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『Eternal Full moon 第九話』 作者: イル・プリンチベ
―40― 釣り耳の刑
姫様の方針で、永遠亭の威信をかけた『月都万象展』を開催したんだけど、やっぱりあたしの予想が見事に当たってしまうという結果だったので、『月都万象展』を開いている間中に永遠亭を訪れた奴は誰もいなかったんだ。商業的にも興業的にも大失敗だったために笑うに笑えないんだけど、あたしが姫様だったらあんな馬鹿な企画をしないで大人しくしとくもんだよ。
でもってなおさら問題があるのは、姫様は『月都万象展』が大失敗に終わった戦犯をあたしに決めつけて、お仕置きという名の拷問をしているのさ。ちなみに場所は永遠亭の物置でやってるんだ。
結果を出さなきゃいけない時に出せなかったらこうなってしまうのは、姫様が決めた永遠亭のルールでもあるんだけど、こればっかりはあたしはどうしても理解できないのは、姫様やお師匠様やれーせんが致命的な失敗をやらかしても笑って誤魔化すだけでなく、他の誰かに責任をなすりつけるんだから本当にたまったものじゃないね。しかも、責任を負わされるのは例外なく地上の兎で、とくにあたしのことを必要以上にターゲットスコープにしたがるっていう事が普通にあり得ないってもんさ。
「てゐ!あんたのせいで『月都万象展』が大失敗に終わったんだからね!この責任をどう取ってくれるのよ!いい加減、自分が戦犯だということを認めなさい!あんたみたいな役立たずなんか永遠亭にいる資格はないのよ!今すぐここから出て行きなさいよね!」
れーせんはあたしが『月都万象展』を大失敗に追い込んだ戦犯だと思っているから、永遠亭から出て行けと言ってくる。
「ぎゃああああああっ!ひ、姫様、お、お、お師匠様、れ、れ、れ、れーせん様。本当に申し訳ございませんでした!す、全ては私の責任です」
「二度とこのような失態をいたしませんし、姫様には永遠の忠誠を誓わせていただきますので、どうか私のことを信じてください」
あたしは拷問の痛みに耐えきれるほど強くないから、姫様に開放するように訴えたんだけど、姫様ときたらあたしの言う事なんて聞く耳持たない素振りをあからさまに見せつけてくるんだ。
「何寝ぼけたこと言ってるのよ!“詐欺兎”のあなたなんか、私達は始めから信用していないわ」
「どうせまた私達に向かって平気で嘘をつくし、ちょっとでも都合が悪くなったら八雲紫の陣営につく腹積もりでしょう!?」
「私達は卑しく穢れきったあなたの性根を、高貴で穢れないものに変えるために、あなたの嘘で出来た耳を正しい形にしてあげてるのよ!」
「あなたは私達に感謝するのは当たり前だけど、恨みを持つことはあってはいけないんだからね!これも私達の愛だということを理解しなさい!」
姫様はあたしに愛をもってこのようなことをしていると言ってるけど、絶対に憎しみと軽蔑以外感じないんだよね。何といっても、忠誠を誓うというあたしの言葉を信じてもらえないことが辛すぎるったらありゃしない。
ちなみにあたしは“釣り耳”という兎専用の拷問具にかけられ、全身を縄で縛らされているからまともに身動き一つとれないんだ。あたしはやるべきことをやったのに、なんでこんな仕打ちを受けなきゃいけないのかいまいち理解出来ないよ。
この“釣り耳”というのは罪を犯した玉兎専用の拷問具で、両方の耳の付け根を首吊りみたいにしてなおかつ足に重りをつけるから、あたしの可愛いウサ耳がちぎれそうなぐらい痛くてたまらないのさ。
こんなに痛いんだからさっさと死ねりゃ楽でいいのに、健康に気を使い比較的体が頑丈な妖怪兎になっちまったことがこの時ばかり嘆かわしくて仕方ないね。それにしても、どうしてこんなヤバい拷問道具がここにあるんだろうね?
「てゐ!なんて事してくれるのよ!あんたがビラ配りの手を抜いたから、誰も『月都万象展』に来なかったじゃないの!この責任をどう取るつもりなの!?私が『月都万象展』のために投資した40億円ほどの大金が全部無駄になったじゃないのよ!!!!!」
姫様はあたしを拷問部屋に呼び出し、地獄の悪魔のような形相をしている。『月都万象展』が大失敗に終わったのは、すべてあたしの仕事のせいだと決め付けているんだ。
『月都万象展』に投資したお金はそもそもあたしが長年かけて作ってきたお金なのに、姫様ときたらあたしの物も自分の物だと信じて疑わないんだ。姫様、いくらなんでもこれは酷すぎですよ。
「ぎゃあああああああっ!ひ、姫様。お、お師匠様。れ、れーせん。わ、私はただ自分の職務を遂行しただけです。本当です。私の忠誠心を信じてください!御免なさい、御免なさい、御免なさい」
あたしは出来る限りのことをやったんだけど、姫様とお師匠様とれーせんは、結果がすべてだと言わんばかりにあたしの真面目に仕事をしてるなんて認めてくれない。それどころか私の供述を信頼してくれない上に、容赦なく詰問してくるんだよね。
確かにあたしは“賽銭詐欺”や“カラー兎詐欺”や“架空請求”の類をやってきたんだから、こうなってしまったのは自業自得なのかな?ひょっとして、もしかして、まさかとは思うけど、あたしって、誰にも信頼されてないわけ?
「嘘おっしゃい!どうせあなたことだから、手当たりしだいに配って誤魔化したんでしょ!てゐ、あなたの嘘なんか私にはお見通しよ!」
バシッ!
この通りれーせんは始めからあたしのことを信じてくれないから、私の供述を始めから嘘で塗り固められたものだと思っている。
しかも今回の「月都万象展」が大失敗したのはあたしのせいだと決め込んでいるから、れーせんはあたしを鞭で叩きつけるんだ。ハッキリ言って死ぬほど痛くてたまらないよ。
「ぎゃあああああっ!わ、わ、わ、私はただ、『月都万象展』の成功を願って誠心誠意を尽くした所存でございます。どうか私のことを信じてください姫様」
実際あたしは『月都万象展』の成功を願って身命を賭けて仕事をしていた。人里の人間達に石を投げつけられたり、死のリスクを背負って妖怪の山や冥界や地底に行ったり、恥を忍んで紅魔館や命蓮寺や博麗神社に行ったりしてたのにね。あんなに必死になって頑張ったのに、こんな酷い仕打ちを受けるなんて信じられないよ!
「こうなってしまったのはあなたの自業自得ね。あなたの言動からして、私達に忠誠を誓っているのか、八雲紫に忠誠を誓っているのか、はたまた誰にも忠誠を誓ってないのか…」
お師匠様は完全にあたしを疑っている。お師匠様は診療所をやっているんだけど、地上の妖怪や人間に対し軽蔑の眼差しを向けるのをあたしは知っているんだけど、その時の眼差しを今あたしに向けている。
「私達もあなたを信頼したから、こういう痛い目にあったのよね。あなたは私達から受けた多大な恩を仇で返すなんて、やっぱり地上の穢れた兎の考えている事はロクでもないのよね」
間違いなくあたしのことを軽蔑しきっているお師匠様は、れーせんから強引に鞭を取りあげるといきなり叩きつけてきた!
バシッ!
バシッ!バシッ!
バシッ!バシッ!バシッ!
「地上の兎の分際で、姫様の顔に泥を塗るなんて生意気なっ!」
「うぎゃあああああっ!お、お師匠様…。私はただ身命を賭けて…」
バシッ!
バシッ!バシッ!
バシッ!バシッ!バシッ!
「私のことをさんざん辱めるだけ辱めて楽しいんでしょ!このゴミクズ詐欺兎めがっ!」
「あぎゃあああああっ!わ、私は…。お師匠様に嘘などついていま…」
バシッ!
バシッ!バシッ!
バシッ!バシッ!バシッ!
「嘘つきは泥棒の始まりでしょう!?あなたみたいな身も心も穢れきった地上の兎に、高貴で穢れない我々月の民に口答えするな!」
「うぎゃあああああっ!」
バシッ!
バシッ!バシッ!
バシッ!バシッ!バシッ!
「ウドンゲ、“清めの水”をたっぷり持ってきなさいっ!とびきり濃厚な奴をね」
お師匠様は“清めの水を”れーせんに持ってくるように命令すると、
「はい、お師匠様っ!」
れーせんは慌ただしく物置から飛び出してからすぐに両手にバケツを持ってきて戻ってきたんだ。
「姫様、お師匠様。清めの水を持ってきました」
鈴仙は恭しく姫様とお師匠様に清めの水を持ってきたことを報告したら、
「ご苦労さん」
「よくやったわね」
姫様とお師匠様はれーせんを労ったんだけど、あたしのような地上の兎には今まで一度たりとも労った事がないことに憤りを感じてしまったんだ。やっぱりあたし達地上の兎は差別されているんだね。
「あなたから地上の穢れを取るために“清めの水”をかけて、私達のように穢れなく尊い存在に近づけてあげるから喜んで受け取りなさい!」
バシャッ!!!!!
お師匠様は何を思ったか、あたしにバケツ一杯に入ってる“清めの水”をかけてきた!
「ぎゃあああああっ!!!!!うぎゃああああああっ!!!!!」
“清めの水”は容赦なくあたしの傷口に染み込んでしまい、拷問を受け続けたことによりただでも痛い身体をより酷く痛めつけるんだ!
「てゐ!本来ならあなたは処刑されてしかるべきなのに、慈悲深い私の温情があるから生きていられるんだから、ありがたき幸せだと思いなさい!」
バシャッ!!!!!
「うっ、ぎゃああああああっ!!!!!あああああっ!!!!!あぎゃあああああっ!!!!!」
姫様もあたしに“清めの水”を叩きつけるようにかけてきたんだ。“清めの水”の正体はただの塩水だってことはわかったんだけど、擦り傷や切り傷に塩水が入るのは妖怪でも痛いことに変わりはないのさ!ハッキリ言って、死ぬほど痛いよ!
「これでこの件に関して終わらせてあげるから、私が偉大な姫であることをいい加減認めなさいっ!」
バシッ!!!!!
「私の『月都万象展』を台無しにして!」
バシッ!!!!!
「地上の兎の分際で、月の姫である私を辱めるなんて信じられない!」
バシッ!!!!!
あたしは姫様の怒りを込めた一撃を受けると、流石に耐えきれなくなってしまったのであっけなく意識を失ってしまったんだ。姫様とお師匠様とれーせんの3人に合計何発鞭で叩かれたか数えちゃないんだけど、間違いなく1000発以上やられた事は確かだと思うね。
―41― 月の民の見解
「だらしない。こんな程度で気を失うなんて、地上の妖怪は想像以上に弱いのね。力のない妖怪の分際で私達月人を敬わないことが決して許されないのに、あろうことに竜神なんていうまがい物の神を慕うなんて信じられないわ!」
輝夜は激しい拷問によって意識を失ってしまったてゐを侮蔑すると、地上の人間や妖怪が月の都の姫である自分に政権を譲らないで、竜神というまがい物の神が幻想郷の最高神だと信じて疑わない姿勢を取り続けることに納得できていないのだった。
「そうですよね。人里に住んで嫌がる人間のクズどもは私達月の民を敬わないで、竜神の石像を敬っているんですから、何を考えているのか本当に訳がわからないですね」
鈴仙も人里の人間達が竜神の石像を敬っている現実を理解しかねているのは、税金の類はボーダー商事経由で竜神に送ることなく、全て月の民である自分達が全て受け取るべきだと考えているからだ。
「本来ならば幻想郷を支配するのは姫様ですから、地上の愚民どもや妖怪どもは我々にひれ伏して、蓄えているすべての財産を我々に献上しなくてはならない筈です」
「一体いつから地上の人間と妖怪達はこのように増長したのか…。穢れあるあの連中の考えている事は私には理解できません」
永琳も地上に住む人間と妖怪は穢れきっていると信じて疑わないので、月の民である自分達が目上であると思っているし、地上に這いつくばっているすべての人間と妖怪は、月の民である自分たちに服従する証としてすべての財を納める義務があると見ているのだ。
月の民である輝夜と永琳と鈴仙にとって、本来幻想郷を支配するのは自分たちである筈なのに、地上の人間や妖怪は政権を譲渡しない姿勢を貫き通す事が何よりも許せないのである。
―42― 幻想郷報告会
今日は幻想郷の有力者が一堂に集まる最高会議の日である。“幻想郷報告会”の会場は基本的に交代制で紅魔館や白玉楼などが会場になるのだが、たまたまこの日の会場となったのは人里付近にある命蓮寺であった。余談であるが、今日の幻想郷の天気は雨なのは、“幻想郷報告会”がある証で、妖怪達は報告会の前日に会場に足を運びそれぞれが雑談を交わし交友を深めるのが慣例となっている。
この“幻想郷報告会”は非常に厄介なもので、幻想郷の最高神であり本当の支配者たる竜神がやってくるので、会議に参加する有力者は皆竜神の恐さを知っているために常に戦々恐々としている有様だ。
名目上は報告会といっても、実際は竜神が妖怪の権力者たちの活動の問題点を指摘してそれを修正するように命令するだけである。嘘をついても竜神の眼は絶対に誤魔化せないので、ここにいる妖怪達は参加する権利を誇らしく思うと共に、自分はどうあがいても絶対に太刀打ちできないことを煩わしく感じてしまうのだ。
“幻想郷最高会議”に参加する妖怪達の席はあらかじめ決まっており、上座に竜神が座るのはもちろんのことだが、下座は左右2列に分かれ、左側の一番前から八雲紫、伊吹萃香、四季映姫・ヤマザナドゥ、レミリア・スカーレット、比那名居天子、八坂神奈子の順となっており、右側は西行寺幽々子、星熊勇儀、風見幽香、古明地さとり、聖白蓮、洩矢諏訪子の順となっているのだ。
ここではいつもなら自信満々の妖怪達は顔を蒼白にして怯えながら平伏しているのは、竜神の力圧倒的でこの場にいる彼女達を一瞬にして塵にすることが出来るからだ。
「おい、八雲」
竜神は会議場一体にドスを利かせた声で紫を呼び付けた。この声を聞いただけで幻想郷の有力者扱いされる妖怪達ですら、全身が震えてまともに身動きがとれなくなってしまうほどの圧力がある。
「は、はい、竜神様」
いつもなら胡散臭くもありながら余裕を感じさせるあの八雲紫でさえ、極度の恐怖から全身から滝のように汗を流すだけでなく、はかとなく挙動不審さが現われるために声が裏返ってしまう有様だった。最強の妖怪とさえ謳われている紫でさえ、竜神相手では大人と子供ぐらいの力量差があるのだから、他の妖怪達も皆竜神に畏敬の念を感じているので竜神の前で多少恥をかかされたとしても恥じることはない。
「相変わらずあの月人どもは、わしを幻想郷の最高神だと認めていないようだな」
竜神は紫に永遠亭に住んでいる月人達は、未だに自分のことを認めていないことを権力者たる妖怪達に告げた。
「は、はい。そのようです。あいつらは、竜神様を差し置いて幻想郷は自分たちが治めると考えているようであります」
どこか挙動不審な紫は竜神にありのままの現状を述べ、事実に基づいて真面目に応えているのだが傍から見ると、あの妖怪の賢者たるスキマ妖怪の威厳はどこへやら、はかとなくマヌケに聞こえてしまう印象があった。
「はぁ?そのようですと寝ぼけたことを言うな!このアホタレっ!」
紫のマヌケな回答に腹を立てた竜神は紫のことを激しく罵倒した。竜神の怒鳴り声は部屋一帯に響き渡り、会議場にいた妖怪達を威圧するぐらい強烈なものだった。なにせあの我儘で自分こそがナンバーワンだと思い込んでいるレミリア・スカーレットや比那名居天子ですら借りてきた猫のように大人しくなってしまうし、威厳溢れ威圧感のある八坂神奈子や洩矢諏訪子や聖白蓮や四季映姫・ヤマザナドゥですらその場で平伏する以外できなくなり、いつも余裕満々な態度を取り恐怖の対象である西行寺幽々子や風見幽香や古明地さとりや伊吹萃香や星熊勇儀ですら排除される恐怖に怯え失禁する醜態を晒してしまうのだから。
「も、申し訳御座いません竜神様!」
紫は排除される恐怖に怯えきってしまい、月人を支配下におけない自分の失態を泣きながら謝罪するしか出来なかった。
「お前らが博麗大結界を張ったときにわしは、幻想郷が崩壊する恐れがあったから大洪水にしたんだが、あん時のお前は幻想郷を永遠の平和にする事をわしに約束したろがっ!違うかっ!?」
怯えきった紫に対し竜神は容赦せず、博麗大結界を張った時を持ち出してあの時に交わした約束を思い出させる為に激しく罵倒した。
「りゅ、竜神様のおっしゃる通りでございますっ!私、八雲紫は、あの時竜神様に幻想郷を永遠の平和にしていくことを約束いたしました」
竜神の言う事に謝りはないので、紫はなおも泣きながら土下座をしてしまう有様なのだ。
「おうよ。あの時わしはお前を信頼して幻想郷を任せることにして、お前のボーダー商事を幻想郷の政治と経済の中心にしてやったことを忘れたわけじゃあるまいな」
「それにだ。妖怪のリーダーたるお前がしっかりしてないから、危険分子の宇宙人どもにナメられ続けてるんじゃ話にならんだろが!このバカタレッ!」
幻想郷を表向き掌握しているのは八雲紫であることは周知の事実だが、本当は裏の裏から八雲紫を操っているのは竜神であり、幻想郷においてすべての生けとし生きる者は竜神に従わなくてはならない決まりがあるも、現状はいつまでたっても永遠亭の面々は竜神に従う姿勢を見せないので、宇宙人達に幻想郷のルールを理解させれない紫のふがいなさに竜神は腹を立てている。
「申し訳御座いません竜神様!愚かな私を死罪に処してください!」
紫は自分の責任を取るために、死んで詫びようと竜神に言って胸元に隠し持っている短剣をクビにつきつけようとしたら、
「八雲、お前にはまだやる事があるだろが!それまでは死んではならん!死ぬのはいつでもできるが、自分の名誉を挽回するためにゃ生きてないといかんだろう!?」
「今の博麗の巫女は救いようがないほどどうしようもない奴なんだが、あれの面倒を見るのはお前以外に誰がいるんだ!?それが出来る奴はお前以外誰もいねーんだよ!アイツを真人間にする事と、ここにいる妖怪達を取りまとめることが出来るのはお前しかいないという事が何でわからんのだっ!」
竜神は紫にやるべきことを死んで放棄するより生きて義務を果たすことを選択させたのは、怠慢極まりない今の博麗の巫女を真人間に更生させる役割があることと、力のある妖怪達を取りまとめれるのは紫以外いないことを誰よりも理解しているからだ。
「八坂、洩矢、古明地」
竜神は神奈子と諏訪子とさとりを少し威圧するような感じで呼びつけると、
「「「は、は、は、はいぃぃぃぃぃ!」」」
神奈子と諏訪子とさとりは極度の緊張に襲われたので、全身に滝のような汗を流しながら土下座をしてしまったのだが、この姿は普段の彼女達から想像もできない代物である。
「お前らが河童のエネルギー革命を進めているのは、幻想郷のすべての人妖のためであることはわかったが、例の施設がいつどうなるかわからんからちゃんと管理しとけっ!」
竜神は神奈子と諏訪子とさとりを中心に行っている河童のエネルギー革命を容認しているのは、幻想郷の社会全体がより発展していくことを条件に行っているものなので、もし何らかの不具合が起こってしまったらそれこそ取り返しがつかなくなってしまうからだ。
「「「竜神様、承知いたしましたっ!」」」
この場において神奈子と諏訪子とさとりはただ平伏するしかないのは、自分達が今の幻想郷の社会において生き残っていくためには竜神に従うしかなく、もし逆らうなどの反抗的な態度を取ってしまえば、自分だけでなくかかわっているもの全てを抹消されてしまうからである。
「四季、聖、風見、伊吹、星熊」
竜神は四季映姫と聖白蓮と風見幽香と伊吹萃香と星熊勇儀を睨みつけながら呼びつけると、
「「「「「は、はいっ!」」」」」
四季と白蓮と幽香と萃香と勇儀は自分の存在が抹消される恐怖を感じたので、滝のような勢いで冷や汗をかきながら土下座をしてしまった。普段はどんな圧力にも屈しない四季が相手の干渉に従ったり、誰に対しても対等に接する白蓮が相手の顔色を窺ったり、笑顔を絶やさない幽香があからさまに怯えていたり、驚異的な力を持つ鬼の萃香や勇儀ですら手も足もでず子供のように大人しくしている姿は想像できない代物であるが、幻想郷の最高神である竜神相手だったら無理があるというものだろうか。
「お前達のやっている事業は認めてやるし、役割上それ相応の権利を与えているんだが、今まで通り自分の役割に徹することだ。もし、変な気を起こしたら、ただじゃおかんぞ。わかったな!」
竜神は、四季と白蓮と幽香と萃香と勇儀が幻想郷の秩序を乱すことなく今まで通りのやり方を維持するように指示をしたのは、発言に多大な影響力を持っている彼女達が不用意なことをするとやっと安定し始めた環境が一変して、混迷した群雄割拠の時代が再び到来する恐れがあるからだ。
「「「「「か、かしこまりましたっ!」」」」」
四季と白蓮と幽香と萃香と勇儀は竜神に対し改めて忠誠を誓うのは、ここにいる権力者が束になって竜神に挑んでも敵わないことを知っていると共に、自分達が不正をすると他の妖怪達が黙っていないことを理解しているからだ。
「スカーレット、比那名居、西行寺!」
竜神がレミリアと天子と幽々子をもの凄い剣幕で睨みつけて怒鳴ると、
「「「ははーっ!!!」」」
レミリアと天子と幽々子は竜神の迫力に圧倒されてしまったので、誰にも従わない傲慢な彼女達ですら呆気なくひれ伏してしまった。
「ある程度の我儘は許容してやるが、お前らが起こしたかつての異変のように周りに迷惑をかけることをしたら、その時はお前たちの血縁関係にある者や全ての従者たちを抹消するから覚悟しておけい!」
竜神がレミリアと天子と幽々子が起こした異変を悪質なものと認識しているので、改めて忠誠を誓った今でも厳しく接している理由は、それにより多くの人間が犠牲になってしまったからである。
「「「しょ、承知いたしましたっ!」」」
傲慢極まりないレミリアと天子や掴みどころがなく何を考えているかわからない幽々子ですら竜神には従わざるを得なくなったのは、自分の軽率な言動が元で全てを失う事を理解してしまったからだ。
「博麗の巫女が急患に行った時に助けてやればまだ見込みがあると思うんだが、人の命より自分たちの利益でしかない『月都万象展』を優先させたのだから、もうあいつらは救いようのない奴らだという事を改めて思い知らされたわい」
「いい加減あいつらには罪を償わせる時がきたのかもしれんな…。どれ、わしがちょっとばかし痛い目に合わせてやるとするか」
竜神は集まった妖怪達をけん制し終えると、急に話題を永遠亭にいる月人たちの処分に関することに飛ばしてしまったので、あまりの急展開についていけなかった妖怪達は口をポカンと開けてしまうというマヌケ面を晒してしまった。
「竜神様、本気ですか?」
やっと紫が落ち着きを取り戻し竜神がそれを本気でやるのかを聞き直すと、
「八雲、わしは本気だよ。ここにいる者全員地獄行きなのは確かだが、あいつらときたらそろいもそろって償いきれない罪を背負っているもんだから、それと比べたらまだ可愛げのあるもんだのうて」
竜神は先程と打って変わって、どこか慈悲を漂わすとともに真剣なまなざしをしていたので、紫を始めとした妖怪達は竜神が本気で月人達を排除することを理解したのだった。
「自分たちの罪を償うために満月の晩に例月祭をやっているが、本当の意味で罪を償うというのは自分を犠牲にしなくてはならんのだよ。悲しいかな、奴らはそれを解っていない」
素行に難がある娘のような妖怪達を厳しく叱りつけた後に優しく諭す父親の顔を見せた竜神は、
「わしがお前達を叱るのは憎いからやっているのではなく、本当の娘のように可愛いからあえて厳しくしている事を解ってほしいのだ。本当の愛情というのは、甘やかすだけでなくある程度の厳しさがなくてはならん」
「それに幻想郷は人間と妖怪が共存し合う社会構成で出来ているのだから、お前達妖怪が強すぎても問題あるし、一方的に妖怪退治が横行されるのもまた困りものだ。種族は違ってもお互いを差別することはあってはならない。これはわかるだろう?」
このように種族間による差別がどれだけ愚かなことかを伝えたら、
「はぁ、面倒だが仕方ないな。わしがあいつらと少しばかり戯れてみるとするか。大丈夫だ、迷いの竹林以外に被害を及ぼさないからお前らは安心せい」
「異変は起こしても構わんが、程度というものを考えてやるように」
何を思ったか、竜神は“幻想郷報告会”の会場である命蓮寺から姿を消してしまったが、風とともに現れ風と共に去ってしまうのはいつものことである。
―43― 避難勧告
「今日もお客様で一杯だった。明日もお客様に来てもらうためにもっと精進をしなくては」
迷いの竹林に住む藤原妹紅は今日も人里にやって来て、焼き鳥屋の屋台を営んでいるのだった。妹紅のひとりごとの様子から察してみると、商売はそれなりに繁盛しているようだが自分の腕がまだまだ未熟だと思っているので、より腕を上げなくてはならないと認識しているらしい。
店舗と厨房を兼ねたリアカーを引いて自分の庵に帰る道中に、
「はろ〜、“もこたん”。みんなのアイドル“ゆかりん”よ!」
妹紅の前になんといきなり瞳がいっぱい付いたスキマが現れてから、フリルのついた豪勢な日傘を片手に持ち、紫色を基調とした派手なドレスを身にまとい、長く伸ばした金髪にリボンをたくさん結び付けていて、どこか胡散臭い笑みを浮かべている“ゆかりん”がやってきた。
ちなみに“ゆかりん”は、あんまり来て欲しくない時にたいていやって来るだけでなく、絶対に来て欲しくない時に限って絶対にやって来る傾向にあるためにあんまり歓迎したくない相手である。
「なんだ、八雲さんか。しがない焼き鳥屋でしかない私に一体何の用ですか?犯罪なんかの問題行為はしてませんし、ちゃんと税金は欠かさずに納めています」
「それに今は夜も更けて、まともな人間は今頃おねむの時間ですよ」
勝手に自分のミドルネームを“もこたん”と決めつけ、いきなり姿を現したのだから一体何をけしかけるんだろうかと気が気でなかった妹紅であるが、さりげなく今の時間帯は人間が活動していないことを紫にツッコミを入れておくことも忘れない。
「あら、御挨拶ね。あなたに折り入って話しておきたい事があります。これから竜神様が永遠亭一体に“施し”をされるので勝手な都合で話を進めて申し訳ありませんが、あなたには人里に移住して頂きます」
「新しい家はすでに手配をしておりますし、生活に不自由しないように上白沢さんにも連絡をあらかじめとっておきましたのでご安心を」
紫は妹紅に人里で暮らすことを求めると、
「そうかい、あんたがそう言うなら私はそれを受け入れるまでさ」
聡明な妹紅は何らかの事情があると見て人里で暮らすことを受け入れることにした。“ゆかりん”に逆らったらロクなことにならないことを妹紅は知っているから、人里に移住することを難なく受け入れることにした。
「だけど今の話によると、あいつらはあんただけじゃなく竜神様まで敵に回しちまったってことか!」
「馬鹿野郎…。いくらなんでも竜神様に逆らっちゃならんのに、それはないだろう輝夜」
竜神に逆らうという愚行を犯した輝夜が破滅の道を歩むと考えた妹紅は、長年刃を重ねてきた仇敵が自らの手で見るも悲惨な末路を突き進んでいくことに呆れてしまい、思わず頭を抱え込んでしまわずにはいられないのだった。
―あとがき―
このお話にはどうしてもゆかりんを怯えさせる竜神様の存在が必要不可欠だと思ったのでこのような形で出すことにしました。
東方求聞史記によると竜神様は人間と妖怪が崇拝する最高神であるために、筆者である私個人の考えでありますが神としての威厳溢れる八坂神奈子さんや洩矢諏訪子さんよりはるかに格上の神であると思いますので、各勢力のリーダー格の妖怪達を圧倒する力を持たせないといかんだろうと思いましたよ。(三月精で霊夢が竜神様を崇めているセリフがあるのでそれを参考にしましたが)
イル・プリンチベ
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2011/09/13 08:04:26
更新日時:
2011/09/13 17:04:26
評価:
5/7
POINT:
450
Rate:
11.88
分類
因幡てゐ
永遠亭
ブラック企業
永遠亭の連中、ついに『あのお方』を怒らせちまいましたか……。
ほぅ、紅い霧や春の雪や気質のアレは、堅気に被害を出してたんですねぇ……。
しかし、『博麗の巫女』の更生が重要議題とは、霊夢っていろいろとすげぇですねぇ……。
私のストレスがLimit Break寸前なところで、ようやく連中にヤキが入れられるのですか。
この点数は、私の期待の表れですので、楽しみにしていますよ。
本当は紫が担いだ空想上の人物だったりして
>『〜必要以上にターゲットスコープにしたがるっていう〜』
ここは「スケープゴート」の間違いかな?
勘違いだったら済まない
龍神様はむせかえるほどの幼女だって信じてるけど好好爺もいいね
やっぱりゆかりんってか東方のお偉いさん達はこういう姿の方が似合うね!!