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『食べごろにゃんこ』 作者: おにく
いつも見ていると、大きな変化も、かえって察知できないものである。
初潮を経験し、女としての成長期に入りかけて、そのおしりからももにかけての肉が、しっとりと脂肪を帯びてきたようだ。
その様子を見ながら考えたのは、そうだ、今日は肉にしようということだ。
右手にきらめく包丁は、厚い生肉でも切り落とせるように、さきほどようく研いだところである。
ここまで念入りにやっておけば、力の加減次第で、骨だって切り落とせる。
今日を逃せば、いつ包丁を研ぐ気になるか。
気づけば、包丁右手に八雲亭の一室の襖を目の前に、じっと立ちすくんでいた。
食欲に心臓が悶え、私の体は呼吸を繰り返し、だんだんと熱く熱を帯び始めている
若葉色の襖を開けて入ると、部屋の中にある埃混じりのこもった空気が、私の鼻にまとわりつく。
足にはやわらかな布の感触がある。踏みつけるたびに、私の両足をつつみこむように窪んでゆくのが分かる。
布団からただよう、ねっとりとした猫の体臭が、布団を踏むたびに溢れる。私はそっとかがんで、布団の中を覗き込んでみた。
真っ黒い毛並み、ふさふさの尻尾、それはまさしく、ただの猫であった。猫の少女の忠実な部下だ。
これじゃない。
ただの猫など、対象ではなかった。私はその猫の首根っこを掴み、持ち上げた。
そして五つの指に力を入れると、枝が折れるような音がして、息をしなくなった。
その死体を、物音を立てないように、布団のそばにそっと捨てると、今度は大きな膨らみが目に入った。
そこからも猫の臭いがする。すっぱい魚のような、猫の体臭がする。私は欲情した。
またゆっくりと、膝を折り、気配を殺しながら、布団の中を覗き込んだ。
そこには、頬を赤くして、布団の暖かさに眠りこけている猫の少女の姿があった。鼻がひくひくと動く。
幸せそうな笑顔で、熟睡しているにもかかわらず、何の夢を見ているのか、猫手で顔を洗っている。
私はそっと、気付かれないように、ほんの少しだけ布団をめくった。
「んにゃ……にゃにゃあ」
猫に命令する夢か。少女の喉の奥から、ころころと高い声で、なんとも間の抜けた鳴き声が漏れでてきた。
数秒思案した末に、私は包丁を床に置く。そして素手の両腕で、猫の少女の細っこい首を掴む。
そうして猫にしてやったように、指に力を入れた。
きしむような音、寝顔は苦痛の色に染まった。少女はすぐに目を覚ました。
「がぁっ!? ぐ!?」
私はすかさず少女に飛び乗り、馬乗りになって、その抵抗を抑えようとした。
ふとんに包まれた少女が、うつぶせになって、私の下でもがいている。
両手両足がばたばたと暴れ、布団から抜けだそうとする。靴下の脱げた素足が、掛け布団から飛び出た。
「藍様っ!! ぐ゛ぁ、ら、ら゛んさまああああっ!!」
金切り声のような悲鳴だ。私の掴む細っこい首に、音の振動がぶるぶるとくるのを感じた。
誰とも分からないものにいきなり首を閉められるのは、恐怖なのだろう。
「ああ゛ああぁ!! だれ!!? 誰っ!!?」
パニックになって、髪の毛をぐしゃぐしゃにして、それでもなお暴れまわる。その少女に乗るのは、ロデオのようで面白い。
私は首を締め続ける。猫の少女は主人の名前をべらべらと叫んでいたが、やがでそれも止み、自力での脱出を試み始めた。
その椛のような掌が、首を襲う私の手にかじりついてくる。引き剥がそうとする。
しかし、いくら命がかかっていると入っても、腕力の差は明白であった。
あまりにも必死なので、私はつい情けを掛けたくなり、首を締める手を緩めてしまった。
ぜいぜいと、酸素を取り込もうと、空気という空気を吹いこもうと呼吸をする少女、何度か荒々しく咳き込んだ。
その隙に、私は床にほうっていた包丁を取り、振り上げた。鋭く光るのが見えた。
少女は私に乗られ、しかも無防備だ。獲物を思い切り、猫の少女の右肩に突き刺した。
「い゛ぎゃああああああぁぁぁあああっっ!!!」
猫の少女の悲鳴にも構わず、私はさらに体重をかけ、ナイフを深々と突き刺していった。
血が噴水のように溢れて、掌がべたべたする。ぬるぬるして、ナメクジになったみたいだ。
その血を掬って飲んでみると、意外にも、グレープフルーツの汁のような、しぶみのある味がした。
猫の少女は、叫び続けて酸素を失ったのか、ひいひいと荒く息をしている。
そこには明らかに涙が混じっていた。突き刺さった包丁をぐりぐりと動かし、肉を抉ってやる。
「あぎゃあああああ゛ああぁあ!!!」
泡混じりの涎を吐きながら、のたうち、声を絞り出した。
猫の少女は刺すたびに跳ねた。跳ねまわって魚のようであった。しかしそれも、だんだんとおとなしくなる。
少女の体は、痛みと苦しみによってか、汗でべったりに濡れていた。
何度か突き刺しただけで、大量に失血し、その服など真っ赤に染まる有様だ。
「たすけ……、らんしゃまぁ……、ら、んしゃ、まぁ……」
一人前の式になるんじゃなかったのか。情けないほどか細い声で、ただただ主人の助けを求め続ける。
私は再び、その細い首に着目し、包丁をかまえ、そこにそっと添えた。
猫の少女の体がビクリと跳ねる。当てられているのもが何か分かっているのだろう。
うつぶせ姿なので、ぐしゃぐしゃなはずの表情をうかがえず、それだけは残念であった。
「殺さないでぇ、くだ、さい、おねがぃ……」
最後の方は、念仏のようで、もはや、何を言っているのかすら殆ど聞き取れない。
しかし、私はかまわず、ノコギリの要領で、猫の少女の首に包丁を入れていった。すでに人の油で濡れ、包丁の切れ味は悪かった。
もはやほとんど抵抗もなく、包丁は首の肉に食い込んでいった。
解体されるマグロのように、不気味なぐらいおとなしかった。
包丁が血で濡れ、そのうち濡れるですまないぐらい、びゅうびゅうと血が吹き出し始める。
「……ら、じゃびゃぁ」
水音混じりのごぽごぽとした断末魔が聞こえた。
やがて包丁は喉を切断し、首の骨に至った。首の骨は固く、容易には切断できそうになかった。
そこで私はいったん包丁を取り外し、思い切り振り上げて、首の骨の部分に思い切り振り下ろした。
ガンという音とともに、包丁は布団に食い込んだ。
猫の少女の首は、怯えきった顔のまま床を転がって、そのまま壁にぶつかった。
私は一仕事終え、肺の奥にたまった空気をふうと吹き出す。屠殺というのは、体力を使うものだ。
今回のことであらためて、それを思い知らされてしまった。
その時、目の前の空間に、すっと一筋の切れ目が入り、むらさき色の穴が開いた。
そこには無数の目がある。それはまぎれもなく、スキマであった。殊に紫に輝くのは、その見通すような両目。
紫様は全て見ておいでだったのだ。
「藍」
紫様は面白い物を見た時に、いつもするように、口元を開いたセンスで隠し、笑い顔は見せなかった。
「あんなに可愛がってたのに、またずいぶんあっさり殺したわね」
「ええ、食べごろだと思いまして。今日の晩にでもお出ししましょう」
その返答がたまらなく面白かったらしく、紫様の目尻がうっすらと上がった。
私は、首を切り落とされ、血まみれになった橙の体を台所に運んだ。
そうして服を脱がせ全裸にすると、荒縄で逆さにして庭の竹竿に吊るしてしまうことにする。
逆さにすると血が溢れてくる。首の断面口から、濁った赤色の無駄な血が、どぼどぼと何リットルも溢れ、庭の土を赤く染めていった。
血の上には虫がたかり、その虫たちを狙って、ドブネズミが縄張り争いをし始めた。
橙の首はポリバケツに放り込み、ごみの日には処分するつもりだ。
私と橙の最後の一日は、こうして幕を閉じた。
ちぇん丼、ちぇんバーグ、ちぇんカツ、ちぇん汁、ちぇんの唐揚げ、ちぇん刺し、ちぇんそば、
ちぇんステーキ、ちぇんじゃが、ちぇんバーガー、ローストちぇん、フライドちぇん、
焼きちぇん、ちぇん南蛮、ちぇんライス、ちぇんラーメン、ちぇんしゃぶ
ゆかりんのお腹がまた一段とぶよるな……
おにく
- 作品情報
- 作品集:
- 2
- 投稿日時:
- 2012/01/25 13:48:34
- 更新日時:
- 2012/01/25 22:48:34
- 評価:
- 11/17
- POINT:
- 1200
- Rate:
- 13.61
- 分類
- 橙
- 殺害
- 屠殺
それを知って僕は勃起した
残酷とか、非情とかではなく、ちょっとした作業を行っただけ。
私も橙料理を堪能したいです
やったね橙ちゃん、主人にそんなにも
愛されていたんだよ。
食欲の前に性欲満たせば一石二鳥じゃん、焦って調理する事ぁ無い
でもウンコしたらそれで終わりだけどな!!
晩御飯はちゃんと食べたのに……