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『火炎と火焔』 作者: 隙間男
藤原妹紅は地霊殿に赴いていた。傍らには上白沢慧音の姿もあった
もともとは湯治も兼ねた一人旅のつもりだったのだが慧音が心配してついてきたのだ
しかし、もともと永く1人ですごし、各地を転々としてきた妹紅にとって今回の旅において慧音は邪魔者の他なかった
『一人旅は一人でするもの』が妹紅の信条なのであった
「湯治は一人でするものだろ・・・こうゆっくりと風呂に入ってだな・・・」
鬱屈とした様子で一人呟いたつもりだったがそれは隣にいた慧音の耳に確かに聞こえていたようだ
嬉々とした様子でこう返した
「湯治ねぇ・・・そんな年でもないだろう」
「それは見た目の話だ」
「肉体的に若いんだろ?まあ精神はどうか知らないんだがな」
「・・・・・・・・」
視線に卑しさが混ざってきたのに気づき、さっと距離をとる妹紅
しかし慧音は離れたままの距離で別につめようとはしなかった
「話は変わるが灼熱地獄跡と言うものを見たくてな」
「この前の騒動でここにきた巫女の話が頭から離れなくってな」
「・・・さらに下に行くのか?」
妹紅はさらに鬱屈とした様子で返した
もともと湯治の予定だったのにこれでは疲労が増すばかりではないかと思考する
しかし、いまさら慧音の意向を無視するのも頂けないと感じ
「仕方ない、付き合うよ」
あっさりと了解してしまった
灼熱地獄へとつながる道を歩いている2人に妖しい影が忍び寄る
「・・・灼熱地獄の見学ですか?」
古明地さとり。地霊殿の主にして心を読む程度の能力をもつ少女
当然今の発言は2人の心を読んだ上での発言なのだろう
「そうだよ、なんならあんたもくるかい?」
「いえ、結構です」
「そうか、残念だな」
「ただ、忠告しにきただけですよ」
「・・・・・・・猫と鴉には十分気をつけることです」
猫と鴉。さとりのペットである火焔猫燐と霊烏路空だ
2匹とも、地霊殿の主であるさとりよりも最近は地上に親交が深い
「・・・恐れる必要もないね。自分のペットを買いかぶりじゃないのかい?」
「・・・そんなことありませんよ。どちらにせよここから先は自己責任で」
「忠告だけは受け取ってやるよ」
「そうですか、私はここで失礼しますね」
軽い会釈の後、さとりは地霊殿の方角へと引き返していった
(まあ、不死なら大丈夫そうですがねぇ・・・)
跡地とはいえ、灼熱の名を冠する地獄は二人を熱風とともに迎え入れた
その熱は『人間』である二人の体を軽く炙った
妹紅も不死であるという点以外では、普通の人間に近いものなのである
「水・・・飲んでくればよかったかなぁ」
「激しく同感だな。喉が渇く渇く」
殺風景な岩とマグマのみが支配する世界で二人だけが存在しているのかと思ったが、どうやらそうでもないようだ
妹紅は遥か先の高台に火車を運び、死体を火口に放り込む少女を見逃さなかった
火炎猫燐、死体を持ち運ぶ程度の能力を持つ少女である。もっぱら最近では死体を作って運んでいることもあるのだが
「おーい、そこのあんた、何やってんだい?」
聞き取れていたのか、少女は高台から覗き込み、こちらを見てこういった
「おねえさんどうしたの?」
「ただの地獄見学だよ」
そう言うと、少女は高台から降りて、こっちに寄って来た
「ふぅん、強いの?」
「それなりにな」
「なら、あたいと戦ってもここに放り込むことはなさそうだね」
「ああ、確実にないな」
「なら、勝負しても問題なさそうだね」
「やけに好戦的だな、発情期か?」
「年中こうだよ!」
会話が終わるか終わらないかのタイミングでお燐が猫車を振り回し、妹紅の横腹にぶつける
内臓のひしゃげる音と骨の砕ける音が辺りに響くと同時に中に入っていた死体が零れる
零れた死体は、通常の数倍膨らんだ頭と飛び出た眼球で妹紅を見上げていた
しかし、寸でのところで妹紅は踏ん張り、転倒することを避けた
ここで転倒すると間違いなく相手は追撃に入り、嬲られるだろう
そうなればいくら不死とはいえ精神の消耗は避けられない
「いい音だねおねえさんまるで肉体アンサンブルだよ。アタイはここまでいい音出したのはおねえさんだけだと思う」
「それは結構、ただアンサンブルは見知った3姉妹のほうが上手でね」
「へぇ、それは一回聞きに行きたいね」
「ああ、きっと気に入るさ」
「それにしてもよくたって居られるね」
「あいにく不死でね」
「不死だからって立っていられないよ普通」
「ポテンシャルの差だよ」
「へぇ、ますます楽しめそうだね」
「おい、妹紅そこまでだ」
慧音が割って入ってきたが、それも一瞬
「邪魔しないでほしいんだけどね」
今まででも手加減していたであろう、お燐が牙を剥いた。それは、今まで2人に見せていた目とは違う、本物の猫の目であった
お燐は近づいてきた慧音に対して、瞬時にノーモーションで蹴りを放った。それは、圧倒的な威力で慧音に牙を剥き、襲い掛かる
慧音はお燐の蹴りをモロに側頭部に喰らい、脳震盪を起こし気絶した
鼻血と目、耳からの出血が地面を染め上げる
「慧音!大丈夫か!!」
悲痛な叫び声を上げ、妹紅は慧音に駆け寄り、抱き起こした
「慧音・・・慧音・・・」
しかし起き上がることも無く、ただ瞳を閉じ沈黙するばかりだ
仕方が無いので、妹紅は岩陰に慧音を運び、安静にさせた
今度は声を掛ける対象をお燐に変え、問いかける
「今何をしたんだ?」
「何って、蹴りだよ」
「そうじゃない、何故蹴ったのかと聞いてるんだ」
唯一信用している人物を足蹴にされたことで、妹紅の怒りのボルテージは最高潮に達していた
しかし、あくまでも彼女の返答は飄々としていて、かつ相手の怒りを煽るものであった
「おねえさん気が動転して日本語変になってるよ」
「構うもんか、どうやら死にたいようだな!」
激昂と同時に放った炎はお燐を覆い、消し炭にしたかと思ったが
ただの死体にいつの間にかすり替わっていた
その死体ですら消し炭はおろか蒸発させた
その瞬間に鋭いパンチが妹紅の腹部を捕らえ、常人の目には捉えられない速度で貫いた
内臓の損傷2割、背骨は粉砕。常人なら苦悶の末息絶えるであろうが死亡という概念が蓬莱人には無い
しかし痛覚はあるので顔を歪めながらも勝利の笑みを浮かべているお燐の腕を掴む
驚愕8割、恐怖2割と言った顔で少女は顔を歪めた
「油断したな」
「・・・・・ッ」
拳に炎を纏った妹紅のパンチは掴んでいる方の腕をへし折り、そのまま粉砕した
炸裂と同時にお燐は後方へと跳び退き、追撃を免れた
拳が炸裂した腕自体は断裂し、神経や血管は焦げて痛みを感じさせず、また、出血もしていなかった
しかし、その見てくれは実際のダメージとは裏腹に凄まじく、手っ取り早く言えば焼死体を彷彿とさせるものであった
さらに断裂した腕からは血管と神経の束が無数に飛び出していた
肉体の焦げる独特の香ばしい匂いが鼻をツンと突き抜ける
「・・・・・・ッ・・・図ったねおねぇさん」
「さて、なんのことやら」
妖怪とはいえ人の形を取っている限り急所と言うのは人間と同じ場所にある
しかし、パンチの瞬間、お燐は片手を自由に使える状態だったので、容易に頭部を狙うことはできなかった
そこで、敢えて刺さって動かせない腕を潰すことにより攻撃の自由と選択肢を奪いとることにしたのである
妹紅は突き刺さったままのお燐の腕を自分の腹から抜き取った
各種内臓の欠片、腸が零れ落ち、周辺の地面を紅く染める
それは溶岩の赤と折り重なり、真紅の憧憬を描き出した
妹紅はそれら全てを一瞥し、はみ出した内臓を根元で千切り、地べたに投げ捨て残りは腹の傷口から押し込み入れた
その瞬間から、妹紅の肉体は凄まじい速度で再生を始め、直ぐに元の陶器のような白い肌へと再生を遂げる
違う点と言えば着ているモンペに少し穴が開いているという点だろうか
傷があった場所をそっと撫で、正面のお燐へ目を向けると、お燐には妹紅の瞳の中に冷たく、それでいて燃え盛る炎が灯っていたように感じとれた
しかし悪魔でもお燐は余裕をかました表情で神経を逆撫でするかのような一言を放つ
「ようやく本番ってところなのかな?」
「さあ?それはお前がその体で感じ取ることだ」
「まあせいぜい死なないように足掻くんだな!!」
ここから先は圧倒的に妹紅の優勢であった
一応人間なので基本的能力はそこらの人間と大差ないものであるが、圧倒的な戦闘経験の差と不死と言うことが圧倒的優位に妹紅を立たせた
攻撃を全てかわし、隙あればカウンター
猫車は普段両手で操っているので隻腕では上手く操ることはもっぱら難しい
妹紅が妖術すら使うまでも無く追い詰められていくお燐
お燐の体力は限界まで削られ、誰の目から見ても限界が近いのは容易に理解できた
所々の肉はパンチの威力で削ぎ落とされ、所々骨が露出し開放骨折していた。また、内出血による痣は見ていて痛々しい
限界を超えたお燐はまだ負けを認めていなかった。だから妹紅も意固地になってただひたすら殴り続けていた
そして決め手となったのが、疲弊したお燐の頭を掴み、岩壁に叩きつけると言う単純かつ強烈な一撃だった
凸凹かつ尖った箇所もある岩は顔を傷つけ、鼻をへし折った。妹紅はこの一撃がお燐のプライドを粉砕し、心を折ったと確信した
かに見えた
「ああ、強いねおねぇさん」
「だろ?早く負けを認めてお家にかえることだな」
「・・・お家に帰るのはおねぇさんのほうだよ、まあ、帰さないんだけどね」
「丁度準備ができたところさ、勝ったとでも思った?」
鮮血に塗れた顔で妖しい笑みを浮かべまるで今から世紀の大ギャンブルでも行うかのような発言を行う
相当な自信があるのだろうか
今の笑みに嫌な予感を感じた妹紅はお燐の顔面を何度も何度も何度も踏みつけた
そのたびに嫌な予感は増していきもうこれ以上ここに居たくないと妹紅が感じたとき、お燐の手が足首を掴んだ
そして、急速冷凍された頭で周囲を見渡したとき、その周辺には無数のゾンビフェアリーが漂っていた
お燐はよろよろとした足取りで立ち上がると、満面の笑みでこう言い放った
「おねぇさん力はそんなに強くないね。大体普通の人間よりすこし強いくらいだと思うよ」
それはお燐が直ぐ近くで鬼を見る機会が多く、それが一般的な感覚を鈍らせているだけで、実際はそこいらの妖怪より妹紅の腕力は圧倒的に強い
冷や汗が妹紅の背中を伝った
無数のゾンビフェアリーは妹紅の体を押さえつけ、瞬く間に身動きが取れないようにしてしまった
「さて、今から死体を作る仕事がはじまるよ」
「言っておくが私は不老不死だぞ」
「だから都合がいいのよ」
「おねぇさんなら、あたいの理想の死体になってくれるかも知れないわ」
そう言い終わるか終わらないうちに掌から炎を放ち、フェアリーの一匹を焼き殺す
が、結局のところ意味が無いものだった
灰の中からフェアリーは再生し、凄まじい速度で体を押さえつけてきた
刹那、妹紅の思考はパニックに陥り、正常な判断は困難となってしまった
それは同時に、妖術の行使が困難となることを意味していた
「・・・・・・ッ」
「図ったのはお互い様でしょ?」
「さて、おねぇさん」
「あそびましょ」
そういい終わるか終わらないうちにお燐は片腕で器用にずたずたに妹紅を引き裂いた
猫の妖怪であるがためにその爪は鋭く、全てを裂く
言いようの無い悲鳴が地底の底深くを染め上げていく
しかし不死であるがために死ねず再生していく妹紅
そこにお燐は傷が再生する前に石や砂などあらゆるものを詰め込む
再生する前に肉体に挟むことにより、それらの異物は巻き込まれ、肉体に織り込まれていく
当然、間接にも織り込まれている。それは変形し、間接としての役割を果たさないだろう
無様にも妹紅の肉体は所々膨れ上がり、醜い様になっていた
まさに現代アート、お燐は肉体をアートへと昇華させたのだ
もはや声にならない悲鳴を上げ、涙を流す妹紅
不老不死とはいえ思わぬ所に落とし穴があったものだと、妹紅は自らの浅はかさにただ涙するしかなかった
そんな心境とは裏腹にお燐は妹紅の耳元で甘い囁きを口にする
「おねぇさん、あたいがずっと一緒にいてあげるよ」
「そして、ずっと死体として愛でてあげる」
「これでフィニッシュだよ」
そう呟くと、岩陰で気絶している慧音のところへと歩み寄り、その頭を妹紅の目の前で思い切り握りつぶした
脳漿と鮮血が眼前を染め上げ、妹紅の精神を黒へと引きずり込む
その光景が、妹紅の1000年を超える人生の中でもトップクラスに理解しがたい光景だったのは言うまでもない
「慧音・・・?えっ・・・?」
「嘘だろ・・・?なあ・・・」
「何で頭無いんだよ慧音・・・」
「そりゃ何でって、あたいが握りつぶしたんだよおねぇさん」
その事実を半ば理解し、ようやく慧音が死亡したということが理解できたとき、妹紅の精神はいとも容易く崩れ去った
獣のように吼え、炎を纏う妹紅、だが精神がぶれているせいか、妖術はまともに発動しない
「決着だねおねぇさん」
「御傷心のところ悪いけど、『これ』捨てさせてもらうよ」
首なしのそれを火口へと投げ入れると、発狂した妹紅の首根っこを引きずり自室へと戻ろうとしたところで、ふと岩陰に気配を感じた
その気配にたいして、お燐は結果と結論を述べる
「心が壊れた人はもはや死体同然だね」
「そう思わない?お空」
そう岩陰に声を掛けると、鴉の羽を持つ少女が出てきた
霊鳥路空、核融合を操る少女である
お空は、鬱屈とした表情でお燐を咎めた
「こんなことして、もし地上との関係が悪化すれば矢面に立たされるのはさとり様だぞ」
「そのときは、皆殺しちゃえばいいのよ」
「それより、あたいの腕知らない?」
お空は、やはり憂鬱そうな表情でため息をつき、思考に耽った
(これから先、とんでもないことになりそうだなぁ)
パチリ。限りなく小さいシャッター音が響く
その音は直ぐに激しい火山活動と溶岩の流れる音でかき消されたが、音の主に冷や汗を掻かせるには大きすぎるくらいだった
(あややや・・・これは大変です)
(急いで山に戻って記事を書かないと)
音の主は射命丸文。彼女は2人が地霊殿へ旅行へ行くとの噂をどこからとも無く聞きつけ、2人をつけまわしていたのである
幸運か不運か、今まで誰にも見つからなかったわけだが・・・
(とにかく、急がないと!)
そう思うや否か、彼女は凄まじい速度で飛び立ち、音を置き去りにした
残った2人がそれに気づき、警戒をしたとき彼女はもう遠く離れてしまっていた
そして、彼女が書いた新聞が幻想郷全体を巻き込んだ騒動に発展するのはまた別のお話
隙間男と申します。初投稿です
日本語や文章がおかしいところが多々あると思いますが、ご理解いただけるととてもうれしいです
ここに来たのも最近ですし、他の作者様たちの作品の2番煎じになってしまうかもしれませんが、ご了承ください
べ、別にそれが心配でビビッちゃって2日くらい投稿に悩んだなんてこと無いんだからね!
・・・すみません嘘です本当はかなりビビッてました
この作品をシリーズ化してもいいんですが、そんな実力が今の自分に無いことに気がつきましたorz
何がともあれ、これからよろしくお願いします!
PS.お燐の太ももぺろぺろしたい(肉食的な意味で)
隙間男
- 作品情報
- 作品集:
- 3
- 投稿日時:
- 2012/03/18 01:50:01
- 更新日時:
- 2012/03/18 11:00:17
- 評価:
- 4/6
- POINT:
- 440
- Rate:
- 13.29
- 分類
- グロ
- 妹紅
- 慧音
- さとり
- お燐
- お空
- 文
二番煎じ、良いじゃないですか、テーマが一緒でも内容はまったく違うのですから。
自己責任とはいえ、戦闘に参加していない者を手にかけ、スペルカード・ルールを無視した攻撃を行なったお燐は討伐の対象になりますね。
貴方の作品のお空は思慮深いようですから、主人であるさとりにも迷惑をかけないように、
最小限の犠牲で手打ちを行うかもしれませんね。
続きはよ!