こいしは恋に恋してる

人と妖怪の楽園、幻想郷。
その幻想郷の地底の奥にあるお屋敷。地霊殿に住む少女。
古明地さとり……。
その彼女の妹、古明地こいしのバレンタインデーの物語。



今日、2月14日は待ちに待ったバレンタインデー。
幻想郷にも、バレンタインデーの概念はあるのよ。
でも外の世界とは違って、幻想郷では『ちょこれーと』なかなかは手に入らないから、外の世界のバレンタインデーとはちょっと違うかもね。
『ちょこれーと』の代わりに何を渡せば良いのかお姉ちゃんに聞いたら、心の篭ってるものならいいと思うわって言ってたの。
だから、去年はお姉ちゃんに私の取って置きの死体をあげたわ！
お姉ちゃん泣いて喜んでたのよ？隣ではお燐が物欲しそうに眺めてたけど、お燐の分の死体はなかったから代わりに、地上で拾った花をプレゼントしたの。
お燐も喜んでくれたみたいで、花を持ってどこかに行っちゃったわ。

今年は、去年と違ってバレンタインのプレゼントを渡す相手は家族じゃないの……。
地上の神社で出会った、白黒の魔法使い……。
そう、魔理沙にバレンタインのプレゼントをあげるの！
魔理沙を一目見たときから、私の心はもう魔理沙の虜。
これはきっと恋なのよ。うん、間違いなく恋だわ。
恋するこいしのバレンタインプレゼント作戦と言ったところかしらね。
とにかく、魔理沙のために今日までじっくり考えてきたのよ！

あぁ……。考えるだけでも頭がどろどろになりそうだわ……。
胸はドキドキ、閉じた第3の瞳が思わず開いちゃうくらいに激しく震えるわ。
あぁ……魔理沙……あなたはどうして魔理沙なの……？
殺して地底の私の部屋に飾ってあげたいくらい愛してるわ……。
でも、殺しちゃダメダメ、ダメなのよ。
もし殺しちゃったら、あのかわいい声がもう聞けなくなっちゃうじゃない。
それだけはダメよ、落ち着け私。落ち着くのよこいし……。
……ふぅ、冷静に冷静に、落ち着いていきましょう。

さぁてそろそろ地上に行こうかしら。待っててね魔理沙、今行くから！
あら？お姉ちゃん。もしかしてさっきの話全部聞いてたの？顔が引きつってるわよ？
え？「私は何も聞いてない」ですって？ならどうして私から目をそらすのよ？
まあいいわ。私は地上に行ってくるからお姉ちゃん後はよろしくね！
よろしくっていっても、特に何かよろしくするようなことがあるわけじゃないけど。



そんなわけで、やって来ました魔法の森！
いよいよ緊張してきたわ……。魔理沙はおうちに居るかしら？
もし出かけてたらどうしようかしら……。おうちの中で待ち伏せってのも良いかなぁ？
でも、勝手に入るのは良くないかしらね。
いやいやでもでも、外で待つのもちょっと寂しいし、もしいなかったらついでに部屋の掃除でもしてあげましょう。
よーし、それじゃあ魔理沙のおうちにいざゆかん！



コンコンドンドンドアをノック。魔理沙はおうちにいるのかしら？
期待と不安が入り混じる、このドキドキがたまらない。私の心を麻痺させる、媚薬みたいなものなのよ。
そのドキドキをもっと大きいドキドキで塗りつぶすかのように、扉が音を立てながらゆっくりと開いた。
中から出てきたのは当然、魔理沙！喜びで脳が蕩けそう！
まさか私が来るとは思っていなかったのか、驚いた表情をする魔理沙に、私はにひひと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
魔理沙も微笑み返してくれたわ。太陽のようなまぶしい笑顔！
早速プレゼントを渡さなきゃね！
この日のために何が良いか考えて、私の一番大切なものをあげることにしたの！
私の大好きなハートに似てる、大切なもの……。

受け取って魔理沙。私の心臓を！

持ってきたナイフで胸を開いてプレゼント。
突然の出来事に魔理沙は驚いてるみたい。顔が固まっちゃってるわ。
でも、私の心がしっかり篭ってるプレゼントだからきっと喜んでくれるわよね……？
震える細い腕をこちらに差し出して、私の心臓をしっかりと掴んだ魔理沙。
泣きそうな声で『ありがとう』って言ってくれた……！
なんで泣いてるかな？もしかしてうれし泣きかなぁ？
そんなことを考えながらにやにやしてると、不意に足元がおぼつかなくなってきた。
視界もぼやけて、魔理沙の顔がもうはっきりと分からない……。
でも、きっと、魔理沙は喜んでくれたはず。
私の心をたっぷり篭めたプレゼント！しっかり渡せてよかったわ……。



ハッピーバレンタイン魔理沙！