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『秋姉妹と初詣』 作者: おにく
「誰か来るといいね、お姉ちゃん」
「そうね、誰か来るといいわね」
一月一日、元旦。朝十時、気温は例年よりやや低めである。
神社と言うか小屋というか、あまりにもこじんまりとしたぼろの秋神社の社では、
秋を司る二人の神様が、賽銭箱の前に立ち、これまた小さな鳥居を見つめながら参拝客を待ち望んでいた。
二人はきてくれる人をもてなそうと、朝早くに起き、やきいもを焼いていた。
そのうえ今年はじつに二皿六十個という大盤振る舞いである。
しかし、誰も来ない。冬の凍て付くような冷気が二人の柔肌を痛めつける。
ぼろぼろに痛んだ社が、風に煽られてぎしぎしと悲鳴を挙げている。
去年は誰も来なかった。一昨年も誰も来なかった。五年前に最後の初詣客が現れてから、ずっと途絶えている。
二人は口にこそしなかったが、考えることは一緒だ。今年もきっと誰も来ない。
もうすぐ正午。焼き芋はとうに冷え切ってしまっていた。
穣子の肩が震える。涙がぽろぽろとこぼれてくる。
「なんでだろうね、私たち、頑張って神様してるのにね」
悔しさで赤く染まった頬に、涙が一粒伝う。
「おいしいごはんのために頑張ってるのにね」
いや、一粒ではすまなかった。止めようとしても止められない。
「やめてよ、泣かないでよ、私だって泣きたくなっちゃう」
静葉も泣いた。ぽろぽろ泣いた。参拝客の一人も得られない情けなさと、
妹を泣かせる自分のふがいなさに、声を漏らしながら泣いたのであった。
しかしそのときである。秋神社の小さな小さな鳥居に、数えきれないほどの人影が見えたのだ。
穣子も静葉も、はじめは気が付かなかった。涙で視界がにじみ、なにもわからなかった。
それでもだんだんと影が大きくなると、それがたくさんの人であることが分かる。
五人、十人、いや二十人はいるだろう。
「あ、あれ、お姉ちゃん、人だよ、人が来てるよ!」
「本当だ、たっくさんの人……」
袖口で涙をふくと、幻のようなその光景があった。参拝客が鳥居をくぐっている。
秋神社がこのように賑やかになったのは何十年ぶりだろうか。
ともあれ、折角来てくれたのだ。もてなさなくてはなるまい。
静葉と穣子は、焼き芋がいっぱい盛られた皿を抱え、一番乗りである屈強な男に近づいていった。
「ぐす、皆さん、ありがとうございます」
「これおいもです。少し冷めてますけど、私達の気持ちです」
二人の目はいきいきとして、光を取り戻しつつあった。こんなに楽しい元旦は、久しぶりだった。
しかし、人間たちの目には、二人への信仰の思いなど全く灯っていなかった。
「はぁ? 何いってんだこのガキ」
「退けよ、工事の邪魔だ」
先頭を歩いていた男は、穣子を片手で振り払った。
「きゃあっ!?」
バランスを崩し、地面に崩れ落ちる。朝早くから焼いた芋が、ぼろぼろと地面に落ちてゆく。
後続の人間たちは、その芋たちをまったく省みること無く、踏みつぶしながら境内に入っていた。
「オーライ、オーラーイ」
突然爆発するようなエンジン音がする。
なんと、重量16トンもの巨大ブルドーザーが鳥居の反対側から無理矢理入り込んでいたのだ。
幻想郷にあるだけあって、燃費の悪い旧式だ。しかしパワーはかなりのものだ。
もくもくと油混じりの煙をあげながら、秋神社の木々を薙倒し、草花を踏みつぶしてゆく。
その中には、緑色の髪をした山の上の現人神、早苗が乗り込んでいた。
「えへへ、ロクヨンのゲームを思い出します。実際にやってみたかったんですよね、こういうの!」
エンジンが龍のように唸り声をあげる。するとまたキャタピラーが回り始め、今度は秋神社の社そのものを破壊しはじめた。
ブルドーザーが体当りするたび、木片が舞い、柱の折れるパキパキという音が鳴る。
少し押しただけで、ピサの斜塔のように斜めになって、これ以上押すと、直ぐにでも倒壊してしまいそうだった。
「嫌ああああああ!! やめてえぇ!! 私達の、私達の神社になにするのよっ!?」
静葉はブルドーザーを止めようと、果敢にかけより、近づいてゆく。
「むむっ、お邪魔キャラ登場ですね!」
ブルドーザーは静葉の挑戦を受け取り、方向を転換した。
そしてエンジンを全開にし、体当たりを試みる。静葉は避けようとしたが、なにもかもが遅すぎた。
前方に取り付けられた排土板が、か細い体を激突する。
「がはっ!?」
骨にヒビが入ったのだろう。静葉からくしゃりと嫌な音がした。
静葉は口から血を吐き、鼻血をだし、鼓膜が破れたのか耳からも血を流してその場に倒れた。
「お姉ちゃん!? お姉ちゃんしっかりしてよぉ!?」
穣子は、呆然と立ち尽くしていたが、すぐに我を取り戻し、静葉にかけよる。
静葉は口をぱくぱくさせ、ぐりんと白目を向いた。半数の臓器はすでに破裂しており、助かる見込みはなかった。
そのまま気絶し、まるで人間のように、弱々しく痙攣し、動かなくなった。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん、起きてよ! 死んじゃやだ! お姉ちゃん! お姉ちゃん!!?」
肩を掴みがぐがぐと揺らすが、それはすでに死体であった。
お邪魔キャラを退治すると同時に、秋神社の破壊はすすめられた。
ほんの数分だった。数分で、数百年に及ぶ秋姉妹の信仰が、ただの木クズとゴミクズになった。
早苗は一仕事終えたというような、自信に満ちた顔つきでブルドーザーから降りる。
「皆さん! これでまた一つ、幻想郷から邪教が滅び去りました! 守矢神社の分社をたて、この地を浄化しましょう!」
神奈子様、諏訪子様、早苗様! 人間たちが声を上げる。
ここにいる人間たちはみな、今年のうちに守矢神社に鞍替えをした信者たちであった。
いずれもかつては、多種多様な神を信仰していたものたちだ。その中には、元来、秋姉妹を信仰していた農民の姿もある。
早苗はその信仰心に、満足そうな笑みで応えた。そして、地面をみやる。
視線の先には、静葉の死体と、地べたに這いつくばって、心神喪失している穣子があった。
「祟ってやる……、みんな祟ってやる……!」
穣子の声には、恨みがこもっていた。みんなのために豊穣の神として振る舞ってきた穣子である。
それに対するしうちがこれか、怒りと絶望で、その心は真っ黒に染まっていた。
その声は涙に濡れていたが、吠えるような凄みがあった。
しかし、早苗はその宣言に噴きだしてしまう。
「へへぇ? あなたが? 信仰も集められないあなたが、まともに祟ることなんてできるんですかぁ?」
信者たちは、早苗にならい、大声で侮辱するように穣子を嘲笑した。
「まぁ、なんにせよ、祟ることすらできません。あなたはここで始末されるんですから」
信者たちは、早苗の目を見るやいなや、穣子の体を地面に抑えつけた。
信仰を失い、力をなくしていた。もはや人間相手に満足に暴れることもできない。
「離せっ! 離せよっ! 祟ってやる! 祟ってやるぞ!」
穣子の白い首に太い斧があてがわれる。その柄はもっとも屈強な信者が握っていた。
彼はそれを天まで持ち上げ、そして一気に振り下ろす。
わずかな悲鳴もなく、可愛らいい秋の神様の首が、ころころと飛んで転がってゆく。
首の断面からは、異様な量の血液がばしゃばしゃと噴水のように吹き出していた。
「あはは! いい気味ですね!」
静葉の首も、念のためはねられた。静葉は死んでいたので、抵抗は全くなかった。
首を失った二人の体は、ハダカにされ、神社のそばの大木に吊るされた。
二人の首は、盗まれぬよう透明なショーケースに入れられ、木の台の上で虚空を見つめている。
邪教の首謀者を晒し者にしたわけだ。
秋姉妹の死体はすぐに死姦マニアに犯され、肉便器マニアに落書きされるなど悲惨な状況になったが、
邪神にふさわしい末路であるので、そのまま放って置くこととされた。
いっぽう秋神社の跡地には、ピカピカで、コンクリート造りで、地上三階建ての、守矢ミラクル分社が建立された。
建物の中央は吹き抜けになっており、5メートルにもおよぶ早苗の銅像が飾られている。
晒し者にされた秋姉妹とともに、この地方の名物になっているという。
初詣は守矢神社、もしくはお近くの守矢神社分社へどうぞ
あけましておめでとうございます。
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2012/01/01 09:59:27
- 更新日時:
- 2012/01/01 23:02:30
- 評価:
- 5/11
- POINT:
- 570
- Rate:
- 10.82
- 分類
- 秋姉妹
- 初詣
- 早苗
- 新春あけおめSS
信仰していた者が居たからなのに、その信仰していた者の近くに
移らなかった危機能力の低さが姉妹の死に繋がったのだな。
数百年もダラダラと生きるのは辛いだろう?
その苦悩を楽にしてやるとは早苗さんは優しい人だな。
いずれ早苗さんのメッキが剥げた時、彼女は因果応報という言葉の意味を噛み締める事になりそう……。
秋姉妹は……、いるだけで良いですから、無理しないで。