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『夜雀は人気がある』 作者: まいん
注意、この作品は東方projectの二次創作です。
オリキャラ、オリ設定が含まれている可能性があります。
幻想郷中で今まで起こらなかった大地震が起きた、これが一部で起こったものであったらお互いに憎しみ合う者同士でも協力しあったであったろう。
ただ今回は自分達の住処を再建する事で手一杯であった、天狗は天狗同士、妖精は妖精同士、幽霊は幽霊同士、人間は人間同士、そしてその他の者達は自身の住処に近い場所を手伝った。
人里に住み着いている妖怪達は人里の再建を手伝った。
その中でミスティア・ローレライは今まで客として来ていた人間達の為に何か出来ないか考え、他の者達と一緒に交代で無料の炊き出しを始めた。
炊き出しを始めてから暫くして、お客さんだったおじさんが声をかけてくれた。
「おっ、ミスティアちゃんじゃあないか?」
「そうだよ……はいご飯どうぞ」
「いつもありがとう、突然で悪いがまた前の様に歌を聞かせてくれんかねぇ?」
突然のおじさんからのリクエストにミスティアは困った表情を浮かべた。そのやり取りを見ていた同僚の妖怪や人間は、いいよ歌ってあげなよ、といった声をかけた。
「〜〜♪〜♪〜♪〜〜〜♪〜♪〜〜♪〜〜♪」
非常に心地が良い音楽、今までの騒がしさが嘘のように静まり返り、人々はその声に静かに耳を傾けた。
しかし、周りの人々が目を押さえて叫び始めた。
「あ、あ〜目が目がぁ!」
辺りは軽いパニックとなった。
呆然としているミスティアに対し、事情を知っている妖怪の一人が声をかけた。
「ミスティア!ここは俺等に任せて一先ず逃げるんだ」
その言葉に我に返り森に走り去って行った。あいつ逃げたぞ! という声等は無視してひたすらに逃げた。
結局その日は同僚の妖怪達の説得により軽いパニックとなった人々は何事も無く帰っていった。
「はぁ……参ったなぁ……まさかこんな事になるなんて……」
ミスティアの歌を聴いた者は皆暫くの間鳥目になってしまう。彼女はその事を忘れていたのだ。
「明日行ったら、皆に謝らないと……」
謝って許してもらえるか非常に不安なミスティア、その夜は非常に不快な気分でいっぱいだった。
気付いたら人里近くまで来ていた、皆が既に寝静まっている。木の枝に腰掛けたまま彼女は歌い始めた。
「〜〜♪〜♪〜♪〜〜〜♪〜♪〜〜♪〜〜♪」
昼間と同じ歌、人里中に歌は響く、とても静かでとても心地の良い音色。
気付いた人が何人かいたが、歌を止める者はいなかった。人間は夜になれば目が見えにくくなる、そんな当たり前の事を気にする者はいないのである。
「皆さん! 昨日は本当にごめんなさい!」
炊き出しに来たミスティアが、炊き出しを待っている人々に対して精一杯の謝罪をした。
「ミスティアちゃん、こっちこそごめんよ事情を知らずに頼んだりして」
「いいっていいって、最初はびっくりして取り乱したけど、そっちの人達から事情は聞いたしさ」
「それより昨日の夜はありがとな! おかげで夜はぐっすり眠れたぜ」
人々の言葉は暖かかった、思い思いの言葉をミスティアに告げていった。
そんな言葉についミスティアは目頭を熱くさせてしまうのだった。
その日は人里から笑い声が絶える事は無かった。
その日から昼は炊き出し、真っ暗になった夜には歌を歌うという日が続いた。
ミスティアは里の人々から感謝された、あの時説得してくれた人妖に彼女は感謝した。
復興も順調に進み、彼女達の役割ももうすぐ終わりとなる。
ミスティアはこの仕事が終わったら、屋台の仕事に戻ろうと思った。
また、チルノ達と遊べる、誰も居ない森で自由に歌が歌える、全て地震が起きる前に戻る、彼女にとっては当たり前の日常が戻ってくる、それはとても嬉しい事の筈なのに彼女には寂しいという感情しかなかった。
その日の夜、もうすぐ人里で歌う事が終わる寂しさからであろうか
、彼女には珍しく人里の広場で歌っていた。
歌を歌い終わり、暫く休んでいると人が近づいてきた。気にせずに次の歌を歌おうとした時……
ドガッッ!
後頭部に強烈な打撃を加えられた。
「グッ!」
堪らず前のめりに倒れこむ。
頭を押さえて顔を上げると、肩幅の広い男達に囲まれていた。男達は皆棒などを持っていた。
ミスティアは逃げなきゃ、と思い立ち上がろうとした、男は前蹴りを彼女の顎に放つ。
「ぐがあああ」
今度は仰向けに倒れる格好となり、ある男は持っている棒で彼女の腹を叩いた。
「ぐぇぇぇ」
続いて、囲んだ男達も次々と叩き始める。
「ガッ!グッ!ギェ!」
妖怪とはいえ不意を衝かれ集団で囲まれてしまえばひとたまりも無い、ミスティアはいつ終わるともわからぬ暴力に、ただ身体を丸めて耐えるしか出来なかった。
この時に突然声が上がった。
「こらっお前達!」
声を上げた男は怒った様子でこちらに近づいてくる、今まで狼藉を働いていた男達は顔を真っ青にして近づいてくる男を見て立ち尽くしていた。
助かった! ミスティアは顔を上げて恩人であるその人の顔を見た。
「そんな滅茶苦茶にしてしまったら大事な声が駄目になってしまうだろ?」
ミスティアは何を言っている? といった目線を向けたが、そんな彼女のことをまったく無視して話を続ける。
「私は彼女の歌が気に入った、とことん気に入った、だから家に置くように決めた。……おいっ、おまえ彼女の膝肘より先を斬り、羽を捥いで、目を潰せ!」
救いの主だと思った彼はこの件の首謀者であった、先ほどから立ち尽くしている男達に指示を出す。
逃げようと足掻く彼女であったが両手両足をがっちり捕まれてしまった為、逃げ出すことも出来なくなってしまった。
男達はどこからか鉈を取り出し、彼女の肘に当てる。
「ひっ、やっ!やめっ……」
彼女の懇願も虚しく振りかぶった後、刃が振り下ろされる。
……ガッ!
「あああああああああああああああああっ!」
少ない量ではあるが鮮血が飛び、ゴギッと奇妙な音が鳴る。骨が折れたか骨に刃が達したか判らないが……
「あっ、あぐっ、がっ、ぐうぅ」
二度、三度と鉈を振り下ろす、更に振り下ろし続けることによって無残にも腕は切断されてしまった。
「ああああ、ああうあああ」
ミスティアを支配しているのは恐怖と絶望であった、その先にあるのは死だと本能が訴えかけた。
その時、妖怪であるミスティアは自身の命の危機に本来の妖怪の力を発揮した。押さえつけている男共を振り払い首謀者の男に向かっていった。その速さは人間に捉えられるものではなかった。
……そう本来ならば……
腕を一本斬られたミスティアは重心が大きくずれ、本来の運動神経を発揮できず前のめりに転びそうになる。
男達は先程の妖怪の本来の力に面を喰らっていたが、その隙を逃さず前に突き出していた腕に斬りかかる。次いで長柄の武器を持っていた男が彼女の脚を薙ぐ。
ちょうど半回転するように横に彼女は倒れる。
ぐぅあ、という呻きを上げる。今度こそ彼女は達磨の様な姿にされてしまった。
「計画通りではないが、結果は思う様にいった。お前たち今度こそ彼女を放すんじゃないぞ!」
ミスティアを座らせ男達はがっちりと肩を押さえる。
「さあ、ミスティアちゃん、私の顔を良く見るんだ」
理解できない。ミスティアはこの男にそういう視線を送った。
「この私の顔が君の生涯で最後に見るものになるんだからな……」
「っっっっっつ!!!」
ザクッ! ザクッ!
「ィィィィィィィィィィィィィィィイイイッ!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
金属の様な金切り声、裏返って言葉としての意味を発さない声。
その声に彼女の目を潰した男は笑い声を乗せた。
「ハハハハハ!ハーッハッハッハッ!」
今まで色々な料理を手がけた腕は無残にも奪われた。
今まで大地を蹴り幻想郷を駆け巡った脚は奪われた。
悲しい事も嬉しい事も、何より友を見続けた眼は奪われた。
再び絶望が彼女を包み、双眼を潰した男の笑い声の中、彼女は意識を手放した。
眼を覚ましたら、知らない匂いの場所にミスティアは居た。
妖怪の強い生命力であろうか、傷は全て塞がっていた。
だが、腕も脚も無い、潰された眼も無くなったままであった。
彼女は静かに泣いた、泣いて泣いて、泣いた。
泣き終わっても彼女の眼から涙が涸れることは無かった。再び光を捉えることの無い双眼からは常に涙が流れ続けた。
男が歌って欲しいと言っても、泣いてばかり。
男が歌う事を頼んでも、泣いてばかり。
男はご馳走を用意させ、彼女に食べさせたが、彼女は泣いてばかり。
彼女の為に音楽を聞かせたが、やはり泣いてばかり。
彼女に宝飾品を与えたが、彼女は泣いてばかり。
彼女に様々な贈り物をしたが、泣いてばかり。
彼女に切傷を負わせたが、彼女は歌わなかった。
彼女に刺傷を負わせたが、彼女は歌わなかった。
彼女の肩を食べたが、彼女は歌わなかった。
彼女を鞭で叩いた、彼女の肩耳を切落とした、彼女の鼻を削ぎ落とした、しかし彼女は歌わなかった。
彼女は歌わないのではない歌えないのだ、彼女は腕や脚、眼だけでなく声も失っていた。
男は愛した歌が聞けないと、業を煮やした。男は森にミスティアを捨てるよう命じた。
静かな雨音の中、彼女は眼を覚ました。
何も物を持てない、歩くことも出来ない、光を捉えることも出来ない、匂いもおぼろげにしか判らない。
もう私は何も出来ない、何もする事が出来ない。
このまま眠ってしまおう、死ぬまで眠って、死んだら……その時に考えよう。
雨が降っていて、鼻が利かない状態で懐かしい匂いがおぼろげにした。
ここは?
「……こ……は……?」
私はここを知っている?
「わ……は……を………し…………い…………………?」
何処だったかな?懐かしいな。
「……こ………た…?………な………………い……な…」
ああそうか、そうだそうだ、ここは……
出る筈のなかった声が絞り出される。
「…………………………ただいま」
地震の復興は順調に進んだ。全てが地震の前にもど……いや地震の前よりも活気が溢れるようになった。
ただ、ミスティア・ローレライの屋台は地震の前の様には戻らなかった。
あの時、あれだけ大きな騒ぎがあって気付かないものはいなかった。
彼女が捨てられた日、彼等一族郎党は里の人妖に嬲り殺された。
今彼女の屋台が開かれていた場所には平たい石が積み上げられているだけだった。
僕の作品ではまっすぐな正直者が被害に遭います、そう現実の様にね。
しかし、書きたいものと別のものばかり出来上がってしまうのは何故でしょう?
まいん
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2011/09/19 12:16:43
- 更新日時:
- 2011/09/30 22:15:40
- 評価:
- 5/9
- POINT:
- 590
- Rate:
- 12.30
- 分類
- ミスティア
人気(ひとけ)のある所で輝くものなんだよ。
それを独り占めたぁ、
奴さん、碌な死に方しないぜ。
ああ、もうそうなったっけ。
唯一の救いは、
今際の際に、女将さんは声を出せたって事かな。
――ある烏天狗の取材記録より抜粋
しかし加害者になることなく果てた彼女は確かに私達の中に光として刻まれるのである
わかります