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『産廃創想話例大祭 『幻想郷病』』 作者: 紅魚群
※警告:設定崩壊 キャラ崩壊
霊夢は蛍光灯で明るく照らされた通路を歩いている。
その通路沿いには番号の書かれた鉄の扉がいくつもあった。霊夢はその中の"03"と書かれた扉の前で止まる。
そして腰にある鍵束から、同じく03と書かれたタブのついている鍵を取り出し、それを鍵穴に入れて開錠した。
扉を開けると、すぐ目の前に鉄格子があった。その向こう側に、部屋が見える。
部屋の隅で丸まっていた少女が、こちらの姿を見るなり走り寄ってきて鉄格子にしがみついた。
「霊夢!いい加減ここから出しなさい!!何のつもりなのよ!!」
「レミリアちゃん落ち着いて。怖いことなんてないのよ」
「だからその"レミリアちゃん"ってのも何なのよ!!ふざけないで!!」
レミリアはがしゃがしゃと鉄格子を両手で揺らした。そして悲しそうな表情をする。
「ううっ…。なんでこんな物も壊せないのよ…!」
「いい子にしてたらここからも出してあげるから。ね?だから…」
「本当にどうしちゃったのよ霊夢。私のこと忘れちゃったの…?」
レミリアの顔がより一層悲しげになった。
霊夢はレミリアと同じ目の高さまで腰を落とし、言った。
「何度も言うけど、ここはあなたがちゃんと立派な大人になれるように、勉強するところなのよ」
「大人って、私は霊夢よりずーっと長生きしてるのよ!?」
「うーん……」
霊夢は頭をかいた。
どういう風に言えば分かってもらえるんだろう。
接し方がやっぱりまだよく分からない。今日もダメそうだ。
「また来るから。ビデオ教材はちゃんと見てね」
「待って!いかないで!霊夢!!」
レミリアが鉄格子の間から手を伸ばすが、霊夢は気にせず腰を上げ、扉を開けて廊下へと出た。
扉を閉めてまた鍵をかけ、そして手元のボードへと目を落とす。
「患者番号03番、変化なし…っと」
霊夢はボード上の紙の『回復兆候なし』の項に丸をつけた。
これでやっと1人終わり。1人1枚の診断用紙、あと10枚くらいはある。
これから毎日こんなことを続けると思うと少し嫌気がさした。
まだこの仕事を初めて3日目だし、慣れてくれば少しは楽になるのだろうか。
それでも、こんな何のとりえもない自分に仕事があるだけ幸せだということも、霊夢は知っていた。
次の霊夢の担当は48番の部屋だ。
また長い通路を歩き、48と書かれた扉の前まで行き鍵を開ける。
この部屋の患者は少し苦手だった。扉を開ける手が、少しためらう。
でも仕事なんだからちゃんとしなくちゃと、霊夢は勇気を出し、開けた。
『ガーン!』
扉を開けるなり大きな音がして、ひゃっと霊夢は思わず一歩引いた。
鉄格子の向こう側に、患者に食事を出すときに使われるプラスチックのお皿がコロリと転がった。
大きな音の正体は、部屋の中の人物がこちらに向かってその皿を投げ、それが鉄格子にぶつかった音のようだった。
「何しに来たんですか」
部屋の中の人物が、霊夢を睨み付けながら言った。
患者番号48番、射命丸文は、霊夢の担当している中では最も扱いに困る人物だった。
「文さん、その……調子はどう?」
「最悪ですよ。何日も何日もこんなところに閉じ込められて、良好な方がどうかしてます」
「…体調が悪いとか、そういうのは…?」
「悪いなんてもんじゃないですね。そんな鉄格子も壊せないほど力も衰えて、風を操ることも出来なくなって」
文は自分の背中に手を回して、自虐的な笑みを浮かべながら続けて言った。
「ほら、羽も無くなっちゃったし、ははは。これじゃまるで私、人間みたいじゃないですか」
「みたいじゃなくて、あなたは人間なのよ」
「…だまれ。私を下等な人間なんかと一緒にするな」
急に凄味のある口調と目つきで睨まれて、霊夢は一瞬たじろいだ。
怖い。やっぱりこの患者は苦手だ。
霊夢は体が震えないようにするだけで精一杯だった。
「霊夢さんも私をこんな目に合わせてどういうつもりか知りませんが、ただではおきませんよ」
「こ…ここはあなたのための施設で…」
「それはもう聞き飽きました!用がないなら出て行ってください!!」
文が今度はプラスチックのフォークを振り上げ、こちらに向かって投げた。
投げられたフォークは今度は鉄格子の間をすりぬけ、霊夢の顔のすぐ横の壁にぶつかった。
「ひゃっ…わかったから、物を投げないで!また来るからね!」
霊夢は慌てて外に出た。そして扉を閉めて、ぺたりと背中を扉につけた。
深いため息をつく。
研修も受け、ある程度のことは身につけたつもりだったが、やはりこういったコミュニケーションはマニュアルだけではどうしようもない。
やっぱり私この仕事、向いてないのかしら…。
「よぉ。がんばってるみたいだな」
うなだれる霊夢の横から誰かが声をかける。
霊夢はその方を向き、なんとか笑顔を作った。
「霧雨さん。こんにちは」
「だからその霧雨さんってのやめろって。魔理沙でいいよ、同い年なんだし。敬語も使っちゃ駄目だぜ」
「え…?う、うん。…魔理沙」
「おっけーだぜ」
魔理沙と呼ばれた少女はニカッと歯を見せて笑った。
霧雨魔理沙。それが彼女の名前だ。
もう数ヶ月ここで働いているらしく、ベテランとまではいかなくても、大分仕事には慣れているようだった。
面倒見もよく、まだ仕事をはじめて間もない霊夢を率先して気にかけてくれた。
そういった意味で、霊夢は魔理沙に感謝と好感を持っていた。
「どうなんだ、仕事の方は。慣れてきたか?」
「それが…あんまり。今も患者さんに物を投げられちゃって…」
「ははは、そんなのよくあることだぜ」
魔理沙は自分の持っているボードの上に目を落とし、続けて言った。
「その程度マシなほうだぜ。フランドールなんか尖った鉛筆で本気で私を刺し殺そうとしたくらいだしな」
「フランドールって、レミリアちゃんの妹の?」
「そうそう。そっちと同じで相変わらず自分を吸血鬼だと思い込んでるし、話を取り合ってくれない分、そっちより性質が悪いぜ」
「そう、大変そうね…」
「見た目はただのガキなのにな。正直ぶん殴ってやりたいぜ」
魔理沙が怒りに満ちた顔で握り拳を作ったので、霊夢は慌てて言った。
「駄目よ、暴力は。絶対禁止って言われてるでしょ?」
「霊夢はマジメだなぁ。わかってるよ、冗談だって」
魔理沙が握り拳をほどく。
霊夢たち"監視員"には、患者の世話をする上での厳しいマニュアルがあった。
患者への暴力が絶対禁止というのも、その中のひとつだ。
「でも研修でやりはしたけどさ、私はマニュアルの内容なんてもうほとんど忘れちゃったぜ」
「暴力禁止以外には、担当外の患者に会うことの禁止と、患者からの質問に答えることの禁止と…」
「あったな、そんなの」
「…他にもいろいろあるけど、今の位は意識しといたほうがいいですよ。あ、いや、いいわよ」
「わかったわかった」
あまりわかっていなさそうだったが、仮にも新人である自分が先輩もにうるさく言うのもおかしいので、霊夢はそれ以上は何も言わなかった。
それに、なんだかんだ言って魔理沙は大きなミスもない優秀な監視員だった。いいかげんな振りをして、意外としっかりしているのかもしれない。
魔理沙は小うるさい空気を嫌うように、話題を振り変えた。
「それより腹減らないか?メシ食いに行こうぜ」
「うん」
霊夢もお腹が空いていたので、断る理由はなかった。
食堂は患者棟の一階にある。
監視員は自分の好きな時に食事をすることができた。
要は一日の内のノルマをこなせば、空き時間は好きに使っていいのだ。
時間としては昼前頃。ランチには少し早いが、朝食を食べていないので霊夢たちのお腹は十分に空いていた。
列に並び、注文をする。霊夢はアジフライの定食、魔理沙はから揚げの定食を受け取り、それを食べるためのテーブルを探した。
その途中見覚えのある人物が食事をしていたので、魔理沙は足を止めて話しかけた。
「おう妖夢、調子はどうだ?」
「はい、おかげさまで」
妖夢と呼ばれた少女はもう食べ終わるところだった。
妖夢は監視員ではなく患者だ。この食堂は、患者も利用することができるのだ。
ただ、レミリアや文のようなまだ問題のある患者は、食堂を利用することはできず、食事は部屋に直接配膳される。
妖夢のような治療の効果が表れ社会性が確認された場合のみ、部屋から出てこういった施設を利用する権利が与えられる。
「こうやって普通に話ができるのも、魔理沙さんのおかげですよ」
「まあ良くなってなによりだぜ」
妖夢も以前は自分のことを冥界(いわゆる死後の世界)で働く庭師だと思い込んでいたらしい。
今いる患者の中では、もっとも更生に近い。
「午後から適正検査があるから、忘れないようにな」
「はい」
妖夢は立ち上がりお辞儀をしてから、食器をトレーの返却口に持って行った。
そしてようやく、霊夢と魔理沙はテーブルにつく。
「さあ食べようぜ」
「さっきの妖夢って子は魔理沙が担当だった患者なの?」
「んぐ?そうだぜ」
早くもから揚げをほおばりながら魔理沙が何の気なしに答えた。
やはり成果を出せているからには、魔理沙は優秀なのだと霊夢は思った。
自分の担当している患者を見ていると、はたして更生させることが出来るのだろうかと不安になってくる。
やっぱり私、駄目なのかなぁ。
「霊夢の考えてることわかるぜ」
「え?」
「運だよ、運。どうがんばっても更生しないやつはしないし、妖夢みたいな素直な奴はほっといても治っちまうんだよ」
「そんなものなの?」
「そうそう。それに霊夢はまだ新人なんだし、そんなに気負いすることないと思うぜ」
魔理沙の口の端から、米粒がぽろりと落ちた。
午後になって、霊夢はまた患者の部屋を回る作業に戻った。
食事の時の魔理沙の言葉が思い浮かぶ。
更生するかどうかは、運か…。本当にそうなのだろうか。
それに自分の担当する患者の中に、勝手に更生するような患者はいるのだろうか。
だが少なくとも、この部屋の患者は違うだろう。
霊夢は82番と書かれた扉の鍵を開け、中に入った。
「パチュリーさん、こんにちは」
鉄格子越しに、霊夢が挨拶をする。椅子に座って本を読んでいた少女が、ゆっくりとした動作で霊夢の方を見た。
この患者も霊夢はあまり得意ではなかった。コミュニケーションがかみ合わないのでなく、そもそも取れないのだ。
「何か変わったことはあった?体の具合は大丈夫?」
「……」
パチュリーはただ、何も言わずにじっと霊夢の方を見つめていた。
その目は哀れみなのか、軽蔑なのか、よくわからないがあまり良い印象を受けるものではなかった。
いつものことだ。この患者の声を、霊夢はまだ聞いたことがない。
「ねえ、言いたいことがあるなら言ってくれないとわからないわ」
「……」
やはり無言。
霊夢は頭を掻き、ため息をついた。
一体どうすればいいのか。叩くわけにもいかないし、手の打ちようがない。
「…まあ、また来るからね」
今日も駄目かと思い帰ろうとしたそのとき、パチュリーの唇がわずかに動いた。
「げんそうきょう…」
「え!?」
「幻想郷は、どうなったの?」
初めてパチュリーが喋った。落ち着いた口調の、透き通るような声だった。
やっと自分の患者に進展があったと霊夢が喜ぶのも束の間、返す言葉に困ってしまった。
パチュリーの喋った内容は、マニュアルにおけるタブーだった。
――患者からの質問に、答えてはならない
厳密に言うと、完全に答えてはいけないというわけではない。
ようは真剣に考えて返事をすること、あるいは患者が知るべきではない情報を答えることがいけないのだ。
はぐらかして答える分には、何の問題もない。
「えっと、幻想郷なんてものはないわ。それはあなたの妄想の中の世界なのよ」
「…そう」
「ねえ、それより教材のビデオはちゃんと見てくれた?」
「……」
また黙ってしまった。
パチュリーはもう霊夢から視線を外し、手元の本へと目を落としていた。
一度喋ってくれたから続けて会話ができると思っていたが、それ以降は霊夢がいくら話しかけても、もう喋ることはなかった。
パチュリーのいた82番の部屋の鍵を閉めて、ため息交じりに霊夢はまた薄暗い廊下を歩いた。
少しは進展があったと思ったのに。答え方がまずかったのかしら。
でも、あの質問にどう答えたよかったの?
パチュリーの声が思い浮かんだ。
『幻想郷は、どうなったの?』
答えようにも、霊夢は幻想郷がどんなところなのか知らなかった。
ただマニュアルに載っていた『患者たちが共通して口にする、心の中にある世界』ということしか知らない。
幻想郷という単語を使ったのは、なにもパチュリーだけではない。
レミリアも、文も、というより、この施設の患者全員がその単語を口にするのだ。
患者達が共通して口にする単語『幻想郷』。
それは天狗が舞い、妖精が踊る、まるでおとぎ話の中に出てくるような世界らしい。
そんな世界があるわけがないのに、何故か患者たちは自分がその世界の住人であると信じて止まないのだ。
精神病の一種のようだが、まだ詳しいことは分かっていない。
ただ名前だけは、その単語から取って"幻想郷病"と名付けられている。
そして霊夢も、以前はここの施設の患者だった。
だがそのときのことはよく覚えていない。
ただ思い出そうとすると何故かきゅうっと胸が苦しくなるので、霊夢自身もあまり気にしないように努めていた。
「ああ霊夢、探したわよ」
考え事をしているときに不意に呼びかけられたので、霊夢は少し驚いた。
「あっ、咲夜さん。どうもこんにちは」
霊夢は咲夜の方に向き直り、軽くお辞儀をした。
咲夜も霊夢と同じ監視員だ。ただキャリアは魔理沙以上に長い上に、年齢も霊夢より何歳か上だった。
霊夢の中ではとりわけ大先輩といった位置づけだったが、少し怖いイメージもある。
失礼のないよう、霊夢は言葉を選びながら喋った。
「あの、私に何かご用でしょうか?」
「そうそう、所長があなたをお呼びよ」
「え!?所長が?」
霊夢の体がギクリと跳ねた。
「何の用かは聞いてないけど、手が空いたら来なさいって」
所長が私に何の用だろう。
仕事の成果が全く出せてないから怒っているのだろうか。
でもまだ仕事を初めて3日目だし、さすがにそれは悲観的すぎるか。
何の用かはわからないが、ともかく呼ばれたからには行くしかないだろう。
霊夢は咲夜に伝言のお礼とお別れを言ってから、所長室へと向かった。
この施設の敷地には第一患者棟、第二患者棟、職員棟が川の字のように並んでおり、その中で所長室は職員棟の3階にあった。
霊夢は階段を上り所長室の前まで来てから、少し呼吸を整える。
嫌な緊張感が走る。所長という人物が、霊夢にはまだいまいち掴めていなかった。
戸をノックすると、中から「どうぞ」と声がした。所長は在室だ。
「失礼します」
霊夢は扉を開けて、中へと入った。
所長室に入るのは初めてではなかった。
ここで働く前の挨拶とか手続き云々で何度か来たが、そのたびにこの独特の雰囲気に圧倒されてしまう。
部屋の両脇にはガラス戸のついた本棚があり、中には年代物を思わせる異様に古い紙質の本がいくつも並んでいた。
壁には森か山を思わせる風景画を背景にして、墨絵タッチの狐と猫が大きく描かれている。
そして部屋の中央に木製の業務用デスクが置いてあり、そこに頬杖をついた所長が座っていた。
「いらっしゃい霊夢。待ってたわ」
所長の名前は、八雲紫と言うらしい。
この施設の創始者であり、最高責任者でもある。
霊夢の雇い主でもあるため感謝こそしているが、風変わりな感性、胡散臭い雰囲気、すべてを見透かすような瞳、そんな掴みどころのない部分が霊夢にはどうも苦手だった。
「霊夢、どうですか?仕事の調子は」
霊夢の全身に力が入った。
ほらきたぞ。やっぱり私の仕事ぶりが駄目なのを叱咤するために呼んだんだ。
霊夢の顔が強張ったのを見て、紫はくすりと顔をほころばせた。
「そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。仕事の成果の良し悪しを聞いているわけではありません」
「え?」
「今日でたしか3日目ですね。仕事の方には慣れましたか?」
なんだ、怒られるわけじゃなかったのか。
少し気が楽になったが、それでも霊夢がまだ何も成果を上げれていないことに変わりはない。
業務3日目なら無理もないかもしれないが、霊夢はできるだけ申し訳なさそうに言った。
「仕事の手順には慣れましたけど、患者とのコミュニケーションが上手く取れなくて、それで何もできなくて…」
「つらいですか?」
紫がそう言ったので、霊夢は首をぶんぶん振って否定した。
本当はつらいが、こんな早々に弱音を吐くわけにはいかない。
「いえ、大丈夫です!今はまだ結果は出せてないですけど、これからはもっと頑張って―――」
「霊夢」
紫が霊夢の言葉を遮った。
「先ほども言いましたが、成果の良し悪しを求めているわけではありません。あなたは大丈夫と言いましたが、あなたのやっている仕事はとてもつらいものです。やめたくなったらすぐに言ってください。違う持ち場に回しますから」
紫の見通すような瞳が、じっと霊夢を見据えた。
吸い込まれるような、不思議な瞳。でも、どこか温かい感じがした。
「患者の更生も大切ですが、業務に監視員が苦痛を感じてはなりません。患者にもそれが伝わってしまいます」
「…あの、所長!」
思わず霊夢は声を上げた。
そんなことを言われて、はいやめますと言えるような性格では霊夢はなかった。
「私、つらくないって言ったら嘘になります。自分が何の力にもなれなくて、役に立たなくて。でも、この仕事を頑張りたいんです」
「いいのですか?」
「何もできないまま終わりたくないんです」
「…そうですか、わかりました。でも、無理はしないでくださいね」
紫がやわらかく言った。
霊夢の中の紫のイメージがほぐれる。
前に会ったときはもっと事務的なことしか言わなかったが、あれは他の監視員もいたからだろうか。
こうやって二人だけで話していると、否応なしに所長である紫の中の優しさが伝わってくる。
従業員を大事にする、いい上司だと霊夢は思った。
霊夢は丁寧に紫にお礼を言ってから、所長室を後にした。
業務4日目。
昨日の所長との話もあってか、霊夢のモチベーションはとても高かった。
「今日こそは成果を出すわよ」
霊夢は自分に言い聞かせながら、03番レミリアの部屋の鍵を開ける。
開けるなり、昨日と同じようにレミリアはこちらに走り寄ってきて鉄格子にしがみついた。
「霊夢!お願いだから正気に戻ってよぉ!」
「レミリアちゃん、ご飯はちゃんと食べないと駄目じゃない」
霊夢はレミリアを無視して、机の上の配膳された後の食器を見ながら言った。
パンと肉は食べたようだったが、サラダが半分以上残っていた。
「好き嫌いは駄目よ。野菜もちゃんと食べなさい」
「もう止めてよ霊夢…。そんなこと言わないで……」
レミリアの瞳に、じんわりと涙がたまった。
そんなに野菜が食べたくないのかと霊夢は思い、仕方ないともうひとつの鍵束を腰から取り出した。
鉄格子の扉の鍵だ。それを鍵穴に差し込み、開けた。鉄格子にしがみついていたレミリアが涙目のまま数歩引く。
監視員は必要に応じて鉄格子を開け患者に直接会う権利を持っていたが、霊夢がそれをしたのは今回が初めてだった。
レミリアはまた霊夢の方に近づき、霊夢の服を両手で引っ張った。
「霊夢、思い出してよ…。神社でお茶飲んだり、宴会したり、幻想郷の異変で…」
「レミリアちゃん、はいこれ、あーん」
霊夢は食器に残っているサラダを箸で掴み、レミリアの口元まで運んだ。
レミリアは霊夢の服から手を放し、口をつぐんで首を振った。
「食べなさい」
「…食べたら思い出してくれる?」
「いいから。食べなきゃ大きくなれないわよ」
「そんなの……あぐっ!?」
口が開いたタイミングを狙って、霊夢はサラダをレミリアの口に押し込んだ。
レミリアは目を白黒させたが、吐き出すことはせずゆっくり咀嚼して飲み込んだ。
「いい子ね。食べられるじゃない」
「……」
霊夢がまたサラダを口元に運ぶと、観念したようにレミリアは口を開きそれを食べた。
霊夢の心の中で喝采が上がった。やった、とうとう成果を形にできたわ。
そのままサラダは順調に量を減らし、とうとう最後の一口になった。
最後の一口を口元に運んだところで、レミリアは急に口をつぐんだ。
「ん、どうしたの?」
霊夢は聞いたが、レミリアはじっとサラダを、いやそれを持っている霊夢の右手をじっと見つめていた。
何だ?霊夢も自分の手を見てみるが、別段おかしいところはない。
「あの頃の霊夢は、私が血を飲めるような隙は与えなかったわ」
「え?何の話?」
次の瞬間、突然レミリアは霊夢の右手に噛みついた。
人差し指の付け根あたりにレミリアの小さな歯が食い込み、だらりと血がこぼれだした。
「きゃあぁあ!!!」
霊夢は叫び声をあげ、箸を放して右手を振り回そうとした。
だがレミリアは放さない。がっちりと両顎で食らいつき、びくともしなかった。
「痛い!放して!」
ずきずきとした痛みが次第に酷くなってくる。
霊夢はとっさにテーブルにあったフォークを左手でとり、レミリアの歯の隙間に挟み込んだ。
そして"てこ"をつかって、無理やりこじ開ける。
開いた距離はわずかだったが、霊夢はすばやく手を引いて、ようやく右手を救出することが出来た。
右手はひどい有様だった。
くっきりと人差し指の付け根あたりにレミリアの歯型が浮き、おそらく傷の深さは骨にまで達しているだろう。
血がこぼれだし、鈍痛が断続的に霊夢の脳を刺激した。
「驚いたわ。血がまずいと感じるなんてね」
レミリアが腕で口を拭いながら言った。
霊夢はレミリアを睨み付ける。
例えようのない怒りが湧き、思わず手をあげたくなったが、必死にそれを抑え込んだ。
「どうしてこんなことしたの…?」
「今分かったわ。あなたは霊夢じゃない。偽物よ」
会話がかみ合わない。
こうしている間にも、傷口がずきずきと痛んだ。
レミリアへの再教育も必要ではあるだろうが、今はそれよりも右手の治療の方が先決すべきだった。
「…後でまた来るから、おとなしくしてなさい」
「偽物のあなたなんてもう来なくていいわよ」
霊夢は鉄格子と扉に左手だけでなんとか鍵をかけ、駆け足で治療へと向かった。
職員棟の方にはちゃんとした医院もあるが、とりあえずはしたたる血を止めたかったので霊夢は患者棟の応急室へと向かった。
その途中、ばったりと咲夜に出会った。
「その傷、どうしたの?」
当然咲夜が心配する。霊夢は正直に言った。
「患者に噛まれてしまって…」
「そう…。ともかく、はやく処置をしましょ」
咲夜に連れられ、応急室へとたどり着く。
咲夜は手慣れた手つきで消毒薬、ガーゼ、包帯を取り出すと、それらを適切に霊夢の患部へと使用した。
傷は霊夢が思っているよりも浅かったようだ。血は止まり、痛みも少し和らいだ。
「一応これで大丈夫なはずだけど、膿んだり痛みが続くようなら医院の方で診てもらったほうがいいわ」
「はい、本当にありがとうございました」
「それで、何があったの?患者に噛まれるなんて」
「実は…」
霊夢はかくかくしかじか、先ほどあったことの一部始終を咲夜に伝えた。
聞き終わると、咲夜は呆れたように言った。
「そんなもんぶっ叩いてやりなさいよ」
「暴力はダメって、きつく言われてますから」
「マニュアルはそうかもしれないけど、私はそんな甘いやり方好きじゃないわ」
「でも私はまだ新人ですし…接し方もよくわからなくて…」
そういえば結局レミリアとのコミュニケーションは失敗に終わったのだった。ますますみじめな気分になる。
落ち込む霊夢を見て、咲夜が顎に手を当てて何かを考える。そして言った。
「決めた。その患者の部屋はどこなの?私がビシッと躾けてやるわ」
「えっ!?でも担当外の患者に会うことは禁止されてますし…」
「かまやしないわよ。新人の霊夢だけに任せとく方が心配だわ」
霊夢は迷った。咲夜が自分のために言ってくれているのはわかる。だがマニュアルも絶対であると霊夢は思っていた。
どうしよう、でも、自分よりベテランな大先輩がこう言っているのだがら、断るのも生意気だし心配もいらないかもしれない。
少し考えてから、霊夢は03番の部屋の鍵を咲夜に渡した。
「噛まれないように気を付けてくださいね…」
「まかせときなさい」
霊夢と咲夜は03番と書かれた部屋の前まで来た。咲夜が鍵穴に鍵を差し込み、扉を勢いよく開ける。
「偽物霊夢、また来たの…?」
部屋の隅でうずくまっていた少女が顔を上げる。そして…目を大きく見開き、小さくつぶやいた。
「咲夜…?」
「あら、どうして私の名前を知ってるのかしら。まあいいわ」
咲夜は鉄格子の錠も開けると、つかつかとレミリアの方へ歩み寄った。
「あなたが問題児のレミリアね。今日は私が…―――」
「咲夜!!さくやぁ!!!」
「なっ…」
いきなりレミリアは咲夜の体に跳んで抱きついた。予想していなかった事態に、咲夜もバランスを崩して転びそうになる。
だがなんとか持ちこたえて、レミリアの両肩に手をかける。
「こ、こらっ!離れなさい!」
「フランもパチェもいなくてっ…。ずっと私ひとりで…!!うっ…うっ…うぅう!」
咲夜の胸の中に顔をうずめて、レミリアは嗚咽をもらした。
わけがわからない、といった表情の咲夜。霊夢も同様だった。
咲夜は両手でレミリアを引きはがそうとした。だが、不思議と力が入らなかった。
「ほんとに、ほんとに寂しかった……」
「う…」
咲夜の顔が、どこか遠くを見るような虚ろな表情になっていることに、霊夢は気づいた。
何か様子がおかしい。
レミリアが強い口調で言った。
「咲夜、命令よ。こんなわけのわからないところから出て、今すぐ一緒に紅魔館に帰りましょ」
「え……ぁ……。おじょう…さ…ま…?」
咲夜の視界がぐにゃりと曲がる。
紅いお屋敷。ティーカップ。そんなものが、咲夜の頭の中にフラッシュバックする。
何か、何か大切なことを忘れている気がする。
失われていたものが、咲夜の頭の中で急速に組みあがりはじめていた。
「霊夢、退きなさい」
「しょ、所長!?」
霊夢は驚いた。いつのまにか所長の紫が霊夢の背後にいた。
ただ茫然と見ていた霊夢の体を押しのけて、紫が早足に咲夜達の方へと歩み寄った。
そして、手で二人の頭を撫でるような動作をする。
何をしたのか分からないが、咲夜とレミリアは糸が切れた操り人形のように、その場にどさり倒れた。
「咲夜は体調が悪いみたいだから。霊夢、医院の病室まで運びなさい。あとは私が処理しとくから」
「は、はい」
あっけにとられて固まっていた霊夢の体を、紫の命令が押した。
霊夢は言われたとおり倒れている咲夜をおぶって、病室に向かって部屋を出た。
霊夢には何が起こったのかわからなかったが、言われたとおりにするしかなかった。
「よく覚えてないけど、今朝所長にこっぴどく叱られちゃったわ。考えあっての担当員制度だから、かってにそれを崩すなって」
次の日になって霊夢は咲夜の見舞いに行った。
昨日は寝たきりだったらしいが、顔色も良く今はもう大丈夫そうだった。
「もう体の方はいいんですか?」
「ええ、午後には復帰できると思うわ。それより、倒れた私を霊夢が運んでくれたらしいわね。礼を言うわ」
「いえ…そんな…」
所長に言われたとおりにやっただけだ。結局、自分は何もできなかった。
何が起こったのかわからなかったが、咲夜にも迷惑をかけてしまったと、霊夢は幾分申し訳ない気持ちになった。
「それにしてもどうして倒れちゃったのかしら。何かの病気だったわけでもないのに」
「疲れがたまってたんじゃないですか?」
「所長にもそう言われたわ。自覚もないし腑に落ちないけど、そういうことにしときましょうか」
ふうっと咲夜が深呼吸をした。
「それより霊夢、仕事の方はいいの?」
「あ、そうですね。じゃあそろそろ…」
「わざわざお見舞いに来てくれてありがとね」
「いえ、咲夜さんもお大事に」
咲夜に対する霊夢のイメージも、大きく変わっていた。
ここの施設の人は、本当にいい人ばかりだ。
こんな恵まれた幸せな環境で仕事が出来るのだから、自分もそれに答えなくてはと、霊夢は自身に喝を入れた。
いつもの03番の部屋の前。昨日の出来事の直後だったが、霊夢は躊躇わず扉を開けた。
そしていつものように、それに気づいたレミリアが鉄格子の方に走り寄ってくる。
"偽物霊夢"と言われて嫌われてしまったと思っていたが、どうも様子が違うようだ。
「霊夢、ごめんなさい。昨日はあんなことしちゃって…」
開口一番、レミリアが謝罪した。霊夢の包帯で巻かれた右手に目を落とす。
「霊夢は私のことを思ってああしてくれてるのに、私ったら…」
「いいのよレミリアちゃん、分かってくれたなら」
落ち着き払った口調で霊夢はそう言ったが、内心とても驚いていた。
霊夢は机の上にある食器を見た。今日の食事は、すべて残さず食べているようだった。
どうしてここまで急に変わったのだろう。やはり更生するかどうかは運ということなのだろうか。
その後も少し霊夢はレミリアと会話をした。
以前のように幻想郷がどうのだの、私のことを思い出せだのは言わず、いたって普通の会話ができた。
あきらかな回復兆候だ。部屋から出た後、霊夢は満面の笑みで、ボードの上の『回復兆候1段階』に丸を付けた。
今度こそ間違いなく、結果を残せたのだ。仕事終わりのボードを提出するときが、楽しみで仕方なかった。
この勢いに乗って次も行きたかったが、次の48番の文ばかりは、こんな奇跡は起こらないだろう。
この患者は特に問題児だ。話は聞かないし、物を投げるし、正直順番を飛ばしてこのモチベーションを保ったまま他の患者を回りたいくらいだった。
でも仕事なんだし仕方ない。霊夢は扉を開けた。
「こんにちは」
物が飛んでこないか警戒しながら、部屋の中を覗き込んだ。
文は当初のレミリアがそうしていたように、部屋の隅にうずくまっていた。
虚ろな目で顔を上げ、霊夢の方を見る。
目の下にクマができていた。寝ていないのか。どうりで今日は大人しいはずだ。
「本当は私、分かってたんですよ。もう幻想郷には戻れないって」
文がいきなり喋りだした。
幻想郷の否定。まさかまさかの回復兆候かもしれない。霊夢は黙って聞いた。
「だから霊夢さんにいくら言ったって無駄だってのも分かりました。記憶も失ってるみたいですし、完全にあのクソ妖怪の手駒ですしね」
「クソ妖怪?誰のこと?」
「…ああ、八雲紫が妖怪だってことも忘れてるんでしたっけ。あいつだけはまだある程度力を残してるみたいですけど、それもいつまで持つものか。まあ、必要のない力かもしれませんが」
所長が妖怪だって?たしかにそんな雰囲気はあるし、面白い冗談だわ。
回復兆候があるかもしれないと思った自分が馬鹿だった。妖怪だの、力だの、言ってることが前と全く変わっていない。
「でも八雲紫のやってることは間違ってます。あんな腐った人間社会で生きるくらいなら、死んだほうがマシです」
「そんなこと言うもんじゃないわ。楽しいことだってたくさんあるのよ」
どうせ無駄だと思いながら、一応模範的な返答はしてみる。
文は馬鹿にしたように「ははっ」と笑った。
「まあ霊夢さんのやりたいようにやってください。私には関係のないことです」
「……」
返す言葉も思いつかない。
霊夢はその場でボードの上の『回復兆候なし』に殴るように丸を付けると、すぐに部屋から出て扉に鍵をかけた。
レミリアの更生が上手くいったからと言って、他も連鎖的に上手くいくわけではやはりなかった。
次に会いに行ったパチュリーは相変わらず無言のままだし、他の霊夢の担当である患者も、軒並み幻想郷という夢の世界から抜け出せていなかった。
「ぐすっ…帰りたいよぉ。大ちゃんに会いたいよぉ…」
チルノという子供の患者はいつも泣いてばかりだ。
「上海はいい子ね。もっとお友達を作ってあげるからね」
アリス・マーガトロイドは人形遊びと人形作りに没頭している。それ自体はいいのだが、あまり現実を見てくれない。
「ひっ…やだ…!来ないで!来ないでください!!」
古明地さとりはいつも顔を合わせるだけでとても怯える。まともに話も出来やしない。
「はぁ…」
霊夢は何度目かわからないため息をつく。とりあえず今日の分も終わったが、成果があったのはやはりレミリアだけだった。
帰り道、薄暗い通路を戻りながら、霊夢は手元のボードに目を落とした。
『ガチャン』
不意に、どこかから大きな音がした。患者の部屋の中からだろうか。
ここらの部屋番号は47、48、49と続いていた。48番、あの問題児である文の部屋からかもしれない。
霊夢は文の部屋の扉に耳を付けた。しばらくそうしていたが、中からは何も音は聞こえてこなかった。
この部屋ではなかったのだろうか。あまり開けたくはないが、一応確認しておこう。
腰の鍵束から鍵を取り出し、扉を開ける。そうして部屋の中を見ると霊夢はいつもとは違う猛烈な違和感に襲われた。
机が倒れて、食器が床に散乱している。
そしてその上に文の体が浮いていた。いや、違う。天井の電飾に括られた紐に、吊るされているのだ。
その紐は、文の首にかかっていた。その足元には、失禁と思われる小さな水たまりができていた。
文の体が、ゆらりゆらりと揺れていた。
「きゃあああああああああああああ!!!!」
霊夢はパニックになり叫んで、がむしゃらに壁を叩いた。
4回ほど叩いたところで警報ボタンを押せたようで、けたたましいベルの音が館内に響きわたった。
数十秒後、誰かが走ってきた。咲夜だ。
「どうしたのっ!?」
咲夜は部屋の中を見るなり霊夢から鉄格子の鍵をひったくると、鍵を開け息を飲む間もなくすぐに文の体に走り寄った。
首にかかった縄をほどいて文の体を床に降ろす。
寝かせた文の顎を持ち上げた。気道確保だ。そして、文の口に唇を重ね、息を吹き込んだ。
「何してるの!?早く、胸骨圧迫!!」
「は、はいっ!!」
棒立ちしていた霊夢の体が動く。研修で習った通り、霊夢は肋骨の下あたりを指でなぞり、手の甲でそこを押しこんだ。
心臓マッサージ。1分に100回のペース。15回ほどやったところで、交代で咲夜がまた息を吹き込む。
霊夢の肩や膝がガクガク震えた。全身から冷たい汗が吹き出した。
なんで、なんで。激しい焦燥感が霊夢を襲った。お願いだから、息を吹き返して。
半分泣きながら、霊夢は蘇生作業を続けた。前髪が、汗でべっとりと額に張り付いた。
しかし10分ほど続けたが、文が蘇生する気配はなかった。
霊夢は作業に夢中で気づかなかったが、周りには大勢の業務員たちが集まってきていた。いつのまにか、警報も止まっている。
すぐ隣に、紫がいた。
紫は文の首に手を当て、瞳孔を見た。そして霊夢の肩に手を置き、静かに言った。
「これ以上はやっても無駄でしょう。霊夢、お疲れ様」
霊夢は汗びっしょりの顔で紫を見た。紫は感情の読み取れない、不思議な表情をしていた。
「霊夢!」
人ごみをかき分けながら魔理沙現れた。文の遺体と、霊夢を見た。そして、霊夢の方に歩み寄る。
汗と涙で顔をぐしゃぐしゃにして、呆然と立ち尽くしている霊夢を、魔理沙が抱きしめた。
「ああ、お前はよくやったよ」
「私…わたし…、う、うぅうううぅう!!!」
霊夢は魔理沙の肩に顔をうずめて、ぼろぼろと涙をこぼして泣いた。
人だかりも次第に引いてゆき、部屋には文の遺体を処理する作業員と、霊夢と魔理沙、咲夜、紫だけになった。
紫は相変わらず無表情のまま言った。
「魔理沙、来てくれてありがとう。咲夜もお疲れ様」
「はい」
咲夜も部屋から出て行く。
霊夢は魔理沙の肩越しに、涙で震えながら紫の方を向いた。
「ごめん゙なさい…。私がすぐに処置してれば…ぐすっ」
霊夢は泣きながら謝罪する。
つい先ほどまで喋って、生きていたのに、文は今はもう冷たくなって動かなくなっている。
自分のせいで、ひとつの命が奪われてしまった。
こうなる前にも、もっとちゃんと説得するべきだった。
『あんな腐った人間社会で生きるくらいなら、死んだほうがマシです』
文の言葉が思い出される。そうだ、こうなる可能性は十分予想できたじゃないか。
それなのに適当な対応であしらって、逃げて、自分は最低の人間だ。
「私…クビですか…?」
「どうしてそう思うのですか?」
「だって…私のせいで…。ぐすっ、ひっぐ…!」
涙が止まらない。魔理沙の肩は、服の中まで霊夢の涙でぐっしょりだろう。
でも、魔理沙は何も言わなかった。ただ両手で、霊夢の体を抱きしめていた。
紫は目を閉じて、優しく言った。
「…あなたのせいではありません」
「でも…」
「前にも言ったように、この仕事はつらいものですし、このようなことも覚悟しなくてはなりません。これからはあなたは監視員ではなく、ほかの仕事場に回します」
「……」
霊夢は何も言えなかった。
人を殺してしまったのだ。まだやらせてくださいとは、言えなかった。
「霊夢、明日は休みなさい。今日のことを忘れるのは無理かもしれないけど、少しでも心を落ち着かせなさい」
「……」
「魔理沙、あなたも一緒にいてあげて」
「はい、わかりました」
「…今日はもう帰りなさい。いつまでもここにいるべきではないわ」
「はい」
魔理沙は「いこう」と霊夢に声をかけ、手を引きながら部屋を出た。
紫は今はビニールに包まれた文の遺体を見下ろし、わずかに唇をかんだ。
次の日、霊夢は職員棟にある自室にこもり、ただうつむいてぼーっとしていた。
隣には魔理沙がいる。
「霊夢、笑えとは言わない。でも、もっと元気を出してくれよ」
魔理沙は言葉を選びながら、霊夢を励ました。
「あれは仕方のないことだったんだ。霊夢は何も悪くない」
「……」
「それに、私だって患者を自殺させてしまったことがあるんだぜ」
霊夢は顔をあげて魔理沙の顔を見た。
魔理沙は、どこかバツが悪そうだった。
「まあ、あんまり思い出したくないんだけどな。人が死ぬっていうのは、やっぱり慣れるもんじゃない」
「魔理沙もあったんだ…」
「ああ。苗字は書いてなかったが、藍っていう名前の患者でな。狐っぽいツリ目の高身長な女だった。例によって癇癪持ちで、『紫様に会わせろ!』っていつも喚いていたぜ」
文の喚く姿と、藍の姿がダブった。どこも似たようなものなんだなと、霊夢は思った。
「それで私が会わせるのは無理だって言うと、『人間風情が!』とか言って殺さんとばかりに掴みかかって来るんだよ。おっかなかったぜ。次第に会うのも嫌になってきてな、最後の方は本当に適当にあしらってた」
同じだ。魔理沙の話を聞いていると、霊夢は胸が詰まる思いだった。
「そんである日部屋に行ってみたら、血の海だったんだ。食事用の硬いプラスチックの皿をどうにか叩き割って、それを刃物代わりに喉に突き刺してた。そりゃあ私も取り乱したぜ。今みたいに警報スイッチもなかったから大声で叫ぶだけ叫んで、あとは腰を抜かしてるだけだったな」
「それで、魔理沙はその後平気だったの…?」
「平気なもんか。3日間は私が患者だと間違われるくらい精神不安定だったぜ。突然おしっこ漏らしたり、叫び声をあげたりとか。霊夢なんてまだ落ち着けてるほうだ」
ここまで言って、おっと魔理沙は口を噤んだ。少し無配慮なことを言ったかもしれない。
「なんかおかしいこと言ってるな、私。元気出せって励ましてるつもりなのに」
「ううん、ありがと。魔理沙は優しいのね」
「正直者なだけだぜ」
魔理沙がにかっと歯を見せて笑った。
魔理沙も同じ経験をしたんだ。それでも、こんなにも仕事を頑張っている。
少し元気が出てきた。
ちょっぴり涙が溢れそうになる。悲しいんじゃなくて、魔理沙の心遣いがとても嬉しかったからだ。
その後は魔理沙と食事を食べに行き、娯楽室に行って少しだけ遊んで過ごした。
でもやっぱり、完全にいつもの調子を取り戻すのは無理だった。
それでも、魔理沙がいてくれるだけでどれだけ救われたのだろう。
魔理沙には感謝しても、し足りなかった。
霊夢たちの休日も終わり、就寝時間なった。霊夢の部屋の前で魔理沙は心配そうに言った。
「ひとりで大丈夫なのか?」
「…うん、今日はありがとう」
「そうか…。まあ何かあったら遠慮なく会いに来てくれよ」
「うん、ありがと…ほんとにっ…ぐすっ……!」
「おいおい、本当に大丈夫かよ?」
「違うの。嬉しくて…」
霊夢は涙をぬぐった。
魔理沙が若干赤面する。照れくささを隠すように、魔理沙は後ろを向いた。
「バカッ。泣くほどのことでもないだろ」
「ごめんね…」
「……ああ。じゃあ、おやすみ。霊夢」
「おやすみ、魔理沙」
魔理沙が立ち去る。霊夢は魔理沙が見えなくなってから部屋の扉を閉めて、布団に入った。
霊夢は少しだけ自分が嫌になった。文が死んだ翌日だというのに、もうこんなに立ち直ってしまっている。
魔理沙のほうがよっぽど道徳的だと、霊夢は自己嫌悪した。
…そうだ。せめて文に、謝罪と別れの挨拶をしよう。
心の余裕があるからこそ、できることだった。
霊夢はもう一度服を着なおして靴を履き、廊下へと出た。
文の遺体が置いてある死体安置所はこの棟の地下にあった。
死体置き場と地下ということもあり、普段は薄気味悪い場所ということであまり近寄ることもなかった。
でも今はそういった感情はない。むしろ義務感が霊夢の背中を押した。
地下にある安置所の扉まで来たところで、霊夢はその部屋の中にすでに誰かがいる気配を感じた。
まさか幽霊?霊夢はそっと扉の隙間から中を覗いた。
「ごめんなさい…ごめんなさいねっ……!」
誰かが文の遺体の前で泣いている。オレンジの白熱電球の光は薄暗く、よく見えない。
だがその後ろ姿は、霊夢の認識が正しければあの人物と重なった。
「…所長?」
ハッと息を飲んだ。間違いない。所長の紫だ。
紫は涙をぬぐう動作をした後、文の遺体をそっと撫でた。
「霊夢、こっちへいらっしゃい」
霊夢の心臓が飛び上がった。
ここで覗いていることがバレている。いつの間にバレたのだろう。
紫が振り向いた気配などどこにもなかった。
「す、すいません。覗き見するつもりはなかったんですが…」
「いいから」
「は、はい」
ぎくしゃくしながら霊夢は扉の陰から出た。
そして紫のすぐとなりである、文の遺体の前まで行った。
文の遺体は、とてもきれいだった。
首には紐がかかっていた所にくっきりと線が残っていたが、それ以外は何も外傷はない。
本当に死んでいるのか疑わしくなるほどだ。
だが文の腕に触れてみると、比喩ではなく氷のように冷たかった。
おそらくドライアイス等で防腐処理がしてあるのだろう。
まぎれもなく、これは遺体だった。
「この施設で自殺があったのは、今回が初めてではありません」
紫が抑揚のない声で言った。
魔理沙の話を聞いて知っていたが、霊夢は知らないふりをして「そうなんですか?」と言った。
紫の透き通った瞳が霊夢を見据える。知っていたのを見抜かれた気がした。
「自殺は、今回のを含めて22件目です」
「えっ。そ、そんなに…?」
これは本当に知らなかった。今回のと魔理沙のと、せいぜいあと1件あるぐらいだと思っていた。
「霊夢、どうして患者たちは自殺をすると思う?」
紫からの質問だ。
霊夢は考えた。色々予想したがそれでも、実際に見たものを言うのが一番だろうと、霊夢は答えた。
「文は直前に言っていました。腐った人間社会で生きるくらいなら、死んだ方がいいって…」
「その通りです霊夢。彼女たちの言う"幻想郷"と比べたら、この世界は腐っています」
「腐っている」と言うとき、紫の口調に熱がこもっていた気がした。
霊夢はこの世界が腐っているという考えは持っていなかったが、幻想郷というファンタジックな夢の世界の話と比べると、その話も分からなくはない。
紫は続けて聞いた。
「そんな夢の世界の住人だと思い込んでいた人たちに、現実の世界を突き付けたらどうなると思いますか?」
「それは…なんていうか、夢がないというか、困ると思います」
「ではそんな人たちの記憶の境界をいじって都合の悪い部分を改ざんしたら、その人は幸せになると思いますか?」
続けざまに質問されて、少し混乱する。
記憶の境界をいじる?
意味がよく分からなかったが、記憶を塗り替えるという意味だろうか。
そんなこと出来るはずがないと思いながらも、霊夢はなんとか答えた。
「幸せになるかもしれないけど、なんだか悲しい気がします」
霊夢はさっきから馬鹿みたいな返事しかできていないと思った。
紫はわずかに微笑んで、霊夢の肩に手を置いた。
「霊夢、覚えてる?」
「え?何をですか」
「…いえ、なんでもありません」
「??」
紫の言っていることがなんなのか霊夢には分からない。
しかし、こうやって二人並んで立っていると不思議と懐かしいような、落ち着いた気持ちになった。
それ以降、紫はもう何も聞いてこなくなった。
とりあえず本来の目的であった文への謝罪と別れを告げよう。
二人で文に手を合わせ、黙祷する。
「あの、所長」
「ん?」
黙祷を終えてから、霊夢は言った。先ほど心に決めたことだった。
「やっぱりこの仕事続けさせてくださいって言ったら、駄目ですか…?」
言った瞬間、紫がほんの、ほんの一瞬だけ微笑んだのを、霊夢は見逃さなかった。
紫は霊夢の目の高さまで腰を落とした。やわらかな視線が、霊夢を見つめた。
「では、お願いできますか?」
「はい!」
霊夢の返事に、紫はうなづいた。
「じゃあ明日からまたお願いします。今日はもう遅いし、部屋に帰って眠りなさい」
「はい、そうします」
長かった時間は終わりを告げ、霊夢は紫に見送られながら、部屋に戻った。
そしてすぐ布団にもぐり、目を閉じた。
「何もできなくてごめんなさい…文さん」
布団の中で、小さく呟いた。
霊夢は不思議な夢を見た。
どこかの森の小さな丘の上にある木造の神社。その縁側で、私はお茶を飲んでいた。
隣には魔理沙と、誰だか分からないが2本の大きな角の生えた少女がいた。
魔理沙は同じようにお茶を飲みながら、その少女はヒョウタンの中の液体を飲みながら、けらけらと話しながら笑っている。
いい天気だった。澄み渡る青い空。目の前には砂地の境内が広がっており、視界の端には鳥居のようなものが見えた。
何故だか、とても落ち着く空間だった。
だがその平穏も長くは続かなかった。突如すさまじい轟音がした。
見上げると、青い空に巨大な黒い亀裂のようなものが走っている。
私が驚いていると、所長が空間の裂け目のようなものから急に現れた。
空を指さし、何かを必死で叫んでいる。
魔理沙たちの叫び声も聞こえる。
私は大急ぎで、何かの儀式のようなものを準備し始めていた。
空の黒い亀裂がみるみる大きくなる。
バリバリと何かが裂けるような音が聞こえた。
地面が割れ、空が割れ、空間が割れた。宙に投げ出された私は、所長の差し伸べる手を掴もうと、手を伸ばした。
目を開けると、自分の部屋の天井が見えた。
夢か。変な夢を見てしまった。よく覚えていないが、前にも似たような夢を見た気がする。
霊夢は自分の顔を触った。何故だか、涙が頬を伝っていた。
END
評価イベントならもっとフツーな内容にすればよかったのに、何故か冒険してしまった感。
ともかく、読んでくれてありがとう!評価してくれたら、うれしいな!
追記
評価期間終了!!たくさんの評価ありがとうございました。投稿する前は愚かにも「いける!」と思っていましたが、指摘されてみるとなるほどどうして、いかに自分のSSが粗く未熟であるかがわかりました。それが目に見える形になっただけでも、今回のイベントに参加した甲斐があったというものです。好意的な部分は生かして行き、指摘された部分は改善を心がけ、今後の作品に反映させていきたいと思います。
企画のbox氏、いつもインスピレーションを与えてくださる作者様方、そして評価してくださった読者皆様、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとう!
ちなみに私も他の方の作品にいくつか評価コメントをいたしましたが、随分と偉そうなことを書いております。私の好みの分もありますし、的外れなことを言っているのもあるでしょう。そんなときは「こやつめハハハ」と、どうか寛容な精神でなぶり殺しにしといて下さい。
>>1
ラストの方は説明パートというかそんな感じになってしまったので、後から「このシーンもあったほうが納得してもらえるかなぁ」と付け加えたりもしたのが仇となったかもしれません。深層記憶を夢で見るというのもよくある話ですしね…。
>>2
施設というキーワードは何気にありがち。色々考えたつもりではありましたが、ありきたり感が拭えなかったのも事実です。「誰も幸せにならない」を何気にテーマにしている部分もあるので、その点に関してはうまくいったような気もしますが…。
冒険は人を成長させるといいますから、今回若干冒険したのもそういった意味合いもあります。まあ、ほんとに若干なんですが。
>>3 おにくさん
ありがとうございます。レミリアは好きなのであの辺のシーンは自分でもお気に入りです。霊夢が真実を取り戻していくという話も少し考えていたんですが、「人間に近いほうが幻想郷を早く忘れ、順応力が高い」という脳内設定があったので難しいと思いお蔵入りさせてしまいました。でも、今思うとそれも面白そうですね…うーむ。
>>6 NutsIn先任曹長さん
元々の存在が幻想である妖怪ですから、現実を見た瞬間一目散に逃げ出してしまいます。そんな精神が弱い生き物なんです、妖怪っていうのは。だからこそ可愛い。だからこそ悲しい。今日も施設では、妖怪たちが現実逃避をしています。
>>9
「お客様が何もわからぬまま帰ってはならぬ!」と力みすぎて、説明過剰になってしまったかもしれません。案配よく想像にまかせることも大切ですね…。
>>12
熱いコメントありがとうございます。私が伝えたかったことがちゃんと伝わっていて、とても嬉しい気持ちになりました。人の心や感情に触れるような描写や、なんとも救いのなく切ないストーリーは、これからも大事にしていきたいと思います。
記憶をいじれるのにそれをしないの点に関しては、たしかにおっしゃる通りでございます。自分だけでは書いた時点では気づきませんでしたが、言われてみるともう気になって仕方ありません。紫の力が衰えていて限定的かつ部分的にしかできないといった内容を忍ばせておくべきでした。施設の方向性は「人間と同等になってしまった妖怪たちを、現代社会で生きていけるように教育する」ということのつもりで書いていましたが、どうにも分かりにくかったりぶれていたかもしれません。ともかく、非常に参考になりました。再度ありがとうございます。
>>14
まさにそこなのです。妖怪が妖怪として生きていけないのなら、死んだほうがいいのか?普通に考えればYesなのですが、ひとたび感傷的になってしまうと、No。冷静に考えれればいいのですが、甘い紫にはそれができません。可愛いね(逃避)
>>15 んhさん
幻想郷のことを忘れさせ、現実社会で生きることを前提とするなら番号のみで管理したほうがリアリティがあるのはたしかです。射命丸文なんて名前、現代で生きるにはおかしすぎます。ただこのSS、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが服装に関する描写がすべて排除してあります。変に制服や囚人服(?)を着せるとキャラをイメージしにくいと思ったからです。なので違和感承知で、読者の頭の中にある姿をそのままイメージしてもらうためにすべて本名で呼称しています。ごめんね。
ちなみに早苗さんを登場させる案もありましたが、元々外の人間なので施設教育する必要もなく社会適合性もありそうなので排除しました。今頃女子大でいじめにでもあっていると思います。
>>17
そうおっしゃられると本当にもったいのないことをした気持ちになります。ううむ、私の未熟さゆえです。でも構成や語彙はへにゃへにゃですが、キャラを愛する心なら誰にも負けません!…って、だめな自己アピールみたいですね。むなしい。
応援ありがとうございます。次回作は、指摘された点も考慮して、よりよい作品にしたいです。
>>18 穀潰しさん
お褒めの言葉ありがとうございます。そう言っていただけるととても嬉しいです。
霊夢のキャラはまあ一般的なものとは違いますよね。そこは単純に私の趣味というか好みですw優しい博麗ちゃんかわいい。
患者に対して酷くあたるシーンに関しては、そういう性格のキャラ付けだった咲夜さんあたりにやらせるのもアリですね。SS全体のアクセントにもなるし、後のレミリアとの再会シーンが光りそうです。あるいは、早苗さんの出番なのか…?
>>19 木質さん
深いところまで考察していただき嬉しく思います。本当に理想的なのは@なのでしょうが、はたして幻想郷のことを知りながら現代社会でまともに生きていけるのかというと難しいところです。かといってAは、命こそ救えるが妖怪としての尊厳や個性は失われてしまう。そして隠れた命題である「B妖怪は死ぬ。現実は非情である」の存在。妖怪のくせに愚かで人間くさく優しい紫は、苦悩した挙句により愚かな選択をしていくでしょう。大富豪の革命というたとえは面白いですね。木質さんのコメントを読んで、書いた本人である私も考えさせられました。
>>20 あぶぶさん
制約こそあれ自由気ままな幻想郷の生活に、妖怪たちはおそらく満足していたのでしょう。現代人の私たちから見ても、幻想郷はあまりに魅力的な世界です。だからこそそれが無くなったときの絶望感は計り知れません。夢を見ることは何も悪くありませんが、その夢が消えてしまったときにどうするかというのも大切ですね。つまりゆかりんはかわいい。
>>21
ほとんどの妖怪は更正することなんて恐らく出来ません。その絶望しかない末路を、紫自身も実は分かっているのかもしれません。
患者の嘘と真実を入れ替えることがこの施設の役割。でも本当はどちらも真実であり嘘ですから、そんなものの境界なんて・・・
>>22
いつか更正するか自殺するかで患者がいなくなれば、施設の存在意義はなくなるでしょうね。そうなる前に少しでも助かる人がいるなら…、偽善的ですが、人間味のある優しい考えです。慧音は「幻想郷の存在を覚えていながら、現代社会への適応を示す」といった位置づけで出すのがしっくりきそうです。
>>24 ローゼメタルさん
他の方の素晴らしいSSを読んでいると、この作品が1番だなんてとてもじゃないけど無理なのは自分でも分かります。でもだからといってこの作品がゴミクズだとは思っていません。あなたのように面白いと言ってくれる方がいるかぎり、私も胸を張れるというものです。
>>25 pnpさん
更正できた者も幻想郷という単語を忘れたわけではありませんが、その幻想郷が実際にあったということは忘れています。妖夢「幻想郷なんてありませんよ・・・ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから」
読みやすい文章は私が心がけていることのひとつなので、そう言っていただけると嬉しい限りです。
紅魚群
作品情報
作品集:
3
投稿日時:
2012/05/07 10:18:20
更新日時:
2012/06/01 13:52:15
評価:
18/30
POINT:
1890
Rate:
12.35
分類
産廃創想話例大祭
霊夢
魔理沙
紫
文
他
6/1コメ返し
形になったものを読んでみると…しんどいですね。
もっと冒険してもいいんじゃよ
特にレミリアと霊夢のやりとりが好きでした。無理矢理サラダ食べさせたい。
『霊夢に芽生えた疑問、血で血を洗う一悶着、幻想郷を襲った衝撃の事実、静まり返ってゆく病室、ゆかりんの苦悩と涙、幻想郷最後の異変のゆくえは……!?』
とかなんとか最後になにかしらの大波乱あると期待してたものの、そういうのはなかったので、90点とあいなりました。
感情を押し殺して、患者達に接するのは、霊夢達施設の職員には辛いでしょうね。
リアルよりもドリームが良いって誰もが思うでしょう。
はっきり言って、これは『逃げ』だと思います。
作り物の架空のセカイに閉じこもって現実から目を背けるなんて、負け犬のすることです。
楽なほうへ、楽なほうへと逃げていると、その先に待ち構えるデッドエンドに絶望することになるのですから。
いい加減に、『現実』を見ろ!!
そしてこのどうしようもない状況で、自分にできるかぎり真剣に必死に生きている登場人物皆の姿が素敵でかわいらしく、そして切ない。霊夢や咲夜が微かな記憶の残り香をを感じるシーンや、なんだかんだで人間組がゼロからでも仲良くなれてるさまなどにはなんともいえぬ感動が溢れます。
過激な展開こそあれど、彼女らをとりまく状況自体にはさほどの変化があるわけではなく、淡々としたイメージも強い作品ですが、そこがまたこの状況の絶望の深さ、はてしなさを感じさせ、完成度を高めていると感じます。
この地獄を打破する唯一の方法は、霊夢たちが「現実」を受け入れた状態のままで「過去」を完全に取り戻すことでしょうね。そうすることで彼女らは初めて「先達」として『患者』たちを導くことができる。しかし、その希望はあまりにも弱く儚い……そんな想像をふくらませることもできる、本当にすばらしい作品でした。
一方で惜しいと感じたのは、「患者」たちをこの状況のままにしておく理由が、霊夢のセリフだけでは若干弱いように思えてならなかったことです。「『患者』全員の記憶をいじくって、人間社会に適応させる」ことができるはずなのに、なぜそれをしないのか? と。
また、この病院は患者たちをどういう方向に導きたいのか、ということが今ひとつ見えてこなかったのもちょっと引っかかるところでした(こちらに関しては、「病院の目指す方向性すら定まっていない=この状況はそれだけ絶望的」ということなのかなとも思いましたが)。
この状況の絶望の描写の深さ、巧みさに比べ、これらの部分の書き込みが今ひとつ足りないように思えたのが非常に非常に惜しいと感じるところです。現状でもこの上なくすばらしい。でも、もっとすばらしくなれたはず……!! と思えてなりません。
長くなってしまいましたが、ここまで激白していることが私のこの作品への思いの深さの表れです。すばらしい作品をありがとうございました!!
自殺した方々は賢いですな、下らない現実からさっさと逃げれるわけですから
最後は霊夢が正気に戻って(ストーリー的には発狂して、か?)所長に処分されるのかなと予想してましたが、こういう締め方のほうが、救いが本当に一切ない感じが際立ってよかったですね。
一度読み直してみて、収容者の具体的な名前を文中で一切明かさず、番号だけで呼称したらどうかなと思ったりもしました。二人称も全部「あなた」にして。
これだけ特徴が明示してあればキャラ名書かずとも判別つきますし、施設の怪しさが表現できるかもと。
個人的には、早苗がどっちに転んだのかが気になりました。
目から鱗と言うか、面白い着眼点に頁を進める指が止まりませんでした。
読み進めているうちに、『実は幻想郷は存在せず、精神病患者の夢だったのではないか』と思ってしまったことも一度や二度ではありません。
こうも引き込める文章とは素晴らしいの一言です。
また、気遣い出来る霊夢というのも新鮮でした。私の中ではどうあっても全てに平等に興味を持たないイメージしかないので。
ただ欲を言えば、『患者』に対してもっと酷くあたるシーンも見たかったです。
記憶を消された霊夢たちにとっては、ごく普通の人間に戻ったに過ぎず、大した痛手にはなりませんが、妖怪にとっては死活問題で。
@記憶はそのままで『いつか幻想郷に戻れる』という希望を持って生きる。
A幻想郷の記憶を失い、人間として生きる。
このどちらが良いのか判断に苦しみます。
圧倒的な膂力や速さ、特殊能力を生まれながらに持つ妖怪にとって『人間にされる』というのは耐えがたい苦痛で。かといって霊夢達のように記憶を書き替えられて社会に適応できたとしても、人外というアイデンティティを失った彼女たちを幸せと呼べるのか……紫の苦悩が少しだけわかります。確かに『いつか幻想郷に戻れる』という希望を持たせていた方が生きる活力になる気がします。
人間に近い、もしくは非力な妖怪ほど現代社会に適応できて、強い力を持った妖怪ほど苦悩し、最悪発狂する。
弱者が生き残り、強い者ほど滅びる。まるで大富豪の革命のようです。
読み終わった後、様々な事を考えさせられる話でした。
幻想郷の住人が現世に来るとこうなるのかな?
逆に現代人は夢の国に憧れすぎなのでは??
でも確かに患者にとっては幻想郷は真実で、今の世界が嘘なんだよなぁ
低脳なんで上の人みたいに気のきいたコメント出来ないけど普通に面白かった 点の差別化の都合上の60だけど100点です
とても読みやすい文章で、あっという間に読み切れました。
既に崩壊した幻想郷と、その記憶を失った、或いは書き換えられていく元幻想郷の住人達。
とても良い!!!!!
いい感じにまとまってたと思います