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『過去』 作者: ラビィ・ソー
12歳の慧音は純朴で服装にはあまり気を使わない少女であった。
当時はネットも整備されておらず、図書館に通って得た知識を友達に
楽しそうに話すのが慧音の社会的立ち位置であった。
ものしりでエネルギッシュで愉快な慧音を皆が愛していた。
ところが周りの子はだんだん色気づいてくる。
友達との話もかみ合わなくなってくるので仕方なく化粧やお洒落をする。
さして興味のない流行遊びに参加する。
こうしてはたから見ると慧音ちゃんも大人になってきたのねーという具合だったが、
実際はそうではなかった。中身は図書館で知識を詰め込むのを生きがいとする
純朴な少女のまま、迫害を受けず、発言権を得るために普通の子を演じているに過ぎなかった。彼女の人生は2重になった。ほかでもない、これこそが
病気の第一段階であり、お人よしの少女が陥った罠であった。
今冷静に考えてみれば、くだらないプリクラやらゲームやら、jポップ(笑)、お洒落やらは
子供だましの能無しが考えそうなビジネスであり、こんなものにハマる周りの子供が
バカなだけで、図書館がよいの慧音のほうがよっぽど自分の人生に有益なことを
していたのである。しかしこの年代の子供というのは自分が一人前の大人になれるのかどうか
不安でならない。そこをこういった商法は巧みについている。大人になっていく周りの子供たち・・
乗り遅れるのが怖い・・おいてかれて、友達でいられなくなるのが・・・こうして、同じようなものが
大量に子供にいきわたる。
さて、慧音は16歳になっていた。もう完全に外ではテンプレどおりの優等生、(を演じ)
自分の人生は休日の自分の部屋のみになっていた。学校では当たり障りのないことしか話さない。
この年代の少女はこういうことを考え、こういうしゃべり方をするのが「普通」なのね・・といちいち考えて、
そこから外れないようにしていた。週末はドッと疲れ(2人分の人生なのだから当然)、あまり本を読まず
TVゲームなどの楽な気分転換が増えていった。
このときの慧音は知らず知らずのうちに、演じていた人ウケのいい自分がもう一人の本当の自分を徐々に侵食
していた。年齢とともに多忙になる。そうすると演じている人はどんどんと本当の自分のほうを
切り売りさせられることになる。だが、自分の生き方を冷静に長い目で考えることができるのは、
本当の自分のほうなのだ。なので、一見優等生のひとが、実際は自分の人生を建設的に捉えておらずに
破滅する。「やるべきことをせずにどうやって生きていくつもりだ!」という類の脅迫に屈するな。
そうやって自分を社会に売った結果、自分のことは何一つ、何年間も考えてこなかったという事実を突きつけられ、
ニートとなるのだ。
そして数年後、就職して2年目の4月20日。
朝起きてみると、体が硬直して動けない。
年次有給休暇は一年目の15日をまったく使わず繰り越して、35日余っていた。
何かの病気も疑われる・・仕方ない、一日使おう。
この日は火曜日であった。前日は労働組合の青年部の飲み会で元気(を演じ)にお酌して周り、
2次会のカラオケもお開きまで参加した。
このとき慧音の本当の自分のほうの人格が、最後の攻撃をしていたのである。
これ以上演じるな。これ以上演じたら私はこの元気のいいアホ(演じている人格のこと)に取り殺される。
今だって見てみろ!本当の私のために用意されてる時間が、この先あるか?もう引きかえせ。
無茶な登山はここまでだ。潮時なんだよ。そして時間がかかってもいい、何年かかってもいいから、
演じているこの思考能力のないアホな奴隷、目的地から遠ざかる船頭を殺害するのだ。
布団の中の慧音は一筋の涙を流した。麻痺が取れたような感覚だった。
狭い部屋に差し込む光と、やや冷たい空気が美しかった。
こうして有給はすべて使われ、慧音は精神科で貰ったうつ病及び適応障害の診断書を
会社に提出した。会社の人間は月並みな慰めの言葉をかけ、早く戻ってこいよ、などと言った。
そのうちの一人など、「気分が晴れるかもしれないから、飲みにいこう。」などと言い出した。
慧音は思った。あの時と一緒だ。少年時代のあの時と。バカなその辺のやつは当時プリクラやらゲームやら
詰まらんものに誘い、今はうつ病の人間に酒を飲まそうとしてる。それも、善意で。善意でこれ。この発想。
こいつらに舵取り任せて自分の人生歩めるわけないじゃん。罠だったんだよ。まじめに捉えたやつがハマる、な・・
2週間に一度、バスに乗って精神科に通い、処方されたデパスを受け取って帰宅する。
外出する機会はこれだけだという旨を医者に伝えると、なにか定期的に外出する機会を持ったほうがいいと
言われた。
「そうですね・・例えば・・」
慧音はまさか、と思った。そのとおりだった。
「図書館に行くとか。」
自分は本当に時間を無駄にしたのだと、否、誰か顔も知らない小ざかしいやつに盗まれたのだと、
はっきり悟った。見てみろこれを。体を壊してから結局行き着くところは図書館、健康だったかつての自分が
通っていたのも図書館だ。ほらみろ、媚びない自分のほうが自分の人生のためになることをしていただろうが。
完全に無駄足を踏んだ。演じていた時代に得たものなんかゴミだ。あー誰でもいいから殺してえな。
慧音は預金通帳の残高の続く限りニートをすること、それまでにもう誰にも惑わされずに自分の心身の
健康を取り戻すことを強く心に誓った。
ラビィ・ソー
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2011/09/11 19:40:54
- 更新日時:
- 2011/09/12 04:40:54
- 評価:
- 4/21
- POINT:
- 670
- Rate:
- 7.72
いつもとまるで雰囲気違いますけど、こんな素敵な作品を書いて大丈夫なんですか?
ありがとうございます。大丈夫って何ですか?www
ドロドロと爽やかの混合がいいバランスになったと思います。僕も好きです。
>>13
医者も社会の一員ですからね。一度世捨てしないと治らないでしょうね。
>>14
強ければ大丈夫なんですけどね。強いと不道徳とかいうやつは人未満なので無視安定。
そして過程がやけに生々しいのがゾクゾクする これいつか犯罪者になって人生EDなんやな 悲劇やな
まー女がこうなったらいい男(もこう?)でも見つけて家事でもしてるほうがいいね。
溶け込めないといえば、俺は学校嫌いだったよ。
全教科90点取る代わりに登校は3日にいっぺん、しかも半日にしてよって感じだったw