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『ドヤ街の魔理沙 2』 作者: 魚雷
魔理沙は、今日も薄い布団の中で目覚めた。
仕事を探しに、センターに行く。
あるワゴンに目が留まった。
「鉱山採掘 住居・食事付飯場 12000円/日」
いかにも怪しそうな手配師が、横に立っている。
おいしい仕事だと思った一方で、危険なのだろうとも思った。
魔理沙は悩むのが嫌いなので、ワゴンに乗った。
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人里の通りを、ワゴンは進んで行く。
どこかで見覚えのある道だと思った。
当たり前だ、ここは私が育った近所じゃないか。
もう何年も来ていないので、忘れかけていた。
今すぐこの車を降りて、父親に土下座して謝りに行こうか。
そんな考えが頭をよぎった。
前に見える角を左に曲がれば、すぐ懐かしの実家がある。
そのとき運転手がおもむろに、左ウインカーを出した。
「ガシャ」
車内にカチ・・カチ・・と音が響く。
その音の一拍一拍が、頭の中を叩いてくる。
無意識のうちに、魔理沙は車のドアに手を伸ばしていた。
車は減速し、左カーブをゆっくりと曲がりきった。
魔理沙は眼を大きく見開いて、窓の外を見た。
そこには遠い記憶にある霧雨店は、無かった。
コインパーキングがあった。
「ガシャ」
運転手はウインカーを戻し、車を加速させた。
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河童の経営する妖怪の山の鉱山へと、車は向かった。
手配師が、人夫を鉱山に引き渡す。
以降は鉱山会社の社員の指示に従うように言われた。
やってきた社員というのが、にとりだった。
「魔理沙じゃないか!」
「何でこんな所に来たんだ。この鉱山(ヤマ)の採掘は危険で・・」
ドドドドドド
足元が揺れるのを感じた。
落盤だ!と誰かが叫ぶ。
タンカ!タンカ!の怒号と、鳴り響くサイレン。
手足や顔を潰された怪我人が、次から次へと坑口から運び出されて行く。
魔理沙は正直なので、採掘ではなく選鉱の仕事に回して欲しいと、にとりに頼んだ。
「まかしとけって、盟友の頼みなら。」
確かに今の自分はただの人間で、言葉通り盟友に違いないと思った。
にとりの口添えにより、魔理沙は鉱石の選別ラインで働くことになった。
住居は、木造の社宅が割り当てられた。
毎日疲れる仕事だが、風呂も食事もある。ここでの暮らしも悪くないと思った。
しかし、採掘現場では毎日のように死者が出ていた。
落盤・トロッコ事故・酸欠。
トロッコの車輪に巻き込まれた死体を見た時は、さすがに身体が震えた。
にとりに、もう少し安全に出来ないものかと聞いてみた事がある。
「このウラン鉱山と核融合事業は、河童にとって金のなる木だからね。」
「産業に犠牲は付き物だよ。」
「魔理沙だから言うけど、採掘の連中には生命保険を掛けてあるんだ。契約も受取人も会社名義で。」
少し気を悪くしたが、河童には河童のやり方があるんだろうなと思った。
ある日は部屋に数人の男たちが来て、ストライキに参加するよう説得された。
階級闘争がどうとか搾取がどうとか言われたが、魔理沙にはよく分からなかった。
その後にすぐ別の男たちが来て、「奴らの口車に乗るな。労使の協調が・・・」と説得された。
魔理沙はどちらとも理解できなかったし、興味も無かった。
1ヶ月もして仕事に慣れてきたころ、にわかに広場が騒がしくなってるのが聞こえた。
見に行ってみると、にとりが10人ほどの人間達に囲まれ、吊るし上げに遭っている。
「うるさいっ!」
にとりはキレて、懐から自動拳銃を取り出した。
無縁塚に流れてきた54式を河童の技術で複製したもので、つまりコピー品のコピー品である。
「この採掘は幻想郷の産業発展のためだ!仕事をサボタージュする奴は、盟友でも何でもない!幻想郷の敵だ!」
にとりはリーダー格の人間を撃った。残りの者達は四散し逃げて行った。
確実に心臓の位置を狙っていたのを、魔理沙は見た。
その日のうちに魔理沙は事務所に行き、今日までの給料を受け取り、鉱山を後にした。
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30万円、まとまった金が稼げた。
これを元手に定職に就いて、いずれは自分の家を買い戻そう。
あんな森の奥にある家など、まだ誰も住んでいないだろう。
若干は荒れているだろうが修繕すれば住めるはずだ。
家の様子を見に行こう。
そう思うと居ても立ってもいられない、足は勝手に魔法の森へと向かっていた。
自分の家まで一直線に、森を突っ切って走って行く。
ホウキなんか無くても、足がある。
以前、ホウキだけは肌身離さず持っていたが、そのホウキに掛けていた魔法はやがて解けてしまった。
それは純粋にホウキとして100円で宿の主人に売った。
目的の場所に近づいた時、魔理沙は突然走るのを止めた。
「売土地 八雲商事」の看板が立っている。
更地になっていた。
もう雑草が生い茂る荒地といったほうが正しい。
ロープと杭で、囲いがされている。
一時間ほどだろうか、魔理沙は立ったままボーッと空き地を見つめていた。
眼から光は消えていた。
両手でロープを引っ掴んで、思いっきり引きちぎった。
この家で色々な経験をして、沢山の思い出があった。
ここには、霧雨魔法店、いや霧雨魔理沙が居たはずだ。
この場所に帰らないで、どこに帰れと言うんだ。
魔理沙は、家のあった辺りの地面に穴を掘り始めた。
なるべく深く、深く掘った。
カバンのいちばん底から袋を取り出す。自分が魔法使いだった時の服だ。
何年も着ていないそれは、ペシャンコになって、環境のせいか物凄く黄ばんでいた。
これでは白黒じゃなく黄黒だ、と独りで笑う。
魔女服を地中深く埋めて、土をかぶせた。
これで、ここには永遠に霧雨魔理沙が居る。
登記簿の権利部甲区に誰の名が書かれていようと、ここはずっと私の場所だ。
魔理沙はカバンから札束の入った封筒を手に取り、歩き始めた。
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「こーりん、金を返しに来たぜ。30万ある。」
「君が金を返しに来るとは驚いたよ。明日は雨かな?」
霖之助は特に断る理由も無いので、そのまま受け取った。
「じゃあな」
「もう行くのか。元気でな」
その日の夕方、霖之助は食事を作っていた。
ふと、鍋を持つ手がピタリと止まる。
死ぬまで借りるはずの魔理沙が、金を返しに来た。
霖之助が気付いた時は、もう遅かった。
ある日、文々。新聞の片隅に小さな文字で書かれた文章があった。
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行旅死亡人の公示について
名前:本籍、住所、氏名不詳
種族:人間
年齢:14〜20歳位
性別:女性
特徴:体格小柄、金色長髪
着衣:緑色作業ズボン、上半身着衣なし
所持品:
現金130円
御守り(博麗の銘あり)
折り畳み手鏡
上記の者は3月1日午前10時頃、妖怪ノ山玄武沢水源地200メートル下流の山林内において、
ロープを首に掛けた状態で死亡しているのを哨戒中の天狗により発見されたものである。
永遠亭にて検死を行ったが全身高度な腐敗が進み人相等判別不能であった。
死因は非定型縊頸によるもので、事件性は無しと思料される。
身元不明のため火葬に付し、遺骨は命蓮寺にて保管してあります。
お心当たりの方は、人里の長まで申し出てください。
第121季3月24日
幻想郷管理者 八雲 紫
- 作品情報
- 作品集:
- 3
- 投稿日時:
- 2012/03/23 17:47:44
- 更新日時:
- 2012/03/24 17:47:16
- 評価:
- 8/10
- POINT:
- 820
- Rate:
- 16.90
- 分類
- 魔理沙
- 三井三池
殺伐としていて、それでいて活気あふれるセカイで、自堕落な少女のちっぽけな一生がささやかに燃え尽きる様を堪能させていただきました。
積み上げてきたものが自分のせいで崩壊してどん底に突き落とされましたが、何とか自分の墓標分ぐらいは元に戻せたかな。
ハジキが54式拳銃のコビー品って……。ちなみに私は旧ソ連製の純正品を持っています。
ダムに失敗したっていうのに、ウラン鉱山なんて開発してんのか、カッパ達は……。当然、労働者の被爆対策なんぞしてないだろうな……。
目立ちたがり屋の魔理沙の晩年は、誰にも看取られず、それでいて彼女らしいものでした……。
<ちなみに私は旧ソ連製の純正品を持っています。
通報しました。
にとりも悪よのぅ
魔法使いだった時の服を、自分の家があった場所に埋める魔理沙。
いやー、やっぱり彼女は幻想郷で一番人間らしい人間ですね。
面白かったです。