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『わたしのなかで、もっとあばれて。』 作者: あまぎ

わたしのなかで、もっとあばれて。

作品集: 3 投稿日時: 2012/03/12 19:56:53 更新日時: 2012/06/23 15:23:01 評価: 5/8 POINT: 590 Rate: 13.67
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■ わたしのなかで、もっとあばれて。
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「酒なくて 何のおのれが 桜かな!」

 山笑い風光り、若芽の萌える春の午後。
 守矢神社の境内は麗らかな陽光に満ち溢れており、数多の吉野桜と、陽気な酒呑み共がこぞって美禄≪びろく≫の戯れを営んでいる。

 声高らかに一句諳≪そら≫んじたのは、萃まる夢、幻、そして百鬼夜行こと、伊吹萃香その人――否、その"鬼"である。
 宴会とあって、この飲んべえが姿を見せないことはまず有り得ない。しかして『準備も片付けもしない、騒々しいだけの、はた迷惑な奴だ――』と、彼女のことを蔑む者もまた誰一人としていなかった。酒の席で皆を活気付かせ、周囲を賑わすことに掛けて萃香に敵う者など幻想郷内には存在しまい。

 いや、もし存在するとするならば、それはやはり、この雄大な妖怪の山から見下ろす満開の桜並木の群れ、その壮観に他ならないのだろう。
 そう思っているからこそ、萃香は先の一句を詠みあげたのだ。

「酒≪わたし≫が無けりゃ宴も祭りも出来ゃしない! 桜の風情なんぞ、わたしの前にゃあ霞むね霞むねぇ!」

 そして一献、ぐいと可杯≪べくはい≫を傾ける。
 会津塗りの朱色が眩しいその大盃≪おおさかずき≫は、尺五寸、酒一升を優に収める上物であった。当然、萃香の顔は完全に覆い隠されてしまう。が、
「ぷはーっッ」
 ほんの数秒で再び、萃香の満面の笑みが現れるのだった。ふちまで並々と注がれていた大吟醸がその小さな口にみるみる吸い込まれ、ゴクッ、ゴキュッ、と、『これでもか!』と言わんばかりに豪快な嚥下の音を奏でつつ、瞬く間に飲み干されてしまうのだから驚きである。
 時には、萃香がそうして酒を煽るたびに激しい蠕動を繰り返す、白くか細い喉の、女らしさと男らしさの入り混じった不思議な色気にあてられ、その頸部をしきりに撫でたがる者がいた。あるいはそんな萃香にすり寄っていったかと思えば、直接その喉に耳を押し当て、生々しい重低音の響きに魅了されてしまう少女≪よっぱらい≫さえいるのであった。

 こんな姿を見せ付けられては、他の酒好き達も立ち上がらずにはいられない。
 博麗の巫女、普通の魔法使い、吸血鬼に亡霊、天狗と河童、天人、スキマ妖怪に種々の神々――最後まで元気に杯をかかげていられるのは大概こんなものであるが、この日は少しだけ、いつもと趣を異にしていた。



「みらさーん! きょーぉはぁ、守矢じんらにきてくださってぇ、どぉもども、ありがとぉーございますぅ!」



 いつもは舐める程度で済ませている東風谷早苗が、この日に限って、盛大に呑んだくれていたのだ。

「ふへへぇー。さぁくら、さぁくら〜。んふ、いーぃかおりれすねぇー? く、くふふふっ」

 理由は幾つかあるだろう。
 まず、"ところ"が此処、守矢神社であるということ。そして次に挙げられるのが、今日は早苗が幹事役でないということ。
 守矢神社が幻想郷に越してきたばかりの頃は、花見と言えば当然博麗神社、それ以外の宴会でも博麗神社、神事と言ってもまあ、博麗神社が執り行うのが常だった。しかし守矢神社もここしばらく、神奈子と諏訪子、早苗の三人で一丸となって信仰拡大に尽力してきた。その甲斐あって、近頃では宴会まわりでは両者イーブン、神事や挙式では守矢、妖怪退治や解呪などのやっかい事なら博麗、という案配に落ち着いているのであった。

「ぁ……えへぇ、ちがった、まちがいましたぁ。んんーとぉ? あー……、あぁッ! みなさあんっ! 愉しんでぇますかぁー!?」

 そうして守矢神社が皆のたまり場、憩いの場として慣れ親しんできたとしても、早苗の生真面目な性格上、たとい彼女の二柱の神々が息抜きを強く勧めたとしても、頑として早苗は宴会の切り盛り役として奔走するのが常だった。そんな早苗を酒の席に落ち着けさせたのが、意外にも、かの伊吹萃香なのである。

「呑んでますかぁーッ!? すいかさんの、言うとぉーりっ、お酒が無ければぁ……桜お山も〜ただの山ぁ、……なの、です、よぉ!」

 伊吹萃香。
 他の大多数の妖怪が思っているのと同じく、確かに彼女自身は『準備も片付けもしない』類の呑み助に違いない。しかし萃香はその特殊な能力を活かし、この日は早苗の為に、守矢の面々の言うこと"のみ"をよく聞くように言い聞かせた自身の分身を数体、密かに分け与えていた。
 分身達の大きさは大小様々であるが、最大でも身の丈6寸ばかし――とはいえ鬼の怪力をある程度引き継いでいるため、酒や肴の入った大皿を運ぶくらいは朝飯前――であり、最小は僅か2寸足らずの、主に肴の盛りつけ役を担う、まさしくチビ萃香と呼ぶべき可愛らしい小鬼であった。実のところ、博麗霊夢が一人住まいであるにも関わらず、頻繁に催される樽俎≪そんそ≫をそつなくこなして来られたのもひとえにこの鬼、ないしスキマ妖怪の手助けがあったからなのであるが、それを知る者は古参を含めても極々少数である。

 当然、最近ようやく"新顔"から脱却したばかり早苗は、それを知る由もない。
 故に彼女が萃香のこうした力添え、つまり、"何気ない厚意"を、『……わ、私の努力がやっと認めてもらえたんですね! ……そうです、きっとそうに違いありません!』――と、些か過剰に受け取ってしまっていたとしても、無理はないだろう。実際、早苗は万感の想いが胸を突き上げ、心が震え、体が熱くなるのをひしと感じていたのだった。

 "何の見返りも求めず、ただそうしたいからそうするだけ、という尊大たる器量と心遣いとを持ち合わせた、古豪ながらも篤実≪とくじつ≫快活な孤高の鬼――"

 それからというもの、早苗は萃香を尊敬の眼差しで見詰めるようになった。生真面目だからこその思い込み、純粋ゆえの一途さ。つまりはそう言うことである。
 そんな折に当の萃香から、

『さぁさ呑みな呑みなよ無礼講! しかして酒外れはせぬものだね、呑まぬは無礼の極めつきだ! ……うん? 無礼講だろうって? いやいや、そいつぁ呑んではじめて成り立つってなもんさ! さぁ、何はともあれ先ず一杯。この私と呑むからには、愉しく気持ち(良)くさせてやっから覚悟しな!』

 などと酒を勧められては、断れるはずもないのだった。
 そして早苗は今また一杯、透明な液体が注がれた猪口を勢い良くあおって気付けとし、赤く染まったにやけ顔ながらも、心持ちしっかりとした声で叫ぶのだった。

「春爛漫――今年も命の芽吹く季節がやって参りましたぁ! ここは霊峰、守矢の神社≪かみやしろ≫! 人と妖≪あやかし≫の皆々様方、目下の主役はあなたがた! 朝露浮かぶ梢にカンパイ!――から始まって、この朗らかな陽光にわれ知らず、しかし立派に咲いた花蕾≪からい≫を祝い酒で迎えた後はぁ! 彼ら彼女らが夕焼け色に染まり、やがて闇に飲まれて見えなくなるまで……ただ滾々と、命の水を浴びませう! 桜かぶった幔幕≪まんまく≫眺めつ、菊の描かれた盃で一杯あおれば、それすなわち"花見酒"の上がり役なのですっ! さてさてそれでは親愛なる皆様、素敵な酒盛りと洒落込みましょう――!」

 早苗が盃を掲げるのに合わせて、一同からも、熱気あふれる鬨≪とき≫の声が上がった。



 ところで。
 敢えて掘り返してまで述べることでは無いし、甚だ蛇足であることもまた、否めないのではあるが。

 ――"時には、萃香がそうして酒を煽るたびに激しい蠕動を繰り返す、白くか細い喉の、女らしさと男らしさの入り混じった不思議な色気にあてられ、その頸部をしきりに撫でたがる者がいた。
   あるいはそんな萃香にすり寄っていったかと思えば、直接その喉に耳を押し当て、生々しい重低音の響きに魅了されてしまう少女≪よっぱらい≫さえいるのであった"――

 これはつまり、東風谷早苗のことを指す文章なのであった。





 ☆ 





「……酒は化け薬とはよく言ったものさね」
「あそこまでいくと、気狂水って表現の方が近いような気もするけどねー」
「口が過ぎるよ、諏訪子」
「へいへい、これは失敬」

 境内で最も桜眺めのよい場所、すなわちご神木の膝元に拵えられた宴会場――そこから少しばかり離れた手水舎≪ちょうずや≫で、神奈子と諏訪子は、皿洗いをはじめとした雑務に追われていた。
 手水舎は本来、参拝者が手や口を漱≪すす≫ぎ清めるための水場であるが、昨年度の宴会の折に、『こうしてたびたび宴会を催すようになってくると、これじゃ流石に不便でしょ?』と、河城にとりが申し出てくれたのを切っ掛けにして、ちょっとした炊事程度ならこなせるような簡易施設が併設されたのだった。

「……ま、偶にはこういうのも……」

 神奈子が呟くように言う。
 それはどことなく"落とし物"にも似た雰囲気の、ほとんど独白に近い呟きであったが、

「こういうのも?」

 と、諏訪子が律儀にそれを拾いあげた。人懐っこい笑みを浮かべて、神奈子の顔を覗き込むように、あるいは見上げるような視線を送って、途切れた言葉の先を待っている。
 それがどうにも神奈子には気恥ずかしいようであったが、やがて、ゆっくりと口を開いて、"落とし物"の礼を述べることにした。

「……悪くはないな、と思ってね」
「うん。悪くはないね」

 ――そんなとき。

 "……今年も命の芽吹く季節がやって参りましたぁ! ここは霊峰、守矢の神社! 人と妖の皆々様方……"

 遠くから早苗の口上がかすかに聞こえてきて、二柱の神は思わず笑ってしまう。
 諏訪子は楽しげに。神奈子は満足げに、笑っていた。

「早苗はいつも頑張ってるから。これくらいは、ねぇ?」
「ああ、そうさね。私らが支えてやらなきゃいけない」
「うんうん」
「で。分かってるならちゃんと手を動かせぃバカ諏訪子」

 神奈子は手にしていた皿をすすぎ終えると、妙な緩急をつけて水を吐き出し続ける蛇口の頭をしっかり締めてから、諏訪子に向き直った。きつい口調とは裏腹に、さっき笑ったときの柔和な表情がそのまま残っている。またその声はと言えば――おそらくきっと、述べるまでもないだろう。

「いやー、外で呑む燗≪かん≫が美味いのなんの。さっき一杯やったら止まんなくなっちゃって」

 と、へらへら笑う諏訪子の手から徳利を引ったくると、神奈子はそこに自分の持っていた皿と布とを無言で押し込んだ。それは丁度、『まぁ取りあえず食器≪こいつ≫の水を拭き取れや』という具合である。

「えー、少しくらい休憩してもいーじゃんかー。ほら、水、すげー冷たいでしょ?」
「そりゃ冷たいだろ。雪解け水なんだから当然さね」
「だったらほら! ちょろっとでいいからその熱燗呑んでみ? あったかいよ、沁みるよー? 手とか舌とか、あと心とか? とにかくまあ色んなトコに!」

 よっぽどサボりたいのだろう。
 そこで諏訪子は持ち前の明るさと大げさな身振り手振りを交えて、弁舌さわやかに、もっともな意見をあれやこれやと述べ立て始めた。

「神奈子だってさ、ひとの宴会見てるだけってのはつらいよね。よね? ならさ、ここでわたしら二人、こっそりと酒盛りしちゃうってのはどうだろう! みんなの楽しんでる姿を肴に一杯やるんだねぇ。これはいいよー? なにしろ、わたしらの気分が良くなるのは当然として、みんなの呑み具合、食べ具合もしっかり観察できるんだから。したら、何がどのくらい食べられてるのかがよく分かるでしょ? するとだねぇ、この情報が次回以降の宴会に役立つんだなぁ! だってさ、食材自体はみんなに持ち寄ってもらうことも多いけれど、食器類は殆どうちが出してるでしょ? どんな皿が、あるいはどんな杯が、大体どのくらい必要かって知ってるだけで、ずいぶん準備って楽になるものだと思わない? ね、そうでしょー? それにそれに、いったん腰を落ち着けて場を眺めて見れば、効率的な皿洗いの順番だって見えてくるってもんなのさ!」

 こういう時の諏訪子は強かった。

 まず最初に神奈子の意見や心情に共感を寄せて、自分の相手に対する理解の深さを示し、それから神奈子が「うん」と答えやすいような質問を重ねていく。つまり今度は、神奈子が諏訪子に共感を寄せやすいような環境を作っていくのだ。そのとき諏訪子は同時に自分の提案の利点も述べるようにしていた。そうしてある程度まで興味を惹けたかな、と思えるようになったら、いよいよ神奈子がその事柄について"障害"――すなわちデメリットだと考えている箇所について、『それにはね、むしろこういう利点≪メリット≫があるんだよ』と伝えてやるのだった。

 つまるところ、この神は人を説得するコツを心得ているのだ。
 そのため神奈子は、大抵の場合において諏訪子にうまく丸め込まれてしまうのだった。

「……へえ?」

 ――当然、今回も含めて。

「まあ、諏訪子がそこまで言うのなら……そうしようかね?」

 神奈子は、どうにも人間くさい神様なのであった。
 いまも口では迷っているような素振りを見せているが、心の中ではもうすっかり、諏訪子の意見に流されてしまっている。

「うん、そうしようそうしよう! よっしゃー、呑むぞー! 熱燗だー! あ、その徳利に入ってるぶんは全部神奈子にあげるよっ」

 上機嫌に言って、諏訪子はもう一つ、自分用の燗酒を用意し始めた。
 鍋に適当な量の水を張って火にかける。それが沸騰するのを待つ間に、諏訪子は何処やらから取り出した純米酒の瓶を傾け、とくとくとその中身を徳利に注いでいった。

「え、おい、わたしゃそんなに……」
「いーのいーの。やすい酒を美味しく呑める、それが燗のいいトコなんだから。遠慮しないで楽しくやろーよ。ね? それにさ、」

 ほら、と諏訪子は顎をしゃくって神奈子の背後を指し示す。

「もう一人ばかり、呑み助がいるみたいだし?」
「うん?」

 神奈子が振り返ってみると、澄んだ井戸水を目一杯に湛えた石造りの水盤――その端っこに、つま先立ちで万歳をしたり、飛び跳ねたりして自分の存在をアピールしている小さな影があった。

「ああ、なるほど」

 小柄ではあるが、その特徴的な角と服装はそうそう見間違えられるものではない。



 諏訪子曰くの呑み助こと、身の丈2寸弱のチビ萃香である。





 萃香の分身たちは、基本的に物を言うことが出来ない。
 また"本体"によれば、分身はその大きさに比例して頭の中身も小さくなっていくそうだが、それでもある程度の言いつけを守る程度のことは出来るらしい。

〔 ♪ 〕

 現にこのチビ萃香は、先に神奈子や諏訪子から言い付けられていた肴の盛り付けをあらかた片付け終えていた。そこで次の指示を求めに、奥の炊事場から水場の方を覗いてみたところ、諏訪子の手にしている純米酒の瓶が目に入った――

「――……って感じの解釈であってるかな?」


 諏訪子の言葉に、チビ萃香は全身を使ってうんうんと頷いてみせた。

「お! あってるってさ、神奈子!」

 この小鬼の手に、鎖は垂れていない。だから本体のような右手の三角錐も、左手の球体も、このチビ萃香は持ち合わせていなかった。それどころか萃香の代名詞とも言える伊吹瓢、ついでに髪留めと一体になった水色の立法体すら所有していない。だが、それでも萃香の分身であることに変わりはなかった。


「うん。それでやっぱり、こいつも熱燗呑みたいんだって」
「……ん?」

 すなわち――無類の酒好き、ということである。


「ほー、むしろ熱燗風呂に入りたいって? いいねぇそれ、わたしもちょっとやってみたいかも知れない!」
「ちょ、ちょっと待て、あんたらなんで会話出来てんだ?」
「てなわけでカンパーイ!」
〔 ☆彡 〕
「話聞けよオイ!」

 そうしてここにまた一つ、新たな宴会場が誕生するのであった。





 ☆ 







 お燗のつけ方には大別して二通りの方法がある。
 鍋に酒を入れ、そのまま火にかけて熱する直火燗と、諏訪子がやったように一旦湯を沸かし、そこに酒の入った徳利を浸して温める湯煎燗である。
 一手間余計に掛かるが、それでも諏訪子は常に湯煎燗を選ぶことにしていた。"こだわり"として、沸騰した湯に徳利を浸けるときには一度途中で徳利を引き上げ、徳利と酒の温度が均一になるまで待つ手数を欠かしたことがないほどである。

『味にふくらみが出て、口当たりもまろやかになるんだよ』

 これには神奈子もチビ萃香も同意のようであった。
 諏訪子は酒の知識についても造詣が深く、また生粋の話し上手かつ話好きであるから、たとえ"一寸≪ちょっと≫だけ"、というさわりで酒の席に着いたとしても、それは本人の気が付かないうちに"もう些≪ちっ≫と"へと転じ、いつしか時間を忘れて愉快そうに、進んで身の上話を始めるように誰もがなってしまうのだった。またこの頃には一転、諏訪子は"聴き上手"に廻っている。彼女の笑い声は耳に心地よく、そしてリアクションも派手――ながらも、こか気品があるものだから、話している方にしてみれば欣快≪きんかい≫極まりないのであった。
 萃香が多を相手に場を盛り上げるのを得意とする酒呑みならば、諏訪子は個を相手に自分も相手も等しく喜ばせる術に長けた酒呑み、なのである。



 という訳で、はじめは立ち飲みのつもりであった神奈子も今では三本目の徳利を手にし、近くの桜の木にゆたりと身体を預け、手酌でまた一献傾けているのであった。諏訪子は幹を挟んだその反対側で、あぐらを構えて座している。大和神と洩矢神――それは遙か古代、敵対関係にあった二柱の神の名。侵略戦争終結の折、煤煙立ち籠める鉛色の空の下、浅黒く焼け残った大樹を背に、こうして盃を交わして以来の幾千年……今ではこれが、この神々のもっとも自然な呑み方なのだった。

〔 …… 〕

 そんな二柱の間、桜の根元。
 チビ萃香は猪口の熱燗風呂に身を浸し、頭上を通り過ぎていく言葉の色を眺めていた。文字通り、そこには"懐かしさ"――そして"信頼"という、言葉の色彩がありありと見て取れるのである。
 美しかった。
 それは、このチビ萃香が今まで(と言っても今日一日分の記憶しか無いが)見て、聞いてきた、どんな世辞よりも――賛辞よりも。ゆうに数百倍は、美しい色合いをしていた。

? 〕

 その時だった。
 ふわりと優しく、チビ萃香の視界が遮られた。空から舞い落ちる桜の花弁が、彼女の顔をやわらかく覆い隠したのだ。

〔 …… 〕

 そっと静かに瞼を閉じる。
 彼女はこの風流を愉しむだけの器量を十分に持ち合わせていたし――
 彼女自身、それを"愉しむことが出来てしあわせだ"、とも感じていたのである。

 こうして、他愛ないひとときの、しかし慈愛と温もりに満ち溢れた時間が流れていく。





 ☆ 





 心地良い静寂を打ち破ったのは、早苗の大声だった。

「神奈子さまにぃ、諏訪子さまぁーッ? なーに、を、してるーぅ…ん、ですかぁっ!?」

 咆哮≪バインドボイス≫もかくやという大音声に、またまたはらりと花弁が舞い落ちたのを見て、『あ、これはちょっと面倒な予感がする――』と、二柱の神は顔を見合わせた。
 そのまま振り返ってみると、案の定、べろんべろんに酔っぱらった早苗が千鳥足で二柱の方へ向かって来ているところであった。

「皿洗いですかーぁ!? ヒッ、…ク。あのぅ、わたしも、……っとと? ……お手伝い、しますよぉー!」
「あー、早苗。その……なんだ。私らはいいから、向こうで愉しくやっといで」
「ええぇー? あは、あははっ、もーとっくに、たのしぃくやってますってば、かなこさまー。……んんー? ……"ますってば、かなこさま"…………ますって、"ばかなこ"さま! んひ、ひひッ……あはは! お、可笑し、ウヒ、…ック、ンく……ぷふっ、あははは!」

 自分の言葉にひいひい笑い転げる早苗を見て、神奈子も諏訪子も『流石にこれは飲み過ぎだわ』と即断する。目配せを通じ、早苗を撤収させるための役割分担を済ませるまでに掛かった時間は僅か一秒足らず。すなわち神奈子が薬草の煎茶と、神奈子秘伝の酔い覚まし薬を持ってきてやり、社務所で早苗を休ませる。諏訪子はそれまで早苗の面倒を見てやったり、その後神奈子が社務所で早苗の介抱をしている間、一切の宴会雑事を引き受ける――という具合である。

「あ、あれぇ? もしかしてぇ…、おふたりもぉ、呑んでらしたんですかぁ? それならッ! わたしもぉ、ぜひご一緒――」
「やぁやぁ早苗! 愉しくやってたんだねぇ、それは良かった! わたしたちはね、ちょーっと疲れちゃったから、ここで休憩してたんだ!」

 神奈子が本殿の方へ向かったのを横目で確認してから、諏訪子が一層明るく、そして早苗にも聞き取りやすいように大きな声で言った。

「さすがの早苗も、少しは疲れちゃったんじゃないかな? ほら、こっちへおいでよ! 果物でも食べながら一緒に休憩しよう!」
「えー、んー、はいぃ……まぁ、そうですねぇ! ちょっとだけ、きゅうけぇ、しましょうかっ」
「そうそう。ちょっとだけでいいんだよ、ちょっとだけで。ねー、さなえー?」
「…ク、ップ…、…ねぇーっ、すわこさまぁー!? ……んひっ」

 諏訪子は酔いどれの相手の仕方も、もちろん心得ている。酔客は往々にして天の邪鬼になるものだ。先の神奈子と早苗の会話がその良い例である。
 ゆえに、"さすが"の早苗も"少しは"疲れたかな? と言葉のニュアンスでうまく相手を誘導しつつ、後でデザートとして出すため炊事場の棚にしまってあった真っ赤な苺を取り出して、実に美味そうに、その一つをたいらげながら『あまいよー! 早苗も食べよう、一緒に休憩しよう!』と持ちかけるのだった。

「あらま。早苗の手、冷たいね。ちょっと冷えちゃったのかな? まず暖まろっか。どれ、おいでっ」

 諏訪子は先程と同じように桜の木の下に座すると、早苗の手をゆっくりと引いて、その華奢な身体を抱き留めた。胸にしなだれ掛かってくる早苗の頭をめいっぱい優しく抱擁し、撫でてやり、そして存分に――心臓の鼓動を、聴かせてやる。それもまた、早苗が落ち込んだり、病にまいっている際には諏訪子が進んでしてやる馴染みの深い行動なのだろう。たちまち、早苗は大人しくなった。

「あたま、痛くない? 胃がムカムカしたり、吐き気があったりは? ……うん。そかそか。よかった」

 その状態で、諏訪子は早苗にいくつか苺を食べさせてやった。
 ほどよく熟れた苺が早苗の唇の形にゆがみ、甘酸っぱくも芳醇な果汁を滴らせては早苗の舌をみずみずしく潤し、こくりと音を立ててその白い喉の奥へと滑り込んでいく。

「ぁ……美味しぃ……」

 まるで小鳥がついばむような、ゆったりとして、もどかしいまでに情緒的≪ロマンチック≫な食事風景――
 それは見る人誰もに安らぎを与える類のものであった。またそうした安らぎは、往々にして、当の本人達にも伝播していくものである。

「……ん……あたたかくて、きもちいーです……、すわこさまぁ……」

 やがてその証拠とばかりに、早苗はうとうとと船をこぎはじめた。

「うん。もうすぐ神奈子が来るからね。したら、社務所までいこっか」
「ふぁ……、……はぁーい。」
「よしよし。いいこ、いいこ」

 そうして早苗は、自らの髪をやさしく梳いていく諏訪子の手の感触に、うっとりと酔いしれた。
 どこか遠くで、うぐいすの鳴く声がする。
 まるで、白い幸福が辺り一面に咲き乱れているようだった。
 満開の桜の木の下――
 辺りを満たす春の匂いに身をたゆたわせ、ふたりはそうして互いの体温を感じながら、目を瞑ってやすらかな微睡みを味わっていた。



 ……ので、あるが。



「おーい、諏訪っちー! こっち空き皿でいっぱいになっちゃったんだがー! あと酒も足りてないんだけどー!」
「料理もそろそろ無くなりそうね」
「なにぃ! そりゃ大変だぜ、おーい、すーわーこー! おいってばーッ!」

 なにやら宴会場の方から苦情が入り出してしまった。

「あーもう。うるさいなあ」

 これにはさすがの諏訪子も辟易し、悪態を吐かずにはいられなかった。無論その言葉自体は、早苗にさえも聞こえないような、ごく小さな"ぼやき"に過ぎない。けれど早苗と諏訪子の付き合いも、もう随分長いものである。そのぼやきの雰囲気だけで、早苗は酩酊と夢うつつの状態にありながらも、なんとはなしに事の次第を悟ったようであった。

「すわこさま、いってきて、いいですよぉー……。わたしはぁ、かなこさまが……ンン……いらっしゃる……まで、ここにぃ、いますからー……」
「あー、うー。そうは言われても、ねえ」
「だいじょうぶですよぉ……、……あ。そっかぁ、」

 早苗の髪を撫で続けていた諏訪子の手が止まる。早苗がその手に自身の手を重ねたからである。
 早苗はそのまま無言で一拍置いたかと思うと、困り顔で笑う諏訪子を上目遣いに見上げて、

「すみません……すわこさま。ホントは、わたしがやらなきゃ……いけないんですもんね…、よい、しょ……っ」

 などと述べつつ身を起こし始めた。当然、狼狽したのは諏訪子である。

「あー待った待った! 分かった、分かったよ早苗! 寝てていいから。雑務はわたしがやるよ。今日は早苗が愉しくやる日! ……ね? 今朝、そう決めたでしょ?」
「ぁ……はい、そうでした…ね。……」

 そしてやはり、早苗はきっかり一拍の間を置き――

「…………えへへぇ。」

 紅潮させた顔を、童子のようにほころばせるのだった。
 諏訪子は何とも言えぬ気恥ずかしそうな体≪てい≫でそんな早苗の表情をしばらく見つめていたが、やがて『よし』と頷くと、最後に早苗の髪に付いていたひとひらの花弁を払って、立ち上がった。

「おーーい、諏訪子ーっ!」
「あいあい! いまいくよっ!」

 再三の急かしに応える諏訪子の声には、もはや微塵の厭いも迷いも含まれてはいない。

「それじゃ早苗、ちょっと待っててね。すぐにわたしか神奈子が戻ってくるから!」

 最後にまた早苗に向き直ってそう言い残すと、諏訪子は宴会場へと足早に駆けていった。

「いってらっしゃぁい………ふぁぁ……」

 その場に残された早苗の眠そうな声が、糸を引くように周囲に伸びていく。
 洩れ出たあくびは、身体が春の大気を求めてのことだろうか。
 きっと、そうなのだろう。早苗は身体の求めるままに春の象徴とも言える桜の木にすり寄ると、逞しくも包容力あふれるその樹幹に耳を押し当て目を閉じた。樹皮はひやりと冷たく、火照った頬に快い。静謐で、淑やかで――琴線に触れるような春の芳香が、全身に沁み渡ってゆく。

「……ん……」

 やがて身体だけでなく精神≪こころ≫も春のぬくもりに満ち足りて、器≪さなえ≫からとろとろと溢れ出たその分だけ、春の匂いは春眠≪ねむけ≫へと移りかわり、早苗の意識をやさしく包み込んでいった。

 "あ……、とおくから、……ほととぎす…の声…が……きこえ…………た……?"

 とけていく自我の中で、早苗は、そんなことを想った。

 "……あ、れ…? うぐいす……の声…、………だっ…た…………っけ……………?"

「………………すぅ……」

 ………………。

 …………。

 ……。





 ★





 ……。

 …………。

 ………………。

 "…………――ぁ。………やっぱり……うぐいす、…の……声、…………だ。"

「…………、………ん、ぅ…、……あ………?」

 そう、そのとき妖怪の山に響き渡ったのは、確かに鶯≪うぐいす≫の鳴き声だったのだ。それを切っ掛けにして、早苗はふたたび意識を覚醒させた。

「…………ぅ……うん…。………そう、だ」

『<ホンゾンカケタカ>とか<イッピツケイジョウ>……って聞こえるのが、ホトトギス。<ホーホケキョ>、<ホーホホホキョコ……>とさえずるのが、ウグイスさね』
 むかし神奈子にそう教えてもらったことを、早苗は胡乱な頭で思い返していた。もちろん、神奈子が鳥の鳴き声を真似する、ちょうどその瞬間を諏訪子が目敏く見つけて、三日三晩、そのネタで大笑いを繰り返していた――そんな記憶も一緒に、である。

『わたしもウグイス鳴かせたことがあったもんだよ! あ、もちろん今でもじゅーぶんっ、鳴かせられるけどね!』

 諏訪子が自慢げに言ったその言葉の意味も当時の早苗には分からなかったが、それに対して今度は神奈子が馬鹿笑いを返していたので、きっとろくでもない意味なんだろうな、と子供心に思ったのを早苗は覚えている。

 "懐かしい、なぁ"

 石のように重い頭を何とか少しだけ持ち上げ、辺りを見回した早苗の驚いたことに――諏訪子の背中は、まだ宴会場に辿り着いてすらいなかった。つまり早苗が眠っていたのは、時間にしてほんの数秒から数十秒……という僅かな間だけだった、ということになる。しかし誰でも一度くらいは、こうして狐か狸に化かされたような、なんとも言えない感覚を味わったことがある筈である。夢見心地の中において、時の流れは非常に曖昧であり、自身の感覚などいくらも当てにならないものなのだから、仕方ない。

「……あったかいもの、呑みたい……」

 それでも気分的には、ずいぶん長いこと寝付いていたような気がするものだから、早苗としては喉が渇いてしまって仕方がなかった。
 何でも良いからぐいっと一気に飲み干したい。温めの液体ならばもっと良い。それが美味しいお酒なら、もう最ッ高――
 ちょうど、そんなことを考えていたその時だった。

「あ……

 早苗が、傍らに置かれていた苺を見つけたのは。それから――もう二つばかり、早苗の目を惹くものがあった。
 鉄砂釉≪てっしゃゆう≫の黒褐色が美しい、重厚感ある陶器の徳利と。その徳利と対になって、妙なる黒光沢を照り返している小洒落たお猪口。

「んふ……っ♥ 扇にてぇ……酒酌むかげや、散るさくらぁ〜❤」

 そう。
 それは透明な液体に、桜の花弁を一枚浮かべた――小さなお猪口、だった。





 ☆ 





「……ふう。とりあえず、自室で寝かせて来たよ。ちゃぁんと薬も飲ませて、横向きでね。ともあれ大丈夫、もう心配しなくても良さそうだ」
「そっか。お疲れさまだね、神奈子。いちお、飲料水も置いてきた?」
「当然。私を誰だと思ってる。必要そうなもんは全部置いて来たさね。……うん、あんたもお疲れ。一人で大変だったろ」
「まあねー」

 二柱の神はふたたび手水舎脇に集い、より一層騒がしさの増した、人妖入り交じっての大騒ぎを遠巻きに眺めていた。
 時刻はまだまだ昼下がり。宴の参加者がこれより増えることはあっても、減ることはまだまだ期待出来そうにない。現に今もまた永遠亭の一行が、2斗――すなわち20升、約36リットル――は軽く入りそうな大酒壺を担いで、文字通りに宴会の中心地に"飛び入り"、周囲から拍手喝采を浴びている。

「おーおー。酒壺はでかけりゃでかいほど、その家門が栄えてる証拠とは言うがね……諏訪子よ、あれはどんなもんだ?」
「珍しいね。喜納≪きな≫の焼き物だ。それも初期の荒焼≪あらやち≫。琉球の時分だから、500年は下らないんじゃないかな」
「へえ……そりゃ、こうせずにはいられないなぁ?」

 "こう"。
 言って、神奈子は手で作った盃を仰いでみせた。

「"そう"せずにはいられないねぇ?」

 諏訪子も真似して、くすくす笑った。

「仕事は粗方片付けておいたから、少しくらいは息をついても良さそうだよ」
「そりゃ何より! そんじゃ私らも、ちょっくらお邪魔させてもらおうかね――って、おろ?」
「うん? どしたの?」
「ん、いや……」

 神奈子の頓狂な声と歯切れの悪い受け答えに、諏訪子は一体何事かと逡巡する。
 しかしこの僚友の視線を追ってみるに、諏訪子もまた、同じ疑問に行き当たるのだった。

「……あのちっこい萃香は、何処に行ったのかと思ってね」
「言われてみれば。ホントだね」

 二柱の見詰める、そこ――桜の木の根元には、すっかり空になった、徳利と猪口だけが残されていた。
 酒に浮かんでいた筈の桜の花弁すら、見あたらない。

「――ま、いいか。これ全部飲み干してしまったもんだから、どっか適当に彷徨いながら次の酒でも探してるんだろ、きっと」





 ☆ 





「ん……と……?」

 早苗が目を覚ましたのは、それから時辰が一つ二つ進んだ後のことである。
 時刻は暮六つ時に差し掛かり、窓から差し込む光は夕焼けのそれ――よりも幾分、闇に近いものになっていた。
 それでも、眼に直接差し込めば眩しいことには変わりない。早苗は何度か身を捩り、もどかしそうに薄目を開けたり、また閉じたりして懸命に眠気と闘っていたが、やがて『えいっ』と言うかけ声と共に布団から身を起こした。その声にから酒の気配は、ほとんど感じられない。

「……わたし。なに、してたんだっけ……?」

 辺りを見回す。
 枕元に据えられた長方形の和紙行灯≪あんどん≫がうすぼんやりと繊細な光を放ち、和と洋の均衡が取れた奥座敷をまるで暖めるかのように、いっそう味わい深く照らしている。
 部屋のすみの、早苗にとって最もなじみ深い家具である学習机の上には、いつものように、電池の切れたピンク色の携帯電話と家族の写真とが仲良く背を並べている。

「……あ、……宴会……だ」

 その隣に、煎茶の入った湯飲みと、中心に梅干しの赤色が覗くおにぎり、それから苺の乗った小皿が黒いお盆の上にまとめて置かれているのを見つけて、早苗はそれをようやく思い出すことが出来た。と同事に、それらを用意してくれたのだろう神奈子に感謝した。早苗に対してこうした気配りをするのは、いつも、神奈子の役割だったからだ。

「ん…………」

 声に酒の気配は薄くとも、まだ頭の中にはいくらか残っているのだろうか。燻っているような意識をピシャリと奮い起こそうと、早苗は半開きだった部屋の雪見障子を真上に開け放した。
 雪見障子。
 "摺り上げ障子"とも呼ばれるそれは、室内と室外とを隔てる窓を、硝子と障子とで二重構造にした和風建築の賜物である。窓は"開ける"か"閉める"かの二択でしかない洋風建築では、『曖昧美』と称されるこの種の趣を味わうことは難しい。早苗は、この雪見障子から眺める風景を心の底から好いていた。



 そんな風景の向こう側。
 硝子一枚を隔てたそこでは、ひやりと冷たい春の宵闇が今にも空を満たそうとしていた。



 早苗の自室は社務所の二階、境内と社叢≪しゃそう≫――神社を囲う森林――とを、一望出来るところにある。
 窓辺に立つと、各所で篝火の焚かれているのが良く見えた。その一廓、宴会場の中心に唐松の薪が六角星型に組まれている。かなり大きな祝典用の大篝火である。それが今まさに点火された直後のようで、まるで逢魔が時を迎え、盛り上げるかのように、ごうと火炎を吹き上げ火花を散らしながら周囲を緋色に照らしている。
 てらてらと濡れたように赤く輝く境内の石畳は、ちょうど、気だるい夏の雨上がり、夕焼け空の時分に、ここから眼下を見下ろした時のそれとよく似ていた。

 早苗はその石畳の上を行き交う雑踏の中に、神奈子と諏訪子の姿を見いだしていた。酔っ払いたちの相手をしながら、火力の調整のために薪を入れたり動かしたりしている。いちど大炊殿≪おおいどの≫の方へ引っ込んだかと思えば、両手に木曽漆器の重箱や酒器を抱えてすぐに戻って来た。その合間合間に一般の参拝客たちの相手をすることも、決しておそろかにしていないようだった。
 そうして忙しなく奔走する二柱の姿を見ていると、やがて早苗は先の、巫女にあるまじき自身の失態をありありと思い起こし、顔から火が出るような思いに打ちひしがれ――

「……っ」

 身を竦ませる、というすんでの所で、しかしそうはならなかった。
 確かに早苗は全身が"かっ"と火照るのを感じていた。血管という血管が限界まで拡張し、心臓が鼓動するたび、身体の隅々まで熱い血潮が流れ込んでいくような生々しい感覚があった。あるいは総毛立ち、全身の毛穴が開き、どっと嫌な汗が噴き出すような、激高と寸分たがわぬ情動があった。だがそれは自らを恥じ入る感情によって引き起こされたものではなかった。何故ならそのとき早苗の瞳に写り込み、彼女の心を奪ってしまったのは、まったく別の人物の姿なのであるから。

「――――」

 早苗は熱病におかされたような体裁で、部屋の奥、化粧台の前に据えられていた木製の椅子を引っ張ってくると、それを窓の前に置き、深く――深く、腰掛けた。背もたれが鈍い音を立てて軋むほどに。
 そして……かすかな衣擦れの音が、室内に反響する。

「――――ぁ」

 私は何をしているんだろう。
 早苗は、心許ない自我のどこかで、そんなことを考えていた。
 けれども、もどかしい。もどかしかった。
 身体を覆う装束が、なぜか早苗には邪魔で邪魔で、仕方がなかったのだ。

「……んっ、……ふ、……ぁッ」

 それは何が原因なのであろう。
 早苗の心に絶えず蓄積していた、日々のストレスに因るものだろうか? 宴会場で呑んだ酒の中に、何か昂進作用のあるものが含まれていた? それとも神奈子が与えた薬草の成分であろうか? あるいは、そのどれもが正しいのかも知れない。しかし最も信頼に足る素因といえば、やはり、早苗の心そのもの――根源、性質、気性、心根、本性、そうした言葉で表される"それ"に違いないのであった。酒は、それを引き合いに出す『きっかけ』に過ぎない。

「っ、ぁ、……ん、く、ぅンっ……!」

 "くちり"
 "くちり"

 水気の多い音がする。ぷくりと膨れた形のよい恥丘の孔へ向け、早苗の指が前後の輸送を繰り返す。中指に粘液がまとわりつく。それが指の間に溜まり、そして――こぼれた。大腿の内側を、つめたくなった自らの体液が伝い落ちていく。
 たまらなかった。たまらなかった。
 たまらなくなって、だから、早苗は椅子に座ったまま、両の足を窓枠へ乗せ、腰を前へ突き出すような体勢をとった。
 愛液に濡れた自分の肛門が、斜陽と篝火の橙色に染まって扇情的に煌めくのを、早苗は見た。

 "ぐちり"
 "ちゅぐッ"

「……――ぁ、……これ…っ、んッ、恥ずかしぃ、……けどッ、あぁっ、」

 気持ち良かった。気持ち良かった。
 夜眼の利く誰かがこっちを見たら、見つかってしまうかも知れない。
 けれど気持ち良くて、もっと気持ち良くなりたくて、早苗は左手を巫女装束の内に差し込み、自分の両胸をきつく揉みしだいた。今まで一度もないくらいに、乳首がぴんと硬く張りつめ、充血している。その先端を軽く摘んだだけで早苗の頭は真っ白になり、びくびくと、まるで別の生き物のように腰が跳ねた。



 ああっ、痺れて、気持ち良いっ♥

 凄くぅ、すごくっ良いのぉッ――❤



 早苗の感じた快楽は、それがそのまま喘ぎ声となって――否、その白い喉の内で数十倍にも妖しく、甘美に増幅されて、まるで洪水の如く部屋中に溢れ返っていく。これほどまで色艶にまみれた嬌声を自分が出せるなど、早苗は知らなかった。

 "ズぢゅ、にちゃッ"
 "ぷ゙ちゅりっ、ずち゚ュプッ"

「ぁひッ、き、――きもちっ♥ ふ、ぁあぁぁ、ん――っふぁあッ♥」

 絶えず耳朶を濡らしていく"けだもの"じみた荒い息遣いは、いまだ自分のことを"少女"であると信じてやまない早苗とって、凄まじいまでのショックであった。だがそれでも自慰は止まらない。むしろその嬌声は、過激さを増していくばかりである。禁忌に触れ、いたいけな少女から成熟した女性へと変貌を遂げていく過程で生まれる圧倒的な陶酔感は、その背徳的な自意識すらをも興奮剤へと変えてしまうようであった。

 そんなとき、早苗の右手の向かう先が少しだけ変わった。
 蜜でとろりと糸を引く中指――それを使って、早苗は陰核の包皮を丹念に濡らしたあと、包皮をゆっくり捲っていく。

「はッ――❤ はひっ、ふぁ、んァッ、はッ――はひぃ――❤」

 クリトリス――性的興奮を得るために"のみ"に特化した器官が、露わになる。
 それは桃色の真珠のように麗しく、一分の穢れもない。艶のあるピンク色のそれを、しかし早苗はためらうことなく、親指と人差し指の爪で磨り潰すように擦り上げた。

「ぎぃ――が、――ん"っひぃいイイい"い"い"――ッ❤」

 涎が垂れるのも構わず、またほとんど白目になりながらも恍惚の表情で、早苗は気が違ってしまいそうなほどの激痛と快感とを享受した。ぷし、と白く濁った液体が股間から迸り、窓硝子を淫らに濡らした。腹部から腰にかけての痙攣が椅子をいつまでも揺らし、派手で、不規則な音を奏でている。



 早苗は、欲情していた。
 まだまだ、欲情している。



 自身の下腹部、その奥の肉壺、さらにその中身の内襞が"ひくひく"と蠢いているのが、自分でも不気味なまでに良く分かった。『膣が欲しがって、いる。――違う。欲しがっているのは私だ――』そう理解してからというもの、早苗はより一層激しく自身を責め立てた。
 陰核を刺激するのは早苗にとって最高の自虐であった。疼痛があり、悦楽が生じる。身体の芯がうずき、どうしようもなく切なくなり、膣の深い所を擦らずにはいられなくなってしまう。

「んひぃっ♥ あそこの奥――ひ、しきゅッ……子宮がッ――熱いのぉッ♥ ――はッぁ゙っ❤ ん゙っくぅ……ッ」

 中指と薬指の二指を秘所≪ナカ≫に入れ、鈎状にしたそれで膣内をぐちゅぐちゅと掻き乱す。しとどに溢れる分泌液が床に垂れ、ぱたぱたという雨垂れにも似た不規則なリズムが刻まれていく。き゚ゅるるるぅ、と派手にお腹が鳴った。同事に胃の辺りで鈍い痛みが走ったが、今の早苗にはそれすらも快感と同義だった。

「ゃぁ、…ん……ッ♥ く、ひぃ――ふぁあっ❤」

 艶≪あで≫やかな声の音程が、また1オクターブ上がった。
 呼吸が浅く、そして速くなる。肌の表面をしめらせるような快い汗が総身に浮かび、過剰分泌される脳内麻薬に視界がかすかに明滅している。
 そのどれもが、オルガスムスの前兆だった。

「っ、あッ……あッあァんっ♥ ず太い"モノ"で……っ♥ ぐちゃぐちゃになる――まで突かれたいッ❤ ぉ、犯されたいぃっ❤」

 乳房を揉む手に一際強い力が掛かる。指の跡が残るほどの圧力に乳腺が軋みを挙げ、狂おしいまでの痛みと痺れるような官能が神経を伝って早苗の脳髄を沸騰させる。両の脚は限界までピンと張り詰められ、秘所を弄る指はもはや壊れた機械のように、一切の慈悲も思慮も躊躇いも無く、奥の奥まで突いては戻り、突いては戻りのピストン運動を繰り返すのだった。

「――ひぁっ❤ いく♥ い゙くッ❤ ィ、いく――いくイ゙くい"くイ゙グぅ――ッ❤」

 ――そうして早苗が絶頂を迎えようか、という、まさにその瞬間。



 "ドグォボッ"



 途轍もなく重い箱を落としたような鈍い音が、早苗の腹の中で渦巻き、くぐもって響いた。小銭がギシリと詰まった賽銭箱を数人がかりで思い切り蹴り倒してみたならば、ちょうどこれと同じ程度の衝撃になるかもしれない。そんな凄まじい音と衝撃が、早苗を襲う。

「ぁ"――が、ボォグ、げ、ェ゚ぁ……ッ!?」

 それは腹の中の胃が、否、消化器官全体が、"内側から"、"圧倒的な力を以て"、"下方に叩き落とされた"――としか表現が出来ないような、有り得ない打撃、突発的かつ凄絶な一撃であった。幸か不幸か、早苗は丁度、オルガスムスに達する寸前であった。その快楽の奔流は尚も止まることなく、早苗の脊髄をほとばしって――


 "ドズッ……ゴヂュッ"


 ――そこでさらに二撃。
 遙か下方の子宮すらをも揺さぶる二撃が加えられた。
 その余りの衝撃に早苗は、

「ぉ……オ、おぶぉ、――ぉ、ぁ゚、」

 胃の中の物をすべて逆流させつつも――

「――おグう"ぇろ"ろ"ろ"ロ"ロ"ぉ゚ぁ"……ッ♥ ゲぶ、ごぉげえぇぉア"ぁ、ッ――♥ 、ぉ、ぶふッ、ぁ"、――ぁ――ぉ、ぁ"。あ"ぉ"、ォごォ"――❤」

 絶頂に、達していた。
 ぐちゅぐちゅに、ドロドロになった消化途中の食べ物が腹部に勢いよくぶちまけられていく。
 凄まじいまでの量の吐瀉物が、早苗に呼吸する間もほとんど与えずに、止め処なく、まるで噴水のようにびしゃびちゃと音を立てつつ口から吹き出した。

「ぐッ…ぴ゙ァ゙―ぉ゙ロ゙ロ゙ゥ゙エェ゙ッ――❤ ふ"、む゙っ、ん゙……ブバぁ゙ッっ♥ お゙ォぁ゙――ンぶッ、ごボ、ン"、ア"――」

 それでも無理に息をしようとして吸い込んでしまった嘔吐≪へど≫が、錆びつき濁った水を吐き出す古い蛇口の如く、鼻孔からぼたぼた垂れた。それがなかば形を保っている半液体であるから、鼻の奥につかえて余計に苦しかった。きつい酢の臭いと、鼻の粘膜がぢりぢり焼け付く強烈な痛みに意識が飛びそうになる。

「ぁ"ひ――♥ げ、げごぼッ♥ っぷ、ぐ、ふ、ぁッ――♥ がぶッ、げほっ、ごぼゅっ、……んっ、く、ぁ――ふぁ――♥」

 "――あたたかい。"

 巫女装束の布地を通して伝わるぬくもりに、早苗はぼんやりとそんなことを思った。快楽の赴くまま、びく、びくんと、腹から大腿にかけて身体を大きく震わせると、そのたびに嘔吐が跳ね、辺りに飛び散った。酒と食い物と胃液と唾液とが入り混じった饐えた匂いが部屋の空気を穢していく。

「……か、ひゅ――♥ ひゅぅ――❤」

 早苗はこの時に限って、少し気が狂っていたのかもしれない。
 口の周りは澱んだ吐瀉物にまみれ、鼻と喉が焼けつき、呼吸も絶え絶えで、眼からは止め処なく涙をこぼし――それはどこからどう見ても、苦しみ悶えている様子に違いない。
 しかし、当の本人は、



 "なにこれ――キモチ良い――❤"



 と、かつて味わったことのない多幸感と、絶頂の余韻に身を浸していたのだから。

 "――んふ。少し、漏らしちゃった、かも――♥"

 早苗は力の入らない右腕で、なおも濡れた秘所を弄り続けた。腕も指も股間も、派手に飛び散った嘔吐でずいぶんと穢れていたが、しかし、今の早苗には全く気にならなかった。むしろその嘔吐が垂れて膣内に入り込むと、それが丁度よい"ざらつき"と"粘り"具合であることを悟り、自ら進んで腹の上のそれら吐瀉物をかき集め、花陰になすり付けるように――あるいは秘奧に押し込むようにして、自涜を続ける有様であった。

「――ぁ――……ひぃ――、あひぃ――❤」

 そうしてしばらく早苗は、汗と唾と愛液と吐瀉物とでひどく汚れた窓硝子を、心ここにあらずといった風体で眺めながら、淫猥な声をあげ続けた。自分は窓硝子それ自体を見詰めているのか、それともそこに反射し、映っている己の醜態に興奮しているのか、またはそのどちらでも無く、その向こう側の"誰か"に欲情しているのか――それは当の早苗にすら、分からなかった。

 分からなかったが、そののち九度も至高の絶頂を繰り返し、繰り返し迎え、やがて身体の"うずき"が満たされて、早苗にもようやくその答えの一端が掴みかけて来たころ。
 足下の吐瀉物に混じって、何かが"もぞもぞ"と動いているのに早苗は気が付いた。
 その影……人型は、早苗が先程まで見惚れていた姿――そう、見惚れていたのだ――と、大部分において似通っていた。

 "大部分において"。


 その意味するところは、すなわち、その小さな人型がある程度"消化"され、瀕死の状態にあった――
 つまりは、そういうことなのである。





 ★





 そこは完全な暗闇だった。
 何も見えず、異常なまでに湿度が高い。
 そして"溶けるほど"に暑く、息苦しい。

〔 …?… 〕

 チビ萃香は当惑した。
 たらふく酒を呑み、気分よく般若湯≪さけのゆ≫に浸かり、桜の匂いに誘われるようにして安眠を貪っていた――筈なのに。顔に掛かった粥状の液体……その不快感に眼を覚ましてみれば、そこはあらゆる面に於いて不気味で不安定、――荒≪すさ≫み、爛≪ただ≫れ、ぶよぶよとグロテスクで醜悪、臭くてぬるい"何か"が全身にまとわりつく――そんな、身震いが出るほどおぞましい空間に、そっくりそのまま置き換わっていたのだから。蛞蝓≪ナメクジ≫と蚯蚓≪ミミズ≫、それから蛭≪ヒル≫の群れで出来た"舌"に身体中を舐め回されているような、決して抗え切れぬ生理的嫌悪感。たまらず身じろぎすれば、"プチプチ"と蛆か何かが潰れるような感触がそこかしこでして、血の気が引いた。

 "ぐち゚ゅっる゙る゙るるぅ"

 嫌に水っぽい音がした、とチビ萃香が思うのと同時、その小さな身体を海上に浮かぶ流木のごとくに支えていた、粘度の高い流動体が"うねり"を帯び、周囲の壁に波となって打ち寄せはじめた。ドロドロした流動体の底から大小の気泡が止め処なくせり上がっては、萃香の股間や脇の間をこそばゆく掠めていく。それらは萃香の眼前で"こぽ、ごぽぉッ"という重い音を立てて破裂し、その中身のガスを、周りの液体ともども周囲にぶちまけた。豚汁、煮干し、つくね、ごぼう巻き、枝豆、さきいか、苺、焼酎、日本酒、ウインナー、温泉卵、椎茸とにんにく炒め物、若鶏唐揚げ、あさりの佃煮、鰆の西京焼き……それらをまとめて酢で煮込み、さらに小樽何杯分もの唾液をじっとりと垂らしながら、陽の当たるところで数日間発酵させた――そんな饐えたにおいが、否、"におい"どころではない、濃密な臭気を放つ"汁"が、霧のように確かな実体を持って辺りに満ちていくようだった。もとより異臭の立ち込める空間ではあったが、そのガスの濃厚さは、それまでとは比較にならない。

 "ぎゅぅるに゙ゅポ――こぽっぽッぽッぽッ――グゴぎゅゥァ゚っ――"

 耳を劈≪つんざく≫くような轟音だった。そして訪れる、再度の波浪。萃香は慌てながらも沈んでしまわないよう慎重に流動体を掻き分け、暗くてどこにあるのかも分からない壁面まで懸命ににじり寄っていった。髪も顔も汚濁にまみれ、やたらと全身の皮膚が"ぴりぴり"痺れるのを感じていたが、今の萃香は"うねり"に飲み込まれないように、また、本当に存在しているのかどうかも怪しいほどに濃度の薄い酸素を肺に取り入れようと――されど流動体を飲み込まぬよう気を付けながら――喘ぐように呼吸するのに必死で、それどころではなかった。そうして壁面に辿り着き、粘膜に覆われたそれにひしとしがみついて初めて、ウネウネと気味悪く蠕動しているのはこの壁面自体であることを、萃香は知った。

〔 …↺… 〕

 萃香は焦りを感じながらも、そのまま壁沿いに進み出した。壁面から沁み出したらしい漿液に触れると手がじくじく痛んだが、だからと言って壁面から離れる訳にはいかなかった。その行為は、萃香がいま唯一知り得ている情報の、"自分の位置"――あくまで相対的な位置ではあるが――を見失うに等しく、また、うねりの影響を最も受けづらいのが壁際であるということを萃香は体で理解していたからである。もしも萃香が寄る辺すらなく流動体の中心に居たならば、四方から襲い来る波に飲まれ、数分と保たずにこの小さき鬼もまた汚濁の一員となってしまうに違いなかった。

 "ちゅキュちゅクちゅリ"ぅぅう……ぐゅ、ぐゴぎゅぅ――チ"ュ、ニ"ュォォ゙ッ――"

 ぐるぐると生々しい唸りをあげる汚濁の流動は、まるで連鎖反応を起こすかのようにまた別の轟きを呼び寄せ、振動で肌が叩かれるのが分かるほどの凄まじい音を絶え間なく奏でている。萃香にはその音が自身の命を脅かす類のものに思えてならず、『一刻も早くここから出なければ』という半ば本能的な意思に突き動かされるように、壁面に沿って暗闇の中を泳ぎ進むのであった。が、しかし、やはりそこは頭の小さなチビ萃香である。終始蠕動し、収縮し、うねり、形を変え続けるその空間に果てはなく、延々と同じ場所を回り続けていることに気付いたのは、たまたまそこが太い動脈のそばであったのか、規則的に脈動する、同じ壁面に幾度も幾度も辿り着いてのようやく、であった。

 "――トクッ ドクッ トクッ ト"クッ トクッ トクッ――"

 嘔吐≪へど≫の群れが腐敗した息を荒げ、飽くなき嘲笑を続けるその腐って臭くて暗く澱んだ絶望の世界において、生命の象徴とも言えるその鼓動の音と感触は萃香にとって唯一縋るべき一縷の希望、深い闇を照らす小さな明星の輝きのようにさえ感じられた。

〔 …↯… 〕

 その希望にいくらかの落ち着きを取り戻した萃香は、いま一度、下半身を包み、気味悪く流動を続ける嘔吐の動きを観察する余裕を得ていた。ぴりぴりとした"痺れ"程度だった肌の痛みは、この頃にはもはや確かな激痛と化していたが、それでも、先のようにただ当惑しているだけよりは数段マシだ――という建設的な思考を持つことさえ、出来るようになっている。

 どうやら、一定の間隔でこの水位――と呼んでいいものかどうかは微妙だが、ともかくその絶対量は下降、減少していっているようだった。萃香はそれを確信すると、次に、この空間がどれほど深いのかを確認しようと試みた。壁面に沿って、鼻先が嘔吐に浸かるか、否か、という寸前の所まで身体を沈めていく。が、その成果はといえば、壁面は緩やかな弧を描いて下方に向かっているらしいとと分かった程度で、肝心のその深さを推し測ることなどとても出来なかった。
 いよいよとなればこの汚濁へ飛び込み、その奥の奥、行く末へと向かう――
 かすかな期待を寄せていたその案は、深さ未知数、かつ、流動する汚濁を相手に実行するには、あまりにも分が悪すぎることを萃香は悟った。

 その時、壁面の震えが一際派手で複雑なものになり、またそれに影響されて、嘔吐の波もさざ波の如く萃香の全身を叩き始めた。遠く響いて聞こえる心臓の音も、先程までよりずっと速度を増し、早鐘を打っているようだった。



 ――ああっ、痺れて、気持ち良いっ♥

  凄くぅ、すごくっ良いのぉッ――❤



 くぐもった声が響き、辺り一帯を震わせた。
 萃香には聞き覚えのある声だった。東風谷早苗。それは自分の手助けするべき――あるいは、"自分という個性の存在意義"、と称してもまったく差し支えのない、少女の名前。
 そこまで考えを巡らせた所でようやく、"自分は彼女に喰われたのだ"ということを明確に理解した。

〔 …☠… 〕

 しかしその事実は満身創痍の萃香にとって、また別種の絶望と相違なかった。
 この壁面をブチ破る――
 身体の小さな自分には難しいだろうが、やってみるだけの価値はある、と、そう踏み切りを付けようとしていた矢先なのだ。何となく予感めいたものがあって、その実行を先延ばししていて正解だった、と言えば、実際そうなのかも知れない。けれどそれで、萃香はいよいよどうするべきなのか分からなくなってしまった。
 自分は東風谷早苗を傷つけてまで、ここから脱出すべき存在なのだろうか? 下手をすると殺してしまうかも知れないのに? いや、そもそもこの仕打ちは一体何なのだろう? 居眠りをしていた自分への罰ということなのだろうか?

 "――ぁひッ、き、――きもちっ♥ ふ、ぁあぁぁ、ん――っふぁあッ♥"

 再び訪れた萃香の焦燥をよそに、早苗の嬌声がこだました。



 ――明らかに、愉しんでいる。



 脳髄に直接、大量の氷水を浴びせかけられたようだった。萃香の思考が急速に冷却されていく。それはあるいは沸騰しつつあったのかも知れない。
 どちらでも良かった。
 今、萃香にとって最も大事な事は、胃酸――強塩酸の海に身体を焼かれ、悶え、苦しみ、必死に喘ぎ、懸命に生き延びようとしている自分を差し置いて、ひとり悦に浸っている東風谷早苗の評価だった。評価。価値――存在価値! 現在、現時点、いまこの瞬間、わらわらとウジの沸いたブタの下痢糞溜めよりもなお臭い、この腐ったゲロ袋を腹にでっぷり抱えて発情した雌犬、もとい、脳味噌ド腐れゲロ豚ビアッチ早苗という人物は、果たして自分を殺すに値する人間――雌豚?雌犬?――なのか、否か?

 答えはすぐに出た。

〔 ✄ 〕

 萃香は"極めて"冷静な思考のまま、胃壁沿いに先程の動脈付近、心臓の鼓動が伝わってくる部分へと、半ば泳ぐようにして移動した。波に揉まれるうち、いつの間にかそこから離れてしまっていたらしかった。

 実のところ、身体は、もう、思うようには動かせなかった。全身の皮膚という皮膚が爛れ、剥がれかけているのも分かっていた。それに右の眼球がひどく痛んだ。少し前、ここの深さを推し測ろうとして身体を嘔吐の海にうずめた時に、あたりで跳ねた消化液の飛沫を顔でまともに受けてしまったのがいけなかったのだろう。どうせ暗闇なのだから、瞼は常に下ろしておくべきだったのだ。この様子ではもう失明してしまってるのかも知れない。だが、萃香はそれでも構わなかった。いま、この状況で視力は必要ないのだから。そうして全身の状態を確認しながら、萃香は進んだ。極めて冷静な思考のままに。

 "んひぃっ♥ あそこの奥――ひ、しきゅッ……子宮がッ――熱いのぉッ♥ ――はッぁ゙っ❤ ん゙っくぅ……ッ❤"

〔 …… 〕

 危惧していたほど遠く離れてはいなかったようで、間もなく萃香はそこへ辿り着くことが出来た。
 トクトクと、ドクドクと激しく脈打っている壁面。血管。動脈。すなわちそこは、身体の内側に最も近い部分である筈だった。萃香は再び酸の荒波にどぷりと身体を沈め、最後の力を振り絞り、壁面を蹴ってそこから真っ直ぐ、"反対側"まで泳ごうとして――止めた。確かに、腹を突き破って外へ出ようというのならば、きっと向かい側まで泳いでいって、そして、この感情を爆発させるべきなのだろう。しかし萃香は、手段と目的を履き違えてはいけないことを知っていた。


 まず目指すべきは、生還すること。


 本当に、心の底から非常に残念で、遺憾の意に堪えないのではあるが、しかし、この売女エロ豚糞ビッチ早苗をブチ殺すことが自分の目的ではないのだ。ならば、その行為を実行に移すのは、身体の内側……内臓に近い部分の方が効果的なのは間違いない。それに、対岸まで泳ぐというのはきっと結構な体力を消耗するだろう。ただでさえ自分の身体は憔悴し切っているのだ。だったらその分まで、全力を注いでその行為を執行すべきではないのか?
 冷えた頭を酷使し、寸毫の間でそれだけの事を考えた末に、しかし潔く萃香は決意を固めた。

 "ゃぁ、…ん……ッ♥ く、ひぃ――ふぁあっ❤"

 ――内臓を揺さぶる。
『揺さぶってやる。中身だけじゃない、踏み潰されたカエルよろしくこの薄汚ない胃を丸ごと――いや、内臓という内臓を全部吐き出さなきゃ済まないくらいに揺さぶってやるッ。豚がッ。糞がっ。畜生がッ!』
 萃香は、そう言葉に出して毒突きたかった。


 "グゥォルルォォ――プ、ジュッロロ゚ロ゚ォ…き゚ュぅっ、ゴニ゚ゥオ゙ァ――ッ"


 ありったけの酒と食い物、胃液や唾液、そして萃香自身の重みで、限界近く――1升瓶程の大きさと容量にまで――引き延ばされている早苗の胃袋が、まるで萃香の憤りと呼応するように、大きく震え、嘶き、そして吼えた。それがさらに萃香の神経を逆撫でするとも知らずに。だが、当然、早苗の挑発は決してそれだけでは済まない。びちゃびちゃと、おそらく腹筋や横隔膜の痙攣によって辺り構わず跳ね返った嘔吐が、幾度も幾度も萃香の顔面を叩き、濡らし、穢していく。

 "ひぁっ❤ いく♥ い゙くッ❤ ィ、いく――いくイ゙くい"くイ゙グぅ――ッ❤"

 そこへさらに駄目押しとばかりに、脳がすっかり蕩けてしまっているのではないか、と疑わずにはいられないほどに甘ったるく、理性の欠片も見当たらない、いまどき色情狂いや"きちがい"ですら顔を真っ青にして恥ずかしがってしまうような酷く醜いわめき声を上げて、四方八方から萃香を嘲り、愚弄するのだった。

 そして、ついに。



〔 ――――――――ッッッ!! 〕



 どす黒い暴力が、憤怒と共に炸裂した。
 "――うるさい!"
 萃香が口を利けたならば、間違いなくそう言っていただろう。

 "鉄槌打ち"だった。
 硬く握った右の拳を左肩で担ぎ上げるように振り上げ、撥条≪ばね≫仕掛けの機械の如くミシミシと音を立てて腰を捻り、そうして生じた恐るべき反動力を、僅かにも減衰させることなく上腕に伝え――そう、一切、余すところ無く、その全てを萃香自身の鬼神の膂力≪りょりょく≫とまったく完全に合算し、それを以て全身全霊で下方へ打ちのめす、まさしく、破壊の鉄槌。

 そうして地響きにも似た、重い打撃の音が、辺りを満たした。

 "ぁ゙――が、ボォグ、げ、ェぁ……ッッ"

 やや遅れて、早苗の呻きが聞こえて来る。随分、苦しんでいるようだった。
 それもそのはず、申し分の無い、渾身の一撃だったのだから――と、出来る事なら萃香もそう思いたかった。が、実際の手応えは最悪も最悪、それは言うなれば、早苗のビチ糞をありったけ集めた肥溜めの中に飛び降りて、ケツから糞のジュースをたっぷり飲むことの方がまだいくらかマシなくらいの、そんな最低な気分なのだった。

 "――これじゃまだ、足りない"

 何しろ足場が悪かった。『場所が場所なら、なんとか、この忌々しいゲロ袋をブチ破れたかも知れないのに』
 萃香はそんなことを思ったが、されど決意をしっかりと固めていただけはあって、ほぞを噛んで浪費していた時間は極々僅かなものであり、次の瞬間には、その先の行動に移っていた。

 いまも胃全体は激しく蠕動し、流動体をぐちゅぐちゅと攪拌≪かくはん≫しつつある。
 嘔吐の海が手も付けられないほど荒れ狂ってしまうその前に、萃香は先の一撃で生じた胃壁の"たわみ"の部分に飛び掛かり、その皺を掴んで身体を固定しようとした。ところが、萃香の五指はもはや酸に爛れ、指紋はおろか皮膚自体がびろびろに破れかけていた。摩擦を用いて物を掴むという、自らの役目を完全に放棄していたのだ。このため一度は壁面から滑り落ちてしまったが、萃香は躊躇無くその役立たずの皮膚を諸手から剥ぎ取ると、再び壁面に、しかし今度は頭から突っ込んだ。角≪つの≫である。頭の角で胃壁を擦り上げ、邪魔な粘液層を周辺細胞ごとごっそり削ぎ落とし――そうして今度こそ、萃香は皺にしがみつくことが出来た。また、そうして縦長に彫り込むように生じた窪みは、萃香の確かな足場にもなった。

 刺激を受けた胃底腺からは消化液が吹き出し、萃香の全身を焼いた。
 萃香の、神経が剥き出しになった手のひらに強塩酸が染み込んでいく。激痛だった。気がおかしくなってしまわないのが不思議なくらいなまでの激痛だった。息を吸い込む鼻孔にも胃酸が入り込んだ。またそれは唇の隙間を伝って口内に進入し舌を焼いた。その苦しみは地獄の倒懸≪とうけん≫と同等だった。
 しかし決して、萃香は手を離さなかった。



 それどころか。
 悪鬼の笑みを、浮かべてさえいた。



 それはどこまでも邪≪よこしま≫で、どこまでも悪意に満ちた、満面の笑みだった。
 まさしく悪鬼にふさわしい、"人を傷付けるのがいかにも愉しくて愉しくて堪らない"という本性が透けて見えるような――魔性の、笑みだったのだ。

〔 ―――――― 〕

 ギリ、と。
 萃香は脚を大きく、大きく背後に振り上げた。

 ギリギリ、と。
 大きく、大きく、大きく、大きく、限界まで、限界を超えて、脚を振り上げていく。
『――この脚は、かろうじて、嘔吐には浸かっていない。これなら、全力で"蹴る"ことが出来る』

 ギリギリギリギリ、と。
 身体が軋んだ。萃香は構わず脚を振り上げ続ける。
『――一発程度で済ませるものか。わたしを吐き出すまで、幾らでも、何時まででも蹴り続けてやる』

 ピタリ、と。
 そこでようやく、萃香は動きを止めた。
 瞑っていた目を勢い良く見開き、そして、すうっと細めた。
 それはまるで、獲物に狙いを定める猛禽類のように。人を喰い殺すの悪鬼のように。



 "――ドクッドクッ トク…トクト"クト"クッ ドクットクッ ト..トトクットクッ――"



 その一瞬、時間が止まったようだった。
 腐敗したガスの割れる音、腹の虫が唸るように喚く音、嘔吐の波同士がぶつかり合う水気の多い音、そして、つらそうな、しかしそれでもいまだ快楽に喘ぐような早苗のうめき――それら全ての不快極まりない雑音が、その一瞬においてのみ、跡形もなく完全に萃香の意識の中から消え去っていた。

 "――トクンッ  トク…ト"クッ トクンッ トトクンットクンッ――"

 ただひとつ、苦しみに揺れ、それでもなお美しい旋律を奏で続ける心臓の鼓動だけが、厳かに、躍動的に、生命の賛歌をたたえていた。



 "――……トッ……――"



 心臓が収縮する。
 その他すべての止まっていた時間が――動き出す。
 萃香は脚を振り下ろした。
 音が、生まれる。

 そして、














 ★














「あは……❤」

 早苗は、死の淵に臨み、虫の息のチビ萃香を自らの嘔吐の中から掘り出すと、彼女の爛れた小さな額に熱い口付けをした。
 萃香は抗った。最後の最後、胃から吐き出される際の強烈な濁流で両眼ともに潰れてしまっていたが、それでもがむしゃらに抗った。
 彼女には早苗が、もはや完全に憎むべき対象となっていたのだから。

 しかし、すべての力を使い果たした後では、その抵抗も虚しく空を切るばかりである。
 全身を包み込む早苗の両手を払いのけるどころか、その指を僅かばかり押し返すことすら、出来なかった。

「ちょうど良いの、見つけちゃった……❤」

 萃香は聴覚も、すっかり失ってしまっていた。
 だからその、早苗のやけに"嬉しそう"な呟きも、聞き取ることが出来なかった。

「ちいさなちいさな萃香さん……かわいい……♥ せっかくだし――これで、しちゃお❤」

 だから、"もしかしたら、手当を受けさせてもらえるのではないか"と、萃香が抱いていた淡い希望がそこで跡形もなく砕け散ったのもまた、知ることが出来なかった。



 ――その後、萃香は、早苗の膣の中に無理矢理押し込まれ。
 角が折れ、全身の骨が粉々になるまで、その身体を自涜の道具として"使用"されることになる。
 萃香が少しでも身悶えすれば、早苗はそれを敏感に感じ取って、何度も何度も際限なく、絶頂を迎えた。

 多量に飲み込んでしまった酸に内臓を侵されてしまったのか。止め処なく溢れ出る早苗の愛液に溺れ死んだのか。それとも首の骨がポキリといかれてしまったのか。
 哀れな小鬼――チビ萃香の最終的な死因が何だったのかは、誰にも分からない。きっと本人でさえ、分かってはいないだろう。
 ただ、鬼を殺すに到ったその一連の責め苦が、地獄の拷問を遙かに上回っていたことだけは――確かである。







(後編:『あなたを味見したいの。』へ続く……?)
皆様、お久しぶりです。あまぎです。

突然ですが、皆様、女の子のお腹の音って好きでしょうか?
僕は好きです。大好きです。消化の音とか、あと、飲食物を嚥下する時の音とか、マジッサイコーッ! なのです!
えろい。えろいよね。お腹の音ってすげーえろい。
……が、しかし。僕の周りの人は、みんなそれを否定するのです……畜生、なんてこった!

以下、その一例です。
(身内ネタですみません。あと掲載の許可はもらってます。)

------------
[16:40:39] あまぎ: あ、おざきやさん 女の子のお腹の音って好きですか
[16:40:55] o崎屋平蔵: すいません意味わかりませんn
[16:40:59] あまぎ: ええー!
[16:41:17] あまぎ: 萌えるじゃないですか、ぐるるるるぅ、とかなってるぷにぷにお腹
[16:41:51] あまぎ: 萌え萌えですよ
[16:41:55] o崎屋平蔵: イケメンでクール系のリーマンのお腹の音がして君は萌えるかね
[16:42:01] あまぎ: 萌えません
[16:42:16] o崎屋平蔵: なん、だと
[16:42:29] あまぎ: それじゃただの変態じゃないっすか……なに言ってるんですか、おざきやさん……
[16:42:52] o崎屋平蔵: というわけだよ
[16:42:57] あまぎ: なんだとーーーーーーーー
[16:43:17] あまぎ: まじですか、そんな、しょっくですよ、僕は、うぐぐ
------------

ということで、ついカっとなって今回みたいなニッチ路線SSを書いてしまいました。
「え? 今回ぜんぜん物足りなかったんだけど? お腹の音フェチなめてんの?」
……ってな本職の方、ご安心ください! 早苗ビッチまだ生きてるし、これからが本番……の……はず……?

と、まあ、いつもの通り、なんの保証もない口約束ばかりちゃって申し訳ないです。
まず [*** どうぞこちらへ] シリーズを書き上げろ、って話ですよね。はい、なんとか時間に折り合いをつけつつ、シコシコ頑張ろうと思います。


それでは最後に、恒例になりつつある、どうでもいい補足コーナー!

Q1. サナビッチの胃袋≪アソコ≫って実際、どうなってんの?
A1. やったね! みんなのために、サナビッチがとってもとっても大事で恥ずかしいところ、見せてくれたよ! さすがサナビッチだ!
ttp://www.youtube.com/watch?v=o18UycWRsaA&feature=channel

Q2. サナビッチの胃袋≪アソコ≫って、どのくらいでっけぇの?
A2. 本文中でも少し触れていますが、女性でもお腹一杯になるまで飲食すると、胃は1升瓶相当の大きさと容量、すなわち1.8リットル程まで膨らむことが出来ます(フードファイターなら、そのさらに倍まで詰め込めるらしいですが)。
ここでは分かりやすさを重視して、チビ萃香の体験していた早苗の胃袋の広さを、私たち人間に置き換えて考えてみることにしましょう。
まず最初に本文中のチビ萃香の体積を計算します。その体躯をやや大きめに見積もって、身長5[cm]*幅1[cm]*奥行き1[cm] = 体積5[cm^3] と仮定します。この体積でもって、1.8リットルの容量、すなわち1800mlを満たそうと考えると、サナビッチの胃には少なくとも360体のチビ萃香が入るスペースがある、ということになります。
ここでようやく私たち人間の出番です。多少の余裕をもって、あなたが360人分は入ることが出来る空間を想像してみて下さい……そんな巨大空間が、サナビッチのお腹の中に広がっているのです! 東京ドームに換算するとなんと約0.0000000014516129杯分だ! この糞ビッチが!


……以上です。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
感謝の念に堪えません。

それでは皆様、また次の作品でお会いしましょう。



(P.S 久しぶりに諏訪子ちゃんを書けてものすごく楽しかったものですから、いい機会だと思って、昔書いた守矢組SS(諏訪子一人称)をピクシブに上げておきました。次の作品の投稿までまた間が空いちゃうかも知れませんので、もし興味がある方がいらっしゃいましたら、そちらもどうぞ宜しくお願い致します。本当に本当に、ありがとうございました。)
あまぎ
http://www.pixiv.net/member.php?id=115523
作品情報
作品集:
3
投稿日時:
2012/03/12 19:56:53
更新日時:
2012/06/23 15:23:01
評価:
5/8
POINT:
590
Rate:
13.67
分類
東風谷早苗
洩矢諏訪子
八坂神奈子
伊吹萃香
&#9829;(特殊記号)
捕食or丸飲みフェチ、体内侵入嗜好持ち、かわいい女の子のお腹の音(あるいは消化)が好きな人向け!
エクストリーム・オナニー
嘔吐性愛
『あなたを味見したいの。』
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
0. 90点 匿名評価 投稿数: 3
1. 100 名無し ■2012/03/13 14:34:11
早苗さんが内臓をぶちまけることになるかと思ったけどそうでもなかった!
3. 100 NutsIn先任曹長 ■2012/03/13 22:09:06
萃香ニー!?
女体の神秘を垣間見ました。

報復として、早苗が巨大化した萃香に、チビがされたように、食われ犯される話を希望します。
5. 100 名無し ■2012/03/15 19:20:58
お腹の音といい、丸呑み、嘔吐…続編にも期待が高まる…!素晴らしい!!
巨大萃香の胃や直腸の検査したいね!
7. 100 名無し ■2012/03/24 11:40:46
なんつーか……スゲエ……本当に……
あまぎさんの作品はいつも秘境の扉の先を見せてくれる
100点ではとてもとても足りないくらいです
8. 100 ギョウヘルインニ ■2012/06/23 04:01:42
なんと! 良作!
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