眠るわ

「さとりさま」

振り返る前からお空が泣いているのは分かっていた。

「死んじゃった」

お空はやっぱり泣いていて、小さなペットを抱きかかえていた。
ペットはぐったりとして動かない。死んでいるのはすぐに分かった。

「そうね、知っていたわ。・・・どうして、ですって？だってずっとずっと聞こえていたもの、その子の声が」
「え、」
「一昨日位からかしら、くるしいくるしいって、ずっとよ」
「じゃ、じゃあ」
「どうして助けなかったの？でしょう」

お空はいい子だから、助けてあげたかったのね。
いいえ、いい子ではないけれど私もそう思ったわ。
だってかわいいかわいい私のペットですもの。
　
「そうです、なんで」
「死期を知ったその子が私に頼んだから」
「え？」
「誰にも見られたくなかったのよ、自分が死ぬところを」
「あ、でも、」
「そうね、その子はもう思うように動けなかった」
「うぅ」
「その子はどこに居たのかしら」
「えっと、お庭の、隅っこの、」
「そう、そこに居たのね」

その場所は私の部屋のすぐ近く。
ずっと聞こえていたけれど、知らなかった。
あなたのかなしみを知らなかった。

「さとりさま、あの、私が」
「いいえ、ふたりで埋めましょう」
「ふたり？」
「そう、わたしとあなたで」

お空から亡骸を受け取って、抱きしめて、庭へ向かう。燃やしてしまう気にはなれなかった。
死ぬまでこの子が隠れていた暗くて寂しい場所ではなくて、小さな花が咲く隣に。
花の名前は知らないけれど、白い小さな花はこの子に似合いそうだから。

「あ、えっと私一旦戻って」
「スコップはいらないわ」
「へ？」
「土が柔らかいから、手で掘りましょう」
「・・・はい」

私とお空で土を掘り返す。
さくさくと土の音だけが庭に聞こえる。
土で手が汚れていくけれど、気にはしなかった。　
体の大きい子ではなかったから、穴を掘るのはすぐ終わった。

「さよなら」
「さようなら」

穴の底のペットにそっと土をかけながら思う。

「最後の数日、あなたは私にたくさんの言葉を残したわ。くるしい、だとかさみしい、だとか他のペットたちの事。
　あなたは、お空のことがあるまでペットをないがしろにしてしまっていた私にまで感謝してくれたけれど、私は飼い主失格なのよ。
　もっとあなたのことを気にかけてあげるべきだった。もっとあなたのことを知るべきだった。もっと、っ」

続きが言いたかったのに、言葉は喉に引っかかったまま出てこなかった。
言葉は出てこないのに、目からは水が溢れることを知った。
私はいつも後手後手でしか行動できずに、後悔ばかりしている。

「さとり様」
「っ、おくう」
「そんなことない、私たちはさとり様が大好きです」
「そうなのかしら」
「そうです、さとり様ならわかります、私は本当にさとり様のペットでよかったって思うから」

お空はもともと嘘を吐かない子だけれど、心で思っていることも言葉で言ってくれたことも嬉しかった。
ペットに慰められる飼い主なんておかしいかしら、と思ったけれどそれでもよかった。
ああ、ペットたちはこんなにも私のことを思ってくれているのに。
私は臆病だから、心を読まないと分からない。安心できない。信じられない。
私が寂しがりだということを知っていて、いなくなってしまうの。

ねえ、そうでしょうこいし。