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『すこやか幻想郷』 作者: box
「ねえ、はたて」
文は、はたての目をじっと見つめながら、言った。
「あなたの携帯、幻想郷でどうやって充電してるの?」
はたては、勢い良く、文の頬をひっぱたいた。
文は笑った。
はたても笑った。
・・・・・・
<膝>
「チルノちゃん!」
「何?大ちゃん」
雲一つ無い青空の下、今日も妖精達は遊んでいた。
「チルノちゃん、ピザって10回言って!」
「うん、わかった!」
言われるままに、チルノは、小さな胸に息を溜めて、言葉を発した。
「ひざひざひざひざひざひざひざひざひざ!」
「(本当にHだったのは――――)」
大妖精の四肢が脱力し、体の重心がぶれる。
「(――――私だったんだ……)」
そして大妖精は膝をつき、青草の上に倒れる。
そしてそれっきり、彼女はピクリとも動かなくなった。
<論理的思考>
「うふふ、御夕飯の時間ね」
そう呟きながら、幽々子は妖夢の作った膳の前に座った。
「あら妖夢、今日は海老フライなのね!」
「サバの味噌煮です」
幽々子は何も答えず、箸でサバを掴むと、頭の方からかぶりついた。
「すごいわ!フライの衣が、いつもより増してパリパリ言ってる!」
「それ、サバの骨です」
と、突如、幽々子は妖夢の方を向いた。
そして、サバを咀嚼しながら、口を開いた。
「妖夢、ソースを取って頂戴」
妖夢は、無音、無表情のまま、中濃ソースのビンを幽々子へと突き出した。
幽々子は、ビンを受け取ると、封を開ける。
そして、喉を鳴らしつつ、ソースを飲み始めた。
「(認知症だろうか)」
妖夢は静かに思ったが、何も言わなかった。
そのうち、妖夢は考えるのを止めた。
<見られては いけない>
「遅いわね、文のやつ・・・」
自身の他には誰もいない自室で、はたては溜息をついた。
手には、外から流れてきたゲームのコントローラーを力なく握り、ディスプレイを見る目は、虚ろ、意外に例える言葉がない。
とは言うものの、別に彼女は不眠不休でプレイしてるわけではない。
彼女が行なっているのは2時間程度。
が、普段長くやることがないのと、溜まりに溜まった鬱憤に当てられての事であった。
「それにしてもこのゲーム・・・[えろげえ]って言うらしいけど・・・女の子と話すだけなの?」
『私と・・・して・・?・・・はたて君・・・』
「!!」
はっきりと目を見開くはたて。
分厚いブラウン管の中で、主人公が少女に押し倒されていた。
「も、もしかして、いや、もしかしなくても、こういうものなのーーっ!?」
思わずはたては両目を手のひらで覆う。
指の隙間からしっかり見てるのはお約束である。
頬もわずかに紅潮している。
が、明らかに口元は気持ち悪いほどニヤけている。
「こっ、こういうのも・・・悪くないなァ・・・」
「はたて!」
「のああああああああああァァァーーーッッッ!!??」
「(どうする?どうする?)」
たった今入ってきたのは、声からして、腐れ縁の射命丸文である。
しかも、文はタチの悪いことで有名なブン屋である。
間違っても、今ブラウン管に写ってる物を見られたら、はたてにとっては一貫どころか人生の終わりである。
「(まだ文には見られてはいない、私の背中があるからだ)」
「(でも、文がゲームに興味を示すのが2秒後、今この体勢から3m先のシーツをとってかぶせるのに5秒かかる)」
「(圧倒的に時間が足りない、なら、)」
「(時間は作るもの!)」
瞬間、はたては、コントローラーを投げた。
文の顔面に向けて。
「っ!?」
そしてすかさず床に手を着くと、その勢いを殺さずの足払いを決める。
あまりに突然の攻撃。
よけられるはずもなく、文は後頭部と背骨を強かに打ち据えた。
下敷きとなったはたての携帯のカメラレンズが音もなく割れたが、はたてには舌打ちする時間すらない。
そして――――――――
「(よし、文が起き上がるのに7秒、時間はじゅうぶ、)」
「あ」
「(シーツ洗濯中だった)」
「痛てて・・・いきなりなんですか、はたて?・・・・・ん?」
1週間後。
はたてが自殺未遂で永遠亭に緊急搬送されるのは、また別の話である。
<愛ゆえに>
「今日の司会は、私、寅丸星が務めさせていただきます、それでは早速、聖の説法に移りましょう」
「みなさん、今日も命連寺にご来訪いただき、ありがとうございます、住職の白蓮です」
いつもは閑散とした、命連寺の本堂。
白蓮自らの説法ともあり、溢れんばかりの人と妖怪に埋め尽くされていた。
「それでは、今日は<愛>について話したいと思います」
説法の開始と同時に、本堂の喧騒が静まる。
誰もが、一心に白蓮を見つめ、その言葉に耳を傾けんとしていた。
「仏の道には、禁欲と言う教えがあります」
「言葉の通り、欲を断ち、煩悩を捨てる物です」
「ならば、愛を求めることは罪なのでしょうか?」
「いえ、そんなことはありません」
「人も妖怪も、誰かを愛し、愛されなくては生きてゆけません」
「愛を否定すること、それは人生を、生きること否定することなのです」
「人と妖怪との愛、愛ゆえの身勝手さ、暴走」
「それら全てを許すこと」
「それも、自らが愛されることへの、第一歩なのです」
あふれる拍手、そして喝采。
白蓮は、静かに微笑んだ。
「ていやああああああァァぁぁーーっ!!」
「なあ゛ぁ!?」
そして、障子を突破してきた頭突き、もといタックルをくらい、血反吐を吐きながら吹き飛んだ。
と、侵入してきた、頭に角を生やした女は、白蓮の首根っこを掴むと、恐ろしい剣幕で叫んだ。
「おい貴様!妹紅はどこだッ!?どこにいるッ!?」
「ぞ、存じ上げません・・・」
「も゛こおおおおお゛お゛お゛お゛ぉぉぉーーーッッッ!!!」
女は雄叫びを上げながら白蓮をゴミのように投げ捨てると、人智を超えた速度で走り去っていった。
「・・・聖・・・」
本堂を沈黙が包む。
星は、目をそらしつつ、おどおどと口を開いた。
「今のは・・・許されるのですか・・・?」
「・・・・・・・・・・」
白連は、うつ伏せで倒れたまま、何も言わなかった。
が、しばらくすると、蚊の鳴くような声で、口を開いた。
「・・・・ええ・・・・・・・多分・・・・・・」
<式の式>
「ほうら、直ったぞ、橙」
「ありがとう、藍様!」
橙は、直して貰ったばかりの帽子を、受け取るなりすぐ、自分の頭にかぶせた。
「ほら、紫様、見てください!」
「あらあら、はしゃぎすぎよ、橙」
「藍ったら、別にいいんじゃない?」
鏡の前で橙は、自分に被っている帽子を見て、輝くような笑顔を浮かべた。
紫と藍もまた、その様子を見て微笑むのであった。
「やっぱり、藍様はすごいですね!まるで私のお母さんみたい!」
「ははは、私がお母さんか」
「いいんじゃない?藍と橙なら、お似合いの親子よ」
「紫様、一応、橙は私の式ですよ?」
と、言いつつも、藍はまんざらでもないように笑うのであった。
「あれ?藍様が私のお母さんで、私が藍様の式なら・・・」
橙は、1人で首をかしげた。
が、しばらくすると、まるで大発見をしたかのように手を叩き、目を輝かせた。
「そうだ!紫様は、私のおばあちゃんですね!」
「・・・あれ?どうしたんですか、紫様?なんだか震えて・・・・」
「・・・・・・なんでもないわ、橙、なんでもないのよ、ふふふふふふ」
橙は、そうですか、と言いつつ、また首をかしげた。
その様子を、紫はこれ以上ないくらいの笑みを浮かべて、見つめていた。
見るもの全てを凍らせるような、満面の笑みを浮かべて。
そんな2人を眺めながら、藍は、自分の体温が急速に失われていくのを感じた。
「藍」
元気にはしゃいでる橙が聞こえないくらい、小さい声。
あまりにも冷たく、無機質なそれで、紫は藍に言った。
「夜、橙が寝たら、私の部屋にきなさい」
「(終わった)」
「(私の人格、尊厳、生命、全てが終わった)」
藍は絶望に身を震わすあまり、返事をすることすら忘れ、その場に膝をついた。
「・・・橙・・・・」
「なんですか、藍様?」
「・・骨は・・・拾って置いてくれ・・・・」
「え?」
膝をつく藍の前で、橙は相変わらず、無邪気に首をかしげるだけだった。
<博霊の巫女>
「あ、魔理沙さんではありませんか」
「阿求か、こんな所に何のようだ?」
博霊神社の境内で、阿求と魔理沙は偶然鉢合わせした。
「いえ、あまり宴会などにも行かないので、たまには外に出てきたんです」
「そうかー、なら、今日はお前の運勢は絶好調だろうな」
阿求は、魔理沙の無邪気な笑顔を横目に見ながら、心の中で首を傾げた。
「私にとって良いことって、何ですか?魔理沙さん」
「なに、お前の仕事が若干減るってだけの話しだぜ」
「(答えになってないじゃないですか。)」
密かに思う阿求だったが、そう言われると、余計に興味が湧くのも事実だった。
「お、ついたぜ」
と、話しに夢中になっていた阿求だったが、ようやく博霊神社の前についた。
そして――――――――
阿求は、絶句した。
「――――――ッッ!?」
何度も見ているのか、全く平気な魔理沙を後目に、阿求は、何度か口をパクパクとさせた後、やっとの思いで、言葉を発した。
「何ですか・・・これ・・・?」
そこには、博霊神社であって、博霊神社では無いものがあった。
建物の壁、柱、天井の全てに、ツタのような物が絡みつき、少なくとも半径10mの地面に張り巡らされていた。
そして、賽銭箱の上、神社の中心には―――――――
「あれは・・・・」
大量のツタによって、支えられた、透明な卵。
「霊夢さん・・・ですか・・?」
そしてその中では、博霊霊夢その人が、膝を抱えて眠っていた。
「な?わざわざ見にくる手間が省けただろ?」
それは仕事が増えるとも言うではないか。
阿求は思考の隅でちらりと思ったが、口から飛び出したのは、また別の言葉だった。
「魔理沙さん!何呑気な事を言ってるんですか!」
「え?」
「霊夢さんを助けなくて良いんですか!?」
と、魔理沙は不思議そうな表情をしたあと、合点がいったとばかりに頷いた。
「ははは、何だ、そんなことか!その必要は無いぜ!」
「何でですか!」
「あれは、霊夢が進化した姿だからさ」
「・・・・はい?」
阿求は、2、3度瞬きをした。
そして、何かを言い掛けたが、それを遮るように、魔理沙は口を開いた。
「霊夢が、いつも賽銭不足の貧乏巫女だったのは、知ってるだろ?」
「ええ・・はい・・」
そんなことになんの関係があるのか。
そう思う阿求とは関係なく、魔理沙は話を進める。
「それで、霊夢は毎日のようにまともなものを食べれなくて、一日一杯の水と、ひと握りの雑草だけで生きてきたからな」
「そして、そんな生活が3ヶ月を過ぎた頃、霊夢は限界を迎えたんだよ」
「魔理沙さん、友人を助ける、という思考は・・・」
「そんなものは無いぜ」
「・・・・というか、3ヶ月の時点で人間じゃあありませんよ・・・」
「そうとも、霊夢はもはや人間じゃない」
再び、阿求は、何か声を出そうとした。
が、ここから先の話に、常識などありはしない。
なぜだかそう思えた阿求は、もはや何も言わないことにした。
「空腹が限界に達した霊夢は、自らを進化させたんだよ、最低限のエネルギーさえあれば、生きていける存在に」
「そう、霊夢は、人間でも、妖怪になったわけでもない、あえて言うなら・・・・」
「・・・・博麗の巫女になったんだ」
博麗の巫女になった。
なんと中二病なことか。
いつもの阿求ならば、そう切り捨てる。
が、目の前の光景に、そんなことは言えなかった。
「・・・・・・・・」
この幻想郷に、まだ自分の知らないものがある。
そう考えるだけで、阿求は自分の胸に熱い物が流れるのを感じた。
阿求は、霊夢だったものに向けて、一歩足を踏み出した。
と、瞬間―――――――
「待てッ!行くなッ!」
「ッ!?なんでですかッ!」
「ん、丁度いいな、見てみろ」
阿求は、魔理沙の指差す方を見た。
よく見れば、ツタの張った地面の上で、1匹の羽虫が宙を舞っている。
その羽虫は比較的高い所を舞っていたが、餌がないとわかると、どんどん下の方へと降りてく。
そして、魔理沙の背丈ほどの高さまで、下降した、その時、
「!!!」
それは、一瞬、ほんの一瞬だった。
ツタが、音よりも速く羽虫を絡め取り、羽虫の体が、まるで数千年たつが如く、灰になったのは。
「・・・・・・・・っっ!!」
「気をつけろ、人間だろうが妖怪だろうが、一瞬で生命力を搾り取られるぞ、この間、萃香の奴が死にかけたぜ」
あの鬼にさえ、一瞬で致命傷を与える。
が、阿求は、怖くはなかった。
長らく忘れていた、研究者の血が、彼女を動かす。
と、思い出したように、阿求は口を開いた。
「・・・・魔理沙さん」
「なんだ?」
「霊夢さんが、あの卵から目覚めることはないんですか・・・?」
「・・・さあな・・・・」
魔理沙は、博麗神社でなく、後ろの方を向いた。
その表情は、阿求には伺えない。
「きっと、目覚めると思うぜ、1年後なのか、10年後なのか、100年後なのか、はたまた、幻想郷が滅びたあとなのか、それは誰にもわからないけどな」
「魔理沙さん・・・・」
あまり人付き合いをしない阿求にも、これだけはわかった。
魔理沙は、なんだかんだ言って、寂しい、のだと。
と、魔理沙は、再び阿求の方を向いた。
変わらない、笑顔で。
「・・・・・賽銭をさ、入れてやってくれよ」
「え?」
「あいつさ、腹いっぱいになるか、賽銭が一杯になれば、目を覚ますと思うからさ。」
「・・・・はい」
阿求は、何も言わなかった。
このツタを前にどう入れろというのだ、と思ったが、阿求が財布を取り出した瞬間。
賽銭箱への道を作るように、一気にツタが引いていった。
その道を、阿求は小走りで歩いてく。
「・・・・うーん・・・」
が、財布の中身を見て、阿求は唸る。
阿求はしばらく唸ったあと、阿求は10玉を、賽銭箱に放った。
そして、帰ろうとした、瞬間、
卵の中の霊夢が、じろりと阿求を睨んだ。
阿求はギョッとしたが、声を出すことはしなかった。
ただ黙って100円玉を取り出すと、賽銭箱に放った。
阿求はもう一度、卵の中の霊夢を見た。
霊夢は、今度は静かに、微笑みを浮かべながら、眠っていた。
・・・・・・
「ねえ、文」
はたては、腕を組みながら、言った。
「天狗の帽子って、アナルビーズに似てない?」
文は、持てる力の全てで持って、はたての頬をひっぱたいた。
文は泣いた。
はたても泣いた。
おしまい
生き返りました。
これからは加速します。
お目汚しすみませんでした。
box
- 作品情報
- 作品集:
- 3
- 投稿日時:
- 2012/03/26 13:02:19
- 更新日時:
- 2012/03/26 22:02:19
- 評価:
- 7/7
- POINT:
- 700
- Rate:
- 18.13
- 分類
- カオス
- 切ない
- と言うより馬鹿らしい
- 短篇集
セカイの理を目の当たりにして、私は感動に打ち震えております。
すこやかの4文字がこんなにも胡散臭く見えたのは生まれて初めてだ!
色々な話面白かったです。
焦るはたてがかわいくてwww