Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/imta/req/util.php on line 270
『12月24日のささやかな酒宴』 作者: NutsIn先任曹長

12月24日のささやかな酒宴

作品集: 1 投稿日時: 2011/12/24 00:15:57 更新日時: 2011/12/31 02:00:10 評価: 6/15 POINT: 760 Rate: 10.47
12月24日の夜。

その日、その時間、幻想郷には雪が降っていた。



博麗神社。

「ジングルベ〜ル、ジングルベ〜ル、鈴が〜鳴る〜……と、あちち」

この時期、人里で流行る歌を口ずさみながら、楽園の素敵な巫女、博麗 霊夢は、
慌てて引っ込めた左手の親指と人差し指で耳たぶをつまんだ。

霊夢はちゃぶ台に置かれた濡れ布巾を手に取り、
煮え立った薬缶から、燗をつけた二本のお銚子をそれでつかんで取り出した。

このストーブって、冬場は重宝するわ。

霊夢は、幻想郷の管理人である八雲 紫から送られた石油ストーブの恩恵に感謝した。

ストーブは暖房器具としてはもとより、上方の加熱された鉄板部分は調理器具として役立った。
食パントーストや切り餅は焼けるし、なべを乗せて置けば具材はトロトロに煮込まれた。
そして、乾燥防止に沸かしているお湯は、お茶を淹れるのや、こうして酒を温めるのに使われた。

ちなみにストーブの燃料である灯油は、スキマ的な何かで常時満タンになっているが、
点火装置の電池は流石に手に入らないので、霊夢は芯にマッチで直接点火していた。



霊夢は、冬眠中の紫に、ほんの少しだけ、感謝してやった。

霊夢の顔が仄かに赤いのは、ストーブの間近にいるせいだ、うん。



しゃんしゃんしゃんしゃんしゃん……。



外から鈴の音が聞こえてきた。


しゃんしゃん……。

鈴の音が止み、

がらっ!!

玄関の引き戸が開き、



「メリークリスマリサ、DA・ZE!!」

きゅぴり〜ん、と、黒白魔法少女が現れた。



「最近のサンタさんは葬式帰りに仕事をするのね」
「この格好は、私のトレードマークだぜ」

いかにも魔女、という衣装の霧雨 魔理沙は独楽のように、くるりと一回転した。

「まあ、幻想郷では紅白衣装といったらサンタよりも……、て、おいっ!!」

ここでようやく、魔理沙は霊夢の服装が、いつもの腋を露出した紅白巫女モドキでないことに気付いた。

厚手の靴下を履き、ジャージのズボンにクリーム色の太い毛糸で編まれたセーター。
その上に少し大きめの半纏を羽織った姿は、まるで少し野暮ったい堅気の少女のようだ。
頭のリボンと揉み上げの髪飾りが無かったら、見間違える自信が魔理沙にあった。

「いいじゃない、寒いんだし。いざとなったらすぐに着替えるわよ」

少しむくれる霊夢。

「これなら、こっちのほうがまだサンタの衣装に近いな」
「赤と白が混じった色ですけれどね」

魔理沙の背後からひょっこりと現れる小柄な影。

「こんばんわ、霊夢。今日は目出度いクリスマス・イブね」

愛らしい顔を歪ませて、皮肉げな笑みを浮かべて挨拶をした少女。

紅魔館当主である吸血鬼のレミリア・スカーレットである。

しゃんしゃん。

レミリアの手には、寺子屋の子供達が学芸会で使うような、
複数の鈴をつけたメリケンサックみたいな形状の楽器が握られていた。

「あら、悪魔もクリスマスを祝うのね」

こちらも皮肉で返す霊夢。

「ええ、弟子に裏切られたマゾヒストが、ママの股座からバージンを引き裂いて這い出てきた、
 呪われた誕生日の前祝じゃない」

いかにも悪魔といった感じの下卑た笑みを浮かべるレミリアに苦笑する霊夢と魔理沙。

「じゃあ、この聖夜に早速祝杯を挙げましょう。さ、入って」

厳寒の廊下から、楽園の暖かさの居間への入室を許可され、
魔理沙とレミリアは適当に上着と帽子を脱ぐと、炬燵に冷えた足を突っ込んだ。

霊夢はお猪口を引っ込めると、代わりにぐい飲みを三つと白菜の漬物の盛られた皿を持ってきた。

霊夢の酌によって満たされる杯。

「では、可愛い巫女にプレゼントをくれない、偽善者のシブチンに……」
「アリスとパチュリーから私の操をプレゼントにねだられた、女の敵のスケベ爺に……」
「フランを篭絡して紅魔館にド派手な電飾を施させた、省エネに逆行する地球の敵に……」



「「「くたばれ!!」」」



いい塩梅に冷めた燗酒を干す三人の少女。

このぐい飲みはちょっとした値打ち物なので、
流石に空になったそれを叩き割って願をかける様な真似は自重した。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





二本のお銚子と、昆布と共に漬け込み、醤油とうま味調味料がかけられた、
意外と外界の調理技術が投入されている白菜の漬物が盛られた皿が空になった。

そろそろ夕飯にしようか。

霊夢はそう思ったが、同時に、大した物ができない事も思い出した。



♪〜。



そんな時、歌が聞こえてきた。

三人とも聞き覚えのある歌だ。

曲名は知らない。
だが、なじみの歌だ。

歌は徐々に近づいてきて、

神社の境内あたりで移動を止めた。

「ちょっと待ってて」

霊夢は二人の友人にそう言い、
うう、さむさむ……、とも呟き、
縁側に出ると、突っ掛けを履いて表に出て行った。

程なく、足音と何かをガラガラと引く音、

それに、食欲をそそる香ばしい香りと何か煮込んでいるような香りが渾然一体となって、
障子の隙間から漂ってきた。



「皆さん、おこんばんわ〜♪」

霊夢に連れられ、縁側に屋台を横付けしたのは、
案の定、八目鰻料理の屋台を経営している、夜雀のミスティア・ローレライだった。

「よう、どうしたんだ? いつもならもっと人や妖怪が多くいる場所で商売しているじゃないか?」

魔理沙の疑問に、ミスティアは涙ぐみ始めた。

「ぞ……、ぞでが……、ううぅ……」
「ちょ、ちょっと、ミスティア、落ち着きなさい、何があったの?」

レミリアが優しく尋ねると、ミスティアはようやく落ち着きを取り戻した。

「こ、この時期……、人々の笑顔と共に……、ど、同胞の怨嗟の悲鳴が……、
 ぞ、ぞでで、人が大勢いるばじょにぃ……、いだだばれなぐなっで……、う……ううぅ(グスッ)」



クリスマス、それは食用可能な鳥類受難の日。

あの闇を操る人食いも崇拝すると言われる、貼り付けにされた罪人は、
鶏や七面鳥の血肉を欲して、人々を扇動しているのである。

焼き鳥屋は残酷に鶏を丸ごと焼き上げてその焼死体を晒し、
揚げ物屋は切り刻んだ死体を油でギトギトに揚げて、その業の産物で店先に山を作った。

繊細なミスティアは、眷属の受難の前に無力である自分を責め、
下手したら、自分もあの悪魔共と同類だと思い、二度と料理できなくなりかねなかった。



「くっそう……、なんて酷い……」

ぎりっ!!

レミリアは義憤を覚え、歯軋りをした。

「確かに、里はミスティアにとっての地獄絵図だったぜ……」

魔理沙は、その『地獄』でミスティアの眷属の骸を美味しくつまみ食いしたのだが、
当然、おくびにも出していない。

「ま、飲みましょう!! ね!!」

霊夢は屋台から一升瓶とコップを勝手に取り出すと、酒を注いでミスティアに勧めた。

「ぐずっ……、いだだぎばず……」

ミスティアは沈痛な表情で、仲間の弔い酒を一息に飲み干した。



心優しき四人の少女。

彼女達に、龍神よりも上位にいるとまことしやかに囁かれている酒の神が奇跡をもたらした。

杯を重ねる毎にミスティアから陰気な表情を払拭し、いつも以上の陽気さを歌に乗せて振りまいた。

ついでに、酒や料理もショバ代だと無料で供してくれた。

三人は、特に霊夢は狂喜し、日持ちしそうな料理をタッパー容器に詰めていたりした。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





聖なる夜は更けていった。

一面、雪で白に染まった博麗神社。

居住部に灯る屋台の赤提灯が、モノトーンの景色に彩を与えていた。



「いや〜、食べた食べた〜」
「霊夢……、タダ飯タダ酒だからって食べすぎだぜ」
「しっつれ〜しちゃうわね〜。食べきれない分はちゃんと折に詰めたわよ」
「おいおい……」
「ふぅ、相変わらず貴女の料理は歌に負けず劣らず最高ね。ごちそうさま」

いつも贔屓にしてくれているレミリアの言葉に気を良くしたミスティアは、
取って置きのデザートを振舞うことにした。

「皆さん、まだ試作段階ですが、実はプリンを作りまして……。いかがですか」

当然、甘いものは別腹の乙女達に拒絶の二文字は無かった。

「え!? 食べるわよ!!」
「当然、食べるぜ!!」
「ぷってぃ〜〜〜〜ん!!」



甘い、暖かな香りが凍える雪の夜に漂う。

デザートに合う飲み物が欲しいとのレミリアの要望で、
ミスティアがなべでシナモンスティックを入れた赤ワインを温めているのだ。



ミスティア特製のプリンであるが、
コシがあるのに口に含むと蕩け、
卵、ミルク、バニラ、砂糖、カラメルのハーモニーが舌から鼻腔に広がりを見せた。

プリンの入った小さな陶器は、あっという間に空になった。



マグカップに注がれたホットワインを啜りながら、
霊夢、魔理沙、レミリアは至福を堪能していた。

「はぁ……、幸せぇ……」
「うぇ〜〜〜〜〜い……」
「う〜、もっと、ぷってぃ〜ん、食べたい……」

好評に反し、ミスティアは申し訳ない顔をした。

「すいません。原材料の調達が困難なため、量産ができないんですよ」
「そう……」
「残念だぜ」
「紅魔館で何とかしてあげられるけれど?」

レミリアは、紅魔館の人手や財力で支援するとまで言ってくれた。

「申し出はありがたいのですけど……。
 卵が月に一個程度しか入手できないのですよ」

ミスティアの顔が赤くなった。

霊夢は顔を真っ赤にして、本日何度目かの苦笑をした。
魔理沙はきょとんとしていた。
レミリアは、五百年も生きているおかげで、自身はまだだが知識は人並み以上にあった。

「レミリア、永遠亭あたりに一度にたくさんできる薬とか、お金を積めば手に入るんじゃない?」
「霊夢、金の卵を産む鶏をを台無しにする気は私には無いわよ」
「??? 二人とも、何の話?」
「「おこちゃまには分かんない話よ」」

ミスティアの血と汗と涙の結晶は、確かにレア物だ。
この苦労は、大人の女性にしか分からない。
魔理沙にも近いうちに分かる時が来るだろう。



後日、このプリンは上得意にしか振舞われない幻の裏メニューとして、
そのスジで有名となったとか。



もう日付が変わって25日となった。

今頃良い子の枕元には、妖怪枕返しではなくひげ面の爺が忍び寄り、
ささやかな物欲を満たすモノを仕掛けているのだろうか。

今頃素行が良いとは言いがたいカップルは、『性夜』の褥でしっぽりとしけ込んでいるのだろうか。

霊夢は紅い酒の入ったカップの温もりを両手で感じながら、
気が置けないささやかな酒宴も良い物だと思った。



もうすぐ大晦日、そして正月だ。

神社の稼ぎ時に備え、友人達には雪かきの手伝いをしてもらおうか。

巫女の勘が、もうじきレミリア達を迎えに、紅魔館の連中と魔理沙にハートを盗まれた少女達が、
大挙してすっ飛んでくることを告げていた。

境内の純白を穢す苦役を頼むため、人手が集まってから結界で神社周辺を封鎖することにした。



霊夢は今年も無駄に終わる準備のために、

大勢と弾幕ごっこをするために、

気が置けない友人達と、今一度、酒を呷るのだった。




 
西洋の冬至を祝う日に合わせた、ささやかな短編をどうぞ。


2011年12月31日:コメントに対する返答追加。

匿名の6人の方、評価を有難うございました。

>2様
クリスマスとは無縁の少女達の、聖夜の一幕ですからねぇ……。

>3様
そういう意味です。
みすちーが年取ったら、もう食べられなくなりますよ。
プリンも、そっち方面も。

>ハルトマン様
貴方なら書けますよ。
アリスの死は避けられないでしょうがね。

>7様
普通のお話です。
乾杯!!

>9様
元気が出て、良かった良かった。

>ギョウヘルインニ様
メリークリスマス、そしてハッピーニューイヤー!!
プレゼント、喜んでいただけたようで、私も嬉しいです。

>ラビィ・ソー様
こんくらいしょっぱくないと、酒のつまみにはならんでしょう?
でも、塩分の取りすぎには留意しないと……。
NutsIn先任曹長
http://twitter.com/#!/McpoNutsin
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2011/12/24 00:15:57
更新日時:
2011/12/31 02:00:10
評価:
6/15
POINT:
760
Rate:
10.47
分類
霊夢
魔理沙
レミリア
ミスティア
これといったイベント無し
クリスマスなんて糞喰らえ
2011/12/31にコメントの返答追加
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
0. 180点 匿名評価 投稿数: 8
2. フリーレス 名無し ■2011/12/24 12:34:48
台詞とか動作の描写とか、細部はとても素敵なんですが……
全体としてなんとなーく物足りなさを感じました。
3. 100 名無し ■2011/12/24 16:19:09
プリンの原料ってつっこもうとしたらそういう意味か

クリスマスだから私もミスティアを食べたいな、性的な意味で
6. 100 ハルトマン ■2011/12/24 22:20:03
平和だけど面白い

そんなSSを、私は書きたい
7. 100 名無し ■2011/12/24 23:28:23
あれ?普通だ……まぁいいか、楽しめましたし。

乾杯だ!
9. 100 名無し ■2011/12/24 23:49:04
こう言うのが欲しかったww なんか元気が出ました
11. 100 ギョウヘルインニ ■2011/12/25 04:13:37
NutsIn先任曹長さんメリークリスマス!

僕にとっては、この作品がクリスマスプレゼントになりました。
13. 80 ラビィ・ソー ■2011/12/26 06:04:52
曹長、漬物の味が濃い!味が濃いよ!><
名前 メール
評価 パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード