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『ドヤ街の魔理沙』 作者: 魚雷
魔理沙が眼が覚ますと、目の前にはヤニが染み付いた薄汚い天井があった。
天井に頭をぶつけないように、カイコ棚の2段目からハシゴで降りる。
同室の人間達はもう出掛けてるようだ。
港湾の仕事が入ったと言ってたので、朝早いのだろう。
部屋を出て、タオルと石鹸を持って共同洗面所へと向かう。
顔を洗う。冷たい水が気持ち良い。
「仕事を探しに行くぜ・・・」
部屋に帰り、ボストンバッグを引っ掴む。これが今の魔理沙の全財産である。
白黒の魔法服は一番下に大切に詰めてある。あとは汚れた作業着と生活用品だ。
フロントのおばちゃんに「世話になった」と言い、ドヤを出て行く。
宿賃の700円は前払いしてあるし、鍵はもともと無いので返す必要は無い。
職安センターに向かうと、ビラを貼った何台ものワゴン車が列をなしていた。
「7000円 要・玉掛け技術」
「6000円 道路掘削」
「××県 15日10万円」
探してるうちに、目眩と立ちくらみを覚える。
「そういうえば今日は生理だった・・・力が出ないぜ」
今日はもっとマシな宿に泊まって、一日休むことにした。
近くの銀行へ行き、通帳を記入する。
ユ)コウリンドウから1万円の振込みがあった。昨日電話で金を無心した甲斐があった。
魔理沙にとって、まだ住所があった時に作ったこの口座が、今は唯一の頼りだ。
切羽詰れば、このキャッシュカードと通帳を他人に売らなければならない。
1万円を全額引き出し、ポケットに入れる。口座残高はまた0円に戻った。
1300円の個室・大風呂つきのドヤに向かい、チェックインする。
ドヤは早い時間帯からチェックインが可能である。早くは7時からという所もある。
宿賃を前払いし、鍵のデポジットとして1000円を預ける。
部屋に入り、そのまま倒れこむように布団に埋もれる。
2.5畳のスペースに、布団・テレビ・灰皿だけが置いてある部屋。
眠りに入ろうとしながら、魔理沙は昔の事を思い出していた。
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その日はいつものように魔法の研究に没頭し、昼間まで遅寝していた。
チャイムが鳴るので寝ぼけ眼で扉を開けると、郵便屋から封筒を渡された。
差出人は紅魔館となっていたので、中を開けた。
小難しい単語ばかりで魔理沙はよく理解できなかった。
原稿用紙のような用紙に書かれていたのも、魔理沙にとっては謎だった。
国語辞典で単語を調べつつ、なんとか読んでみると、
要は「盗んだ本を返せ、破壊した紅魔館の施設を弁償しろ」ということらしい。
いつもの事だと思って、すぐコミ箱へと放り込んだ。
しばらくして、また郵便が届いた。
今度は「特別送達」と朱印が押してあった。
内容を見るとまた紅魔館の名前があったので、
ろくに読みもせずゴミ箱へと放り込んだ。
ある日、家に帰ってみると、ドアが開かなかった。
ドアに特殊な結界が貼ってあり、どうやっても開かない。
ドアの扉には「債務者 霧雨魔法店こと霧雨魔理沙・・・競売・・・」
と書いてある文書が、ピッタリと貼り付けられている。
ガラス窓から家の中を除くと、部屋の中にあらゆる物に封印が貼られていた。
八卦炉・大切な魔法道具・ベッドに至るまで、すべて封印が貼ってあった。
急いで霊夢のところに駆け込んだが、
「これは魔理沙と紅魔館との関係でしょ?博麗神社は介入できないわ」
「あんたの自業自得よ」
と追い返された。
人里に日払いの仕事がもらえる所があると聞いて、魔理沙は向かった。
はじめ来た時は、界隈全体のひどい臭気に胸がムカムカした。
しかし今はもうその臭いにも慣れてしまった。
もしかしたら、今はもう自分もその臭気を発しているのかもしれない。
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薄っぺらい布団の中で、魔理沙は目を覚ました。
体調はだいぶマシになったようだ。もう夕方、腹が減っている。
今日は確か炊き出しのある日だった筈だ。
しかし今の時間はもう行列が出来てるだろう。並ぶのも面倒くさい。
スーパーで値引きシールのあるパンを買って、夕食は済ませよう。
薄いベニヤ板1枚へだてた隣部屋からは、男の大イビキが聞こえてくる。
反対側の隣部屋からは、誰かがスナック菓子を食べる音がしている。
魔理沙は「いつか、いつか・・抜け出してやるぜ」と声を押し殺してつぶやいた。
本当は、大声で叫びたかった。
- 作品情報
- 作品集:
- 3
- 投稿日時:
- 2012/03/21 23:25:50
- 更新日時:
- 2012/03/22 19:23:37
- 評価:
- 6/12
- POINT:
- 750
- Rate:
- 12.92
- 分類
- 魔理沙
- 新今宮
深ければ深いほど。汚ければ汚いほど。
聞きなれた単語が出てきて妙にビビったww