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『はらぺこ霊夢の紅魔郷 後編 改』 作者: ツナクマ
流石の霊夢もロウソクは無理だった。
1.愛の憎しみほど、激しきものなし
入り口のドアを両手で豪快に開けてから今に至るまでの道程は、霊夢の胃袋を腹が減ったと抗議の悲鳴をグーグーと上げさせ、霊夢の不快指数をモリモリと高めさせるのに十分に貢献した。
待ってましたとばかりにメイド服姿の妖精たちkからの四方八方からの攻撃には、流石の霊夢にも羽をもぎ取る暇もなく正面突破のデメリットを霊夢は食欲に身を任せた為に直撃する事となった、見物人がいたら完璧な模範的行動だったであろう。
殴り、蹴り、頭突き、投げ技と霊夢は持てる限りの格闘術で蹴散らしひーこらひーこらばひんばひんと走り回ってやっとこさ撒いた頃には霊夢の顔はまたもげっそりとしてしまっていた。
しょうがないと霊夢は懐に入れていた乳首を取り出すと口にポイッと放り込み喰らいつく。クチュクチュ噛むと見事な弾力、あぁ美味しいと霊夢の疲れはジャージのズボン紐のように抜けていった。
ゴクリと胃に流し込み霊夢はようやく元気良く先へ進む事に意気揚々とやる気をだした。
途中壁に掛けてあったロウソクに手を出すまでは
ゲボゲボと廊下にゲロ吐き散らした霊夢はすっかりげっそり元通り、私ってほんとバカ。
しばらく霊夢はそのままふらふら歩く、不運続きよ、と愚痴り始めた頃ふと目の前に大きな扉、それは外の門とは違いとても質素な造りだったがそれでも美しいと思える扉。
しかし今の霊夢にはそんな事を気に掛ける余裕もなく、特に気にもせずにドアを開け、さも当然の如く入室していった。
そこにはどこまでも続く本棚の海が並んでいた、色とりどりのカバーに染まった本がピッタリと棚に詰めてあり、それは読書家ならばうっとりと見惚れてしまうであろう光景だった。
霊夢は思う
本って食べれたっけ?
パチュリー・ノーレッジは知識を愛している、その源は頭脳への栄養、いわば本を読む事だと信じていた。
それらを理解して、自らの魔力の糧になったと感じた瞬間をパチュリーは最高の幸せだと感じていた。
昨日も今日も明日もパチュリーは本棚の海の中心で本を読み続ける、それが永遠に続くはずだった。
腋を丸出しにした女が本を食べながら現れるまでは
紙の質が良いのかしらと霊夢はあれから色々な本を開いてはちぎっては食い、ちぎっては食いと口の中にグチャグチャと頬張っていく、紙質の違いに味の違いを見出しながらどんどんどんどんと。
途中開いた瞬間に牙を剥いて襲ってきた本や、話しかけてきた秘書のような格好をした悪魔には博麗式喧嘩アッパーを浴びせ沈めていった。
なんか召還されたのは走って逃げました、スタコラサッサだぜー。
いつしか大きく開けた場所に出ると、霊夢は目の前に大きなテーブルとその上にある本の山に興味を持った、なにかしらと口をモグモグさせながら近づいた瞬間
焼き尽くされる自分を幻視した。
パチュリーは自分でも驚くほどの殺意に身を包んでいた。
自らの幸せの源を汚された事にパチュリーの体はわなわなと目の前の人間を殺したいとしか思えなくなっていた。
潰して床の模様にしたい
焼き尽くして残った体を踏み潰したい
貫いて必死に抜こうと無様に抵抗する様を観賞したい
穴だらけにして勢い良く噴き出す血を眺めたい
バラバラに切り裂いてゆっくりと崩れていく様も見たい
そして
地獄へ落としたい!!!
思いのままに怒りのままに、パチュリーは自らの魔力を爆発させていく。
「どおわあ゛ああぁぁ!!!」
年頃の女の子の声とは思えない絶叫をあげながら霊夢は後方へと全力で走り出す、軽く攣ったがそんな暇はない!
瞬間、背中から強力な火炎、雷撃、氷柱、突風の魔力が叩き込まれるのを勘で理解した霊夢は一気に右足で床を蹴り横へ飛び込む。瞬間焼ける音、雷が落ちる音、砕ける音、切り裂く音、それらが混合した音が右耳を貫きもはや鼓膜を破裂させるかと思うほどの轟音となった。
霊夢は脳天を鐘のように揺らされる感覚に吐き気を催しながらも耳を押さえゴロゴロゴロゴロと硬い床を転がっていく、肌がビシビシと痛みを響かせながら本棚に背中を叩きつけようやく回転は止まった。ぜぇはぁと体を蝕む緊張と息苦しさを気合で抑えつけながら霊夢は顔を前へと向けていき見つめる。
そこには
数え切れないほどの炎、雷、氷、風の魔力を身に纏う
パジャマのような服を纏った、病弱そうな少女がいた
今のパチュリーには日頃の冷静さなんて微塵もなかった。
結果、パチュリーは頭上でどんどん膨らんでいく魔力になんの疑いも持たなかった、ただただその力で目の前の人間を殺す、それだけだった
それが命取りだった
2.成長とは、未熟な過去に打ち勝つ事
遠い遠い昔、パチュリーは無知だった。
自分の生い立ちも家族も内に秘めた強力な魔力の存在も、物心ついた時から一人だった幼い頃のパチュリーには全く理解出来なかった。
パチュリーは孤独に彷徨った、餌にしようとする魔物や、魔女狩りと称して襲い掛かってきた人間たちにとても魔法とはいえない、ただ前方へと魔力の塊を叩きつけて逃げる、そんな日々を繰り返していた。
そんな苦痛の日々の最中でパチュリーの唯一の安らぎは本を読む事だった。
手に入れた経緯は覚えていない、パチュリーはただただ必死に読み続けた、魔法、錬金術、科学、数式、生体と、とにかく自分の力になれるだろう本を読み漁った。
脳が悲鳴を上げ、高熱をだそうと嘔吐しようとパチュリーは知識を求め続けた。そんな日々を繰り返して気付いた頃にはパチュリーの体は癒えぬ病に蝕まれていた、どんな魔法でも治せなかった、自分の一部と化していた。
それでもパチュリーは至福だった。
自らの手で、本に載っていた通りの魔法が出来た瞬間パチュリーの心を絶頂に包む、パチュリーは本から得る知識に幸せを感じる、私は魔法使いになれたのだ、そうに違いないのだと喜び勇む、まるで歯車がガッチリと合い動き出したかのような開放感だった。
その時をもって、魔法使いとして生きると決めた。
それから何十年も生き続けていった頃、ある日目の前に吸血鬼が現れ、自分に立ち向かってきた。いつものように本で学んだ魔法で消し飛ばそうと思った瞬間、その吸血鬼はこう呟いた。
「あなたが私の力となるなら、私はあなたを幸せにしてあげるわ」と
パチュリーに躊躇する意味はなかった。
それから吸血鬼と連れ添ってから一人、また一人と力が増えていった頃、吸血鬼は紅魔館を造り上げ、長年の付き合いだとパチュリーの為に巨大な図書室を与え、数え切れないほどの本を集めた。
パチュリーは一度だけ吸血鬼にありがとうと感謝の言葉を送るとそれっきり、図書室に篭り続けた、それからの記憶はほとんど本を読んでいる事だけ、他には本を効率良く読めるようにと整頓係の使い魔を召喚した事ぐらい。
その頃のパチュリーにはかつてのような命の危機に瀕する事はなかった、ありえないと思っていた。
そのまま更に長い年月が流れた頃、パチュリーの知らない、知ろうとしなかった所で吸血鬼は紅魔館を幻想郷へ移し、そして異変を起こした。
そしてパチュリーにとっての敵が現れた時、パチュリーは冷静に取り戻すべきだった
何十年ものブランクを
パチュリーが気付く頃には完全に手遅れだった、パチュリーの魔力を集めに集めた魔法はまるで割れる寸前の風船のように膨れ、嵐のような轟音と振動を掻き鳴らし。まるで意志を持ったかのように、パチュリーの制御から離れていく。
その時霊夢はほとんど無意識に走り出していた、眼前の殺意に溢れた魔力に臆することなく霊夢は無我夢中に両足を動かした。段々と魔法の圧力に自分の体が吹き飛ばされそうになるのを霊夢は体全体で理解する、それでも歯を食いしばって耐え、突き進んでいく。
自らが生み出した魔法に反逆され、苦痛に悶える少女を視界に捕らえながら。
「い゛や゛あ゛あ゛ああああああっ!!!」
何十年ぶりかも分からない自分の絶叫に驚く暇もなく、パチュリーの体はズタズタにされていく。火傷、凍傷、裂傷、感電、数え切れない魔力がパチュリーの皮膚を肉を髪を引き千切っていく現実の中でパチュリーの脳内ではただひとつだけの疑問を駆け抜けさせていた。
何故!どうして!?理論は正しかった!魔法の数式も!化学式も!発動の仕方も動かし方も!全部本に載っている通りにしたのに!今までうまくいってきたのに!何で?ナんで?なンデ?なンで!?何で!!!何で!!!!!
止める事も死にたくないと怯える余裕もなかった、ただ一人、自分の信じてきた物が崩れ去った事にパチュリーは嘆き続ける。
そして終わりの時が来た。
痛みが止まる、パチュリーのもはやボロ雑巾といえる体はゆっくりと後ろへと倒れていく、まるで無重力空間のような感覚、そして頭上に見える魔力を目にした瞬間にパチュリーは悟った。
あぁ何て哀れだろう、自分が求め、救われてきた魔法に最後は殺されるなんてと
それが自らの体を塵一つ残さず消し飛ばそうとした寸前
パチュリーは見た
美しく、そして力強いふたつの結界を
霊夢は日頃あまりスペルカードを使おうとしない。うまく使えば損は無いよと、とある白髪の店主はいつも言う。
そんな事を言われるたびに霊夢はめんどくさそうに、いつものように無断でお持ち帰りする商品を厳選しながら返答する。
「私、自分の為になると思った事以外に使うつもりはないわ」と
最後に「めんどくさいし」と付け足して
「夢符「二重結界」」
霊夢の凛とした宣言と共に霊夢の全身から二重の魔除けの結界が溢れ出してゆく、それは暴走を続ける魔力を包むように囲い込むと呆気なく粉々に押し潰し、離散させた。
僅かな魔力の残光がまるで自らを打ち倒した者を讃えるかのようにキラキラと二人の周りに舞い散っていった。
赤子の手を捻るかのように自分が扱えなかった魔法を倒してみせた霊夢にパチュリーはただただ呆然としていた、すると霊夢は一度大きな溜息をつくと
パチュリーの頭に拳骨を叩き落した
「あなたは何がしたかったのよ全く、自分で自分の魔法に殺されかけるなんてあのバカでも対処ぐらいしたわよ……、自分の力に負けるぐらいなら魔法使い紛いな事、もうやめなさい、自分の身の為よ。」
諭すような貶してるような言葉を最後に添えて。
満身創痍+脳天への拳骨にパチュリーは霊夢の言葉を聞く余裕を持つ暇はなかった、だけど自分を魔法使い“紛い”と侮辱した事に、さも自分は無罪だと聞こえる素振りにパチュリーの怒りは燃え上がっていき、 ヒューヒューと嗄れた喉を懸命に動かして反論した。
「とつぜん私の前にあらわれてグゥ…きて私の本をきずつけっ……たあなたに何がっ分かるのよ!ゥェ…ゲハッ!ハァ……ハァ……。」
喉が抉れたように痛み、体は今にも崩れそうな中パチュリーは上半身だけでも持ち上げて叫ぶ、自分を否定された怒りのままに、霊夢の驚愕に気付かずに。
「もしかして……、この本はあなたの幸せだったの?」
「そうよ……、文句あるの!?」とパチュリーは突然雰囲気が変わった霊夢に疑問を抱きながらも叩きつけように言い返す、霊夢は何も言わなかった、ただ静かに腰を下ろすとゆっくりと
頭を下げた
キョトンとするパチュリーに霊夢はそのままの体勢で
「あなたの幸せを傷つけてごめんなさい」と静かに、でも芯の通った、はっきりと耳に響く声で謝罪した、その姿にパチュリーは頭が熱くなるのを感じながら一心不乱に叫び倒す。
「ふざけないでよ!あなた私を愚弄しているの!?あなたのような本当の魔法使いに負けて!なのに土下座して謝られて私は納得できるの!?どうせ私の魔法は付け焼刃よ!本を読み続けて分かったつもりでも結局いざやってみるとちっともうまくいかない!ねぇこたえでよぉ!わたじはどうすればあなだのような魔法使いになれるのおじえてよぉ……。」
最後は最早霊夢にすがりつくようにパチュリーは泣き崩れる、わんわんと泣き叫ぶパチュリーの姿を見つめながら霊夢はそっと
「私は魔法使いではないわ」と呟いた。
その言葉にパチュリーは涙でしわくちゃになった顔を振り上げ、憎しみを込めた眼で霊夢を睨みつける、その眼から目を逸らす事なく霊夢はぽつりぽつりと話し始めた。
「私は巫女であり、昔は本当にただの平凡な巫女だったわ、普通の巫女服を着て、お払い棒片手に必死に戦っていた、まともに空を飛ぶ事も出来ずに玄爺という亀に乗っていた頃もあったわ。」
ちなみに玄爺は一度でいいから亀料理って食べてみたいなぁという独り言を言ってからそれっきり会ってません。
「それから色んな戦いの中で色んな妖怪たちと戦ったわ、悪魔、悪霊、魔人、魔界神とか色々とね。」
今でも思い出す
あの魔界神の立派なアホ毛は毟り取っておくべきだったと、きっとたくましくなれただろうと
「時に負けてとことんボコボコにされ侮辱されたわ、それでもそのつど何度も立ち上がって挑戦し続け、最後には打ち勝ってきた。」
「気付くと私はまともに空を飛べるようになったし色んな相手とも渡り合える力を持っていた。」
「そして大切な…、仲間もいた」
悪霊に見えない悪霊、何を考えているか分からない花の妖怪、そして私はただの魔法使いだぜといつも言っていた私と同じ人間、ある日突然男っぽくなって、昔の事を話そうとするとやめてくれよと赤面しながら慌てていたっけ。
二人はどこかへ行った、そして最後の一人は自分の手で別れた、今となっては後悔も気がかりもない。
する権利も私にはないだろう
話し終えた霊夢は少しはにかむとパチュリーの肩に手をそっと添えて断言する。
「あなたは付け焼刃なんかじゃない、あなたの積み重ねてきた物は無駄じゃないわ。」
「そんな事…、そんな事あなたに分かるわけないじゃない!」
「分かるわ、絶対にあなたは強くなれる、あなたなら必ず出来るわ、私が断言するからには間違い無いわ。」
段々とパチュリーは、目の前の巫女が自分なりに自分を必死に励ましてくれているんだなと思うといつしか眠気が体全体を包み込んでいった、それでも瞼が落ちるその前に、このまま忘れたくない一心で聞いた。
「あなたの……、名前は……?」
「博麗霊夢よ。」
いい名前ねと呟くよりも先に、パチュリーの意識は暗闇に溶けていった。
パチュリーが静かな寝息を立て始めてから霊夢はしばらく手当てをしてあげていた。
自分でもあまり学ぼうとしなかった自信のない治療術を霊夢は必死にパチュリーの傷口に注ぎ、少しでも傷が消えるように一心不乱に努力した。
博麗式喧嘩アッパーで沈めた小悪魔(本人が自己紹介してくれた)が戻ってきて治療を交代してくれるまで。
その際記憶も飛んでいたのか小悪魔は何の疑いもなく霊夢に礼を言った、「パチュリー様を助けてくれてありがとう」と。原因は自分だと言い出せなかった霊夢は、ただ「私はそんな事を言われる権利はないわ。」と返す。
「そんな事ないですよ〜」と笑う小悪魔に霊夢はゆっくりと微笑むと最後にこういって立ち去った。
「彼女が目覚めたらこう言って、今度会う時は友達として戦いましょう」と
3.腹が減ったら戦は出来ぬ
霊夢の胃袋は限界だった、今にも「こんな体にいられるか!出てってやるぜ!」と胃袋が逃げ出そうとするんじゃないかと思うほどに。
あれから図書室からの去り際にパチュリーの飛び散った皮膚や肉を拾い食いしていっても、全く割に合わなかった。
素直に何か食べさせてくださいとさっきの小悪魔に吐くべきだったかと霊夢はグーグーお腹を鳴らしながら元来たドアに体重をかけ廊下へと戻っていった。
すると目の前に長身のメイドが佇んでいるではないか、思わず「ヒョ!?」と奇声を上げてのけぞる霊夢のそんな姿に一切の反応をせずメイドは言う。
「お嬢様がお食事のご用意をしてお待ちしております、どうぞこちらへ。」
まるで機械のような、どこまでも感情がこもっていない、冷たい声色で
突然の招待にホイホイついて行く自分にどこか嫌気が差しながらも霊夢は付いていった。
長い廊下をスタスタと歩きながら霊夢は暇つぶしにメイドの後ろ姿をじっくり観察する、ジロジロ眺めていると霊夢はふと気付く。
こいつの銀髪超美味しそうと
思わず後ろから襲い掛かって毟り取ろうかなと考え始めた頃、突然メイドは立ち止まり、霊夢と向き合う。
ちょっとびっくりした霊夢が何よと突っかかろうとした瞬間
「こちらのお部屋でお待ちです。」とメイドは扉を開けた。
こんな部屋あったっけ?と思いながらも霊夢は中へと入室していく。
かすれるように囁いた
メイドのおまえなんかがという声と共に
ドアを抜けた先は真っ赤だった、大きな部屋の床も壁も天井も鮮やかな赤色で統一され、上空には白銀に輝くシャンデリアが何個も吊るされていた。
そして部屋の中心に置かれた長く美しいテーブルの上には
大量の料理がまるで宝石のように散りばめられていた。
イヤッッホォォォオオォオウ!!!と心の中で叫ぶほどに霊夢のテンションは一気に跳ね上がる、しかし料理の中へとロケットのごとく突撃したい衝動に耐えしのぎながら霊夢はテーブルへとゆっくりと近づいていく。
背中を刺す殺意と目の前の蝙蝠の羽を生やした幼女に意識を向けながら。
ようやく霊夢が椅子に座った瞬間、まるで体の底へと溶けつくような声が霊夢の耳へと入ってきた、それは目の前の幼女の自己紹介をする声だとすぐに理解できた。
自分は誇り高き吸血鬼、レミリア・スカーレットだと
三日月のような口と眼で嗤いながら
それから先、霊夢はがむしゃらに食事をした。
シャキシャキと水気が溢れるサラダを口に頬張り、まるで舌を溶かすかのように具がじっくり煮詰まったスープをゴクゴクと飲み、皮がパリパリに焼き上がり、齧りつく度に肉汁がだらだらとこぼれるほどの大きなお肉に食らいつき、表面はサクサクとしかし中は餅のように伸びる甘く芳醇なパンをほうばったりと霊夢はどんどんどんどん胃袋に詰めていった。
レミリアはそれを目を細めて眺め続ける、口角を常に吊り上げて、じっと何かを待望しているかのように
長い時間をかけて霊夢は料理を食い尽くすと、丸いお腹をポンポン叩きながらふぃーと椅子にもたれかかった、それが合図かのようにレミリアは霊夢に囁く
「あなた私の力にならないかし「嫌よ」あら。」
突然の勧誘に霊夢は間髪いれずに断った、一瞬後ろで何かが揺れる気配がするが霊夢は無視する。
「いいのかしら?後悔「しないわ」そう残念ね。」
両手をあげ残念そうにはみえないしたり顔でレミリアはゆったりとした素振りで立ち上がると気品ある動きで奥にある扉へと歩いていく。
扉に手をかけレミリアは振り向く、そして最後にこう付け加えて去っていった。
「咲夜、私は屋上のテラスでしばらく月を見ているわ、食事は後から持ってきて、そうねリクエストとしては……、
巫女料理が食べたいわ。」
心底楽しそうな笑顔で一言
霊夢はふと自分が
凍った気がした。
3.憎しみは愛と反対のものであり、愛を食いつくすものである
咲夜はレミリアに全てを捧げている。
レミリアの元で生きている前の記憶は覚えていない、元の名前も、人生も、必要ないと思っていた。
レミリアが与えた十六夜咲夜という名が自分の存在、紅魔館のメイド長こそが自分の価値、そして時を止める力こそが自分だけの力。
全ては我が主の為に、それこそが自分の幸せだと咲夜は疑わなかった。
咲夜は黙々とレミリアの事だけを想い生きてきた。
愛しき主の口から霊夢という名が出るまでは
紅魔館を幻想郷へと移し、異変を起こしてすぐにレミリアは何度もこう言っていた。
「もうすぐここに霊夢という人間が来るわ、そうしたらとっても楽しい事になるわよ咲夜♪」
まるで念願の物がもうすぐ手元に届くと家の中を歩き回る子供のような、そんな笑顔で。
その日から咲夜の毎日は苦痛だった。
顔も分からない、存在さえも疑わしい者に、自分の主は心惹かれている、いつも尽くし、捧げてきた私に見せる以上の笑顔で、何故?どうして?
そんな感情を咲夜が抱いてるとはレミリアは露知らず、霊夢が門番を倒し紅魔館に侵入したと知った時も
「流石霊夢ね、ただの人間とは段違いね。」と褒め讃えた。
咲夜にとって門番の美鈴はレミリアを守る一つの力と信じていた、それが打ち破られ紅魔館に入られた事に咲夜の感情は更にぐちゃぐちゃになっていく。
私の幸せが穢される壊される失わされる、なのにお嬢様は喜んでいる、私はどう考えればいいの?どう思えばいいの!?
そしてパチュリーとの戦いを制した時もレミリアは
「まさかあのパチェにも勝ってしまうなんて本当に素晴らしいわ、感動してしまうほどよ。」と更に褒める。
もはや限界だ、今すぐあいつを殺せばお嬢様は元通りになるそうだそうに違いない、今すぐ時を止めて殺しに行こうと咲夜が決意した瞬間、レミリアは咲夜に命令した。
「美味しい食事を用意して、そして霊夢を招待しなさい。」と
料理を作る最中に咲夜は何度も毒を入れようと考えた、しかしそうして殺したらそれは命令違反だ、もしかしたらお嬢様は悲しむのかもしれない、私を嫌いになるかもしれない、そんなの嫌だ絶対に耐えられない。
咲夜は自分の目から溢れる涙を拭おうともせず、ひたすら主の命令に従った。
そして霊夢を迎えに来た時、咲夜の感情は死んでいた。
お嬢様の望むがままに、全てはお嬢様の幸せの為に、そう決めて、ただのメイドとして霊夢を主の元へと導いた。
霊夢が自分の作った料理を汚らしく食べ、それをレミリアが楽しそうに見つめる光景は咲夜にとって地獄だった。
今すぐ懐のナイフで自害したいとも思えたが、それは無意味だと必死に耐えた。
今にも気絶しそうな意識の中で咲夜の耳にレミリアの声が響く。
それは仲間への勧誘だった、驚愕した、思わず体が動いた、だけどすぐ後の言葉に咲夜の感情は昂ぶった。
巫女料理という許可に
ヤットコロセル
咲夜は時を止めた
どんよりと鈍色に塗れた世界を咲夜は駆ける。
懐から銀色に光る刃を抜き、凍てついた霊夢の背中に回る。
そこで咲夜はあえて時を動かした。
驚愕と恐怖におののく顔、自分の手で傷付いていく体、必死に命乞いをする様を楽しみ、首に紅い切れ目でさようなら、いつもしてきたそのやり方に、濃厚な殺意をつけあわせ。
絶対に反応できない動き、抵抗できない攻撃。普通なら理解できない現象に相手は無残に息絶える。
その光景しか見てこなかった、見れないはずだった。
一気に背中にナイフを突き刺そうとした瞬間
自分の腕が掴まれた
霊夢はレミリアの勧誘を拒否してからずっと後方に精神を集中していた。
後方からの、自分の首が絞まっていく錯覚がするほどの殺気に、常人ならそれだけで腰を抜かし、失禁するであろうほどの殺意の塊に霊夢はただただ無反応に、だけど精神は針のように細く咲夜に向けていた。
そして視界が凍てつき解ける瞬間に霊夢は動く。
背中への気配を感じるよりも早く
自分を貫く殺意を止めるべく
後ろ手で自分の腕をガッチリと掴んできた霊夢に咲夜は衝撃を受けていた
ありえないどうしてきづくはずがないおかしいどうして!!!
混乱まみれの脳がようやく動き出した時には遅すぎた。
ドゴンと咲夜の体が吹き飛んだ
霊夢の強烈な左肘打ちに咲夜の体は無抵抗にまるで風に吹かれた紙くずのように転がせて、壁に背中を叩きつけ咲夜は呻く、それでもぎりっと痛みを噛み締め咲夜は霊夢を睨む。
そして怒りは更に高まっていく。
霊夢のまるで、自分の周りを騒がしく走り回る子供に嫌悪するような、敵を敵だと認識していない顔に
霊夢は紅魔館に入り、パチュリーと対峙してからひとつ考えてきた事がある。
自分とは違う幸せの形、その為に尽くす力、努力し自分の求めた何かを手に入れる事、そんな事を何となく考え始めていた頃。
咲夜のすさまじい嫉妬心に遭遇した、異常なほどの執着、尊敬、愛情を纏う咲夜に霊夢は内心焦った。
これほどの願望ならばどれほどの力を求めたのだろうと。
だからこそ霊夢は咲夜を全力で警戒した、どれほど強力な攻撃をしてくるか覚悟していた、しかし今、霊夢はただただ拍子抜けをしていた。
何だ、この程度かと
霊夢は何もしなかった。
咲夜がまた時を止め霊夢の死角から攻撃しても、ナイフを投げつけても、まるで見えているかのように霊夢は舞うようにかわしていく、一切の反撃もしない、する意味もない、そんな素振りだった。
咲夜の心は焦燥に塗れていた、自分の力、お嬢様を守る私だけの力、幸せを守る為の力。それが通用しない現実に咲夜は今にも泣き叫びたいほどだった。
いつしか霊夢は歩き出す、その先はレミリアの入っていった扉。
奴はお嬢様を殺しに行こうとしている!咲夜に考える暇はなかった。
その先は無我夢中だった、ひたすらにナイフを投げる、投げる、投げる、投げる、その数は一桁、二桁とどんどん増える。
腕が悲鳴をあげる、ダマレ
顔から汗が吹き出る、トマレ
霊夢の周りには剣山の如くナイフが立ち並ぶ、限りなく、無尽に増える、ただ殺す為に、その為だけに咲夜じゃ投げ続けた。
まともに呼吸もできないほどの疲労に蝕まれながらも咲夜は自分自身驚いていた、今まで一本しか時を止めた時間の中で振るえなかったナイフがこんなにもたくさん使えたと。
口元が悦に震える、これでこいつを殺せる、八つ裂きに出来る!
そして時を動かそうと咲夜は指を弾く
それが慢心だったと、間抜けな驕りだと気付く間もなく
霊夢は無数の刃が自分をゆっくりと刺し殺そうとするのに気付き、体をずらし、後ろに視線を回す。その目は微かに感情に揺れた。
霊夢の視界一面が銀色に輝き、まるで星空のようにも見えた、その奥で霊夢は咲夜の姿を捕らえる、その顔は笑っていた、ざまあみろとでも言っているかのようにほくそ笑んでいた。
霊夢は勝利を確信した咲夜の顔を
哀れんだ
この程度で勝ったと思ったのかと
霊夢は懐に手をいれ、そして一気に引き抜く、その手の中の小さな札を、目の前の邪魔な存在を再起不能にする為にはっきりと宣言した。
「霊撃」
そして勝敗は決した。
まるで爆発したかのような強烈な圧力は咲夜の殺意の刃を本人へ反逆させ、自らのナイフに全身を貫かれ吹き飛ばされていった咲夜を霊夢はチラリと見て、それっきりだった。
霊夢はもうする事はないと足早に扉を開け去っていった。
4.大切なのは、弱さゆえの向上心
霊夢の目の前には長く、赤い階段が真っ直ぐとどこまでも続き、両側の壁には絵画が飾られていた。
霊夢はゆっくりと一段一段、しっかりと踏みしめて昇っていく、まるで今までいた世界から離れていくような錯覚を感じながら、何故だかこの先が最後のステージだと実感しながら。
壁の絵画も、昇っていく度にその姿を変えていった、緑色が眩しい風景画、吸い込まれるような月夜の絵、そして七色に輝く花たちの絵。
霊夢はそれぞれの絵に目を合わせながらもそれでも立ち止まることなく昇っていく。
どのくらい昇ったのだろうと霊夢が考え始めた頃、扉が見えた、同時に霊夢は見つけた
血だらけで立つメイドの姿を
咲夜はもはや霊夢に勝つ力は使い果たしていた、ただお嬢様へ向かう霊夢を少しでも足止めしたかった、ただそれだけだった。
自分のナイフで穴だらけになった体に鞭打って咲夜は言う。
ここから先へは通さない。と、両腕を広げて
ほとんど口内の血でまともに言えない、つぶれた声で
霊夢はもはや可哀想にしか見えなくなっていた。
そして素通りしようと咲夜の横を通り過ぎようとした時、咲夜はふらふらと霊夢を捕まえようとする。
思わず振り払おうと咲夜の方に振り向いた時、霊夢は見た。大粒の涙を頬に流し、かすれた声で、お嬢様を傷つけないで。と言っている
そんな駄々をこねる子供のような姿を
プッツンするには十分だった。
霊夢の腕が咲夜の襟を掴み上げ、そして吼えた。
「そこまでして守りたい人なら全身全霊で立ち向かいなさいよこの臆病者!あそこまでの殺意を私にぶつけておきながら!自分の力で無理だったら殺そうとした相手に泣き落とし!?馬鹿じゃないの!馬鹿でしょうあんたはぁ!!!」
今にも頭突きをしそうな勢いで捲くし立ててきた霊夢に咲夜は息苦しいながらも必死に言い返す
「あなたに私の苦しみが理解できるわけないでしょう!?私はお嬢様に全てを捧げてきたのに、いついかなる時もお嬢様の力として生きてきた!だけどお嬢様はあなたの事ばかり見ている!それがどれほど悲しい事だったか!あなたさえいなければこんな気持ちになることはなかった!」
「言い訳なんかしてるんじゃないわよ!!私の苦しみ!?悲しみ!?そんなの理解できるわけないじゃないのよ!あんたが一言も私に話していない事を私が知る由も無いじゃないのよ!」
「それじゃあ私はどうすれば良かったのよぉ!!!」
「知るかそんな事ぉ!あんた納得できるの!?自分が何時間も何日も悩み苦しんできた事を突然来た部外者がこうすればいいとか言ってどうにかしてしまった時!自分の今までしてきた事が全て無意味だったと分かった時!それでいいのあんたはさぁ!!!」
「そんなの何とかできるあんただけの言い分でしょう!私は必死に戦った!今までそうやって自分の幸せを守ってきたのにあなたに負けた!あなたは無傷でわたしは惨敗!私にはもうお嬢様のそばにいる権利なんてないのよ!」
「だから勝手に自己完結すんじゃないわよこのポンコツ石頭ぁ!!!あんたは死んでもないし二度と戦えない訳じゃない!だったら必死に強くなって這い上がって今度こそ絶対に守りぬけるようになりなさいよこのスカポンタン!」
「だ……だけど私の時止めは全く効かなかった!」
「あんな馬鹿の一つ覚えみたいに続けていたらいつか負けるなんて当然の事じゃないのよアホ!」
そんな怒号の殴り合い、そしてそれさえも咲夜は負け、霊夢が勝つ。
息を切らしながら霊夢は咲夜の襟を放した途端、咲夜の体は糸が切れたかのように崩れ落ちていった。
そしてそれっきり反抗もせず、立ち上がろうともせず、ただうなだれていた。
霊夢は無視も軽蔑も止めもなにもしなかった、ただただ俯く咲夜の前でゆっくりと語りだした
「不変なんてありえないのよ、時間の流れの中でやり方も考え方も世界の見た目も変わる、昨日まで出来た事が明日には出来なくなる事もある。人の強さも心も変わるわ、それに対して自分も変わっていなければ置いて行かれ、後悔する、そして自分は弱いから理由があるからと言い訳をして死んでいく」
何処か悲しそうな口調で言い切った霊夢はそのまま扉を開け、中に入っていく前に最後に咲夜に視線を合わせこう残した
「向上心のない奴は馬鹿よ、だけど、あなたは違うでしょ?」
ほのかに頬を緩まして
それっきり霊夢の姿は咲夜の前から消えた。
咲夜はそのまま体を床に落とす、痛みはなかった、どこか心地よさがあった、何かの枷が取れた気がする。
そんな言葉で言い表せない感覚に咲夜はその身を委ねていった。
5.勝負に一番影響するのは「怒」の感情だ
かつて霧だった赤はいつしか紅へと変わり、空一面を染め上げそこに君臨する王かのように紅く染まった月があった。
屋上にようやく出た霊夢は思わずむせた、もはや喉を冒すほどの濃度だった、しばらく咳をし続けてようやく呼吸を整えて霊夢は顔を上げる。
そしてゆっくりと歩を進める。
場違いなほど白い椅子に腰を下ろし、白いテーブルに両肘を立て、待ってましたとばかりに微笑む吸血鬼へと。
「思っていたより早かったわね、本当にあなたは人間なのかしらね、実は魔人とか何かじゃないのあなた?」
緊張感の欠片もなく、さも友人を待っていたかのようにレミリアは問いかける、それに霊夢は問いに答えず憮然とした表情で歩み寄り、座るレミリアを見下ろす、その眼には炎がたぎっていた。
「怖い顔しないでよぉ霊夢、さっきは悪かったわ、巫女料理を一度でいいから食べてみたいと思ってしまったのよ、魔が差したのよ。」
霊夢は答えない、ただレミリアを睨む、レミリアはそれを無視して喋り続ける。
「今回の異変を起こした理由にはね、ひとつはこの幻想郷を手に入れる事だけど、もうひとつはあなたなのよ霊夢」
「人間でありながら美鈴を倒し、パチェを倒し、咲夜さえも倒した霊夢、私は今あなたに心惹かれているわ、あなたを私の部下にしたい、いやあなたが望むならこの私の右腕になってもいいわよ」
「私とあなたが組めば幻想郷だけじゃない、現世も、冥界も、地獄さえも征服できる、私の運命がそう言っている間違いないのよ!」
「だから霊夢、私の手を取って?そうすればあなたが思うがままの幸せを私が「その前に答えなさい」?」
手を差し出すレミリアに霊夢は微動だにせずただ一言声を掛けた、そしてもう一言。
「あなたは咲夜とパチュリーをどう思っているの?」
そんな霊夢の第一声のどこかレミリアはキョトンとしながらも手を下ろす、そして霊夢の顔を見据えるとこう言い放った。
「敗者の事なんて今はどうでもいいでしょう?」
と、心底呆れたような表情で、言い切った。
椅子が爆ぜた
レミリアの顔面に叩き込むはずだった霊夢の拳は白い椅子を花火のように飛び散らしていく、悔しく思う事もなく霊夢はすぐに背後に気配を感じ振り向く、忌々しい、腹が立つ気配へ。
瞬間移動の如く霊夢の後ろに回ったレミリアはクックックッと嗤っていた。
「どうしたのよ霊夢、もしかして同情でもしたの?あなたに太刀打ち出来ない奴なんていらないじゃない?私の目的の前ではお荷物当然、邪魔にしかならない、それならいっそ切り捨てればいい、それがこの幻想郷の征服者として、カリスマある者のする事よ」
自分の言葉に酔いしれるようにレミリアは続ける。
「仲間は見捨てない?馬鹿馬鹿しいわ、そんなの弱者同士がする事よ、私は誇り高き吸血鬼、そんな事はしないわ」
一息ついてレミリアは、もう一度霊夢に問いかける。
「これが最後よ霊夢?私と共に行き「あなたは弱者よ」……なんですって……!?」
一瞬の内に雰囲気が変わったレミリアに霊夢は怯む事なくレミリアと向き合った。
「あなたは弱者で愚か者よレミリア・スカーレット、何が誇り高きよ、そんなの知ったこっちゃないわ。」
レミリアの周りがグネグネと魔力によって歪んでいくのを霊夢は臆する事なく言い切った。
「パチュリーが自分の事をどう考えていたか、咲夜があなたに対してどう苦しんでいたか、それが見えない考えない奴なんかが、幻想郷を征服?どんな冗談よ全く」
思わずにやけ面になるののを霊夢は抑えず喋り続ける、そしてレミリアを指差し霊夢は宣言する。
「あなたは私には絶対に勝てないわ、レミリア・スカーレット。」
レミリアの心は憤怒に燃え、殺意に溺れていた。
このレミリア・スカーレットを弱者呼ばわりだと!面白い奴だと下手に出ていれば調子に乗りやがってこの人間風情がぁ!!
そんな叫びを胸にギリギリ閉まい、レミリアは睨み殺さんばかりの殺意を込めて霊夢を睨む。
「あなた……誰に口を出しているか分かって「ただの吸血鬼。」!?」
さも当たり前のように言い切った霊夢にレミリアはもう限界だった。
「もういいわ……、やっぱり人間なんて役立たずの動く食料なのよ、私はあなたを殺すわ人間、もう命乞いも言い訳も聞かないわ、後悔してもその頃には肉塊よ。」
「四の五のいいからやるからにはさっさとやりましょうよ吸血鬼。」
そして霊夢が構えた瞬間レミリアの姿はまた消えた、流石の霊夢も二度目は勘付いていた、もう一度後ろを向き、ゆっくりと空を仰ぐ。
紅い月の真ん中で、紅い霧に包まれ浮いているレミリアがそこにいた。
そしてレミリアは謳う、目の前の人間への最後の言葉として
こんなに月が紅いから
本気で殺すわよ
迫りくるレミリアを前に霊夢は自分でも可笑しいと思うほどに冷静だった、今にも自分をバラバラにしそうな魔力に八つ裂きにしようと迫りくる怒りに霊夢は一切怯まなかった。
霊夢は決意する
あのボケナス吸血鬼の背中に生えた
歯ごたえよさげなあの翼を
自分の手で思いっきりモグモグしたい!
そんな食欲を胸に霊夢も謳う
こんなに月も紅いのに
永い夜になりそうね
どこか楽しげに囁いて
風を切り、骨ごと切り裂かんばかりの吸血鬼の爪を霊夢は素早いバックステップで回避する、シュンッ!と風が切れる音が切れ味の良さを証明する。
しかし吸い付くようにレミリアは霊夢の傍へ突撃してくる、このまま逃げ続ければいずれ追い詰められ、幾度となく爪で切り裂かれボロ雑巾のようにされる、それだけは避けたい霊夢は攻めの手に回った、霊力を込めたショットをレミリアに打ち込んでの牽制、そしてそこからの反撃!
しかしレミリアは僅かに口角を吊り上げると跳ねるように飛翔する、そして突風の如く霊夢の胸へと飛び込んだ。
胸が潰れたかのような感覚と体がくの字に曲がる衝撃に霊夢の体はボールのように屋上の床を飛んでいく、ガボガボと口の中が血の泡で溢れ目の前が霞む。
それでも無様に倒れてたまるか!と霊夢は意識を覚醒させ回る体から手足を動かし、無理やり上半身と下半身を振り動かし受身を取った。
「結局はあなたも人間ね、所詮私には敵わないのよ。」
レミリアはケラケラと笑っていた、その姿を見て霊夢はゆっくりと立ち上がる。
口の中が気持ち悪い、お腹がムカムカする、うまく体が動かない、だけどこのぐらいで痛み苦しむ暇はない、あいつらに比べればかすり傷だ。
そんな決意を秘めた霊夢のまなざしが弱る事はなかった。
レミリアは笑みを浮かべながらも内心苛立っていた。
目の前の人間に確実なダメージを与えたはずなのに、その人間は痛がる素振りもせず、立ってあの気に食わない眼を向けてくる!
元々レミリアは霊夢をいたぶるつもりだった、爪で体中をズタズタにし、四肢を踏み潰し、最後に自分への恐怖と後悔に怯える顔の首筋から血を吸って逝かせてやろうと。
しかしそれももうやめだ、この人間は目障りだ、さっさと殺してしまおう。
右手を掲げる、まるで月を掴むように握り締めると宣言した。
「神槍「スピア・ザ・グングニル」」
その一声と共に、空一面にあった紅がレミリアの右手へと集まっていく。まるで台風のような凄まじい勢いで一点に吸い寄せれていくそれを霊夢は目が離せなかった、そして爆ぜた。
おもわず目をつぶった霊夢は何をしているんだとすぐに見開くとそこにはどこまでも紅く、どこまでも禍々しい槍が生まれていた。
どれほどの魔力が密集しているのか分からないほどの長い形の白い魔力の肌を、まるで太陽の周りを跳ね回る溶岩の如く、紅い魔力が舞っている槍からはそれだけで全身に針が刺さるような錯覚を起こさせた。
あれほどの物に貫かれたなら痛いでは済まされない、回避は不可能、正にグングニルの名に相応しい槍が一人の巫女を殺す為だけに生み出されていた。
レミリアはつまらない幕引きだと、目の前の一度でも心惹かれた人間を見て思い。
そして
さようなら、霊夢
そう小さな声で呟いて
撃った
霊夢は逃げる事も、スペルで応戦しようとも考えなかった、ただ静かに瞑想していた。
今私がしようとしている事をあのバカに教えたらどう反応したかしら?
そんなの無理だぜって否定するかしら、それとも面白いな乗った!って賛同するかしら、あの日のあなたの怯えた目、あなたの悲鳴は私の耳から離れた事はない、愛していたのかな、だけどこんなにも褪めた気持ちは違うのだろうか、そもそも生きているかな?もしも死んでいるのなら
今会いに行くわ。
そして霊夢はレミリアへ、スピア・ザ・グングニルの魔力へと一気に突撃した。
槍の魔力が霊夢の体を四散する寸前少しだけ霊夢は右へ体を逸らす、カスリ、すれ違う瞬間、槍の周囲の魔力が霊夢の左半身を切り刻む。服は破け、皮膚が裂け、肉が飛び散り、爪が剥がれ、お下げがバラバラになっても霊夢は止まらない。
そして僅か数秒の槍との邂逅を経て、霊夢は
レミリアの眼前へと到達した。
その先は一方的だった。
左半身が重症であるはずの人間が、吸血鬼に怒涛の攻撃を浴びせている、そんな異様な光景がそこにあった。
数刻前まで余裕の笑みを浮かべていたレミリアも、霊夢の拳、針、退魔符の嵐には反撃する暇もなく、苛立ちだけがレミリアの脳を支配していく、強い者が弱い者にいいようにされる、そんな憤怒。
必死に両腕で身を守りながらレミリアは宣言する、余裕の欠片もない、悲鳴のような声で
「紅符「不夜城レッド」オォ!!!」
その声を聞いた瞬間霊夢はレミリアの首根っこを全力で掴む、レミリアの体全体からの十字架型のオーラにも屈せず、掴んだ右腕が魔力によって業火にのまれたように黒く焦げても霊夢の力は衰えない
持てる限りの力を込めて
獣のような雄叫びを上げ
これが勝機と心を込めて
地上へレミリアの体を叩きつけた。
紅魔館の屋上へと落下したレミリアの体は、まるで沈んでいくかのように床に穴を開けた。
背中への激痛に顔をしかめるレミリアの目は、急降下する物を捉えるのに僅かばかりの間を作る、そしてようやく捉えた瞬間、レミリアは見た。
真っ黒な右腕に御札を張り巡らし、まるでサボテンのように退魔針を生やしたその右腕で、自らの体に渾身の一撃を叩き込もうとする
博麗霊夢という名の人間を
6.復讐は死んだ者の為じゃない。残された者の自己満足だ
レミリア・スカーレットは誇りを愛していた。
スカーレット家の娘として生まれたレミリアは、物心ついた時から強き吸血鬼として世に名を轟かせ、多くの部下を従えていた両親を敬愛し、自分の誇りとした。
その誇りを大切にする事こそが力の源だと、そう信じ切った。
スカーレットの一人娘として、順調に成長し魔力を漲らせていた頃、両親からある日レミリアは呼び出された、何か重大な事だろうとレミリアは真剣に、両親の元へと向かった。
両親の口から伝えられたのは妹の出産だった。
伝えられた瞬間素直に喜べなかった自分の心にレミリアは自己嫌悪をした、大切な家族なのに、私はスカーレット家の一員として最低だ!そう考えた。
それでも表情では喜んだものの、内心どこか葛藤していた。
それが後に嫉妬だと気付くのはそれ程時間を要しなかった。
スカーレット家の二人目の娘、レミリアの妹として元気に生まれた子を両親はフランドールと命名し、心から愛した。
それは両親として当然の行為、しかし一人娘として愛されてきたレミリアにとって、どこか奪い取られたような気がして、レミリアは無意識に嫉妬していた。そんな事を知る由もなくフランはすくすくと成長していき、レミリアの事をお姉様と呼び、追いかけてくるほどになった頃。
フランに突然変異が起こった。
フランの羽が変化を始めたのである、まだ小さく可愛らしい羽が突然枯れるように細くなっていった。そして木の枝ほどの長さになった時、実がなるように七色の宝石が育った。
両親はその光景を見て、フランは吸血鬼として特別な存在に進化したんだと喜んだ、父親は流石は我がスカーレット家の娘だと褒め称えた。
そんな両親の姿の下で、頬を赤らめて照れ笑いをするフランを見て
殺したいと思った事に、レミリアは気付けなかった。
それからのレミリアはフランを邪険に扱った、名前を呼ばれるとうるさいと叫び、通行の邪魔になった時は払い飛ばす。
そうでもしないとレミリアは自分の心に押しつぶされそうな気がしていた。
そんな中父親はレミリアを叱咤した、姉としての威厳を持て、フランは我がスカーレット家として大切な存在なんだと何度も言った。
敬愛していた父親からの言葉はレミリアの心をもがき苦しめさせるにはとても効果的だった。
レミリアにとって苦痛の日々がしばらく続いた頃、ある日突然に姉妹の運命を変える事件が起きた。
それは夜明け近くの事だった。
夜の活動時間を終え、昼間の睡眠時間へ向けて眠りに付こうとしたレミリアはその日ひどく寝苦しかった。仕方なくレミリアは自分の部屋を出て歩いていく、少し廊下を歩いていれば眠くなるだろう、そう信じていた。
偶然にもすれ違う者は一人もいなかった。
レミリアはふと無意識に自分の足が両親の寝室に向かっている事に気付いた。
両親とはうまく話せなくなっている今、ただ気まずいだけだと、そうレミリアは寂しそうに決めて、自分の部屋へ戻ろうと思い、踵を返そうとした
ドアの先から血の匂いを感じ取るまでは
何が起きているのか、部下を呼ぼうかと考えるよりも先にレミリアはドアを乱暴に叩き開けていた。
そこには妹がいた、フランドールが立ち竦んでいた。
臓器をぶちまけ、血を部屋全体に飛び散らせた、遠目からでも死んでいると確信できる。
そんな心から敬愛していた両親の亡骸の前で
何をしているのか、何故と聞くよりも先にレミリアは歩み寄っていた。
「お姉様……っ!違うの!これは私じゃないの!私は何もしてない!お願い信じてお姉様ぁ!」
返り血を浴びたフランの必死の弁解も聞かずレミリアはフランの前に立つ。
今にも泣き出しそうに上目遣いで自分の顔を見つめるフランをレミリアは
顔面への拳で答えた
ぷぎゃぁ!と潰れた蛙のような声を上げフランは床へと倒れこんだ、レミリアはそのままフランの上に覆いかぶさるように座ると一切の躊躇もなく拳を振り落とした、違うのという否定も、やめてという懇願も、全て聞き流して殴り続けた。
いつしか声も聞こえなくなり、レミリアはゆっくりと立ち上がる、そして瀕死の妹を見つめ、我に返った。私は何をしているのかと。
レミリアでなければ分からないほど顔がぐちゃぐちゃになったフランを抱えて、レミリアの頭は混乱と困惑に支配されていた、両親の死を悲しむ事も今どうするのが最善なのか考える暇はなかった。
それから先の行動をレミリア自身はほとんど覚えていない、フランを抱きかかえて部屋から出たレミリアは走り出した。
途中両親の死に気付き、騒ぎ出した部下の間をすり抜けレミリアはがむしゃらに走り続けた。
窓をぶち破り、吸血鬼にとって自殺行為である夜明けが近い前の外出も、レミリアには躊躇する暇はない。
ただ逃げ出したかった、全部夢だったと信じたかった、そうしなければ
狂ってしまいそうだったから
太陽の日がかろうじて当たらない場所にフランを投げ落とし、レミリアは寝転んだ。
体中が熱く、まともに呼吸もできない中、レミリアはひたすらぶつぶつ喋り続けた。
おとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったおとうさまとおかあさまはにんげんにころされたいもうとはそれをみてくるったんだ
まるで壊れた人形のようにレミリアは口を動かし続ける、両目からとめどめもなく涙がこぼれ続けても、レミリアはやめる事はなかった、やめられなかった。
そしてレミリアの心の中ではひとつの結果が生まれた。
ある日人間が私達の館に攻撃してきた、激戦の内に両親は人間に討ち取られてしまった、私達は部下と共に辛くも逃げ出したがフランは両親の死に様を見てしまった、そのショックで発狂し、部下を皆殺しにし、辛うじて食い止めた私は今生きながらえた。
そんな嘘偽りを自分へのせめてもの救いとして
それからのレミリアはスカーレット家の生き残りとし各地を転々とし、人間を殺していった。
スカーレット家の仇だと、自らの力の糧となれと女子供も関係なく虐殺していった、それでも心は癒えなかった。
フランは吸血鬼としての自然治癒能力で自力で目覚めたが、レミリアとは口も聞かず、ただレミリアの視界にはいらないよう、静かに後ろについていっていた。
いつしかレミリアはかつての両親のように部下を求めた、両親を守りきれなかったような弱い部下はいらない、強い部下が欲しいと。
そしてパチュリー・ノーレッジ、本美鈴とレミリアは言葉巧みに自分の配下へ就かせていく、着々とレミリア・スカーレットとして名を馳せてきたレミリアの前に、ある日とある人間が現れた。
いつものように女を殺し血を吸い取ろうとした時、一人の少女が立ち向かってきた。
それは輝くような銀髪を生やし、眼には恐怖を浮かべながらも揺るがない覚悟と勇気が見え、レミリアには人間離れした何かを十分に感じ取らせた。
ママの仇とポケットからナイフを取り出し襲い掛かってきた姿に、レミリアの心は喜びに溢れていた。
憎き人間の中にもこんな面白い奴がいるとは!とレミリアはあっけなく少女のナイフを魔力で破壊すると気絶させ連れ去り幻惑、誘惑、消去とありとあらゆる魔法を使い、記憶を消し、十六夜咲夜という名を付け、育て上げた。
咲夜が時を操る能力を覚醒させた頃に、レミリアは決めた、かつて両親が建てた紅魔館を自分の手で作り直そうと決めた。
紅魔館を数々の人間や妖怪の奴隷の手によって生み出したレミリアはすぐにフランを地下室に閉じ込めた。フランは抵抗はしなかった、無表情のままに地下室へと入りそれっきりレミリアとフランは顔を合わさなくなった。
そして幻想郷へレミリア達は紅魔館と共に現世から消えた。
かつて幸せだったあの頃に戻りたいという無意識の願望、幻想郷を支配したいという反面、少しでもあの事実から逃げ出したいという気持ちと共に。
幻想郷に到達しすぐにレミリアは霊夢の存在に気付いた。
人間でありながら咲夜以上の力を感じ取らせる霊夢にレミリアは期待に胸をときめかせた。そして霊夢が自分の元に来てくれると願って赤い霧を撒いた
予定通り霊夢は来た、いつも通り霊夢を配下にいれようとした、しかし想定外に霊夢は拒絶した、それは特異点となり、そして
レミリアが想像だにしなかった結末が訪れた
霊夢の急降下からの右腕を捨てた一撃は、自分ごとレミリアを屋上から一階まで叩き落とし、レミリアの腹部を臓器ごと木っ端微塵にぶち抜いて再起不能にした。
結果、人間は勝利し、吸血鬼は敗北し、その瞬間全ての舞台が終わりを告げた。
レミリアはその結果を信じられなかった、嘘だと叫びたかった、屈辱で一杯だった、情けをかけるなら殺せと叫びたかった。そんなレミリアをよそに、霊夢はバキバキに折れ曲がった右腕を持ち上げ言った。
「あんたが今までどう生きてきたか、どんな事を考えて今ここにいるか、私にはどうでもいいし聞くのもめんどくさいわ」
「あんたがこの幻想郷でどう過ごしていくかも私には知ったこっちゃないわ、だけどひとつだけ、よーく覚えておきなさい」
一呼吸置いて、力強く霊夢はレミリアに告げた
「あんたが幻想郷を変える事は出来ない、だけど、幻想郷はあなたを変えるわ。」
レミリアは何も言わず、ただ聞き入っていた
「私はあんた達を嫌いになる気はないわ、今回の異変で私自身学んだ事あったし、それに少しは…、ちょっとは感謝してるわ」
どこか照れくさそうに言う霊夢にレミリアの心にはどこか不思議と安らぎがあった。
そして瞼がゆっくりと落ちる寸前、ドサリと何かが倒れる音を聞いて
それっきりレミリアは眠りについた
7.運命の終着点
起きろ起きろといわんばかりに眼がチカチカと軋むのに霊夢は顔を右へ左とグネグネ動かしながら目を見開いた、その先には天井に広がる大きな穴と自分の番だとばかりに顔を出した夜明けの空、どのくらい寝てたのかしらと腰をヨイショとあげようとした時
「やっと起きたのねこのバケモノ巫女、もう少しでお亡くなり決定で死体処理する所だったわよ、何だったら寝ててもいいわよ、そのまま鳥葬して、立派なお墓に埋めてあげるわよ?」
聞き覚えがあるムカつく声の方へ向くとそこにはなんと、ミイラメイドが「あなた今ミイラとか思わなかった?」思ってません。
良く見てみるとそれは包帯まみれの十六夜咲夜だった。
「あんた……、どうしてここに?」
「どうしてもこうしてもないわ、あれから目が覚めて急いで屋上に出たらそこには大きな穴!覗いてみれば血だらけので腹がなくなったお嬢様と、体の半分がズタズタで右腕がグチャグチャのあなたが倒れているのが見えるわもうびっくりよ、急いで重症のお嬢様を部屋へ運び出して、今は治療の出来る妖精メイドに全力で治療させている所よ。」
ふと気付くと霊夢自身、自分の体にも包帯が巻かれているのに気がついた。
「それ?本当だったら止めを刺す所だったけどあなたには少なからず感謝する所があったから助けたわ、まぁでも最小限の止血ぐらいしかしてないから、後は自力でやりなさい。」
良く見てみると本当に言葉の通りに最小限だった、ツンデレ乙と言ってやろうと思ったらまじで止血される所にちょっとだけ包帯を巻いた感じだった、医者がこんな事したら絶対に訴えるレベルである。
思わず苦笑いする霊夢に咲夜は呆れた口調で続けた。
「それにしても、腕に退魔符を貼って、退魔針を刺して殴るなんて正気の沙汰じゃないわよあなた、つくづく頭おかしいとしか言えないわね」
「大丈夫よこんくらい、神社で寝てると大抵の怪我は数日で治るから」
なにそれますますバケモノね。ほっとけ!と霊夢はゆっくり傷口が開かないように立ち上がるとふと思い出して咲夜に向き合って尋ねる。
「あんたはこれからどうする気?」
咲夜はそうねと一言呟くとどこか吹っ切れたような口調で話す。
「お嬢様が目を覚ましたら、今まで言いたかった事を全部お嬢様に話そうと思うの、その先の事はそれからだけど」
「それでも不本意!だし、不愉快!だし、認めたくはない!けどあなたの言う通り、私は変わろうと思うの、強さの在り方も、心の在り方も。今までの十六夜咲夜を殺して、新しい十六夜咲夜として生きようと思うわ」
大事な事だから三回言いましたの如く咲夜は強調して宣言する、そんなきっぱりとした対応も霊夢は苦笑いを続けながら一応お礼を言おうとすると
「礼はいらないわ、なんだかあなたとは長い付き合いになりそうな気がするし」ニコッ
「散々殺す、殺すって思ってた癖にとんでもない開き直りっぷりねこの糞メイド」ケッ
「それは昔の私だもの、今の私にはそんな物ないわこのバケモノ巫女」ニコッ
「どうでもいい所が残っているわよこのボケメイド」ケッ
互いに軽口を叩いた瞬間、霊夢のお腹は無視すんな馬鹿やろうといいたそうにグーと鳴る。
恥ずかしくなる霊夢に
「もう帰りなさい、そろそろまだ事情を知らない妖精メイドが起きてきちゃうから、そうなったら話がややこしくなる。」
と咲夜はまるで遊びに来た我が子の友人をお家に帰らせようとする母親のようにどこか呆れながら提案する。
「覚えておきなさいよ、今度来た時はうまい料理をたらふく食わせなさい。」ブーブー
「それはまぁいいけど、その前に少しでも食事作法を学びなさい、汚らしくてしょうがなかったわ。」ニヤニヤ
最後の最後まで馬鹿にされてるようで霊夢は顔を真っ赤にしながらフラフラ神社の方へと飛んでいく。おっと言い忘れ
「咲夜ぁー」
「何よ霊夢ぅー」
「レミリアにぃー、翼は大事にしときなさいって言っといてぇー、後あんたは髪の毛を大事にしなさいねぇー」
いつか食ってやるからさは胸にしまって、霊夢は頭を傾げる咲夜を背にようやく帰路へと着いたのだった。
そして紅霧異変は解決された
8.幻想郷は、いついかなるときでも幻想郷
すっかり日が昇り、日光が傷口にチクチクと突き刺さり始めた頃。
神社の縁側にようやく着いた霊夢はフラフラと部屋に入ると棚を開けた、そして中にあるたべかけの霧雨魔理沙の髪の毛団子を取り出すと、しばらくそれを見つめ、思いを耽た
とみせかけてめんどくさいとばかりに一口で頬張ると霊夢はむっちゃむっちゃと噛み締める
霊夢はしみじみと思う
あぁいまわたししあわせだなぁー
ゴクリと胃に流し込み、霊夢はその場でドサリと寝転ぶと霊夢の意識は眠りに付く、口元からは涎を垂らし、頬は緩み切っていた、他人が見れば幸せそうすぎて殴りたくなるような顔で霊夢はぐーすかぐーすかと深く深く眠っていく
空の海を、黒い星が翔けていた
そしてEXへ
「ここ直せよボケ」といった所があれば是非ご指摘お願い致します。
9月10日追記
僅か二行で全容をまとめた感想に感銘を受けた一方、不満を与えてしまい大変申し訳ありませんでした、よく練り直して次回納得していただける内容を描けるよう奮励努力いたしますので、その際にまたご指摘していただける事をお願いいたします。
ツナクマ
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2011/09/08 11:37:50
更新日時:
2011/09/10 21:53:43
評価:
3/22
POINT:
440
Rate:
4.23
分類
はらぺこ霊夢
俺設定のバーゲンセール
加筆修正
コメント返信
結局は強い主人公が調子に乗ったザコをボコって説教するという唯一絶対の構図に収束してしまったのはちょっと残念だなと我は思った
どこが糞かは投稿者が最もよくわかるはず
最後まで突き進んで蝙蝠の羽モシャって帰ってたらよかったなー