『愛をささやくもの』
私は魂魄妖夢を愛している。私は彼女が大好きだ。彼女のことを想うと股間が濡れてしまう。古の芸術家達が彼女の姿を見ればたちまちその美しさに見惚れ、彼女以外の人類はこの世には必要ないと考える者も出てくるだろう。ともなれば私すら必要なくなるかもしれないが、それは違う。私こそ彼女の伴侶に相応しいと確信している。
何せ私は瀟洒な従者、十六夜咲夜だからだ。そもそも私は彼女の全てを見、全てを受け入れる覚悟がある。私以外の者が妖夢ちゃんの素晴らしさを理解しきれるはずがない。彼女こそ唯一無二の存在。全にして一、一にして全なる者。彼女を信仰していると言い換えても良い。ミョニズム。
だが不幸にも彼女は私の愛に気付いてくれないのである。一度弾幕ごっこに勝ったとき私はすかさず「処女をください」と言ったことがある。そのときの彼女の嫌がりようときたらすさまじかった。「死んだほうがマシ」とまで言い出すもので、結局私は彼女の処女を奪えずにいる。
ご存知の通り私は時間を止められる。自分だけが動ける世界に入ることが出来る。つまり私はその気になれば彼女の処女を散らすぐらい朝飯前なのだ。だが彼女に認知されない方法で彼女の処女を奪うことに意味はあるのか? ない。同意の上で既成事実を作ることが最も望ましい。
そうして自分の夢が叶えられないまま日々が過ぎていったのだが、そんなときある物の存在を知る。どうやらそれは「少女草」というものらしい。少女の生首みたいなものが植えられているような物だという。私はその少女草を取り扱っているという、怪しげな店に足を運んだ。
※ ※ ※
里の路地裏を行ったところで、何個目かの角を曲がったところにある。そこの店主は無精髭のある、年を食った男だった。店内には驚いたことに、幻想郷に住む少女達の生首が植木鉢に乗っかった物がたくさん陳列されていた。紅魔館の住民から、最近発見されたという神霊廟の連中まで居る。とはいえ私がお迎えするものは決まっていた。早速店主に「妖夢ちゃんはありますか?」と訊くと高額なお金を要求された。
「妖夢草は丈夫だし、飼い主に尽くそうとするタイプだからな。人気があって、けっこう売れるんだ」
「代金を払えば本当に手に入るんですね?」
「ああ。でも曲がったことが嫌いだから、もしお客さんが悪い人だったらこの妖夢草は自殺したりするかもしれないよ」
「飼育方法は問題ありませんわ」
「……普通の植物と同様、適度な水分と日光に当てておけばいい。念のために言っておくが、少女草の飼育は意思の疎通ができる分、少女草の精神に悪影響が出ると簡単に死んでしまうからな」
「売ってくれるの? 売ってくれないの?」
「いやいや、お金さえあるのなら俺は売るさ」
私は紅魔館の金庫からくすねてきたお金で妖夢草を購入した。ある程度成長してるものは売り切れているからと、種から育てることにした。これで少しは寂しさを紛らわせることが出来るだろうか。
一日目。まだ何の変化もない。日光の当たる自室の窓際に置き、朝夕の水やりをして待つ。
三日目。芽が出てきた。まだ妖夢ちゃんらしさは感じない。小さな葉があるだけ。
五日目。まだ変化はない。あの店主、まがい物を掴ませたわけではないだろうな。
七日目。イライラしてきた。これで幽々子草だったりしたら、生えてきた奴を犯してやる。
八日目。素晴らしい。私はあの店主に感謝したい。目の前に妖夢ちゃんが居るのだ。
朝目が覚めると彼女の首が鉢に乗っかっているようになっていた。しばらく声を失っていると、首がこちらを向いて会釈をした。返してやると自己紹介し、確かに「ヨウム」と名乗った。声もそっくりである。
「あなたが私の飼い主ね。よろしく」
「本当に……妖夢ちゃんなの?」
「ええ。私はコンパクヨウムよ」
「嬉しい! まるで夢のようですわ!」
輪郭、目の形、前歯の造形、耳や鼻の形から声まで妖夢ちゃんそっくり。彼女の半霊は見当たらない。植物だからか。残念である。カチューシャも被っているが、舐めてみると「やめて」と言われた。カチューシャの様に見えるが、植物故髪の毛の一部なのかもしれない。
「私の名前は十六夜咲夜よ。私のことは呼び捨てで構わないから」
「そう。じゃあよろしくね、咲夜」
「きゃー! 妖夢ちゃん可愛い〜!」
「か、可愛いとかそんな……」
褒められると恐縮する感じに照れるヨウムちゃんが可愛すぎて生きるのが辛い。直後、館内に怒号が響いた。お嬢様が何か叫んでおられる。私をお呼びの様子。窓の外を見れば今は夕方であることがわかった。ヨウムちゃんと一緒にすごしていて、もうこんなに時間が経ったのか? お嬢様は夜行性で夕方にお目覚めなのだが、そのことが今呼び出されていることと関係があるのだろうか。私はお嬢様を放ったらかしてヨウムちゃんとのコミュニケーションを堪能することにした。夜になるとヨウムちゃんが眠ってしまったので、私はそろそろメイドの仕事に取り掛かろうと思った。時間を止めて掃除や洗濯もの、家事全般を片付ける。時間を動かしてお嬢様のところに行くとお嬢様が大層不機嫌そうであった。
「どこに行っていたのよ! いつも私が起きる時間には、呼ばなくても部屋に来るというのに!」
「忙しくて」
「忙しい!? 時間はいくらでも作れるでしょうに!」
「急ぎの用事があるのなら美鈴にでも頼めば良いじゃないですか」
「なっ! メイドの分際で!」
「そろそろ失礼してもよろしいでしょうか?」
「待ちなさい! 咲夜、一週間ほど前金庫に行ったわよね?」
「それが何か?」
「一体何の用で行ったのよ。主人の許可も得ず金を持ち出したの?」
「必要経費ですわ」
「は?」
「人生を豊かにするための必要経費です。領収証が必要ですか?」
「……」
「では失礼します」
「なっ! 話はまだ終わっていないわ! ちょっと咲夜!」
お嬢様がまだ何か叫んでおられるが、なんだろうと構わない。私はヨウムちゃんとのコミュニケーションを大事にしたいだけだというのに。私の部屋ですやすやと眠っているヨウムちゃんのところへ。いつ見ても本当に可愛らしいですわ。今すぐ押し倒したいぐらい。私は手始めにヨウムちゃんのカチューシャに舌を這わせた。眠っていたヨウムちゃんが目を覚ませたみたいである。
「な、何してるのよ!?」
「ヨウムちゃんのカチューシャしゃぶしゃぶ」
「気持ち悪いからやめてよ!」
「もっと言って!」
カチューシャの次は髪の毛。一本一本丁寧に可愛がって差し上げますわ。そのうちヨウムちゃんはグスグス泣き始めた。私と一つになれると思って感動してくれているのだろう。今夜は徹底的にヨウムちゃんぺろぺろすることにしよう。自分の運命に感謝だ。そして私は一晩中ヨウムちゃんぺろぺろした。顔しか舐められないのが少々残念である。
「ヨウムちゃん良い? 舌挿れていい? 挿れても良いわよね? 挿れますわよ?」
ヨウムちゃんの小さくて可愛らしいお口の中に、私の唾液を染み渡らせていると思うだけで絶頂しそうになった。
今夜はここまでにしておきましたわ。夫婦の営みを焦る必要はない。明日また続きをしよう。これからヨウムちゃんとの素晴らしい日々が始まるのだ。
次の日、ヨウムちゃんは枯れていた。あの愛らしげのある顔がなく、鉢の上にはしなびた何かがあるだけ。いくら声をかけても反応がない。水をやっても変化がない。ただ土がふやけるだけ。私は泣いた。深い悲しみに襲われた。私の部屋に満ちる慟哭。ベッドの上で暴れてみてもヨウムちゃんが元に戻ったりはしなかった。何度もヨウムちゃんの方を振り向いた。五秒後に見れば蘇ったりしないのか。五分後に見ればどうか。五十分後はどうか。五時間後、五十時間後は。どれだけ待ってもヨウムちゃんは帰ってこなかった。円環の理に導かれてしまった、とでも言うのだろうか。納得出来ない。私はあの店にクレームを入れることにした。
「店主」
「ああ、この前の」
「せっかく生えてきたというのに、一晩で私のヨウムちゃんが枯れてしまったじゃない」
「えっ」
「何が丈夫よ。柔じゃないの?」
「いや、待ってくれ。一体どんな育て方をした?」
「私の愛情を注いだだけですわ」
「……」
「不良品を渡したんじゃないでしょうね?」
「いや、そんなことはないが……お客さんは始めて飼うだろうし、今回だけ特別に初期不良という扱いで新しいのを渡そう。ちょうど苗が入荷したから、そっちをやろう」
「あら、それはどうも」
「ああ、それと」
「何か?」
「過剰な接触は少女草にストレスを与えるからな。ペロペロは禁止だ」
店主の計らいで新しいヨウムちゃんをお迎えすることが出来た。しかしペロペロは禁止されてしまった。紅魔館に帰り、自室に入って開封。ヨウムちゃんが私を見て、前みたいに挨拶しだした。
「あなたが私の飼い主ね。よろしく」
「ヨウムちゃん! 私のことはサクヤって呼んでね!」
「私はコンパクヨウムよ」
「ヨウムちゃんかわいいかわいい」
私はヨウムちゃんの匂いを堪能することにした。くんかくんか。限りなく本物の髪の匂いに近いですわ。肌の匂いもどこか汗臭さが混じっていて、庭仕事や剣の修行をしている彼女らしい感じ。またお嬢様が何か叫んでおられる。私をお呼びだ。いい加減にして欲しい。私にもプライベートというものがあるというのに。
「ねぇ」
「うん?」
「何でそんなに匂い嗅ぐの? ちょっとやめて欲しいんだけど……」
「ヨウムちゃんくんかくんか」
「やめてってば」
「くんかくんか」
「やめて!」
「もう一回!」
「いい加減にしてよ!」
「はい、ヨウムちゃんアウトー」
「気持ち悪いからやめてってば……」
「フンスコフンスコ」
「なんなのよこの飼い主……」
私は夜になり、朝がくるまでヨウムちゃんくんかくんかを止めなかった。朝日が出てきたところで布団に入り、お昼まで眠ることにした。家事は起きてから片付ければ良い。
次の日、ヨウムちゃんは枯れていた。あの愛らしげのある顔がなく、鉢の上にはしなびた何かがあるだけ。いくら声をかけても反応がない。水をやっても変化がない。ただ土がふやけるだけ。私は怒った。ストレスで寿命がマッハ。私の部屋に満ちる憎悪。額縁に飾ってあったお嬢様の肖像画にナイフを投げてもヨウムちゃんが元に戻ったりはしなかった。私は早速あの店主に文句を言うことにした。
「ちょっと」
「……また?」
「いい加減にしてよ。私はヨウムちゃんと甘い一時を過ごしたいだけだというのに、これでは逆に悲しいだけよ」
「……」
「何か?」
「本当に何も悪いことはしていないんだよな? まさか、クンカクンカもしたりしていないだろうな?」
「していませんわ」
「……」
「何か?」
「わかったよ、これが最後だぞ? もうこれ以上は交換できないからな」
「話のわかる人で助かるわね」
「言っておくが、ペロペロもクンカクンカもなしだ」
「わかっていますわ」
店主の計らいでまたしても新品のヨウムちゃんが返ってきた。紅魔館に帰り、自室に入って開封。ヨウムちゃんが私を見て、前みたいに挨拶しだした。儀式みたいなものである。
「あなたが私の飼い主ね。よろしく」
「私のことはサクヤって呼んでね」
「私はコンパクヨウムよ」
すでに我慢の限界だった。ぺろぺろしたい。くんかくんかしたい。舌を這わせたい。カチューシャしゃぶりたい。私は何か出来ないかと思い、徐にスカートを捲り上げた。
「ど、どうしたのよ」
「ヨウムちゃんにお水をあげようと思って」
私は徐々に集まりつつある尿意をヨウムちゃんに向けた。
「ひぃっ!」
「味わって、私のホーリーウォーター……」
「や、やめてよ」
「もう出る! 出ますわ! ヨウムちゃんにかけちゃう!」
「う、嘘っ! 本当にやめてってば!」
とうとう放尿。ヨウムちゃんに私の愛情を降りかけている最中ですわ。私の体から出た液体がヨウムちゃんの養分となり、彼女の体を成す細胞を生かす糧になると思うと胸が熱くなった。
うん? ヨウムちゃんが動いていない。話しかけても返事をしてくれない。
「ヨウムちゃん!」
「……」
「ヨウムちゃん! ヨウムちゃん!」
「……」
「そんな……」
私は荒れた。部屋の窓を割り、箪笥を倒し、椅子を窓から放り投げた。またしてもヨウムちゃんが私の前から居なくなってしまった。もうあの店主の都合なんてどうでもいい。今からあの店に文句を言いに行ってやる。私を受け入れてくれないヨウムちゃんは妖夢ちゃんにあらず。これは粗悪なコピー商品なのだろう。だから私を拒絶しているのだ。本当の妖夢ちゃんは私を嫌ったりしないのだから。今の時間は夕方。まだ店は開いているだろう。すぐさまあの店へ行った。
「ちょっと!」
「……またか。もう次はないって言ったよな?」
「初期不良として交換してしなさい」
「なんだこの匂いは。まさか尿をかけたのか?」
「交換しないというのなら、あなたの首を鉢植えに乗せてあげるわよ」
「わ、わかった! わかった! だがこれが本当に最後だからな! もう在庫が残り一つなんだ!」
「ふん」
「ちゃんと水をかけろよ! おしっこひっかけるなんて真似しても知らないからな!」
店主の計らいでまたしても新品のヨウムちゃんが返ってきた。紅魔館に帰り、自室に入って開封。ヨウムちゃんが私を見て、前みたいに挨拶しだした。儀式みたいなもの。
「あなたが私の飼い主ね。よろしく」
「私のことはサクヤって呼んでね」
「私はコンパクヨウムよ」
すでに我慢の限界だった。ぺろぺろしたい。くんかくんかしたい。舌を這わせたい。カチューシャしゃぶりたい。経血ゼリーに妖夢ちゃんの汗をかけて召し上がりたい。みずみずしい眼球を生でかぶり付きたい。形容し難き冒涜的な角度から顔を覗かせる。暗澹たる魔性の世界で妖夢ちゃんと永劫の時を過ごしたい。
もう店主の言うことなど知るものか。抑えきれない衝動が爆発してしまいそうだ。そうならないためにも、適度なガス抜きは必要だ。私は妖夢ちゃんへの愛情を具現化し、自分の股間に男の人のモノを生やした。
「さ、サクヤ!? 何をするつもりなの!?」
「ヨウムちゃん、私と子作りしましょ! その前に準備として私のをしゃぶって欲しいのですわ!」
「き、気持ち悪い! 変態、変態っ!」
「私が……変態?」
「そうよ! その汚いのを仕舞いなさい!」
「撤回しなさい。私は変態じゃないわ。あなたへの愛を表現したいだけなのよ」
「やめて! 本当にやめて!」
「本当のヨウムちゃんなら嫌がったりせずに私のを受け入れてくれるはずですわ! さあしゃぶって!」
ヨウムちゃんの小さな口に私の陰茎をねじこむ。と、その次の瞬間ヨウムちゃんの首がダランと傾いた。
「ヨウムちゃん?」
「……」
「ヨウムちゃん! ヨウムちゃん!」
「……」
「そんな……」
ヨウムちゃんが動かない。ヨウムちゃんが私の名前を呼んでくれない。ヨウムちゃんの目がどこも見ていない。ヨウムちゃんが私のものを咥えてくれない。ヨウムちゃんの顔を揺すってみるが全く反応がない。自分の腰を振ってみたがやはりヨウムちゃんは動かない。私はそんなヨウムちゃんの口の中に自分の欲望を流し込んだ。あわよくばこれでヨウムちゃんに精力が補充されて生き返れば良いと思ったが、効果はなかった。ヨウムちゃんの体がどんどん冷たくなっていく。暗鬱な表情からは一切生気を感じない。再三の呼びかけも虚しく、ヨウムちゃんはこの世を去って行った。私はこのままでは終わらせたくないという想いで一杯だった。まだ鎮まる気配を感じさせない一物をヨウムちゃんの冷たい口にねじ込み、再び射精した。もっと私の精力を注げば今度こそ回復すると思った。気持ち良かった。満足した。でも反応は無かった。
まだだ。まだやれることはあるはずだ。もう一度あの店主に頼めば良い。物分りの良い人なんだから。きっと在庫として隠しているに違いない。すぐさまあの店のところへ向かった。店主は私の顔を見るなり「無い」の一点張り。ナイフを店主の首につきつけてみたたが、それでも「無い」としか言わなかった。泣きながら言っているし、明らかに怖がっている顔。嘘ではなさそうだった。
まだよ、まだ手はある。妖夢草の作り方は大体わかる。最終手段ではあるが、もうこうするしかない。私は白玉楼へ向かった。
「何の用よ。淫らなことをするっていうのならもう手加減なしで斬りかかるわよ」
「妖夢草を作るために来たのよ。妖夢ちゃん文句を言わずに私のものになってね」
「はぁ!?」
「妖夢ちゃんとの密接な関係をより深めつつさらなる次元に進むために必要なことなので」
「ちょっと何言ってるのからない」
「妖夢ちゃんとの密接な関係を……」
「そういう意味じゃない!」
「じゃあ何て言えば言いの?」
「死ね!」
妖夢ちゃんが刀を必死に振り回す。でも瀟洒アイを持つ十六夜咲夜には妖夢ちゃんの剣技など全て見切れますわ。汗水垂らしながら当たることのない刀を振るい続けている妖夢ちゃんウフフ。かわいいかわいい。隙を突いて妖夢ちゃんの首筋を舐めたら彼女を怒らせてしまった。なぜ彼女が激昂したのかよくわかりませんわ。とにかく私は妖夢ちゃんを拘束して紅魔館へお持ち帰りしないといけない。彼女に手を出したところで妖夢ちゃんが六根清浄斬という受けの剣技を使ってきた。彼女の汗を吸って美味しくなっているであろう妖夢ちゃんの襟を掴んだと思ったら、四方八方から妖夢ちゃんが斬りつけてきたのだ。だが咲夜の世界に入れば彼女の刀なんていくらでも避けられますわ。
非想天則? そんなゲームは知りませんわ。
「そんな! 私の攻撃が全く通じないだなんて!」
「まだまだ修行が足りませんわ。そんなことでは旧支配者の一人も倒せないわよ」
「放して! 放して!」
非力ながら私に抵抗してくる。刀を振り回す肉体を以ってしても私にしてみれば赤子同然。なんたって今の私は無敵。愛のためなら咲夜は最強の存在になれるのだから。
「妖夢ちゃんもっと暴れないと私が妖夢ちゃんの体を乗っ取ってしまうかもしれないわよ」
「このっ! 白玉楼の庭師を舐めるな!」
「妖夢ちゃんの体ならいくらでも舐めたいですわ」
「ふざけないで!」
私は本気だというのに。それなのに妖夢ちゃんときたら私の話を全く信じてくれないんだから。そろそろ余興は終わりにして本題に入りたいので妖夢ちゃんを縛り上げ、体のあちこちを服越しにまさぐったり、ドロワ越しに妖夢ちゃんの性器を刺激してみたり、耳をくすぐって耳だけでイってくれないかと実験したりしながら紅魔館の地下室へ連れて来た。早速妖夢ちゃんに私の唾液や尿、下り物、眠り薬を混ぜて作った料理をご馳走。妖夢ちゃんに眠ってもらってから妖夢ちゃんの腋、腰、膝の裏、耳の後ろに生やした男根を擦り付けてちょっとだけ気持ちよくなった。こうして自分を落ち着かせてから、妖夢ちゃんを用意していた装置に挿れる。ではなく入れる。妖夢ちゃんの幼い、未開通の秘所を剛直で滅茶苦茶にしてみたいけど。
その装置というのは彼女の首だけを出して擬似的に妖夢草っぽくするものである。首から下は不思議空間に収められるので、見た目は通常の妖夢草と全く同じになる。この装置は八雲紫の隙間原理を私が独自に解釈、研究して得た知識と河童の技術力を盗んでそれらを活用して作り出したものである。当然これを作るのには莫大な金と時間がかかったが、時間はいくらでも作り出せるしお金は紅魔館の金庫から拝借したので何も問題はありませんわ。何より大変だったのは部品の調達だったが、紫の隙間原理を理解した私に不可能はありませんでしたわ。必要な部品は全て外の日本から取り寄せたので問題は無い。
開発当初は彼女の脳髄を抜き取って円筒状の装置に収めて……というものを発案したのだが、結局妖夢草の形を取るのが一番好ましいという結論に至った。ちなみにこの装置に入れられた妖夢ちゃんは未来永劫死ぬことはない。排泄や食事も不要になる。ある意味永久機関かもしれない。ときどき保存液を入れ換え、あるいは補充してやればそれで大丈夫なのだ。
目が覚めた妖夢ちゃんは自分を確かめるなり気を失ってしまった。それから彼女が目覚めるまで数時間観察し続けていると、いつの間にか妖夢ちゃんが泣いていた。
「私をどうしたのよ……」
「妖夢ちゃんとの悠久の時を私と過ごすために開発した装置ですわ」
「私は死んだの?」
「何を言っているの? その装置に入っていれば絶対に死なないのよ」
「……」
「居心地はどう?」
「自分が自分じゃないみたい」
「おもしろいことを言うのね」
「……」
「それじゃあ妖夢ちゃん、本を読みましょうか。今日はパチュリー様の書架から拝借した、『The Whisperer in Darkness』を読んであげるわね」
「……」
「妖夢ちゃん?」
「あなたは自分が何をしたかわかっているの?」
「ええ、わかっているつもりですわ」
「私の体をこんなわけがわからないものにして、罪の意識は全くないって言うの?」
「ですわ」
「あなたは、狂ってる」
「誰が?」
「咲夜がよ! 私の体を返してよ! 私を家に帰してよ! こんな、こんなので一生過ごすなんて……」
「妖夢ちゃん泣いてるの? 私が傍にいてあげるからね」
「……殺してやる」
「妖夢ちゃん?」
「絶対に殺してやる。それか死んでやる。こんな意味不明な体にされるぐらいなら、いっそ死んでやる」
「舌を噛み切っても無駄ですわ。生命維持装置が内蔵されているのだから」
「なっ! それってどういうことよ!」
「相変わらず妖夢ちゃんは物分りが悪いのね。言葉通りよ。あなたは死なないの」
「お願い! 死なせてよ!」
「無理な相談ですわ。そもそもあなたは死ぬ必要がないの。これから私の伴侶として過ごすんですもの」
「私には何の自由もないの?」
「……うーん、確かに何かしらの自由はないと妖夢ちゃんも嫌かもしれないわね」
「とにかく、一人にしてよ」
「妖夢ちゃんウフフ」
「人の話を聞いて! 一晩で良いから色々考えさせてよ!」
「まあ妖夢ちゃんもあの亡霊とお別れになるんだし、今夜は妖夢ちゃん一人で過ごしてもらいましょうかね」
「……」
「妖夢ちゃんおやすみ♪」
「……」
「妖夢ちゃん?」
「死ね」
「妖夢ちゃんウフフ」
地下室から出て、秘密の通路を使って自分の部屋へ。妖夢ちゃんを生かす装置がごうんごうんと唸っている。今の時間はちょうど夕日が沈んだころ。そろそろお嬢様がお目覚めになる時間。私は妖夢ちゃんを一人にして、お嬢様の世話を優先することにした。
朝日が昇る。お嬢様がお部屋でお休みになった。私は自分の部屋へ戻り、時間を止めて一眠りしようと思ったところで異変に気がついた。静かだ。装置が動いている音がしない。あの装置にどこかしら欠陥があって、異常をきたしているのではないか? そう思ってすぐに地下室へ。そこにはバラバラになった装置とお腹に刀が刺さった妖夢ちゃんの体があった。妖夢ちゃんの刀は私の部屋に隠していたのだが。一体何が起こったというのだろう。誰かが装置を壊したとでもいうのか。今は犯人を特定するべきときではない。妖夢ちゃんを救出することが第一である。
言い忘れていたが、あの装置の中では入れるときに妖夢ちゃんの体を不思議空間の中でバラバラにして収めているのである。当然内臓もバラバラなのだが、そこは不思議空間。きちんと生命維持は行われているよう設計している。だがその分こうやって装置を壊されてしまったら救命することは不可能に近いかもしれない。壊されたときのことは考えていなかったのだから。死体を良く見てみると舌を噛み切った跡がある。死のうとしたのだろうか。しかし装置が生きている限り妖夢ちゃんも死ぬことは無い。
そうだ。しまった。妖夢ちゃんの特異体質に今更気がついた。特異体質というか種族というか、彼女は半人半霊の者。人間側を拘束しても幽霊は動けるという存在。やってしまった。なんということだ。半霊のことを計算に入れてなかったのだ。なんという愚か者だろう! おそらく拘束し忘れていた半霊が何かしら、弾幕的な方法を用いてこの装置を壊したに違いない。
その半霊の姿は見えない。人間側が絶命してしまったら消滅するのだろうか? それとも、彼岸へ行ってしまったのだろうか? 睡眠不足を気にしている場合ではない。一刻も早く妖夢ちゃんを彼岸から連れ戻さなければ。そう思った瞬間、私は倒れてしまった。睡眠不足や妖夢ちゃんが亡くなった哀しみで頭の中はぐちゃぐちゃ。こんなことで倒れている場合ではない。だが圧倒的な絶望感が私を動けまいとした。そのうち私は意識を失った。
※ ※ ※
夢を見た。八十段の階段を下りた先に神社が見える夢。その先には二人の巫女がいた。一人は紅白でもう一人は緑の……。二人に案内されるがまま私は歩いていった。さらに八百万の階段を下りると巨大な鳥居がたくさん並んだ道が見えて、それはもう地平線の先にまで続いている様だ。そこで金髪の女性が見えた気がしたがよく覚えていない。が、私はその鳥居を潜り抜けた先を目指した。
するとどうだろう、幻想郷とは似て非なる世界が待ち受けていた。そこでは幻想郷の妖怪とは全く違う生き物ばかりが生活していた。いや、私の脳は彼らを生き物なのかどうかすら判別できないのだが。異形なる者、深きものども、古のもの、盲目のもの、等等私が今まで培ってきた知識や常識では理解しきれない存在を見てきた。
今考えれば私はあのとき鳥居を潜るべきではなかったのかもしれない。それとも、潜って正解だったのか。
外なる神と言われる者達にも会った。というより、見かけたに過ぎない。そもそもどうして彼らを外なる神だと私が認識できたのかわからない。私は彼らを見てよく正気を保たせられたなと思う。妖夢ちゃんと一つになりという支えが無ければ今頃私は自分の存在を根底から否定されていただろう。地球外、あるいは銀河の外へ連れ出されたかもしれないし、彼らから直接何かしらの手段での攻撃を受けてこの身を滅ぼされたかもしれない。だが私は生きている。自分の能力を使って生き延びたのか、はたまた彼らが私を見逃してくれたのか。
私はそろそろ自分の居るべき場所に戻りたいと思って紅魔館を探してようやく見つけたのだが、そこには誰も居なかった。不思議なことにお嬢様も、だ。私は何か手はないかと地下の図書館を訪ねてみたのだが、そこにはおぞましい書物が集積されていた。クトゥルフとその眷属について記された書物、ルルイエ異本。エイボンという魔道士が書いたという暗黒知識が集められた、エイボンの書。水棲生物に関する知識に加えてダゴン、ハイドラ、大いなるクトゥルフに関する記述のある、水神クタアト。読者に死と狂気をもたらすという戯曲、黄衣の王。背徳的なテーマで書かれた、邪悪な教義の書物、屍食教典儀。そして強大な魔力とおぞましい邪心たちの知識が集められた、ネクロノミコン。
私はそれらを全て読んでしまった。異端なる神々の召喚、儀式、そして彼らに関する知識。彼らの脅威。彼らの圧倒的な恐怖をこの身で感じ取った。よく私はそれらを乗り越えて生き延びたな、と思う。それもこれも全て彼女を強く想う私の気持ちがあってこそ、だ。もし彼女との出会いがないままであればとうの昔に絶命しているはずである。
※ ※ ※
目が覚めた。酷く体が重い。頭もだ。自分の顔や体のいたるところを触ってみても自分が自分ではない感覚がした。それだけ長いこと眠っていたような気がした。手鏡で自分を見てみたが、十六夜咲夜は酷くやつれた顔をしていた。体の節々が痛い。上手く動かせない。一体自分の身に何が起きているのだろうか。そういえば私は何か重大なことを忘れている気がする。思い出せない。何か、とても大切なことなのなのに。
部屋のドアが開けられた。妖精メイドである。私を見るなり部屋から慌てて出て行った。私に怒られると思ったのだろうか? 暫くすると紅魔館の面々が私の部屋に押し寄せてきた。美鈴、パチュリー様、お嬢様、フランお嬢様まで。私を見るなり皆涙ぐんでいた。お嬢様は泣いておらず、安堵したようなため息を漏らした。なんでも私は一年近く眠っていたらしい。竹林の薬師が診察して、私のことを植物状態だと診断したそうだ。それまでの間幻想郷では何かしらの異変が起きては解決されるという、いつも通りだったそうだが。
私は大切なことを思い出したいので、暫く一人にして欲しいと言って紅魔館の住民達を追い払った。音。聞こえない。そうだ。思い出した。装置の動く音が聞こえない。装置。そうだ。私は彼女を装置にいれた。そして装置。あれは壊され、妖夢ちゃんが死んでしまったんだ。部屋の本棚にある蛇革で装丁された本を動かす。おかしい。秘密の通路の入り口がこれで開かれるはずである。
「アレは処分したよ」
お嬢様の声だ。私は這い寄る混沌にでも声をかけられた気がして、酷く驚いてしまった。
「妖夢ちゃんは!」
「……」
「お嬢様には秘密にしていたのですが、この先に通路と部屋を作っていたんです。そこで最愛の妖夢ちゃんが……!」
「お前の言う妖夢はもう居ないわ」
「じゃあ……」
「……」
「彼女のことは諦めなさい。あの庭師の死について亡霊嬢が当然黙っていなかったけど、もう私が話をつけたから。あなたが罪を償う必要もない」
「それは当然ですわ。私は彼女を愛しているのですから」
「……」
「あの部屋はどうなったのですか?」
「埋めたよ。全部ね。遺体は冥界に送り届けたけど」
「……」
「もう彼女を追うのはやめて。あなたが動かなくなって、私は一年寂しい想いをしていたのよ」
「お嬢様……」
「これからはあの庭師とではなく、私と居て頂戴」
「はい、咲夜はもうどこにも行ったりしません」
お嬢様が私の部屋を出て行かれてから、私は泣いた。ひたすらに泣いた。私が彼女を死なせてしまったからだ。部屋の机を探った。ここには隠していた、彼女のカチューシャがあるはずである。あった。黴臭くなっており、舐めるのには抵抗があった。私はそれを抱きしめて彼女の名前を叫んだ。まさかこれが彼女の形見になってしまうとは。
ちょっと待って欲しい。私は何か忘れていることがあるのではないか。ここはアーカムではない。幻想郷だ。肉体が滅べば魂は彼岸へ行くではないか。こうしている場合ではない。お嬢様のお守りなんか美鈴にでも任せておけば良い。お嬢様のお部屋に行き、さっそくお出かけする旨を伝える。
「お暇を頂きます」
「え? ちょっとどういう……」
「では」
「待ちなさい! 今さっき一緒に居てって……咲夜ー!」
お嬢様が何か仰っているが、今は黙っていて欲しい。私は妖夢ちゃんの魂を探しに行くのに忙しくなるのだから。冥界に着いたところで例の屋敷が見えてきた。だがいつもは居ないはずの門番が居た。それもまたえらく強そうな門番。うちの門番と比べて千倍は強そうだ。白玉楼の主、亡霊嬢の幽々子が殺気を孕んだ目で私を睨んでいるのだ。彼女がここまで殺気を剥き出しにするのは始めて見る。お嬢様が幽々子のことは言いくるめてあると言っていたはずだが、どう見ても私を恨んでいる。
「殺してやる」
「……随分と機嫌が悪そうですね」
おかしい。彼女はもっと上品な言い回しをしたりするはずである。もうちょっと言葉遊びが混じった、洒落たことを言う者だと思っていたのだが。そんな彼女が激情を露わにするほど私が怒らせてしまったということなのだろうか。確かに全世界で最も愛おしき存在である妖夢ちゃんを死なせてしまった罪は重い。ならばこそ、その罪を償うために妖夢ちゃんの魂に直接会って謝罪すべきである。あわよくばもう一度妖夢ちゃんとやり直したい。
「それ以上足を踏み入れればあなたの命を消滅させる」
「私は妖夢ちゃんの魂に直接謝りに来たのよ。彼女に会う権利がありますわ」
周囲一帯に霊力が溢れ出した。あまりにも力の波動が強すぎるために力が目で見えるようになり、たくさんの鈍い光の筋が地面から延びていた。それらは触手のようにも見え、あのおぞましき旧支配者達を連想してしまった。弱気になってはいけない。私にだって幽々子に一矢報いる力ぐらいあると信じている。何のために妖夢ちゃんちゅっちゅしに来たというのだ。幽々子ぐらい倒せないようでは彼女の伴侶など務まらない。そう思って自分を奮い立たせてみるが、私は体は震えていた。本気の彼女が怖いのだ。
ここから先はおそらくスペルカードバトルなんて生易しいものじゃない。ただの殺し合いになるかもしれない。ついさっき私は傷を負わせるぐらいのことは出来るだろうと言ったが、正直なところ勝てる見込みはない。ただ見栄を張っただけである。正面から撃ち合えば絶対に負ける。かといって何かしら戦略を立てて隙を作らせ、そこを狙ったところで返り討ちにされるのが目に見えている。何せ幽々子は狡猾さも持ち合わせているのだから。
お嬢様と幽々子、どっちが賢いかと聞かれれば当然お嬢様だと答えるが、二人が知略で勝負すればおそらくお嬢様が僅差で負けるだろう。ある魔法使いは「弾幕はパワーだぜ」と言った。ある魔法使いは「弾幕はブレインよ」と言った。その二つが負けている私は将棋で言うところの詰みなのではないだろうか? 落ち着け咲夜、ついさっきこの先は弾幕ごっこではないかもしれないと言ったばかりではないか。こっちも本気になれば良いだけではないか。だが何をすれば勝機が見える? こんなのはどうだろう。相手にとてつもない力の持ち主たと思わせれば降伏してくれるかもしれない。そこで私は隙間理論を用いて敵の攻撃を防いでみることにした。幽々子がたった今放ってきた、回避不可能と思わせるほどの物量の弾幕を全て吸収してみせた。相手は表情を固まらせていて、明らかに困惑している様子だった。
「どこでその力を……!」
「秘密ですわ」
「そんなはずないわ! それは紫の……! ああ、そんな!」
「これが現実。それ以上私に攻撃しても無駄ですわ」
「……」
幽々子の怒りが静まっていくのがわかる。おびただしい量の霊力が徐々に鎮まっていた。
「わかったわ。会わせてあげることは会わせてあげる。でもね、あなたの行動次第では、私は紫と二人であなたのある部分を封印させてもらうことになるわよ」
「言っている意味がよくわかりませんが……会わせていただけるのなら光栄ですわ」
「レミリアには了承を得ているからね。自分の行動に気をつけなさい」
「ではお邪魔いたします」
意気消沈となった幽々子を尻目に白玉楼の門を潜った。さあ愛しい妖夢ちゃんとの再会だ。一年ぶりの再会だなんて、ドラマティックで素晴らしいではないか。ん? 良い匂いが! 妖夢ちゃんの匂いが! あの部屋から! 漂ってきますわ! 妖夢ちゃん! 妖夢ちゃん! 妖夢ちゃん!
急いでその部屋の襖を開け放つ。念願の妖夢ちゃんの魂との再会、と思えばそこにはいつもの、肉体が備わった妖夢ちゃんが居るではないか。どういうことだ? 妖夢ちゃんは死んだはずである。ましてや例の装置に入れたがために妖夢ちゃんの体はバラバラになって死んだ。それなのに妖夢ちゃんは綺麗なままで部屋で本を読んでいた様子。私は何か勘違いでもしていたのだろうか?
「何をしに来たのよ!」
妖夢ちゃんは喧嘩腰だった。すでに抜刀し、切っ先を私に向けている。妖夢ちゃんの刀ぺろぺろ。妖夢ちゃんは怒って私に一太刀浴びようと振りかぶったので、後ろに下がって斬撃を回避した。
「妖夢ちゃん何するの? またやり直しましょうよ」
「私に近づくな」
妖夢ちゃんが本気の形相になっていく。緊張感が一杯になって、私の神経が無理やり研ぎ澄まされていく。気をつけなければ死ぬぞ、と警告を鳴らされている感じ。だが私は斬られるつもりはない。正確に言えば斬られたいが、今はそのときではない。妖夢ちゃんにカウンターをいれてやろう。妖夢ちゃんが動いた。私も動く。妖夢ちゃんの攻撃を受け流し、妖夢ちゃんを畳に押し倒した。
「妖夢ちゃん子作りしましょうねウフフ」
「放して! 放してよ!」
妖夢ちゃんが必死に暴れており、膝蹴りや肘で殴ってくる。必死の抵抗が面倒だが、マグロは嫌いなので暴れられる方が好みである。うまく体を使って妖夢ちゃんに密着。妖夢ちゃんが動けなくなったところで素早く妖夢ちゃんの唇を奪い、自分の股間に陰茎を生やして妖夢ちゃんのスカートにこすり付けた。
「なっ!」
「妖夢ちゃんウフフ」
こっちは準備万端である。妖夢ちゃんのスカートを捲り、妖夢ちゃんの真っ白なドロワに向かって子種を放出する。子種はドロワを溶かし、妖夢ちゃんの秘所が丸見えとなった。
「ひっ! やめて、やめてったら!」
「妖夢ちゃんウフフ」
もうすぐ妖夢ちゃんと一つになれる。念願だった。まさかこんなにも早く達成できてしまうとは。だが何者かに引き剥がされてしまった。私と妖夢ちゃんのねちょねちょを邪魔する奴は何者か。私の全力を以って排除しなければならない。なんと私を妖夢ちゃんから遠ざけたのは紫だった。
「幽々子の警告を見事に無視したのね」
「私の邪魔をするつもり?」
「あなたは自分の性欲を満たすことしか頭にないの? 私の友人の部下である、この子を殺したことについて何も思わないの?」
「……今居る妖夢ちゃんは一体何なの」
「私と幽々子が映姫に事情を説明して魂を顕界に連れてきたのよ。後は私が妖夢を復活させてやった」
「……」
「あなたに私から罰を与えるわ」
「妖夢ちゃんに何かしたら許さないわよ!」
「あなたに何かするのよ。次に目が覚めたとき、新しい世界が待っているわ」
何を訳のわからないことを。すると私は紫にデコピンをされてしまった。ただそれだけなのに、私は重たい石で殴られたかのような衝撃を受けた。
「幽々子から話を聞いて驚いたわ。ただの人間で私の隙間能力を模倣してしまうなんてね」
体が上手く動かない。視界がぼやけてきた。緑色の服来た彼女がどこかに連れ去られてしまう。頭の中がよくわからないことになっていく。吐き気がして、まともな思考が働かない。私は気を失った。
※ ※ ※
朝。清清しい朝である。私は身支度とベッドメイキングを済ませて皆の食事を作り、食堂に来るパチュリー様と美鈴に朝食を振舞った。私も済ませて、早速自分の仕事に取り組んだ。掃除、洗濯、買出し。天狗の発行した新聞には妖夢と霊夢が弾幕勝負をしたと書かれていた。私はその新聞をゴミ箱に押し込み、また自分の仕事に戻った。
一日の仕事が終わり、日が沈む。私は夜行性のお嬢様を起こしにいき、皆にとっての夕食、お嬢様にとっての朝食を用意した。今日は侵入者ゼロだとか、今夜は雨が降るからお出かけは難しいですねと話した。今夜はお嬢様はずっと屋敷にいるとのことで、ずっとお嬢様のお部屋にお邪魔して隣に居た。静かな夜。暇な夜。でもその何気もない夜が幸せだった。私はこのお方と共に居られればそれで良い。他には何もいらない。初めてこの方と会ったときからこうなる運命だったのだ。この紅魔館の住民以外がこの世から居なくなったところで困ることは何もないだろう。雨ということでお嬢様は気分が優れないようで、一番鶏が鳴くよりも早くにお嬢様はベッドに入られた。
私はお嬢様に布団をかけさせて頂き、おやすみなさいませと声をかけさせていただいて自分の部屋に戻った。また時間を止めて眠ろう。明日も一日急がしくなる。門の方では朝早くから美鈴が拳法の修行をしていた。雨はもう上がっている様子。パチュリー様はおそらく魔法の研究をしているのだろう。フランお嬢様は地下室で本でも読んでいるのかもしれない。私はこれから夢の世界へ旅たつ。頭の中は紅魔館のことで一杯である。これこそが私の日常。私の世界なのだ。
※ ※ ※
秋の神が元気な季節真っ最中。私は買出しに里へ出かけていた。そのとき休憩がてら御茶屋に入ったのだが、隣の席に冥界で庭師をしている妖夢と偶然会った。
「あら」
「こんにちは」
妖夢はどこか引きつった表情だった。どうかしたのかと尋ねたが気のせいでは、と言われた。
「何かの用事で里へ来たの?」
「ええ、まあね。用事は終わったから、ここでお茶してから帰ろうかなって」
「ふーん」
「咲夜は?」
「私は買出しにね」
「なるほど」
妖夢はおだんごを美味しそうに頬張っている。私は頼んでいたお饅頭を食べて餡子を味わった。
「さ、咲夜は……」
「うん?」
「好きな人とかいるの?」
「お嬢様を愛していますわ」
「そ、そう。それならいいわ」
「それがどうかしたの?」
「べ、別に」
「変な妖夢」
私のことが好きだとでもいうのだろうか。私にはレミリアお嬢様というお方がいるのに。妖夢には悪いが私の好みではない。眼中にはない。あなたに抱きしめられても嬉しくない。レミリアお嬢様がケーキを作ったと申されればたとえ私が見ている前で毒を盛られたとしても喜んで食べる。だが妖夢から「あなたのために焼いてきたの!」と言われても私は可もなく不可もない感想を述べると思う。別に妖夢のことが嫌いではないのだが、全く興味が湧かない。
「それじゃあ、そろそろ行くわ」
「あらそう? 私はもうちょっとゆっくりするけど」
「じゃあね」
「ええ、またね」
店を出て行く彼女の後ろ姿が気になった。なぜかはわからない。彼女には興味がないはずなのに、彼女の魅力に惹かれている私がいるのだ。艶やかな白い髪。さっき話していて気になった、彼女の素肌。目。細い腕。平らな胸。細い腰。見ていると胸が高鳴る彼女の首筋。舐めたくなる。今すぐに彼女を追いかけ、人のいないところに連れ込んで押し倒し、彼女の股間の秘所を堪能してみたいなどと考えるようになっていた。
なんということだ。もっと早くに気がつけば良かった。好きな人とかいるの? あなたを愛していますわ。さっきそう答えておけば良かった。凄まじいまでの性的衝動を感じている。彼女を強姦したい。凌辱したい。性交したい。あわよくば紅魔館の地下室にでも監禁したい。こんなところでチンタラお茶を飲んでいる場合ではない。私は会計を済ませると買出しも急いで終わらせ、すぐに紅魔館へ帰った。
「お嬢様、暇を頂きます」
「え? 今夜も一緒に居てよ。一体どうしたの?」
「どうしても気になる人が出来てしまいまして……」
「何?」
「ちょっと白玉楼まで行ってきます」
「そんな、まさか」
「では」
「咲夜! ちょっと待ちなさい!」
お嬢様が何か言っているが、気にせず紅魔館を後にする。全速力で冥界を目指した。もちろん、彼女に会うために。冥界。私は早速白玉楼に忍び込んで彼女を連れ出そうと計画を練っていた。だが私の邪魔をしにきたのか、紫が門の辺りで私を見ていた。明らかに私を待ち構えているようである。
「何をしにきたの? もうすぐ日が沈むわ。子供はお家に帰る時間よ」
「妖夢……いえ、妖夢ちゃんとちゅっちゅするために来ましたわ」
「なっ! じゃあレミリアの話は本当だったのね……」
「うん? なぜお嬢様?」
「もうここまで来れば種明かししてもいいかしら。私は過去にあなたの脳に影響を及ぼしたの。魂魄妖夢という存在に興味を持たないように、と。烏の新聞に妖夢が写っている写真を使わせてあなたが興味を持つか実験した。あなたは結局新聞記事の写真には興味が無かったみたいだけど、御茶屋で本人と会って妖夢を好きになった。全くあなたの頭の中はどうなっているのかしらね。遺伝子レベルで妖夢を好きになるようにでもなっているのかしら?」
「な……何のためにそんなことを!」
「私の友人の頼みを聞いてあげただけ。あなたの主人からもお願いされたしね」
「ということは……また私と妖夢ちゃんの恋路を邪魔するというの?」
「まあそういうことね。悪いけど咲夜、あなたを幻想郷から遥か遠く離れたところへ運ぶことにするわ。殺しはしない。殺して魂が幻想郷に残るのも面倒だから」
「やられる気はありませんわ」
「いいえ、あなたはこの地球外、銀河の外へ運ばれることになるの。太陽系を含む銀河から遠く離れたところにある、ゲーシュペイリルト星団の一番端っこ、暗闇と冷気で満たされた、白色の球状の建築群が階層を成しているヒードゥン星で烏賊のような生物に囲まれて寿命を迎えるがいいわ」
「……ちょっと何を言っているかわかりませんね」
「とにかくおとなしくして欲しいのよ。さすがの私でも何かを別の星まで運ぶには時間がかかるから」
「私が素直に従うと思って?」
「思っていないわよ♪」
刹那、紫の周囲に大きな毒々しい色の目玉が現れた。それは瞬時に増えていき、辺り一帯の空にまで目玉がそこら中に浮かんでいるという状態。どれもこれも私を睨めつけている。ナイフを握る私の手が震えていた。紫が何か合図をすればこの目玉から何かしらの攻撃が飛んでくるのだろう。落ち着け咲夜。この程度の弾幕、きっと掻い潜れる。敵の攻撃を良く見て対処すれば大丈夫。紫が指を鳴らした。私の目の前、いや周りが紫色の光に包まれた。慌てて時間を止めるも、その時点ですでに回避不可能な状態に追い込まれていた。隙間なく私を囲っている。私の結界を操る能力でどうにか出来ないかと試してみたが、なぜか隙間を広げることが出来なくなっていた。諦めて時間を動かす。次の瞬間、私は体のあちこちに強い衝撃を受けた。その衝撃で私の体はお手玉でもされているかのように、あちこちに吹き飛ばされた。最早立ち上がる力なんて湧いてこなかった。何をしている咲夜。妖夢ちゃんに会いたくはないのか。そう自分に言い聞かせても、体は言うことを聞いてくれなかった。
「さようなら。向こうで死んだら、あなたの魂は向こうで彷徨うことになるわ。幻想郷の彼岸には来られないの」
「……よう、むちゃ」
「もうお終い? まあ、あなたの力なんてそんな程度というところかしら。ああ、あと言っておくけど、あなたの主人からどうにかしてくれって聞いているから」
「そんな……お嬢様」
「変態の従者はいらない、ですって。あとあなたのことを愛していたみたいだけど……私を見てくれないのならもういらないって言ってたわね」
「……」
「それじゃあ、そろそろ幻想郷におさらばしましょうね」
辺り一面に結界が張られていく。魔方陣のようなものがあちこちに敷かれている。そして紫は私から離れていった。
「このままでは終わらないわ」
「まさか、あなたに何かできることがあるとでも?」
「絶対に妖夢ちゃんは私のものになるのよ」
「どうすることも出来ないに決まっている」
辺りの空間が真っ暗闇になり、私を吸い込み始めた。地面に寝転がっていたというのに、今私は宙に浮かんでいる感覚がしている。
「さようなら。もう会うこともないし、会いたくない」
「私は必ず幻想郷に戻ってくる」
「……」
重力に引っ張られたかのように暗闇へ落ちていく。穴の中は本当の暗闇で、何も見えず聞こえず、匂わず触れず。風も感じなかった。
☆ ☆ ☆
闇の中。とりあえずまだ生きているが、この先どうなるかわからない。向こうには何か生物がいると言っていた。彼らの脅威から逃げ延びることが果たしてできるのだろうか。私には死ぬ気はない。必ず、かの邪智暴虐の紫と幽々子を除かなければならぬと決意した。
それにしてもこの暗闇はいつまで続くのだろうか。今宇宙を旅しているのだろうが、実感は無い。そもそも送られる星はなんという名前だったか。覚えていない。そもそもその星では私が生きていけるのだろうか。水や食料はあるのだろうか。地球まで戻る手段はどうするのか。今頃になって自分の置かれている状況が相当悪いということに気付いた。
今自分が持っているものは複数のナイフと懐中時計。水筒や食料になりそうなものはない。必死に生き延びる方法を模索してみるが、向こうの生物に私のナイフが効かなかったら私は一巻の終わりである。
そうこうしているうちにいつの間にか私の体が何か硬いものの上に居ることがわかった。それは地面だった。色は白い。ただそこはわずかな光しか届いていないらしく、かろうじて色が判別できる程度。今私は草木が一切生えていない、砂山のようなところに立っていた。息は出来るらしい。山の上から遠くに川のようなものまで見えている。水はあるようだ。
さらに遠くには球体のものが階層を成していた。それもおびただしい量である。あの球体の群が一つの国なのではないか、と思うほどである。遠くにあるので大きさまではわからないが、球体群の規模から考えると島か、大陸と呼べるほどの土地を使っているのはわかる。高さも相当なものだ。上空に雲があることが確認できたが、その雲より上にまで建物が積み重なっている。
今は特に何も聞こえない。風も殆どないらしい。しかし気温は低い。火に当たりたいぐらいである。秋物の服、ということで長袖のブラウスを着ているが脚が寒かった。凍える、とまでではないが。周囲に生物はいない様子。それとも見えていないだけなのか。私は球状のものがある場所へ行くべきか悩んでいた。擬似的な結界を操る能力でどうにかできないかと試行錯誤したが、何も出来ないで居る。さすがに付け焼刃の能力はその程度でしかないらしい。時間を止められるか試してみようと思ったが、回りに動くものがないと確かめることができない。空を飛ぶことも出来なくなっていた。もしかすると時間を操る能力まで使えないのかもしれない。それは非常に困る。ここの住民と戦闘になったときに使えないとなると厄介だ。あれが使えれば簡単に有利な状況を作り出せるのだから。
結局私はあの球状群があるところへ向かうことを決意した。何はともあれこの野原にいるだけではいつか腹を空かせて衰弱、餓死するだけだ。どうせ死ぬのなら賭けた方がましである。ここの住民達と仲良くできるのなら、それが一番だが。ここは地球よりも重力が軽いらしく、移動は楽だった。その分風に吹き飛ばされた場合どうしようかと悩んだが成す術は思いつかなかった。
ふと思って懐中時計を取り出したが、時計は止まっていた。この星では時計が止まるとでもいうのか。それとも単純に時計が壊れてしまったのか。どうも不吉な予感がして良くない。とにかく球状の建築物が階層を成すところへ向かった。その場所までは大して時間はかからなかった。その道中は殺風景なものであった。雲と海、山と川があるのは確認できたがとにかく何もないのである。あの球状のもの以外人工的なものはないし、地面も起伏はあるのだが木々が一本も生えていない。
球状の建築物群に近づいてきたところで水晶のような、半透明のもので出来た大きな橋が見えてきた。大きいと言っても常識の範疇での大きさだ。もしかしてここの住民は人間とあまり大きさが変わらないのではないだろうか?また、生臭くなってきた。この星に住む住民は皆そういう臭いを発しているのだろうか。その橋を渡り終えようかというところで灰色の烏賊のような者が二人番人のように立っていた。二人とも槍のような武器を持っている。二人の容姿は三割人間、残り七割烏賊という感じ。手足は烏賊の触手なのだが、肩の位置は人間のそれとよく似ている。胴体はのっぺりとしていて、筋肉や骨格まではわからない。肌は灰色。首はなく、頭と胴体は繋がっている。頭は烏賊そのものである。目は黄色いものが一つだけついており、烏賊の耳のような部位、あれはひれなのだが、そこには七色に輝く光の帯がついていた。身長は私よりも少し高い程度。幻想郷の人里に住む平均的な青年男性の身長より若干低い、というぐらいだろう。
その烏賊人間が私を見るなり光の帯を赤くした。警告を意味している色なのだろうか。口らしき物が動き、掠れた声で意味不明な言葉を喋っていた。二人とも槍の矛先を私に向けている。当然だろう。向こうからすれば異星人がやってきたようなものなのだろうから。私はナイフを隠し持ちながら、まず名乗ってみた。地球の、幻想郷の言葉が通じるのかどうかわからないがコミュニケーションは試してみるべきだと思った。烏賊人間の帯が赤から黄色に変わった。私を不思議がっているのだろうか。私は地球からやってきた、と続けてみたが二人は無反応のまま。
少しすると二人のうち一人が建物に入って行った。残された一人は黄色を示したまま、槍を構えている。私は仲間でも呼ぶのだろうかと警戒して状況が変わるのを待った。それから暫くすると先ほどの烏賊人間がおでこと思わしき部分に何かしらの装置をつけて戻ってきた。
「あなたはどうやってここまで来たのです?」
落ち着いた、上品な青年男性の声が聞こえてきた。私は戸惑いを隠さずにはいられなかった。何だ? あれは翻訳機とでも言うのだろうか?
「我々はあなたの言う、地球より遥か彼方にある星の住民である。一体どうやってここまで来ることが出来たと言うのかね」
「……わ、私はある悪い奴にここまで飛ばされたのです」
「ふむ。つまり、自分の意思で来たというわけではない、と?」
「ええ……」
二人の光の筋は黄色のまま。私もナイフを握ったままである。まさかここの住民が地球、いや私と会話するための装置を持っているとは思わなかった。それに彼らは地球を知っているようである。その地球にも数千の言語があると聞くのに、どうやって私の言葉をピタリと見つけたのだろうか。
「これは我々が作った非常に高度な翻訳機でね。もっと他の星々の言語すらも特定して翻訳することができるのだよ」
「……」
「我々はこのヒードゥン星に住む、ゴーントゥリウスという種族である。好奇心旺盛な、地球の知的生命体がこの星を訪れることは稀にあるのだが、あなたはどうしましょう? あなたが望むのであれば我々はあなたに住居を与えましょう」
「そ、それは本当ですか?」
「ええ。最も、あなたが我々を信用してくれるかどうかですが。我々はあなたの星でいう、烏賊という生き物に似ていて、気持ちの悪い見た目だと思われるかもしれません。また、こうしてあなたの使う言葉を話しているのが不快に感じるかもしれませんので信用していただけるかどうかという自信がありません」
「……」
「だが我々は約束します。あなたに危害を加えるつもりは一切ありません」
二人の光の帯が黄色から青色に変わった。それは友好的な気持ちを表しているようにも見えた。
「一つ、尋ねても良いですか?」
「なんでしょう? 私に答えられるものでしたら、何でも訊いてください」
「この星から地球に行くことの出来る乗り物はありますか?」
もしそういったものを借りることが出来れば非常にありがたい。今すぐに帰りたいのだから。
「……あることはあります。これまでここに迷い込んだ地球の方を送り返したこともありますので。しかし準備するのに時間がかかります。あなた方の時間の感覚で申し上げますと……四、五日はかかってしまいます。それまでの間この星で過ごしていただくことになりますが、先ほど申し上げました通り住処を提供できます。目の前に見えている、この球体の一つ一つが家のようなものでございます。この家はいくつか余っているものもありますので、その一つをあなたにお貸しするぐらい何の問題もありません。以前に来られた人間の要望により、排泄物を処理するトイレという設備を設けた家がありますので、そこをお使いになると便利かと思われます。食事の方も心配していると思われますが、普段我々が口にしている食べ物のうち、人間が食べられるものもございます。それはあなた方の世界で言うところの魚の缶詰のようなものになります。というのも、我々は海中にいる、あなた方でいうところの魚を食べて生きているのですが、その魚を繁殖、加工して缶詰にして食べているのであります。その魚の缶詰を前に来られた人間が食べても問題はないようでしたので、大丈夫でしょう。食べ物の種類が少ないために食事の楽しみはないと思われますが、そこはご理解願います。それと水が必要かと思われますが、先ほど申し上げたようにこの星には海がございます。その海の水をろ過して真水にする技術もありまして、飲料水として容器に詰めてあなたに供給することができますので、少しの間この星に滞在することは可能だと思われます。ただ、衣服はお貸しすることができません。というのも、我々は衣服を必要としないからであります。そこはご理解願います」
「……ありがとうございました。ではあなた方のご親切に甘えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「そうですか! わかりました! 我々はあなたの訪問を歓迎します! 早速あなたの家に招待いたしましょう!」
二人の番人は顔を見合わせた。光の帯が七色に輝いている。来客を喜んでいるのだろうか。それならそれで悪い気はしない。私は翻訳機をつけた烏賊人間に招かれて建物の中へ入って行った。建物の中は暗かった。だが烏賊人間のエラがピカピカ光ってくれるので明かりは必要なかった。翻訳機をつけたゴーントゥリウスとやらに誘われるがまま建物の奥へ。中に入ると生臭さはいよいよ強くなってきた。もしかするとここの住民は水陸両用の生命体なのかもしれない。見た目が烏賊なことも考えれば納得はいく。
案内されるがまま紺色の壁の廊下を通り、その先にある円柱状の部屋に入ると、彼は壁にいくつもあるボタンのうちの一番下を押した。部屋の壁は半透明になっており、外が見えるようになっている。景色が上がっていくので降りているということがわかった。今いるところは広く、人が五、六十人は入れそうな空間が確保されていた。この部屋、エレベーターと呼ぶことにするが、その壁にあるボタンの数だけ見ればあまり階層はないように見えるが、ボタンの組み合わせで目的の階層を選べるのかもしれない。そう考えると相当な数の層があるということがわかる。また、下へ降りて行くたび生臭さは強くなっていった。この先には一体何があるというのだろう。私をどこに招待するつもりなのか。まさか私に対して友好的、だと思わせて私を殺して食べようなどと考えてはいないだろうか。さらなる用心が必要だろう。
また、今この場で時間を止められるか実験しようとしたところで、時間操作の能力まで使えないことがわかった。私の能力は全てその程度、ということか。まさか生まれ持った能力まで使えないとは思わなかった。緊急事態が起きた場合頼ることが出来なくなってしまった。その分常に緊張していなければならない。疲れることはわかっているが、油断は禁物である。
「今から君を……十六夜さんでよろしかったかな? 君を我々の族長と会っていただきたい。彼の名前はラグンです。まあ軽い挨拶をする程度のものだと思って欲ください。せっかくこんなところまで来たんですし、この星の話を聞いて土産話にしてみてはどうでしょう。最も、ここの出来事を信じる者があなたの星に居るかどうかはわかりませんがね」
「……」
半透明の壁に見える景色のうち、下の方は暗い青色になっている。おそらくあれは海なのだろうが、今まさにその暗い海の下へエレベーターが降りているのである。まさかこの球体の建築物は海中深くまで続いているのだろうか? ここの住民が海から生まれたという仮説を確信に変えた瞬間であった。海の中、と思うとなんとなく息苦しくなるのだがそんなことはないらしい。彼らも空気は必要ということなのだろう。もうしばらく海の底へエレベーターが降りたところでようやく止まった。
扉が開き、湿り気の強そうなトンネルが見えてきた。床や壁、天井にはいくつものでたらめな曲線の模様が描かれていた。その曲は烏賊の触手にも思えた。今暗澹たる原始の恐怖を孕む領域へ足を踏み込むのか、と思うと気が狂いそうな想いがした。だが私には成すべきことがある。底知れぬ怖さが潜んでいる未知の星の海底に待ち受ける者と面会して私は自我を保てるのだろうか。保つ努力をするしかない。
番人の彼に誘われるがまま一歩ずつ奥へ進む。廊下の両端は溝になっており、海水と思わしき液体が流れていた。ぬかるんだトンネルを進み続けること数分だろうか、石で出来たと思われる両開きに見える扉が見えてきた。その扉には冒涜的で背徳的な、見ていて気分が悪くなるグロテスクな紋がついていたのだが、彼がその紋のある部分を押し込むと何かしらの仕掛けが動いて扉が開いたのだ。扉の先には二人のゴーントゥリウスがいて、二人とも番人のように槍を持っていた。その二人は私を見て驚いた様子で、光の筋を黄色に変色させていた。だが少しすると青色に変わり、七色に変化した。族長の部屋だけあって大きい、いや非常に大きい部屋であった。最早部屋ではなく、ドーム状の何かの施設というレベルであった。
そして二人の間、部屋の真ん中の奥に立派な椅子があるのだが、その椅子には他のゴーントゥリウスと比べて二倍ぐらい身長がありそうな者が座っていた。おそらくこの者が翻訳機をつけた烏賊人間の言っていた、族長であるラグンなのだろう。体は太っており、だらしない感じ。だが周りのゴーントゥリウスらは彼を尊敬しているような目をしていた。
「族長、客人を連れてまいりました。さあ怖がらず、自己紹介をしてください」
「……私は十六夜咲夜といいます。こ、この星から遠く離れた地球という星からこの星へ送りつけられたのです」
「はじめまして。ほう、送りつけられたとな?」
ラグンが日本語を喋った。野太い声。彼は翻訳機をつけていないように見えるのだが、どうやって理解しているのだ?
「族長はとても賢いお方で、翻訳機がなくても様々な星の生物と会話をすることができるのです」
先ほどの番人が説明してくれた。族長は大きくて気持ち悪い手を差し伸べ、もう少し近くに来てくれないかと言った。目が悪いのだろうか?
「私はラグン。この星の族長を務めています。どうやら酷い目に遭ったということで。それはさぞお困りでしょう。我々に手伝えることがありましたが、何でも言いつけてください」
「ありがとうございます。私は一刻も早く自分の故郷へ帰りたいだけですわ。先ほど翻訳機をつけた者から、この星から地球まで行くことのできる乗り物を貸していただきたい、と言ったところ快諾して頂けましたが、本当ですか?」
「もちろんです。我々はあなたを丁重にもてなすつもりでございます。ところで折角こんなところまで来たわけですし、この星の話でも聞いていきませんか?」
「そうですね。少し興味はあるので、聞かせてくださいまし」
「わかりました。この星には元々我々はいませんでした。おそらくあなたの星でもそうだと思われますが、海の中で最初の生物が生まれました。我々はそこから進化し続け、今日このような姿になりました。それから我々は社会を形成し、この建物を作り、そこを住処にして暮らすことにしたのです。我々は知的生命体へとなったとき、崇めるべき神様を必要としました。部族間での争いなどを避けるためです。それから我々はストゥ=ラグラ様という神秘的で聡明な存在が、この星が生まれたときからこの海の奥底に住んでいたことを知りました。そこで我々は彼を崇め奉る宗教を作り、我が部族はこれまで一度の争いも起こすことなく種族繁栄を続けてきたのです。そのストゥ=ラグラ様という神様は非常に温厚で、他の星からの来客は丁重にもてなせと我らに教えてくださいました。彼の姿を見たことのある者はほとんど居りませんが、私は族長という身分であり、司祭でもあるために何度か彼のお姿を拝見したことがございます。それはもう神々しいの一言に尽きるもので、彼こそ我らの上に立つ者として相応しいと思っているのであります。いかがでしょう? いっそあなたも我らと共に暮らし、偉大なる海の皇帝ストゥ=ラグラ様を共に崇めませんか?」
「い、いや……私は……」
「いえいえ、無理にとは言いません。あなたにも別に信仰しているものがありますでしょうし、そもそも先ほど言っていたようにご自分の星に帰りたいと申していましたし。あなたが望むのなら今すぐにでも我々と同じような体に変え、我々と同じ生活を営むことも可能なのですが、無理強いはいたしませんがね。しかしそれは残念! やれやれ! 素晴らしい生活が待っているのですが、嫌だと仰るのなら仕方がありませんな!」
「……」
私は今すぐにでもこの場から逃げ出したいと思った。私を烏賊人間にして、なんとかっていう神様の信徒にするだと? 冗談ではない。私には愛してやまず、それは最早信仰というレベルにまで昇華している対象の者がいるというのに。私には妖夢ちゃんという意中の彼女がいるというのに。
彼の話はここで終わった。この後私の住居に案内してくれるというので私と翻訳機をつけた番人のゴーントゥリウスと共にエレベーターへ入った。今度はエレベーターが昇っていく。最下層はやはり族長の家になっているのだろう。
この星の住民ゴーントゥリウス達はある神を信仰していると言っていたが、何かしらの儀式をするための施設、教会のようなものがあるのかもしれないとも思った。先ほどまでは見た目は悪いが中身は紳士的だなと思っていたが、さっきの族長の話を聞けば裏で怖いことを企んではいないのかと疑わせるような、一種野蛮な種族だと感じた。
エレベーターが昇って行き、海底から離れて行く。地上が近づくにつれ、少しずつ緊張感が安心感に変わっていった。喉が渇いてきた。おそらく緊張と恐怖の連続だったために体が疲れているのだろう。頭も重たいし、気分も良くない。せめて懐に妖夢ちゃんのドロワの一枚でも入っていれば、とても心強いのに。
昇っていたエレベーターが止まった。止まった階は海面からわずかに昇っただけのところであった。不気味で邪悪な海の底からもっと離れたいぐらいなのだが、今のところは彼らの言うとおりにする他あるまい。それから細い通路を通って、横にいくつも見えてくる扉を無視して黒い扉まで。エレベーターからここへ来るまで二十分はかかったのではないだろうか。通路はまだまだ続いており、先が暗がりになっていてよく見えない。一階層だけでどれだけの住居があるというのか。
扉の横にあるボタンを押すと両開きの扉が開放され、無機質な部屋が見えてきた。部屋の中は暖かかった。部屋の中にはベッドのようなもの、テーブル、タンス、イス、あと一枚の絵が壁に掛けられていた。また、壁には何かしらの装置がついていた。空調装置なのだろうか。天井がまん丸なのは外観が球体だからだろう。床は平らになってくれているが。小さな窓が一つついており、そこからあの冒涜的な海を見ることができた。地平線が見え、向こう側には何も見えない。他にも入り口から見て部屋の左側には扉がついていた。テーブルの上には円柱形の容器が一つと缶詰が一つ。あと何かしらの装置がった。
それぞれの家具は黒色で、何かしらの石で出来たように見える。テーブルの上にある、缶詰ではない方は透明になっており、中には透明な液体が入っている。おそらく水だろう。缶詰の方は魚か。フォークのような食器も用意されていた。
壁に掛かっている絵というのがまたグロテスクなもので、見ていると吐き気を催すようなものだった。その絵というのは水面から出てくる、烏賊の絵であった。この星に住んでいるゴーントゥリウスの絵かと思ったが、光の筋を持っていなかった。また、普通烏賊の触手というのは八本が普通なのだが、その絵の中に描かれている触手はもう無数にあった。烏賊の肌は赤黒く、ゴーントゥリウスと同じく黄色い目をしているのだが、とても大きいような印象を受ける。絵の背景には球体群の絵もあり、この家の中から見える海の底にこの絵の生物が潜んでいるのではないかと想像をかきたてられた。
「申し送れましたが、この星は地球と比べて自転が遅いのです。そうですね、あなたの星の基準で言えば一日が五十一時間三十二分十七秒ある計算になりまして。また、ここに来られるまでにわかったかもしれませんが、日光というものがほとんど届きません。なにぶん、雲に当たるものが非常に分厚い層をなしているので。それなのに寒すぎないのはあなた方の言葉で言う、太陽に当たるものが、遠いところにですが、六つあるお陰なんですよ。そのせいで日没というものが殆どわからないかもしれませんね。ですが我々は天体、天文学を研究して、その結果一日というものを定め、それを元に活動するようにしたのです」
「それはつまり、地球へ行くための乗り物の準備はあなた方の基準で四、五日かかるということですか?」
「いえ、一日二十四時間での計算での四、五日ですのでご安心ください」
「……」
私は乗り物を貸して欲しいと頼んでいる下の立場だが、この星に長くいるのは勘弁したい。かといって乗り物の準備に時間がかかるというのなら仕方がない。
だがこの球体が階層を成す建築群に近づかなければ乗り物を手に入れることすら敵わなわないのだろう。食料は例の不気味な海から手に入るのかもしれないが、魚を釣る道具を作る材料となる木材が手に入りにくいし、私の服を解いても釣り糸代わりには出来ないだろう。それにあの海のものを食べるというのも少し抵抗がある。缶詰になっているということだから、何らかの加工がされていて体に悪いものは除いてくれているだろう。そう信じたい。以前人間が来たというときも大丈夫だったと言っていたし、死ぬことはないと思いたい。
「それでは私はこれで失礼します。その左手に見える扉が、トイレの入り口になっております。今はその壁の空調装置であなた方人間にとって丁度良いと思われる温度に設定しているのですが、あなたに合わないようでしたら調整してください。あそこに見える、二つあるダイヤルのうち上のダイヤルを右に回すと暖かくなり、左に回すと涼しくなります。下のダイヤルは部屋の照明の明度を調整するためのものです。右に回すと明るくなり、左に回すと暗くなります。お休みになるときは部屋を暗くされるとよいでしょう。また、何か御用がありましたらテーブルにある、その青い装置の赤いボタンを押してください。無線機になっており、客人をもてなす係の者につながります。すぐに応答し、あなたのお力になれるでしょう。また、定期的に水と食料の缶詰をお持ちいたします。お休みのときはそのベッドでゆっくりなさってください。お暇を潰せるようなものがありませんが、そこはご理解願います。というのも、この建物内には遊ぶ施設というものがございません。我々は様々な書物を書いたりしていますが、おそらくあなたでは読むことができないでしょう。あなた方とは言語が違いますので」
翻訳機をつけたゴーントゥリウスは扉の付近にあるボタンを操作し、部屋から出て行った。ようやく一人になれた瞬間であった。私はひとまず栄養と水分補給をしなければならないと思ってテーブルについた。水が入っていると思われる容器の蓋は被せているだけの簡単なものだった。臭いは何もない。水だから当然なのだが、変な薬でも入っていないだろうかと勘ぐってしまったのだ。私は早速その水を一口飲んだのだが、嫌な辛味がしたのでそこで飲むのを止めておいた。ただ缶詰の方は特に変な味を感じなかった。美味しくはないが。それでもないよりはましか、と思ってありがたくご馳走になった。時計が壊れたままというのは非常に不便である。一日の時間が地球のそれとは違うということは、時間の感覚が狂うということなのだから。とにかく私は眠ることにしたのだが、いかんせん気持ちが落ち着かない。あの奇怪で気持ち悪い絵に描かれている、烏賊の化け物が私を見ているような気がして夢を見ることもできないでいた。仮に眠ったところでおぞましい悪夢を見てしまうのでは、と考えてしまって余計に眠れなくなる。だが気がついたころには瞼がとてつもなく重たくなっていた。
ゴーントゥリウスが説明してくれた通り、壁の装置にある下のダイヤルを左に回すことで部屋を暗くすることが出来た。さすがに疲れが溜まっているせいか、脳が睡眠を要求している。私は拭いきれない不安感を抱きながらまどろみに溺れた。
※ ※ ※
どれほどの時間眠っていたのだろうか。幸運なことに夢を見た記憶がないまま目が覚めた。気のせいか、部屋の外が騒がしい。私は嫌な予感がし、咄嗟に身を隠そうと思った。ベッドの下に隠れようか。いや、それは安直すぎる。ならどうすればいい。上はどうか。私は一か八かで扉の上にナイフを二本投げた。大きな音を立ててしまったが、二本のナイフは壁に刺さってくれた。私は出来るだけ音を立てないよう注意しながら二つのナイフに向かってジャンプし、そのナイフを掴んで懸垂し、二本のナイフの上に乗っかった。ナイフが私の体重で曲がらないことを祈る。また、壁が持たずにナイフが抜けてしまわないようにとも祈った。とにかく、ここならば万が一見つかったとしても扉からすぐ外へ逃げることが出来る。案の定、部屋の外で複数のゴーントゥリウスが掠れた声で会話していることがわかった。何のためにこの部屋に来たのだろう? 新しい食事を持ってきたにしては早すぎる。部屋の掃除に来た? いや、それでもおかしい。部屋の掃除なんて客がいないときにするものなのだから。
暫くすると四人のゴーントゥリウスが入ってきた。全員の頭の光の帯が赤色だった。彼らの手元に光るものが見えた。帯の光を反射しているらしい。目を凝らしてよく見れば、皆小さな刃物らしきものを持っているのがわかった。あれは明らかに武器だろう。断じて掃除道具などではない。掠れた声が部屋に響き渡り、必死に私を探しているのがわかった。私は見つからないことを祈りながらも、万が一見つかったら部屋の扉からエレベーターへ向かうというシミュレーションを頭の中で繰り返していた。
「十六夜さん、この部屋にいるのですか? もし居られましたら出てきてくださいませんか。隠れることはないでしょう。実はもう一つやり残していたことを思い出したのですが、健康診断をしたいと思いましてな。そのために私と来て欲しいのですが。いえ、痛みはありません。ほんの一瞬で終わるものです。地球で生きるあなたがこの星の空気を吸って将来悪影響が出ないかどうかを確かめるものでして。本当に痛みはないんです。むしろ気持ちの良いものだと思われますが! 出てきてくださいませんか。素晴らしいものが待っていますよ!」
連中のうち一人が翻訳機をつけているのだろう。口調は丁寧だが、気のせいか焦っている感情が混じっているように思えた。何が健康診断だ。健康診断するためになぜこれだけの人数が必要なのだ? 刃物なんて必要ないだろうに。もし私があの辛い水を飲んでいたらどうなるのだろうか。例えばだが、あの水に睡眠薬でも混ざっていたらどうだろう? 今頃私は奴らに連れられ行かれる、ということになるのではないだろうか。そう思うと飲まなくて正解だった、と言える。
結局彼らは諦めてこの部屋を出て行った。おそらく別の部屋、或いは別の階層に私が迷い込んだと思って探しに行っているのだろう。ならば今がチャンスだ。私はこれから族長のいる最下層へ向かい、族長を脅してこれはどういうことなのか、と問い詰めてやるつもりでいる。本当にただの健康診断なのか、私をあなた方のような烏賊人間にして異形なる神を崇拝するよう強要してくるのか、と尋ねてやるつもりだ。
お願い、妖夢ちゃん。力を貸して。妖夢ちゃんへの強い愛を胸に、意を決してナイフから降りて部屋を抜け出した。部屋を出た先で一人のゴーントゥリウスと遭遇した。しまった、見張りがいたのか! 私を見たゴーントゥリウスはすぐさま刃物を振り下ろしてきた。だがそのスピードはとても鈍く、体を全く鍛えていない人間の振り下ろしのようなものだった。ましてや私はナイフを扱う術を研究し尽くしている。素人を相手にするようなものだ。ナイフを握っている触手を切り落とし、そのまま奴の喉があると思わしき部分を切り裂いて後ろに回りこみ、ゴーントゥリウスのわき腹にナイフをねじ込んだ。水のような、無色透明の体液が足元に落ちた。ゴーントゥリウスを死に至らしめることが出来れば良いのだが、と思っていると致命傷になってくれたらしく、彼は声も上げずに絶命した。
こいつが持っている刃物をよく見てみると、それはもう酷い出来で、刃はがたがたに歪んでいた。高度な装置は作れるのに、武器を作るのは下手らしい。長い通路を走ってエレベーターを目指す。その道中八人のゴーントゥリウスを見かけたが難なくやり過ごせた。連中は私の身のこなしに全く付いて来れない様子で、雑魚もいいところである。これなら幻想郷の蟲妖怪や夜雀の方が遥かに強い。
エレベーターのあるところに到着。エレベーターの扉の付近に二つのボタンが上下に並んでいることに気付いた。私は下のボタンを押す。おそらく下に行くボタンだろう。暫く待っているとエレベーターが来たのだが、なんとのそのエレベーターには四、五十人ぐらいのゴーントゥリウスが乗っていたのだ。その中には翻訳機をつけている者も一人いた。一番奥にいる、翻訳機をつけている者はこの中のリーダー格なのだろうか。
「これはこれは十六夜さん、一体どういうことですかな? その物騒なものを仕舞って頂けませんか。そして我々と一緒に来てくださいませんか。健康診断を受けていただきたいのです。あなたのためにも」
「お断りいたしますわ。今すぐに地球へ渡る乗り物を用意しなければ、あなた達を皆殺しにしてさしあげましょう」
「いけませんなあ、十六夜さん! いけない! どうして我々の言うことを聞いてくれないのですか! これだけ優しく接しているというのに!」
「ちなみに、ここに来るまでに九人のゴーントゥリウスを殺しました。弱いですわね。大した訓練も積んでいないのでしょう。それでも私と戦いますか?」
「おとなしくするのはそちらですよ! 我々、いえ、ストゥ=ラグラ様を怒らせてしまう前に我々の言うことを聞いた方が身のためですぞ!」
掠れた怒号が響き渡る。おそらく攻撃命令を出したのだろう。大勢のゴーントゥリウスが武器を構えて突撃してきた。が、やはり動きは遅い。所詮烏賊ということだろう。おそらく地上では満足に動けないのだ。さらに彼らの敵が私ときたのだから、こいつらには運がなかったということだ。たくさんいるゴーントゥリウス達を一瞬のうちに葬り去ると、残された翻訳機をつけたゴーントゥリウスは完全に戦意を失った様子でエレベーターに座り込んでいた。怪物でも人間を怖がることがあるらしい。
「私を族長のところまで案内しなさい」
掠れた短い言葉が聞こえた。命乞いなのだろう。残したゴーントゥリウスがボタンを操作した。エレベーターは降りて行き、あの忌まわしき海底へ向かう。私をどうするつもりなのか訪ねると、やはり私を烏賊人間に改造しようと企んでいたという。また、それは偉大なる海の皇帝ストゥ=ラグラの意思でもあると言った。こいつらゴーントゥリウスは物騒な邪神に操られいる、と言っても過言ではないだろう。
海底に到着。扉の先、暗澹たる原始の恐怖を孕む通路へ進んで行く。生かしておいたゴーントゥリウスに仕掛け扉を開けさせ、その直後に殺害してやった。扉の先には槍を持ったゴーントゥリウスが四人居た。今までのゴーントゥリウスとは少し違う気配を感じた。こいつらは今までのゴーントゥリウスと違って、精鋭だったりするのだろう。気のせいか体つきががっしりしている様に見えるし、脚の運び方が上手い。しかしやはり動きは鈍く、私の敵ではなかった。奴らの槍攻撃をやり過し、あっという間に四人のゴーントゥリウスの命の奪ってやった。族長のラグンは光の帯を真っ赤にして気持ち悪い腕を床に叩きつけた。床は砕け、破片が飛び散って私のふくらはぎに掠り傷をつけた。
「お前は一体どういうつもりだ。私の仲間を殺しやがって!」
明らかに怒っているということがわかった。不気味なほど丁寧な言葉遣いをやめている。ラグンは立ち上がり、その巨体を私に見せ付けてきた。腕を振り回せば床や壁が破壊されていく。あれに殴られればさすがに致命傷になるだろう。だが相変わらず動きは鈍い。何十本もの触手が私目掛けて振り下ろしてきた。私はそれらを掻い潜り、奴の目玉にナイフを奥深く突き刺してやった。苦しみもがくラグンから距離を取り、新しいナイフを手に持つ。
「今すぐ地球へ行く乗り物を用意しなさい! そうすれば命だけは助けてあげるわ!」
「おのれ、よくも! 許さない、絶対に許さないぞ。お前は生きて返さん。偉大なる海の皇帝ストゥ=ラグラ様への供物にしてくれる」
「交渉決裂ですわね。ならば覚悟してくださいまし!」
時間停止の能力が使えない以上、ナイフを投げた後時間を止めて回収、ということができないので極力ナイフを投げないようにしてきたが、ここは止むを得ない。多量のナイフを投げて一気に奴の息の根を止めてやろう。そう思っていると、奴は呪文のようなものを唱え始めた。
「いあ! いあ! すとぅ=らぐら! くんどぅる うんぐるふ ひいどぅん うんぐあ らぐら! いあ! いあ! すとぅ=らぐら!」
直後、このドームになっている部屋が強烈に揺れ始めた。頭の中で倫理の鐘が鳴っている。今からとてつもなく恐ろしいものが現れると警告している。寒気が止まらない。歯と歯がぶつかってかちかち鳴っている。最早ナイフなんて握れなかった。いや、私は落としたナイフを拾おうとした。今の私にすがれるものはこれしかないのだから。
ドームに亀裂が入る。そして崩壊。次に起こったのは、おびただしい数の赤黒い触手の襲撃。視界に収まりきらないほどの触手達がこのドームの外からこの中に入り込んできているのだ。そしてその触手達はラグラを押し潰し、今度は私をも押し潰そうとしている。さらに海水があちこちから入ってくるために、足元に黒い水溜りが出来ている。
ラグンはこれを召喚したというか。そしてこれが、偉大なる海の皇帝ストゥ=ラグラなのか。ああ! そんな! 私は外なる神の敵になったということか! 私は最早まともな思考が出来なくなっていた。こんな形容し難い、冒涜的なものを目にすれば誰だって発狂し、意識を失うだろうに! だが幸か不幸か、私の意識は残ったままである。そうだ。私は十六夜咲夜。魂魄妖夢ちゃんの伴侶に最も相応しい女。彼女こそ唯一無二の存在。全にして一、一にして全なる者。彼女を信仰していると言い換えても良い。ミョニズム。私には妖夢ちゃんの加護がついている。こんな烏賊の神なんて、私が喰らってやる。
たくさんの触手が私のところに大挙して押し寄せ、私の肉体を一瞬のうちに砕いてしまった。だが私はまだ生きている。私の精神は不滅だ。そうだ、私を喰らうが良い。その後私がお前を喰らい返してやる。肉体が滅んでしまったので何も見えないが、気配でわかる。邪悪なるものを感じる。おそらくストゥ=ラグラがもうすぐ私を食べるのだろう。あの巨大で忌々しい黄色い目玉が私の死体を観察してから、原型が残らないほどに握りつぶしてから喰らうつもりなのだろう。ああ、冷たい。今ストゥ=ラグラの体内に取り込まれたのだろう。馬鹿な奴である。私の企みも知らずに。いい気になって。私を倒したつもりになって。さあ今からこの偉大なる海の皇帝ストゥ=ラグラの精神を乗っ取ってやろうではないか。邪悪な、黒い闇の意思が私を侵蝕しようとしている。だがそれらを押し返し、逆に奴の肉体、精神に入り込む。さすが外なる神だけあって相当な抵抗を見せた。だが信念を持って戦う私がこの程度の烏賊に負けるはずがありませんわ。私の肉体が構築、いや変わっていく。今奴の肉体を私の支配下に置いた。まだまだ抵抗しようとしいるストゥ=ラグラの精神を完膚なきまでに破壊させてしまおう。この体、力があればあの幽々子や紫には負けないだろう。ストゥ=ラグラがもがき苦しんでいる。人間ごときに精神を破壊され、その存在を乗っ取られるのはどんな気持ちだ?
この外なる神の力を以ってすればこの星から地球へ渡ることも、時間を止めることも、境界を操ることも容易いことだろう。そうか、私はこれから外なる神の一人になるのか。私は人間を辞めてしまうのか。それは困った。私は一生死ぬ人間で居たいと思っていたというのに。だが待って欲しい。こんな地球から遠く離れた星に飛ばされた時点で私に出来ることなんて限られているのではないか。だから私が人間を辞め、神になってしまうのは仕方のないことではないか? むしろ神の力を手に入れられるので、より良いことが出来るようになるのではないか?
そして今ストゥ=ラグラの精神を完全に滅ぼしし、ストゥ=ラグラの自我を消滅させることに成功した。今この瞬間からストゥ=ラグラという外なる神はこの宇宙から居なくなった。あのゴーントゥリウス達が私にひれ伏す姿が目に浮かぶが、もうこの星に用はない。今更乗り物も必要ない。私一人の力でどうとでもなる。とりあえず私は今の烏賊の姿を完全に変え、元の十六夜咲夜に戻った。空を飛ぶことは出来るし、海の中を素早く泳ぐことも出来る。
とにかく私は海から地上へ上がり、地球を探した。この地に生き残っていたゴーントゥリウス達は皆私を新しい神として崇めているようだった。勝手に崇めてもらっておこう。海中の石材を操って海底に教会を作り、そこで私への信仰を捧げさせることにした。神ということは信仰も必要になるのだから、こういうこともやっておいた方が良いだろう。前に幻想郷の外からやってきた、八坂神奈子のように。
今となれば宇宙の果てまでこの目で見ることが出来る。地球を探すことなんて難しいことではない。私はその方角へ向かって一直線に飛んで行った。ヒードゥン星を脱出し、六つの太陽を尻目にゲーシュペイリルト星団を後にした。そこから二つの銀河を抜けて地球がある天の川銀河へ。そこから太陽系へ行き、あの母星近くに到着。やはり地球は青かった。
冒涜的な角度と背徳的な速度を得、邪悪な軌道を描いて日本の幻想郷がある場所目指して大気圏突入を成功させた。待っててね、妖夢ちゃん! もうすぐ咲夜があなたの傍に行くからね!
★ ★ ★
幻想郷。今の季節は冬真っ最中であった。そこら中に雪が積もっており、今頃紅魔館は雪下ろしで大変だろう。地球の空気は美味しい。そういえば私は宇宙空間でも普通に過ごすことが出来たのだが、何の問題も無かったのだろうか? 外なる神ならば問題ないということか。
私はお嬢様に挨拶だけでもと思って懐かしいあの悪魔の館へ向かった。門の詰め所では美鈴が厚着をして門番の職務に勤めているようである。地面に降り立ち、久しぶりの地面の感触を味わった。
「お久しぶりね美鈴。元気にしていた?」
「なっ! なっ! なっ!」
「美鈴?」
「あっ、ううっ! ひぃいっ!」
なぜだかわからないが美鈴は私を恐れていた。仮にも武術の達人である彼女が私を恐れるとはどういうことなのか。
「ああ! そんな! こんなのが咲夜だって言うの! 悪い夢よ! そうに決まっている!」
「ちょっと美鈴、歓迎してくれてもいいじゃない」
そのうち美鈴は白目を剥いて口から泡を吹いて地面に倒れ、自分の喉を掻き毟って意識を失ってしまった。肩を揺すってみてもまるで反応がない。私が居ない間に紅魔館内での私の扱いはどうなってしまったのか。玄関から館内に入り、妖精メイド達に挨拶してみると妖精メイド達はたちまち叫び声を上げ、皆発狂してしまったかのように暴れまわったり、意識を失ったり、逃げたりしている。中には美鈴と同じように喉を掻き毟って意識を失う者もいた。
まるで私を化け物扱いである。窓に映る自分を見てみると、私の背後に邪気溢れる触手が冒涜的な量でおびただしい魔力を放っていた。なるほど、これで驚かせてしまっていたのか。それは悪いことをしてしまった。だが隠そうにも不定な気配を放つそれを隠しきることが出来なかった。まだ外なる神という存在に慣れていないせいだろう。とりあえずお嬢様に挨拶だけでもしなければ。紅魔館の一番高いところにある部屋へ行き、豪華な装飾が施されている真っ赤な扉をノックした。
「誰?」
「咲夜でございます」
そう言った瞬間、部屋の中から大きな音がした。私はすぐさま扉を開け、お嬢様に何かあったのではと飛び出した。なんてことはない、お嬢様が椅子から落ちただけであった。
「ど、どうやってここまで来たのよ! いえ、違う! 咲夜が帰ってきたなんてありえない! 紫によって遥か遠い星に送られたはずの咲夜が戻って来られるはずがないわ!」
「飛ばされた先の星に住む神様に侵蝕し、その力を頂いただけですわ。完全で瀟洒なメイドは偉大なる海の皇帝十六夜咲夜にレベルアップいたしました」
「う、嘘……嘘よそんなこと! ただの人間である咲夜が外なる神に打ち勝つなんて、ありえない!」
「妖夢ちゃんへの強い愛の賜物ですわ。私はこれから妖夢ちゃんを奪還しに行きます。ところでお茶を一杯頂いてもよろしいでしょうか? 宇宙を旅してきて、ゲーシュペイリルト星団の一番端っこ、暗闇と冷気で満たされた、白色の球状の建築物が階層を成しているヒードゥン星ではお茶というものがありませんでしたので。あと私はお嬢様に嫌われているようですが、今後紅魔館には近づかないつもりですので、ご安心くださいませ。ところで今は何年の何月何日ですか? 人間を辞めてしまってからどうも時間の感覚がおかしくなって、ましてや別の星に居たせいで一日二十四時間という感覚を忘れてしまいまして。そうそうお嬢様、ゴーントゥリウスというものをご存知ですか? わかりやすく言うと烏賊人間なんですが、こう、人間でいうところの頭の横に光の帯がついていて、それがピカピカ光るんですよ。機嫌が悪いときは赤に光り、機嫌のいいときは青に光るんですよ。おもしろいと思いません? まるで犬ですね。犬といえば私ですが。あとさっき美鈴に会ったのですが、彼女が私を見るなり死者を喰らい尽くす不明瞭な影モルディギアンでも見たような感じで、私を見て発狂して意識を失ってしまったんですよ。まあ彼女は妖怪ですし、死んではいないと思うのですが酷いと思いませんか? 私は見ての通り以前と変わらぬ十六夜咲夜の形を保っているというのに。え? おびただしい量の触手が見えている? 申し訳ありません、どういうわけだがこれを隠しきれないんですよ。まあ幻想郷の住民ならこれぐらいどうってことないはずでしょう。私は何ともありませんでしたし。ところでパチュリー様はお元気ですか。どうしたんですかお嬢様、顔色が優れない様ですが。大丈夫ですか。もしもし。どうして返事してくださらないのですか。どうしてさっきから私を見ようとしてくれないのですか。それにさっきから何を呟いておいでなんですか。ふむ、私がここにいることが信じられないようですね。しかし、お嬢様は仮にも悪魔の一種である吸血鬼なんですよ、もっとしっかりしてくださいませ。ああもう、涎を垂らして涙で一杯じゃないですか。拭いてさしあげましょう。それに体が震えていますね。寒いのですか。毛布でも持ってきましょうか。私がいなくなっても大丈夫なんですか? 全く、こんなことで紅魔館の主が務まるのですか。私を追い出すというのならもっとカリスマを出していただかないと。お嬢様、私の話を聞いていますか。あらあら、真昼間だというのに四階の窓から外に飛び降りてしまったではありませんか。それでは日光を浴びて死んでしまいますよお嬢様。では咲夜はお茶も堪能しましたし、そろそろお暇いたします。フランお嬢様によろしく言ってくださいませ、ってもうお嬢様は亡くなってしまわれましたか。ご冥福をお祈りします。灰は灰に、塵は塵に。さようならレミリアお嬢様」
お嬢様の部屋を後にしようというところで、廊下の先にはフランお嬢様が憤怒の表情で私を睨んでいる。何か彼女を怒らせてしまうようなことでもしたのだろうか。
「お姉様の仇!」
フランお嬢様があらゆるものを破壊してしまう手を開き、その右手を見た。あれを握られると私でも無事では済まないのかもしれない。しかしフランお嬢様は右手を握られなかった。目を見開き、右手を振り回して暴れだした。かと思えば左手の鋭い爪でご自分の右手首を切りつけ、右手を切り落としてしまった。
「なんで! こんなのおかしいよ! 目が山ほどあるなんて! こんなの私知らない! 怖い、怖いよお姉様! 助けてお姉様、私怖いよ!」
「フランお嬢様、咲夜は何もいたしません。落ち着いてくださいませ」
「ああ、まだ左手が残ってる。いっぱい、いっぱい咲夜の目が見える。握りつぶせないほどの目が一杯見える。こんなの私勝てないよ!」
「フランお嬢様、深呼吸してみましょう」
「そうだ、私もお姉様と同じところに行けば良いんだ。そうすれば怖い咲夜から逃げることが出来る。待っててねお姉様、今行くから!」
フランお嬢様まで廊下の窓から外へ飛び出してしまわれた。そして日光に焼かれ、フランお嬢様は塵となって消えてしまわれた。なんということでしょう。私は何もしていないのに、紅魔館の住民達が次々と発狂してしまいました。このままではパチュリー様にまで悪影響を出してしまいかねません。今のうちにお暇しておいた方が良いでしょう。そう思って紅魔館の玄関から出ようと思ったとき、背後から何かが飛んできたので屈んで避けた。振り向けばパチュリー様が顔を青くし、脚を震わせて必死に魔道書を捲っているではありませんか。彼女の足元には他にも数冊の本がある。その中の一つに見覚えのあるものがあるのだが……。
「パチュリー様、お久しぶりです」
「あ……あ……」
「アザトース?」
「アブラカダブラ! 魔なる者よ、ここから立ち去れ!」
パチュリー様の得意な属性魔法が飛んできた。パチュリー様が懐から出したスペルカードを次々に宣言しては私に放ってきたが、今の私には効かないようである。さらに魔道書を取っ替え引っ替えして様々な魔法を打ち込まれるが、全く怖くなかった。私が乗っ取った外なる神はおそらく烏賊というか、海洋生物なわけだから当然人間と同様燃やす、痺れさせる等色々な弱点があると思ったのだが、いずれも私に痛みを感じさせることにすら至らなかった。
「嘘よ、こんなことありえない! 咲夜が、咲夜がそんな! 助けて! レミィ助けて!」
パチュリー様は立っていられなくなったのか、座り込んでまた魔道書を色々見比べておられる。一歩ずつ彼女に近づいていくとパチュリー様はその度に私と本を見てはご自身の頭を掻き毟り、非常に焦っている様を私に見せた。
「大丈夫ですか、パチュリー様。お体の具合が悪いようでしたら自室へ戻ってお休みになってください」
「ま……まだよ、まだ私には手があるわ! ふふふ、そうよ、最初からこれを使えば良いのよ! どうせ私にはこれしか手はない! これを読まなければどうせ死んでしまう!」
「止めてください、パチュリー様!」
九十度の角度がある廊下の角から小悪魔か飛び出してきた。随分とやつれた顔をしている。何か恐ろしい目にでも遭ったのだろうか。それとも私を見ただけで健康を損なってしまったのだろうか。
「それを読んではいけません! 何が起こるかわからないんですよ!」
パチュリー様がある本を開こうとしているのを、必死の形相で妨げる小悪魔。そうだ、思い出した。あの夢の国で読んだことのある本だ。その中の一冊、ネクロノミコンだ。
「放しなさい小悪魔! どうせ私は死ぬのよ! それなら少しでも可能性のある方に賭けるわ!」
「何をお考えなのですか! それを読んだ者は……読んだ者は……」
「旧支配者の力を借りるのよ! 咲夜に対抗するにはそれしか手がない!」
「そんなことできるわけが……!」
パチュリー様はその本を開き、次々とページを捲って何かを探しておいでである。その横で本の内容を見てしまった小悪魔は周囲に突然現れた魔物に襲われた。彼女が叫び声をあげて抵抗しようとしたが、魔物達は小悪魔の体をばらばらに引き裂いて食べてしまった。そしてその魔物達は魔道書を読んでいるパチュリー様に目を向けた。
「あった! これだわ! 召喚の秘儀! これで咲夜を……え? な、何なのよ! 何かがいる! な、何よこの魔物共は! 小悪魔? 小悪魔はどこに行ったの! 咲夜、彼女をどこへやったの! や、辞めて! 私に何をするの! 私はそこの咲夜を……放して! い、痛……痛い! 痛い、痛い! 体がちぎれる! 引き裂かれる! やめて、誰か助けて! レミィ、レミィ!」
パチュリー様まで魔物達に食べられてしまった。私がその本を閉じると魔物達は消えて行った。私はその書物を燃やし、誰かの手に渡らないようにしておいた。私は何もしていないのだが、私が愛した紅魔館の住民達は居なくなってしまった。これ以上の騒ぎが起きないうちにここを出よう。万が一霊夢に怪しまれでもしたら面倒だ。
ヒードゥン星を出た辺りから考えていたことなのだが、私は妖夢ちゃんを連れて幻想郷から抜け出すつもりである。妖夢ちゃんの愛を育む場所として幻想郷はいささか不便だと思っているのだ。とにかく妖夢ちゃんに会いたくて仕方がない。次元の壁を突き破る速さで紅魔館から離れ、暗澹たる角度を以って白玉楼へ侵入。そこにはまたしても周辺を紫が警護をしていた。また私の邪魔をするのか。
「信じられない。ちょっと前に冒涜的な気配を感じたから、まさかと思ったら……本当に帰って来ただなんてね。おまけに紅魔館を壊滅させて、一体どういうつもりなの?」
「もう邪魔されるつもりはなですよ。私をどうこう出来るのなら、やってみせて欲しいぐらいですわね」
「紅魔館のことはどうでもいいって言うの?」
「私は何もしていませんわ」
「あなたが膨大な、混沌たる闇の力を手に入れたせいでしょうに。その隠しきることのできない魔なる気配を見せれば幻想郷の妖怪でも発狂するに決まっている」
「なら、あなたは大丈夫なの?」
「……これ以上この幻想郷で好き放題にはさせない。外なる神の一人になったからと言って調子に乗らないことね。ここは幻想郷なんだから!」
紫は多重の結界を張り巡らせて防御を固めた。それからいつもの様な弾幕は撒かず、私を直接狙った超高速のレーザーを撃ち出して来た。ごっこ用ではなく、殺すことを目的とした攻撃なのだろう。だが神の力を得た私にはこの程度の攻撃は痛くも痒くもない、というものだった。
「そんな……!」
「次は何をするんですか? スキマにでも放り込んでみますか? それとも私を食べますか? ちなみに言っておきますけど、私は偉大なる海の皇帝と言われたストゥ=ラグラに喰われた後、精神を食い破って乗っ取って倒したのよ。もし紫が私を食べようものなら、私は紫を乗っ取るつもりですわ」
「……」
「もう終わりですか?」
「まだよ、まだ手はある! 私はまだ諦めない!」
私の周囲に結界が張り巡らされた。なるほど、動けないようにしたいらしい。
「そのまま幻想郷の外に放り出してあげるわ!」
今度は魔方陣が私の足元に出てきた。私の足元をどこかの次元と繋げようとしているのだろう。だがどうして隙間は使わないのか。私が隙間理論を知っているから、と隙間以外の術で何とかしようとしているのだろうか。だがそれでも私には関係ない。私はゲーシュペイリルト星団の一番端っこ、暗闇と冷気で満たされた、白色の球状の建築物が階層を成しているヒードゥン星で烏賊のような生物、ゴーントゥリウスに崇め奉られている、偉大なる海の皇帝十六夜咲夜だ。その程度の小細工など通じない。お洒落に指を鳴らす仕草で紫の術を解除してやる。明らかに動揺している紫の周囲に私の瀟洒結界を張り巡らせてやった。
「この……!」
私の術を止めようとか、紫が駆け出して結界を飛び越え、私に向かって肉薄。私はお好きなように、と言った感じで紫にされるがままで居た。紫はそれはもう必死の形相で私に殴りかかってきたのだった。なんて原始的な攻撃方法なのだろう。まさか、あの境界の妖怪、八雲紫ともあろう者が自分の肉体を振り回す攻撃で私を倒せるとでも思っているのだろうか。それとも最早その手しか残されていないと相手に思わせるほど、私が追い詰めていたというのか。右、左と交互に腕を振ってくる。妖怪の力を考えると人間なら到底敵わないだろうが、やはり私は痛くも何ともなかった。
「外なる神が何なのよ! 私は負けない、絶対に負けない……負けられない!」
もっと賢いやり方もあるだろうに、愚かなことをするものだ。顔に当たる部分を殴られたところで視界が揺れるだけ。脳というものはそこにはないので、気を失うことにもならない。
「紫様!」
「ゆかりさまー!」
紫の式と、そのまた式である八雲藍と橙が白玉楼の門から飛び出してきた。今頃主人を守るために出てきたというのだろうか。遅い。遅すぎる。遅すぎますわ。
「あ、あなた達には幽々子と一緒に居るように言ったじゃないの! 引っ込んでいなさい!」
「紫様に酷いことをしたら、タダじゃおかないんだから!」
橙の方は勇ましいことに紫を援護しようとしているらしい。藍の方はどちらかというと橙を止めに来た様にも見えた。
「橙がどうしてもって……私の組んだ式を無視して紫様を助けたがっているんです!」
「馬鹿! 今の咲夜は式神ごときでどうこう出来ない存在になってしまったのよ! 今すぐ逃げなさい! さもないと……」
折角だ、面倒臭い黒猫に私の姿を少しだけ変えてやろう。左腕に当たる部分だけを人の物からストゥ=ラグラの体のようにしてみせた。残酷的な赤黒い肌で、暴虐的な気配を放つあの腕を。触手を。私の左腕はあっという間に伸びていき、周囲を取り囲む。橙は目を泳がせ、体を震えさせ始めた。そのうち座り込み、頭を抱えて周りを見ないように鬱ぎこんだ。
「ああ、そんな! 橙に式神を入れることができない! 橙の精神が崩壊して行っている……橙の、橙が狂わされいく!」
藍も体を震えさせている。私が何もしようとしないことに気付いた藍は頃合を見計らってから橙を抱いて白玉楼の中へ消えて行った。
「私は何もしていないのに。何を怖がるというのかしら」
紫ですら体を震えさせていた。さっきから何度も言うが、私は何もしていない。ただ外なる神としての姿をちょっとだけ見せびらかしただけである。そろそろ紫が抵抗しなくなったので、終わりにしてやろう。紫に施そうとしていた術を起動させてしまおう。
「そう怖がらなくてもいいじゃないですか。殺しはしないわ。幻想郷の中であなたはとても重要そうな立場に居るってことぐらい、私も理解していますわ」
なんてことはない。ただ少しの間眠ってもらうだけだ。ただ外なる神の力をほんの少しだけ試しに使ってみたまでである。術を発動させ、紫の烏賊の触手で絡めとり、少し締め付けてやった。
「いや! やめて! こんな……こんなの! やめて頂戴!」
思った通り幻想郷内で通用する術、技では外なる神の力を破ることもできないようだ。
「さて、そのうち衰弱して意識を失うでしょう。そうすれば勝手に拘束は解かれるから、それまで触手と戯れておいてください。私は妖夢ちゃんを迎えに行きますので」
「咲夜! 待ちなさ……ああっ! 離して、離して! 幽々子、藍、妖夢、橙、あなた達は逃げて……ああ!」
「さようなら、もう会うことはないでしょう」
白玉楼の門の中へ。足を踏み入れた途端、四方八方から綺麗な光の蝶々が私目掛けて飛んできた。おそらく幽々子の弾幕攻撃だ。だがやはりダメージにはならない。幽々子には人を直接死に誘う術を使えると効いたが、それも効果がないのだろう。人間を辞めてしまったのだから。
「妖夢には近づかせない! 絶対によ! 紫にも酷い目に遭わせて……絶対に許しはしない!」
「やれるものなら、やってみてくださいな」
弾幕が止んだかと思えば藍が妖怪の怪力を使って殴る蹴るの暴行を仕掛けてきた。やられっぱなしというのも好きではないので、外なる神の力を利用した結界を張った。結界には詳しいと思われる藍は何の対抗策も講じようとしなかった。出来ないに決まっていますわ。橙はどこかで休んでいるのだろう。
「あらあら、妖獣も紫同様弾幕が効かないと知れば打撃ですか。私の結界を破ってみせてはくれないかしら? それともやはり出来ない? まあそうでしょうね。これは別の星の力を使ったものなのだから」
藍は私を睨んでいるが、ちょっと姿を変えただけで目を伏せた。それを見るに見兼ねた幽々子は藍を引っ張って屋敷の一室に押し込んだ。
「あの狐は見逃してあげて。どうせあなたも何とも思っていないんでしょう」
「まあね。私は妖夢ちゃんに会えさせすれば良いのだから」
「妖夢と一緒に居たいと言っていたけど、どうするつもりなの? どこで過ごすつもりなの?」
「幻想郷の外へ行くつもりですわ」
「妖夢は特異体質なのよ。そんなあの子を外に連れ出すなんて、妖夢によくないわ」
「そうね、幽々子には話してもいいかしらね。これからどうするのか。私は地球から遠く離れたところに星を創り、そこで二人一緒に暮らすつもりなの」
「……」
「私は幻想郷に迷惑をかけない。あなた方はこちらの邪魔が出来ない。お互い得をする、良い関係になると思うの」
「断ったところで、どうせするつもりなんでしょう?」
「あら、諦めてしまうんですか? 言っておきますけど、妖夢ちゃんを持っていかれるぐらいならと彼女を殺そうと思っても無駄ですわよ。妖夢ちゃんの匂いで妖夢ちゃんがこの屋敷のどの部屋に隠れているのかすでにわかっていますし、当然時間を止めることが出来るので何かしようとしたところで何もさせずにやっつけるぐらい朝飯前ですわ」
幽々子はとうとう泣き崩れた。泣くほど私と妖夢ちゃんの門出を喜んでくれているのだろうか。最早幽々子は私の邪魔をしようともしなくなった。紫ですら完膚なきまでに打ち倒すことが出来た私なら、最早幻想郷では敵なしだろうな。当然幽々子にだって負ける気はしない。唯一の不安要素と言えば博麗霊夢だが、彼女が妖夢を守るために動く可能性は低いだろう。
靴を脱ぎ、黒いタイツに包まれた足で白玉楼に上がり、妖夢ちゃんのいる方角へ向かう。私は妖夢ちゃんを驚かせてしまわないようにと、烏賊の腕を隠した。一歩、二歩と妖夢ちゃんに近づいていく。襖を一枚超えるたびに胸の高鳴りが激しくなっていく。妖夢ちゃんの匂いが強くなってきた。近づいている証拠だ。そして残り一枚の襖。この先に愛しい妖夢ちゃんが待ってくれている。長いこと待たせてしまったわね、妖夢ちゃん! さあ素晴らしい毎日を過ごしましょうね!
「死ね!」
最後の襖がこちらに吹き飛んできた。かと思えば高速で動くものが見え、それが私のお腹を斬りつけた。妖夢ちゃんが刀を抜いたのだろう。もっと斬ってくれて良いのよ。斬られたお腹から例の触手が剥き出しになってしまった。
「ひ、ひいぃっ!?」
「あらあら、ウフフ」
妖夢ちゃんを怖がらせてしまった様なので、慌てて触手達を隠した。妖夢ちゃんは畳に座り込んでいて、立ち上がることが出来ない様子だった。
「安心してね妖夢ちゃん。もう大丈夫。咲夜がずっと、ずっと一緒に居るからね」
「いやあああああああああああああぁっ!」
刀を振り回して抵抗している。無駄な抵抗をする妖夢ちゃん可愛い可愛いって深淵の奥深くで愛し合いたいですわ。万が一この宇宙が消滅してしまうということになれば外宇宙へ逃げるだけですわ。そうして逃げた先の宇宙も滅んでしまったら、また新しい宇宙へ逃げるだけ。逃げる先の宇宙が全て亡くなったのなら新しい宇宙を作り出すだけですわ。これから先どんな者が私と妖夢ちゃんの恋路を邪魔する者が現れようとも、二人の愛をもってすれば絶対に負けることはない。たとえ沸騰する混沌の核アザトースが現れようとも私は妖夢ちゃんを守り、戦いに勝利すると誓う。
いつの間にか気を失っていた妖夢ちゃんを抱え、触手で包み込んでこの幻想郷、地球から飛び出した。さあこれから二人で暮らす星を創りましょうね。星の名前は何にしようかしら。ン・キョウーソ・ゲなんてどうかしら。大地には妖夢草と咲夜草が生えていて、咲夜草と妖夢草が愛を育むの。海中では咲夜魚が妖夢魚を追いかけているの。空では妖夢鳥と咲夜鳥が群れを成して空を飛びまわっているの。私と妖夢ちゃんはエメラルドで出来た神殿で暮らし、二十四時間ずうっと一緒に居るの。地球での暮らし同様一日二十四時間に設計するし、太陽も一つだけだし気温も同じぐらいにするから妖夢ちゃんも快適に過ごせるはずですわ。
文明を発達させたいのであれば私と妖夢ちゃんで子作りして、その子供に知識と知恵を与えて色々作ってもらえば良いのよ。万が一妖夢ちゃんが死んでしまっても魂は幻想郷に還らずにこのン・キョウーソ・ゲに留まることになるから、すぐに転世させてあげますわ。私が肉体を作り出すから、そこに妖夢ちゃんの魂が入れば良いだけ。もしも入ってくれないというのであれば、魂のまま愛でるから何も問題ありません。地球を含む銀河から抜け出し、そこから八つの銀河を超えた先で新たな銀河を作り出した。太陽を作り出し、丁度言い場所に私達が住む星を設置。
「妖夢ちゃん、あそこに白色の星が見えるでしょ? あそこが私と妖夢ちゃんの愛を育み続けるところよ。素敵でしょ? え? 嫌? 妖夢ちゃんなんでそんなこと言うの? 色が気に入らないの? じゃあ好きな色を言って。妖夢ちゃんの好きな色に創り変えるから。妖夢ちゃんなんで何も言ってくれないの? それじゃあ妖夢ちゃんの服のイメージの、緑色に変えるわね。ほらほら、もうすぐ着くわよ。気に入ってくれたら良いんだけど……え? 死にたい? 妖夢ちゃんなんでそんなこと言うの? それじゃあ妖夢ちゃんお祝いしましょうか。これから万劫の時をここで過ごすお祝い。ここで初めて私の夢が少しだけ叶うのよ! 地下水からお酒が湧くようにしておいたから、好きなだけお酒が呑めるのよ。当然水も沸くから、問題ありませんわ。食べる物がない? そんなものこの星では必要ないように出来ているのよ。ここの空気を吸っているだけで肉体を維持する栄養が補給できるの。素晴らしいでしょう? ほら妖夢ちゃん、お酒を呑んだ後はベッドでまぐわいましょうよ。ねえ何で逃げるの? 私の星の上で私から逃げられるとでも? 妖夢ちゃんを私の隣に移動させるぐらい朝飯前ですわ。そういえば食べ物が不要になるということは食べる楽しみが無いということになるのね。それはそれでつまらないわね。キッチンを造っておいて作物や家畜も生産できるようにしないと料理は出来ないわね。これから色々忙しくなるけど、妖夢ちゃんとちゅっちゅしていればいくらでも元気が湧くから咲夜は大丈夫! 妖夢ちゃん私の話聞いてる? 聞いてない? じゃあ聞いてくれているのね。ところで妖夢ちゃんセックスしない? ちゅっちゅだけで我慢するというか、ちゅっちゅすれば自分を抑えられない気がするからねちょねちょもしたいのよ。ねえ妖夢ちゃん子作りしましょうよ。大丈夫、私に男性器を生やすから問題はありませんわ。避妊具なんで要らないでしょう? もし子供が出来たら育てれば良いだけなのだから。え? いらない? じゃあ空気を吸っているだけで子供が生まれないようにしておかないといけないわね。そうなるとセックス中に何度も何度も妖夢ちゃんに中出ししちゃうけど、良いわよね? だって男の人のを生やしたら興奮してきて、妖夢ちゃんの幼い秘所に私の剛直を淫靡な角度でねじこんで背徳的な速度でピストン運動をし、宇宙の神秘を感じながら快楽の射精をしたくてしたくてたまらないの。妖夢ちゃんなんで泣き出すの? 嬉しくて泣いてるの? そうよね、そうなのね! 妖夢ちゃん泣いて喜んでくれるなんて、咲夜がんばっちゃう! でも今日は一回だけにしておきましょうね。記念すべき最初の性交。妖夢ちゃん、ずっと一緒に居ましょうね。もう離さない。この星でずっと暮らすの。もう紫や幽々子の邪魔も入らないし、万が一紫が境界を破ってこの星に侵入してきたら私が全力で追い払うから安心してね。ところで妖夢ちゃん、妖夢ちゃんの口から咲夜を愛してるって言葉を聞いたことがないんだけど、言って欲しいな。え? 死んでも言えない? 妖夢ちゃんウフフ。まだまだ時間はいくらでもあるから、焦りませんわ。そのときまで、またそれから、その後もずっと私と一緒に居ましょうね」
神になった狂人の標的になった者は不幸と感じることすら能わない事になりますが、
それ以外には、ちょっかいを出さない限り害はないので静観するより他ありませんね。
さくみょんよ、永遠なれ!!
巻き込まれるのはごめんだ。
この咲夜に勝つには龍神様クラスがいるんじゃないかなぁ?
誰かがみょんを助けてくれるのを祈ろう。
いや、俺は嫌ですよ。
狂っていく幻想郷の住民も、頭のおかしい咲夜さんも、とても愉快でよかったです。
冒涜的な角度でもいちもつをねじ込むべき。
↑これが全てを物語っている。
愛=エロス ANS>みょんは可愛い
みょんが全ての元凶だった。咲夜の行動にはなんら矛盾するところがない。
いやあまさかここまで深いクトゥルフを見ることが出来るとは。確かにクトゥルフのチート達相手じゃ紫も勝てないでしょう。圧倒的狂気、圧倒的物量、圧倒的能力の前じゃ幻想郷の少女なんてゴミ同然でしょう。
すばらしかったです。
いあ!いあ!くとぅるふ!ふたぐん!
なんか最終的には仲良く茶でものんでそうな気がしますwww
いあいあ くとぅるー ふたぐん
これほどの大作をかける作者のさくみょん愛には誰も勝てないな……
原作寄りな女の子口調の妖夢ちゃんも可愛い
妖夢ちゃんもここまでやられたらそろそろデレてあげていいんじゃないかな
いつも幽々子とかに妨害されてたし
>NutsIn先任曹長さん
その通りです。彼女の邪魔さえしなければこちらには何の被害もない、安全な外なる神なんです。
>糞団子さん
これぐらいしないとやはり八雲紫、西行寺幽々子は倒せないんです。
>おにくさん
クトゥルフクトゥルフしていたみたいで良かったです。
書き出してからぱっと思いついたんですが、思っていたより冒涜的になってるみたいで。
>4の人
ようやくぶちこまれることになりました。
>5の人
咲夜ちゃんの行動は全て妖夢ちゃんへの愛に帰結します。
>6の人
そこは各々の解釈にお任せしたいですね。自分としては妖夢には折れて欲しくないです。
>アレスタ海軍中尉さん
いあ! いあ! 上にも書きましたが、幻想郷にいる以上咲夜のスペックでは紫、幽々子に勝てないと思うんです。いままでの自分の作品では咲夜は幽々子に負けていました。
>9の人
余裕は全然ないような感じにしたんですが、緊迫感が足りなかったんですかね?
>10の人
愛は偉大なんです。
>11の人
若干アレな書き方だったかもしれませんが、最後だしということでアレな感じに。
>12の人
そこまで言っていただけるとは! 100KBを超えていないので、長編とまではいかないと思っています。
>>13の人
そうなんです! 今回(いつものように無理やりですが)初めて結ばれたんです。
前のホラー企画で投稿した奴も自分の中では幽々子が妖夢を守って終わるんです。
妖夢の後ろには幽々子という強力な保護者がついているので、これぐらいバランス壊れるようにしてやらないと咲夜では幽々子には勝てないと思うんです。
>んhさん
これからも書き続けます。ありがとうございます。
それ書いたのも俺です。
それが一番あらわれてるのが咲夜と妖夢in妖夢草作成装置の会話だと思います。この場面、すごくとんでもない状況なのに妖夢も咲夜もどこか落ち着いて感じられるんですよね。「色々考えさせて」とか「今夜一晩くら一人にしてもいい(意訳)」とかこんな状況なのにやたら悠長な態度のように見えてそれがすごく面白かった。
まるで咲夜ボケ妖夢ツッコミの漫才を見てるような感じっていうのか……お前ら本当は仲いいんじゃねえのwww という気持ちになったのは確かです。
そういう見方のもとに僕はこの作品が本当にとても大好きなのですが、よく考えてみると作者の意図に反する読み方だったかもしれないですね……まあ、こういう読み手もいるということで……
>こういう読み手もいるということで
そうですねー。というか、そこまでかしこまらなくても良いんですよ!
この作品でメイド長が好きになりました
愛ってすげえぇ