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『運命の赤い糸よりも強く』 作者: 六でなし

運命の赤い糸よりも強く

作品集: 2 投稿日時: 2012/01/08 10:25:24 更新日時: 2012/01/08 23:05:51 評価: 7/13 POINT: 860 Rate: 12.64
【君の子宮に仕込んだ毒から生き残りたければ男を満足させろ】

【男を満足させる為には乙女を失う覚悟が必要だ】









 ありったけの果物をミキサーにかけてその果汁をバケツに溜める。
 それを果物ではなく生き物で行えば、こんな濁った赤い色をしたペンキが出来上がるのかもしれない。
 白、白、白。四方を白い壁で囲まれた部屋。
 窓一つ扉一つないその部屋の中で唯一の光源であるランプの光が鈍く照らしているのは、壁一面丸々使って描かれた赤黒い色をした文章。
 それはこの舞台における三つの舞台装置の一つだ。

《………………》

 二つ目の舞台装置は部屋の中心に仰向けに寝ている一人の男。
 頭髪はまばらに禿げ上がり、弛んだ顔には生気がない、まるで油を固めて作られたような醜く肥え太った全裸の中年男。
 外傷こそないものの、死体あるいは蝋人形のように生命の気配を感じられない中年男。
 それが天井を仰ぐように大の字に倒れている。

「――――――――――――!!?」

 そして三つ目の舞台装置は乙女。
 一糸纏わぬ生まれたままの姿でその未成熟な肉体をさらしながら絹の裂けた様な叫び声を上げる、つい先ほど眠りから目覚めたばかりの一人の少女。
 この悪趣味な見世物の主役の名は霧雨魔理沙。
 選ばれた理由はこの見世物の主催者が彼女の大ファンだからだ。






【君の子宮に仕込んだ毒から生き残りたければ男を満足させろ】

【男を満足させる為には乙女を失う覚悟が必要だ】



 中年男は体の中心から醜い肉棒を隆々と勃たせており、【男を満足させる】という言葉の意味が暗に示されていた。













「な、何だよ………………。こいつ……誰だよ…………。ここ……どこだよ…………」

 魔理沙が目を覚まして数分後といったところだろうか。
 起きた直後こそ突然の事態に大声で叫び声を上げたが時間が経つにつれ落ち着きを取り戻し、今度は驚きよりも戸惑いの方が魔理沙の心の中で強くなってくる。
 どうしてこのような状況になったのか?
 深酒に酔って見知らぬ男性と一夜を共にしたのだろうか?
 いや、それはない。
 自分は前後不覚になるほど酔うことも稀によくあるが、それでも性行為を行なうような無茶は無かったはずと魔理沙は思う。
 更に魔理沙はこのような場所には全く覚えが無い。
 混乱する頭を整理しようと前日の記憶を辿ると、ぼんやりと思い出してくる。
 そもそも魔理沙は昨日の夜、普通に自宅で眠っていたはずだ。
 博麗神社の宴会から帰り、歯を磨きパジャマを着て、そして眠る
 そんな帰宅後の習慣を経たはずだ。
 彼女が外出時に肌身離さず持ち続けている、生命線とすら呼べるミニ八卦炉も当然ない。
 ――となれば、いつの間に脱が“された”のだろう。それも“何者の手”で。
 意識を失っている間に自らの体を何者かの玩具にされたのではないか?
 それに気付いた魔理沙はぞくりと鳥肌が立ち、悪寒から身を守るように身を守るように体をぎゅっと抱き、縮込ませた。

(ナニコレ?)
(男?)
(こいつ誰?)
(生き残る?)
(何で?)
(誰が?)
(生き残る?)
(ここどこ?)
(私の家じゃない?)

 圧倒的な存在感を持つそれは一つのオブジェのよう。
 魔理沙の眼前に『ある』全裸の中年男。天高く隆々と勃起した一物を持ったそれ。
 ぼやけた思考がハッキリしてきて、頭の回転が回り始めてその事実を認識しなおした魔理沙。
 その背筋にぞわりと悪寒が走り、彼女は思わず目を背けた。
 幼い頃に父と風呂にはいった時以外に男性器を直接見た経験がない魔理沙。当然免疫など無い。ましてやグロテスクに勃起した男性器なんて見ることは初めて。それもこのような異常な状況で、相手は得体の知れない不気味な中年男だ。
 彼女が嫌悪感と気持ち悪さで吐気を催すことも無理のない事だった。

「……うっ」

 隆々と勃起する男性器。
 勃起。
 基本的に男性が女性への性的興奮を得ているときに起こる現象。そしてこの場には男と魔理沙の二人しかいない。そのような男と密室に二人きりという現状が何よりも恐ろしい。
 いつ男が魔理沙を毒牙にかけんと襲い掛かってくるかわからない。男が魔理沙に圧し掛かり羽交い絞めにして無理矢理挿入し、欲望の捌け口とするかもしれない。





【君の子宮に仕込んだ毒から生き残りたければ男を満足させろ】

【男を満足させる為には乙女を失う覚悟が必要だ】


 壁に書かれた一文が魔理沙の脳裏を過ぎり、じっとりと身体中に纏わり付くような呪縛と化した。
 魔理沙は今、ミニ八卦炉を身につけておらず、弾幕を放つ為の触媒となるキノコから作った魔法の元も持っていない。つまり今の魔理沙はただの人間の少女に過ぎず、男に襲われたらその身を守る手段が存在しない。
 魔理沙は自らの体を守るように両手を胸の前で交差しながら男から距離を取る。
 壁に背が当っても、それでもまだ距離を取りたくて背中を押し付ける。
 男を刺激しないように、標的にされないように、空気と同化するように存在感を消すことを心がけた。
 魔理沙はわけがわからない。何故自分がこのような目に合う羽目に陥ったのか理解できない。
 何故自分がここにいるのか。どうやって連れてきたのか。ここはどこなのか。男は何者なのか。あの壁に書いてある落書きはどういう意図によって書かれたのか。
 そしてもし男を満足させることが出来なかったら――。

【君の子宮に仕込んだ毒から生き残りたければ男を満足させろ】

【男を満足させる為には乙女を失う覚悟が必要だ】



 “子宮に仕込んだ毒”

「………………」

(どういうことだ?)
(何故私がこういう目に会う?)

 浮かんできた疑問に頭を悩ませた矢先のことであった。



≪アトロクジュップンデス≫











 魔理沙は最初、それを男が発した声だと思った。
 だが男は相変わらず動かないままでじっと佇み、微動だにしない。
 男が何気なく呟いた独り言なのか、あるいは魔理沙が空耳や幻聴を起こしたのか、それはわからない。
 けれど確かめなければわかりっこない。だから確かめるしかない。
 頑張れ、霧雨魔理沙。お前なら大丈夫だ。やれる。
 魔理沙は自らをそう鼓舞し勇気を振り絞り、目の前の男に対して恐るおそる声をかける。


「お……おい。今何て言った?」
「………………」
「おいっ! 起きているなら返事しろよ!」
「………………」
「寝てるのか? 無視するなよ!」

 目を開けながら眠る人間も世の中にはいる。目の前の男もそういう類の人間なのだろうか?
 それとも単に反応する気力がない?
 魔理沙は男に対し先ほどよりも大きめの声量で声をかけるが、やはり反応がない。

「おい! 起きろ! 返事しろよ! どうなってるんだよ! お前はこの状況について何か知ってるのか!? 一体何が目的なんだよ!?」

 だが、男からは全く反応がない。
 男の瞼は開いてはいるものの、まばたきひとつせず、眼球が動くこともない。
 その双眸はただ虚空を見つめているだけであった。
 いきなり襲い掛かってこられるよりはマシなのかもしれないが、それでも何の反応もないとなると問題だ。

「寝たふりをしているのはわかっているんだぞ! お前がそうやって無視する気ならこっちも考えがあるぞ! 聞いてるのか!」

 段々と募る不満や恐怖のためか、魔理沙は段々と声を荒げる。けれど男は全くの無反応を保ったままだった。
 そう、眼前の男が何者であるのか魔理沙は知らない。このような男と知り合った覚えは無い。
 ひょっとしたらこの男もこの事件の犯人によって閉じ込められているだけなのかもしれない。
 だがカマをかけようも全く反応が無い。

「そもそもコイツ誰だよ……」
「………………》
「……くそっ」

 先ほど聞こえてきた言葉は気のせいだったのだろうか?
 それとも狸寝入りを決め込んでいる?
 確かめる為に男を叩いたり蹴飛ばしたりして、力ずくで起こすか?
 そう思った矢先、男の勃起した一物が目に入る。
 瞬間、魔理沙の脳裏に叩き起こされた男が激昂して魔理沙に襲い掛かる光景が浮かぶ。
 ごくりと息を飲み、現状維持に留める事にする。
 巻き込まれたものはしょうがない。それならば対策を立てるだけ。
 自分はそもそも危険だと表現されるような冒険なんてたくさんやってきたのだ。
 これぐらい全然大したこと無い。さっさと解決して酒の席での武勇伝の一つに加えてやろう。
 あせる必要は無い、まず行なうべきは状況の整理だ。











1、就寝後起きたら自分はこの部屋に居た。睡眠中に何者かの手でここに拉致されたと考えられる。その実行犯は不明。目的も不明。
2、この部屋は密室。出入り口は扉が一つあるのみ。調べたところ当然のように鍵が掛かっている。鍵は内側から。この部屋から自発的に脱出する方法は他に無い。
3、【君の子宮に仕込んだ毒から生き残りたければ男を満足させろ】【男を満足させる為には乙女を失う覚悟が必要だ】と壁に書いてある。真偽不明。そして目の前には股間を勃たせた男が一人仰向けに寝ている。生死不明。狸寝入りの可能性もアリ。



「……現状をまとめるとすればこんなところか。悪戯にしては随分と悪趣味だな」

 ハッと、魔理沙は鼻で笑う。
 段々落ち着きを取り戻してきた。


 魔理沙は鍵の掛かった扉の方に歩み寄り、手を口に添えてすぅっと息を吸い込む。

「首謀者出てこ〜い。今だったら新種のキノコの味見のバイトで許してやるぞ〜。聞いてるか〜」

 トントン。
 返事は無い。

「ドッキリだろ〜。なぁ、誰だ? 怒らないからさぁ」

 誰かが看板を持って「ドッキリでした〜」とどや顔で入り込んでのネタ晴らし。
 もしそんなことをしでかす奴がいたら零距離マスタースパークをおみまいすることにしよう。
 そう思いながらドンドン、カチャカチャと扉を弄る。
 まるで反応が無い。
 そもそも扉の向こうに誰かが居るのか定かではないが、声をかけずにはいられない。

「早くしないとこのおっさん風邪引いちゃうぞ。おっさんが可哀想だと思わないのか、酷いやつだな。いいのか〜。このおっさんがどうなっても知らないからな」

 ドンドンガンガン、ガチャガチャガチャ。
 心にもない事を口走りながら、ひたすら扉を叩きドアノブを回す。

「いいから早く開けろよ! いい加減にしないと怒るぞ! 早くしろよぉっ!!」

 ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。
 結局ドアの向こうからは何も反応が無かった。
 徒労に終わり、ハァハァと息を切らせた魔理沙は額の脂汗を拭う。
 魔理沙は平静を装いながら扉に背を向け、チラリと後方を振り返るも終止扉からは反応が無かった。

「……な、中々手の込んだドッキリだな。今日は何かのイベントだったっけ?」

 ひょっとして自分はこんなことをされるほど嫌われていたのかと、魔理沙は若干落ち込んだ。
 犯人は彼女の知り合いであるとは確定していないのに、そうであると決め付けたがる彼女。
 すぐに知り合いを疑うとなると酷い思考回路だと思われてしまうかもしれないが、
 彼女が少し過激なドッキリであることを望んでいるのも無理の無いことだった。
 なぜならばこれが知人からのドッキリでないとすれば、
 それはすなわち魔理沙が純粋な悪意によるゲームに巻き込まれた事を意味するからだ。
 すると壁に書かれた一文が、恐ろしい意味を持つようになる。

「……わけがわからないぜ」

 何故こうなったのだろう、
 そもそも自分がこのような事件に巻き込まれる理由なんて無かった。
 普段遊びに行っている妖怪達が犯人で、その怒りや恨みを買ったのだろうか?
 冷静に考える。
 怒りも恨みもそこそこには買っているものの、それはないと魔理沙は思う。
 明確な根拠も証拠も無い。だが彼女達が犯人であることは考えられにくい。
 あえて根拠を述べるのなら、魔理沙の知る者達は皆限度と調停は弁えていることだ。
 自分の事が気に入らないのならこれほど回りくどいことはしないはず。
 そんな彼女達がこんな悪い意味で子供めいた真似はしないだろう。
 だからこの現状はまるで、自分の知らない世界に放り込まれたような感覚だった。


【君の子宮に仕込んだ毒から生き残りたければ男を満足させろ】

【男を満足させる為には乙女を失う覚悟が必要だ】



 夢なら醒めて欲しかったが、頬をつねると感じる痛みは紛れも無く現実のもの。
 自分の生殺与奪が見知らぬ誰かに握られているということ。
 心臓の辺りをそっと撫でられたような感覚に、魔理沙はビクンと身を怯ませる。
 男を満足させる。男を――満足。
 魔理沙はちらりと目の前の脂ぎった中年男を見る。まるで人形のようにしている男は食事を与えようとも金を与えようとも権力を与えようともまるで満足しそうに無い。そのような要求とは無縁。そもそも興味自体なさそうだ。
 そんな中、男の股間――毛むくじゃらでビクビクと脈打つ肉棒のみが別の生き物のように自己主張していた。
 毒――。
 満足――男を。
 生き残りたければ――。

 そんな折のことだった。




≪アトゴジュウゴフンデス≫




4、男は時間を刻んでおり、それは段々と減ってきている。










「それにしても……何で時間を計っているんだ……?」

 男の腹の中から音声。
 人の出す声というよりもそれはまるで音。抑揚の無い音の羅列。文字がただ流れるだけのようなもの。
 声は男の下の方から、魔理沙の視界のギリギリ外、おそらく腹部の、男の弛んだ腹の中から聞こえてきた。
 男が口を開かずに音声を発するそれは腹話術なのかとも思ったが、そう手を込ませる理由が無い。
 故にそれはもしかしたら通信機などの音を発する何かが入っているだけで、男は無関係な存在なのかもしれない。

≪アトゴジュウフンデス≫
「うるさいっての、少し黙ってろよこのっ」

 あと50分。
 暢気に考察なんてしていくうちに時間の余裕が段々となくなってきて、魔理沙の中に焦りが芽生えてくる。
 ドッキリの看板を持って乱入してくる者はまだ現れない。

≪アトヨンジュウゴフンデス≫

 また聞こえた。今度は心構えをしていた為か、はっきりと聞こえた。
 白い密室の中、抑揚の無い声がポツリと響く。間違いない、これは空耳や幻聴じゃない。
 そして現状、声を出せる人間は魔理沙以外には一人しかいない。
 間違いない、この声は男から聞こえてくる。

≪アトヨンジュップンデス≫

 まただ。
 「あと四十分」。
 さっきが「あと四十五分」。つまり時間の経過に呼応して男は喋っているのだろう。それが正確なのかどうかは、時計を持っていない魔理沙にはわからない。
 こんな時計も何も無い部屋で一定周期に時間の経過を発する。
 何故? 何の為に?
 そして減っていく時間。これは一体何を表しているのだろう。
 この時間が0になったら?
 魔理沙はチラリと壁に描かれた文字を見る。




【君の子宮に仕込んだ毒から生き残りたければ男を満足させろ】

【男を満足させる為には乙女を失う覚悟が必要だ】




 【毒】の文字が、魔理沙の目の奥でチリチリと焼きついた。











≪アトサンジュウゴフンデス≫
「…………あと30分と少しか……結構時間が経つのが早いな」

 脱出に向かって頭を働かせ続けていた魔理沙ははぁ〜と大きくため息を吐く。
 結局何も思いつかなかった。この部屋は四方に囲まれた壁と一つの扉と、単純ゆえに脱出する選択枝が少ない。
 魔理沙は大きく息を吸い込むとドアに駆け寄った。

「もう十分だろ! こっちは30分近くもこんな部屋に閉じ込められたんだよ! そろそろ出さないといい加減に本気で怒るぞ!」

 ドンドン。
 壁を殴りつけるも反応がない。
 ガチャガチャ。
 鍵は全く開けられる気配が無い
 ドンドン。
 ガチャガチャ。
 ガンガン。
 ガチャガチャガチャガチャ。
 何度やっても同じであった。
 変わったことと言えば、魔理沙の拳に赤く腫れて鈍い痛みが残っただけ。

「……畜生」

 魔理沙はちらりと中年男を見る。
 こんな気持ちの悪い男とはちょっとでも一緒にいたくなかった。
 死体と同じ部屋に置かれていて気持ちがいいと感じるような悪趣味は持ち合わせていない。
 死体ではないかもしれないが、魔理沙にとっては死体以上にこの男は不気味だ。
 そういえば、と魔理沙は疑問が浮かんできた。

 この男は、生きているのだろうか?

 死体のようなのではなく、本当に死体なのでは?

「……………………」

 魔理沙は男の頭側にやってくるとごくりと息を飲み、数秒硬直する。
 意を決して男の頭を足の爪先でちょんと触れると、すぐさま壁際まで後退する。だが男は石造のように固まったままだ。
 今度はより強く蹴る。
 だが直後になって男が起きて蹴られたことに腹を立てて襲い掛かってきたらどうしようと、裸の少女は小心者めいた感情が沸きあがって再び壁際まで後退する。
 けれど魔理沙の脱兎のような逃げ足は必要なかった。
 男は全く動かない。

「……まさか本当に死んでる?」

 掌をぎゅっと握り締め、奥歯を噛み締めて恐怖に抗い、すぐそばまで近寄る。
 脈を取ってみた。



 ある。


 体温も暖かい。



「生きてる……なのに何で反応しないんだ……?」

 死んでいるのかと思ってしまった人間が生きているのに、社交辞令じみた安堵すら浮かばない。
 生きているのに、生気を感じない。
 この男はまるで生き物というよりも生き物を模した人形のよう。
 魔理沙はちょんちょんと男の頭を爪先で蹴りながら首をかしげる。
 確かに生きている。
 結局魔理沙には男が反応しない理由はわからなかったが、取り敢えず死んでいない。
 そしてここに居る理由も不明だ。







 いや――ある。
 男がこの場にいる理由。それを魔理沙は閃いた。
 この推理ならば全ての辻褄が合う。
 そうだ、そうに違いない。
 魔理沙に確信めいた感情が沸いてきた。











 一昔前に外の世界で流行ったというホラーとサスペンスを混ぜたようなストーリーの映画。
 早苗に見せてもらったその映画では、真犯人は最前列で主人公達の苦悩する様を見ていた。丁度このような感じで。
 なるほどなぁ、なるほどなるほどそういうことかぁ、と魔理沙は不敵に笑う。
 考えてみれば妙だったのだ。不自然にもこの男が居ることが。そしてこの男のみずっと寝たまま起きる気配がない事が。
 つまり――この男が実は起きていて、魔理沙が苦しむ様を眺め、しまいには魔理沙が自らの意思で自分にセックスを求めるように仕向ける気だったのだ。
 そう考えれば辻褄が合う。
 だが残念だったな、私はあの映画と違ってお前が実は生きているという事を知っている。つまりお前の目論見はここまでなんだ、と魔理沙は「真犯人はお前だ!」と得意気な顔で指し示したい気分に駆られた。
 けれどその選択肢は待つべきだ。何故ならば今裸の魔理沙はミニ八卦炉も触媒も無いため魔法が使えず、非力な少女としての能力しか持っていない。
 そんな状況で大柄な男を逆上させてしまった場合、力ずくで組み伏せられて陵辱を受けることは免れない。
 むしろこの推理に至ったことにより、密室で真犯人と二人きりだという今の状況に関して慎重な対応が迫られた。

「……よし決めた」

 取り敢えずぶっ飛ばそう。
 どうやらかなりストレスの溜まっている魔理沙ちゃんであった。
 けれどこの過激な選択枝は実のところ間違ってはいない。
 確かに男を逆上させたらどのような目に合うかわからない。最低でも陵辱及び拷問、殺される危険性も高く、最悪の場合それら全部だ。そう考えると大人しくしていた方が身の為かもしれない。
 だが今この状況になってしまった事自体が詰みであり、手遅れなのだ。相手が怒らないからといって紳士的に振舞うであろうと期待するのは平和ボケしているという他無い。
 相手が何もしなくても酷い目にあわせることが出来るような屑なんて世の中いくらでもいるのだ。
 笑いながら赤ん坊を凌辱し腸を掻っ捌きディナーにするような、人食いの妖怪達でさえも嫌悪感を示す外道は存在する。
 そしてこの中年男もそういった類の狂人なのかもしれない。
 だったら助かるチャンスがあればそれを生かすほうが良い。先手必勝で油断している真犯人をぶっ飛ばすべきだと魔理沙は考える。
 何よりもこの男が真犯人だという一番の根拠、それはこの部屋が“部屋の中から”鍵をかけられているということ。
 当然のように、鍵は鍵穴のある方向からしか掛けられない。
 つまりこの真犯人はここから出て行くための鍵は持っているはず。
 見たところ男は鍵を隠すような衣服は身につけていないが、口の中か胃の中に隠しているに違いない。
 あとは口の中にあることを願うだけだ。胃の中だったら吐き出させるのに一苦労の為である。

「……よし」

 非力な女の子の脚力と体重とはいえ、人体にはそれでも相手を昏倒させることの出来る急所がある。
 それは顎。顎の先に強い衝撃が加えられた場合、首の骨とのテコの原理で脳が強く揺らされて脳震盪を起こし、場合によっては昏倒する。
 確かに一撃で相手を昏倒させられるとは限らない。分の悪い賭けであるが、他に助かる方法は無い故にやるしかない。
 魔理沙は腹をくくる。大丈夫だ、自分は今までも危険なことに身を投じてきた。それでもこうして生きている。だから大丈夫。
 魔理沙は中年男から大きく距離を取り、ダッと大きく踏み込んで走る。
 そしてぐんぐんと男との距離が縮まり、後はそのでっぷりとした二重顎目掛けて足を振り切るだけ。
 ――の、はずだった。




≪アトサンジュップンデス≫










「ゴフッ」
「え?」





 それは突然の事だった。
 これまでずっと寝ていた男が、いきなり苦しそうに呻き、首元に両手を回しながらぶくぶくと泡を吹いている。

「ゲハッ!? グヘェッ!? グァァァァッ!! ぐるじっ…………」
「え? え?」
「ぐぇ゛ぇ゛っ!? あ゛ぐぅ……ぎっ……が……………うげぇ゛………げっ…………」

 もがき苦しむ男の苦悶の表情はどう見ても演技には見えない。
 血を吐き、悶え、先ほどまで閉じていた双眸を目玉が飛び出そうなほど開き、ジタバタと転がりまわる。
 戸惑う魔理沙のことなど見ることすらなく、もはや助かる見込みの無いことが魔理沙の目からも明らかであった。









「……………………」

 そして間も無く彼は息絶える。
 この中年男は先ほどまでと同じように動かなくなった。
 変わったのは彼が生きているか、死んでいるかという事一つだけ。
 小さく、大きな違いであった。

「死んだ……何で……? こいつ、犯人じゃなかったのかよ…………」

 犯人のはずの男が何故死んだ?
 安全な場所で自分の事を嘲笑っていたはずの男が死んだ?
 魔理沙の立てた推理がガラガラと音を立てて崩れる。
 何故?
 どうして?
 何かの間違いだと頭の中を混乱させながら、魔理沙は念のために中年男の脈をとることにする。
 男が実は死んだ振りをしていて、不用意に近寄ってきた魔理沙にばくんと組み付き、騙された被害者ににやにやと笑いながら陵辱を行なうようなことは――当然無かった。

 中年男は死んでいた。脈は完全に止まっていた。

 男が幽霊やゾンビの類ならこの状態からでも動けたかもしれないが、魔理沙はつい先ほどこの男が脈を打っていたことを確認した。故にこの男は幽霊やゾンビではない。
 つまり、男は死んでいて、もう動くようなことは無い。
 人が目の前で――死んだ。冗談で済まされる境界線を越え、魔理沙は無意識のうちに不安の濁流に溺れる。

「わけが……わからない…………」

 何故ならばこの男が真犯人だったらこうして死ぬことはなかったはずで、それなのにこうして死ぬという事は、この男は犯人ではないということ。
 そしてこの悪趣味な事件の犯人は告げている。





【君の子宮に仕込んだ毒から生き残りたければ男を満足させろ】

【男を満足させる為には乙女を失う覚悟が必要だ】





 つまり、魔理沙は男を満足させなければ――死ぬ。
 目の前の中年男と同じように。

【君の子宮に仕込んだ毒から生き残りたければ男を満足させろ】

 何を馬鹿な、子宮なんて場所にピンポイントで毒仕込むことが出来るはずが無い。
 そもそも子宮の中に毒を入れるとすれば、魔理沙の処女膜を破って異物を入れる必要がある。
 けれども魔理沙の腟には膣内に異物を挿入されたような痛みは無い。
 だからただのハッタリだ、そんなのありっこない。
 そう思って魔理沙は自らを安心させるように下腹を擦る





 あった。


 異物感が。



 それは、下腹に付けられた縫い糸。
 まるで縫いぐるみを切り開き、中に何かを埋め込んで、その後に縫合したような、そんな縫い傷。
 確かにこれならば後は溶けるまで時間の掛かるカプセルか何かに毒をいれっておけば、確かに子宮内に時限式の毒薬を盛ることが出来る。
 精巧に縫われていた為か今まで気付かなかったそれの存在を知った瞬間、魔理沙の血の気がさぁっと引く。
 自分の体に毒を盛られたから?
 違う。それも問題だが、それ以上に恐ろしくおぞましい。
 それは魔理沙の処女膜を裂かずに、子宮内に毒を入れたこと。
 単純に毒を盛りたいのなら毒のカプセルを魔理沙の膣内に無理矢理ねじ込めばいい。
 だがそうすることはなかった。
 犯人は魔理沙の膣を傷つける事をよしとせず、わざわざ下腹を切り開いてまで毒を埋め込んだ。
 魔理沙の処女を守る為に。
 魔理沙の処女を、自らの意思で散らせるために。
 犯人はあまりにも偏執的で変質的。

「おかしいよ……何だよ……こんなっ……うぅぅ……」

 魔理沙の足は細かく震え、今にも力無く膝を着いてしまいそう。
 倒れこまずにいられるのは、獲物たる少女のせめてもの抵抗であろう。
 今この時をもって魔理沙は自分が悪質な事件に巻き込まれた事を改めて実感し、絶望の渦に巻き込まれていくのだった。
 そんな中、主を失った肉棒は落ち込んでしまったかのごとくしゅんと萎え、次いでふて腐れたようにてろんと力なく倒れていた。
 男を満足させ、乙女を失う。その意味はつまるところ、魔理沙は男とセックスしなければならない。

 出なければ、死ぬ。

 子宮に毒だなんて馬鹿馬鹿しいと思っていた。センスの無い冗談だと思っていた。
 だが、それは残酷な事に冗談ではない。悪戯でも無い。人が一人死に、冗談や悪戯で済まされる境界を越えた。
 魔理沙は今更ながら察する。巻き込まれたのは事件。
 認めたくは無いが自分は今、悪意のターゲットとなっている。




 魔理沙の脳裏に、未来の自分のビジョンが映る。
 それは解毒することに失敗し、口と肛門から汚物を垂れ流し撒き散らかしながら悶えもがき苦しみ続け、そして息絶える姿。
 くるしぃよぉ誰かたすけてよぉと涙を流しながら掠れた声で呼び続けるも、誰も助けに着てくれることは無く、誰も知る事の無く、魔理沙は惨めにも命を落とす。
 眼前の中年男の末路のように。






 
 死ぬ。



 自分が。



 こんなところで。




「でもっ……満足させるって……」

 先ほどまでの状況と変わったことはもうひとつある。
 それは魔理沙が乙女を捧げる相手が、生きた人間ではなく、死体になるということ。
 何処の馬の骨ともわからぬ汚らわしい中年男の、死体を、犯さなければならない。



 それは――






 死姦。






 自分の初めてが、よりにもよって――死姦。







 その事実を認識したとき、何かが魔理沙の中で弾けた。

「うああああああっ!! このっ! このぉっ! ふざけるなぁっ!」

 叫ぶ、殴る、蹴る、叫ぶ、蹴る、蹴る、蹴る、叫ぶ、蹴る。
 タガが外れた魔理沙は止まらず、扉に向かってその華奢な手を足を打ちつける。
 先ほどまでと違うのは、魔理沙は自らの体が傷つくことも厭わずにいること。
 魔理沙の持つ大金のような焦燥感を暴力と罵声という形で扉にぶちまけ、それでは扉の通行料は払えぬとその手足への痛みを利子に付き返す。
 細くて脆い拳の骨にびしりびしりとヒビが入っていき、それすらも興奮した魔理沙は構わずに叩き続ける。
 そして当然のようにその声に反応するものはいなかった。









 ガン、ガン、カン……カン、カン、ポス……ポス…………。
 段々と魔理沙の扉を殴る力が弱くなり、そして最終的に彼女は壁に手を付けたまま俯く。
 打ち付けた拳の痛みはすでに麻痺している。
 殴る力が弱くなったのは、単純に力尽きたからだ。
 つまり、力づくではどう足掻いても脱出できないという事。
 わかりきった事だった。





【君の子宮に仕込んだ毒から生き残りたければ男を満足させろ】

【男を満足させる為には乙女を失う覚悟が必要だ】




「……………………」



「……………………」



「……………………」



「むり……だよぉ…………」

 だが――無理でもやるしかない。
 溺れるものは藁をも掴むという。
 先ほど自覚したように、現状では魔理沙に選択肢は無い。
 自分の命綱はこの首謀者に握られているのだ。
 魔理沙は自らの命と貞操を量りに掛け、そして選んだ

「わかったよ……わかったよぉ……ああもう! わかったよ! やればいいんだろやれば! ………………」

 結局魔理沙は命を選び貞操を差し出すことにした。
 自分の貞操なんてこの程度なんだ。命が掛かれば簡単に差し出す程度のもの。
 なんだ、こんなものを私は大事にしていたのかと、渇いた笑いを浮かべる魔理沙。
 けれどその瞳からはつぅっと涙が一筋流れる。

「うぁぁぁん…………ひっぐ…………うぁ……ちくしょぉぉ…………」




【男を満足させるには乙女を失う覚悟が必要だ】



 魔理沙は今このときを持ってようやく理解する。



 そう、自分には――





 覚悟が、必要なんだ。












 こしこしこしこしっ。

「なんでだよぉっ、何でたたないんだよぉっ……どうして…………うえぇっ……」

 気持ち悪い。
 魔理沙が生まれて初めて男性器を触った感想がそれだった。
 まずそのグロテスクそのものの見た目が気持ち悪い。黒光りする萎れた男性器は先端から皮が剥かれ、
 その内部にあるピンク色の棒を晒している。それは先走りの汁でぬらぬらと不気味に光る。
 陰嚢はまるで毛むくじゃらの丸々と太った芋虫。
 魔理沙は赤く脹れ上がり骨折しているかもしれない右手を添えながら、無事な左手を使って芋虫をしごく。

(風呂ぐらい入れよ……)

 次に匂いが気持ち悪い。臭い。腐ったゴミみたいな匂いがする。
 そして何よりも触り心地が気持ち悪い。生温かい一物は魔理沙の体温を奪うかのよう。
 魔理沙がしゅっしゅっとしごくたびに肉棒はびくんっびくんっとまるで喜んでいるかのように反応する。
 五感のうち三つが不快感に染まる。

(もうやだぁ……早く……早く終われよぉ……終わってよぉ…………)

 段々と涙が滲んでくる。
 出来るだけ手を伸ばして距離を置く。
 魔理沙は今でこそ自立しているが元は人里の名家の箱入り娘。
 男性経験はいまだ無い。
 この行為は妊娠の危険や粘膜を擦り付けるようなことこそないものの、そんな生娘にとって嫌悪感は計り知れない。
 主は死しているにもかかわらず別の生き物のようにむくむくと反応する肉棒が、いきなり触手のように変形して襲い掛かってくるのではないかとまで思う。
 魔理沙は男の萎れた肉棒を勃起させるためにひたすら手でしごく。

(気持ち悪いぃ……なんで私がこんな目に……)

 年端もゆかない少女が何度も何度も目元に涙を滲ませ、それを腕でごしごしと拭う。
 唇をギュッと噛み締めるも、震えが止まらない。
 すぐに済む事だと思っていたのに、思うようにいかなかった。

 ごしごしごし。

 まるで効果が無い。更に強く、強く、強く。
 そうしていくうちに魔理沙の感覚が麻痺してくる。
 次第に魔理沙の手の動きは、恐るおそるものではなくなってきた。
 慣れとは怖いものだ。
 もっとも慣れたといってもしごき方について慣れてきただけで、男の肉棒を触るという行為に対する慣れはなかった。
 未だに気持ち悪く、吐気を我慢する。
 それ以上に、生への執着が彼女を突き動かしているのだろう。
 そんな魔理沙は男が寝ている演技をしているんじゃないかと、死姦という恐怖から淡い期待をしてギュっと痛みを与えるように握ったが反応がない。

≪アトニジュウフンデス≫

 胃の中に何か埋め込まれているのか、男が息絶えても時間を告げる声は止まらない。
 あと20分。このまま続けていても男が勃起する補償は無い。
 刺激が足りないのだろうか。
 他の、より刺激を与える方法が頭を過ぎったが、それを振り払う。
 大丈夫だ、大丈夫だ。
 あと20分も余裕があるなら大丈夫。
 ひょっとしたら次の瞬間には勃起するかもしれない。
 だから耐えろ、もうすぐ解放されるから。
 死体に性感を与えて勃起をするとは常識的に考えてもありえないにもかかわらず、魔理沙の頭にはそのような余裕すらなかった。

≪アトジュウゴフンデス≫

 気持ち悪い。気持ち悪い。
 嘘、駄目、冗談。もう十分だろ。
 誰かドッキリの看板を出せよ。悪い夢なら覚めてよ。
 魔理沙の目元に浮かんでいた涙が表面張力を越え、つぅっと流れていった。
 魔理沙は必死に男の一物をその手でしごく。
 にもかかわらず、先ほどまでギンギンに怒張していたはずの男の肉棒は、まるで萎れた花のようにしんなりと垂れたままだ。
 このままではどう考えても間に合わない。
 乙女を差し出すためには――萎えた肉棒を勃たせるためにはより強い刺激を与える必要がある。
 より強い刺激。その方法は、まだある。それに気付いた魔理沙はまず額から冷や汗が流れ、次いで全身から脂汗が吹き出た。

 手でしごくこと以外にある、男性器を刺激する方法。
 魔理沙は知識だけなら知っている。
 それはフェラチオと言われる、男性器を口腔で刺激する性技。










 苦渋の決断の秤はすとんと落ちた。
 命惜しさに落ちるところまで落ちた魔理沙。躊躇する暇すらもう無い。
 死体の男性器に舌を這わせる自分はどれほど卑しく醜いのだろう。
 魔理沙は舌をちょんと触れさせると、男の肉棒がぴくんと反応する。
 けれども嫌悪によって躊躇する時間すらも無い。
 意を決して一息に、魔理沙は男の中心にある醜悪な芋虫を口の中に含む。
 瞬間、魔理沙の口の中にこれまで経験したことの無いほどの腐臭が広がる。

「う゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛」

 反射的に一物から口を離し、胃の中身を嘔吐する。
 それでも魔理沙に止まることは許されない。
 経験が無い魔理沙にはフェラチオなどの技術は無いに等しい。
 ただガムシャラにしゃぶって舐めるだけ。
 肉棒を手で添えて固定する事を知らないから肉棒が右に左にと避ける。
 それはまるで魔理沙を嘲笑うかのよう。

「何だよこれもうやだよぉっ! もういいだろ許してよ! 私こんなことやったことないんだよっ! もう十分だろっ!?」

 だが空しく響いた魔理沙の慟哭に対して反応する者はいない。あまりに大きな叫び声による空気の振動でその勃起した肉棒のみがあざ笑うかのように左右に揺れるのみ。

「こんなのって……」

 今よりもずっと子供の頃、死というものを始めて知ったときのような押しつぶされそうなほどの不安感。
 今は亡き母の胸の中で泣いて泣いて、不安から逃れるように泣き続けた。
 別離している両親を。兄のような幼馴染を。姿の見えなくなった師匠を。
 気がつけば誰かに助けを求める自分が居た。そのように魔理沙くらいの年の子供が身の機器を感じたときに保護を求めることは当然のこと。
 けれど、今ここにいるのは魔理沙一人。
 胸を貸してくれる人は、脂ぎった中年男の死体しかない。

≪アトゴフンデス≫

 泣きじゃくりながら肉棒を刺激し続ける魔理沙。
 奇跡が起きたのはそのときであった。
 何と男の肉棒が少しずつ固さを増し、勃起してくる。
 魔理沙はそれを確認した瞬間、まるでアイスキャンディーを舐め回す子供のように必死に舐めた。
 舐めて舐めて舐め続ける。
 するとむくむくむくと、死体であるにもかかわらず男の肉棒は再び隆々と勃った。
 死後硬直が起きたのか、それとも死体にも性感があるのか、それはわからない。
 だが事実として今、男の肉棒は隆々と勃起している。
 つまり、乙女を捧げることができる。

「やった……たった…………」
≪アトサンフンデス≫

 淡々と。無常にも残された時が告げられる。
 後は自分の腟の中に男の肉棒を挿入し、射精させることで解毒する。
 だがもはや自分の腟を濡らしている時間も無い。
 魔理沙は潤滑油代わりとなる愛液すら分泌されていない、全く濡れていない腟。
 他者の侵入を許すこと無かった乙女の聖域。

 それを、自らの意思で、油で固めたような中年男の芋虫に、蹂躙させた。

「うぐっ……う゛あぁっ」

 魔理沙の腟に激痛が走る。
 魔理沙は腟の入り口に男根を入れただけ。濡れていない腟に。
 叫んだ。叫んで唸って、身を捩じらせる。もはや性交の光景ではない。濡れてない秘所は魔理沙に痛みを感じさせる。


(痛い、痛いよぉ。痛い、無理。やだ、死ぬ、裂ける。これ入れられるように出来てない。無理。これ無理。痛い。駄目。助けて。助けて。ヤダ。痛いのやだぁ――)

「あっ」

 その時のことだった。
 魔理沙が足を滑らせたのは。



 つるんっ――


 ブチブチブチィ。



「――――――――――!!!!?」

 男性器に秘所を貫かれて串刺しとなり、声にならない叫びをあげる魔理沙。
 百舌のはやにえのように、じたばたと手足を動かしてもがき泣き喚く。
 そして肺の中の空気を吐き出し終え、ひゅうひゅうと掠れた残滓を吐き出す。
 彼女は今このときをもって乙女を奪われた。ぶよぶよの中年男の死体に対して。
 自らの純潔を散らせる時がどのようなものか思いをはせたこともある。
 同性の友達と遊んでいることの方が楽しく感じる魔理沙にとっていつかは自分が処女を失う日が来ることに対してまるで実感が沸かなかったが、いつかはその時がくるのだろうとぼんやりと考えていた。
 だが、現実として初めての相手は死体、その行為は死姦。
 こんなのはあんまりだった。
 そして――

「う……あ……ぁ…………っ…………うっ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あっ!!!?」

 どぴゅ、どぴゅどぴゅっ。

 これまでの遅漏具合が嘘であったかのように、中年男の死体は即座に射精した。
 騎上位であるにも拘らず腰を動かす気力も無かった魔理沙にとってそれがいいことだったのかどうか、それはわからない。
 兎にも角にも、魔理沙は男の精をまともに受けることとなった。

「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ッ〜〜〜〜!!?」

 どぷっどぷっとぷっとぷっ――。

 ビクンビクンと魔理沙の膣内で蠕く、数え切れないほどの種の奔流。
 放たれた精液は魔理沙の腟を、子宮を満たし、溢れ出ているにもかかわらず一行に止まる気配が無い。
 肉棒は一度貫いたこの好機を逃さないように、この罠にかかった雌を孕ませようとするかのように、数億をゆうに越える子種を魔理沙の幼い子宮で満たし、数の暴力でその卵子を陵辱する。


 ぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅっ、ぴっ――。


「い゛っ……う゛ぅ゛ぅ……」




(何で私がこんな目に会うんだ…………。どうして……? 何で……?)


 魔理沙は自問するも、答えてくれるものはいない。
 聞こえてくるのは着々と数を減らしていくカウントダウンのみ。
 そして、それも今終焉を迎える時だった。


≪サン……≫



≪ニ……≫




≪イチ……≫









ボン。


 男の腹の中で間抜けな音がしたかと思うと、男の口からぶふぅと血が噴水のように放出された。
 男と繋がっていた魔理沙はそれをまともに浴び――


 くらりと――暗転。


 薄れゆく意識の中、魔理沙は次に目を覚ましたときこの悪夢から解放される事を願った。
















 だがその一方で魔理沙の子宮では男の残した種がとくんとくんと脈打っていた。












――魔理沙、これ明日の朝にでも食べなさいよ

 昨夜の博麗神社での宴会にてべろべろになるまで酔っ払った魔理沙。
 普通はそういう場合、博麗神社に泊まるのだが昨夜は珍しく家に帰った。
 その帰り際に霊夢からもらった弁当箱。
 霊夢からすればただの宴会の残りを押し付けただけなのだろう。
 けれどそれが、自分が作らずに済む食事が用意されることが、凄く嬉しかったことを覚えている。
 あどけなさのまだまだ残る少女の魔理沙にとって、誰かが作ってくれた食事があることが。


(あれ、まだ食べてないなぁ…………)



















「夢じゃ……なかったんだな…………」

 目を覚ました魔理沙にまず飛び込んできたのは、下敷きにクッションとなっていた中年男の死体だった。
 ぶよぶよの死体とずっと寝ていたにもかかわらず、その死体に処女を捧げてしまったにもかかわらず、今の魔理沙にはどうでもいいことにしか思えなかった。
 諦観は感情を死なせる。受けるショックを少なくする為の自己防衛本能なのだろう。
 今や涙さえも浮かんでこない。
 赤くはれ上がった右手の痛みすらも感じない。
 けれどそんな死に体の感情を蘇らせるものがある。
 その名は希望。パンドラの箱の最奥に込められた最悪の絶望。

「……あ、あぁ………………」

 魔理沙は目を見開き、その光に希望の光を灯した。
 希望の光が照らす先にあるもの、それは鍵。先ほどまで固く閉ざされていた扉の――鍵。

 希望への道標。

「出られる……んだ…………」

 いつしか魔理沙は泣いていた。
 先ほどまでの塩辛い苦痛のの涙ではない、ふんわりと柔らかい歓びの涙。
 ぽろぽろと雫のような涙を流し、外へと続く扉の向こうをじっと見つめていた。
 けれどこの扉を開けたからといって、必ずしも外に出られるとは限らない。そんな上手い話があるかと疑われるのも無理は無い。
 あの扉は外に通じていないかもしれない、また別のところで閉じ込められるかもしれない、扉の向こうには魔理沙をここに拉致した犯人が舌なめずりをしながら待っているかもしれない、あるいは魔理沙に盛られた毒が解毒出来ておらずに途中で力尽きるかもしれない。
 だがしかしそんなことは無い。
 扉の鍵は本物だし、この扉の向こうは外に通じているし、この部屋の外には魔理沙を閉じ込めるようなものはないし、扉の陰に魔理沙を拉致した犯人がいるようなことは無いし、魔理沙は毒を完全に解毒出来ている。
 これら以外にも考えられる限りのあらゆる障害は無い。
 それはこの話の語り手として保障する。
 つまり魔理沙はこの先、この部屋から出られれば後はもう帰ることが出来るのだ。

「かえる……かえれる…………かえれる…………」

 ここから出たらすぐに今日あったことは全て忘れよう。この日は何も無かったつまらない日だったという事にして、怖い夢を見た後のように綺麗さっぱり忘れよう。
 両親に会いに行こう。霊夢のところに泊まりに行こう。パチュリーのところにダベりに行こう、アリスのところでだらけに行こう、フランのところに遊びに行こう、にとりのところに冷やかしに行こう、こーりんのところにお弁当を持っていこう――。
 止まらない、沸いてくる想いが止まらない。
 仕舞いにはあまり親しくなかった者達とすら話したくなってくる。
 涙と共に溢れてくる外への未練。日常への想い。
 それらは全て、この部屋を出た先にある。
 魔理沙は希望に満ちたこの部屋の外へ向かおうと、その体を起こした。










 いや、起こそうとした。

「あれっ?」

 つるり――すてん。
 下敷きにしていた男から降りようとした瞬間、魔理沙は体を滑らせて肩から床に落ちた。
 身体が重い。
 閉じ込められたことによる精神的なストレスが体の調子を崩させたのか、身体が上手く動かない。
 まるでお腹の辺りに何か重りを付けたように。
 そう、重り。

「あれっ? えっ?あれっ? おかしいな? なんでっ?」

 勘違いではない。魔理沙の気のせいではない。
 なぜならば今、魔理沙の体には肉の重りがあった。

「いやああああああああっ!? 何でっ!? 何これぇぇぇっ!?」








 事実として今――魔理沙は妊娠していた。




「どうしてぇっ!? 私の体に何があったんだよっ!? こんなっ、こんなぁ…………こんなことって…………ないよ……うそだああああああああああああああっ!!!!」

 自分はどれほどの時間を寝ていたのだろう。まさか十月十日も眠っていたはずがない。
 それならば妊娠過程を急激な速度で済ませる何かがあった?
 魔法か能力かあるいは別の何か。
 けれどそんなとってつけたような方法なんていくらでも思いつくため所詮どうでもいい。
 一ついえるのは残酷な事実として、魔理沙は今、臨月を迎えた妊婦のようにその下腹を大きく膨らませている。
 父親は誰だろう。自分の体に種を植え付けたのは誰だろう。
 思い当たる相手は一人しかいない。それは魔理沙の下で寝ている中年男。
 つまり、自分は、死体の子を、孕んだ。

「うっえ……うぇぇ…………」

 先ほど胃の中身を全て吐き出したにもかかわらず、魔理沙は嘔吐感を抑えられず胃液を吐き出し続ける。
 これはこの残酷な事実に直面したことに対する恐怖によるものか、それとも単純に妊婦のつわりなのか。

「うそだ……私が妊娠したなんて……ありえない……そんなの……。ひっ……うぅぅ……これは夢だ、こんなこと、あるはずが、ない……ないんだ…………」

 だが事実である。
 魔理沙のその小さく華奢な母体の中では中年男の種が健やかに育ち、今まさに生命の誕生の瞬間が訪れようとしていた。
 呻き声を上げる魔理沙のその子宮からは可愛い可愛い赤ちゃんが頭を半分出していた。

「う゛っ、い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛――」

 ここから先しばらく魔理沙は呻き声と「嫌だ」という言葉しか発しない。
 けれど出産の痛みに苦しんでいる彼女に語彙を期待するのは酷というものだ。
 出産の際に母体に生じる痛みは男性ならば耐えられない程だと言われており、しかも二次性徴をはじめたばかりの、同年代の少女達と比べて成長が遅いために生理がようやく最近始まった魔理沙の、未成熟な母体では尚更負担が大きい。
 だからもしこの文を読んでいる者が居たら、魔理沙のことを応援して欲しい。
 頑張れ魔理沙、もう少しだ魔理沙。何でもいい、彼女の無事を願って欲しい。














 ずるり、ずるずるずる。
 べちゃっ……。

「ハァッ! ハァッ! ハッ……はっ…………はぁっ、はぁっ……うっ」

 霧雨魔理沙十代前半から半ばの間ぐらい、出産は成功である。母体の未成熟さが心配だったものの母子共に健康な、理想的な出産だ。
 もっとも昔は十代での結婚と出産は当たり前だったといわれているので、心配する必要はなかったのかもしれない。
 子供にはちょこんと小さくて可愛らしい性器がついており、男の子だと判断できる。
 男の子はおぎゃあおぎゃあと泣き喚いていた。
 まるで母親の心地良い子宮の中から追い出されたことに対して泣いているかのよう。
 思えば、全ての赤ん坊達が産まれるときに泣いてくるのは、母親の胎盤の中という天国に居られなくなったことを本能的惜しんでいるのかもしれない。
 けれど全ての赤ん坊達に対して言える、そんなに不安がって泣くことは無い。安心していい。
 何故ならば産まれてきたこの世界には母親の慈愛というものがあるからだ。

「いやぁ……もういやぁぁ…………やだぁぁっ…………」

 だが魔理沙は自分から産まれてきたソレを、抱くことなんて出来やしなかった。
 自分が母になった実感なんて沸かず、目の前でおぎゃあおぎゃあと泣き喚く血塗れの赤ん坊はまるで怪物の子供のように見えた。
 けれど魔理沙とその赤ん坊の間を継げている臍の緒こそ、二人が紛れも無い親子であると告げていた。

「そうだ……逃げなきゃ、逃げなきゃぁぁ……たすけてぇ……霊夢たすけてぇ……誰かぁ……」

 魔理沙がこの赤ん坊を抱いてやれなかったことに関して、どうか彼女を責めないでやって欲しい。
 女は受精をしてから、十月と十日の長い月日を経て子供を産む。
 産まれてくる子供の為に栄養を吸い取られるし、酒に煙草のような生まれてくる子供に対して悪影響を及ぼす食物はとらないように気をつけるように他者から言われるし、産まれてくる子供が健やかに育つ為に胎教を行なうこともあるし、中には重圧に耐えられず精神的に落ち込んで鬱になることもある。
 マタニティーチェアでお腹をさすりながら長い長い月日をお腹の中の子供と二人三脚で乗り越える経験を経て、ようやく母親は出産という人生一大イベントと向き合うことが出来るのだ。
 人が死ぬことと同じぐらい、人が生まれてくることは心に負担を掛けるのだ。
 妊娠後の過程をあっという間に飛ばされた魔理沙には、その覚悟なんて当然あるはずが無い。
 まぁそんなこれらの理屈なんて全部ただ屁理屈であって、魔理沙が嫌悪感を感じたのは単純に死体の子供を孕んだということと産まれてくる子供がまるで怪物の子のように見えたことなのだが。
 レイプされて出来た子供を可愛がれる母親なんてそうそう居ないようなものだ。

「そとっにっ、そとにでよう……そとにぃ…………」

 魔理沙は四つんばいになりながらその場から逃げ出そうとする。
 だがそれは叶わない。臍の緒の先にいる赤ん坊がまるで岩のように重く感じ、魔理沙はその場から離れることが叶わなかった。
 臍の緒はまるで鎖のように強固かつしなやか。血でぬるぬるとしているソレを手で千切ろうとするもまるで歯が立たない。
 そして一方の赤ん坊はというと産まれた直後であるにもかかわらずもうハイハイをこなし、父親の方に擦り寄っていた。
 自分の事を可愛がってくれない母親に拗ねてお父さんに泣きついたのだろうか。
 今もはむはむと父親のそのでっぷりとしたお腹に顔を埋めている。

 はむはむ、はむはむ。

 どうやらお腹が空いているようで、ママのおっぱいがもらえそうもない赤ちゃんは自分で食事をとることにしたようだ。
 産まれた直後に母乳を飲む赤ん坊はいないのに、母乳が飲めないから他のもので代用するとは、大層食欲旺盛なことである。

 はむはむ、はむもきゅ、もっきゅもっきゅ、ぺちゃぺちゃぺちゃ、くちゃっ、ガツガツ、ガリッ、ベキッ、ガツガツ、ガツガツ、ぐちゃり、べちゃり――。

「ばけも……の…………」

 食らう。
 赤ん坊は中年男の死体を、その歯すら生えていないであろう口で食らう。
 上顎と下顎で肉を押し潰し、骨を咀嚼し、臓腑を千切る。
 するとどうだろう、不思議なことにこの赤ん坊は中年男の血肉をそのまま自分の血肉へとしているかのように恐ろしい速さで成長していく。
 赤ん坊から幼児、子供、少年、青年――。
 中年男の肉を、骨を、臓器を食らうたびに、それに呼応して赤ん坊の体は成長していく。
 そんな赤ん坊の健やかな成長を、魔理沙はおぞましい物を見るような目で見つめながらも、目を離せずにいた。





 運命の赤い糸なんていっても、所詮は他人。
 肉棒で腟との凹凸を埋めることで繋がっても、一時的なものに過ぎない。
 妻や彼女なんて、いくらでも替えが効くのだ。
 だが替えの効かない、かけがえの無い絆というものも確かに存在する。
 この世で最も強い絆、それは親子の絆。血の絆。
 臍の緒こそ、赤い糸よりもずっとずっと強い絆なのだ。

 初めてを貰った恋人は自分。受精させた夫は自分。そしてこの世で最も強い絆を得た子供も自分。
 “彼”は魔理沙の全てを手に入れた。




 ごきゅごきゅごきゅ、グチャグチャべちゃがちゃごきっごくごくもぐばくりぐちゃ――。



 けふっとゲップを一つ、赤ん坊が父親の中年男の死肉を全て食らったとき、そこに残ったのは紛れも無い、先ほどまで死んでいたはずの――中年男。
 中年男は臍の緒を手に持って愛おしそうに撫で、そして魔理沙に覆いかぶさって自分が生まれてきた愛しい愛しい下腹に頬ずりをする。

「あはっ、あはははっ……ははは…………――」

 魔理沙は壊れた蓄音機のように笑い声を挙げ続け、「おかあさん……おかあさん…………」と甘えてくる我が子を光が完全に失われた目でただ見つめていた。






 そして狂うことでしか自分を守れて幸せに生きていくことが出来ないのなら、魔理沙がそうなっても仕方のない事だった。

 









 それは一体何処の世界にあるのかわからない、木造の一軒の家屋。
 外の世界こと現代社会の何処かなのか、あるいは幻想郷の何処かなのか、はたまた全く別の異世界の何処かにあるのか、それは誰にもわからない。
 唯一つわかること、それはそこで暮らす二人がとても幸せな親子だということ。
 母は一度妊娠と出産を経たにもかかわらず、その姿は第三者が見れば母というよりも妹という言葉の方が似合うと思うほど幼い容姿をしていた。
 人形のような幼い顔立ちも小さく軽い身体もそのはずで、彼女は初潮を迎えて間もないくらいの年齢で孕んだからだ。
 その体の小ささとは裏腹に発育している豊満な乳房に目を向けると、彼女が妊娠と出産を経た母親だという事が納得できるかもしれない。
 彼女は息子に膝枕をして、その頭を優しく撫でながらくすりと微笑む。その瞳はほんのりと光りが灯り慈愛に満ちていた。彼女のおてんば盛りを知っている者ならば目を疑うだろう。
 けれど妊娠と出産は人を変える。生命を一つ生み出した時、少女は母親へと生まれ変わった。
 今の彼女なら自分を心配するあまり厳しく接してきた家族の心が理解できる。
 ただ一つ問題を挙げるのなら、魔理沙は自分が家出をして親元から離れた経験を持っていることの反動か、非常に我が子を溺愛して何かにつけてスキンシップを測る。
 息子の方はと言うとそういう時、表面上はうざったそうに顔をしかめる。けれど内心は満更でもない。それどころか実はとても甘えんぼうな彼は、体を起こして自慢の母親のあどけなさの残る容姿とは裏腹に大きく柔らかな乳房にむしゃぶりつき、その甘い母乳をちゅうちゅうと吸っている。
 魔理沙は我が子にいっぱいの愛情を与えようときゅっとその小さな体で抱きしめ、優しくあやすのであった。











 そんな二人は今も臍の緒という、赤い糸よりもずっとずっと太くて強い絆で結ばれていた。
 この部屋で死んだ中年男の魂、それがそのまま魔理沙の体内で生まれつつある命に乗り移り彼は生まれ変わった。
 別にここまで手の込んだ真似をしなくても、魔理沙を強姦した後に自殺をすれば手っ取り早かったかもしれない。
 そうしなかった理由、中年男は魔理沙が自らの意思で精を求めるようにしてもらいたかっただけ。もし魔理沙が時間ギリギリまでセックスを求めなかったら自分からその膣内に射精すればいいだけの話だ。
 けれどほんのちょっぴりミスをしてしまって予定よりも早く彼の胃の中に仕込んだ毒のカプセルが溶け、自分が死んでしまった時は肝が冷えた。
 だが男の魔理沙を孕ませたいという純粋な願いにより、奇跡は起こった。
 これぞまさに愛の力であろう。
 あるいは怨念とでも呼ぶべきか。
 何はともあれ危ういところだったが、何だかんだで結果良ければそれで良しである。
 








――――――――――

お初にお目にかかります。よろしくお願いします。
六でなし
作品情報
作品集:
2
投稿日時:
2012/01/08 10:25:24
更新日時:
2012/01/08 23:05:51
評価:
7/13
POINT:
860
Rate:
12.64
分類
霧雨魔理沙
簡易匿名評価
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POINT
0. 160点 匿名評価 投稿数: 6
1. 100 名無し ■2012/01/08 21:20:37
ドキドキしながら最後まで見ました。
偏執的で絶望的で倒錯的、なのに確かにそこに
存在する愛の形に感動しました。
2. 100 NutsIn先任曹長 ■2012/01/08 22:29:55
好きな娘と二人きりでいられる素敵なセカイ。
ここにいる者は幸せだろうか。
少なくとも、『男』は幸せなようだ。
『女』は意思が尊重される『人格』ではなく、『男』が快適に暮らすための『環境』なので、これは理想的といえるだろう。



永遠に、素敵な子宮(セカイ)に引きこもっていやがれ!!
4. 100 あぶぶ ■2012/01/08 23:33:08
人肉を食べたいと言う潜在意識の顕在ですね。
でも食べるなら可愛い子を。
6. 100 名無し ■2012/01/09 21:21:10
排水口にようこそ!
どこからどうみてもハッピーエンドですねw
7. 100 名無し ■2012/01/09 22:54:22
やっぱサスペンスものはいいわーなじむわー
9. 100 名無し ■2012/01/12 00:11:56
ハラハラしっぱなしの展開の連続で
読んでから、冷や汗が止まりません
11. 100 名無し ■2012/01/13 22:23:03
二転三転する展開が面白かった!
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