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『いただきます』 作者: まいん
注意、この作品は東方projectの二次創作です。
オリ設定、オリキャラが存在する可能性があります。
ガチャン!
真紅の壁に囲まれた吸血鬼の住まう館、紅魔館。 その館の食事の時間、三人しか居ない部屋で皿が落とされ、それが割れる大きな音が響いた。
その一連の出来事を見ていた館の主レミリア・スカーレットは特に取り乱す事も怒る事も無く、静かに話しかけた。
「フラン、行儀が悪いわ。 何故、食事を投げ捨てたのかしら?」
レミリアに話しかけられた、背丈も見た目も似通った少女は紅魔館当主レミリアの妹、フランドール・スカーレットである。
彼女は頬を膨らませて無邪気に言い放った。
「だって、美味しくないんだもん!」
気が振れていたと言われていた過去からフランドールは大きく変わった、むやみやたらに能力を行使して物を壊す事が無くなった。
しかしレミリアと一緒の際に随分と我侭を言う様になった。 今までに比べれば大した事は無いが、これから貴人として紅魔館の代表をして欲しいレミリアにとっては頭の痛い問題であった。
「フラン、これから一緒に紅魔館を背負って立つ貴女が、そんなでは困るわ。 少しは淑女らしく振舞って……」
「そんなの嫌だよ、私は閉じ込められていた分も自由に生きるんだ」
「せめて、食事を無駄にするのはやめなさい。 貴女が駄目にした食事は咲夜や美鈴が手塩に掛けて作ったものよ」
咲夜や美鈴の名前が出た途端にバツの悪い顔になるフランドール。
レミリアはこの調子では、私の前でまた同じ事をすると思い、咲夜に命じた。
「咲夜、今日の食事はフランと一緒に作りなさい。 フランといえども食事を作る事が如何に大変か解れば、今日の様な事はしないだろう。 フランも良いわね? 今日の事が少しでも悪いと思うなら咲夜の事を手伝いなさい」
咲夜はいつもの様に静かに返事をする。 フランドールは、は〜いと気の無い返事を返す。
〜
紅魔館食糧庫
ひんやりと温度管理がされた部屋は独特の雰囲気がある。 ここの館の住人は暗がりを好むが好き好んでここに入りたいと思う者はいない。 それ故に一部のメイドと咲夜を除きここに近寄る者さえいない。
その食糧庫の前にフランドールが居る。 今日はメイド長の十六夜咲夜と初めての料理体験をする事になった。 紅魔館の貴人となる為、これからも料理をする事の無いフランドールには良い体験となるだろう。
そこに音も無く、咲夜は現れた。
「妹様、この様な場所に足を運んで頂きありがとうございます」
「咲夜と一緒だから、別にいいよ」
「では中へお入り下さい」
閂が外され、重い扉が開かれる。 中は日が極力入らない構造になっており、薄暗くひんやりとしている。 雰囲気の重さとは対照的に中には多くの野菜が置かれ、外の世界の市場顔負けの空間となっていた。屋敷の外には滅多に出して貰えないフランドールにとってはさぞや楽しい場所に見えた事であろう。 事実、フランドールはこの場所に来てからは感嘆を漏らし、楽しそうに辺りを見回していた。
「では妹様、こちらへどうぞ」
楽しそうなフランドールを奥へ連れて行く。野菜等の置いてある場所を抜け、奥の区画された場所に案内する。 鉄に囲まれ、中をうかがう事が出来ないその場所はさながら鉄の箱と呼ぶのが相応しい。 その鍵の掛かっていない扉を咲夜は開き、フランドールを伴い入っていく。
ウ〜、ウオオ、ウムム〜。
部屋に入ったフランドールの耳に入って来たモノは人の呻き声。 すぐに暗がりになれた彼女の眼に入ってきた光景は、目と耳に遮光と防音措置をされ、縄と器具によって宙吊りにされた人々の姿であった。
吊られている人々の上には滑車を思わせるレールが引かれていた。
「さ、咲夜、これは?」
「まぁ、うふふ、これはお嬢様と妹様のお食事の材料ですわ」
顔が歪むフランドールとは対照的に、咲夜の顔からは笑みがこぼれる。
咲夜は少し微笑みながらもフランドールを、分けて吊ってある女性の元へ案内した。 足元には丁寧にバケツが用意されている。
咲夜は牛刀状の刃物を用意し、フランドールの手に握らせ、さらに自身の手を添えた。
「では妹様、私も手伝いますので足から少し血を頂きましょう」
吸血鬼であるフランドールの力ならば咲夜程度、力ずくで引き剥がす事は容易に出来る。 それでも咲夜を大切に思うフランドールは咲夜に誘われるままに吊られている人間の足に刃を当てた。
刃物を軽く引くと、皮膚を切り血管を切るザラザラとした嫌な感触が伝わってくる。 頭に気持ち悪さを感じつつ、僅か数秒で足に傷をつける仕事を終える。
足元のバケツには、ボタッボタッとまるで牛の乳でも搾る様に血が溜まっていく。
フランドールは自身の手で人を傷つけた事に嫌悪感を覚えた。
初めて人と出会った時は何とも感じずに能力で木っ端微塵に破壊した。 その為、彼女は自らの手で肉を裂いたり骨を砕いたりした事が無い。 さらに人間を破壊した日から姉や咲夜、美鈴やパチュリーによって教育がされた。 彼女が人を傷つけて嫌悪感を味わうのはその為であろう。
あるいは、霊夢や魔理沙との出会いが彼女を変えたのかもしれない。
そんなフランドールの心中を察する事無く、咲夜は次の仕事を行うと言う。
「妹様、では次の準備をしましょう」
先程傷をつけた女性の止血が終わり、バケツの血をビンに移し終えた咲夜は吊られている人々を見回し、とある女性を引っ張ってきた。
女性は金髪で髪を片方で結っていた。華奢な身体つきながら、張りがあり健康的な白い肌、膨らみ始めた乳房に丸みを帯び始めた臀部、羊で言うならラムとマトンの中間といった印象がある人間を用意する。
「では妹様、これから食材を解体します。 水が当たってはいけませんので、血抜き作業だけ手伝って下さい」
先程と同じくフランドールは刃物を持たせられ、咲夜が手を添える。
少し強く足首に刃を当て、ズズズと刃を滑らせる。 フランドールの手に再びザラザラとした嫌な感触が伝わる。
「妹様、少し離れて食材の出来るまでをご覧下さい」
フランドールは人から離れ、あらかじめ用意されていた椅子に座る。
咲夜は引き続き解体を続ける。
腹に刃を突き立て縦に割く、裂いた途端にこぼれる腸を手馴れた動作で大きなざるに受け、空になった腹を水で洗っていく。
首に刃を当て先に血管を切断し、次いで首を切り落す。 頭は器具に固定されている為地面には落ちなかった。 身体は同じく器具に固定されており、器具を中心に天地を180°回転させられ、今度は首から血抜きを行う。
首から血が出なくなった事を確認し、身体の皮を剥ぐ。
皮を剥ぎ終わった肉塊は背中にフックが刺されぶら下げられた。
「……この様にして、お嬢様や妹様の食材が出来上がります」
その光景をフランドールは眉を顰めながら見ていた。 解体が一段落着いた咲夜に言葉を投げかけた。
「咲夜はこんな酷い事をいつもしているの?」
咲夜は片付けが終わった事もあり顔を向けて話す。
「酷い事とは心外ですわ。 食事をする上で誰かがしなければならない事、偶然私がする事になっただけです」
「でも、肉は貴女と同じ人間でしょ?」
「妹様、私は悪魔の狗、お嬢様の犬です。 狗が人間を殺したから何だと言うのですか? お嬢様の為ならなんでも致します」
凄みを利かせた言葉にフランドールは言葉に詰まってしまった。
そんなフランドールを余所に咲夜はスカートのポケットから時計を取り出して確認する。
「妹様、そろそろ食事の時間でございます。 お嬢様の居る部屋にお戻り下さい」
咲夜はいつもの笑顔に戻り、フランドールをいつもの食堂に行く様促した。
フランドールはフラフラしながらも食堂に歩みを進める。
〜〜
「こんにちはフラン、気分は如何かしら?」
先日と同じ場所にレミリアは座っており、傍らには先日と同じ様に咲夜が立っている。 先日と違う事があるとすれば咲夜の反対側に美鈴が立っている事である。
「最悪だ……」
そう言いながら、いつもの椅子にフランドールは座る。
彼女達の前にはフランスやイタリア料理を思わせる食事が並べられる。
「何か言いたい事があるなら言ってごらん」
「お姉様、私の為に罪も無い人が死ぬなら、私は野菜しか食べない……」
その言葉を聞いて、レミリアは目を丸くして止まってしまった。 そしておもむろに笑い出した。
「なっ何がおかしいのよ!」
レミリアはフランドールの言葉を無視して傍らに居る美鈴に声を掛ける。
「ははは……美鈴、何か言いたそうね。 良いわ、私が許可する言いなさい」
はっ、と声を上げて美鈴はフランドールの方向を向いて話しを始めた。
「妹様、野菜は私が手塩に掛けて育てたもの。 育てなかったものはメイド長や私が苦労して探し出したもの。 その野菜を肉の代用品の様に言うのはお止め下さい」
美鈴の言葉にフランドールの思考が止まる。 彼女の頭にあるのは、叱られたという気持ち、そして嫌われたという気持ちであった。
「ふむ、美鈴良い事を言った。 下がって休んで良いぞ」
はい、と言い美鈴は下がって行った。
「あ……美鈴、待っ……」
涙目になり美鈴が去る姿に声を掛ける。 その声は美鈴に届かず、言い終える前に出て行ってしまった。
フランドールは美鈴が去って行った扉を見つめたまま視線を戻せずに固まってしまう。
そんなフランドールにレミリアが話を始める。
「フラン、命は尊いと言うわね。 それは何故かしら?」
問い掛けられたフランドールであるが思考するだけの冷静さを欠いたままであり答えを出せなかった。レミリアは構わずに話を続ける。
「答えは簡単よ……肉も野菜も同じ、私達は多くの命に支えられている。 だから命は尊いと言われるのよ」
フランドールは怒られている訳では無いが、姉の言葉は自分を責めている様に聞こえた。 堪らずに彼女は泣き出してしまう。
「いただきます、と言う言葉はね……貴方の命をいただいて、私は生きますと言う言葉なの、大切な言葉なのよ? さぁフラン、食事にしましょう。 言って、いただきます」
フランドールは泣く、声を上げて泣く。 先程、自分達の為に犠牲になった人間や野菜の為に……食事を用意してくれた咲夜や美鈴の為に……495年間食べ続けた命に、牢の中で床や壁に投げつけ無駄にした命に……そして……。
「さぁ、もう一度言うわ、いただきます」
「い……だだき……まず」
ふぅ、とレミリアは安心した顔になり溜息を吐く。
「美鈴、パチェ、入って来なさい」
その言葉を聞いて扉から三人程、人が入って来る。
美鈴はフランドールの隣に座り、先程の事を謝罪する。 咲夜もフランドールの元に向かう。レミリアは笑顔でフランドールの頭を撫でる。 その親友の行動を少し離れてパチュリーは見る。
その日、フランドールは命の大切さを学んだ。
その日、フランドールは咲夜と美鈴の居る大切さを学んだ。
その日からフランドールはレミリアに少し優しくなった。
生きる事はそれ自体が戦いです。
>1様
点数よりもコメントを頂ける事が嬉しいです。 なので当然、rateは気にしていないです。
食育よりも屠殺が現実では残酷なようで、本当ならあっちでも考えて欲しい内容なのです。
>NutsIn先任曹長様
成長の瞬間こそが生物の最も美しくなれる時と思い、書いた甲斐がありました。
そうなのです。 前回コメントを見た時にヒヤッとしたのを強く覚えています。
>4様
彼女にとっては幸せなことかもしれません。 ただし、お嬢様に嫌われなければですが……。
>ギョウヘルインニ様
これだけの反省をして、報われない筈が無い。 と私は思いたいです。
>6様
勿体無いお言葉です。
まいん
- 作品情報
- 作品集:
- 2
- 投稿日時:
- 2012/03/09 14:12:56
- 更新日時:
- 2012/05/11 19:15:27
- 評価:
- 5/8
- POINT:
- 540
- Rate:
- 14.13
- 分類
- フランドール
- レミリア
- 咲夜
- 美鈴
- 食育
- 5/11コメント返信
rateに悪影響が出てもわるいので60点とここで書かせてもらいます。
ただ、慈しむだけではなく、それを押しいただく事の重要性を理解したようですね。
駄々をこねて周りを困らせる事は、自分達のために大切な命を供した者達への冒涜でしかありません。
きちんと食べて、感謝しなければなりません。
また、その能力ゆえに遊びで破壊を行うフランちゃんは、これで自制というものを覚えることでしょう。
素晴らしい、食という命を摂って命を育む神聖なる営み!!
あ、前作のコメントの意味は、そういうことでしたか。
確かに……。+20点。
もう咲夜さんは普通の人間には戻れないでしょうね