・
しかし、助けてくれる相手も居なく
孤独な身・・・。





「良い趣味してるね」
気づかぬうちにナズーリンが後ろに居た。

抜け目ないヤツめ・・・。
まぁ、そこが気に入ったのだが。

『おや？ナズーリン。
あなたも同じ趣味をお持ちで？』
「そんなワケないだろう・・・」
ナズーリンは呆れ顔だが
私がどんな趣味を持とうが
ついて来てくれる・・
そんな彼女が好きだ。

『やれやれ・・。まぁ
ほどほどにしときなよ・・・？』
ナズーリンはそう言いながら去って行った。

「ふふっ
　あなたにも、この良さがわかるといいですね♪」
すでにナズーリンはいなかったが
まぁ、いいだろう。






『い゛や゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛』
小傘の肌は溶けかけ、筋肉の繊維が丸見えだ。
「おいしくなってくださいね♪」
どうせ聞こえてないだろう。






――しばらくして一輪が通りかかった。
私に一礼をすると
おもむろに煮えている鍋の方に
目線を落とした。

一輪は鍋の方を向くと
嫌悪の表情を示した。
『あなたの能力は尊敬しますが、
ご趣味の方は理解しかねます・・』
そう言うと気分を悪くしたのか
早足で立ち去った。
彼女は理解できなかったようだ・・。






『アｧ゛・・ウゥ・・・』
筋肉も溶け見るも無残な姿になった小傘は
微かに声を上げる肉塊へと変わっていった。






――次に村紗が通りかかった。
村紗は鍋を見ると
眼を輝かせ擦り寄ってきた。
『さすが、星さんです！
こんな拷問を思いつくなんて！』
「それは違いますよ！！」
村紗はビクッとして、動きを止めた。
「これは愛情です！食材ひとつひとつに
愛情を込めなければおいしいご飯はできません！」

「・・・アハハ、そうですね・・」
凄んだらサッサと行ってしまった。
彼女は私の能力と地位に魅かれているだけなのだ。
聖に一番近い位置、それが私。





『・・・・・・・・！』





―――そろそろいい感じに煮えてきた。
鍋からおたまでご飯の上にかけて
鮭をあえてお茶とブレンド、
聖の茶碗と私の茶碗に移し替えてっと・・
できた！


私は扉越しに聖に話しかけた。
「聖？ちょっとよろしいでしょうか？」
『星ですか？どうぞ』

許しを受けた私は扉を開き聖の部屋に入った。
お盆の上にある器を見て聖は笑顔になった。
『星のご飯はおいしいので大好きです！
　一体どんな味付けをしているのですか？』

「えへへ、それは秘密です♪」

終始、和やかな会話で溢れるこの空間、時間は
私にとって大切な宝物だ・・
だれにも邪魔させるわけにはいかない。


私はこれからもご飯を作り続ける。
聖の為に・・。　私の為に・・・。