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『産廃創想話例大祭『邪仙の失恋』』 作者: NutsIn先任曹長
産廃創想話例大祭への参加作品です!!
桜の花も散り、青々とした葉が初夏の陽気を冷ます風にそよぐ五月。
そよ風に乗ってたゆたう、美女が一人。
文字通り、ふわふわと漂っていた。
結った髪を長いかんざしで留め、羽衣を纏ったその姿は、まさしく仙人。
俗世から切り離されたかのごとく、舞うように道なりに流される仙人。
その可憐な口が吟ずるは、須弥山に木霊する雅楽か。
「僕らの〜♪ 僕らの〜♪ 猫じゃせ〜ん〜♪ ふぅ〜〜〜〜〜っ、ニャンッ!! せい〜がにゃんにゃ〜ん♪」
……聞こえてきたのは、下っ端白狼天狗が勇者となって、二人の烏天狗と共に大活躍する勧善懲悪物の紙芝居で歌われる、主題歌の替え歌であった。
この紙芝居は子供達に大人気なので、寺子屋に通う、あるいは就学前の児童達がよく主題歌を歌っている。
歌っている邪仙の霍 青娥はご機嫌であった。
若干顔を赤らめながら紙製の手提げ袋をぶら下げて、ふよふよと夢殿大祀廟への帰路についていた。
「♪〜、……あら」
青娥の進行方向に川が流れていて、当然そこには橋がかかってる。
その橋の欄干を、今まさに、人が乗り越えようとしていた。
「あらあら……」
青娥が小首をかしげてそれを眺めているうちに、人影は視界から消え去った。
「あらあら、大変」
人が橋から落ちた。
それを認識した青娥は橋ではなく、流された位置を推測して、川の下流の方へ移動を開始した。
移動速度とご機嫌な表情は、先ほどから全然変わっていなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夢殿大祀廟。
その最奥にある神霊廟。
かつては広大な墓であったが、今では生活臭あふれる、快適な居住空間となっていた。
「青娥殿、何か良いことでもあったのですか?」
青娥の土産である西洋料理と酒を神霊廟の住民達で味わっている時、彼女達の頭である聖人の豊聡耳 神子がそう言った。
「ふふ、お分かりですか」
食事は済ませてきたので神子が淹れてくれたお茶を賞味しながら、青娥は蠱惑的な微笑を浮かべて尋ね返した。
「そりゃ(ムシャムシャ)わかるであろう(ゴックン)。普段はもっと(ズズッ)、人を食ったような顔をしておるからな(パクパク)」
どんぶり飯と共に折詰の料理と温めた缶詰のスープ、それに泡立つ白金色の葡萄酒を忙しなくかっ込みながら、神子に仕える自称尸解仙の物部 布都は神子の代わりに答えた。
「青娥殿、やっぱり、コレ?」
布都と同じく神子に仕える亡霊の蘇我 屠自古は口当たりの良い発泡葡萄酒に酔ったのか、顔を火照らせながら握りこぶしを突き出して親指を立ててみせた。
「……ええ」
「「おお〜〜〜〜〜っ!!」」
青娥の肯定に、神子以外の二人が歓声を上げた。
「ほほぅ!! 普段、怪しげな研究にうつつを抜かしたり、博麗の巫女にちょっかいを出したりしておった青娥殿が!!」
布都は驚きとゴシップ好きの少女の興味が綯い交ぜになった表情を浮かべながら、空になった丼にお櫃から、本日何杯目かの飯をよそった。
「……ふむ、君からはいつもの知識欲の他に、色欲と若干の金銭欲が『聞こえ』ますね。恋をしているというのは本当のようですね。
今日の渡来品と珍味の数々も、逢瀬の折に君のお相手が持たせたのでしょう」
しばし目を閉じていた神子は、『十人の話を同時に聞く事が出来る程度の能力』で青娥の欲を『聞いて』、真偽を確認した。
「図星ですわ、豊聡耳様。これらのおみやも、ある殿方とお食事をしました西洋料理店の物ですわ〜」
青娥は若干目を細め、神子の推測が的中している事を明らかにした。
ちなみに神子は、青娥と殿方は食事の前後に肌を合わせているであろうことも推理したが、口には出さなかった。当然、それも当たっていた。
「青娥殿はゾクリとする色香を漂わせているからね。ヤる事はヤってるのは大体わかってたけど、まさか本気(マジ)になるとはね〜」
そう言った屠自古は、パクリと乾酪(チーズ)をかじりながらグビグビと酒の杯を干した。
「で、青娥殿が懸想した殿方は何者? 祝言はいつあげるのだ? やはり披露宴では今日のようなご馳走にありつけるのかや?」
名門の豪族出身であるはずなのに意地汚い物言いの布都は、飯の上に缶詰のフォアグラを乗っけると、その上にすり下ろしたニンニクを乗せ、さらに醤油をふんだんにかけた。
「そんな……物部様、まだ気が早いですわ」
塩っぱい味付けになったフォアグラ飯を頬張る布都に返事した青娥は顔を赤くしたが、それは酒のせいではないだろう。
「(ガツガツ)青娥殿が身を固めたら、(モシャモシャ)泣く者共が大勢出るのう(ムグムグ)」
「そいつらの女房がホッとするんじゃね?」
ワイワイと食事とおしゃべりを楽しむ布都と屠自古。
二人と青娥を微笑みながら眺め、杯を傾ける神子。
青娥は数百年ぶりに、胸の内が暖かくなる思いを味わった。
夢殿大祀廟の衛士である生きた屍体、キョンシー達が安置されている部屋。
青娥は皆との食事の後、キョンシー達の面倒を見るためにこの部屋に来ていた。
「せいが〜、なんかいいことあったのか〜?」
「あら、あなたでも分かるのですわね」
青娥の機嫌が良い事は、普段から目を掛けているキョンシーの宮古 芳香にも分かったようだ。
「せいががうれしいと、わたしもうれしいぞー」
「可愛い事、言いますわね」
青娥は満更でもない様子で、青娥に握り飯を食べさせてやった。
呪術的に『活かして』いる芳香の肉体を維持するのに栄養は必要だが、別に人間の食事の体裁を取る必要はない。
強靭な顎は何でも噛み砕くし、味覚だって無きに等しいし、当然食中毒で死ぬことなど無いのだから、加熱調理した物でなくても残飯でも生ゴミでも構わない。
だが、神霊廟の面々はそれを良しとせず、基本的に皆と同じ食事を用意して、青娥は断る理由もないのでそれを芳香に与えた。
青娥は他のキョンシー達にも食事を与え、メンテを行なった。
それらを終えた青娥は、自室に戻り一息ついた。
青娥は、己の腹を、そっと撫でた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
青娥はある女性の元を訪れていた。
橋から川へ飛び込んだ女性だ。
恋愛絡みの悩みが原因だそうだ。
青娥は、ほんの戯れに、悩める女性を救った。
青娥は、自分が付き合っている男性のことを語って聞かせた。
女性は相槌を打ちながら、その話を聞いた。
青娥は笑った。
女性も笑った。
二人の女性の笑顔は、方向性が正反対だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
人里にある雑居ビル。
その一室に、神子が営む『お悩み相談所』があった。
神子は能力で訪れた人々の本質――『欲』を聞き取り、過剰な『欲』は遮断するが音は通すヘッドホンに覆われて耳で、相手の口から語られる建前を聞いた。
そして、それらを分析し、導き出された解決方法を相手に教え、感謝と報酬を得ていた。
だが、中には神子から説教を受けるような内容の悩みを持った者もいた。
失意のうちに相談所を後にする悩める者、特に外見(ルックス)が良く財力のありそうな者に、青娥は救いの手を差し伸べた。
青娥は己の道(タオ)に忠実に、多少モラルに問題のある研究の傍ら、偶にそのような者達の相談に乗ってやっていた。
なんせ、青娥は相談所の下の階の部屋を借りて研究や実験をしたり、乳繰り合ったりしているのだから。
救いようのない手前勝手な悩みを、青娥は甘言と夜伽、それに本人に知られぬように施した怪しげな呪術で解決してやった。
当然、慈善事業ではなく、神子達の生活費や研究費を稼ぐため、そして青娥の性欲解消のためである。
そんな財布と陰嚢を搾り取られるバカタレ共の中に、青娥の御眼鏡に適った青年がいた。
青娥は青年にたっぷりとサービスした。
青年は青娥に夢中になった。
青年は青娥に少なくない額の資金を援助した。
極上の酒食を共に味わった。
青娥が青年から高価なアクセサリーやドレスを送られたりしたことも二度や三度ではない。
青娥は髪を下ろし、薄手で品の良い洋装を纏い、煌びやかな光物を肢体に散りばめ、扇情的な香りの香水を振りまいた。
こんな格好は、青娥のためだけにそれらを提供した青年のためだけに披露した。
そして、青年だけが、香り以外のそれらを外した青娥を愛でることを許された。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
博麗神社。
午前の境内の清掃作業を終えた楽園の素敵な巫女こと、博麗 霊夢は居間でお茶を堪能していた。
ボコッ!!
突如壁に穴が開き、丸くくり抜かれた壁の一部が畳の上に落ちた。
「霊夢様、こんにちは」
にゅっ、と穴から顔を出した美女。
言うまでもなく、霍 青娥である。
暇つぶしに神社を訪れた青娥は『壁をすり抜けられる程度の能力』を行使して、玄関から尋ねる手間を省いたのだ。
「あんた……、いい加減、壁に穴ぼこ開けるクセ、なんとかなさいよ」
「いえいえ、お構いなく〜」
最初はチンタマケと叫んで驚いたが、今ではすっかり慣れた霊夢の言葉に、返事になっていない応答を返した青娥は勝手に急須に茶葉を継ぎ足し、自分のためのお茶を淹れた。
その頃には、壁の穴とくり抜かれた壁の一部は消えていた。
「全く……、神子といいあんたといい、古(いにしえ)の連中は壁や地面に穴を開けるのが好きなのかしら?
アンタらを目の敵にしている、ぬえのヤツもこないだ寺の裏で穴掘ってたし……」
「お寺は衆道ですわね」
「いや、そっちじゃなくて……」
「では、こちらがお好みかしら?」
すすっ!!
近い近い!!
お色気トークから実技に移る青娥。
後ずさる霊夢。
青娥の移動速度が霊夢を上回ったようだ。
青娥は唇を霊夢の首に触れさせ、片手は霊夢の腋から服の内側に差し入れられた。
青娥の細いしなやかな指は、チョイ硬め、大きさ控えめの、サラシが巻かれた胸の双丘を羽毛のような軽いタッチで撫で回した。
「ちょ……、青娥……、止めなさいよ……」
「止めませんわ!! 霊夢様がいけないのですよ。淫猥な物言いで、この娘々めの劣情を燃え上がらせてしまったのですから!!」
ほとんど言いがかりである。
青娥は神霊大発生の異変解決後、幻想郷最強の巫女である霊夢の強さに興味を持ち、篭絡せんと霊夢に色仕掛けをしたものである。
霊夢が強いのは霊夢だからだと禅問答的解答を得た後は、霊夢の反応が面白いからと、ちょくちょくセクハラを仕掛けるようになった。
両方共、やっていることは殆ど同じである。
「やめ……なさい……、よっ!!」
ブスリッ!!
青娥の額に刺さる退魔針。
「お……、おぉぉ……!?」
口を菱形にして、涙を浮かべて霊夢から離れる青娥。
「これ以上やったら、アイツが黙っちゃいないわよ」
そう言うと、霊夢は青娥から無造作に針を引き抜いた。
ジュプッ!!
結構深く刺さっていた。
脳まで達していただろう。
ま、相手が青娥だから死にはしないだろう。
脳に若干の損傷があるかもしれないが、かえって問題ばかり起こす性格が改善されるかもしれない。
「んもぅ、霊夢様は淡白でいらっしゃる」
既に傷が回復した額を痛そうにさすりながら、座布団に座りなおす青娥。
これ以上、霊夢に性的行為を行うと、『アイツ』と呼ばれた幻想郷の管理人が出張ってきてしまう。
能力も性技も霊夢への愛情も青娥を遥かに上回る相手を敵に回すのは得策ではない。
負ける戦はしない主義の青娥は、霊夢の実力行使を伴う警告に素直に従った。
「ん……? あんた……」
退魔針を懐紙で拭っている霊夢は、青娥を見て何かに気づいたようだ。
青娥が針に刺された傷を治癒する際の気の流れを感じたようだ。
「ふふ……」
青娥は、傍目には異常の見られない己の腹に手を当てた。
その顔には、純粋な慈愛が浮かんでいた。
霊夢の勘にビビッときた。
霊夢の耳にも、我が道(タオ)を往くと嘯く青娥の道徳的問題行動の噂は届いている。
その結果、新たな命を孕み、散らすこともしょっちゅうである。
だが、青娥の『母』の顔を見るのは初めてだった。
何か企んでいるな。
厄介ごとはごめんだ。
出張るのはめんどい。
霊夢は瞬時にそんな事を考えた。
「大概にしときなさいよ」
青娥は黙って、霊夢が注ぎ足した熱いお茶を啜った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
青娥は夢殿大祀廟に戻って昼食後、自室でのんびり読書を楽しんでいた。
本には愛らしい赤ん坊の写真が掲載されていた。
午後4時前。
今日の食事当番は青娥と屠自古である。
なので二人は連れ立って、市場に夕食の食材を買いに出かけた。
かつては、市といえば朝市のことを指したが、流通と保存技術の発展、向上により、幻想郷の住民達は新鮮な食材を欲しい時に入手できるようになった。
流石にまだ外の世界のように24時間いつでもという訳にはいかないが、それでも朝昼晩の食事及びそれらの支度をする時間帯に買い物ができるようになった。
肉、野菜、調味料、菓子、雑貨類。
二人で試食を楽しみながらそれらを購入して、買い物かごはいっぱいになった。
青娥達が最後に今夜の晩酌用の酒を買うために酒屋に向かおうとした時、市場の店を巡る一団を見つけた。
一行に頭を下げる店主と店員達。
部下や用心棒を引き連れた、若い美男子は笑みを浮かべて彼らに二言三言話しかけた。
「ありゃ確か……、最近羽振りの良い大店の三男坊だね」
屠自古が実家の傘下の店を視察しているらしい青年を見て、そう言った。
「結構遊んでんだって噂があったけど、最近はとんと花街で見かけなくなったね」
人間だった若い頃は盛り場で遊び呆けていた屠自古は神子に仕えてからは自重するようになったが、その時の経験を活かしてその手の場所で情報収集を独断で行なっていた。
ただ単に仕入れたゴシップを披露するのが好きなだけだが。
ふと、件の三男坊が屠自古達の方を向いた。
すると、なんと、手を大きく振るではないか。
屠自古は顔を赤らめながら青娥の方を向くと、
なんと、青娥も手を大きく振っているではないか。
しかもピョンピョン飛び跳ねながら。
三男坊と青娥を交互に見る屠自古。
最近色気づいた青娥。
屠自古は、合点がいった。
青娥殿の『本命』の恋のお相手は、あの美丈夫かい!?
「青娥殿……、まさか……」
「ええ、この子の父親ですわ」
にこやかに、自分の腹に手を置く青娥。
青娥殿、あの三男坊と、姦って(ヤって)やがりましたか!!
「青娥殿、やっる〜!!」
「嫌ですわ、蘇我様。茶化さないでくださいまし」
「でも、ちょっと人目が気になんない?」
ある意味有名人の青年と、悪名高き邪仙。
人目を引かない方がおかしい。
「大丈夫ですわ。蘇我様とあのお方だけしか私の姿を分からぬように術を使いましたわ」
「あ……そう」
三男坊御一行様は去って行き、屠自古と青娥も酒屋に向かった。
「青娥殿!! 是非とも懐妊祝いの祝杯をあげましょう!!」
美男子の三男坊との邂逅を終え、酒屋に到着した青娥と屠自古。
若干興奮した屠自古は店先に並んだ一升瓶の一つを手に取った。
「もちろん、青娥殿のおごりでね」
青娥は酒瓶の値札を見た。
神子から預かった予算では、とても無理だ。
青娥が子供を生むにしても堕胎するにしても、三男坊様から幾ばくかの金子を得られるだろう。
屠自古はそれを当てにして言っているのだ。
ひく……っ。
青娥は一瞬、顔を引きつらせたが、結局は自分の財布を取り出して、その高価で美味そうな大吟醸を買うことにした。
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男女がひととき、肌を合わせるのに利用される、とある連れ込み宿。
この宿は外観も内装も小洒落ていて、カラクリで回転する丸い寝台や備え付けの風呂、冷蔵庫の中の飲み物やツマミ、ちり紙が入った箱の下に忍ばせた避妊具に至るまで、上物を取り揃えていた。
流石、金持ちのボンボン御用達だけのことはある。
「はっはっはっはっ!!」
テンポ良く発声し、ハッスルし、跨った青年の上で腰を上下させる青娥。
ジュップジュップジュップ!!
その度に、青娥の何百年経っても少女のような美しさと具合の良さを保ち続ける秘所を、青年の使い込まれた基準以上の太さと長さを誇る剛直が、互いが分泌した粘液に塗れて出入りした。
腰の動きが最高潮に達し、突如、男根を深々と突き立てられた状態で動きを止めた。
「うっ……、くぅぅぅ〜〜〜っ!!」
ビュビュッ!!
青年は青娥の膣に精を放ち、青娥はそれを歓喜に打ち震えて受け止めた。
「あぁぁ……、ふぅ……」
青娥は、薄いようでしっかり筋肉のついた青年の胸に顔をつけた。
互いにまぐわいの余韻に浸りつつ、青年は青娥の青い艷やかな髪を、青娥は青年のムダ毛のないピンク色の乳首を、それぞれ指で弄んだ。
ぐるぐる回る寝台の上。
青娥はおもむろに切り出した。
「お腹の子のことですけど……」
青年は、ガバと心地良いまどろみを振り切り跳ね起きた。
「あなたはこの子の父親として……」
青年は、青娥と交わっている時以上に、顔から汗をだくだくと流した。
「是非、お別れに立ち会っていただきたいのですが……」
青年は、あからさまにホッとした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
青娥は女の元を訪ねた。
例の川で溺れた女の所だ。
青娥は一通の書状を女に渡した。
それは、簡潔に、それでいてわかり易く描かれた地図だった。
「来てくださいますわね」
もちろん。
女の返事は、『諾』だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
荒地に佇む小屋。
このトンガリ屋根の建物は、もともと教会として建てられたものだ。
しかし、幻想郷に住んていない神を崇拝するものはごく少数で――、
――しかもこの周辺は、紅魔館の縄張りだった。
かくして、教会は打ち捨てられた。
空虚な廃墟。
壇上の男女。
優雅に横臥。
生まれたままの姿を晒す、青娥と青年。
かつての聖なる場所で行う儀式。
男女の営みの結果、設けられた果実の早摘みを行うのだ。
「さあ、私の膣内(なか)から赤ちゃんを連れ出してくださいな」
大股を開いた青娥の秘所。
青年は滾る剛直を、溢れるほどの清水を湛えたそこに突き入れた。
子孫を設けるための神聖な儀式。
だが、今回の目的は、その真逆であった。
幼子に安らぎを与える母の寝所。
そこに現れた無粋な闖入者。
熱く硬い剛直は、子供の眠りを妨げ、いたぶる。
肉棒は、何度も、何度も、子供を小突き回した。
手も足も未発達な、人の形をしていない幼き命を奪おうというのか。
その通りである。
子供は、実の父親に殺されようとしていた。
だが、父親に殺意はない。
ただ、異物を除去しようとしているだけである。
子供は、自我に目覚めた。
死にたくない。
子供は必死に抵抗した。
「い……? ギャアァアアアアアァアアアアアアッ!!!!!」
先ほどまで、青娥の体を貪り快感を得ていた青年は、突如絶叫した。
狂ったように叫びながら、青年は青娥を突き飛ばした。
が、よろけたのは青年のほうで、そのままベッド代わりの祭壇から転げ落ちた。
じゅるりっ!!
青娥から青年の鮮血に塗れた逸物が抜き取られた。
いや……?
何か肉塊のようなものが青年の股間に引っ付いていた。
青娥と繋がっていた穴と粘液の糸で繋がった『ソレ』に、背中を床にしたたかに打ち付けた青年は、ようやく気付いた。
春を鬻ぐ(ひさぐ)ガバガバの商売女すらよがらせる、自慢の『息子』。
それに食らいつき、咀嚼する、『自分の子供』。
「ガッア゛ア゛ア゛アアアァァァァアアァァアアアッ!!!!!」
悲鳴を上げる青年。
「まあまあ!! 元気な稚児(ややこ)ですこと!!」
歓喜の声を上げる青娥。
『グブブブッ……、グロエ゛エ゛エエエェェェェェェェェェェ……ップゥッ!!!!!』
唸り声ともゲップともつかぬ重低音を発する『子供』。
『子供』は青年の下半身から既に離れていた。
自分を殺そうとした青年の『息子さん』を、その根元にぶら下がった二つの宝玉と共に喰らい尽くしたようだ。
見ての通り、言うまでもなく、『産声』を聞けば理解できるが、
青娥が青年の『協力』で産み落とした『子供』は、人間ではなかった。
青娥が宿した青年の子供。
その穢れ無き無垢な魂を、青娥は呪術と己の妖力で、全く別のモノに作り変えてしまった。
『ヤンシャオグイ』――死亡した嬰児を術者の手駒にする、邪法。
生物が持つ原始的かつ根本的欲求――『生まれたい』、『生きたい』という生存本能。
中でも、幼子が持つそれらは、純粋で、強力だ。
本来、『ヤンシャオグイ』は生まれて直ぐに非業の死を遂げた屍体を使うものである。
だが、青娥はひと工夫。
生まれる前から、子供に怨嗟と思慕、相反する感情を植えつけたのだ。
その結果、『息子』を突き立てて自分を殺そうとした父親に食らいついて生を享けた『ソレ』は――、
親を殺したいほど恨み、
親を食べてしまいたいほど愛した。
ブクブクブクッ!!
親の性の象徴という、呪術的な栄養価の高い贄を食らった『ソレ』は、健やかに成長した。
申し訳程度にちょこんと付いた手足をバタつかせた、腐肉の塊。
今や直径2メートルにまで膨張した。
「ひ……っ!? ひいいいいいいいいいいっ!!!!!」
血まみれの股間を両手で抑えた青年は、『我が子』を化け物を見るような驚愕の表情で凝視しながら、尻と足を器用に使って、ズリズリと建物の出口へ向かって後ずさった。
開け放たれたままの出口。
そこから差し込む光の中に青年は到達した。
どんっ。
青年の背中が何か、いや、誰かにぶつかった。
「ぴっ!?」
上擦った奇声を漏らして、青年が恐る恐る振り向くと――、
――そこには、青娥に命を救われ、今日の『ショー』に招待された女が、青年を見下ろしていた。
青年は、その整った顔を涙と鼻水と涎で潤わせながら安堵した。
助かった!!
だが、女は、青年の期待に反し、
彼の顎を蹴り上げた。
ドガッ!!
「ぎゃんっ!!」
追い払われた野良犬のような悲鳴を漏らし、青年は呆気なく仰向けに倒れた。
「ひ……、ひ……」
今度は女に怯えながら、せっかくたどり着いた、女の立ちふさがる出口を見ながら青年は後ずさり始めた。
ぐちゃっ。
また青年の背中が誰か、いや、何かにぶつかった。
「!!」
今度は声もなく、直ちに振り向いた。
予想通り――、
――そこには、食い物と愛情に飢えた『我が子』が、涎を垂らして青年を見ていた。
シュルルッ!!
『ソレ』の口から鞭のような長い舌が飛び出したかと思うと、瞬時に青年の両足を絡めとり、巻尺のように口に引っ込み始めた。
グバァ。
肉塊が割れたかと思うような、大口。
石ころを埋め込んだような乱杭歯が見て取れた。
パク。
『ソレ』は、青年の膝より下を一口にした。
青年は、未だ両手で股間を抑えたまま、絶叫した。
「ひっ……!? イギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」
ボリボリボリ……。
『ソレ』は、スナック菓子のように、父親である青年を咀嚼して、美味そうに、食った。
「アアアッ、グギャアアアア、アア!! ギャガア゛ア゛ア゛、ぷ」
『ソレ』の食べるペースは早く、青年は『我が子』の口の中に、悲鳴を間抜けな音で締めくくって消えていった。
先ほどから建物の出入口に立っていた女は、青年が食われる様を見届けると、ツカツカと建物に入ってきた。
まだ口をモグモグさせている『ソレ』を尻目に、女は奥に進む。
狭い建物なので、女はすぐに、血塗られた祭壇の上で胡座をかいていた全裸の青娥の下にたどり着いた。
「青娥様……」
すとん。
女は身にまとっているものを脱ぎ捨てると、
潤んだ瞳で、青娥に近づいた。
青娥は微笑み、女を抱きしめ――、
――互いの舌を絡め合う、濃密な接吻をした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
時は、青娥が女と出会った頃に遡る。
女は、青年の子を宿していた。
青娥によって川から助け上げられた女は、ポツリポツリと悩みを打ち明けた。
青年が良家の子息であり、結ばれることは出来ないことは承知していた。
だが、女が妊娠したと知った途端、青年は素気なく別れを切り出した。
誠意の欠片もなかった。
女の口からは、いつの間にか、青年に対する呪詛が漏れていた。
女は震えていた。
それは体が冷えたからか。
それとも怒りのためか。
青娥は女をそっと抱きしめた。
凍える体を温めるかのように。
怒りの炎を鎮めるかのように。
焚き火の前にかざした女の着物が乾いた頃。
女の体は、青娥の愛撫によって火照り、
女の心は、怒りではなく劣情によって燃えていた。
私が貴女の悩みを解決して差し上げましょう。
青娥は、同性同士の性交の余韻に浸る女の腹を撫でた。
青娥は、女を孕ませた男を知っていた。
数多いる青娥の『出資者』の一人だ。
お気に入りの青年だが、始末するのを惜しいとは思わなかった。
そう、青娥は恋に落ちていたのだ。
青娥は、己の性器を女のそれと重ね合わせた。
くちゅりと、湿った音を立てて押し付けられた。
「あんっ」
散々こすり合わせたせいで敏感になっていたため、女は思わず声を上げてしまった。
ちなみに青娥が人払いの結界を張ったため、青娥達がいる周辺には人っ子一人いない。
だから先ほどまでシていた時、お互いに大音声で嬌声を上げることができた。
「では、貴女のお子を頂きますわね」
こくり。
女は黙って頷いた。
ジュルルルウッ!!
「んっ!!」
「あひぃ!!」
女は、膣を啜り上げられるような感触に襲われた。
ジュルルッ、と何かが女の最奥から吸い出されていた。
「はっああっ!! あああっ!! 青娥様!! 赤ちゃん、胎内から降りてます!! 堕ろしながらイキそうです!!」
「おイきなさいな。我慢することはありませんわ」
女は今まで体験したことのない快感に、絶叫した。
「では、頂きますわ」
「ああっ、ああっ、アアアアアアアアアアア〜〜〜〜〜ッ!!!!!」
何かが女から出て行った。
女は、絶頂しながらそれを感じた。
「お目覚めですか?」
女が気絶から目覚めると、すぐ横に青娥の顔があった。
女は青娥にもたれ掛かっていたのだ。
女は自分の腹を触ってみた。
以前と変化は見られない。
尤も、気分が悪いからと医者に診てもらって妊娠を確認できたくらいであるから、外見では判別できない。
「貴女の子供は、ちゃんと私の胎内(なか)におりますわ」
青娥の腹も孕んでいるようには見えないが、本人がそう言うならそうなのだろう。
「貴女の子が彼を懲らしめられるよう、私が責任をもって育てますわね」
ニコリとする青娥。
女は、その頼もしい笑顔の美しさに、しばし酔いしれた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
再び、今。
「貴女の悩み、解決して差し上げましたわよ」
青娥が言う。
「貴女を捨てた男は消え――」
ピラ、と一枚の紙片を見せる。
「――手切れ金は、ほら、この通り」
青娥が手にしていたのは、小切手だった。
それには青年のサインと、『1』を先頭とした『0』の大名行列を彷彿とさせる金額が記されていた。
女は青年の子供を望んだ。
これで大金をせしめる事ができると踏んだからだ。
安全日だから。
そう嘘を吐くだけで、青年は避妊を行わずに女と交わった。
子宮にたっぷりと注がれる青年の子種。
三ヶ月後、吐き気を催した女は直ちに診療所に赴き、医者から「おめでとうございます」の言葉をもらった。
逢瀬の時、早速青年に妊娠を報告した女。
だが、女の目論見はあっけなく崩れた。
別れよう。
青年は着物をそそくさと着込むと、財布からあるだけの札びらを無造作に投げ捨てると、そう言って出て行った。
女は唖然とした。
青年が放っていった金は、中絶に使ってお釣りがくる金額だった。
だが女が望んだのは、そんなはした金ではなかった。
どうやったら、あのボンボンからもっと金を搾り取れるか。
どうやったら、あのボンボンに痛い目を見せられるか。
橋から川の流れを眺めながら物思いに耽る女。
前のめりになりすぎた。
そう思った時、女は冷たい川に没していた。
女は、気まぐれで自分を救ってくれた青娥に惚れた。
青娥の美貌とキレる頭脳と蕩けるような性の手管に、すっかり骨抜きにされた。
青娥は、女と青年の間にできた子供を化け物にして、青年にけしかける事を持ちかけた。
事前に青年をたらしこんで、大金を用意させた上でだ。
青娥は青年に子供が胎内にいる事を告げた。
女の時とは違い、青年は慰謝料をたんまり支払うことを約束した。
かくして、おびき出された青年は『我が子』に食われ、大金を巻き上げられたのだった。
女は青年の無残なくたばり方に溜飲を下げ、小切手の金額を見てほくそ笑んだ。
女は青娥が差し出した小切手を受け取ろうと手を伸ばした。
が、手が届かない。
女は何かに引っ張られ、青娥から引き離されていた。
女の裸身に巻きつく、ヌメった縄のようなもの。
女は振り向き、自分を手繰り寄せるモノを見た。
『我が子』が、大口を開けて待ち構えていた。
「い、嫌あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
素足が床を滑っていく。
みるみるうちに、女と『我が子』の距離は縮まっていった。
「何故!? 何故えぇぇぇぇぇっ!? 青娥様ァ!! 青娥様ぁぁぁぁぁっ!! 助け、助けてください!! だずげでえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「あらあら、あの子、父親だけでなく、母親も好きなようね」
青娥はこの光景を見て、そう呟いた。
『我が子』を金儲けのダシとしか、化け物としか見ていない母親たる女もまた、
『我が子』から、食っちまいたいほど愛され、憎まれているようだ。
「だずけでえええぇぇぇ!!!!! だずげでぽ」
ブチャリッ。
女の悲鳴は、『我が子』に頭を噛み砕かれたことにより、唐突に止んだ。
青娥は、『ソレ』の食事風景をのんびりと眺めていた。
醜悪な肉塊は、また一回りデカくなった。
愛してやまない『我が子』の成長を、
青娥は、母の視線で見守っていた。
たぁんとお上がりなさい。
可愛い『我が子』よ。
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青娥が惚れて、
青娥が愛し、
青娥が育てた――、
――愛しい、愛しい、化け物(ワガコ)よ!!
『ソレ』は、いつの間にか動きを止めていた。
粘液にまみれた巨躯は乾燥し、まるで岩のようだ。
青娥は待った。
息を殺して、待った。
ワクワクして、待ち続けた。
ぴし。
何か、聞こえた。
ぴし……、ぴし……。
間違いない。
ぴし、ぴしぴし、ぴきっ。
青娥の眼前の『ソレ』から聞こえてきた。
ぴきっばき、ばりぱりぱりっ、ぺきっ。
ぴくっ!!
びくっびくっ!!
ぴしぴしぴしっ!!
『ソレ』は震え出し、外皮にヒビが目立ち始めた。
ぱきぃっ!!
びくぅっ!!
ぱききぃっ!!
びくびくぅっ!!
ぱき、ぱきぱきぱきぱきぱき……っ!!
びく、びくびくびくびくびく……っ!!
ヒビ割れと胎動が徐々に激しくなり――、
ぱっきぃぃぃぃぃ……っっっっっ……ん!!
『ソレ』は割れ――、
――光が、溢れた。
青娥は跪いて、その光景を、しかと見た。
いつもの青を基調とした軽やかな衣服も、
壁抜けに使う、愛用のかんざしも、
『安物』と卑下している羽衣も、
一切、身につけず、
ただ、祭壇に敷いていた、多少赤黒い染みのある白い布のみを、
その美しい裸身に巻き付け、
『我が子』の目覚めを、見守った。
まばゆい光。
しかしその強い光は、直接見ている青娥の両目を潰すことは無かった。
だから、青娥は見た。
白金の翼を持った、光でできた人影を。
『おかあさん』
『声』は、青娥の脳に直接響いた。
青娥はハッとなった。
喰らわれた女ではなく、
青娥のことを、
あの子は、
『母』と呼んだのだ。
『さようなら』
光の柱が立ち上った。
建物の屋根を突き破り、
空の雲に穴を開け、
博麗大結界を貫き、
幻と実体の境界をまたぎ、
次元の壁を越え――、
――遥かな、遥かな、高みへと。
青娥が正気にかえった時、
既に光は消えていた。
『我が子』がいた証は、跡形もなかった。
青娥は、泣いていた。
最初は涙が、
やがて嗚咽が、
ぽとぽと、えぐえぐと、
漏れ出し、迸り、
へたり込んで、
天井の穴から青空を仰ぎ、
青娥は、泣き叫んだ。
「あっっっっっ……ちゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!
やっっっっっ……ちまいましたわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
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青娥は最強最悪の『ヤンシャオグイ』の化け物を作るつもりだった。
『親殺し』という大罪を犯した、幼子の魂から作り出した下僕。
術と愛情を注いだ青娥に絶対服従の、
青娥が恋するほど、とびきり醜悪(キュート)なゲテモノ(坊や)。
青娥の失敗は、
『ソレ』の産みの両親が、
子供を汚し、殺そうとし、
子供を愛さないという、
親にあるまじき罪を、
『親殺し』を上回る大罪とは思わなかったことであった。
『アレ』がしたことは『親殺し』ではなかった。
両親を愛し、
罪を己が内に取り込み、
血肉とすることで浄化したのだ。
その行為により、
『アレ』は、
クソッタレな肉親の子ではなく、
愛情と邪法を施した青娥の子ではなく――、
天界よりも、
月よりも、
遥かな高みにおわす――、
貴き存在の御子となったのだった。
青娥は『あの子』を愛した。
愛して愛して、愛し抜いた。
だが、相手は愛を無限に供給できるお方だ。
青娥など、相手にならなかった。
こうして青娥は、心血注いで愛した相手に、見事にフラれたのでありました。
チャンチャンッ!!
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紅魔館のそばにある、屋根に大穴があいた廃屋。
そこで、最近行方不明になった男女の持ち物や衣服が見つかったそうな。
男は大店の三男坊。
女は怪しげな酒場で酒と体を供する女給。
建物の中で血痕も見つかっており、自警団は二人は妖怪に食われたのだろうと見当をつけた。
紅魔館周辺では少女の姿をした人を喰らう闇妖が徘徊しており、その見立ては、ほぼ間違いないだろう。
では、あんな人気のない物騒な場所で、二人は何をしていたのだろうか。
男は女にゾッコンで、しばしば高級洋食店や高級宝飾店等、『高級』と名のつく店屋でしばしば二人が仲睦まじく連れ立っている姿が目撃されていた。
ある日など、人ごみでごった返す市場で、供回りの眼前で男は女に子供のように手を振ったりしていた。
だとすれば、考えられることは一つ。
いつものように宿ですれば良いのに、気分を変えようとでも思ったのか、青姦したのが運の尽き。
風の噂では、男は店の金を持ち出して、かなりの額の小切手を切ったとか。
一時期は、現場の建物は宝探し目的の人で賑わい、荒れ具合に拍車がかかり、
また、二人を食らったと目される闇妖の腹に小切手がまだあるのではと、刃物を持って彼女を追い掛け回す者が後を絶たなかった。
そして、彼女に取って食われる者もまた、後を絶たなかったそうな……。
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「おかわりっ!!」
屠自古は茶碗に麦飯をよそい、青娥に渡した。
ばくばくばくっ!!
ものすごい勢いで飯を食らう青娥。
今日の晩御飯はロースとんかつにジャガイモのコロッケ、カニクリームコロッケ、尾頭付きのエビフライ、ホタテフライ。
当然、千切りキャベツも添えられている。
食材に使われている、幻想郷では希少な海の幸は、八雲 紫が差し入れた物だ。
紫は霊夢から青娥が良からぬ事を企てているとの報告を受け、
先ごろ起きた、一瞬だが幻想郷の結界と境界を突き抜けた高エネルギーの事案に関係あるのではと、
お土産を口実に夢殿大祀廟を訪れたのだ。
神子から話を聞き、青娥の落胆を見て、もう大丈夫と安心した紫は程なくしてお暇した。
『失恋』した青娥は、ヤケ喰いという俗世に塗れた手段で心の傷を癒していた。
ぽっかり空いた心の穴を、食い物で埋めようというのか。
この穴は、ブラックホールの如き深さではないだろうか。
そう思わせるような、青娥の食いっぷりであった。
紅魔館の傍の湖で採れたシジミの味噌汁を啜りながら、海老のカリカリに揚げられた頭を噛み砕く青娥。
青娥の健啖ぶりを呆れ顔で眺めている神子達。
既に自分達の分は食べ終えている。
油っこくなった口中をビールで漱ぎ、キャベツで胃の負担を軽減している。
青娥は一連の行動をハイペースで行なっていた。
「ふぅっ!! ご馳走様ですわ」
「お粗末さま……」
ようやく食べ終わった青娥に返事をする屠自古。
意外と家庭的な屠自古は、幻想郷に来てから様々な家庭料理を覚え、今日の揚げ物づくしも彼女の力作であった。
だが、布都や芳香を凌駕する青娥の食いっぷりに、喜びを通り越して若干引いているようだ。
「青娥殿……、その……、気を落とさずに、の」
布都が殊勝に青娥を気遣った。
「青娥殿、また、きっと、良い男に巡り会えるさ」
まだ『彼』の事は屠自古の耳には入っていないのか、青娥は『彼』に振られたのかと思っているようだ。
「……」
神子は何も言わず、手にした笏を弄んでいた。
『厄介事』が終わって、心なしかホッとしているようだ。
「皆さん、本当にありがとうございます。お心遣い、感謝致しますわ」
青娥は、彼女達の心遣いに感謝した。
古の極東で巡り合った豪族の少女達。
家族の如き待遇で青娥を迎え入れてくれた彼女達。
青娥が大切に思う、数少ない他者。
かつて青娥は、仙術や権謀術数で彼女達を助けた。
今回は、俗物的なものでお助けいたしますわ。
青娥は微笑みながら、胸にそっと手を当てた。
二つの乳房の狭間に、青年からせしめ、女に見せびらかした小切手が挟まっているのだ。
締切があると、辛い。
でも、書き上げましたよ!!
2012年6月3日:拙作への評価及びコメントを大勢の読者様から頂き、まことに有難うございます。
皆様のコメントに返事をさせていただきます。
>2様
分かりづらかったですか……。
神霊廟キャラを上手く動かせたかどうか心配していました。
>まいん様
青娥は倫理観が欠落してなきゃね。
ちなみに、ちょっとお間抜けなのは私の作風です。
『子供』の昇天シーンにそういっていただき恐縮です。
>4様
青娥娘々の、相手を篭絡する夜伽シーンには、ちょっと自信なかったんですけどね。
それは最大の賛辞です。
>6様
青娥ががっついて食べるシーンを書きたかったのです。そういっていただき光栄です。
>7様
やっぱり、分かりづらいですか……。
青娥の可愛さは分かっていただけたようですね。
>穀潰し様
私が書きたかったことを理解していただけたようですね。
文章は冗長でしたか……。
>山蜥蜴様
娘々の邪仙ぶり、堪能していただけましたか。
東方キャラがナニされるのがお望みですか。考えておきましょう。
>んh様
青娥の邪仙っぷりはお楽しみいただけましたか。
さすが、私の作風を理解しておられる。
件の女性のことは、おっしゃるとおりですね……。精進します。
>紅魚群様
うんうん、邪仙思考は読者様に伝わっているようですね。
文章の冗長さもまた然り……。
霊夢は……、まあ、私の作品のお約束だと思ってください。
>木質様
実は、当初はもう少しシンプルにいこうと思ったのですが、執筆が進むに、いや遅れるにつれ心が荒んできて、
文章内の青娥も性質が悪くなってきて……、気付いたらこんなんなってしまいました。
好評で何よりです。
>あぶぶ様
『食事シーン』は、思ったより評判が良くて嬉しいです。
自分が腹減った時を考えながら書きました。
>アレスタ海軍中尉殿
中尉殿のおっしゃるとおりですね……。
青娥の邪仙ぶりを表現しようとしたら、こんなこんがらがった文章になってしまいました。
娘々のぷりちーぶりが伝わったのは幸いです。
>17様
邪仙の愛は深海の如し。
深く深く、混沌としており、計り知れない……。
>pnp様
それを試みようとしたんですが……。う〜ん、その辺を考え始めたのが執筆終盤だったもので……。
やはり食事風景が好評のようで。
NutsIn先任曹長
http://twitter.com/McpoNutsin
作品情報
作品集:
3
投稿日時:
2012/04/30 15:00:44
更新日時:
2012/06/03 11:14:43
評価:
14/18
POINT:
1280
Rate:
13.74
分類
産廃創想話例大祭
青娥
神霊廟の面々
霊夢
食事シーン
オリキャラの恋する男女
さすが青娥さん、自分の欲望のためなら躊躇がないですな。
その脇役を務める屠自古たちも好い味を出しておりました。
彼等の食事シーンは旨そうに見え、彼が去るシーンも美しい描写が目に浮かびました。
いや偉い!
娘々可愛いよー♪
黒く、汚く、それ故に高潔。邪仙とはこいつの事を言うのだと思い知らされました。
ただ、もう少し簡潔に纏められたのではないか、と思います。
娘々はやっぱりこういう不二子的な、悪巧みして失敗するんだけどちゃっかりしてる、みたいのが映えますなぁ。
不特定多数との性交だの子供降ろすだの殺人だの、っていう所謂タブーへの『軽さ』が素敵だぜ娘々。
ただ、唯一淋しかったのは、娘々の格好良さを魅せる為に仕方ないとはいえ、結局ひどい目にあったのはモブキャラだけで、東方キャラの『可愛い所』が見れなかった所でしょうか?w
筋が複雑なのは曹長さんがオチでひっくり返す時よくやる手なのであまり気になりませんでした。
ただ、序盤の娘々と助けた女の会話シーンをもうちょっと具体的に書いて、この女なる登場人物のイメージを読み手に植えつけておけば、なお分り易かったと思います。
ここで女を可哀想な被害者的キャラに見せかけておくと(なんの被害かは伏せておいて)、後のどんでん返しも綺麗に決まったでしょうし、女のゲスっぷりも引き立ったんじゃないかなと。
ただ、言い回しをもっと端的にしたり、不要なパラグラフ(霊夢のくだりとか)を削減するともっと読みやすかったかもです。これからも応援しています。
どうしてこの邪仙の愛情はこうも歪んでいるのか。
流石、一度家族を捨てた前科持ち。
容姿も知能も優秀だからなおタチが悪い。
貴方が書く食事シーンは作者の器の大きさを反映しているのかな?
まあ大食漢が度量の大きな人間と言うのは勝手な想像ですけどw
赤ちゃんの食事シーンは乱杭歯が食い込んでるところがリアルに想像できてそそります。
何はともあれ娘々可愛い
何はともあれ面白かったです。陰惨な描写に食事風景。食欲が衰退したり増進したり。