春、新たな歩みを始めるすべての若者に乾杯

20xx年4月2日、有限会社河童トラフは
H県の研修施設で入社式を執り行っている。
河童トラフは従業員500人規模の機械部品製造工場であるが、
この入社式には施設の体育館に実に2000人の
リクルートスーツ姿の若河童がひしめいている。

ここは親会社の幻想郷交通の研修施設であり、
グループの入社式は合同で行われるのだ。
その中で河童トラフの新入社員は6人。
川代似鳥もそのひとりだ。


研修施設に隣接した保育園。
ウサギは微動だにせず、後ろ脚から肛門にかけて
広域に糞をつけて横たわっていた。
生きているときは常に体が細かく震動していたため、
見るものにその存在を
忘れられていた毛皮の毛のなびきが、
持ち主が停止したためにそよ風に吹かれて強調されるのだった。
悲しそうな面持ちでたたずむ女たち。
子供のうち一人が

「見てみて、うんこついてるｗｗｗﾌﾞﾌﾌﾌッ！ｗｗｗ」

それにつられ、一人、また一人と子供たちの
笑いの輪が広がっていく。子供の笑い声は巨大なうねりとなって
辺り一帯を包んだ。もう止まらない。

ああ、保母さんがすごい形相で何かを訴えている・・。
その口の動きは「命の大切さがわからないの！？」とも
見えたが、かき消されて音声は聞こえない。



似鳥は友人の徳八に思いをはせる。

この入社試験に命が、人生が、かかっている。
こんなに努力したんだ。報われないはずがない。
そう心の中で叫ぶことで、新たな力が湧いてくる気がした。

そんな徳八の横で一人、また一人と脱落していく。もうだめだ
といわんばかりの彼らのしかめ面がちらっと目に映るたびに、
自分が運命に寵愛されている充足感が沸き、
それもまた力になった。

本当は彼らは他の会社に内定ももらい、この試験に
命を懸けているどころかせいぜい後学のため、
ついでに受けているに他ならなかった。
汗をぬぐい、水を飲むと、彼らは5分で平静に戻り、
明日のセックスパーティの段取りについて話し始めた。



ところ変わってアーリントンテキサスの工場。
イーライは長さ三十センチほどの金属やすりを
手に取った。万力でぎゅうぎゅうに固定すると、
足をその場で踏ん張り、背中と肩を力ませて
ガリッ！ガリッ！と削った。
対象はみるみる削れていくのに自分はしっかり力を入れているので
関節や筋肉に反響は感じなかった。快感だ・・。
と、ここでイーライは今自分が抱えている問題の
解決方法を悟ってしまった。

人から自分の悪いところを指摘されたときどうするか。
すこしずつそれを「さらに悪く」していき、
それとは別の自分の長所を伸ばす。これをやっている最中
は非難ごうごうだろう。しかし、周りはさらに悪化した今の状態を
元からその程度悪かったと錯覚するのだ。
ここで元の程度の悪さに戻す。すると、はた目には改善したように
見えるのだ。さらに、長所は伸びているので、その長所を
元から好ましく思っていた人からの評価がさらに上がり、
人数も増える。その人たちの影響で、あなたのことを気に入らない人は
口をつぐまざるを得ないだろう。これが基本の立ち回りである。

他人から酷評された作品ほど大事に
取っておきましょう。頭に血が上って
破って捨ててはいけません。いつかあなたが
素晴らしい作家になったとき、それはプレミアが
つきます。「これ貴重だなぁ。このころから○○さんの良さの片鱗があるんだ！」
と言われてね。

http://www.nicovideo.jp/watch/nm14899244