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『産廃創想話例大祭『銀紙竹光』』 作者: 山蜥蜴
右小手に振り下ろした切っ先を回転させた刀身で払われ、がら空きになった左首筋に横薙ぎの一撃を受けて膝を突く。
「16回」
咳き込みながらよろよろと立ち上がり、大上段から一閃するが懐に踏み込まれて振り下ろす手首を柄でかち上げられ、肝臓を一突きをされ崩れ落ちる。
「17回」
吐気を抑え木刀を拾い立ち上がると、胴を狙うと見せかけつつ、動きを悟られぬよう上体はそのままに膝から力を抜き、倒れこみざまに地面すれすれに足首を薙ごうと……
鼻腔に水が入る感覚に咽返り、私は上体を起こした。
「18回だ。お前は右手を使ってない俺に18回打ち込んで18回『死んだ』ぞ」
空になった桶を片手にぶら提げた人影が私を見下ろしていた。
右側頭部にズキリと痛みが走り、手をやってみると指に血が付いた。少し擦り切れているようだった。
恐らく最後に足を薙ごうとした時に見切られ、頭に蹴足か何かを受けて気絶してしまい、水をかけて起こされたのだろう。
「……申し訳有りません」
「謝って強くなるのか?」
「……いいえ」
「なら謝らんで良い」
「……はい」
「どうすれば強くなれると思う?」
「……分かりません」
「なら素振りでもしておけ」
「……はい。あの……どれくらいですか?」
「素振り代わりの強くなる方法を思いつくまでだ」
「……はい」
「強くなったと思ったら何時でも来い」
「はい」
私は去っていく後姿に、どうせ見てもいないだろう、してもしなくても良い礼をしてから木刀を拾い上げると、初夏には珍しい炎天下で一つ二つと数えながら素振りを始めた。
「あら、妖忌。……今日も無傷?」
「これは西行寺様……。はい、一発も『食らえ』ません。お恥ずかしい限りです」
桃色の髪の娘が声をかけた、教え子に『打たれ』られない事を嘆く白髪の老人は、屋敷の縁側に腰掛けて茶を飲んでいるところだった。
「妖夢はどうしたの?」
「素振りを」
「何回?」
「強くなるまで」
「かわいそうな妖夢」
娘は老人の皿からひょいと水饅頭を取り上げて頬張った。
「可愛そうなものですか」
老人は淋しそうに目を細めて茶を啜った。
早素振りで1000回を数えた所で私は木陰に座り込んだ。
勿論、思いついた『素振り代わりの強くなる方法』が木陰に座り込むことなのではなく、疲れただけだ。
暑い中、朝食後すぐに祖父と長時間の稽古を行った後に立て続けに1000本振ったのだから仕方ないだろう。
いや、仕方ないなんて言っているから自分は弱いのではないか?
だが、無理は肉体を傷めこそすれ発達はさせないのは常識だ。
とはいえ、私は試合の為に剣を修めようとしているのではないから、無理をする事にも慣れるべきだろう。
ちがう、そんな根性論ではなくて、剣とは理論、物理なのだから方程式を見つけ出すのだ。
しかし、剣術が方程式ならば、解は最適な剣筋だろうか?変数は敵?
だめだ、何の意味も無い事を考え始めている。
「はぁ……」
私は溜息を吐いて手元の木刀を見やる。
鉄刀木製で重量は800g、全長90cmで打ち合った時のささくれがそこかしこにある。
大分永いことこれを振ってきたが、一度もこの木刀を祖父に打ち込めた事は無い。
──打ち込『めた』事が無い──
──果たして本当に可、不可の問題だろうか──
木刀が手から転がり落ちる。
私は頭を抱えて蹲った。
夏なのに、運動をしていたのに、寒気がする。吐き気がする。
『あの感触』は二度と味わいたくない。
ほぼ毎晩味わっているが、せめて現実では勘弁して欲しい。許してくれ。ごめんなさい。
「素振りを止めとるって事は強くなる法が見つかったのか?」
不意にかけられた祖父の声に顔を跳ね上げる。
「あ……ぃ、あの……か、考え」
「期待しとらん。飯だ」
「っ……はい」
蹲っていたのは単に暑さや疲労のせいだと思ってくれた様だ。
立ち上がって袴の埃を払い、祖父の後ろに付いて行き昼食をとった。
家事は基本的に幽々子様が従えている幽霊達がやってくれているが、時々は祖父が台所に立つことがあり今日もそうだった。
塩味が強く如何にもと言えば如何にもな、無骨な味付けの料理が多いが、どれも米に良く合い驚くほど箸が進む。
誰かに教わったのかと尋ねてみた事があるが、どうやら本を読んだだけらしい。
剣術は勿論、家事の質でも速度でも全く敵わないのだから嫌になる。
いや、祖父と私の年齢差、つまり経験差を考えれば、剣も料理も負けて当然ではある。
ではあるのだが、あの無骨な祖父に料理で負けるというのは女として何とも歯痒い。
男は外で働いて女は家を守るのがどうたら、とかそういう事を言う積りは無いのだが、そうは言っても料理といえばやはり女性的なイメージが在るではないか。
なので料理、つまりその『女らしさ』で、あの白髭を蓄えた厳つい祖父に負けているというのは中々に厳しいものがある。
そんな取り止めの無い事を考えて、無駄な敗北感と美味しい食事を味わっていると、上座の幽々子様がぽつりと発した。
「汗だくの妖夢も可愛いわねぇ」
「はっ!? いえ汗もですけど、気絶して顔に水をかけられて! これはその水も、あの……」
急に意味の判らない事を言い始めた幽々子様に、私は思わず見当外れな弁明を試みたが効果は在る筈も無い。
「ちょっと透けてる鎖骨が良いわね、うん」
「う、あの、その……」
気にしていなかった事も、言われてみると急に恥ずかしくなってくるものである。
さらしを巻いているし、幽々子様と祖父しか居ないのだから透けた所でどうという事も無いつもりだったのだが、思わず俯いてしまった。
「あの! み、水浴びて着替えて来ます! 失礼しまっ」
「食事中に席を立つな。……西行寺様も程々に」
祖父が、耐え切れなくなって席を外そうとした私と、何を考えているか分からない笑みを浮かべる幽々子様を窘めた。
「……はい」
「ふふ……」
仕方なく席に戻り、早く食べ終えてしまおうと箸を急がせる私が滑稽だったのだろうか、幽々子様が小さく笑った。
それを見た祖父は何やら顰め面──きっと初対面の人には、祖父の平時の顔と顰め面の区別が難しいだろう──で何やら小さく呻いた。
私は少しして食事を終えると、自分の食器を下げて急いで浴場へ向かった。
髪留めを外して馬乗袴、道着を脱ぎ、さらしを解いて籠に入れると浴室へ進んだ。
時刻は正午を回り気温はますます上がっていて、熱中症の心配はあっても風邪を引く心配は無く、湯を沸かす必要もないだろう。
浴槽に張られた水を桶で汲み、頭から浴びる。
汗と熱気、それと共に雑念まで──猛暑のせいで水というより微温湯の様な物だったがそれでも十分冷たく感じる──水に流された様な気がした。
水の沁みる、ピリリとした痛みでこめかみの傷を思い出し、浴室の鏡で確認してみる。
それ程深い傷ではないが、眉尻の辺りからもみ上げに亘る幅、髪の生え際から頬骨の辺りまでの長さで痣が出来ており、所々が擦り切れていた。
半人半霊の私ならこの程度は一、二日で跡形も無く直るだろう。
何となく鏡に映った自身を眺めてみる。
半人半霊だからか色白で、日に当たっても黒くは成らず赤くなるばかりだ。
最近は日差しも強まってきており、連日の稽古でうなじの辺りが赤くなっていて、少しひりひりする。
身長は高いとは言い難い。
打刀は腕を下ろした状態で手に持って、切っ先が地面に付かない位が、その人に合ったものとされている。
170センチの人で全長1mくらいになる計算だ。
まして私は何れは長刀である楼観剣、白楼剣を継がねば成らないのだから、このままの身長では困るのだが……。
伸びる可能性はまだまだあると信じて待つしかあるまい。
前腕、上腕は勿論、三角筋、広背筋、僧帽筋、腹筋や下腿三頭筋を中心に筋肉はそこそこあると思う。
ある、と言っても無計画に膨らませた筋肉ではなく、慎重に練り上げた細身のものだ。
余り筋量を増やしても、動きが鈍るし、力みが露骨になり、相手に見切られる可能性が上がってしまうので、バランスが大切なのだ。
……正直、理屈は抜きにして、外見的な問題で筋肉達磨には成りたくないという気持ちもある。
筋力は筋肉の断面積に比例するというが、幸い、人間と比べれば半人半霊は単位面積当たりの筋力は割と強いようだ。
つまり純粋な人間より比較的細身のままで、強い筋力を手に入れられる訳だ。
……胸は……いや、何も言うまい……
……こめかみ以外も鏡に映った私の身体は傷だらけだ。
首筋、わき腹、腕、脚……全部で18箇所に残る痣。
祖父に切りかかった回数分、祖父に苦も無くあしらわれた回数分、実戦だったら殺されていた回数分の痣。
白い肌に残る黒紫の打撲傷は見た目でも、その『内容』から言っても文字通り汚点としか言いようが無い。
首筋の痣を指先でなぞる。
真剣だったなら、刃を傷めかねない首の骨は避けて、綺麗に喉笛だけを切り裂いていたであろう太刀筋。
その場合、私は呼吸は勿論、脳へ血を送る事もまともに出来なくなり、楽観的に見ても血圧低下のショックや酸欠により脳は8秒以内に意識を永遠に手放すだろう。
自分の首から、鼓動に合わせて鮮やかな動脈血が、呼吸に合わせて血泡が、ゴボゴボと噴出する様を想像する。
もし動揺と痛みを意思で押えつけられれば、気絶するまでの間に一太刀くらいは振えるかも知れないが……。
この打撲を受けた時に膝をついてしまった自分に、とてもそんな根性は在りそうにない。
脇腹の痣に手を当てる。
実戦だったなら、肝臓を貫き、抜き様に腹筋を引き裂いていたに違いない一突きだった。
そうなっていたら大量の出血と破壊された腹筋により動きは大きく鈍り、これ以降の戦いは絶望的な状況になっていただろう。
攻めるより守る方が簡単というのは常識だから、きっと相手は焦らずに私の失血死を待つだろう。
私とてむざむざ時間切れを待ちはしない積りだが、ただでさえ脇腹を貫かれる実力差の相手に、致命傷を負った状態で自分から打ちかかり果たして何が出来るだろう。
内腿も、腋の下も、鎖骨の上も、……どれも実戦なら致命傷になっている場所ばかりだ。
溜息を吐いてもう一度水を頭から被ると浴槽に浸かる。
体中の細かい擦り傷が私に体の輪郭を感じさせてくれる。
水圧で僅かに苦しくなる呼吸が、私に内臓を意識させる。
脱衣所の殺気に気付けなかった事が私の未熟を証明した。
がらりと浴室の扉を開かれると同時に、見た事も無い、和装の若い男が両手に大小の木刀を持って踊り込む。
「っ!?」
私は思わず自分の体を抱く様にして腕で隠すが、それは完全に間違った判断だったと言わざるを得ない。
男の左手から放たれた小木刀を避ける事も、桶か何かで受ける事も出来なかったからだ。
がつり、と額に当たった小刀を模した木刀の衝撃に仰け反り、一瞬湯船に沈み込む。
これが真剣ならこの時点で私は死んでいただろう。
男は何故木刀を? 濡れた人体は意外に切り辛いから鈍器を選んだ? 切り傷からの返り血を避けたいから? 湿気に因る刀の錆を嫌った? それとも……?
ほんの一瞬の気絶から回復すると即座に身を起こすが、髪から流れ落ちる水に覆われ目が見えない。
先程投じられ湯船に浮いていた木刀を、手探りに拾い上げると同時に、水音に混ざった左前方からの僅かな風切音を頼りに、鎬受けの構えを取る。
幸いにして私の直感は冴えていた様で、男の一撃は確かに左前方からの物であった。
不幸にして私の構えは非力だった様で、その一撃で木刀は何処かへ弾き飛ばされた。
何とか初弾は凌げたものの、男の次の攻撃までに木刀を拾い直すのは絶望的だろう。
腕で顔の水を払い落とし何とか目を開くと、男は上段に構えた木刀を振り下ろさんとする所だった。
私は男の顔に手で水を浴びせると同時に、湯船から飛び出し男の腰へ体当たりを食らわせる。
滑りやすい濡れた浴室では、軽量な私の体当たりでも男の重心を崩すのに十分な衝撃力だった。
私は素早く仰向けに倒した男の胸に移動し、両腕を膝で押さえつけると、指を痛めぬ様に掌底を男の顔に叩き込んだ。
言わば床で頭を固定した状態であり、自由に衝撃を逃せる立った状態で打つのとは比べ物にならない威力が期待出来る。
1発、2発、3発、4発、5発と打っていく内に鼻は拉げ、前歯は欠け、口からは血を吹いた。
男は何とか脱出しようと身を捩るが、如何に屈強な者でもこの重心ではそうそう抜け出せるものではない。
椅子に腰掛けた状態で、額を指一本で押さえられれば立ち上がれないのと同じことだ。
このままならいけると思った。
だが6発目が打ち込まれる事は無かった。
血塗れにも関らず男がニタリと笑ったからだ。
一瞬、私は何が面白いのかと考えてしまった。
思わず自分の格好と体勢を意識してしまった。
『男』の胸に全裸で馬乗りになり、腕を押さえる為に足を大きく開いている。
意識してしまった。
その虚を突かれた。
男は矢庭にニヤケ面──演技だったらしい──を冷淡な真顔に戻すと、足を跳ね上げ私の首にかけて後方へ引き倒した。
そのまま両足で男は私の首を締め上げ……
気管に水が入る感覚に咽返り、私は上体を起こした。
「馬鹿者が。殺し合いに男も女も無いわ」
「……!?」
場所は相変わらず浴室だったが男は居なくなり、代わりに祖父が立っていた。
「あ、え? あの男は!?」
私は直ぐに辺りを見渡したが、やはり男など影も形も無い。
「俺だ」
「え?でも、顔とか体格が全然違っ」
困惑する私に祖父は同じ答えを、一言加えて繰り返した。
「俺、の半霊、だ」
「半……あんな事も出来るんですか?」
「慣れればお前も出来る。肉体強化、飛び道具、擬態……使い様だ」
こんな所でも格の違いを見せ付けられるとは思わなかった。私は自身の半霊をそんな風に、姿形まで自在には操れない。
何とか自分と似た形にする事は出来るが、それとて色は薄灰色というかモノクロだ。
自分の一部なのだから思い通りに出来るだろう、と言われるかも知れないがそう単純なものではない。
一般人が職人と同等の焼き物や絵画を仕上げられるか、というのと同じ事だ。
「あ、あ……あの、顔……鼻とか歯は……?」
先程は祖父とは知らず、何の躊躇も無くかなりの打撃を加えてしまった。
男──祖父の半霊──の前歯数本と鼻骨は折れていた筈だ。
「霊体にただの打撃は根本的には効かん。人体側にまで被害は及ばんし、一旦実体化を解いて人魂に戻せば霊体の怪我も……前に半霊の性質は教えたぞ?」
つまり、殴られた痛みは感じたが、実際に人体側が霊体側と同じ様に鼻や歯が折れたりはしていないし、霊体の傷も実質的には無しという事だ。
確かに以前に祖父に教わった事だが、知らなかったとはいえ祖父の──半霊の──顔をあんなに殴ったのかと思うと……。
「済みません。思わず心配に……」
「要らぬ」
今思い返せば、私が突いた……いや、突かせて『貰った』隙はわざとらしかった。真剣でなく木刀なのは仕方ないとして、矢鱈と大振りな技を使ったのも手加減の一つだろう。
そして、手加減をして自分がやられる程祖父は間抜けでは無いのだから、言われてみれば当然だがこうも一言で心配を切り捨てられると、それはそれで泣けてくる。
「倒すべきかどうか、どう倒すか。それ以外は関係無い」
「……はい」
「形振りにこそ意味のある戦いもある。だがそれは『贅沢』だ」
「……はい」
「下らん挑発に一々反応するな」
「……はい」
「良く体を拭いておけ。夏だからと油断するな」
祖父は私に湯手を放り背を向けた。
「あ、あの! 何故急にこんな事を?」
祖父が不意打ちを仕掛ける事は時折在った。
だが浴室まで押し掛けたのは始めてだ。
「妖夢……。先程の西行寺様の言葉、思い出せ」
祖父はそれだけ言うと、浴室を出て行った。
「幽々子様の……言葉……」
そうだ、確か昼食時、幽々子様は私をからかった。
そのからかいを受け、私は汗を流すべく浴室に来た。
「……」
私は体を湯手で拭くと、道着ではなく普段着に着替えて幽々子様の部屋へ向かった。
「幽々子様、少々お時間を取らせて頂いても宜しいでしょうか」
「妖夢? 好きなだけ取って良いわよ〜」
障子の前に正座し入室の許可を請うたのだが──幽々子様のこの『緩さ』は何時も通りとは言え──少々返答に拍子抜けしないでもなかった。
「失礼します」
礼法通りに障子を開閉し、改めて幽々子様の前に座した。
「なぁに?矢鱈と改まるじゃない?」
「私は……先程幽々子様に頂いていた勧告に気が付けていませんでした。真に申し訳有りません」
私は両手をつき、深々と頭を下げた。
「頭が低い面を上げよ、なんちゃって。妖夢、警告って何の事かしらね?」
私は幽々子様の冗談をどう受けたら良いのか判断に詰まり、中途半端な頭の高さになりながら返答した。
「昼食時のお言葉です。私をからかわれましたが、あれはその様な些事に動じる私への……」
「ふふふ、そんな訳無いじゃないの」
「へ?」
思わず、顔と間抜けた声の両方を上げてしまった。
「あれはそのまま『一生懸命訓練して汗まみれになって服が透けちゃってる妖夢が可愛いな〜』って意味よ」
「あ、あの! いえ、でも祖父が、浴場で幽々子様のお言葉を……」
幽々子様は口元を扇で隠して悪戯っぽく目を細めた。
「あらやぁね! お風呂でまで訓練? ……妖忌のえっち」
「〜〜っ! ち、絶対違います! 祖父はそんな人じゃ!」
必死で弁護をしながら、頭の何処か奥の方の冷静な自分が、この弁護は全く無意味だと認識していた。
そして、完全に幽々子様はお遊びモードに入っているな、とも。
「ぅぅ……失礼します……」
「無理し過ぎちゃ駄目よ〜」
私は脱力感に苛まれつつ立ち上がり、幽々子様の居室を後にした。
「不器用過ぎるのよねぇ……」
幽々子は一人呟いた。
夜になり、私は自室で床に就いている。
一日のやらなければならない事を全て終わらせ、自分のやりたい事も概ね終わらせた。
使い込まれ綿が丁度良い具合に圧縮された敷布団と、肌触りと通気性の良い夏掛けに挟まれた、心地の良い空間。
充実した疲労が、私の意識をまどろみへゆっくりと押し流す。
一日で最も辛い時間が始まる……。
私は両手に重みを感じている。
一メートル弱の……棒状の……ああ、竹刀だ。
それを前方へ突き出す様に──青眼に──持っている。
私の前に何かが、誰かが……
相手も竹刀を持っている。
私より大分背が高い。
相手はそれを振り上げ……振り下ろし……
私はそれを最小の動きで受け流し、相手の胴を狙って突きを……
ぐしゃり
「……っ!!」
私は上体を跳ね上げた。
体中にじっとりと嫌な汗をかいている。
呼吸を整えつつ、障子に目を向けると薄明るい。どうやら明け方の様だ。
もう一度寝る気にはなれない私は、起き上がり布団を畳むと、庭へ出た。
庭に立ち並ぶ桜も今は青々とした健全な葉を茂らせるのみで、明け方の薄明かりの中でさえ、往時の妖しさは感ぜられない。
初夏とはいえ、この時間帯の冥界は流石に涼しく、汗を吸った寝巻きがひんやりとする。
……あれもこんな、初夏の朝方の事だった。
清々しい朝は、あの日を連想させられるから雷雨の夜更けより苦手だ。
深呼吸をして頭を冷やすと私は部屋へ戻った。
木刀を振り下ろし、避けた祖父が距離を詰める瞬間に反転し切り上げ──所謂燕返し──を仕掛ける。
だが、私の握り手を上から包む様に、そして刀身部を真剣でも手を切らない様に、祖父に掴まれて木刀を梃子にして両腕を捻られる。
切り上げる為に、元から半回転させていた両腕を更に捻られ、身体が仰け反った瞬間に、足を払われ地面に転がされる。
仰向けに倒れた状態から、足を振り上げた勢いを利用して即座に起き上がり、右片手平突きを放ち、それを身を捻って躱す祖父の右手首を、空いた左で逆手に取り四方投げを仕掛ける。
祖父の腕を背後に捻る事に成功し、極まったと思った直後に、祖父は後転跳びで抜け出すと同時に、その回転を利用した膝蹴りを私の腹に放った。
──殆ど極まった間接投げを無理矢理バク転で抜けるとはなんて無茶な!──
私は水月に受けた膝によろめきつつも、木刀を前面にぶちかましを食らわせ距離を取った。
万が一首相撲の形になったらお仕舞いだ。
正眼に構えて牽制しつつ息を整えると、袈裟に切りかかったが躱される。
祖父は体を躱しざまに、私の襟を掴み背負い投げを仕掛け、私は背中から床に叩きつけられた。
衝撃で呼吸が出来ず、動けないどころか声すら出ない。
また完敗だ、悔しい、自分への怒り、そういった思いと、痛い、苦しい、嫌だ、そういう直情が混ぜこぜに駆け巡り、頭の中が纏らない。
「投げ技には気を付けろ。頭から落されれば即死も有り得る」
「……はっ ……っく」
「呼吸が乱れたら腹式呼吸を使え」
「……ふっ ……う ……は、ぃ」
「『相手が素手だからと油断するな』なんて事まで言う必要は無いな?」
「は、い……」
私は何とか木刀を杖にして立ち上がると、何時もの様に、道場を出て行く祖父の背に誰も見ていない礼をした。
そうだ、今回は祖父は素手だった。
素手の祖父に木刀を使って、歯が立たなかった。いや、刃部分が相手に触れる事すら無かったから、「は」が立つ立たない以前の問題か。
……駄目だ、まだ酸欠なのか、下らない言葉遊びをしてしまった。
「はぁ……」
溜息を吐くと、壁に寄りかかって座り込んだ。
何故こうも勝てない? 一体何が悪いのだ?
まず、私が悪いのか? それとも他の何か?
……まぁ私が悪いのだろう。
私が悪いとして、なら次は私の何が悪いのか?
単純な訓練不足? それなら時間が解決してくれる?
訓練の量でなく、質の問題? 訓練の方向が間違っている?
このまま訓練を続けて、充分な強さが得られるのか?
? ? ? ? ?
「あぁっ……」
無意味な疑問ばかりが頭に反響して、何もかもが面倒臭くなる。
鬱憤なら掃いて棄てるほど溜まっている。
ずっとだ。
ずっとずっと、産まれてからずっと、強く成らなくてはいけないと人に言われて、自分に言い聞かせて、それで……。
「もう……」
訓練が辛いから止めたいとか、普通の女の子みたいに遊びたいとか、そんな事じゃない。
最早そんな事じゃ拭い去れない。
「私は……」
『強くならなくては』
熱く燃える情熱的な感情である場合が多い、その思い。
私にとってはそんなものではなく、呪だ。
強くなる以外に解呪のし様が無い悪質な呪い。
冷たく湿った。気道を塞ぐ様な。止まない耳鳴に似た。
そういう負の感情だ。
「もうっ……!」
『もう嫌だ』それだけは言えない。
言わないのではなく、言えない。
「……」
歯を食い縛る。
言いたい事が言えないなら、何も言わない。
言いたくない事を言うよりはその方が良い。
私は頬が濡れているのに気が付いた。
……きっと汗だ。
私はそれを手の甲で拭うと立ち上がり、道場を後にした。
「あら、妖忌。……やっぱり今日も無傷?」
「西行寺様……。ええ、今日も駄目です」
幽々子に声をかけられた妖忌は、仏壇に向かったまま答える。
普段は幽々子に声をかけられて、背を向けたまま応える横着など決してしない──した所で幽々子はそういう事を気にする性格ではないが──妖忌だが、こうして仏壇の前に居るときだけは別だった。
「妖夢はどうしたの?」
「休んでいるかと」
「何処で?」
「俺に何処に居るか知られていては、あいつの気は休まらんでしょう」
「どうしてそう思うのかしら?」
老人は線香に蝋燭で火を灯して供えると、無言で手を合わせ、それから答えた。
「孫に好かれる様な事は何一つしておらず、嫌われる事は山程しています」
自分と話す時の妖夢は何時も陰鬱に『はい』と繰り返すばかり。
自分が好かれていないのは一目瞭然。かといって反抗もしないという事は、恨みに思う気持ちを、恐れが上回っているからだろうか。
或いは恐れではなく、立場上の義務感が妖夢に言う事を聞かせているのかも知れんが……それはそれで、結局俺は最低だ。俺は望んで剣を修めたが、妖夢は違う。
俺は孫に何をしてやった? 遊んでやったか? 流行の服や菓子の一つでも買ってやったか? 共に祭りに出かけた事は?
小遣いはやっているから欲しい物が何かあれば勝手に買うだろう、という投げやりな態度で誤魔化して来たが、つまり今更では接し方が分からないのだ。
『面倒を見る』の内には、亡き両親の代わりに愛情を与える事も含まれていた事に気が付いた時には、既に俺と妖夢の間は今の様なものになっていた。
俺は妖夢にとって『祖父』という硬質なものであって、親しめる『おじいちゃん』では決して無い。
俺が孫に与えたのは、少しの技術と多大な苦労だけだ。
老人に後悔は無かったが、自信も同じく無かった。
道場での稽古後は、剣に関して特筆するような事は何も無かった。
いや、何も無かったというのは特筆すべき事なのかも知れない。
何時も通りの時間に教練を受ける為、道場と庭を見に行ったが、そこに祖父の姿は無かった。
習慣になっている日に三度の教練を祖父が行わなかった事など、私が体調を崩した時くらいのものだ。
何か理由があるのかと、祖父の部屋を訪ねようとしたその時。
私はある部屋の前で思わず足を止めた。
「……白檀?」
何処か懐かしさを感じさせる香りだ。
「……命日、今日だっけか」
私はその部屋の障子を開け中へ入り、仏壇の前に正座した。
「……」
無言で燐寸を擦って蝋燭に火を灯し、その火を線香に移して香炉に供える。
香炉には先客が短く燻っていた。祖父か幽々子様が灯したものだろう。
私は父の位牌に手を合わせた。
教練が無かったのは命日だったからに違いないと思い、祖父の部屋へは結局行かなかった。
夕食時に顔を合わせたが、祖父からも特に話は無し。
母は私を産んだ際に死に、父は私や祖父と異なりただの人間だった為に、大分前にあっさりと死んでしまった。
半人半霊と人が結ばれた場合、子は純粋な人となるか、半人半霊となるかのどちらか。
例えば四分の三人 四分の一霊とか62パーセント人38パーセント霊とかいう事にはならない。
私の場合は、母が祖父の血を引く半人半霊の家系、父は人間で祖父の弟子だった。
そして、今日は父の命日。
夜、私は自室の布団に横になっている。
例年は父母の命日であろうと祖父が教練を怠る事は無かった。
今年は何か特別な事情でもあったのだろうか?
それとも長年で累積した……例えば疲労やストレス等が理由?
……疲労やストレス? もし疲労やストレスが原因だと仮定するならば。
祖父の疲労やストレスの原因と言えば何だろうか。
幽々子様が無茶を言う事も最近は特に無かった。
金銭問題は有り得ないし、業務が今更負担になるとも思えず、持病の類とも祖父は無縁だ。
ならば、
ならば、やはり私が原因だろうか?
勿論私は積極的に祖父に嫌がらせなんてしていないし、したいとも思わない。
怖いから、というのもあるがそれだけではなく、唯一の肉親であり、育て親であり、師匠である祖父だ。
何故嫌わなければならない?
だから私が原因だとするなら、無意識の行動、癖……そういう私の意志に関係ない所……又は直したくても直せない所。
直すというか……その、つまり……ああ考えたくない。
要は弱さ。
……私はネガティブ過ぎやしないか?
なんでもかんでも自分のせいにしてしまって、無駄な負担を抱え込んでいるんじゃないか?
いや、そうは言っても、祖父が教練を休んだ理由なんて他に思い当たらない。
……もしかしたら、祖父は私を鍛えても無駄だと思ったんじゃ?
もしも、そうなら明日からも教練が無くなる?
見捨てられたか?
いや、いや違う。
そんな筈は無い。
私は真面目にやっているんだ。
努力しているんだ。
だから報われる筈だ。
報われなくちゃおかしい。
ほんとうに?
ほんとうに努力した者は報われるか?
お前の父親は大変な思いをして剣術を修めて……
お前の母親は大変な思いをしてお前を産んで……
けっきょくどうなった?
私は庭に立っている。
初夏の朝、白玉楼の庭だ。
私は両手に重みを感じている。
一メートル弱の……竹刀だ。
それを前方へ突き出す様に──青眼に──持っている。
ああ、またこの夢か。
私の前に何かが、誰かが……
相手も竹刀を持っている。
私より大分背が高い。
父上。
相手はそれを上段に構え、振り下ろす。
私はそれを最小の動きで受け流し、相手の胴を狙って突きを放つ。
相手の竹刀がそれを防ごうと跳ね上がり……
ぐしゃり
「っ!……ぅ……」
ビクリとバネ仕掛けの様に身体が跳ねて、目が覚めた。
何度見ても最悪の夢だ。
障子を見やると大分明るい。
朝の6時くらいだろうか。
ゆっくりと身体を起こし、枕元の刀掛けを見る。
私の木刀と守刀が置いてある。
「……」
刀掛けに近寄り守刀を取り上げる。
父が幼い私に贈ってくれたもので、黒漆家紋石目塗合口拵。
ゆっくりと抜き払い、刃文に目を凝らす。
互の目尖り刃が晴れ渡る刀身に、顔を映す。
死んでしまおうか?
本気で考えた訳じゃない。
切っ先をゆっくりと手首に向ける。
──手首で死ぬには、切るよりも突きが有効。刺したら、抉るようにして血管を掻き切る。失血と共に感覚が失せていき、ゆっくりと死に至る──
切っ先を肘の内側に移す。
──ここを切った場合、動脈を切断出来るが……所詮は片腕に来るのは全身を巡る血の内たった4パーセントだ致死量を狙うには弱い──
袖を捲り、腋の下に切っ先をやる。
──腋下動脈は止血が難しいが、これもやはり腕を巡る血の量から確実とは言いがたい。
寝巻きの裾をたくし上げて、切っ先を太腿の付け根にあてがう。
──足の筋肉は人体で最も分厚く動脈を切るのは大変だが……大腿動脈は内腿を通る為に狙いやすく、切れば血圧と重力によりかなりの出血が期待出来る──
頚動脈に切っ先を沿わせる。
──切れれば確実に死ぬが、数センチの筋肉に包まれておりそう簡単には切断出来まい──
襟を開いて腹に切っ先を差し向ける。
──武術を志したならばやはりこれがしっくりくる気はするが……介錯無しでの切腹は相当の気概が必要だ。苦しみから逃れる為だけの自殺には一番向いていない──
「……」
私は守刀を鞘に納めた。
息が苦しい事に気が付いて、荒い呼吸をする。知らぬ間に緊張で口を噤んでしまっていたらしい。
なんだか安心して、腑抜けた笑みが浮かぶ。
刃を自分に向けている間、怖くて仕方が無かったのだ。
自分は死ぬのが怖い事を確りと確認出来てホッとした。
自分が死ぬのが怖く無い程疲れていたらどうしようかと思っていた。
こんなに死にたくないならまだまだ大丈夫だ。
「ねぇ、妖夢〜、ちょっと良いかしら?」
幽々子様は何時もこうだ。
『ちょっと良いかしら』なんて聞きながら同時に戸を開けるのだ。意味が無いじゃないか!
「あらあらあら朝からそんな……お邪魔しちゃったかしら?」
悪戯っぽく口元を袖で隠す幽々子様。
私は自分の格好を確認する。
寝床で、汗まみれ、寝巻きの裾は捲れ襟は開き、息は荒い。
「ちがっ……!」
「別に良いのよ〜、妖夢ももうそんな年だものねぇ〜」
「ほ、本当に違……」
「じゃあ『後片付け』した頃にまた来るわね」
弁解しようとする私を無視して幽々子様はわざとらしいウィンクをすると障子を閉めた。
絶対に遊ばれてる。
遊ばれてるのは分かっているが。
「あああぁぁぁーーっもう!」
悶えずには居られない。
十分ほど経って言葉通りに幽々子様が再び部屋を訪れる。
私は汗を手早く拭い、普段着に着替えてまっていた。
「妖夢、ちょっと思いついた事があってね」
先程の様なふざけた雰囲気は全く無い。
「お考え、ですか?」
「そう、お考え。だから、後で私の言うとおりに妖忌と立ち会ってみない?」
「立会い……?」
私は思わず眉を寄せる。
「そう、ちょっとしたハンディマッチ」
今までにも様々なハンデをつけて貰ったが、惜しいところまで行った事さえ無いのだ。
無駄じゃないだろうか?
「その……えっと、ハンデがあっても私じゃ……」
「きっと、上手くいくわ」
幽々子様は目を細めた。
初夏の朝方、あの日とそっくりだ。
私は両手に重みを感じている。
一メートル弱の……竹刀だ。
私の前には紅い鎧武者が立っている。
彼の手にある双刀は真剣だ。
祖父。
「西行寺様。これは一体」
祖父が問う。
「言った通りよ妖忌。どちらかが倒れるまで、本気でやりなさい。ああ、勿論半霊もちゃんと使って肉体を強化してね?」
「しかし、西行寺様! それでは妖夢が……」
「これが妖夢の為よ」
馬鹿な!
道着に竹刀の妖夢と、完全武装で真剣を携えて半霊を使った術で肉体強化までした俺を戦わせる?
逆ならまだしも!
俺に孫を殺せというのか?
殺すのが孫の為!?
……それ程か? それ程にまで俺は孫を苦しめていたのか? いっそ殺してやった方が良い位に?
こうなればいっそ妖夢を生かす為なら、一か八か西行寺様を……? いいや、駄目だ、絶対にそれは許されない。
俺が腹でも切るか? それで妖夢が生きられるなら、こんな『孫不幸』な爺の腹など安いものだが……。
……馬鹿か俺は。西行寺様が『妖夢の為』だと言っているのだ。
……西行寺様は、もしも本当に俺に妖夢を殺させたければ素直に『殺せ』と言うだろう。
……信じよう。
「……妖夢。勝負だ」
暫しの沈黙の後、老人は両刀を霞に構えた。
右手の大刀を頭上に翳し、左手の小太刀を前方へ突き出す型。
小太刀で細かく攻撃と防御を行い、強力な右の一撃を打ち込む為のもの。
「し、師匠……っ」
祖父が構えた途端、身体が何倍にもなった様に錯覚する。
とんでもない威圧感だ。
要塞か何かを前にしている様な……最早剣でどうにか出来るものでは無い様にすら錯覚する。
「っ……」
私は竹刀を前方へ突き出す様に──青眼に──構えた。
震えが走る。
何故? 何故幽々子様はこんな事を? 何故祖父は従う? 自分は切り捨てられたのか? 見切りを付けられた?
馬鹿が! 余計な事を考えるな。
祖父がじわりと距離を詰め、間は10m程になる。
祖父の間合いは8mはある。
後少し。
倒すべきか。
応。
どう倒す?
選択肢は無い。全力で。
更に祖父が攻め、間は9m。
……動いても祖父の重心は全くぶれず、隙が見えない。
更に祖父が間を詰め……。
と思った瞬間、ぐにゃりと祖父の姿が掻き消え……
「っ!」
私は咄嗟に体を左へ崩す、と同時に先程まで私の右手首があった場所を祖父の小太刀が薙ぐ。
左が来たなら、次は右が……
「くっ……」
私は全力で祖父に体当たりを食らわせる。
あの大刀を片手で振るわれたのでは、とても遠方へは逃げ切れるものではない。
相手に密着するしか方が無い。
私は振りかぶっていた右太刀の加速を転用した、右の回し膝蹴りで吹き飛ばされる。
二刀流の刀は腕で振るうものではなく、身体全体の運動エネルギーで振るうものだ。
故に二刀を振るわんとする瞬間の剣士はエネルギーの塊の様なものであり、刀の為に作った運動エネルギーを他の技に流用しても、当然絶大な威力を誇る。
「がっ……う、ぐぅ」
頭がくらくらする。4,5mは蹴り飛ばされた。
その勢いを生かして、私は即座に足を振り子の様に使って立ち上がり、竹刀を構えなおし……
「いっつ……!?」
右の前腕がぱっくりと裂けて血が噴出している事に激痛で気が付く。
骨に異常は無い様だが、脂肪の断面が薄く見える。
避けられたと思っていたのに。
前方の祖父を睨む。
祖父は両上段の構えに変えていた。
その名の通り、両刀を最上段に振りかぶる、必殺の構えだ。
「うぅ……」
あれは躱せない。
勿論、上段からの強力無比の一撃を、二度も躱すが難しいのは勿論だが、それだけでは無いのだ。
あの構えは、振り下ろした直後には、下方の死角からの切り上げを狙う下段の構えに即座に移行出来る。
つまり、あれを躱すには、合計4撃を逃げ切らねば成らない。
こちらも刀を持っているなら、受けでその流れを断ち切る事も不可能では無いかも知れない。
だが、私の手にあるのは金属ですらない。ただの竹刀だ。
受けた所で、何も無いかのように両断されて死ぬだろう。
祖父が再び間合いを詰める。
「うぁ……」
避けられない。
受けられない。
攻めるしかない?
……いや、打ち込んでも、あんな鎧を着て、半霊による強化までされた祖父に竹刀なんて効く筈が無い。
私は今まで『打ち込もうとして』のか?
私は竹刀や木刀を打ち込むのが怖いんじゃないのか?
唯一の肉親の、高齢な祖父の細身にこんな鈍器をめり込ませるのが嫌なんじゃないのか?
万が一にも、あの達人にそんな事がある筈が無いが……百万が一、当たり所が悪く死んでしまったら。
いやその場合、『当たり所が悪く』じゃない。『死んでしまったら』じゃない。
チチウエノヨウニアヤメテシマッタラ
『当て所が悪く』『殺してしまったら』
父は竹刀を上段に構え、振り下ろす。
私はそれを最小の動きで受け流し、父の胴を狙って突きを放つ。
父の竹刀がそれを防ごうと跳ね上がった。
完璧に防げるコースだった。
だが、私は半人半霊だった。
人でない者の、加減をしらない力みに竹刀は割れて、父の喉へ突き立った。
ぐしゃり
あの時、私の突きを防ごうとした父は結果的には、胴へ当たる筈だった突きを自らの喉へ招き入れる事になってしまったのだ。
竹刀が痛んでいたのかも。身長差。種族。監督不行き届きの父の自業自得。言い訳はなんでも揃ってる。私のせいじゃないさ。ちょっとした不幸な事故。
だが無駄だ。
肉親の急所へ割れた竹を突き込む手応えを、私は感じてしまったのだ。
喉仏に裂けた竹刀が陥没するあの感触は二度と味わいたくない。
ほぼ毎晩寝床で味わっているが、せめて現実では勘弁して欲しい。許してくれ。ごめんなさい。
だが
『打ち込んでも、あんな鎧を着て、半霊による強化までされた祖父に竹刀なんて効く筈が無い』……
祖父が左の小太刀を振り下ろすのに合わせて、身体を左へ躱し様に、祖父の手甲に覆われた手首へ竹刀を叩き込む。
直後に襲い来る右の大刀の振り下ろされるのに会わせて、祖父の籠手に覆われた前腕を、返す竹刀の柄でかち上げる。
下方から跳ね上がる左の小太刀の鍔を右足で蹴って弾き飛ばし、祖父の兜へ竹刀を打ち込む。
右方から横薙ぎにされる右の大刀。その勢いを利用して、左腋の下で祖父の右腕を挟み、自分の身体に巻きつける様にし、兜に腕をかけ足を払い、投げ倒す。
地面に背中から叩きつけられた祖父の胴へ、竹刀を突き立てる。
胴凱が少しだけ凹み、竹刀が砕け散る。
私はその折れた竹刀の柄を振り上げ……。
「はい、そこまで!」
ぺちぺちと拍手が聞こえる。
「え……?」
「だから、そこまでよ。『どちらかが倒れるまで』って言ったでしょ? 妖忌は今立ってる? 倒れてる?」
「え……? あ……嘘……」
祖父は地に伏していた。
「良くやった。妖夢」
装具を外し、傷の手当をした後で祖父に一言褒められた。
言葉はそれだけだったが、私に負わされた傷の手当をする祖父の満足気な顔は、万語に優った。
明け方の白玉楼。
「妖忌、あなた本当に行っちゃうつもり? 妖夢に何も言わずに?」
「敗者はそういうものです。……孫に『負けられた』ので満足しました」
妖忌は心底愉快そうに──妖忌の満面の笑みは他の人の微笑み位のものだ──笑って言った。
「敗者だの負けただの、って言っても、あんなとんでもなく重い鎧を着てたからじゃない?……妖夢には言わないけどね」
妖忌が昨日着用していた鎧は鉄朱漆塗仏二枚胴具足。
井伊直政が着用していたと伝えられる具足で、鉄砲をも弾いたという防御力、その対価の総重量60kgという伝説を残す、鉄板を打ち出した仏胴の一品だ。
博物館に伝わっていた具足は近年の調査で、総重量24.5kgであり、伝説の直政の具足とは別の替え具足である可能性が高いとされる。
つまり、幻想入りした品の一つだ。
「条件は兎も角、本気でやりあって妖夢が勝った事は揺るぎません」
「ふーん。で、出て行って、どうするの?」
「どうするって? 無論、絶っ対に妖夢が勝てない位に鍛えなおして戻ってきます」
「ふふふっ……かわいそうな妖夢〜」
妖夢は祖父の出奔も、自分の肩書きに剣術指南役が追加された事もまだ知らない
白楼剣と楼観剣の二振りが新しい主の、枕元の刀掛けに控えている事も。
今は安らかな寝息を立てるのみだ。
遅刻してしまってほんにおしょすぃこってす。おもさげねぇ……。
泣き言と言い訳を綴れば切が無いので、それは無しで……えぇと、妖夢可愛いです。健気だと思います。
可愛いから、ぶっちゃけ然程要らない気がする風呂シーンとかあるのも仕方ない事ですよね。あれ?これ言い訳じゃね?
他の剣キャラと戦わせたりもしたいなぁと思いつつ、それは既に産廃先輩がやってらっしゃるので今回は無しで。あれ?これだって言い訳じゃね?
アイエエエー!? ヨウキ!? ヨウキナンデ!? とかサムライリアリティショックを自分で発症しつつ、ズバリドリンクで実際ゴリ押ししました。
……何ネタか伝わってくれ、頼む!
駄目だ、疲れているみたいですので、後書はこの辺で……。
追記
コメント、評価、誠に有難う御座います。
他の参加作品を一通り拝見し終えましたら、後書にて返信させて頂きます。
2012 05 13 00:21 返信
ドーモ、>>1=サン、ヤマトカゲです。
ヨウムカワイイヤッター!
貧乳はステータスで希少価値だ。古事記にも書いてある。
マスターサムライの妖忌は実際強い。
かつて幽々子に使える以前は、道場破りを伊達にして帰す事もチャメシインシデントだったに違いない。
ドーモ、>>2=サン、ヤマトカゲです。
ほっこりアトモスフィアを感じて頂けたならオハギをオーバードーズして書いた甲斐がありました!
ゴキゲンヨ!
>>NutsIn先任曹長さん
戦闘シーン書きたさ4割、妖夢いぢめたさ3割、妖忌格好付けさせたさ3割でした。
魔法や何かも嫌いじゃありませんが、やはりリアルバトルが一番好きです。
んhさんに言われている様に、ちょっと書き方が面倒臭い事になってしまったきらいがありますが、楽しんで頂けたなら欣快の至り!
勝者と敗者とは、イコール強者と弱者とは限りません。
勝者が勝者たろうとして勝者であるのは当然ですが、敗者もまた敗者たろうとしているからこそ敗者である、なんて事もあるかも知れません。
幽々子は妖夢を、妖忌は幽々子を、妖夢は妖忌を信じたからこその出来事でした。
幽々子が妖夢の底力を疑っても、妖忌が幽々子の真意を疑っても、妖夢が祖父の防御力を疑っても成立しない一試合。
半人半霊の二人の背──その半分──を幽霊を統制する能力を持った幽々子が少し押してあげたのかも知れませんね。
>>5さん
手も足も出なくて悔しい……でも、強くなりたい! ビクンッビクンッ
妖夢は良い子です。きっと、彼女は挫ける事はあっても、折れ曲がる事は無く、上を目指すでしょう。時には泣くかも知れませんが。
妖忌は凄い人です。恐らく、彼には挫ける軟弱さも、折れる程の硬直も無く刀を極め続けるでしょう。時には悩むかも知れませんが。
>>んhさん
『僕』は有得ず、『私』じゃ剣客的な荒々しさが足りず、『ワシ』じゃ関西、『わし』ではコミカル、『儂』では曖昧な剣鬼と被る。という訳で『俺』爺さんです。
良いですよね、俺爺さん。
二人のアクション内容も『難しい事』で、私の力量に余る的な意味でも『難しい事』をやってしまいました。
私自身、PCの前で模造刀を手にして、ああでもない、こうでもないと、身体を捻くり回しながら書いていました(こんな事書いたら全然詳しくないのがバレちまう!)。
ですので、(幸い、というべきか残念ながらというべきか)実際に動作を追いかけつつ読んで頂く、というのもそうそう私の望みから外れたものでも御座いません。
私自身は、市販の小説を読んでいても思わず人物の表情や台詞、アクションを試してみたくなるタイプの人間なのです。
当然ですが私は、実戦的(蹴りや投げ、打突部位自由)に刀は勿論、木刀や竹刀を振り回した経験が有りませんので……感じるな考えろ、的書き方しか出来ませんで、こんな描写になりました。
マンガで例えれば、北斗の拳よりホーリーランドといいますか……。(聖地の作者は実戦経験有るそうですが、そこではなく、作品の描写の仕方的な意味で)
冗長である事の言い訳すら冗長ですね……。
つまり、某有名格闘小説の様に「殴る、殴る、殴る」みたいな描写をしても、自動的に読者様に私の思い通りのシーンを想像させる程の技量がまだ無いのです。
長期戦ならば或いはその様な描写でサッと流すシーンも試したかも知れませんが、今回は一戦々々は短くてリズムと濃度を両立させる自信が有りませんでして。
はい、精進します。
ルビに関しましては、完全にルビという概念を忘れていました。ルビ! そういうのもあるのか! といったゴローちゃん状態です。とんだうっかり!
諸々のアドバイス、誠に有難う御座います。良薬口に苦しと言いますが、苦味を感じる事も無い位に素直に受取れる、実にスマートなアドバイスでした。
幽々子様は一々説明しなかったり自分で茶化すせいで、巫山戯て無責任な印象を持たれてしまうけれど、洞察力鋭くしっかり部下の事なども考えている人だと思います。
この幽々子様を気に入って頂けたようで、幸いです!
ドーモ、>>穀潰し=サン、ヤマトカゲです。
幽々子様にはグランドマスター級オバケニンジャ=クランのソウルが……アバーッ!
まぁそれは冗談として、幽々子様はフワッとした人ですが、アホでも馬鹿でも勿論無くて、粋なんだと思います。
実際問題、妖忌は態度は冷静ですが見えて根は熱血な人間です。若い頃の彼は、戦隊物ならレッドでしょう。
なにせ剣一筋に打ち込んできたせいで、孫とどう接したら良いかすら困っちゃう位、熱血馬鹿です。
熱血過ぎて、「熱血なのは剣には不利だ」って熱血さを完全に冷却出来るくらい熱血です。
表面は冷静ですが、「俺より強い奴に会いに行く」とか言っちゃうタイプなんです、このお爺ちゃん。
初夏だぞ〜、日本家屋の庭だぞ〜、道場だぞ〜、うお〜、と念じながら書いていましたので、情景が伝わって良かったです!
二人のバトルも好評だったようで、感無量!
ヤッちまった時のロリ妖夢を書くのも考えたのですがねぇ……どこに挟もうかなぁなんて考えている間に、入れる場所無くなってました。
ロリ妖夢ちゃんは全く泣きも喚きもせず、現場でも可能な限りの応急手当を適切に行い、父の葬式でも立派な態度でした。
剣術を嫌がって「もうやめる」等とは一切言ったりせず、寧ろ今までよりずっと熱心に祖父に教えを乞いました。
ですが実際は、ほぼ毎晩あの瞬間を夢に見ては、泣いたり吐いたりしてました。そして、それらを幽々子さえ気がつけない程綺麗に片付けていました。
やがて、泣いたり吐いたりする程の症状は治まりましたが、そのショックは形を変えて身内への攻撃の忌避となりました。
それは妖夢自身でさえ気がつけない程の無意識下での事。
妖夢は、泣いたり嘔吐したりが治まったので、重篤なトラウマは克服出来たと勘違いしていたのです。
ようは泣いている所を人に見せて迷惑や心配をかけないように頑張って良い子で居て、夜中一人で布団で丸くなって泣いてる妖夢ちゃんカワイイヤッター!
お風呂シーンは私ももっと書きたかったのですが、余り書くと別なタイプの話に(ry
アタシいま体温何度あるのかなーッ!?
>>8さん
妖忌さんは合法的に妖夢をボコれる非常に美味しい立場の人なのに意外と出番が少ないですよね。
妖夢をボコって説教して、その上妖夢にお礼まで言って貰えるなんて夢のようだ。
そういう産廃チックな理由を抜きにしても、純粋に侍キャラは格好良いですし、情報の少なさ故に書き易くもあり、幽々子妖夢とは愛称完璧で、しかも男なのに……。
匿名評価を下さった方も、誠に有難う御座いました!
2012 05 16 17:44 返信
ドーモ、>>紅魚群=サン、ヤマトカゲです。
王道というのは、王道になっただけの理由がありますから、やはり成長物はいいものです。
二人の不器用っぷり(そして幽々子様の──(笑)が付かない──カリスマ)が命な所がありますので、褒めて頂けて幸いです!
「後味が良い」というのは私が拘っている部分の一つなので、嬉しいです。
悲惨な目にあったり、グロい事になったり、リョナい展開は産廃に居る以上、勿論大好物なのですが、基本的には後味は良いのが好きです。
グッドエンド、バッドエンド、報われる報われない、とはまたちょっと違うところに後味ってあると思いまして。
剣戟の判り辛さに関しましては、んhさんへの返信中に記した通りの理由です。申し訳有りませぬ。
人称の切り替わりは、自分でも「これ分かり辛いんじゃないだろうか?」と思いつつも、ついつい「人称は統一すべき」という基本を破ってしまいましたorz
妖夢の視点で無いと彼女の心情を表すのが難しく、かといって妖夢視点のみでは、妖忌や幽々子が動かし辛く……。
人称が変わるシーンは最低で空白を3行以上は入れて、一呼吸置く様にしましたがやはり違和感が出てしまった様で。
使わずにおれなかったならせめて開き直って、「─」で区切ってしまう等した方が良かったかも……?
精進します。
アイエエエー!? ヨウキ!? ヨウキカワイイナンデ!? ……というのは、冗談として。
妖忌が最後にでも「おじいちゃん」な事してやるシーンはあっても良かったかも知れませんねぇ。
きっと気恥ずかしかったのでしょうし、敗者が勝者を余り褒めたり優しくするのも妙な事だと考えもしたのでしょう。
彼がそういう所も「鍛えなおして」帰ってくる事を期待しましょう。
2012 05 22 01:46 返信
>>10さん
ワオ! 私に大ファンとまで言ってくれる読者さんが居たなんて! 良い意味で吃驚しました!
私は煽てられると直ぐ木に登って転落死する豚タイプの単純な人間なので、テンション上がりまくりですぜ!
こそばゆいですなぁ……ウヘヘ。
書き始める前に、以前書いた部分を全部読み返す推敲癖のお陰か、楽しんで頂けた様で何よりです。
その副作用でとんでもない遅筆な訳ですが……。
なんて書きつつ、たった今も読み直していたら、2つも3つもミスを見つけてしまうという体たらく!
お褒めの言葉には感謝しつつ、舞い上がって『転落死』しない様に、気をつけて書いていきます。
>>木質さん
読者さんの血が騒いだならば、本懐を遂げられました!
侍というと刀(それと弓、槍)なイメージですが、柔術などの格闘技のウェイトも割と大きいのが実際では無いかと思い、この様な殺陣と相成りました。
妖夢の想定は結構な下調べをして書いた所ですので、気が付いて頂けて幸いです。
妖夢と妖忌の二人が「不器用」とすれば、幽々子様は相当に「器用」な方だと考えています。
ただ、彼女も昔は能力に苦悩し自刃しているので生まれつき「器用」で、サクサク物事をさばけた訳では無いに違いありません。
彼女の「器用さ」は一度は自分を殺した程の不器用さの上に成り立っているものなのでしょう。
最後の妖夢のラッシュは、やはりズーっと続いた鬱屈が有ってこその解放のカタルシスといいましょうか。
あの6行のシーンの為だけに今作の妖夢の幼少からの訓練と、私の37kbはあったようなものですので。
私が「100点じゃ足りない」という伝説のワードを頂戴出来る日が来ると……勿体無きお言葉!
ドーモ、>>12=サン、ヤマトカゲです。
『光景を描写する』『読者さんを疲れさせない』。“両方”やらなくっちゃあならないってのが“作者”の辛いところだな。覚悟はいいか?オレはまだとてもできてないorz
「小説はデッサンだ、描画だ」と或る所で聞いて以来、気にしている所でして、シーンを思い浮かべて頂けたなら重畳に存じます!
本筋以外のちょっとした会話や動作こそがきっと、キャラクターに質量を与えてくれると思い描きました。日常重点。
ワビサビアトモスフィアが出ていたならば、神目線の三人称でなく一人称にした甲斐がありました。(語り手がが変わる所が紛らわしくなる弊害等がありましたが……)
日常パートがある作品は何気に初めてだったので、同じ穴にフェレットとタヌキでしたが、ブルズアイ!
クドい描写で疲労させてしまったようで申し訳有りません。
私自身は当然ながら文以前に、脳内で先に動作が映像化されている訳なので、悪いことにスラスラ読めてしまいますが、もし記憶スッパリ消して読んでみたら、きっと私もこの動作描写は億劫に感じると思います……。
担当者はメキシコ研修に贈られました。ケジメはヤメロー!ヤメロー!
2012 06 02 03:10 返信
>>あぶぶさん
テンションですか。申し訳有りませんが、どういう意味か良く私には分かりません。
例えば妖忌が前半では寡黙爺で、後半ではドジョウ掬いをやり始めたら変わりすぎでしょうけれども、
勿論、『問題』が解決されたスッキリ感の分はテンション変えてますが、過ぎますかね?
ボコっておいて「これは愛だ」、とか言っちゃったらDV男の言い訳みたいにしか聞こえませんねw
ですので、妖忌はそんな言い訳はしませんでしたし、「自分は恨まれ嫌われていて、それは当然だ」と考えていました。
又、因果応報染みた重症を最後に妖忌が負ってしまっては、妖夢がトラウマの重ね塗りですので。
しかし、それで今まで通り屋敷で「仲良く暮らしましたとさ」では、仰られる通り妖忌の負うダメージが妖夢より少な過ぎる。
なので、辛い武者修行の旅に彼は旅立った訳です。
……とはいえ、確かにまぁ虫が良いと言われるとそんな気もしてきました。
しかし師匠をぶっ潰したら、北斗のラオウにみたいになっちゃいますので……。
兎も角、余り楽しませられ無かった様で、態々読んで頂いたのに申し訳無いです。
>>15さん
「夢、過去」の内容を小出しにリフレインさせるという卑怯?な手段を使ってまで引き込もうとした甲斐がありました!
というのは冗談半分として、そう言って頂けると救われます。どうも私の文は説明過多で「吸い込み」悪い気がしていますのでw
もし「他のお話」も読んで頂けるなら、それ以上の事は有りません。
銀紙竹光は実は恥ずかしながら私も最近知ったもので、「新しく知ったものをすぐ使いたがる」という稚気染みた性分で思わず。
妖夢の剣は、一見鋭いが実際は当てる気が(無意識に)無く、一見立派だが刃無く切れるわけも無い竹光に同じ。という事で題してみました。
(今後もコメント頂けた場合は適宜返信は続けさせて頂きます)
山蜥蜴
作品情報
作品集:
3
投稿日時:
2012/05/07 16:48:27
更新日時:
2012/06/02 04:41:48
評価:
13/16
POINT:
1200
Rate:
14.41
分類
産廃創想話例大祭
妖夢
妖忌
幽々子
活人剣
異変以前の話
六月二日四時に四度目の返信させて頂きました
今後もコメ頂けた場合は適宜返信致します
妖夢は実際可愛い。
しかしその胸部は豊満ではなかった。でも薄い胸のほうが好きという人もいる、アブハチトラズ!
剣ジツだけだけではなくカラテも得意な妖忌に死角はない。ヤバイ級ではないか
カラダニキヲツケテネ!
二人の剣士は手加減していたんですね。
だから幽々子様はあんなことをしたんですか。
誰一人殺す事無く、双方の願いを叶えるために。
亡霊姫が半人半霊に全力を出させたか。
成長を感じる話しは良いものですね、二人には競いあって幻想郷最強を目指して欲しいです。
難しいことやってるなとまず読んで感じました。そもそも剣のことは素人なので構えなんかはちゃんとイメージできてない可能性大なのですが、精読しつつ、記載通りに体を動かしていたら、一応私でも攻防は追えた……はずですたぶん。
でもそれが作者の望む読み方だったのかなとも思ってしまいまして、もう少し妖夢と妖忌の刹那のやり取りを感じ取るべきじゃないかとも思ってしまったので。
読んでいて感じたのが、キャラの動きを描写する際正確さを期そうとして(多分こういう分野に相当お詳しいはずなので)、一文一文が長くなっているのかなと。
本当に速いシーンでは、一動作一文、しかも超短文くらいの感じの方がリズムが出るのかも、とか思いました。ただ短く且つ正確な言葉選びは難しいことだとは予想できますので、今更という指摘なんでしょうけど。
後、読む際のストレスを減らすため、ルビはもっと振っても良かった気がします。剣の用語なんかは知らない人は知りませんし、これも? くらいの親切さで読み仮名振って丁度いいかもしれません。あんなもん投稿した私が言えた義理じゃないですが。
個人的に、幽々子様がとっても幽々子様で好きでした。
双方の意志を理解して場を操るゆゆ様は実際ヤバイ級のアトモスフィアを感じる。
>どうするって? 無論、絶っ対に妖夢が勝てない位に鍛えなおして戻ってきます
おい、このお爺ちゃんかわいいぞ。
不器用なバトル物堪能させていだきました。貴方様の作品は情景が目に浮かぶから尚楽しい。
ただ欲を言えば、父を殺めた時の妖夢と周囲の反応をもっと見たかったです。
ようは泣く妖夢ちゃんを(ry
オタッシャデ!!
お風呂シーンもっと見たか(ry
気になるところというなら、剣戟シーンが少しわかりにくかったことと、一人称主が不意に切り替わったりしたことでしょうか。それと個人的には、妖忌が妖夢に何か"おじいちゃん"っぽいことをしてあげるシーンがほしかったです。ヨウキカワイイヤッター!
文字のひとつひとつに一切無駄がなく、上品でありながら読みやすい美しい文章です。流石。
戦闘シーンも静かな語り口であるにも関わらず臨場感タップリで、まさか文字でここまで「動」を表現するか!と愕然としました。
こういう一片の影を持つほのぼの日常系が大好物なのと、山蜥蜴さんの大ファンなため少し補正が掛かっているかもしれませんが非常に良い作品でしたため、僭越ながら100点を付けさせていただきます!
妖夢の『もしこれが実戦だったら』の妄想が余りにも生々しくて首周りがゾワゾワしました。
スパルタ爺の下で強くなろうと苦労と苦悩の日々を過ごす妖夢。
可愛い孫に対する自分の行いが本当に正しいのかと自問自答を繰り返す妖忌。
そんな二人の間を飄々としながらも上手に取り持つ幽々子。
なんと絶妙で素晴らしい関係なのでしょうか。
最後のふっきれた感じの妖夢がカッコいいです。
100点じゃ足りません。
キャラクターにしても、会話や本筋とは関係のないちょっとした文から、さりげなくにじみ出してるという粋な演出。押し付けず、しみこませるような感じで、受け入れやすい親切設計でした。
全体をとおして、読み手への気遣いがあるなという印象です。
そう、作者さんのワザマエと卓越した礼儀・ワビサビから、奥ゆかしいモテナシの心を感じたのです。
ですが、逆にいうと動作にこだわりすぎて、私にはちょっとだけ読むのが億劫になってしまったといいますか、疲れてしまったといいますか。
そこまで考えたところで、これは私の読者としての怠慢でしかないと気付きました。ケジメします。
アレだけ妖夢をコテンパンにしておいて良い話でしたー。って虫が良いだろうがこらジジイ!とか思ってしまった……こういう愛の形もあるのか
「銀紙竹光」という言葉は始めて知ったんですが、なんか響きが格好いいですねえ。