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『大晦日だよ産廃創想話』 作者: まいん
注意、この作品は東方projectの二次創作です。
オリ設定、オリキャラが存在する可能性があります。
この作品は短編集となります。
大晦日だよ! 産廃創想話。
この作品は産廃創想話の提供でお送りします。
この作品は12/31日に投稿した、再放送となります。
番組表
01:00~02:00
世にも奇みょんな幻想郷、男の不思議な体験
02:00~02:30
哲学者の実験、マリサの部屋
02:30~03:00
時代活劇、みょん太郎侍
1,男の不思議な体験
永遠亭のとある一室。 その日一人の男がその人生を終えようとしていた。
永遠亭の天才薬師、八意永琳、彼女はその能力で死さえも克服した。 しかし、折角創った薬も服用する者がいなければ無用の長物である。
天才と謳われる彼女も人の心は理解が出来なかった。 死を恐れ、生を望むのに、彼女が創った死を克服する薬を飲む人間は一人としていなかった。
これから死出の旅に出ようとしている男は幸せ者であるが、同時に不幸な者である。
彼は記憶を失い彷徨っている所を長者の主人に拾われ、後にその主人の家族の一員となった。 彼と彼の妻は一男を授かった。
彼の子供が一歳に成る頃、彼は病気を患い永遠亭に緊急入院をする事となった。
男は苦しんだ、病気の胸痛とこれから成長する息子と一緒に暮らせぬ事を……彼は話ができなくなる程衰弱した。 彼は心の中で未練を叫び続けた。
生きたい、生きたい、長くなくて良いから、せめて、せめて、息子が成人するまで、それだけで良いから、もう少しだけ生きたい。
そして、彼はその苦しみを引き摺ったまま息を引き取った。
「起きなさい」
可愛らしい声が聞こえる。 男は目を覚まし立ち上がった。男が見た者は大鎌を担いだ赤髪の少女と人里でも有名な閻魔様であった。
私は死んだのか、男の心には大きな悲しみが込み上げた。 閻魔に跪き、閻魔は男の生前の罪状を読み上げた。 長い話を纏めると彼は地獄へ落とされず、次の輪廻に生まれ変わるらしい。
心ここに在らず、その男にも最後の言葉だけは届いた。
「最後に何か言っておきたい事はありますか?」
閻魔の言葉に男は懇願した。
私には生まれたばかりの一人息子が居ます。 この子が成人する姿を見ずには死にきれません。 生き返らせてくれとは言いません。 何卒息子が成人するまで息子の側に居させて下さい。
閻魔は、ふむと頷き少し考えた後に切り出した。
「その願いを叶える事は簡単です。 しかし、貴方は輪廻の輪から外れ次の一生で会えるかも知れない、その息子と巡り会う事が出来なくなり、それのみではなく見守る期間が終わった後は地獄よりも恐ろしく苦しい場所に行く事になります。 見守る間も死より苦しい期間を過ごす事になる。 それでも貴方は見守る事を選びますか?」
男は閻魔に詰め寄り涙を流して頼んだ。
どんなに苦しくても良い、成人するまで息子の側に居させて欲しい。
彼は霊体となり息子に姿が見えない状態と成った。 彼には先程の赤髪の少女、小野塚小町が監視役となって幻想郷に戻った。
彼が戻ってすぐの事、赤ん坊の息子は病気を患い高熱に苦しんだ。 彼は霊体に成った事で息子の霊体も見える様になった。 病気が長引くにつれて息子の霊体がどんどん減っていく。 彼は息子を助けたい一心で自分の身体を千切り、息子の減った身体を補った。 少しして息子は快復した。
千切った場所が痛い、切断面が痒い、しかし、彼の顔は嬉しそうだった。
それから少し時間が経った。
彼の息子は成長して赤ん坊から子供になった。 遊び盛りのこの頃、必ず居るのがガキ大将である。 息子は少し身体が小さいだけであったが、それがからかわれる原因となった。 それが原因で息子の精神は消耗し霊体も段々と減っていった。彼は自身の身体を千切り、息子の霊体を補った。 無駄と解っていても息子の肩に手を置き、息子の背中を大きく叩いた。 当然、彼の手は息子をすり抜けた。
次に息子がガキ大将と会った時、息子は相手に向かって殴りかかった。 お互いが殴り合う大喧嘩となったが、その次に会った時、息子達は仲直りをして親友同士となった。
千切った場所が痛い、切断面が痒い、しかし、彼の顔は嬉しそうだった。
更に時間は過ぎた。
息子の母親、彼の妻は別の子連れの男と再婚しようとした。
息子と母親は大きな口喧嘩をした。 お父さんの事を忘れた、だの何だのと感情的に……。
息子は家を飛び出し、夜道を彷徨った。
夜は妖怪の天下である。 息子も例外にならず、妖怪に襲われそうになった。 彼は慌てて息子を押した。 彼の手は息子をすり抜けたが息子は何も無い所で転び妖怪の一撃を避ける事が出来た。
怯えと恐れの為に息子の霊体はどんどん少なくなっていく、彼は又も自身の身体を千切り息子の霊体を補う。 勇気を取り戻した息子は自身を奮い立たせ全力で逃げる。
疲れて、霊体が減る。 彼は自身の身体を千切り補う。 それを繰り返す。
逃げている内に勘の鋭い博霊の巫女が助けに来た、凛々しく息子に逃げろと言って。 襲い来る妖怪に飛び掛っていった。
息子は必死で逃げる、逃げて、逃げて、逃げた。 その甲斐あって人里まで戻る事が出来た。
彼は無駄だと解りつつも息子の背中を叩いて言った。
お前が俺を思う気持ちは嬉しいが、俺は死んだんだ、忘れてくれ、新しいお父さんや兄弟と仲良くしてくれ。
息子は何かに呼ばれた様に後ろを振り向いた。 息子は呼ばれた気がした空を見たがそこには何も居なかった。
千切った場所が痛い、切断面が痒い、しかし、彼の顔は嬉しそうだった。
光陰矢の如し。
息子は十五となり成人した、同時に結婚もした。 息子の一世一代の晴れ舞台、彼は目頭が熱くなる事を覚えた。
息子がこの世に生を与えられてから、減る度に彼は霊体を補った。 彼の身体で残っている部分といえば、右手首から先と首から上だけある。
千切った場所が痛い、切断面が痒い、しかし、彼の顔は嬉しそうだった。
今まで側に居ながら一度として声を出さなかった。 小野塚小町は淡々と話し始めた。
「感動の所悪いが、この式が終わったら時間切れだ」
その言葉を聞いても彼の目に未練は無い、彼の心は満たされていた。
もういい、俺を連れて行ってくれ。これ以上ここ居たら未練が残る。
その言葉を聞き、溜息を吐きながら彼女は大鎌を振り上げた。
「さようなら、また会おうな」
小町は振り上げた鎌を男に向けて振った。
〜〜〜〜〜
目を覚ました男が最初に見たものは病室の天井であった。彼に涙ながらに抱きついたのは彼の妻であった。
信じられない、天才である永琳が驚くという珍事も起こった。
その様子を冥界で見ている者が二人……。
「良かったんですか? 四季様」
「何がです? 小町?」
「いえ、死んでいる者を生き返した事をです」
「正確に言えば、彼は完全に死んでいなかったのです。 だから、この事は十王裁判でも問題になりません。 それに貴女も気付いていた筈です。 貴女が別れ際に贈った言葉はその事に気付いていたからではありませんか?」
たはは、と小町は両手を上げて頭をぽりぽりと掻いた。
それから十四年間、彼は息子や妻と平和に暮らした。 息子に危機が起こる度に不思議な事が起きた、息子は自信を持ち力強く生きた。 時々息子は空を見て、僕には守り神が居ると彼に話した。 そして十四年の月日が経ち息子が成人し結婚を見届けた日、彼は椅子に座ったまま眠る様に死んでいた。 その顔は実に満足した顔であった。
彼が目を覚ました時、薄暗い河を渡る木の船の上で目を覚ました。 船頭は遠い昔に見た顔であった。
船頭は彼に話しかけた。
「まだ未練はあるかい?」
彼は答えた。
「いいや、大満足だ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2,マリサの部屋
彼女は目を覚ました。
暫く頭がぼーっとしていたが頭を振り、座ったまま伸びをして体を覚醒させる。
彼女は辺りを見回し呟く。
「何だ、ここは?」
その言葉に動揺が無いと言えば嘘となるだろう。 彼女の姿はキャミソールにショーツだけであった。 その為、彼女は暴漢に乱暴され監禁されたのでは? と思い股に手を当てる。
痛みは無く、別段濡れているでも不愉快な液体がある訳でもない。
ひとまず落ち着き再び辺りを見回す。
部屋にある物は、白いベット、白い机、白い椅子、白い壁、白い床、白い洗面台、灰色の冷蔵庫、机には白い置き時計、机の脇には白黒の本がぎっしりと詰まっていた、そしてその本を詰めている灰色の本棚。
壁には一箇所だけ枠になっている場所があった。 その場所には黒いテレビが壁に綺麗に埋め込まれていた。狭くなく、広くもないその部屋は見事なモノトーンの世界である。
どういう原理かは解らないが、光が無くともその部屋は視認する事が出来た。
はぁ……と彼女は溜息を吐き、ベットから立ち上がる。
その時、壁のテレビが起動して女性が二人映し出された。 勿論、テレビの画面は白黒である。
「おはよう、マリサ。 一応自己紹介をしておくわね、私はパチュリー・ノーレッジ、この娘は司書にして助手の小悪魔」
「知ってるぜ、いっつもお前んとこに通ってたからな」
そう静かに話しながらもマリサと呼ばれた女性は不機嫌な感情を露にした。
「やい、パチュリー! 私をこんな所に押し込めやがって、どういうつもりだ?」
その言葉に別段慌てる様子もなく静かに説明を始めた。
「いい? マリサ、怒らずに聞いて頂戴。 今その部屋の外では幻想郷の危機が起きているの……貴女は最後の希望として、その部屋で幻想郷を危機から救う方法を学び考えて欲しいの」
先程まで頭に血が昇り、怒髪天を突く勢いだったマリサはパチュリーの言葉を聞いて、急に冷静さを取り戻した。
「おいおい……冗談だろ?」
「いいえ、事実よ。 この娘も私も貴女を補佐する為に残されたプログラムの塊でしかないもの……貴女が答えを見つけ、パチュリー・ノーレッジの行動、思考から照会し、合理的に幻想郷を救えると判断した際に其処の壁が開き、二重扉の先から外に出られる様になるわ」
マリサは顎に手を当て、思考を少し巡らせた。 部屋を少し見回した彼女は自身に選択権が無い事を改めて理解した。
「わかった……で、私は一体何をすればいいんだ?」
「そうね……そこの本棚に本があるわ、その本が貴女の役に立ってくれると思う。 ああ、後、貴女に学んで欲しい事だけど……」
〜〜〜
「ったく、何だよ……神経生理学は解るが、他が色覚についてってさぁ……」
「ふふ、ぼやかない、ぼやかない」
そう言いながらもマリサは本棚に向かい適当に本を一冊選び読み始める。
先程の話の後、パチュリーから色々な話を聞かされた。 食料は冷蔵庫に自動的に補充される、気晴らしは自由、欲しい物があったら遠慮なく言って良い、時間はたっぷり在るから慌てずに結論を出して欲しいと最後に言われた。
元々、マリサは努力家で有名である。 部屋の中で一年も経つ頃には既存の本を全て読み終えてしまった。 彼女の頭の中では視覚に影響を及ぼす神経系がはっきりと三次元投影出来る様になっていた。 試しに行われた遠隔手術では外の世界の高等医療でも治せない患者を何人も治した。
彼女は僅か一年と少しで視覚神経に於いては月の賢者も顔負けの知識と経験を手に入れた。
しかし、同時に学んでいた色覚は彼女を迷わせた。
一年以上前、私は色彩溢れる場所に住んでいた。 トマトの赤、空の青、草原の緑、蒲公英の黄色、色とりどりの花、鳥、どれも知っている、体験している。
だが、私はどれも実感が無い、その色を知っているのは本当に私なのか? 本当にそこに住んでいたのは私なのか? ここに一年以上居るから色を忘れた訳ではない、それならば私は色というモノを知っていたのか? 私は一体何者なのだ
神経生理学を究めた日から、彼女の思考は同じ思考の輪に、結論に辿り着かない堂々巡りを繰り返した。
その間も休み無く彼女は人を救い続けた。
彼女が成熟した女性に成長し、助けた患者が6桁に届く頃、漸く彼女は答えを出した。
「パチュリー、いるか?」
「何を言ってるの? いつも目の前に映ってるじゃない」
「どれだけ時間が経っても、お前は変わんねぇな、安心したよ」
私はプログラムだから、そう言おうとしたのだが、あえてパチュリーは言わなかった。 長い時間が経ち、彼女にも人間らしさが芽生えたのかもしれなかった。
「それで何の用? 答えでも見つかったの? 貴女、あんなに悩んでい……」
マリサはパチュリーの言葉を遮り答えが見つかった事を言った。
「おめでとう、それで答えは何かしら?」
「答えは、答えは……私がこの目で見て、それから考えるぜ!!!」
無表情のパチュリーの顔が何処と無く微笑んでいる様に見えた。
「そう……貴女らしい言葉ね、ドアを開けるわ。 その先に手術道具一式を送って置いたから、役立てて頂戴。 マリサ、健闘を祈るわ」
「パチュリー、今までありがとうな」
ぎぃぃぃぃぃぃぃいいい、ごごっうん!!!
壁の一角がシャッターの様に縦に開いた。 その先には白いドアが……ドアの手前にある机には旅行鞄が置いてあった。
鞄を開けると、手術に必要な道具、薬が一式入っていた。 そして、メモ書きが……。
「ふふっ、パチュリーの奴、味な真似を……」
彼女の表情はどこか寂しげであったが、呟いた言葉は嬉しそうであった。
彼女は白いドアを開き部屋の外に出た。
ドアを開けるとあまりの眩しさにマリサは手で目を覆った。 かろうじて見える足元の輪郭を頼りに歩いたものの、数歩踏み出した所で彼女は立ち止まり、目が慣れるまでの間一歩も動けなかった。
ほんの数分間彼女は立ち止まっていただけなのだが、彼女にとっては途轍もない長さに感じた。
漸く目の慣れた彼女は顔から手を離し前を向いた。
彼女の目に映った物は、何処までも続く青い空、雲は流れ、春風が吹き、自然の行動はそのまま芸術となり彼女の心に大きな感動を呼んだ。
視線を落とし、見た草原も壮大であった。 緑の絨毯を思わせる草原は春風に揺れ、見る者の心を和ませる。 草原のあちこちには花が咲き乱れ、赤や紫や黄色、色とりどりの色彩が見る者の心を楽しませる。
空には落ち着いた色の鳥が編隊を成し飛んでいる。 草原には美しい色の蝶が舞い、草原を保護色に身を包んだ虫が飛び交った。
ふと見つけた小さな泉からは魚が飛び上がり、日の光に照らされた鱗は宝石の様にキラキラと輝いた。
彼女は久方ぶりの美しい景色に感動して涙を流していた。
「ああ、これから私はこんなにも素晴らしい世界で暮らしていけるのか」
彼女は涙をハンカチで拭った。
ふと、彼女がハンカチを見ると、ハンカチにはどす黒い液体が染みていた。 彼女は慌てて涙を手で拭うと、手にはどす黒い液体が付着していた。
がちゃ!
彼女は突然腕の力が抜け、鞄を地面に落とした。
彼女は無意識の内に膝を付いた。彼女が疑問に思い、顔を上げると先程まで美しい彩を見せていた景色は輪郭だけとなり白と黒のモノクロ世界になっていた。
彼女の意思では身体を支えられなくなり、白黒の草原に倒れた。
程無く彼女は倒れたまま嘔吐し、吐瀉物が気管支に逆流し窒息して死んだ。
〜〜〜〜〜
「ああーっ、もう! また死んでしまったわ」
図書館の机で叫ぶ者はパチュリーであった。 彼女の手には魔導書ではない外の本が抱えられていた。
著者の名はフランク・ジャクソンと書いてある。
彼女は彼の論文を読み、彼の提唱した哲学思考を実際に実践して見せたのだ。
色を知らないものに色に関する知識を完全に獲得させ、色を見せた場合どの様な事が起こるか。
「これで成功例の中でデータを採る前に死んだ個体が10人を超えましたね。 成功例は未だ零です」
小悪魔が紅茶を差し出しながら、呆れる様に言った。
「しかし、パチュリー様、良いんですか? 魔理沙さんをこんな風にして」
「いいのよ、あの鼠は私に沢山迷惑を掛けているんだから、それにこのマリサ達は彼女のクローンなのよ? 気にする事の内にも入らないわ」
知識を探求する魔法使いという種族のパチュリーは実験に没頭していた、実験の箱庭に入れられたマリサは一週間で何十年も成長した。 だが、部屋から出られるマリサは非常に少なかった。
「やっぱり、最初にセンサーか何か埋めて、それで実験した方が良いわね」
そこまで話して、唐突にパチュリーは質問を投げかけた。
「ところで小悪魔、貴女は多元宇宙論って信じるかしら?」
「パチュリー様、私にその質問は解りかねます」
「そう……小悪魔、私は貴女のそういう所が好きよ、貴女の黒髪も黒い瞳も真っ白な肌も……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3,みょん太郎侍
草木も眠る丑三つ時、動物も人間も活動を停止するこの時刻。
この時間こそ妖怪にとっては絶好の活動時間である。
本来その時刻、その場所に居ない筈の娘っ子は走っていた。
彼女を追いかける者はいかにも知能の低そうな人型の妖怪。
道の悪い場所を走るものだから追い着かれるのは時間の問題であった。
がっ!
程無く彼女は木の根に躓き転倒してしまう。
げっへっへ、妖怪はこれまた頭の悪そうな笑い声を静かに上げ彼女に近づいた。
今夜の”でなー”は若い娘、そう思い涎が零れる事も厭わずゆっくりと近づいていった。
娘はこれから起こる事に恐怖し腰が抜けてしまった。
……ちりーん、ちりーん。
突然鳴り始めた鈴の音に妖怪は聞こえた方向を見る。
襲われそうになった娘も希望を込めて音の方向を向いた。
「ひと〜つ、人の世の血肉を啜り」
べべ〜ン!
決め台詞と思われる言葉を喋り、三味線を弾きながら現れた剣士は女性であった。
頭上には綿菓子かマシュマロの様な奇妙な物体が浮いている。
「ふた〜つ、不埒な悪行三昧」
べべ〜ン!
尚も三味線を弾き、剣士は一歩踏み出た。
「みっつ! 醜い浮世の鬼を退治しようぞ、っみょ、みょん太郎!!!」
そう言うと彼女は脇に止めてあった乳母車に三味線を置く、妖怪から十歩程度離れている場所にて、深く腰を落とし、左手で鞘を右手で柄を握り締めた。所謂、居合いの姿勢である。
その姿に今まで呆然と様子を見ていた妖怪は語気を荒げ乱暴に叫んだ。
「や”い! でめえ、おでさまの”でなーたいむ”を邪魔すると只じゃおがねぇぞ!!!」
妖怪の啖呵にも眉一つ動かさず剣士はピクリと動いたかと思うと、ゆっくりと自然体に姿勢を戻し妖怪に背を向け歩み始めた。
「やっ、野郎! ぶっごろしてやらあ!!!」
妖怪は戦い方も武術も知らない目茶苦茶な走り方で剣士に向かい渾身の一撃を加えようとした。
刹那……
ッダダーン!!! ッダダーン!!!
乳母車から機関銃の単連射の音が二回響き、辺り一面に硝煙の香りが充満した。
その射撃に胴体の八割を吹き飛ばされ、ば、馬鹿な、と最後の言葉を残し、妖怪は惨めに最後の晩餐を逃した。
妖怪が崩れる様を無視し初めから妖怪なぞ居なかった様子で彼女は娘に近づき話しかけた。
「すまぬが、この御方を知らぬか? 行方不明となった私の主君なのだが」
彼女が取り出した写真には、額烏帽子を着けた桃色のウェーブかかった髪、除き込めば吸い込まれる様な漆黒の瞳を持つ人物が写っていた。
娘は未だ腰の抜けたまま、無言で首を横に振った。
そうか……、別段がっかりした様子も無く彼女は静かに言葉を発した。
「ならば貴様に用は無い!!!」
彼女は神速の抜刀で娘の首を音も無く刎ねた。
剣技の達人であっても、その抜刀を見切る事は困難極まりない。
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええん!!!」
彼女は振り向き、先程の乳母車に向けて叫んだ。
乳母車からは黒猫の少女がひょっこりと顔を出した。
「ここにも手懸りは無かった、……何、そんなに心配するな、ちぇんのご主人達は必ず見つけてやる」
そう言うと彼女は乳母車を押し、進み始めた。 次の獲物を求めて。
事のあらましはこうだ、白玉楼は謎の失火により妖夢は完全に死に亡霊となった。 亡霊となった彼女は記憶の一部分が欠如してしまった。 目を覚ました彼女は辺りを探したが主人を見つける事は出来なかった。 その為、彼女は主人を探す旅に出る事となったんだ。
白玉楼から少し降りた場所で黒猫の少女が泣いていた、その少女の名前は橙という。 彼女の主人、西行寺幽々子と橙の主人の主人、八雲紫は旧知の仲である為、無下に扱う訳に行かず自身の主人共々探す事となったのだ。
(お待ちください、妖夢は必ず幽々子様を見つけ白玉楼を再興してみせます)
心にそう誓う妖夢であった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ねぇ? 映姫ちゃん」
「幽々子さん、仕事中に名前で呼ばないで下さい。 誰かに聞かれたら私の権威に疑問符が付きます」
「いいじゃないの、それで私は何時になったら幻想郷に戻れるのかしら?」
「そう簡単に戻れると思わないで下さい。 手続きが非常に面倒くさいのです。 元を正せば彼女に無茶な注文をして白玉楼を焼いてしまった貴女が悪いのですから、10年20年は私の下で罰を受ける事を覚悟して下さい」
「いや〜、映姫ちゃんの意地悪〜」
妖夢の受難は続く……。
全作パロディとなっております。
大晦日の忙しさのちょっとした癒しになって頂ければ幸いです。
そして私の作品を読んで頂いた皆様。
コンゴトモヨロシク。
……紫霖書きてぇな……。
>ギョウヘルインニ様
コメントありがとうございます。
貴方様から良作と言われるとは恐れ多い。
>穀潰し様
コメントありがとうございます。
順番は少し悩みました。 その様に評価して頂けるとはありがたいです。
>NutsIn先任曹長様
今回もコメントありがとうございます。
人の心の解らぬ天才と人の心の解る閻魔様が居ましたので3つ目を選ばして頂きました。
貴方様の感想を見て、私が書いている間、見直して推敲している間にも気付かなかった事が沢山見えました。
連射を続けたら、ちぇぇぇぇんがんの音になったかもしれません。
>7様
ありがとうございます
>pnp様
コメントありがとうございます。
記憶のみの知識なら何ら変わらないと思いましたので……。
>レベル0様
ありがとうございます。
まいん
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2011/12/29 16:00:04
- 更新日時:
- 2014/07/19 22:19:42
- 評価:
- 6/10
- POINT:
- 650
- Rate:
- 12.27
- 分類
- 短編集
- パロディ
- 7/19コメント返信
中に産廃だと認識して。
終りに呆れ返る。
御見事です。
三篇とも、白か黒かの問いに三番目の回答をした物語でしたね。
『男の不思議な体験』では、生とも死とも付かぬ状況に置かれた男の充実した一生の物語。
『マリサの部屋』では、黒白魔法使いの色彩溢れる最期と、色を知らぬ七曜の魔女の物語。
『みょん太郎侍』では、半人半霊から全身全霊となった、不完全な記憶の妖夢が主を捜し求める物語。
いずれも結末は『死』でしたが、
そこに至るまでの様々な人生に感動し、
モルモットを見る魔女を不憫に感じ、
火車の如く死を運ぶ亡霊剣士の捜し求める主人に呆れました。
どれも面白かったです!!
橙が撃ったのはちぇぇぇぇぇん!!ガンだろうか……。