Deprecated : Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/imta/req/util.php on line 270
『アリス・マーガトロイドの大脱出マジック!!!』 作者: おにく
「く、くそ、開かないぞ?」
魔理沙は、この日のために建てられた茶色い木造倉庫の扉に、必死になってかじりついていた。ふたたび、鍵穴にはりがねを差し込む。
かちゃかちゃと音が鳴るが、肝心の手応えはない。何度も何度もリハーサルを行ったにもかかわらず、全く鍵が開かないのだ。
このままではまずい。制限時間はあと5分しかない。魔理沙の手の平はじっとりとした嫌な汗で濡れている。
その木造倉庫から10メートルほど離れた場所では、そんな事態も知らず、司会である文と椛がマイクを握っていた。
「爆発まで後、5分ほどになりました……、魔理沙さんは本当にアリスさんを助けられるんでしょうか?」
「分かりません。倉庫の鍵は物凄く厳重ですから」
河童たちが撮影器具を持って、倉庫の周りを忙しく走りまわっている。メインカメラが文の緊張した面持ちを映しだした。
文々。TV初の生放送であり、脱出マジックの放映としても初めてである。この企画の成否には、放送事業の行く末がかかっているのだ。
汗ばんだ文の硬い表情も、震えるようなその声も、いたって当然のことだった。
「なにせ、木造の倉庫には、5重の鍵がかけられていて、簡単には侵入できません! そして中には入れたとしても、
アリスさんを助けるには、厳重な縄をほどき、3つの手錠、4つの足かせを解除しなくてはならないのです!」
「でも文さん、魔理沙さんもアリスさんも魔法を使えますよね。魔法を使えば脱出は簡単なのでは?」
「それは不可能です。お二方には、博麗神社提供の魔法禁止の御札が貼られています。ほんの数ミリ、空をとぶことさえできません」
「なるほど。純粋に、開錠の速さが問われるんですね」
「ええ。さあ、幻想郷初の大脱出マジック、果たして本当に成功するのでしょうか!」
2人のコメントで、魔理沙は余計に焦る。5個の鍵のうち、解除できたのはたったの2個だ。
脱出マジックが始まって1分半、残り時間は4分半、倉庫から離れる時間も考えると、かなり厳しいペースであった。
3つ目にかけられていた南京錠を、外して地面にかなぐり捨てる。
「落ち着け、私……」
リハーサルでは、最初の数回を除いて何度も成功してきた。直近の10回は全て成功している。
そして鍵の解除練習は、その何倍もやってきたはずだった。それなのに何故、本番では上手くいかないのだろうか。
魔理沙は汗ばんだ手を、エプロンドレスの裾にぬぐった。手元がぬめって、針金をつまめないほどになっていたのだ。
そして深く深呼吸をする。バクバクと踊る心臓をなんとか鎮めようとする。落ち着いてやれば、こんなもの簡単なはずだ。
魔理沙はふたたび解錠にとりかかる。すると、今度はスムーズに開けることができた。
さらに扉の最後の鍵も、流れるように外し、そうして第一関門である倉庫の扉を、やっとのことで開けたのである。
「よっしゃ!」
魔理沙は思い切り扉を開けると、全速力で飛び込んだ。
「おおっ! 魔理沙さんが第一関門を突破しましたよ!」
「でも、少し遅いようです……」
「あと爆破まで3分半です。確かに、少し遅れているかもしれません。それでも魔理沙さんなら、やってくれるはずです!」
そのような解説を背に、魔理沙はアリスの座る椅子の前に座った。アリスは泣き笑いになっている。
このマジックには、何のトリックもない。鍵を外してもらえなければ、椅子の爆弾が爆発してしまうのだ。
「遅かったじゃない魔理沙ぁ……、私、ほんとにこわくて……っ!」
「ごめんな、ちょっと手間取っちまった」
アリスの手錠と足かせは、椅子にがっちり括りつけられている。さらにイス自体も地面に固定され、少女の力では動かせない。
つまり、アリスが脱出するためには、魔理沙に鍵を解いてもらうしかない。そしてアリスに出来るのは見守ることだけだ。
魔理沙はスムーズな手つきで足かせの鍵を外してゆく。一個、二個、三個、四個、流れるような手つきであった。
そして四つの鍵を外すと、漸くアリスの足が自由になる。アリスもやっと、安心したような顔を見せた。
魔理沙は袖で、額の汗を拭う。まだ気は抜けない。手錠を外し、時間を見計らって、逃げなければいけない。
魔理沙はしゃがんだまま3歩あるいて、椅子の裏に回った。そしてアリスの手錠を手にとった。時間はまだ二分半もある。
「このペースなら、なんとか大丈夫よね」
「ああ、楽勝だぜ!」
魔理沙はにっこり笑う。2分半もあれば、一つの鍵で30秒使ったとしても、余裕を持って脱出できる。
歩いて脱出しても間に合うぐらいだ。むしろスリルがなくて、番組的に困るぐらいかもしれない。
魔理沙は細い針金を、そっと鍵穴に差し込んでいった。
「あれ?」
最初は違和感から始まった。鍵穴の感触が少し違うような気がしたのだ。しかし、気のせいだろうと、魔理沙は思い直した。
魔理沙は針金をかちゃかちゃといじりはじめた。そのまま無言で作業をすすめる。
そしてその金属が触れ合う音は、一秒ごとに大きく、細かく、やがて焦りを含んだものになった。
魔理沙は無言だ。べたついた手をまた裾で拭う。そして再び鍵穴をいじる。開けなれたはずの、鍵が開かない。
何も喋らない魔理沙に、アリスは不安を感じ、首を捻って後ろを振り返った。
「魔理沙、大丈夫よね?」
「あ、ええと……それは」
魔理沙の声には明らかな焦りが含まれていた。
「アリス、落ち着いて聞いてくれ……、この手錠、リハーサルの時と違うんだ。同じやり方じゃ開けられない」
「……へ? そんな、なんでよ?」
「分からない。何かの手違いかな」
「やだぁ、大丈夫よね」
「大丈夫、だと思う……」
アリスもそれ以上、言葉を紡ぐことができなかった。魔理沙はふたたび、未知の錠前に挑み始める。
この種の鍵には、ある程度共通した形式がある。だから、見たことのない鍵でも、経験を応用すれば開けられるはずだ。
問題は、あと2分しかない残り時間で、錠前の差異を掴んで解除することができるかということである。
初めての脱出マジックの放送に、文も椛も、幻想郷中の視聴者たちもドキドキしているだろう。
しかし、このマジックで一番肝を冷やしているのはこの2人、特に命がかかっているアリスであった。
「魔理沙、早くしてよ、こ、このままじゃ、私達、まずいわよね」
「……分かってるよ」
「じゃあ早く、早くしてぇ、怖い、怖いよ、ああ、お母さん……」
時間が進む旅、アリスは早口になった。額には汗の玉がうかび、頬は焦りからか真っ赤に染まっている。
「魔理沙、まだなの? ねえ、早く、早くして、もう私、限界なのぉ」
「おい」
魔理沙は苛々したような声を出した。魔理沙も焦りはじめているのだ。
「ちょっと黙っててくれよ。集中できない」
「……うん」
その声で、漸くアリスの声は止まった。代わりにびくびくと震えながら、うっすらと涙を流し始めた。全身が汗で冷え切っている。
真っ白なドロワースだけでなく、その上のスカートやブラウスにかけてまで、べったりと汗で濡れ始めていた。
魔理沙も魔理沙で、焦りは相当のものだ。まだ最初の鍵さえ外せていない。手元はぷるぷると震えている。残り時間は1分。
「お、よし! 一個開けた!」
そうして奮闘した成果か、手錠の3つの鍵のうち、1つを外すことができた。あとは二つだけ。二つ外せば外に出られる。
最初の一個に時間を賭けたが、後の二つは同じようにやれば良い。なんとか、間に合わせられる。
すぐさま次の鍵穴を外そうとする。15秒ほどで外れた。残り45秒。
「アリス、もう大丈夫だ」
「ほ、ほんと……?」
アリスは、ずっと椅子に座っていたにもかかわらず、極度の緊張で疲労しきっていた。
「ぐす、もう、一生脱出マジックなんてやらないんだから……」
脱力したアリスは、そんな本音ほぼそりとつぶやいた。
そして魔理沙は最後の鍵穴にとりかかる。2つ目の穴と何度は同じ、だから、何の問題もない。
魔理沙はそう思っていたし、それは理屈の上から言っても正しいことであった。
「あっ!!」
「な。なに!? どうしたの!?」
「折れた……」
最後の最後で、突然、魔理沙の針金が折れた。何度も何度も使って、手に馴染んだ針金であった。
しかし本番に入って、焦りから少々酷使しすぎたのだろう。真ん中の部分が限界になって、ぽきんと情けなく折れてしまったのだ。
魔理沙はすぐさま予備の針金を取り出そうとする。しかし、無い無い、魔理沙はどのポケットに針金を入れたのか、忘れていた。
「あああ、まずい、まずい……」
魔理沙は狂ったようにポケットを探る。魔理沙のエプロンドレスには、幾つものポケットがあった。
そのどこかにあるわけだが、どこにあるかが分からない。焦りさえなければ、5秒でみつかるはずの針金だった。
やっとのことで、スカートのポケットから取り出す。魔理沙は倉庫の時計を見る。残りはわずか25秒しかない。
アリスはがたがたと震えはじめた。あと25秒で脱出できなければ、死ぬ。背筋がぞっとして、全身の毛が逆立った。
また見れば、もう23秒しかない。
「あ、あ、あ、魔理沙、まりさ!! ひゃ、早く、はやく!」
「わ、分かってるよぉ、わかってるのに……っ!!」
アリスが叫ぶ。魔理沙は必死で鍵を開けようとする。しかし、手元が震えて、解錠どころではない。
魔理沙とて、このような死に直面して、冷静でいられるほど図太くはなかった。結局2人共、根っこはただの女の子なのだ。
あと20秒。時計の針の音が、心臓に響いてくる。
かちり、19。
かちり、18。
かちり、17。
かちり、16。
かちり、そうして、魔理沙の心は折れた。
「アリス、ごめん!!」
「えっ……!」
魔理沙は解錠を投げ出し、倉庫から飛び出していった。全力疾走だった。爆薬の火力はすさまじく、5メートルは離れないと危険だ。
「ま、まり、冗談よね……? あ、ああ、あぅ……う、嘘、嘘よ、こんなの嘘よお゛お!!!」
アリスは泣き叫んだ。じょろじょろと小水を漏らしながら、なんとか逃げようと暴れ始めた。両足をばたつかせ、狂乱して体をねじる。
しかし、アリスの両手は手錠でがっちりと固定されており、イスから決して離れない。魔法も使えないアリスが逃げる道はない。
黄色い水がイスをびちゃびちゃに濡らし、靴下とブーツはぐっしょりと濡れて、暗い色に染まった。
「ああ゛ああああ!! 助けでえええええ!!! 嫌ぁあ゛ああぁぁあああ!!! 死にたくないよお゛おおぉぉおおぉっっ!!!!」
残り時間、あと3秒。
「戻ってわたしをだずげてえええぇぇぇ!!! あああ゛あぁぁ、魔理沙あ゛ああああ!!!」
そして、時計の針が、最期の一秒を刻んだ。それと同時に、イスに括りつけられていた爆弾が、非情にも爆発した。光は赤かった。
屋根が吹き飛び、空中でばらばらになる。そして木造倉庫は明々と燃え始め、真っ黒な煙を空に向かって吐き出し始めた。
一面にたちこめるその煙と、立ち昇る炎は、茶色の倉庫を殆ど覆い隠してしまった。
消火準備をしていた河童のスタッフたちが、河童製の消火器で炎に立ち向かう。さらに外由来の旧式消防車が、勢い良く水を叩きつけた。
白い煙がぶわっと上がり、火はだんだんと掻き消えてゆく。しかしそれでも、火の手はなかなか収まらなかった。
「あ、あの魔理沙さん。これって、演出ですよね? ね? 失敗じゃ、ないですよね?」
魔理沙は、倉庫から離れた場所で泣き崩れていた。文は震える声で、魔理沙にマイクを向ける。
しかし魔理沙は嗚咽をもらしながら泣いていて、まともな声がでない。やっと出た声も、枯れ切ってしまっていた。
「ちがう、しっぱいした……、早く、早くして、じゃないと、アリスが死んじゃう……」
文の顔はさっと青くなった。椛は不安げに、しっぽをばたつかせている。
消火活動は案外早く終了した。炎はすべて収まり、煙もほとんど消えてしまった。
あらかじめ消火準備をしていたのが、意外な形で役に立ったのである。
煙の奥から現れた倉庫は、真っ黒に焼け焦げていた。壁はほぼ崩れ落ち、柱も殆ど吹き飛んでいた。
火災現場の様子をカメラが記録してゆく。そしてそのカメラが、肌色の物体を捉えた。
木炭の合間に、アリスの体がころがっていたのだ。両足は千切れ、あらぬ所にころがり、強い炎で茶色く焼け焦げていた。
片腕は豪快に吹き飛んだらしく、唯一残っていた真っ黒な柱に、矢のように突き刺さっている。
そして上半身は、床に転がっていた。腹部は完全に吹き飛んだようだ。生焼けの内蔵が、どろどろと漏れ出している。
アリスを象徴するあの青い服も、殆ど焼けてしまって、茶色い布の切れ端が肌のところどころにこびりついているのみだ。
露出した肌にはやけど跡がある。直接火を浴びたのか、左胸の周辺は炭化していた。
髪の毛もいくらか焼け焦げ、そして目は、まったくの白目を剥いている。右腕は思いきり伸ばされていた。
おそらく、吹き飛んだ瞬間から数秒は、わずかな意識があったのだろう。逃げようと、助かろうと、手を伸ばし他に違いない。
医師の診断を待つまでもなく、アリスは死んでいた。爆死したのだ。
「きゃあああああ!!!」
「止めて! カメラ止めて! 早く!」
河童が急いでカメラを止め始めた。幼い河童には、吐き気をこらえている者も居る。
椛は呆然と立ちすくんでいる。魔理沙はうずくまり、泣きながら居なくなったアリスに謝罪し続けた。
「ごめん、ごめんよアリス、ごめん、ごめんなさい……」
文は、片手に持っていたマイクを、足元の芝生に取り落とした。
作品情報
作品集:
3
投稿日時:
2012/04/04 15:52:49
更新日時:
2012/04/05 00:52:49
評価:
19/23
POINT:
1920
Rate:
17.68
分類
アリス
魔理沙
脱出マジック
失禁
放送事故
衝撃映像
実質、魔理沙が殺したようなもんだ。
無惨に散ったアリスの体ペロペロ
期待を裏切らない
魔理沙もアリスも、リアクションがとにかく可愛かったです。ぶっちゃけおっきした。
思わず叫びたくなりますね。
錠の種類が違ったのは誰かの陰謀か
あ、パチュリーあたりが裏で糸引いてた可能性はあるか
出発点が超異常なのに、みんな反応がバリバリリアルで妙な面白さがありました。
極限状態でこそ、人の本質は炙り出される。
ごちそうさまでした。
まさに芸術は爆発
エンターテインメントに活かそうとなんかするのが悪い