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『photogenic girls』 作者: アンチョビ
人ごみの中
背中を丸めて歩いているはたての後姿を見つけ、私の心は静かに波打った。
寒さをしのぐようにロングコートの襟を立て、そこに顔を埋めるように首をすくめている。
普段の下駄ではなく珍しくミュールを履いたはたては
そのヒールの高さとは裏腹に、いつもより少し小さく見える。
写真、撮りたいな
ただでさえ背が低い上に体を縮こめているから
雑踏の中に埋もれてしまっているけれど
その歩き方
頭のゆれ
足音のリズム
その空気
見つけられないわけないよ
はたての両手が襟を掴み、皺を伸ばすようにピッと力を込めた瞬間を狙って
カシャリ
カメラの音に気づいたはたてが振り返って、ビックリしたみたいに目を大きく開く
その表情も可愛らしくて
カシャリ
その顔を焼き付けるように、シャッターを切る
「!!あやっっ……!」
短く私の名前を呼ぶはたて
小さく開いた口から漏れる吐息がはたての顔にかかって
目に映る像をやわらかくぼかす
うっすらと背景に滲んだその輪郭
それでいて、はっきりとはたて分かるその姿は
まるで同じ妖怪と思えないくらい、神秘的で
カシャリ
また一つ、はたてを撮る
「ヒィッ!」
喉を鳴らすはたても
カシャリ
「いやぁっ!」
目をつむり、いやいやと身を捩るはたても
カシャリ
「やめて……」
何かを防ぐように顔を手で隠すはたても
カシャリ
「やめて……やめてよぉ……」
膝を内股に曲げ、座り込むはたても
カシャリ
はたて
カシャリ
はたて
カシャリ
カシャリ
カシャリ
はたて
はたて
はたて
はたて
『はたてさん逃げて!』
ふと
私の視界が横に大きくぶれた
視界の右半分が地面に塞がれる。どうやら倒れたらしい。
体の上には椛。私の自由を奪うかのように、体を押さえつけている
「私が抑えてる間に!早く逃げてぇっ!」
はたてはハッと気がついたように顔をあげると
履いていたミュールを捨て、はだしで駆け出していった。
右にある地面の上を、はたての白い素足が左から蹴り上げる。
上下も左右も狂った世界を駆け出すはたて
地に伏せた自分からは遠い世界に行ってしまいそうで
でもそれがたまらなく尊いものに見えて
カシャリ
両手を押さえられているけど、きっと撮れている
カシャリ
ファインダーは覗けないけど、きっと撮れている
カシャリ
必ず、絶対に。撮れているはず
「文さん……もうやめてください……」
椛が何かを喋りながらカメラに手をかける
カシャリ
でも
そんなもの関係ない
カシャリ
私ははたてを撮り続けるだけ
カシャリ
カシャリ
はたての姿が豆粒となってしまうまで
カシャリ
カシャリ
ああ
そしてついには
消えてなくなってしまった
「……追いかけなきゃ」
私ははたての写真を撮るの
「させません!」
椛の押さえつける力が強くなる
「もうやめてください!前の文さんに戻ってくださいよ!」
椛の体を振り落として、はたてが消えた方向へ飛び立つ
私ははたての写真を撮るの
だって、写真を撮ることは愛だから
早く飛ばなきゃ
はたてはどこに行ったの?
もっと早く飛ばなきゃ、置いていかれちゃう
どこに駆けていったのかしら
どこまで駆けて行ったのかしら
新しい世界でどうなっているのかしら
早く はたてを 撮りたい
はたて を 撮りたい
はやくとばなきゃ
はやくとりたい
はたてを はやく
カシャリ
さらに加速しようとしたところで、後ろからシャッター音が聞こえた
はたてだ
はたてが後ろから見ている
はたてが後ろから私の写真を撮っている
ピリピリと心地よい刺激が
後ろから背中から頭からふくらはぎから
じわりとはたての視線が私の体に入りこみ、快楽神経を刺激する
はたてが見ている
振り返ったらはたてが見ている
振り返ったらはたてが私を見ている
振り返って向かい合ったら、私、気持ちよすぎて死んじゃうんじゃないかしら
恐怖を覚えるほどの期待に逆らえるはずもなく
全身が震えだすほどの衝動に逆らえるはずもなく
私は、はたてを振り返った
そこには涙目で私を見据える二つの目があった
はたての目が、私を向いている
小さな手に握ったカメラがあった
はたてのカメラが、ファインダーを私に向けている
「私……もうやだ……」
その唇から言葉が流れた
はたての声が、私に向いている
「私……もうこんな生活ヤダ……」
《じゃりっ》
はたてが一歩、踏み出す音がした
はたての体が、私に向いている
はたてのありとあらゆるものが。
私に向かっていて。
紛れもなく!!私に向かって!!
はたてからの矢印が私に突き刺さる喜び!
今!はたてが私に来ている!!!はたてに愛されている!
やっとはたてが私の愛にふりむいてくれた!
はたてが!はたてが!私に!!!
「あっ……あ……ふぅ……」
思わず甘い声を吐いてしまう私
はたては私が感じる様を軽蔑するように見つめている
はたての意識が私に向いている
それって愛でしょ?
私、今、愛されてる
はたてを愛して愛して愛して、やっと気持ちが通じた
愛する人と通じた。何よりも、気持ちいい。
「私……」
敏感になった私を焦らすような細い声
そして
「もう文から逃げて生きるのはイヤだぁっ!」
やけくそ気味に、急に大きくなった声
その空気の振動に激しく犯された私の耳穴は、しかしその激しさに嬌声をあげる
「あぁ あ!あ !あぁ ああぁぁあぁぁ あ あぁ」
はたての意識が
視線が
声が
光が
音が
空気が
空間が
私の全身をくまなく犯して
「いぎぃ!ダメぇ!イキそう!!やあだぁ!」
ダメ
まだイっちゃダメ
これまでは私が愛してきた
今ははたてが愛してくれている
私はそれを甘受するだけじゃダメ
愛し合ってこその、愛だから
快楽に痙攣する両足を、何とか踏ん張りカメラを構える
はたてのカメラが私を向いて
私のカメラがはたてを向いて
やっとたどり着いた愛のフィナーレ
「さあ、はたて……。愛し合いましょう」
カシャリ
涙目で立ち向かうはたてちゃんは可愛い
その相手が理不尽でキチガイで変態ならなおさら。
LV-SPってこんな感じだったよね
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2/13あとがき追加
読み返してみたら確かに陳腐だったこの作品
賢者モードで読み直すと、自分でも思うことがありますね。
書いてる間チンコギンギンだったのが全ての原因です。
読んで頂いて本当にありがとうございました。
アンチョビ
作品情報
作品集:
2
投稿日時:
2012/02/11 16:58:18
更新日時:
2012/02/13 23:09:01
評価:
5/5
POINT:
420
Rate:
14.83
分類
あやはた
ストーカー
作者がDSではたて出した記念作品
やや使い古し?
ややややややややややや
もう、弾幕消し用のカメラで互いの命(タマ)を消し合え!!
もっと愛し合って、何処までも。
好きだなーこんなあやはた
もっと来ないかな!
椛がいい人だった