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『ある狩人の語り』 作者: ポリ燐酸ナトリウム
私はより強く遠くに矢を飛ばしたい。
今は郷のいくらか離れた所で獲物を狙う私にとって重要なことなのだ。
成人し親元から離れ生活し始めた私は、狩人になった。
始めは竹を乾燥させて曲げただけの弓で矢を飛ばしていた。そこそこの生活をするのにはそれでよかった。獲物は十分に獲れた。
それからしばらく後、私に妻が出来た。親が進めた見合いで郷の娘であったが元々幼馴染で在った。気心がお互い知れているので、いい夫婦生活を始めることができた。
妻の分の生活費を稼ぐためにも、より多くの獲物を獲らなくはならなくなった。私は、竹の弓でより多くの獲物を獲ろうとした。ところが、威力の弱い竹の弓ではなかなか獲れる獲物はそれほど増えなかった。
ある日私は、友人の狩人にアドバイスを貰った。『竹の弓に妖怪の腱を貼り付けて合成弓を作れば矢の威力が上がる』と。
私は、困った。妖怪は人間より強い生き物あの化け物共から腱を抜くことなど私には出来そうもなかった。困っている私を見かねたのかその友人は私にさらにアドバイスをくれた。
『博霊の巫女なら金で妖怪を殺してくるから頼めば良い』と。私には、余り蓄えが無かったがとりあえず話しだけでもしてみようと博霊神社を訪ねてみることにした。
博霊の巫女霊夢は思ったより安い値段で、妖怪から腱を抜いて来てくれると言った。
霊夢に金を渡した私はまった。それから3日後、霊夢が妖怪の腱を持ってきた。近くに手頃な妖怪が居たそうだ。なんでも、人間から魔法使いになった妖怪だったそうだ。
私は、霊夢から貰った腱を加工し弓に貼り付けた。矢も霊夢を待っている間に良く磨いだ石の鏃だった。私は試し撃ちをしてみてわかった。これは良い、すぐに狩に出かけた。私はすぐに獲物を仕留めることが出来た。なんと、この獲物は、妖怪だった。
この私が、ただの狩人の私が出来た。妻と二人のこれからの生活困ることは無さそうだ。
ある日、妻からうれしい知らせが合った。私の子供が出来たと言うのだ。
知らせを受けて半年程、妻は子供を生んだ。かわいい、双子だった。
私は、妻と子供たちを扶養するために仕事に励んだ。合成弓で近くの妖怪を狩り、仕事に励んだ。
ところが、限界はすぐに来た。近場の妖怪を狩り尽くしてしまったのだ。
いままでの私の報酬は、獣ならその肉を売ったり、妖怪ならば退治料を貰ったりすることで成り立っていた。
獣なら、いくらでもいるがその肉は安い。今は高い退治料が貰える妖怪を狩らなければ生活が出来ない状態になっていた。
仕方なく郷から離れた、森に獲物を探しに出かけた。
しばらく、森で獲物を捜していると、浮遊する黒い塊を見つけた。うわさで聞いたことがあった。妖怪のルーミアであった。
私は、狙いを定めて弓を撃った。矢は黒い塊の中心を捕らえた。黒い塊は地面に落ちた。
確かな、手ごたえを感じ、私は獲物を回収するために近づいた。
近くまで来ると、黒い塊が消えた。私は足を止めた、眉間に矢を受けた妖怪ルーミアが立っていたからである。
矢を眉間に受けているのにも関わらず、私を見てニヤリと笑った。
ルーミアは、眉間に受けた矢を強引に引き抜いて地面に捨てた。鏃が矢から外れていて頭の中に残っているようだ。
そして、『……食べても、いい人類?』と私に聞いてきた。私は恐怖と勝ち目がないことを悟り、逃げ出した。ルーミアは穴の開いた眉間から血を流しながら追いかけてきた。
生きていて、今まで感じたことの無い恐怖だった。いままで生きてきた中で妖怪、いや生き物は頭に矢を受けて生きている物は居なかった。
語弊がある、頭に矢を受けても死なない事は有る。只、あれだけ深く矢を受けているのにも関わらず生きている。
私は、森の中を走った。私はそれなりに、足が速い体力も有る。ルーミアとの距離は離れて行った。
私は、油断していた。木の根に転んでしまったのである。
転んでしまった私に、ルーミアが追いついた。ルーミアはうれしそうに私を見た。
人食いの化け物で無く、眉間に傷を受けていなければ、かわいい少女なのだろう。
その時の私が感じたのは、死の恐怖よりもそんな事だった。
倒れた私にまたがったルーミアは、私の耳を噛んだ。
一瞬、耳に息がかかり、不覚にも私は力が抜けた。しかし、すぐにそれは痛みに変わった。
耳を食いちぎられたのだった。痛みと共に、熱が抜ける感覚が耳から感じられた。
本来、余り痛みを感じない耳だが、私はその時激しい痛みと恐怖を感じていた。死に直面したことなのだろうか?
私はそれでも抵抗した。懐に入れていた短刀でルーミアの腹を刺した。短刀は、深く刺さったがルーミアはそれを気にせず。
私の耳を、恍惚とした表情で、咀嚼していた。刺さった短刀を私は抜こうとしたが。ところが、腹の腹筋が強いのか、抜くことが出来なかった。
『あー、おいしい、歯ごたえが有って味があるよ。お前は男なのかー?』ルーミアは今度は私の肩に噛みつき食べた。
『ギャー!!!!』私は大声を上げてしまった。化け物!化け物!
化け物!化け物!化け物!化け物!私の頭はそれでいっぱいだった。普通は大切な家族事を考えたりするらしいが、それだけに支配されていた。
恐怖で、頭がおかしくなりそうなときだった。
物陰でガサ、ガサと音がした。それから、物陰から屋台の女将ミスティアが現れた。屋台で良く友人と飲み食いしているので知り合いである。
ミスティアは驚いた顔をして、『嫌だ! ルーミアちゃん! その人は郷の住民よ!』と言って注意した。
『郷の住民?』私の肉を飲み込んでルーミアは答えた。
『そうだよ』ミスティアは言った。私にまたがったままのルーミアは、未練がましく私を見た。溜息を吐いて私から降りた。ルーミアは、刺さった短刀を抜き捨てて、森の奥に帰って行った。
ミスティアは怪我をしている私の近くに来て『大丈夫ですか?』と聞いた。
私は、『大丈夫だと答えた』らしい。
どうやら、そのとき私は気を失い、ミスティアに医者まで運んで貰ったらしい。
幸い、肩の肉と片方の耳が欠けただけで、後遺症は残らないらしい。
そう、医者が意識の戻った私に話しかけている時だった。
妻が病院に駆けつけたのである。妻は、怪我を負った私に抱きついて泣いた。
私は医者が見ている手前、少し恥ずかしかったが、妻の髪を撫でて『大丈夫』だと言った。
しばらく、入院して療養を医者には、勧められたが私は断った。
蓄えが無いのだ。
帰路に着く私に『忠告はしたからな』と医者は大げさに言っていた。現在でも医者がなぜ大げさに言ったかわからない。
流石にすぐに、仕事を再開することは出来なかった。弓を構えると、肩の傷が痛んだのである。
仕方なく、私はしばらく妻の内職を手伝ったり、鏃を研ぐ生活をすることになった。
ちなみに、私の弓はミスティアが私と一緒に運んでくれたらしく私の手元に戻っていた。
結局、自宅療養になってしまった。
そんな、ある日のことだった。私の家に、狩人の友人が見舞いに来たのだ。
彼は『ルーミアと戦ったんだってな、すごいなお前』と、おそらく屋台でミスティアに聞いたのだろう。
殺されかけて、不甲斐ない状態で助けて貰った。それなのに、ミスティアは私のことをまるで英雄のように言ってくれているようだ。
私は、今度命の恩人、恩妖の彼女に礼を言いに行かなければと思った。
その日から幾日かして、傷が癒えた私は、早速礼に行くことにした。
妻は、お礼の品にと実家から、持ってきた金杯を私に持たせてくれた。
少々、値のはる品だが、『命の恩人ですから』と言って私に持たせてくれたのである。
時刻は、夕刻だった。郷から少し外れたところに屋台はある。
仕込み中だったのか、ミスティアは肉や野菜を切っていた。
『こんにちは、ミスティアさん。この間は助かりました。これは、その時の礼の品です受け取ってください』私は、深くお辞儀をして、金杯を差し出した。
ミスティアは、『お礼の品物なんていりません』と言って断った。
それでも、私がもう一度『受け取ってください』と言ったので、受け取ってくれた。
いつまでも、休んでいるわけにはいかない。
次の日、私はリハビリの為的に弓を撃って見ることにした。
ところが、弓を構えた私の手は振るえ、試しに撃った矢も的を大きく外れた。
3射程撃ったがどれも、的を大きく外した。
精神に傷を負ってしまったようだ。それを悟ると手の振るえが止まらなくなった。
私は、荒れた。働きもせず、今回の件がきっかけで、ミスティアの店に入り浸るようになった。
家にある、金などすぐになくなり家財を売って金にした。
家財がなくなると、妻が内職をして得た金を持ち去った。
ある晩、妻は怒った。カッとなった私は妻を殴った。大きな音で、寝ていた子供たちが、起きて泣き出した。
最愛の家族に暴力を振るうようになった。
『お客さん、仕事をしていないのですか?』と言って、ミスティアは私の肩に手を置いて話した。
昼間から、飲み続ける私を見かねたらしい。
それから、私の首筋に息を吹きかけ言った。『夜雀の息を、かけると力が湧いてきますよ』迷信?聞いたこともない。
馬鹿らしいと思った。
しかし、本当に力が湧いてきて、震えていた手が止まった。
病は気から、気の病には気だったのかもしれない。それとも、ミスティアに対する特別な気持ちなのかも知れない。
私は代金を払い、すぐに家に帰った。
家に帰った私を見て、今度は妻が震えていた。歩き始めた子供をを連れて隠れてしまった。
最近は、妻と話しことも無くなった。こないだある収入があり、机の上にはいつも酒代が置かれているので文句は無かった。
私は気にせず、自室に置いたままになった弓を取り出して撃ってみた。
矢は的の中心に命中した。
2、3射撃って全て的に命中、確信した。気の病は治った。
翌日、私は再びあの森にいた。今日は、仕事のためじゃない。
復讐するのである。
ルーミアは程なく見つかった。また黒い塊を作って浮いている。
私は、塊に矢を打ち込んだ。
1射だけじゃない、まとめて5射打ち込んだ。
ルーミアは墜落した。
墜落したルーミアの様子を見た。やはり生きている。
足に3発、胸の辺り2発に、私は近づきながらまた撃った。
ルーミアは足に刺さった矢が支えになって立っている。矢は、あの時命中した額の穴が治療もされず残っていた。その穴に再び命中した。
『ギャー!!!!』とあの時の私のような声を出してルーミアは、倒れた。
私は近づいて、短刀でルーミアをさした。短刀の刃がルーミアの腹に食い込む。やはり抜けない。
まだ、生きている。至近距離で矢を放つ。持っている矢全て使い果たした。
ルーミアはしばらく痙攣した後動かなくなった。
私は意気揚々とルーミアを、死んだルーミアを持って郷に帰った。
射殺したルーミアを見ても、妻は喜ばなかった。私は、気にしなかった。
その日の内にルーミアの退治料を貰い、かなりの額の金が手に入った。
夜になった。私は、その金を持ってミスティアの屋台に向かった。最近疎遠に成っていた、友人が他の仲間と酒盛りをしていた。
友人が私を見つけると、『やっぱり、すごいなお前はルーミアを倒したんだってな』と私の肩を叩きながら言った。
ルーミアを倒したことが、もう伝わっているらしい。
久しぶりに、旨い酒が飲むことができた。
しばらく、友人達と談笑しながら飲んだ。
脇で聞いていたミスティアは『ルーミアちゃんを倒したんですってすごいですね』と言って私の偉業を褒め称えてくれた。
『あなたのおかげで、倒すことができました』私が意味深に言ったようにも聞こえたのかもしれない。
友人達は『浮気は、いけないぜ。頑張れよ』と言って引き上げて行った。
夜中、家に帰ったときに、妻が起きていて私に話しかけた。
『……私とあなた、また元の幼馴染に戻ればいいじゃない』と妻は言った。
夜中のうちに妻は売っていない子供を連れて、実家に帰ってしまった。
私は、引き止めなかった。
それから、妻子とは会っていない。
後に、聞いたのだが妻は流行病で死んでしまったらしい。
一人になった私、もう近くの獲物だけ十分だ。
でも、強い獲物を狩るとミスティアが褒めてくれる。
だから、私は強い獲物を狩る為に、強く遠くに矢を飛ばしたい。
雪が、積もって寒い。
太平洋側で生活したい。
また来年もよろしくお願いします。
1>>充電期間が必要でした。
2>>妖怪はとても怖いはずです。人間は食べられます。
3>>かつて、秦の皇帝も自分の事を2次創作した作品には困ったそうです。
6>>すごいです。完全に読まれてますね。仰るとおりです。
7>>褒めて貰いありがとうございます。
ポリ燐酸ナトリウム
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2011/12/31 09:29:50
更新日時:
2012/01/04 14:38:46
評価:
4/9
POINT:
490
Rate:
11.44
分類
ルーミア
ミスティア
狩人
コメント返信
彼は、妻よりも理解者を欲したのか。
医者の『忠告』は、ひょっとしたら、こうなる事を予測していたのかも……。
もし、借金してでも完治するまで入院していたら、普通の狩人として幸せに妻子と暮らせたかも。