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『少女らは足を削ぐ』 作者: 遊
「……っ!!」
からから、と店の戸を開けて魔理沙が入ってきた。
が、いつものように僕の名前を呼ばず、小さな呻き声を漏らしただけだった。
逆光の中わずかに見えた顔は苦痛に歪められていた。
「どうしたんだい、随分痛そうじゃあないか」
彼女の両の足には包帯が巻かれていた。
布の柔らかな白に血液の惨めな赤が滲んでいる。
「へへ、なんでもないんだぜ」
無理に笑っているのは見て分かるのだが、怪我を嫌に思っている風ではない。
それが妙な違和感を僕に抱かせる。
「お座り」
普段なら立たせたままにしておくが、怪我人を立たせておくのは良心に反する。
仕方なく、拾い物の古い洋式の椅子をがたり、と引き寄せてやる。
「悪いな」
そう礼を言うと、緩慢な動作でそれに腰掛ける。
いつもならひっくり返ってもおかしくないほどの勢いで座るのに、手をついてスカートが皺にならないようにして座る。
スカートから覗く白。
それは素肌のものでなく、包帯のものだ。
揃えられた包帯に巻かれた足を、魔理沙は何故か満足げに眺めていた。
痛々しいとしか思えない太ももを彼女は優しく撫でさすってやっていた。
労っているように見えず、それは愛しいと思ってやっているように見えた。
「怪我、どこでしたんだい?」
「ああ、これは自分でやったんだ」
「自分で?」
実験で失敗でもやらかしたのだろうか、しかしそれならそう言うはずだ。
「自分で、肉を、削いだ」
「は……?」
所謂自傷というものじゃあないか。
どこにそんなことをする必要があったというのか。
僕が意味が分からないといったような顔をしている間、魔理沙が話す。
「だって、足が太いなんて嫌じゃないか」
確かに脂肪が沢山ついた足はみっともない。
だが、魔理沙の足はそんな醜い足ではなかった。
すらり、と真っ直ぐに伸びる、少女ならではの綺麗な足。
なのに何故?
「魔理沙、君の足は太くなんかなかった。だから削ぐ必要なんてなかっ……」
「うるさいっ! 私の足は皆より太かったんだ!」
『皆』とはなんだ。
『皆』が自分より細かったというだけで、肉のついていない太ももを削ぐ必要なんてあるのか。
なんだか、妙な胸騒ぎを覚えて外に出る。
魔理沙は俯いて幾粒か涙を包帯に落とした。
落ちた涙は、包帯の赤を薄い桃色へと薄めた。
魔理沙が何かを言っていたような気がしたが、僕は抱える胸騒ぎを優先した。
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久方ぶりに里に降りると、里の少女らのかなりの人数が太ももやふくらはぎに包帯を巻いていた。
しかし魔理沙同様、痛がったりはしているものの疎んじている風には見えなかった。
どの少女も当たり前と言わんばかりに普通に道を往き来している。
なんなんだろうか、この状況は。
しばらく覚束ない足取りで里の大きな通りを歩いていた。
空を仰いでみても、今も昔も代わり映えしない青があるばかりだ。
すると、小さな影がぐんぐんとこちらへ近付いてきた。
「こんにちはー! 文々。の射命丸ですー!」
「ああ、こんにちは……」
僕は情けない声でしか返事を返せなかった。
射命丸さんは首を傾げて、
「やや、里で見るのも珍しいのに、さらに非常に顔色がよろしくないとは。どうかなされたんですか?」
「君を『ますめでぃあ』とした上で一つ訊きたいことがある。この少女らの自傷行為は一体いつからなんだい?」
問いに問いで返すのは失礼だと知りながらも、訊くことを止めることはできなかった。
射命丸さんは手を口元へやって、少し考える素振りを見せた後「思い出した!」と顔を輝かせる。
「ほんの少し前ですよぉ。外からですね、『ふぁっしょん雑誌』なる物が里に入ったんですよ」
『ふぁっしょん雑誌』、それが幻想入りした。
原因は分かったが何故なのか理由が分からない。
彼女らが何故足を削ぐ必要があったのか、その説明にはまだまだ遠い。
「あのですね、『ふぁっしょん雑誌』というのはですね、流行りの服装をまとめた雑誌なんですよ。そこにですね、『足痩せ』だとか『太い足から卒業』だとか書いてあるわけですよ。」
「はあ」
「さらに追い打ちをかけるように服装の見本として写された可愛らしい少女らの足が皆ね、綺麗なんですよ。だからじゃないですかねぇ」
外の少女らの足が細い。
それだけ、たったそれだけのことで大切な両親から授かった足を削ったのか。
「それだけ、とお思いのようですね」
「当たり前だろうっ!!」
声は当然のように荒くなった。
しかし、次の瞬間にはただの一言も喋ることができなくなっていた。
「確かにそれだけの理由なんですよ。でも、思春期の少女らには『それほど』の理由なんです」
男の方には理解しかねるでしょうがね、と続けて馬鹿にしたような意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「……理解できる範囲で理解したい」
「おや、随分積極的ですねぇ。もしかして魔理沙さんも足を削ったのですか?」
頷く。
「なら最も理解しやすく、最も賛成を得られない解答を差し上げましょう!」
「いいから、早く」
知ったところで少女らの足が治るわけでもないのに、僕は急かした。
「要するに単なる美意識なんです。美的感覚、って知ってらっしゃいます?」
「え」
「やっぱり、感覚の理解は無理ですか」
足が細いことは良い、というのが少女らの美的感覚の一つだと、目の前の妖怪の少女はさらりと言ってのけた。
あんな痛ましい努力をしてまで勝ち得る必要のある『美』なのだと。
「ま、私みたいな妖怪には関係無いことですが」
「そうだね。質問しておいて声を荒げたりして申し訳なかった」
「いやいや、身内が自傷なんてしたら心配するのは当然でしょうからね」
どうしてかは分からなかったが、最後の彼女の台詞はなんだか白々しく感じられた。
それもまあ、当然のことなんだろう。
彼女は「それじゃあ」と空へと戻る。
黒い翼が切った風が頬を撫でていった。
「僕もそろそろ店に戻るか……」
里の通りの人の流れからそろり、と外れ店への帰路についた。
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霖之助は店に戻ると、店内の書物の山を漁り始めた。
その山を成しているのは大部分が外から流れついたものだ。
雑誌なんかがほとんどである。
あ、と思い、霖之助が店内を見渡す。
魔理沙はもう店から去ったようだった。
彼女の掛けていた椅子は、窓から射し込む西陽によって、床に寂しげな影を伸ばしていた。
「これ、かな……?」
しばらく物色していると、射命丸の言っていた内容が書かれていると思われる雑誌が何冊か見つかった。
濃い桃色やきらきらした小さな粒の写真で飾られた表紙には、見慣れない異国の文字が踊っている。
中はと言えば、幻想郷では見かけたことのない衣装を見に纏った少女らの写真写真写真……。
少女らの服装には一部を除いて共通項があった。
それは射命丸の言っていた「細い足」であった。
「隙間時間にできる太もも……えくささいず?痩せるためのことなのかな……」
霖之助にはよく分からない単語もあったが、大体文脈から意味を察した。
そうして霖之助が目を通し終えた雑誌のほぼ全てに、多少記述量の違いはあれど痩身術について書かれていた。
「なんなんだ。これは、洗脳か何かなんじゃないのか。これじゃ病気になってしまう」
内容の中には無理なやり方も記載されており、健康に影響が出て当然と言うものも少なくはない。
「こーりーん」
「魔理沙?」
がらっ、と戸が開かれる。
魔理沙が夕日の朱を背に立っていた。
逆光になってしまって見えにくいが、やはり足には包帯が巻かれている。
「何処に行ってたんだい」
「竹林の医者んとこ。やっぱ足、痛かったからさ」
足を指指しながら、困ったように笑う。
「魔理沙、足が細いと何か得をするのかい?僕は今日一日人に話を訊いたりして考えたりもしてみた。だけど、今でも分からないんだ」
「だって、そっちの方が男はいいんじゃないのか?雑誌にはそう、書いてあったぜ」
「魔理沙……」
その先を霖之助は言えなかった。
何を言おうとしていたかも見失ったのだ。
「(美意識なんて、あったもんじゃない)」
ただ頭の内で、外の少女らは馬鹿になってしまったんじゃないのかと、失礼と分かりながら危ぶんでいた。
意外と長くなってしまったので、試しにこちらにも投稿。
レギンス履く度に申し訳なくなるのは、自分が馬鹿だからなんでしょうか。
最近の携帯サイトの広告が怖いのです。
遊
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2011/12/31 10:17:59
- 更新日時:
- 2011/12/31 19:17:59
- 評価:
- 6/10
- POINT:
- 610
- Rate:
- 11.55
- 分類
- 森近霖之助
- 霧雨魔理沙
- 射命丸文
- 足が細くなりたいのは女の子だからです
見よ 万力の如く胴体を締めつける鯨髭の胴凱
私は体重は身長での平均以下ですが足がどうにも太いので男で良かった
むしろ細すぎると気持ち悪い
すてきな洋服でかざられたマネキン人形たちの美しさにあてられれば、男もそうなることでしょう。
霊夢ならそんなこと気にしないでしょうが。
紫は……、外界の高級エステに定期的に通っていそう。
ああ、マスメディアで報道される事は『真実』だと妄信する事が、幻想入りしたのですね……。
嘘を嘘と見抜けないヤツは何とやら、ってか。
可愛くなければ存在すら許されないわけで。
結局みんなより細いとかどうでもいいことに自分の存在意義を見出すしかないんですよね。