Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/imta/req/util.php on line 270
『サドの二ッ岩』 作者: まいん
注意、この作品は東方projectの二次創作です。
オリ設定、オリキャラが存在する可能性があります。
長い冬が明け暖かな春が始まろうとしていた日。
幽谷響子と多々良小傘は寺の門の前で話をしていた。
小傘はよく寺を訪れては業務を手伝ったり話をしたり聞いたりしに来ていた。
その日は門前で掃除に励んでいた響子の元を訪れて何でもない話に花を咲かせていたのだ。
その時、話をしている二人の上空から何かが飛来する音が聞こえて来た。
何事だ? 二人は同時に首を上に向けるが空には何も居なかった。
ドゴンッ!
響子の顔面にいきなり衝撃が走る。
手の大きさ程の何かが彼女の顔にめり込み、
その衝撃を受けて無抵抗に地面に叩きつけられた。
顔に何かを受けた一瞬で気を失う。 地面に伏している彼女の頬は青く腫れ、
鼻からは血を流し、股間からは黄色い液体が広がり臭いを辺りに撒き散らした。
襲撃をされなかった小傘も只では済まなかった。
響子が叩きつけられて地面にあった石が跳ね上がる。
彼女は散弾の様な多くの石に身体を打たれ、服の下に多くの打撲痕が刻まれてしまう。
と同時に衝撃波の風圧を自身の一部である唐傘が受けて怪我をしたまま寺から遠くに飛ばされてしまった。
第一、 第二の犠牲者は犯人を視認する事さえ出来なかった。
ゴッシャァァァァァンッッッ!!!
寺の門の部分が全壊し、辺りに木材の破片が散乱する。
犯人は木材の破片が舞い散る中を悠然と歩んで行った。
その現場に居合わせていた村紗水蜜は侵入者を止める為に後先考えずに飛び掛った。
「この寺で不埒な事を考えると……ヴァ!」
飛び掛った所に絶妙のタイミングで拳を打ち込まれる。
響子と同じく顔に衝撃を受けてそのまま昏倒してしまい、
殴り抜かれた為に飛んで来た方向に打ち返されてしまう。
「危ない! よっと……」
打ち返されて建物に激突する瞬間、
雲居一輪の操る雲山が彼女を受け止め更なる大怪我をする事態を避ける事ができた。
一輪は雲山に礼を言うと彼は村紗を優しく床に寝かせて二人で招かざる客の前に歩を進めた。
今までの所業が嘘の様に自身の前に来るまで待つ侵入者。
一輪達が歩み終え、彼女の口から最初の一言目が話された。
その言葉を待っていたかのように侵入者は瞬時に殴り掛かる。
雲山は咄嗟に一輪を庇うも侵入者の拳が接触する瞬間、
彼の身体は霧散を始め庇う事が出来なくなってしまい、無情にも拳は彼女に到達してしまう。
「ゲバァァァ!」
雲山のおかげで一瞬で気を失う場所への直撃は避けられたが
彼女の胸骨付近に強大な衝撃が走った。 その為に肺の中の空気がすべて吐き出されてしまう。
呼吸の出来なくなった彼女は顔を真っ青にして首を掴み、
もう片方の手を何も無い虚空に伸ばし何とかして呼吸を再会しようと足掻く。
しかし、対処のしようが無いこの状況、結果的には他の者とは違うも他の者よりも苦しみ、緩々と意識を失っていった。
一輪が意識を失う少し前、異常な音を聞いた寅丸星とナズーリンは急いで門に向けて走っていた。
寺の正面に到着した彼女達の目に飛び込んで来たのは仲間が地面に伏している姿。
今しがたまで動いていたであろう一輪の目と鼻の先に仁王立ちし見下ろす者。
「鬼か? 何にせよ、これ以上の狼藉はさせません! ナズーリン! 私を囮に宝塔を! いざっ!」
「ご主人様、奴を引き付けて! 私は宝塔の力で対処します!」
彼女達二人は同じ様な事を同時に叫び、星は侵入者に飛び掛り、ナズーリンは宝塔を取りに素早く移動を始めた。
侵入者も行動を始め、飛び掛って来た星に対して殴りかかる。
侵入者の右の豪腕が振り抜かれるが星は打点を少しずらして拳を左掌で受け止め掴む。
パァァァンッッッ! ミシィ……。
拳が受け止められ、拳と掌が叩かれた大きな音が辺りに響く。
星の手は衝撃で骨にヒビが入り、肩は半分程外れ、腕と二の腕の骨にも割れた竹の様な縦筋のヒビが入った。
常人ならば発狂する程の痛みと衝撃を受け、背中に冷たい汗を掻き額にも大量の脂汗を浮かべる。
その痛みを受けても、これ以上仲間に犠牲を出させてたまるか!
という信念に対して忠実に動き相手の動きを一時的に止める為残った右手を繰り出す。
侵入者も残った手を繰り出し、飛び掛る一瞬の空中戦が終了した。
ダァァンッッッ!!!
地に脚が着く二人。 と同時に彼女等の四本の脚の下に浅い窪み(クレーター)が出来る。
彼女等は奇妙な姿勢で組み合っていた。
だがその拮抗も一瞬で崩れ有利不利がはっきりしてしまう。
組み合っている手を見ると侵入者に握られている星の手の甲が青く変色を始めていた。
彼女の顔に脂汗が増えている事実を見れば、握られている場所が潰され始めている事が解るであろう。
地面に組み伏せられる事は耐えてはいるが、それも時間の問題であった。
この間僅かに数秒。
「ご主人様!」
戻って来たナズーリンは手に持っていた宝塔を掲げる。
宝塔は黄色に発光すると毘沙門天を彷彿とさせる強大な力を内包し始めた。
「この場に正義に反する行動を取る者が居るならば正義の名の下に天罰を与えたまえ!」
ナズーリンが叫ぶと宝塔から10本の光線が射出され、それは螺旋回転の軌道を描いて広がり星達の方向に拡散していった。
光線が射出され彼女達の元に到達するコンマ一秒にも満たない時間にも形勢は一方的に進んでいた。
侵入者の手は星の手を握りつぶしていき、ポキポキパキと嫌な音を響かせていた。
一方、射出された光線は星を無視し、侵入者の気付く間も無く正中線の真ん中目掛け螺旋回転の軌道を描いて収縮して行った。
侵入者自身が気付いた時には遅かった。
星が組み合ったのはこういう状況を想定していたからに他ならなかったのだ。
直撃。
圧倒的だった侵入者の怪力は消え失せ、その千載一遇の機会を逃すまいと星は身体を半回転捻り背負い投げを敢行した。
「勝機! でやぁぁぁぁぁっっっ!」
怪力を失っていた侵入者は為す術も無く背負われ、相手の(相対的な)怪力によって受身も取れずに顔面から地面に突き刺された。
力を失ってしまった為今度は侵入者が気絶する事になってしまった。
〜〜〜〜〜
「な、何じゃぁこれは?」
寺から出かけていた二ッ岩マミゾウは帰って来るなり寺のあまりの変わり様に開口一番、素っ頓狂な声を上げた。
だが、着地する地面が近づくにつれ仲間の惨状が目に入っていき、段々と険しい表情へと変化していく。
門の前には響子が
広場の中央には一輪が倒れており
その後方の建物付近には村紗
一輪から数十歩先には星が険しい表情で歯を食いしばり脂汗を垂らしながら座り込んでいた。
そのすぐ近くに後ろ手に縛り上げられている者。
両腕から三種の分銅を垂らし、二本の角にリボンが巻かれている……所謂鬼が居た。
「寅丸、これは一体どうしたのじゃ?」
「ぐっ、マミゾウ。 この……鬼が……突然……今ナズーリンを聖の元に行かせています……」
「すまんかった。 儂に出来る事は無いがもう少しだけ耐えてくれ」
マミゾウはそう言うと星の為に濡らした手拭を用意し
バラバラの場所で気絶している者を星の近くに移動させようと行動を開始した。
彼女が仲間を運び終わりそれぞれが腫らしている箇所を綺麗にしていると
小傘を抱えナズーリンを伴って寺の住職、聖白蓮が戻って来た。
「おお、聖殿。 この惨状を見てくれ」
「ええ、ナズーリンから大体の事情は聞きました」
「こやつを一体どうするのだ?」
「名前と目的位は知っておきたいので……
すみませんがマミゾウさん、彼女に話を聞いてもらえませんか?」
「あー、別に良いが……儂で本当に良いのかのぅ」
「ええ、佐渡?でしたね? そこで一族の頭をしていたと聞きましたので問題は無いです。
それに私はこれでも貴女の事を信頼していますので……私はここで皆の治療に当たります。
ナズーリンを助手として使って下さい」
会話が終わり、マミゾウは頭を掻きながら鬼に近づくと
首根っこを掴み無理矢理立ち上がらせ別の場所に移動を始めた。
「ほれ、立たんか。 お主には少し聞きたい事があるのじゃ」
聖は大怪我をさせられ、気絶している皆の治療を始めた。
〜〜〜〜〜
「マミゾウ、言われた物を用意したぞ……しかし、何に使うのだ?」
「うむ、ありがとう……
まぁ、使わないに越した事はないのじゃがな。さてと、それじゃぁ……」
寺の中の仕置部屋。
両手両足の自由はあるものの首輪を嵌められ少し長めの鎖で壁に固定された鬼の少女が座らされた。
先の戦いで力を失い怪力は発揮できず岩よりも硬くなる筈の皮膚も見た目通り女子の柔肌となっている。
その少女にマミゾウは聖から指示された事項の確認を行う為に話を始めた。
「お主、名は?」
鬼の少女は口を真一文字に噤み、返事も返答も返ってこなかった。
マミゾウは何ら気にせずにもう一つの質問を投げかけた。
「何の目的があって寺を襲撃し皆に怪我を負わせたのか?」
状況は変わらず、少女から返って来るのは視線だけであった。
少し間を空け、再度聞くが、三度目じゃが、と言葉の頭に付けて話しかけるも
進展と呼べるものは何一つ無い。
マミゾウは頭を軽く掻き溜息を吐きながら少女の目の前に歩み寄り同じ目線にしゃがみ込んだ。
ぱしん……。
突然少女の頬をはたくと彼女の頬に薄く赤みがかかる。
ナズーリンの口から、あ……と制止を暗に知らせる声が上げられた。
マミゾウは先程よりも目を細め氷の様な鋭さに変わりつつある声で少女に話す。
「のぅ? 儂は難しい質問をしている訳ではないのじゃぞ?
名前くらい教えてくれんかのぉ?」
その声を聞いて真一文字に噤まれた口が重々しく開かれた。
「伊吹……萃香……」
その名を聞き、ふっと軽く鼻で笑うと……ぱしん……再び彼女の頬に手を打ち付けてはたいた。
「……話が出来るのならば最初から言わんか」
マミゾウは立ち上がり身体を翻すとナズーリンの元に向けて歩いていった。
歩み寄って来た彼女にナズーリンはやや皮肉気味の口調で話しかけた。
「マミゾウ、話を聞くだけなのに随分とやり方が荒いのではないか?」
「いや、これ位ではまだ生易しい。
奴は門を破壊し寺の者に対して暴行の限りを尽くし、お主の主人にも大怪我を負わせた。
何よりも鬼である奴に通常の方法が通用するとは考えられぬ」
「むっ、そうか……不本意ではあるが、君のやり方に任せるよ」
再び、萃香の前に立ち先程と同じ質問を話しかける。
「さて、四度目じゃが……お主は何故寺を襲撃した?」
答えは返ってこず、マミゾウの目は宿敵の狐の様になっていた。
嗜虐心を刺激された彼女は口を吊り上げ邪悪な笑みを浮かべてナズーリンに質問をした。
「ナズーリン、鉄串とやっとこ……どっちが良いかのぅ?」
「何に使う気だ?」
「質問には答えて欲しかったぞい……爪を……なっ」
「先程任せると言ったが、念の為確認するぞ。 本当に良いのだな?」
「……ではやっとこにするか」
答えになっていない返答で暗に次の行動を示した。
用意されていたやっとこを手に取ると、萃香に歩み寄り彼女の手を取ろうとする。
だが、力の入らない彼女は今出来る精一杯の力で拳を握り
無駄と分かっていても抵抗をしようとした。
「ふぉふぉふぉ、流石は鬼じゃ。
諦めの悪さも誇りの高さも天下一品……じゃっ!!!」
最後の言葉と同時に顎先を蹴り上げ、その後に萃香の手を踏んだ。
ガツッ、ガツッ、ガツッ!
二度、三度と踏まれ、力の入らない手は痛みと共に握る事を拒否する。
その様子に気が付いたマミゾウは踏む事を止め、楽しそうに話しかけた。
「どうしたのかぇ、握りたければ握っても良いのじゃぞ?」
萃香はマミゾウを睨みつけ痙攣した手を再び握ろうとする。
が握る前に又も素早く踏まれてしまう。
「がぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
予測する思考が回らずに不意を突かれた萃香は叫び声を上げる。
グリグリと足を捻り手の甲を踏み付けたまま
マミゾウは開かれている手の人差し指の爪にやっとこをコンコンと軽く当てる。
流石にこいつはヤバイと思った萃香は慌てて口を開き矢継ぎ早に話した。
「わかった、わかった、目的を話すから……」
その言葉を聞いてマミゾウは冷静な顔を萃香に向けた。
言葉が通じると思った彼女は心で胸を撫で下ろし、安心の溜息を吐いた。
マミゾウは歯を見せ、ニッと笑顔を向けると萃香に対して一言言った。
「惜しいのぉ……時間切れじゃ」
〜〜〜〜〜
ギギギィ、ミチミチミチ、ブチブチベリィ、ブチッ!!!
「イギャァァァァァァァァッッッ!!!」
やっとこで爪を挟み、徐々に力を込めると爪が剥がれ始め、その箇所から血が出始める。
指から離れ始める爪は肉が千切れる嫌な音を発し
萃香の指には真っ赤に焼けた鉄ゴテを当てられたかの様な激痛と灼熱感が与えられた。
更に力を込めると尚も肉が千切れる音と共に爪が徐々に剥がされていく。
指が鮮血によって朱に染まり、痛み以外の感覚が無くなった頃に爪の付け根から一際大きな音が鳴る。
爪は指から分離して萃香の口からは大きな悲鳴が上がった。
漸く終わった。
涙で顔をグシャグシャに濡らした萃香はそう思いながら弱弱しい顔をマミゾウに向けていた。
一仕事終えたマミゾウは表情を変えず、彼女の手を押えたまま邪悪な笑みで呟いた。
「さて、次はどの指にしようかのぉ?」
「や、やめっ……」
先端を血に染めたやっとこを他の爪にコンコンと当てていると
消え入りそうな程に搾り出された声がマミゾウに届き、その声を受けた彼女は笑顔を向ける。
「いやじゃ」
メシィ……。
「ギャァァァァァァッッッ!!!」
ナズーリンによって爪が剥がされた指に止血、消毒、そして包帯が巻かれる。
萃香は彼女に涙ながら助けを求めるが
眉を顰めつつ聖と星の事を思い出した彼女はいつもの冷静な表情ではっきりと拒否をした。
その後もマミゾウによる楽しい楽しい”爪剥ぎたいむ”は続く。
自身のした事を後悔させる様にじっくりとゆっくりと爪を剥いでいった。
小指、薬指と剥ぎ終わった時に彼女の顔は何処から出てくるのかと思う程に泣き腫らして濡れていた。
剥いでいる時は大きな悲鳴が上がっているのだが、消耗し続けた彼女の声は段々と小さいものになっていった。
「不味いのう、段々元気が無くなってきておる」
そう呟いた彼女は先程会話で出ていた鉄串を手に取る。 ほいと自身に向けて合図を行い、残った中指の爪の間に突き刺した。
……ップ!
「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッッッ!!!」
獣の様に叫び声を上げて苦痛に目を見開き身体を反らす。
よしよしと満足そうに頷いたマミゾウは引き続き爪剥ぎを続ける。
結局、萃香の片手五指の爪はすべて剥がされてしまった。(鉄串を突き刺された中指を含む)
〜〜〜〜〜
「……終わったぞ」
ナズーリンが止血を終えるとマミゾウは礼を言い、数度目かの同じ質問を投げかけた。
「のう、あまり痛い目に遭いたくはないじゃろう?
聞かせてくれぬかのう、どうして寺を襲撃したかを……」
だらしなく舌を出して涎を垂らす。 涙で顔を濡らし拷問のあまりの事に消耗して肩で息をしていた。
萃香は呆然とした表情でマミゾウを見返す。
当のマミゾウは悪戯心で先程の笑みを浮かべ冗談交じりに話し始めた。
「ふむそうか、あくまでだんまりを続ける気か……
仕方が無いのう、次は反対の手を……」
「待って! 待って下さい……
言うから……言いますから……もうやめて下さい……」
「ほう、儂もこれ以上無駄に痛めつけたくは無かったのじゃ。
良かった、では話してくれんか?」
「ここの寺が出来た時に私は近くで霧になっていたのだけど挨拶が無かったから……
それで悪戯の(お灸を据える)つもりで……」
その言葉を聞いてマミゾウは笑い出す。
身体を翻して萃香から離れて用意されていた長さ5尺半の錫杖を笑いながら手に取る。
「かっかっかっかっかっ……」
ブンッ! バキィ!
笑ったままマミゾウは萃香を杖で殴りつけ、ガシャンと錫杖の先端にある遊環が音を鳴らす。
突然の事とはいえ棒によって殴られた彼女は、アグッと声を漏らした。
「この土地は守矢の神様と人里の長老から貰い受けたものじゃ。
幻想郷の管理人や巫女殿ならいざ知らず、どうしてお主なぞに挨拶せにゃいかんのじゃ」
ブンッ! バキィ!
「ヒグッ!」
「お主、悪戯と申したな。 その悪戯で大怪我をさせられた者を何とも思わぬのか!?」
ブンッ! バキィ!
「ぐぅッ!」
「それにのう、仏というものは鬼から成る者もおるのじゃぞえ?
お主と一瞬だけ組み合った者は毘沙門天の代理で、
もしかしたら遠縁で一族の者がおったかもしれぬのじゃぞ!?」
ブンッ! バキィ!
「いづッ!」
「義無く、筋通らず、正義無し!
おまけに自身の我侭で一族に恥を掻かせたやもしれぬ……
お主、舐めておるのか!?」
ブンッ! バキィ!
「ぐぁッ!」
バキッ! バキッ! バキッ!
完全に逆上してしまったマミゾウは錫杖で萃香を滅多打ちにする。
部屋に響くのは杖による打撃音、杖の遊環の鳴る音、そして萃香の悲痛な呻きだけである。
その行為をナズーリンは冷静な表情で眺めていた。
〜〜〜〜〜
どれ位の時間が経ったか……
大して時間は経っていないのだが
叩き続けていたマミゾウは息を切らして肩で息をし、顔には汗を浮かべていた。
「っち! 舐めおって……親指の一つでも詰めて手打ちとしてくれるわ!」
「マミゾウ!」
頭に血が昇ったマミゾウにナズーリンは制止の言葉を投げ
鉈を取ろうとする手を抑える。
「止めるな、止めんでくれい……」
「マミゾウさん!」
部屋に別の新しい声が響く。
声の主は段々と近づいて来て二人の前に来ると話を始めた。
名と目的を報告するマミゾウ。
今の行為を咎められ彼女は新しく来た者、聖と交代する。
位置の関係で萃香からは見えなかったが交代の際、
ナズーリンの表情はヤレヤレと溜息を吐く様に目を瞑り、
マミゾウは嗜虐心を満たされる様な笑みを浮かべていた。
「萃香さん、大変な目に遭わせてごめんなさい。
縄を解きますので立ち上がって貰えますか?」
助かった。
彼女は安堵の表情を返すと、表情に出さずにいつか復讐してやると考え
拷問によって節々の痛い身体を重くゆっくりとした動作で立ち上がらせる。
立ち上がった彼女の首輪に向けて聖は手を伸ばす。
が、聖は首を掴み壁に固定すると、腹に向けて空いたもう片方の拳をめり込ませた。
ドゴンッッッ!!!
「ゲェ……カ……ア……な、んで? 解……いて、く、れるって……」
「今すぐ解くとは言っていませんよ?
神聖な寺を破壊し、私の友人に暴行を加えたのに、
もう許して貰えると思っていたのですか? 今のは響子の分です」
部屋中に響く炸裂音。
再び拳を引き、振りかぶって重い拳を腹の同じ場所に打ち込む。
怪力を失い、筋肉の硬い鎧の無い今の萃香には過ぎた威力であった。
だが、鬼の元来の強さが彼女に気絶をさせなかった。
ドゴンッッッ!!! ミシミシィ!
「ゲェ……ガァ……」
今のは小傘の分と呟く聖。
殴られた萃香の腹からは骨にヒビが入る様な嫌な音が響いていた。
ドゴンッッッ!!! グチィグチュゥ!!!
「ア……がぁ……あ……うっ……げぇぇぇぇ!!!」
今のは村紗の分と呟く。
萃香の腹からは内臓が潰れる音がした。
もっともそれが聞こえたとしたら聖と萃香だけであるが。
当の萃香は腹に強い衝撃を連続して加えられた為に胃の内容物が逆流を始め、
赤黒い血と共に吐寫してしまう。
吐瀉物は首を掴んでいる聖の手にかかり、その後に床に広がっていった。
「うげぇぇぇ……うぇぇ……げぇぇ……」
「あらあら、でもまだ貴女の罪は残っています。 貴女は罪に立ち向かう義務があるのです……いざ、南無三!」
「ひゅう……ひゅう……や、やめ……」
ドゴンッッッ!!!
「う……げぇ……おえぇぇぇぇぇぇ!!!」
再び腹に拳を入れられポンプの様に内容物を逆流させる。
今のは一輪の分と呟くも
それは既に彼女自身が確認の為に呟いているようにしか聞こえなかった。
ドゴンッッッ!!!
「ぐ……げ……」
「最後に負傷した星の分」
……ズズズ、ドサッ……。
そう言って聖が手を離すと、萃香は力無くその場に座り込む。
まだまだ続くかもしれない……
それでも一段落した事に安心した彼女は尿を漏らし黄金の液体を自身の周りに広げる。
一仕事終えた聖は本当に首輪を外し、彼女の介抱をして治療をしようと考えた。
その行動をマミゾウが制止し、次いで提案をする。
「のう、聖殿。
こやつは鬼という妖怪の頂点ともいえる種族じゃ。
本来の妖怪の姿を体現し我侭で自分勝手で、
聖殿が実現したい妖怪と人間の平等な世界を必ず阻害する存在だと思うのじゃ」
「ん〜、有り体に言えばどうしたら良いと思うのですか?」
「首を刎ね、晒し者にすべきじゃ」
その言葉に思う所があり、聖は顎に手を当てて悩む。
少しの後、マミゾウにその訳を聞く。
「それについては私も思う所がありますが、マミゾウさんの意見を聞かせて下さい」
「以前、宝船騒動の後に宝を求めて寺を訪れる者が多く対応に困った事があった。と儂は聞いておる。
今では妖怪撲滅を掲げる者の登場によって、この寺は人間の信者もおるものの
只の親妖怪の為の寺と思われている節がある。
そこで儂は人妖平等の原点に帰り、妖怪であろうとも人間であろうとも
罪を犯した者は罰せられる事を外に示す必要があると思ったのじゃ」
ふむと頷き、次いでナズーリンに意見を求める。
「ナズーリン、貴女はどう考えますか?」
「そうだな、平等や信条については一先ず置かせてもらうが、
悪戯でこの様な所業をする者を野放しにする事は他の者にとっても不利益でしかない。
寺の事のみならず皆の事を思うならば五体満足に帰す必要は無いのではないかと思う」
「私は無駄な犠牲は出したくないですが……
貴女達の言う通りにこのまま帰す事は危険だと思います。
ここは首を刎ねずに腕一つをもって罪を裁こうと思います」
そう言うと他の二人は異議無しと言い、聖は先程マミゾウが取ろうとした鉈に手を掛ける。
〜〜〜〜〜
「そこまでよ」
聖が鉈を取ろうとした時、部屋の入口から更に別の声が響いた。
その声に取り繕う事も無く聖は返事をした。
「これはこれは霊夢さん」
「れ……れい……む……」
カツ、カツ、靴音を響かせ聖達の元に歩みを進める霊夢。
聖、マミゾウ、ナズーリンは霊夢の行動を見守り、
身構えたり急かしたりという事はせず、彼女の次の行動、動作を待っていた。
「幻想郷においては大っぴらな殺生は禁止されている。
それが為にスペルカードルールによって私闘や決闘においての解決をしている」
「ええ。ですが今回は彼女が加害者であり、私達は被害者なのです」
「それは重々承知しているわ」
霊夢はおもむろに地面に跪き姿勢を正して威嚇に聞こえない様に注意して声を張る。
「今回の件については私と紫が責任を負わせて貰う、命蓮寺に於いては寛大なる処置を期待したい」
そのまま頭を下げて土下座をしようとするも、その前に聖が霊夢の行動を止めた。
「いけません、貴女が軽々しく頭を下げるのは明らかにおかしいです。
私は無駄な犠牲は出したくないと思っていました。
貴女が責任を被るのならば私達は彼女をただちに解放する用意があります。 ただ……」
「何?」
「彼女の角を一つ頂きたい。 被害を受けた彼女達を納得させる証が欲しいのです」
「いいわ。苦痛と激痛を与えない事を条件に許可するわ」
「ありがとうございます。 では、マミゾウさんお願いします。 それと霊夢さん」
「何よ?」
「後で返礼に伺ってもよろしいですか?」
「構わないわ」
話が終わり、マミゾウは萃香の角を切り落す。
神経や血管が通っていない角は彼女に苦痛や痛みを与える事無く切断された。
首輪を外され、吐瀉物と吐血、自身の尿に塗れていた萃香を
聖が風呂場に抱いて連れて行く。 霊夢は一応監視の為に同行していた。
風呂場で綺麗にされた萃香は聖の治癒魔法で身体に刻まれた傷や痛みを治療してもらう。
傷んだ服は洗われ、補修され、疲れを癒す為に彼女は一室に寝かされた。
服が乾くと震え寝ぼけている萃香に霊夢が服を着せ、そのまま背負って神社に帰って行った。
〜〜〜〜〜
霊夢達が神社に戻ってほんの少し経ち、聖とマミゾウが訪ねて来た。
あまりに早すぎると霊夢は思ったが
厄介事が早く終わるならと萃香を伴い客室に案内をした。
聖の提案で上座に霊夢と萃香が座り正座で深々と頭を下げる一同。
霊夢が顔を上げて身体を起こすと、マミゾウがまず話を始めた。
「私の私情により、ここ幻想郷の掟を破ってしまう所でした。
しかし貴女の機転により掟を破らずに済んだ事を感謝し、ここに御礼を言わせて頂きます」
マミゾウの言葉が終わり、次に聖が話を始めた。
「貴女様の仲介によって、双方の未来に禍根を残さぬ寛大なる処置を感謝致します。
ここに感謝の品をお持ちしましたのでお納め下さい」
その二人の言葉を聞いた霊夢は片目を瞑ったまま難しい顔で
いまだ頭を下げたままの二人に話しかけた。
「ねぇ、その挨拶って必要なの?」
面倒臭そうに言われた言葉に二人は頭を上げる。
マミゾウはいつもの顔に戻っていた。
「こういう事は形が大切だと思いまして」
「本当はこっちが悪いから、そっちの流儀に従わないといけないと思うんだけど……
宴会やって水に流したいんだよね」
その言葉に聖は優しい表情で返答をする。
「郷に入っては郷に従え。 私達は幻想郷の規則に従います。
あの後に寺の皆に説明をしたら彼女達も納得してくれました」
「じゃぁ、皆に頼んで寺の門を建て直すから、終わったら仲直りの宴会を開いて、
それでこの件は終わりね」
「ええ、お願いします」
「っとその前に……萃香、さっさと謝れ!」
いつも通りの口調の霊夢に促され、一人頭を下げたままだった萃香は聖とマミゾウに対して謝罪をした。
「わ、私の迂闊なこ、行動によって……命蓮寺、い、一同に御迷惑をお掛けした事を……こ、ここに、謝罪、致します」
二人から返って来た言葉は裏表の無い優しい言葉であった。
その言葉に肩を震わして知らず知らずの内に涙が流れる。
他の者がそれを見てどう思うかは分からないが、彼女は二人に対して恐れの感情を抱いていたのだ。
〜〜〜〜〜
数日が経ち、寺の破壊された部分は完全に修復された。
博麗神社では寺の復旧祝いと称して宴会が催された。
寺の襲撃に関する事実を知るものはこの宴会、また幻想郷でも極一部の者しか知らない為、
寺は天災によって破壊されたという事にしていた。
宴会の前に今回の事件に関する者達は集められ、萃香は再び一同に謝罪をする事にした。
一同から返って来た言葉はやはり暖かく、萃香は本当の意味で許された事に感動して号泣してしまう。
宴会が始まってから、後ろめたさからか一人大人しく呑んでいた萃香。
彼女の隣にマミゾウが座り黙って酒瓶を差し出した。
萃香には珍しく両手で酒を受け、そのまま受けた酒を一気にあおる。
呑み終わった彼女に視線を向けず、遠くを眺めたままマミゾウは唐突に話し始めた。
「儂のした事を許して貰おうとは思わん、
だがもしお主がした事を気にしているのなら、儂等は本当に気にしてはおらん。
お主に圧し掛かっている罪なぞは何も無いのじゃ」
萃香に向けて小声で言った言葉。
目線を合わせずに言った為、マミゾウは萃香がどうなっているか確認をしていなかった。
言葉の後、彼女は目を見開いて目線を合わせられず静かに震えていた。
コメント返信です。
>NutsIn先任曹長様
あのノリが東方の書籍とはいえ私もそう思ったんですよ。
>2様
昔話もそうですね。
>3様
0ですね。 だからココのネタが尽きなくて良いと思います。
>4様
ご指摘ありがとうございます。
もっと拷問チックでも良かったですね。
>んh様
何か納得できなかったんですよ。
トラウマに打ち勝つ為に再び命蓮寺に挑む萃香。
しかし、彼女が思うよりも強くなった寺衆に想像を絶する拷問にあわされる。
>8様
頭に浮かぶ万個の言葉が私を捕えて離しませぬ。
自分が見たい情景を優先して書いているので
貴方様の言う通りになってしまうのでしょう
まいん
- 作品情報
- 作品集:
- 3
- 投稿日時:
- 2012/05/11 11:28:15
- 更新日時:
- 2012/05/20 01:00:00
- 評価:
- 6/8
- POINT:
- 530
- Rate:
- 12.33
- 分類
- マミゾウ
- 聖
- 萃香
- 命蓮寺
- 微拷問
- 5/20コメント返信
彼女に礼儀を教えるには、この位やんないとね。
霊夢と命蓮寺サイドの手打ちのおかげで命拾いしたね。
東方キャラの何人くらいがまっとうな生活おくれるんでしょうねー。
いつまで地上で大きい顔をしたがるのやら…さっさと地底に戻ってください
>>一輪達が歩み終え、彼女の口から最初の一文字が話された。
もし、一輪が「あいうえお」と言おうとしていて「あ」を言ったところで殴りかかられたなら、こう書くのが正確なのでしょうが、一言目のほうが分かりやすいかもしれません。
トラウマ植え付けられた鬼って、ある意味死ぬより惨めな存在な気がする。