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『運命』 作者: ヨーグルト
*諸注意*
これは
http://thewaterducts.sakura.ne.jp/php/waterducts/neet/?mode=read&key=1313740973&log=28
の続編です。
そちらを先に読む事を推奨します。
また、一個だけでまとまらないSS(私の作品)が苦手な方や嫌いな方はブラウザバックを推奨します。
●
「ウドンゲ、容態は」
「患者において、全てに異常、問題は無しです」
「判ったわ、もう戻ってやりたい事やってていいわよ。後は私がやっておくから」
「判りました」
何だろう、この声。
聞いた事の無い…いや、聞き覚えの無い声が二人分聞こえてくるな……。
声色と話し方から察するに、恐らく女性ではあるだろうが、あらゆるものに擬態する妖怪とかだったら……。
想像する分には何でもアリだな、ここ。
いや、そもそも、何で今こんな事を考えられるんだっけ。
何で生きてるんだっけ。
俺はあの時、自分の持っていたアレで自殺した筈……。
「気分はどうかしら、起きているのは判ってるから」
「……」
バレていたのか。
「心身ともに異常はないから心配しなくていいわよ。ただし、両肩の傷にはあまり触れないこと。ここを出るまでは」
ーーー?
確かに、さっきから俺の両肩には何かに引き裂かれた様な痛みが走っている。
だが、こんな傷は受けた覚えが無い。
変な妄想をするならば、今目の前に居るこいつが、俺が眠っている間に付けたんじゃないか、と。
こいつが医者ならとんだヤブ医者だな。
「ああ、言っとくけど、その傷はあなたが眠る前に付いたものよ」
「はぁ?」
「ああ、やっと起きた」
怠いな。
マイペースとも受け取れるその態度についていけそうにも無い。
「紹介がまだね。私は八意永琳、迷いの竹林の置くにある永遠亭、要するにここで医者をやっている者よ」
「ヤブか」
「ヤブと言えばヤブかもしれないけど、その可能性は50:50よ」
「で?」
「ある村の民家で、あなたが苦戦していた様なので助けた訳よ」
苦戦?
どういうことだ?
「自殺、だろ」
「何を言っているの? あなたは妖怪と闘っていたのよ? 近頃、この幻想郷を騒がせていた連続殺人犯と、ね」
……。
この幻想郷をある事件が騒がせていて、住人を怯えさせていたのは知っている。
だが、俺がその犯人と交戦していたなどと言う記憶は無い。
「その妖怪の特徴なんだけどね、よく判らなかったわ。高性能のカメラも持って撮影したんだけど、ほら。ぶれては無いけど、ノイズが入った様に撮れてない」
永琳が一枚の写真を見せる。
どんなに凝視しても、そこに何が写っているのか判らない程にかすれていた。
「背丈は一般的な妖怪…宵闇の妖怪とかとあまり変わらなかったけど…どうなのかしら。幸い、あなたへの被害はその両肩の傷で済んだみたいだったし。良かったじゃない、殺されなくて。家の中のあなたの妹も無事だったし」
「そうだ! 妹は生きているのか?!」
「怪我は無かったわよ。それより、思い出して。あの夜、あなた達に何が遭ったのか」
●
「うわああああああああ!!」
凶器に満たされた俺の意識と理性。
右手に握られていた拳銃を俺の側頭部にあてがい、引金に指を掛ける。
力を込める。
なのに、撃てない。
指に力が入らないと言うよりは、拳銃を握っている右手の……右腕が誰かに引っ張られて力を入れても無駄だと言う感じだった。
「?!」
右腕はその考えた通り、誰かに引っ張られていて指に力を入れても引金が引けなかった。
誰だ?
見た事が無い。
目の前のそいつは、体中から妖気のようなものをドライアイスの煙のように放っていて、俺の腕を掴んでいる右腕は黒紫色の光を放っている。
背丈は、そこら辺の雑魚妖怪と何ら変わらない。
「!」
って、冷静に分析している場合か?!
掴まれている右腕を急いで振りほどき、妖怪との距離を十分に保つ。
一般的な妖怪と変わらないと言っても、見た事も感じた事も無いオーラを放つ個体だ。油断が出来ない。
油断した事は無いが。
弾は?
残り14発。
「……こいよ」
銃を構えて妖怪を挑発してみる。しかし、どんなに誘ってみても襲いかかってくる気配がない。
殺す気がないのだろうか。
だったらこっちが一発かませば済む話だろう。
引金に指を掛ける。
その瞬間、目の前の妖怪が空高く跳躍した。飛んだのではなく、脚力によって飛んだとしたらかなりの高さになる。
油断できる様な相手でもなかったようだ。
銃口を上に向けて構え直し、引いた。
静かな空間に鳴り響いた銃声とともに、一発の銃弾が空中の妖怪に向けて放たれた。
全てをスローモーションに感じる。
銃弾から衝撃波が出ている様に感じ取れる。
銃弾が妖怪の頭の横をかすめたが、髪の毛に当るには至らなかった。
しかし、妖怪が空中で体勢を崩した所為でそのまま落下して来る。
「うっ…!?」
着地するや否や、妖怪の右腕が俺目がけて一瞬のうちに飛び込んできた。
体後と突進させてきたのではなく、腕だけを伸ばしてきた。普通に考えれば奇怪極まりない光景だ。
だが、この幻想郷じゃあり得るかもしれない。
間一髪で躱す。
銃を構えて反撃しようと思ったその時には、左腕の攻撃が繰り出されていた。
その左腕は当たらなかった。
突然入ってきた横やりのように、横から一本の矢が、妖怪の左腕のど真ん中を貫いていた。
「助かった…」
そう思ったが、まだ忘れていた。
自分の両肩を、右腕が引き裂いていた。
「ちっ…」
もう一本の矢が俺の左肩を貫く。
恐らく、誤射。妖怪に狙いを定めたのだろうが、外れて当たったのだろう。
闇雲に二発。当たる訳が無かった。
そのまま妖怪は近くの茂みに姿をくらませた。
俺の家の脇を通って逃げていったようだ。家の中に侵入されなかっただけでも幸いだ。
妹が被害に遭ったらどうしてくれたか。
意識は遠のく。
誰かに支えられている気がするが、確認できなかった。
●
「それがあなたの正しい記憶です」
「は?」
「あなたのさっきまでの記憶では、銃声は一発でしたが、実際は三発でしたー」
永琳が挑発気味に言う。
「で、その続き。その出来事からどれくらい経過したと思う?」
「二日? いや、三日?」
俺は答えた。
多分、意識が飛んでからそう長くは経っていない筈だ。
はやくてもその日、遅くても一週間ぐらいだろう。多分。
「残念。あなたはその事件から一ヶ月が経過してるのよ。その間、妹は慧音先生達により保護されてます」
「……」
長い。
そんなにも長い間、怪我で死んだ様に眠って、そのうえに妹を独りっきりにさせてしまっていたのか。
「ああ、大丈夫よ。見舞いには来てたから」
永琳が小瓶を放り投げた。
ラベルには何処の国のものかわらない言語で薬の名前らしきものが書かれていた。
「それと、明日、紫からちょっと話があるみたいよ。あなたにね。あ、安心して? 大丈夫よ。あんたを取って食ったり、殺人犯として捕まえる訳じゃないから。この事件の解決の為に、力を借りようってだけの話。だって、あんなに素晴らしい武器を持っているんだもの…」
最後に、紙を一枚渡された。
「それを持って、明日の丑の刻、人里にある稗田家に来る事。早めにくる事は許すけど、遅れたら紫の力で消すわよ」
「信用してくれ」
永遠亭をでようとしたときに、永琳から箱を何箱か掴まされた。
英語で数字やら何やら書かれていて、それが、俺の持っている銃のアモだと言う事は判った。
ウィンクされた。
●
明日の丑の刻って意何時だ?
今日が今日だとしても、今が何時か判らないと明日の丑の刻に来いって言われても行く事が出来ない。
今まで仕事に置いては一度も遅刻はやらかした事が無いから、大丈夫だとは思うが…。
その辺の人に聞けばいいだろう。
幸いにもここは人里だから人がたくさん居るし、大人でも子供でも聞ける。
今は寺子屋で授業を行っている時間帯らしいから、子供の姿は殆ど見当たらない。
いるのは商い人ぐらい。子供がいない分静かではあるが、大差はなかった。
「よお、居酒屋の兄さん!」
後ろから明るい声がかけられる。
「一ヶ月程姿を見なかったが、大丈夫か、肩の傷」
一ヶ月眠っていたのは本当だったのか。
「お前が寝てる間はいつもとかわらなかった気がするが…、ただ、お前さんの妹の様子がおかしかったな。おかしいというよりは、具合が悪いと言うのか? 本当に心配していたぞ」
「ああ解ってる、今から行くよ」
「この花持ってけ、妹は大事なんだろ?」
●
自宅の様子は変わっていなかった。
特にこれと言ってあれてる訳がなく、かといって綺麗になったりしている訳でもなかった。
一ヶ月前と変わらない、何処の田舎にでもありそうな民家であった。
変わっていると言えば、家の周りの草木の伸び具合と一ヶ月前の戦闘の痕だった。
一ヶ月前に起きた事は大体承知してる。
だが、信用し難いのは『永琳が話した一ヶ月前』である。
その相違点はまず、俺の記憶の最後で聞いた銃声が一回なのに、永琳の話では銃声が複数回あった事。
要するに、俺が銃の引金を一回よりもおおく引いた事になる。
錯乱による影響で、何回も引いた…ってことで複数回だったなら納得できるが、未だに理解できない。
あの時の感覚は消えていない。
体が覚えている。
傷も本物、戦闘があった事は間違いなくても、引金を何回も引いたとは考えられない。
弾倉を取り出す。
永琳は『俺の所持している銃の予備の弾を渡しただけ』で、『弾倉の弾も入れ替えておいた』という行動は行っていない。
そう思える。
あの記憶が正しいなら、この銃の弾倉の中の銃弾は12発。
さて、真実はどうだろうか。
装填されてる弾は12発。
これを見る限りでは、あの時にこの銃から2発の弾が放たれた事は間違いない。
だが、これだけでは俺が引金を二回引いた証拠にはならない。
俺は俺の感覚の中ではまだ、一回しか引金を引いた事になっている。間違っていなければ。
「って、こんな事を考えて何になるんだか」
あの話で気になるのは、
俺が本当に妖怪と交戦していたのか
引金を本当に二回引いたのか
永琳が助けにきたのは本当か
そして、
その出来事から本当に一ヶ月が経過しているか
と言ったところ。
傷跡を見る限りでは、妖怪と交戦していたのは真実だろうし、永琳が助けにきた事は間違いないだろう。
しかし、本当に俺は引金を二回引いたのか?
本当に、『俺が二回引金を引いたのか』?
俺が実際の事で妖怪に何らかの関連性を持っているから、永琳は真実をあやふやにしたいのか?
「……くだらな。だからあっちでもクビにされたんだろうが…」
俺だけでは不足してる、ここは博麗の巫女とやらに協力してもらうしか無いだろう。
確か、博麗霊夢だったか。
この用事が済んだら話を聞いてもらおう、何か知ってる筈だ。
その前に妹の生存確認が必要なのだが。
「こんにちは」
戸に手をかけようとしたが、その戸は俺の手によって開かれる事無く、自動的に開かれた。
中から姿を現したのは妹ではなく、紅白の巫女服を身にまとった巫女だった。
噂をすれば何とやら…。
「博麗神社で博麗の巫女を務めさせてもらっている、楽園の素敵な巫女、博麗霊夢です」
目の前の巫女はそう名乗った。
真ん中だけは真っ赤な噓だっと推測する。
「紫と永琳の依頼できたのだけれど……で、ところで…………敬語じゃなくても大丈夫かしら…? あ、他意がある訳じゃないけど。さ、入って」
「ここ俺の家」
「入って」
「」
促された。
強制された。
噂に聞いた事はあるのだが、まさかここまで博麗霊夢と言う巫女が図々しい人物だとは……。
友達の人間や妖怪達はどうやって対応しているのだろうか。こんなので疲れないのか。
「報告するわ。あなたが眠っている間に、この家には一回だけ、例の妖怪の襲撃を受けたわ。受けたのは一週間と四日前、家の中を荒し回った後に壁に何回も穴を空けて逃走。妹に被害は無し。危害を加えなかったと言うよりは、加えられなかったと言うのが正しいわ」
「今は?」
「神社で妖精達と遊んでるわ。ああ、弱い部類に入る奴らとね。念の為の護衛に魔理沙が居るから安心して」
霊夢が湯のみをこっちに向かって無造作に放り投げた。
さっきまでの様子を見てる限りじゃお茶が注がれていると思ったが、飛び散らない辺りは入ってないだろう。
「で、今回の話し合いだけど」
入ってた。
「紫達はこの事件を一ヶ月後には終わらせたいみたい。異変ではないけど、気味が悪いし」
「意図は」
「特に。もう二ヶ月以上にはなるもんね。これ以上被害が広がるのはいかなものかと」
話は判る。
だが、
「だが、犯人像も活動のタイミングも掴めていないのでは?」
「射命丸文は知ってるわよね」
「ああ、勿論」
「彼女にその妖怪とやらの撮影を依頼して、成功したんだけどね。全部ぶれてるっていうかぶれさせられてるっていうか。上手く写ってないの。ほら、心霊写真みたいに」
写真には人の様な姿が映し出されているのは判ったが、そこに何があるかまでは鮮明に写っていなかった。
でも、写っていたとしても今後の捜査にはなんら影響は与えないだろう。
ネックになっているのは、この妖怪の正体がつかめない事。
だが、妖怪の正体を突き止めたところで、この事件の根本的な事からの解決にはならない。
根拠は無い。
ただ、今回の一連の事件で妖怪が、幻想郷の賢者や博麗霊夢と言った重要人物を殺していない限り、まだ解決する事が出来る。
焦る事は無い。
妖怪を捕まえるだけでは、事件は解決できないだろう。
「その理由は?」
運がある巫女なら判ってくれる筈だ。
そうだろう?
「勘だ」
●
約束の時間、と言うよりは指定の時間。
この事件の真相と言うのも気になっているが、何より気になっているのは何故俺がこの話し合いに呼ばれたかと言う事だ。
重要な事件や異変の解決に付いてなら重要人物だけでやればいいじゃないか。
何て思っていたが、その理由は後々教えてくれるとの事であった。
実際まだ気にしている。
この話し合いに参加するのは俺を除いて、
八雲紫、八雲藍、稗田阿求、博麗霊夢、四季映姫、と言った面子だそうだ。
他にも居るそうなのだが、どれも聞いた事が無い。これは恥じた方がいいのだろうか?
外の世界ではある程度の数とか、特定の有名人は知っていないと社会の常識から外れていると非難される事がある。ていうかあった。
幻想郷にはそんな事は、外の世界に比べれば殆どない。さすがは常識に囚われては行けない世界。
……奴らが俺が外の世界でどんな奴だったかを知っているとしたら、とことんそれを利用するだろうか。
何処でうまれたかは判らないだろうが、何をしていたかはバレてるんだろ。
「霊夢」
「あん?」
「あの青年の事だけど」
「触れてはいけない。外の世界とこの世界が完全に融合する事はあり得ない。ならば」
「それを今から試すんじゃないの。だからこその永琳なのよ」
.
「紫さん、ご招集ありがとうございます」
和服の女性が紫と言う人物に対して頭を下げた。
紫とかいうのは微笑んで返した。
「ええでは人物紹介は後にするとして、本題に入るわよ」
「この目的は、知っての通りここ数ヶ月の間起きている、幻想郷の住人を無差別に殺害すると言う連続殺人。霊夢がどう感じているかは知らないけど、これは異変とも事件とも受け取れるのかしら? 多分事件に該当するのよね、あんたの勘は働いてないみたいだし」
「だからそこの青年に協力を頼んだんじゃないの。外の世界でも同じ様な体験をしていた訳なんだし」
「まあ、ね。警察、やってたのよね? あんた」
話に加わるタイミングを完全に逃してしまった。
何と言うか、こいつらは話に加えさせる気は全くない様にも感じる。
「そんなことよりさ、何で一ヶ月で終わらせようとしてんだ。少し遅くなったり、何ならもっと早く解決してもいいじゃねえか」
「犯人の行動パターンが読めていない以上、早く解決する事も出来なければ、そう長引かせる事も出来ないのよ」
「だから一ヶ月という期間が適正だと、この四季映姫が判断しました」
「……」
この層の厚い面子の中で一番地位が低いのは俺だ。それは当然の事で、外来者であり部外者であるから。事件に少しは関与していても駄目。
妖怪にダメージさえ与えればいいのか。
「捜査自体は大体はいつも通りにやってくんだけどね、今回はあなたがイレギュラー。その青年には、暫くある人間の監視を行ってもらいます」
「ある……『人間』?」
「ええ、人間。私たちは他のを見張るんだけど、ね。あ、待って。あなたの監視対象は後から教えるわ。あなたは『いつも通り』に過ごしてもらうの」
「それが、あなたの妹の為でもある。家族を心配させてはいけない、そうでしょう?」
プレッシャーが襲いかかる。
こいつらは、自分たちの思い通りにならないなら、他の奴らも事件に平気で巻き込む気だ。
確信した。
こいつら、事件について何かしらの事を知っている。
または……
犯人だ。
●
青年が去った後、紫達は互いに顔を見合わせて溜め息とも撮れる様な息を吐いた。
霊夢の勘は働かない。文に妖怪の撮影を依頼しても、はっきりと対象は写っていない。
いい結果が出せていない。
この事件を解決するにあたって必要なのは、犯人の捕獲と犯人の封印または抹殺。いずれも事件を二度と起こさない様にする為に執り行うのだが、紫だけはそれだけでは根本的な解決にはならないと、勘で言っていた。
あの青年が幻想郷に住み始めたのは半年前。それからは一週間か二週間の感覚で住人が殺されていた。被害者はどれも有名ではない一般人か雑魚妖怪妖精。中には未遂に終わって無事に生還した者も居るが、どの被害者も口々に犯人の顔を見ていないと答えた。
この結果から、聞き込みは何ら結果を及ぼさないとの判断に至った。
あの青年は外の世界に住んでいた頃、警官をやっていた。警察を。
だから協力を頼んでみましたとか言う訳ではない。どうして彼に協力を求めたのかは後々判る事であった。
「目には目を、って言ってね……。妖怪には妖怪よ」
「私たちの事ね」
「霊夢と阿求は少なくとも人間でしょうが」
「そうですね。でも、やる事は生憎人間ではなかったり…」
「どっか行くの」
「出かけに」
●
「……」
今夜は帰る事を許されなかった。
あの後、俺はあと一時間程この幻想郷の探索を任された。捜査側に付いたんだからこのぐらいしてもいいでしょうとの事。
家で待ってる人が居るんだがと言う言い訳は聞かなかった。
どうせ見られていないだろうと、その内隙でも見てこっそり帰ろうと思う。
いくら妖怪と言えども、この状況ではそんな余裕までは無いだろう。
監視してない可能性はゼロではないが。
「今夜あの妖怪が出てくるんじゃないかと言う噂が広まってるんですよ?! 外に出て警備なんて無理に決まってるじゃないですか!」
「あら、死ぬのは美鈴だけでいいと言うのね」
気付けば紅魔館の前まで来ていた。
その館の前の入り口付近で、一人のメイドと一人の…一体の少女が何やら喧嘩している。
側では中国風の人間らしき人物が二人を宥めようとしておどおどしている。
新聞でその風貌は知った事あるが、やはり生で見る分とではイメージが大分違っている様な気がした。
確か、背中から悪魔の様な羽が生えている少女は『レミリア・スカーレット』で、その側に居る門番は『紅美鈴』。
そして、レミリアの側近で、妹の『フランドール・スカーレット』の次に近しいと言われてるメイド、『十六夜咲夜』。
生意気さだけは予想と外れなかった。
「初めての名有りの被害者を出したいんですか?!」
「さあね。え? まさか、咲夜……貴方は自分が著名人だとでも思ってたの?」
「いいえ? っていうか私を殺すおつもりですか!!」
騒がしいな。
聞くところによると、紅魔館の住人は夜でもなりふり構わずにどんちゃん騒ぎをやるらしい。知らんけど。
「じゃあ今日の夜はパーティーね」
「夜ですが」
「早朝でしょ。今日の、良い子は寝る時間よ」
「もう良い子は寝てると思いますが」
「」
遠巻きに見ていると、メイド姿の少女が俺の目線に気付いたらしく、笑顔で出を振っていた。
返すのが面倒だったので軽く会釈する。
「警備係が来たようですよ?」
「あ? 誰、あれ」
「人間…………のはずですが、そうでなかったら妖怪じゃないですか?」
二人の間で勝手に話が進んでいく。
俺は人間の筈なのだが、何故か妖怪という設定で進められている。このままだと晩餐のおかずにされかねない。
「心強いわ……」
「ん?」
その場から退散しようとしたその時には、メイドが俺の前まで踏み込んでいて、数本のナイフを俺の右腕にあてがっている。
新聞で読んで知ってはいたが、時を止める能力を生身で実感すると実に気味の悪いモノであった。
逃げる事は許されない。
いや、逃げる事は九割方不可能。
「あーん? 紫はこんな貧弱野郎を頼んだの?」
「貧弱かどうかは……」
メイドに耳打ちされる。
ーーーーー今から空中に10本のナイフを舞わせるからそれらが地面に落ちる前に撃ち落としなさい。
「今試すんです!!!」
戦闘、開始。
●
「動き出したようね」
「パチュリー様」
図書館のーーーーかつてロケットを打ち上げた広い場所に魔法陣を展開させていたパチュリーは囁く様に言った。
「特定。妖怪はこの紅魔館の近くよ」
●
「撃ち抜いた……」
既に弾倉に入っていた銃弾は全て撃ち尽くしている。これ以上追加で撃てと言われたら、それは無理な話だろう。
一応予備は持ってはいるが、投げ出されてからの反応ではリロードが追いつかない。
メイドは拍手をしていた。
技を見せた事による歓喜とかそういうのではないらしい。隣に居る妖怪をどうしても説得したいらしい。
「これでも、只の人間を仲間にしたくはありませんか?」
「……納得ーーーーーー出来るわけないじゃない!!」
静かな夜に怒声が響き渡る。
「咲夜が手を抜きすぎなのよ!! 全く…事件を解決するのが先なのに…」
「ええ、そうですが」
「事件を解決するのは一ヶ月後、そう決まってるもの」
何。
紅魔館の主であるレミリアの能力は運命を操る程度の能力。対象者の運命を操作し、意思によって運命を変える事が出来る。
それも新聞で知った情報だ。
本人が事件に干渉するのならば、その能力を使って事件を解決する事も簡単であるのだろう。
だが、事件を解決させるのはあくまでも、生きている者達。自称を変化させるには人間の意思と動作が必要不可欠だ。
「できるわけがない」
「私が操作するのは運命。それは誰もが抗えない力」
「お嬢様……貴方の運命操作は失敗したようですよ」
「はあ?」
呆れ顔のレミリアの後ろ、直ぐそこにーーー噂されていた妖怪が出現していた。
その妖怪とレミリアの距離は既に数十センチ、人間ならば即殺されている距離。たとえ妖怪でも、逃げ切るのは困難。
「運命に抗うか、妖怪」
●
その妖怪が発している妖気と存在感とはそこらの雑魚とは比較できる様なものにはならなかった。
かつては幻想郷中を紅霧で混乱で陥れたカリスマ(笑)とまで呼ばれていた程の、この私でさえも一瞬で怯ませる程のオーラを放っていた。
そこに『勝つ事は出来ない』なんて気持ちはなかった。
私がこの戦いでの運命を操作して『妖怪との戦闘で勝利する』という風に書き換えれば負ける事は無い。
「私は最強だあああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
グングニルを二本手に取った。これなら勝てる、新聞で報道されて恐怖されるだけの雑魚妖怪なんかに敗北しない。
そうだ、私は最強だ。
負けない、負けない負けない、負けない。負けない。
頭の中にある戦闘の行方を現す二文字、それは。
「『勝利』ぃぃいいい!! 大事なのは『結果』あああああッッ! その過程なんて、不必要ぅぅううううううう!!!」
妖怪が少し後ずさった。
これだ、私にはこれがあるから負けない。
結果が全て、過程は関係ない。運命が全て、勝つ事も負ける事も、最初から運命によって決められている。
ーーーーーそれだ!!
「死ね!!」
槍を妖怪に向けて一直線。
避けられた。
それは大体判っていた。
感情を、力を直線的に向けるだけでは勝てない事など判っている。
過程など関係ない、結果が全て。
今の『攻撃を躱された』という結果は、結果じゃない。過程、過程だ。この戦闘は過程なんだ。
「はっ!?」
腹が、痛い。
何だ、妖怪の腕が土手っ腹を貫いているじゃないか。痛いじゃないか。
過程なんて、関係ない。
「ぐ……これも、結果を生み出す為の過程……………エレメントなんだよ……」
「……」
妖怪を蹴り飛ばす。
その体はあまりは離れなかったが、数メートル先の花畑に叩き付けられる様に吹っ飛んだ。
まだだ、まだだまだだまだだ。
「負けないのが、運命なの」
自分が天国に行くか地獄に行くかなんて、最初から決められている予定説。そんなのは下らない。
結果なんて人の意思で変えれらる。そうだ。
…………変えられる?
さっき、あの人間は何て言っていたんだ?
「お嬢様、上です!!」
「何!?」
咲夜が教えてくれた。
上から妖怪が両腕を振りかざして飛びかかってきていた。
教えてくれなければ避けられなかった。
横に飛び退いてその攻撃を避わした。妖怪によって抉られたとこから、花やら土やらが飛び散って視界を遮る。
こんなの、最強の私には…………
「効かないぃいいいいいいいいッッッ!!!」
「なっ…!?」
目の前の敵を滅ぼすのみ。
こいつを倒して、皆を幸せにする。
●
強烈な破砕音。
ただそれだけ。
破砕音の直前には、近距離を高速で走るトラックでも通り過ぎた瞬間の突風が襲った。
その後は何かが盛大に砕け散った音。
何が砕けたかは知らない。
急いで、何が起こったのか…………いや、何がどうなったのかを確認しないと……。
「……ちっ、逃げられたか」
「何?」
「今まで使ってきた中で最大の威力のグングニルを使ったつもりだったんだけどねぇ…………まさか、避けられるとは思わなかったよ。おかげで、ほら」
レミリアが少し遠くの位置を指差した。
その方向は確か、紅魔館があるはず。
まさか。
「おかげで館の一割か二割はぶっ飛んじゃったよ。はぁ……修理めんどい…」
「また立て直せばいいじゃないですか、お嬢様」
「あの妖怪が邪魔しにこないといいけどね……」
●
日が昇って子どもたちが騒ぎ始める頃、ようやく自宅に帰る事を許された俺は早々に帰宅した。
雑草が増えてはいたが、家はそれ程荒れてない上に壁の穴は完璧に塞がれていて、当時とは見違える程に綺麗になっていた。
ていうか、部屋が増えている。
家の中には一枚の書き置き。
『友達と遊びに行って来るから暫く出かけてます。
お昼ご飯は巫女さんと魔法使いさんがつくりにくるので心配はしないで下さい!
行ってきます!』
その紙の横に石ころが置いてあった。
その石の価値は俺には判らないが、この幻想郷ではなにか特別な価値があるんじゃないかと勘的な何かでそう思った。
この世界の事だ、『この石を持っていれば妖怪に襲われない』とか、そういった常識外れのご利益でもあるんじゃないか。
「おかえり」
「……は? 何で居るのさ」
「愚問ね。貴方にご報告よ」
姿を現したのは霊夢だった。昨日も来てた気がする。
「まず一点。今貴方の妹は遊びに出かけてるけど、念の為に護衛を付けてあるわ。自警団をね。
二つ目。出かける時に偶然にも会ったから判った事なんだけど、貴方の妹はかなりの汗をかいていたわ
最後、妖怪が蔓延ってるんだからあまり外には出させない様に言いつけておいて」
「今出かけてるじゃん」
「屁理屈はなし」
「どんな屁理屈も論破できなければ理屈として通る」
「特に夜はね、とにかく外に出さない様にきつく言いつけといて」
「はいはい判りましたってば……」
霊夢はそれだけ言い終えて立ち去ろうとした。
見送る事も無く、また絡んで来るだろうと無視してあしらおうとしたが、その必要は無かったようだ。
奴から来た。
「この事件、予定通り一ヶ月で決着を付けるわよ、レミリアの意向に従って」
「……」
冷めきった霊夢の顔。
この運命には抗えない、この未来を覆す程の力が無い限り。
そしてその予言から一ヶ月、『これ』が本当に終わるとは思ってなかった。
「つっこみたいところがあるんだけど」
はい
「わけがわからないよ」
はい。
ーーーーーーーーー
どうもです。
初のイミテーション投稿です。
なんかもう色々とお世話になってます。
今回は、新徒の方に投稿してある『約束』の続編となっております。
第二話にして世界観が未だに意味不明な作品は私のぐらいではないでしょうか。
次回で終わります。多分終わります。
後書きが長くなるのはいつものことです。
次回は多分三月に投稿します。
それでは。
ヨーグルト
- 作品情報
- 作品集:
- 2
- 投稿日時:
- 2012/02/08 11:31:10
- 更新日時:
- 2012/02/08 20:31:10
- 評価:
- 2/4
- POINT:
- 200
- Rate:
- 11.25
- 分類
- 新徒のSSの続き
- オリキャラ
- エログロ無し
良かったです。
あのハンドガンは確か日本の警察も使っていたなと思ったら、そうでしたか。
青年は結構できるみたいですが、それは人間相手であって、妖怪や能力者相手では……。
第三者、それも新参者から見た、主役達というのはこう見えているのですか。
青年の記憶の混濁、幻想郷首脳陣の思惑、正体がいかなる手段でも判明しない『犯人』。
もう、結果は決まっているようですね。
主人公の青年はどうなってしまうのか、どうするつもりなのか。
続きを楽しみにしています。
「つっこみたいところがあるんだけど」
「わけがわからないよ」