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『腹パン健康法』 作者: 零雨
東風谷早苗は、妖怪の山にある守矢神社の風祝である。守矢神社は彼女と二柱の神様で成り立っている神社だ。
いつものように、彼女は境内の掃除をしていた。しかし、なぜか彼女は突然掃除をしていたその手を止め、神社の中に戻っていった。そして、再び境内に戻ってきたとき、彼女の目はきらきらと輝いていた。そう、今日はエイプリルフール。
いつもはあまり嘘はつかない早苗だが、この日のために前々からしっかりと嘘を考えていたのだ。
しかも、今年のエイプリルフールは幻想郷で迎える初めてのエイプリルフールだ。自然と気合も入るというもの。普段はすまし顔でいる霊夢や、そのほかの色々な人間や妖怪を引っ掛けることができたらどれだけ楽しいことだろうか……。
「ふふふ……!考えるだけでゾクゾクしますね……!こんなところで掃除してる場合じゃありません!諏訪子様、神奈子様、早苗は出かけてきます!」
そう言って、勢いよく飛び立つ早苗。その後姿を、2柱の神は呆れたような表情で見送った……。
早苗が目指すのは、当然博麗神社である。ここにはほぼ100%霊夢がいるだろうし、もしかすると魔理沙やアリスなど、他の人妖も居るかもしれないからだ。
どうせ騙すなら、人数は多ければ多いほど盛り上がるだろう。そんなことを考えているうちに、博麗神社が見えてきた。
どうやら、霊夢のほかに魔理沙が来ているようだ。霊夢と魔理沙はかなり簡単に騙せるだろうと早苗は思っていたので、これはかなり嬉しい。
軽く風を纏いながら、神社に降り立つ早苗。縁側では、魔理沙と霊夢が楽しそうに会話をしていた。
「おはようございます!霊夢さん、魔理沙さん」
「おはよう。相変わらずテンションが高いわね、早苗」
「そうだそうだ。その元気を私にも分けて欲しいぜ」
「あんたも相当元気よ……。元気すぎて困るくらいだわ」
「そうだ、今日はお2人にいいことを教えようと思ってここに来たんですよー」
ほのぼのとした雰囲気の2人に、早苗は早速エイプリルフールのために考えたネタを切り出す。いいこと、と聞いて2人の目が妖しく輝く。なかなかいい食いつきだ。
「いいこと?お賽銭の集め方でも教えてくれるのかしら?」
「そんなことよりもっとすごいですよ!霊夢さん、最近お腹周りが気になったりしてません?気になってるでしょう?言わなくてもいいです。見れば分かります。以前の霊夢さんはもっとほっそりとしてましたからね」
「ぐっ……。確かに、少し気になってるけど、それがどうしたのよ……?」
「今日はそのお腹周りの余分なものをなくすためのとっておきの健康法を伝授しに来たんですよ!健康法、と言うよりはダイエットと言ったほうがいいですかね?まあ、そんな些細なことはどうでもいいです。とにかく、余分おな肉をなくす方法を伝授しに来たのです!」
「ほう……。私はあまりお腹周りは気になってないけども、その方法ってのは聞きたいな」
「あんたがそんなに自信有りげに言うってことは、確かな方法なのよね?もしその方法でどうにもならなかったら怒るわよ……」
ここまでくればもう一押し。もう半分騙せたも同然だ。後は、この日のために考えた嘘のダイエット法を教えて、2人が試してみてからネタばらしすればいいだろう。
「外の世界で流行ってた健康法なんですけどね、名前を『腹パン健康法』っていうんですよ」
「腹パン……?なんだそりゃ?腹にパンでも詰め込むのか?」
「全然違いますよ魔理沙さん……。まあ、今から説明しますから良く聞いてくださいね。『腹パン健康法』というのは、ようはお腹に思い切りパンチをするんです。やせたくて、かつ仲がいい人同士でのパンチの打ち合いが一番効率がいいですね。仲のいい人に思い切りパンチを喰らわせる背徳感と、思い切り殴ることで普段使わない筋肉を使うことができ、さらに殴られるほうもお腹周りの筋肉を使用することで脂肪の燃焼を促進するって寸法です。」
「それってかなり痛そうなんだけど……。本当に効くの……?」
「何を言うんですか霊夢さん!痛いからこそ、効くんですよ!昔から似たような例がことわざにもあるじゃないですか。良薬は口に苦し。あれみたいなものですよ!」
「そ、そうなの?そう言われてみれば、確かに効きそうな気がしてきたわ……」
「そうですよ!私も昔は結構ぽっちゃりしてたんですけど、半信半疑でこれを試してみたらかなり効いて、今みたいな体系になったんです!霊夢さんもぜひ試してみるべきですよ!」
畳み掛けるように、それっぽい言葉やエピソードを並べ立てる。これで、霊夢は完全にこの健康法を信じたはずだ。もちろん『腹パン健康法』なんて存在しない。仮にあったとしても、試す気にはならないだろうが。
「なかなか面白そうだな。おい霊夢、ちょっと試してみようぜ!」
「そうね……。試してみようかしら。じゃあ、魔理沙。まずは私が先に殴るわよ?それでもいい?」
「おう!別にいいぜ。霊夢のパンチならちょうどよくやせれるだろうしな」
余裕の表情を見せる魔理沙。霊夢に向かってお腹を突き出す。
「じゃあ、遠慮なく殴らせてもらうわよっ……!」
霊夢が思い切り振りかぶる。そして、ブォンという風を切る音と共に、魔理沙のお腹めがけて強烈な一撃が繰り出された。予想していたものよりもはるかに強い衝撃で、魔理沙の顔が苦痛に歪む。
「うお゛おおお゛ぇえ゛ぇぇ!」
あまりの衝撃に魔理沙は胃の中のものを吐き出してしまった。朝食べたと思われるきのこシチューだったものが、魔理沙の足元に汚らしい水溜りを作っている。それを見て満足そうに頷く霊夢。
「思ってたよりもいいわね……。ちょっと楽しくなってきたわ。さあ、次は魔理沙の番よ」
「お、お゛う……。覚悟しとけよ……霊夢……」
魔理沙が地の底から響くような低い声で霊夢に言う。先程の霊夢のパンチがそうとう効いたようだ。
霊夢のお腹を睨みつけ、狙いを定めて振りかぶる魔理沙。そして、一切の手加減をせずに殴りつける。
ドゴォと激しい音が響き、遅れてやってきた激痛に霊夢がうずくまる。どうやらちょうど鳩尾のあたりに命中したらしく、あまりの痛みに霊夢も胃から朝食が逆流するのを止めることが出来なかった。
数分前までは綺麗だった神社の境内に、今は汚い水溜りが2つも出来てしまっている。
「……。……ハァッ…ゲホッ……これはなかなか効くわね……」
「……確かに、少しやせた気がしてきたぜ……。教えてくれてありがとうな、早苗」
「え、ええ!そ、想像していたよりも、効果的なダイエットでしょう?でも、あまりやりすぎるのはよろしくないかと……」
2人の妄信っぷりは、早苗が予想していたそれをはるかに上回っていた。いまさら、これが嘘だと言っても信じてもらえないくらいに、『腹パン健康法』を信じきっている。
(そりゃあ、胃の中のものを吐き出したら少しはやせるでしょう……!何でこの2人はそんな簡単なことに気が付いてくれないんですかっ……!)
後悔してももう遅い。こうなったら、自分には被害が及ばないようにこの場を早く立ち去るだけだ、と早苗は考えた。
「では、私はこれくらいで……。頑張ってくださいね!霊夢さん、魔理沙さん!」
三十六計逃げるに如かず。お腹周りを確認して悦に入ってる2人を置いて、早苗は守矢神社へと飛び立った……。
それから数日が経った。なんと、幻想郷中で『腹パン健康法』が大流行してしまっていた。
早苗の奇跡を起こす能力が、意識せず発動してしまったようで、『腹パン健康法』は現実のものとなり、本当にやせることができるものになっていたのだ。
妖怪の山でも、あちこちで腹パンの音と、それを喰らって嘔吐する音が響いていた。
「これは大変なことになりましたね……。エイプリルフールだからって、調子に乗らなければ良かったかもしれませんね……」
天を仰ぎながら、そう呟く早苗。そんな彼女に、声をかける諏訪子。
「おーい、早苗ー。ちょっと来てよー」
「はーい。何でしょう、諏訪子様?今行きますー」
とたとたと、本殿に歩いていく早苗。そこでは、諏訪子が腕組みをして待っていた。
どうやら、言いたいことがあるようで、そわそわと挙動不審である。これは、こちらから聞いたほうがいいだろうな、と思った早苗は、小さい子供に話しかけるようなやさしい口調で話しかけた。
「どうかしましたか諏訪子様?聞きたいことでもおありで?」
「あー……。あのさ、早苗。その、最近流行ってるアレあるでしょ?あの、『腹パン健康法』とかいうやつ……」
「あ、ありますねー。それがどうかしましたか?」
この時点で既に嫌な汗が体中から出てきている早苗。諏訪子が次になんと言おうとしているかは、聞かなくても想像がつく。
しかし、想像がつくからといってそれを止められるわけではない。むしろ、分かっているからこそ、この状況でどうしようもない自分が嫌になってくるのだ。
「あのさ、こんなことを言うのは恥ずかしいんだけど……最近お腹周りがちょっとね……。だから、早苗に協力してもらえないかなーって思ったのよ。あれを考えたのは早苗でしょ?一生のお願い!協力して!」
自分が信仰している神にここまで言われてしまうと、断ることなんて出来ない。まあ、そうでなくとも早苗は断ることは出来なかっただろうが。
「分かりました……。協力しましょう……」
「ありがとう早苗!じゃあ、早速私から殴らせてもらうよ!」
「えっ、ちょ、待ってくださ……」
早苗の静止もむなしく、諏訪子の鉄拳が早苗のお腹のに叩き込まれる。やってくる激痛と、フラッシュバックする忌まわしい記憶。それは、忘れていた外の世界での記憶。
早苗はその独特な髪の色と性格から、外の世界では異端扱いされていた。子供の世界で、必要以上に目立つことはいじめの対象になることと同じだ。
その例に漏れず、早苗もいじめられていた。毎日、机の上には落書きされ、それを消している間にもさらに新しい落書きをされる。教師やクラスメイトも厄介ごとはごめんだとばかりに、見てみぬ振りだ。
そんな早苗が一番恐れていたのは給食の時間。早苗が触った容器は汚いもの扱いされ、容器を触ろうとすると周りから罵倒される。
そして、給食を食べようものなら、今食べた物に謝れとまで言われる始末。それだけではなく、お腹を殴られ、容赦なく給食を戻させられた。
早苗はこのときの記憶を、幻想郷に来てからは封印することが出来ていた。
しかし、無意識のうちに思い出していたようで、それが『腹パン健康法』となったのだ。
早苗は自分で考えたものだと思い込んでいたが、それは幼少期の記憶から来たもので、食べては殴られて吐きを繰り返しやせていった。それが脳に刷り込まれていたのだろう。
「ああぁあ゛ああ゛あっ!!!いやぁああ゛ぁあああぁあ゛あ!!!」
叫びながら、胃の中のものをぶちまける早苗。まさかこんなことになるとは思っていなかった諏訪子はパニックに陥ってしまっている。
そうしている間にも、早苗はゲロゲロと止め処なく胃の中のものを戻し続けている。胃の中が、空っぽになっても吐き続ける早苗に、諏訪子はどうすることも出来ず、ただただ汚い水たまりが広がっていくのを眺め続けていた……。
その後、明るかった早苗は見る影もなく、廃人のように成り果ててしまったとさ……。
エイプリルフールだからって調子に乗るのはよくないですね。ついた嘘には責任を持たないといけないですよ早苗さん!
零雨
作品情報
作品集:
3
投稿日時:
2012/04/01 13:02:40
更新日時:
2012/04/02 20:02:47
評価:
6/10
POINT:
670
Rate:
13.90
分類
早苗
嘔吐
エイプリルフール
嘘から想起されたトラウマ、と言ったほうが正確か!?
親しい者に殴られたほうか効果的、ではありますね、確かに。
神の奇跡がこもった一撃が、その嘘も罪悪感もトラウマも、さらに調子こいた人格まで、全部打ち砕いてしまいましたか。
この物語は、早苗がひどい目にあった話なのか、早苗が救われた話なのか。
このおかげで早苗が再起不能になり、幻想郷が平和になったことは確かですが。
度の超えた嘘はエイプリルフールでもいけませんね。
早苗ちゃんがもっと可愛くなれるように、これから毎日腹パンしようね^^
ふっと思い浮かんだジョークが実はトラウマに起因してたとか怖すぎ。自分自身の過去からは逃れられない的な恐怖を感じた
腹パン続けて早苗さんをムキムキにしよう。
腹パンはリョナの基本にして至高……正直たまらんです。
あと早苗っちの過去がトラウマってタイプの設定はいつ見ても胸がスッとする……!