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『産廃創想話例大祭『漣に栄える月の都』』 作者: あぶぶ

産廃創想話例大祭『漣に栄える月の都』

作品集: 3 投稿日時: 2012/05/18 16:18:35 更新日時: 2012/05/19 01:18:35 評価: 8/9 POINT: 580 Rate: 12.10
「霊夢、起きて。霊夢」
「んん」

博麗霊夢が重い瞼を開ける。まどろんではいたが、微かに意識はあった。
襖の隙間から差し込む朝日が時たま彼女の顔に当たり、安眠を妨げていた様だ。
目ヤニだらけの目をこすって布団から起き上がり、伸びをして寝室を見渡すと、
空ろな夢をかき消した声の主は、果たしてすぐに見つかった。

「何よ、紫、また勝手に上がりこんで。本当に怒るわよ」
「まあ、まあ。私は貴方の快眠を妨げるのが忍びなくて暫く待っててあげたのよ。可愛い寝顔を堪能できたから文句は無いけれど」

霊夢は寒気を覚え、頭をわしわしと擦ると、忌々しげに鼻を鳴らして立ち上がる。

「三十分後に出発するわ」
「一時間後よ。朝食位食べさせなさい」

肌蹴た寝巻きを引きずりながら、襖を開けて部屋を出て行った。

「照れ屋さんねぇ」

残された金髪の少女は寂しげに呟くと、襖を開けて博麗神社の軒先に出た。
神社の建つ小山から幻想郷を見渡し、かつての幻想郷を脳裏に映しながら、瞳には今の変わり果てた幻想郷を映していた。
何処までも続く水面は強烈な太陽光を反射する。
海面からそびえ立つ巨大な幹は、夜空に浮かぶ星々の様に点在し、青々と茂った葉が昆虫や鳥類の為に自然のコロニーを形成していた。
上空には恐ろしい位に巨大な月が、太陽をしのぐ程の存在感で存在している。
月が地球に接近しだした数ヶ月前から塩水が幻想郷を侵食していった。
変化は凄まじい速さで進み、生態系は一変した。
日本古来の田園風景と落葉広葉樹が栄える山々があった場所には、
今では何処までも続く遠浅の海面に、ありえない大きさのマングローブが成立しており、その呼吸根は大人が楽々と通り抜けられるほど巨大だ。
人間が暮らしていた里が海中に沈むと、人々は散在する島に移り住み、即席のボートで互いに行き来しているらしい。
妖怪はめっきり姿を消し、逆に妖精の力が強くなった。
そんな黙示録的な世界で、博麗神社は幻想郷の実力者達が情報を交換する会議室の役割を担っていた。

「霊夢、まだ〜?」
「あー、大きな声を出さないでよ。昨日のがまだ残ってるんだわ、頭が割れそう・・・・・・うええぇっ」
「ちょっと、大丈夫?」
「あんたは良く平気ね。連日、こう演会ばかりじゃ身体が持たないわ」
「まあ!宴会じゃなくて会議でしょ?だめよ、そんな考え方じゃあ。こんな時だからからこそ貴方がみんなの規範にならないといけないのよ」
「あれだけ飲んどいてよく言うわ」

まあ余り危機感は感じていない様だ。
二人は協力して昨晩の食器を片付けると、霊夢が朝食を終えるのを待って出発した。


























「うわあぁぁぁああ、あついいぃ」

洋風の建物は風通しが悪いようで、紅魔館のように極端に窓の少ない建物なら尚更だ。
幻想郷の環境の変化は太陽に弱い吸血鬼にとって忌々しいものであり、
更にこの館の主は暑さにも弱いようで、ただでさえ我侭なお嬢様の機嫌が軒並み低下している。
何時レミリアの癇癪が爆発するのかと、紅魔館の雰囲気は一触即発のピリピリしたものになっていた。

「咲夜、咲夜!」
「はい、御前に」

レミリアが怒号を上げると、咲夜は瞬時にレミリアの部屋に現れた。

「パチェにもっと屋敷の温度を下げるように言ってきなさい」
「は、はあ、しかし・・・・・・」
「何かあったの?」
「実は湿気のせいで図書館の本が酷い状態のようで、換気設備を何とかしなければいけないから手が離せないそうです」
「屋敷の主の命令が聞けないのかと言って来なさい」
「はっきり言って無謀です。パチュリー様の機嫌は過去に例を見ないほど最悪でして、
 私は怒り狂って泣き叫ぶパチュリー様など始めて見ましたわ」
「ど、どうやらあの子に頼むのは無理みたいね・・・・・・諦めましょう。」
「賢明ですわ」

しかし咲夜はレミリアが苛立つのも無理のないことだと思っていた。
ここ最近の屋敷の蒸し暑さはかなりのもので、しかも悪化の一途をたどっている気がする。
昼間の気温上昇はたえがたいものだが、かといって吸血鬼が日中から外出するわけにもいかず、
蒸し風呂状態の中でへばっている彼女を見るのは居た堪れないものがある。

「もう嫌!」
「お、お嬢様?」
「もうこんなとこ出てってやる!だいたい霊夢たちは何をしているのよ。聞いた話だと毎晩博麗神社で宴会三昧だそうじゃない。
 きっと私達の事なんてどうでもいいんだわ!」

今度はレミリアが泣き出した。咲夜は酷い偏頭痛を感じて頭をおさえる。

「お嬢様、お嬢様!」
「何よ!」
「落ち着いてください、私が何とかしますから・・・・・・確か魔法の森にパチュリー様の友人の魔法使いが居た筈です。
 連れてきて屋敷の魔法陣を動かしてもらいましょう。精霊魔法は専門でなかった気がしますが、
 しかし描いてある物を動かす位ならできるはずです」
「そ、そう?・・・・・・わかったわ。なるべく早く連れてきてね。」
「了解しました。」

咲夜はお辞儀をし、次の瞬間にはレミリアだけが部屋に残された。



















「で、何なのかしら?この格好は」

一際巨大なマングローブの根の上で、霊夢は手を広げて紫に迫る。

「水着よ、み、ず、ぎ。・・・・・うふふ、やっぱり似合うじゃない」
「まあ、着た事あるけど。」
「可愛いわ、霊夢」

聖母の笑顔で頭を撫でる紫と、それを手で振り払う霊夢のやり取りは、紫が本気の嫌悪の目つきを向けられるまで続いた。

「さてと、霊夢、貴方には海にもぐってもらうわ。ねぇ・・・・・・一寸ふざけただけじゃない?機嫌直してよ」
「あんたってさ、偶に凄く気持ち悪いわよね」
「いやん、褒めないでよ」
「キモッ」

紫によると今回の異変の原因が月にあるのは明らかだが、直接出向くのは危険な為、擬似的に月に降り立った事にするらしい。
そのために利用するのが、水面に映る月、つまりは水月であるらしかった。

「隙間で直接行けば簡単なんだけどね。向こうの状況が分からない以上うかつな行動は出来ないから。」
「でも水月は所詮ただの像でしょう。どうやって月の様子を知るつもりなの?」
「私の力で空の月と水面の月をシンクロさせるわ。貴方は月面に降りる感覚で海にもぐって欲しいのよ。
 後の事は私に任せて頂戴、上手く誘導するから」
「ふーん・・・・・・それで、これは何?」

金細工の装飾が施された宝石がチェーンで繋がれている。

「通信機みたいな物よ。それに身に着けておけば私の力も少し貸し与える事ができるわ」
「なるほど」
「それじゃあ、がんばってね」

霊夢はもらったネックレスを首にかけ、水遁の術を発動させて顔に空気の塊を纏って潜って行った。
水中は透明度が高く、さらに太陽の光が届く為、海底に伸びるマングローブの巨大な根がはっきり見える。
すぐに海底が見えてきた・・・・・・が、紫が術を発動させたのだろう。周りの景色の見え方が空ろな物に変わってきた。
世界から光が急速に失われていくと、やがて傍らの巨大な根も見えなくなり、霊夢にはボンヤリと光る海底だけが視認出来た。

『ザ、ザザ、れ・・・・・・いむ・・・・・・聞こえる?霊夢?』
「聞こえる。もうすぐ底に着くわ」
『それじゃあ降りる前に良く目を凝らして見て、地面に何か見えない?』

霊夢は暗闇の中、微かな光を放つ海底を見つめる。
しかし、見えるのは海底の砂ばかりだった。

「見えないわ。何も」
『良く見て、光る物が見えるはずよ』

暫く海底のすぐ上で目を凝らしていると、確かに光る物がある。

「あったわ。何かしら?」
『それは宇宙船の破片よ』
「宇宙船?」
『そ、貴方が月に乗って行った船があったでしょう。空中分解したときに飛び散ったんでしょうね』

何故それが幻想郷にあるのか?とは、霊夢は考えなかった。
夢うつつの頭ならこのような事もあろうが、彼女はまどろんでいる訳ではないし、常人に劣る思考回路でもない。
ただ、目の前に実際に宇宙船の欠片が存在するし、
自身の目より常識を信じるべきだと彼女の人生が教えなかったのは、そう結論付けた要因の一つかもしれない。

『それじゃあその欠片に意識を集中して頂戴』
「分かったわ、でも何か変な感覚ね。意識と感覚が分離していってる気がする」
『感覚が意識に与える影響が少なくなっているのよ、余計な事は考えずに集中して』
「はいはい」

霊夢は海水の冷たさが和らいでいくのを感じ、やがて世界が光を取り戻していくと、
視界に広がる世界が海中から空気中に変わっている事に気付いた。
彼女が地に足を着ける頃には、先ほどまで感じていた水圧も忘れていた。

『着いたわね・・・・・・』
「まさか、月?」
『ええ、見覚えのある海岸ではなくて?』

霊夢が立っているのは、かつてレミリア達と降り立った月の浜辺だった。
海岸線の形に見覚えがあるし、桃の木が群生しているのも記憶と一致した。

「あれ?」
『如何したの?』
「人影が・・・・・・」




















低空飛行で魔法の森に向かう人影がある。十六夜咲夜がメイド服をはためかせて飛んでいる様だ。
紅魔館を出てから既に半時ほどの時間が過ぎているが、未だに変化の無い海上が続いている。
咲夜は最近、海上の飛行が優雅だと言う事に気付き、仕事が一段落した時などはしばしば空中散歩を楽しんでいる為、
この飛行自体は楽しんでいるのだが、レミリアにすぐ戻ると約束した手前、少々あせりを覚えていた。
魔法の森があった場所は、現在はマングローブの群生地となっていて、中心に近づくにつれて木々の間隔が狭くなっていく。

「ああ、見えてきた。何時見ても不思議な森ね・・・・・・素晴らしいわ」

海上にさんご礁のように出現した巨大な生態系。それが今の魔法の森である。
咲夜が森に入ると互いに絡み合う木の根や生い茂る葉で極端に視界が悪くなった為、妖精や妖怪の襲撃に気をつけねばならなくなった。
危険な森であるのは以前と同じだが、咲夜は現在のこの森を気に入っている。
妖精になる直前の蛍のような森の魔力が灯火となって、生い茂る葉で薄暗い森の中を幻想的に照らしていた。
他にも光る茸や、青白く発行する菌類が幹から生えている。
それが奥地に行くにしたがって大量に繁殖している為、余りの葉の量に全く太陽光が届かなくなっても、
祭りの夜、屋台からもれる色とりどりのライトに心躍らせる様に、魔術的な力が自身に沸いてくる気がして、心細くなったりしない。
咲夜が白夜の中で体内時計が不調をきたすように、急激な世界の変化に軽いめまいを覚え始めたころ、
森の中心付近である筈なのに強い光が降り注いでいる海上に出た。
普通の森なら切り開かれた場所と判断しただろうが、巨大なマングローブを根から何から運び去るのは正気の沙汰ではない。
まるでここだけはもともと木が生えないのが決まっているかのように、大きく森が抉れていた。

「これはこれは、珍しいお客が来たもんだ」

突然背後から声をかけられて、自分があきれるほど無防備な事に驚いた。

「・・・・・・魔理沙、驚かさないでよ」
「悪い悪い。ただな、これ以上進んでもらう訳には行かないから」
「如何してよ?」
「アリスに会いに着たんだろ?・・・・・・まあ、私よりも役に立ちそうだもんな」
「卑屈ね。貴方らしくもない」
「・・・・・・アリスは自宅で月から飛んでくる電波ってのを検出する機械と睨めっこしてるみたいなんだ。」
「電波?」
「何も無いところを波のように伝わるエネルギーだそうだ。詳しい事は河童が知ってるみたいだけど・・・・・・
 どうやらその電波ってのは魔術や妖術とかに干渉されやすいみたいでさ、極力部外者を近づけたくないんだと。
 で、だ。アリスに頼まれて番犬代わりのバイトをしてるんだぜ。分かったら大人しく帰ってもらいたいな」

咲夜は紅魔館の冷却用の魔方陣を動かしてもらいだけだから別に魔理沙でも構わなかったのだが、
アリスの行っている電波の検出とやらには興味がわいた。

「面白そうな事してるじゃない。今回の世界の変貌と何か関係があるのかしら?」
「私も詳しくは分からない。まあ、アリスも電波による信号は暗号化されてるから重要な情報は得られないだろうって言ってたけどさ、
 でも月が大変な事になってるのは確からしい」
「大変な事って?」
「戦争だぜ」




















『気をつけて・・・・・・向こうは貴方の姿が見えない筈だけど、月の科学力は計り知れないものがあるからね』

霊夢は桃の木の影に隠れて、海岸沿いをこちらに歩いてくる人物に視線を向けていた。

「気付かれたらどうなるの?」
『今の貴方は肉体を持たない精神だけの存在よ。物理的な攻撃には強くても精神攻撃にはその分脆くなっている。
 狂気を操る玉兎と戦った事があるでしょう?あれなんかが天敵じゃないかしら」

肉体が無と言う割には地面の感触があるし木にも触れる。
変だと思ったが、よくよく観察してみれば、先ほどまでいた砂浜に自身の足跡が付いていなかった。

『月の様子はどう?』
「別に前来た時と変わりは無いわね。ただ・・・・・・」
『何?』
「精神体だからかしら?身体が軽く感じるわ。重力が小さい気がする」
『ふむ・・・・・・例の人物は?』
「ああ、大分近づいてきたわ。そろそろ顔が見えそう。散歩かしら?時たましゃがんで砂をいじってる・・・・・・待って、もしかすると」

歩いてきたのはロングスカートの女だ。
女は霊夢がいる林から十メートルくらいの所で止まると、しゃがんで貝殻の欠片と砂を掴んで試験管の様な筒に入れ、
そして片方の手でポケットから取り出した瓶を空けて、試験管の中に薬品を注いぐと、クルクルと振って砂と液を混ぜ合わせた。
暫くして液体が淡いピンク色に代わると、落胆したように女は去って行った。

『どうだった?』
「見覚えがある顔だったわ。確か綿月豊姫とか言ったわね」
『あらまあ、それはまた好都合だこと』
「後をつけるわ・・・・・・でも、これも貴方の仕業でしょう?月の使者のリーダーとこうも簡単に会えるはず無いもの」
『まさか。私は貴方の意識を月の宇宙船の欠片に集中させて精神を飛ばしただけよ』
「ところで・・・・・・精神だけの存在って事は私の身体は?」
『私の横にあるわ。隙間で拾って置いてあげたわよ。相変わらず可愛い寝顔をして』
「もし私の身体に触れたら殺す」
『・・・・・・はは、何もしないわよ。あーあ、私、信用されてないのね。一寸見とれてただけじゃない』

もしやこの為に着替えさせたのか?との考えは一先ず忘れる事にした。任務に支障が出そうだ。

「それじゃあ追うわよ」
『十分気をつけてね。尾行に夢中になって自分が見つかっちゃあ元も子もないから』
「了解」

豊姫は海岸を離れて桃の林に入る。霊夢は距離をとり、ぎりぎり見失わない間隔で後をつけて行った。
















そろそろ正午を回った頃だろうか・・・・・・太陽は相変わらずの熱線を地上に投げかけ、海上から立ち上る水蒸気が大気をゆがめる。
蜃気楼を背にして対峙している二人の少女は話し合いに折り合いが付かないだろう事を早々に察して、弾幕勝負に決定権をゆだねる事にした。

「それじゃあ始めるか?咲夜がアリスの家に向かって飛んで、私がそれを止める。
 ゴールは家に施してある結界まで、それ以上中に入ったら本末転倒だしな」
「いいわよ。魔力を使わなければ電波をゆがめることも無いんでしょう?アリスと話したいわ。
 屋敷の魔方陣もそうだけど、今回の異変について私よりは見識が深そうだから」

趣向を変えてレース方式にしたらしい。
別に咲夜をアリスの家に招く位いいと思ったが、魔理沙も暇を持て余していたらしく余興代わりの決闘をすることにしたのだ。
森が開けて上空から海面が見える部分は縦長の楕円形をしている。そこから外れない様にゴールを目指す。
二人がいる位置は楕円の細くなっている部分の端っこ。アリスの家はもう一方の端っこだ。
弾幕は勿論あり。どちらかが負けを認めるか、先頭不能になったら終了。勿論咲夜がゴールしても勝負ありだ。

「ま、お話は勝負の後だ・・・・・・それじゃあ始めるぜー」

間の抜けた声を上げる魔理沙だが彼女なりのリラックス方なのかもしれない。
どちらからでもなく飛び立った二人だったがすぐに魔理沙が一歩リードした。

「距離を開けないとな。お前の能力は怖いしさ」
「その程度の距離、時間を止めて近づける範囲内よ」

発動時間制限などの弱点も多いが咲夜の能力は強力だ。
近距離戦では距離を詰められて不意打ちを受けたらアウト。人間の魔理沙に凌ぎきる事は出来ないだろう。
だから自慢のスピードでいっきに距離をとる。

「どの程度がその程度だ!?」

咲夜が能力を発動させる間も無く、いっきにスピードを上げて引き離す。
十分に距離をとると箒を回転させターンを決め、向かってくる咲夜にありったけの弾幕を張った。
咲夜は思わずスピードを下げて回避に専念する。
弾幕が海面に衝突して凄まじい水しぶきを上げる。咲夜は高度を落とし、水しぶきを煙幕の代わりにして身を隠した。

「わっ!」

飛沫の向こうから飛んできたナイフに魔理沙は思わず仰け反った。一本かわすとまた一本といった感じで、回避した先に正確に飛んでくる。
五本目を回避しようとした時、目前でナイフが消えた。ナイフは空間を飛躍して魔理沙の背後に現れていた。
だが、予想していたかの様に難なく横移動でかわすと、ナイフが飛んできた辺りに弾幕を張る。
その瞬間に咲夜はコースの端の辺りから姿を現した。ナイフを投げた直後に時間を止めて水しぶきの中を移動していたのだ。

「お先に」

咲夜の能力は身の隠せる場所が全く無いと使いづらい。だから今は、ルールの有利を有効活用する。
ゴールしてしまえば彼女の勝ちなのだ。

逃げる咲夜は時たま時間を停止して距離を稼ごうとしている様だが、やはりスピードの差は埋めがたく、すぐに魔理沙が距離を詰めてきた。
魔理沙はミニ八卦路をいくつか浮かべ、いっせいに魔法弾を放った。
咲夜は回避は無理と判断して時間を止めて一瞬かく乱する。
その隙に、コースの中心に一本だけ生えている一際巨大なマングローブの呼吸根に身を隠した。
それは凄まじい大きさの木だった。世界樹があるとしたらこんな木かもしれない。見上げれば雲の上まで続いていそうではないか。
この木が海底から栄養を吸い上げて、吸い上げつくして他の木を枯らし、一本だけポツンとそびえ立っているのだろう。

「こそこそと隠れるなんて卑怯だぜ!」
「如何したのかしら、怖くて近づけないの?」
「ち、違うわよ!暑いからさっさと終わらせたいんだぜ」
「ならここに降りて来なさい。たっぷり可愛がってあげるから」
「む、むむむ」

魔理沙は罵りあいになるとすぐに感情的になる。咲夜はそんなところをいつか利用してやろうと何時も思っていた。
予想どうり顔を赤くした魔理沙が木の根に向かって当てずっぽうに弾幕を撃ってきた。
木の根の破片が飛び散って水面ギリギリのところに浮いている咲夜に降りかかる。手で髪についた木屑を払った。

「頃合かしら」

魔理沙に向かってナイフを一本投げて一瞬姿を見せる。

「そこか!」

頭に血が上っている魔理沙は急降下して木の根の間に滑り込んだ。
接近を避ける為に弾幕を放ちながら追跡しようとした様だが、咲夜は巧みに時間を操って位置を誤認させ、魔理沙の背後に回りこんでいた。

「終わりよ・・・・・・」

背中に向かってナイフを投げる。一応切れないタイプを用意しているので躊躇は無かった。
が、予想以上に魔理沙は冷静だったようだ。気配を察して寸でのところでナイフをかわすと、急上昇して上空から青色のメイド服を捕捉した。

「くらえっ!マスタースパークだ!!」

スペルカードを宣言して八卦路を発動。極大のレーザーが根を焼ききり、陰に隠れている咲夜に迫る。

ドオオオォォン!!

レーザーが着弾し、爆音と共に大量の海水が宙に舞い上がった。
パラパラと舞う木の破片を見て勝利を確信する魔理沙は、次に咲夜の安否を心配した。

「うーん、やばい。死んじゃったかな?」
「惜しかったわね、こっちよ」

上空から煙の上がる海面を見つめる魔理沙だったが、予想に反して無事を知らせる咲夜の声は上から聞こえてきた。
驚いて頭上を見上げた魔理沙の首元にナイフが当てられる。

「っく、時間操作か!?」
「降参する?」
「ああ、参った・・・・・・ぜ」

ナイフを降ろすと、魔理沙は大きく息を吐いて安堵した。

「ちぇ、途中までは余裕だと思ってたんだけどな・・・・・・やっぱり接近戦に持ち込んだのが我ながら愚かだったぜ」
「そうね、貴方って単純だから。真剣勝負で感情に任せて行動するのはいただけないわ」
「五月蝿い。それが私の持ち味なんだ」

むくれる魔理沙を見て安心する。どうやら落ち込んではいないようだ。

「なんだ、元気そうね。てっきり自信喪失してるのかと思ってた」
「まあ、種族が魔法使いのアリスと自分は違うって思う事はあるぜ。私は人間だから魔力が少ないから無理な事が多いし、才能も無いしさ」
「・・・・・・」
「まあ人生長いし、一寸落ち込む事もあるさ」
「そうね。貴方に才能が無いとは思わないけど」
「ははは、そう言ってもらえると嬉しいぜ」

照れくさくなったのか魔理沙は箒に跨ってアリスの家に向かって飛んでいった。
咲夜は少し遅れて飛びながら、勝利の美酒に酔っていた。

















海面から出ている部分のマングローブの根には水平に伸びている箇所も多く、妖怪や妖精が休息するのに丁度いいスペースを提供していた。
今、一つの根の上に二人の少女が寄り添っている。一人が腰を下ろして、仰向けに寝ている少女の頭を膝に乗せている。いわゆる膝枕である。

『紫、聞こえる?』
「ええ、聞こえていてよ」

濡れた髪を撫でながら、自分の膝の上で寝ている少女と会話する。なかなか珍しい体験だろう。
月に侵入している霊夢は今、桃の林で豊姫の後をつけている筈だ。

「如何したの、何か問題でも?」
『ううん、一寸心細くてさ。何か喋ってよ」

嬉しい事を言ってくれるじゃないと、内心ほくそ笑みながら霊夢の顔を見つめる。

「そうねぇ・・・・・・霊夢、空に見える月が大きくなるにつれて、変化していったものって何だか分かる?」
『何もかもでしょう。自然も、妖怪も、妖精も、人間も。でも、強いてあげるなら妖精かしら?』
「何故?」
『妖怪や人間は自然が変わるのに合わせて変化していったと思うの。いわば適応ね。でも妖精は・・・・・・』
「うんうん」
『妖精は・・・・・・本質そのものは変わっていないかもしれない。でも凄く・・・・・・なんて言ったらいいのかしら。
 力が強くなっているのは確かなんだけど、それ以上に精神的な変化が大きいのかな』
「・・・・・・月の接近によって月の魔力が地球に与える影響は飛躍的に上昇したわ。まず自然が、そして妖精に変化が訪れた。
 妖精は自然の化身だから両者の変化が同時に起こるのは当然ね。そして月の魔力は殆どの物にとって有害」
『はっきり言って今の妖精たちは狂っているわ』
「妖精は基本的に幼い。言いたくないでしょうけど子供は残酷なのものよ。無垢と言うのは嘘。心は大人以上に醜いわ」
『そうなのかな?私には単純なだけに見えるけど』
「私から見れば貴方も十分子供だけどね」
『それって私が単純って事?』
「さあ?」

紫は霊夢の唇やほっぺを指でつつきながら上の空の会話を続ける。
時々霊夢から、私の身体に変な事してないでしょうね?とか疑いを向けられるが、紫はその度にドギマギしていた。

















「アリスー、入れてくれー!」

魔理沙は咲夜と共にアリスの家の周囲に張り巡らされている結界の前で立ち往生していた。
もともと魔理沙の家はアリスの家の近くにあった為、アリスが家と結界に閉じこもった後に入用があるときは自宅を利用していたのだ。
アリス邸は海面から少しだけ出ている小島の真ん中に立っていた。以前と変わらない佇まいだが魔術で移動させたのだろうか?
結界は妖精除けの簡易のものだから破るのは難しくないが、苦労して張ったものを壊すのは気が引けた。

「聞こえないのかな?」
「電波とやらを検出するのに夢中なんじゃない?」
「ああ、かもな。それか寝てるのか、風呂か、トイレか・・・・・・。」
「まあ暫く待ちましょう。あまり大声を上げて変なのが集まってきても困るわ」
「妖精の事か?」
「ええ、紅魔館でも妖精メイド達がやさぐれてしまってね。個体差はあるけど、使える子は激減したわ」

魔理沙も妖精の凶暴化には手を焼いているので二人はそろって肩を落とす。

「これも月の影響なのかな?」
「さあ、本当に、あらゆることが変わってしまったからね。何が原因で何が結果なのか・・・・・・。
 多くの妖怪は幻想郷を見限ってしまったわ。どうやら外の世界では月の接近は確認されていないみたいね」
「沈む船から逃げるネズミのごとくだな」
「沈むと決まったわけじゃないでしょ。霊夢と紫が動いてるし、きっと解決するわ」

そうして二人が話している最中に、結界に歪みが生じたかと思ったら、次の瞬間にはあっけなく消滅した。
家の方でもガチャリと言う音がした。鍵が開いたのだろう。
二人が家のドアを空けてアリスに呼びかけると、奥から上がっていいわよと返事が返ってきた。




















今更だが霊夢は水着姿だ。精神体とは言え体性感覚は働いている為、少々身体が冷えてきた。

「あー、紫・・・・・・」
『何、お手洗い?』
「な、何で分かるのよ!?」
『えっと・・・・・・こっちの貴方の下半身がもぞもぞと動いてるからかしら』

なんと、肉体の方の自分も催しているようだ。

『それなら早く肉体に戻して、することしたいから』
「豊姫の尾行は?」
『無理だって!もう結構ヤバイんだから』
「残念ですがその願いは聞き入れられません」
『はあ?』
「今発動させているのは特殊な術でね、精神体を肉体に戻すのには多くの手順が必要なのよ」
『じゃあ早くしてよ』
「いいけど、一時間位かかるわよ」
『ふざけんなー!!』

状況の悪さを認識した霊夢が大声を上げる。

『ちょ、一寸落ち着きなさい。見つかったら如何するの?一応貴方の声は聞こえない筈だけど』
「戻しなさい、戻しなさいよ!」
『霊夢、覚悟を決めなさい。幸運にも私が貴方の傍にいるのよ。大丈夫。霊夢が失敗しても私が後の始末は完璧にこなして上げるから』
「・・・・・・ゆ、紫、本当に方法は無いの?」

霊夢は余りの怒りに逆に冷静さを取り戻したようだった。紫の最後の良心に訴えかけるように話しかける。
だが紫は霊夢の願いなど露知らず着々と準備を進めていた。

「霊夢、貴方に残された道は二つよ。漏らすか、それとも私を信じて全てを託すか。
 前者を選べば貴方は散々苦渋を味わった挙句人間としての尊厳を失う事になる。
 後者なら、ほんの少しの常識と引き換えに、開放の喜びを享受し、人間的な成長を果たす事ができるわ」
『頼むから、意味分かんない事言わないでよ・・・・・・』
「分かったわ、事実だけを正確に話すわね。さっきまで私は貴方に膝枕をして人形のようにきれいな顔を触っていたの。
 そして今しがた貴方の尿意を解消する為に、名残惜しそうに可愛らしい頭をそっと根の上におろしたわ。
 今私は貴方の下半身の方に回り水着に手をかけている。そして丁度今、震える指先でそっと水着を下ろしているわ」
『えっ、な、何これ?勝手に水着が下がって・・・・・・!?』
「更に私は貴方がおしっこしやすいように背中に回り、貴方の上半身を起こして両膝の裏に手を入れました。
 私は妖怪だから、一寸大きな女の子もこうして持ち上げる事ができる」

紫は霊夢を持ち上げてお母さんが赤ちゃんにおしっこをさせるポーズをとらせると、
そのまま根の端まで歩いていき眠っている霊夢の耳元に話しかけた。

「出しなさいな、貴方が出せばこっちの霊夢も出すはずよ」
『な、何?なんなのよぅ』
「さ、霊夢ー、おしっこシーシーしましょうねー?」
『えっ?ひゃああああぁ』

紫は霊夢を抱えたままの姿勢で股の間に手を伸ばして秘所の付近を弄りだした。
月にいる霊夢は突然股間を触れられた気がして身体を抱くように崩れ落ちる。
その時自分が上げた声が余りにも無防備だった為、赤面して林を見回し誰もいない事をたしかめた。

「うゎああ・・・・・・身体が、変なの。うっ、おしっこするところが、熱くて・・・・・・我慢できないよぅ」
『我慢は身体に良くないわ。いいわ、もっともっと気持ち良くして貴方が出せるように手伝ってあげる』
「えぁ?う、上の水着まで外れて・・・・・・!?」

霊夢の膨らみ始めた胸を覆っていた水着が取り払われると、身体から離れた瞬間に消え去った。
野外で全裸と言う状況は彼女を慌てさせるのに十分で、しかも性器が信じられないほど疼いて霊夢は頭が真っ白になる。

「も、だめぇ・・・・・・なんだか、くる、しい。あそこが、あついぃ・・・・・・!」
『うふふふ、霊夢のおっぱい。張りがあって、指で押すたびにプリンみたいに跳ね返ってくる!・・・・・・綺麗よ、うふ、霊夢。
 うふふふ・・・・・・ふふ、霊夢の肌、赤ちゃんみたい。スベスベで可愛い♪』
「うわあああぁぁ・・・・・・あっ!」

霊夢は跪いたまま失禁してしまった。グスグスと泣きながら小便を垂れ流す。
この時、木の影から自身の痴態を見られている事に霊夢は気づいていなかった。

「ああ・・・・・!とうとう出せたのね。うふふ、うふふふふ・・・・・・。」


霊夢の小便が弧を描いて海面に落ちていくさまを満面の笑みで見つめる紫。
彼女が霊夢の身をに迫る危機に気付いてさえいれば、この後、二人の仲が修復不可能なまで崩れ去る事はなかっただろうに。












アリスの家は二階建てのこじんまりとした洋館だ。
二人は館の主を探して居間に入ったが、テーブルの上の空っぽのティーカップと、
難しい文字列が並んでいる大量の羊皮紙が床に散乱しているのを見つけただけだった。

「いないわね、二階かしら?」
「アリスー、どこだー?」
「こっちよ、上がってきて」

魔理沙がほうきを担いで先に階段を登っていく。咲夜はアリスの家を訪れるのは初めてだったため、
魔理沙程勝手が分からないらしく、きょろきょろと魔法使いの家を見回していた。

「魔理沙に咲夜、こんにちわ。咲夜は久しぶりよね」
「ええ、雰囲気があっていい家ね。いかにも魔法使いの家といった感じがする」

アリスは二階の研究室にいた。造りかけの人形が棚の上に山のように積んである。
目を引いたのは机の上の黒い箱の様な機械と、周りに散らばっているメモ用紙だった。
それから窓が開いていて、空に望遠鏡を向けていたのも印象深い。

「パチュリーの部屋と比べたらまだまだ人間だった頃の名残が多いけどね」
「悪いな、急に押しかけちゃって。作業中じゃなかったか?」
「いいえ、丁度終わったところよ。面白い事が分かったから魔理沙を呼びに行こうと思ってたの」
「へえ、それは興味深いぜ」

アリスは二脚の椅子を部屋の隅から持ってきて、二人を並んで座らせると、散乱しているメモ用紙を集めて手早く順番を入れ替える。
魔理沙達と向かい合うように座って、持っていた用紙から何枚か選んで二人に渡した。

「うん?これは電波とやらを検出した結果か何かか?」
「ええ、暗号化されていたのが大部分だったけど、少しなら解読できたわ。今じゃ月も大混乱みたいでね。
 機密情報の多くが驚くほど無防備な状態で飛び交っているのよ」
「アリス、さっき魔理沙に聞いたんだけど、月で戦争が起こっているって本当なの?」
「確かよ。ほら、貴方が持っている用紙の一番上に書いてあるでしょう。それは電波の内容を言語化したものよ。
 電波を使えば様々な情報を遠く離れた相手に送る事ができるの。視覚情報や聴覚情報なんかをね。
 紙に書いてあるのは机の上の黒い機械で検出した電波の内容、主に聞こえてきた音声なんかを記した物よ」

咲夜は紙面に目を落としてアリスの丸っこい文字を読み上げた。

「我々月面軍は、月の解放戦線と名乗る武装集団を掃討するに十分な戦力を有している。既にアジトのいくつかは空襲により破壊したし、
 兵器の質、兵士の数、地的有利、情報の量、あらゆる点でこちらが勝っている。
 唯一心配なのは、テロリスト共があの兵器を本当に保有しているかどうかだ。
 我軍でさえ研究段階の超機密の代物だから、テロリストが開発に成功しているとは到底思えないが、真偽の程が分かるまでは安心できまい」

咲夜は信じられないといった様子でアリスを見つめる。

「月は穢れの無い世界だと思っていたわ。戦争があったとしても遥か昔のことだと」
「そうか?私は好戦的で野蛮な連中だと思ったぞ。月で会ったのは軍人ばかりだったし」
「私は月に行った事は無いけど、永遠亭が展示していた月の兵器は見たことがあるわよ。敵を殺すことに特化した物ばかりだった気がする。
 平和を愛する者ばかりとは思えないわ」

言われて咲夜は、月都万象展に出展されていた月の近代兵器の事を思い出す。彼女には使い方の分からない物ばかりだったが、
展示品の台を見上げていると横で河童達が目を輝かせて用途について話し出したので、兵隊が使う重装備だと言う事が分かった。
チューブで繋がれているガトリングガンのような物、アームの部分に大口径の銃器を取り付けたパワードスーツ、
殺傷能力を持った小型の自立兵器などなど。
あれらが実際に使用されているとすると、幻想郷のお遊びの弾幕ごっことは比べ物にならない数の死傷者が出ているのは想像に難しくない。

「・・・・・・うーん、でも書かれている内容を見る限り戦争と言うよりクーデターみたいな感じだぜ。
 私が月で会った依姫は月面軍の側だろ?すぐに沈静化されるんじゃないか?」
「その用紙の下に書いてある数字を見てみて」
「1/18・・・・・・?これ、日にちか?」
「ええ、今日は八月八日。その電波を受信した時から半年以上たっているわ」
「それなのにまだ争いが続いているのか」
「そうだと言えばそうだし、違うと言えば違う」
「アリス、月面は今どうなってるの?月は何故地球に接近しているのかしら?」
「月が地球に?確かに空に映る月は巨大化しているけれど、接近によるものかは分からないわよ」
「どういう意味だ?」

魔理沙と咲夜はアリスの遠回りな言い回しに辟易してきた。

「分かるように言ってくれ」
「つまり月は接近しているのではなくて、巨大化している可能性があるって事」
「あん・・・・・・何だって?」

魔理沙が自分の耳かアリスの正気かどちらを疑うべきか思い悩んでいると、咲夜が頭痛もちの頭を押さえながらアリスに真意を質した。

「つまり貴方が言いたいのは、月が巨大化して大きく見えてるって事?」
「そう言ったわ。分かってもらえた?」
「うーん、貴方の妄想じゃないわよね?」
「ええ、初期と比べると検出器の精度はだいぶ上がってね。暗号化された電波を自動的に解読して音声化してくれるところまで来たわ。
 パターン認識の魔法を試してみたのが正解だったの。装置の裏に自前の魔方陣が描いてあるわ」

自慢げに黒い装置を持ち上げて二人に渡す。スピーカーとアンテナが付いた黒塗りの箱の様な代物だ。
裏返してみると五芒星を基調にした魔方陣が描いてある。

「その魔法陣ってのはアリスの妄想を代弁する代物じゃないのか?」
「そんな訳無いでしょ。貴方の自己流の魔法とは違うのよ、お馬鹿さん」
「何だと・・・・・・!?」

咲夜はため息をつき、言い争いを始めた二人の横でメモ用紙を捲って、月の現状が書いてある箇所を探す。
二、三枚目で八月六日と書かれた用紙を見つけた。つまり二日前のものだ。

・・・・・・・・・・・・


まさか敵がこれほど愚かとは想像しなかった。制御もできない物を使用して月と心中するつもりだ。
最初は脅しのつもりだったのだろうが、これ以上月の魔力の放出が増大すれば、いよいよ取り返しが付かなくなる。
つい今しがた入手した情報によれば完成前のプロトタイプを現場の技術者が勝手に動かしたらしい。愚かとしか言いようが無い。
戦線は依然膠着状態が続いているが、両者とも戦う意思は無いだろう。
革命軍にしても一部の人間の暴走に唖然としているのは我々と変わらないのだから。


・・・・・・・・・・・・

「アリス、一寸いいかしら?」
「何?」

咲夜はふくれっ面の魔理沙は放っておいてメモの内容についてアリスに聞いてみる事にした。

「月で革命軍が何かを起動させたと書いてあるのだけど、如何いった物か分からない?」
「ああ、それは重要なところに気が付いたわね。月の巨大化はその装置の起動によって起こったのよ。幻想郷の異変の元凶って訳ね。」
「そうなの?」
「ええ、さっき月が巨大化してるって言ったけど語弊があったかもだわ。私が言いたいのは天蓋に映る月が巨大化しているって意味よ。
 私はこの現象を引き起こした装置に『月自爆装置』と名づけたわ」
「ははは、凄いネーミングセンスだな」
「魔理沙は黙ってて。この装置はね、月が放出する魔力を少しずつ増大させる物なの。
 どうやら革命軍は抑止力として月自爆装置を密かに研究していたようね。もともとの理論は月面軍の科学者が思いついたみたいだから・・・・・・
 まあ、水面下で軍拡競争があったんでしょう。使用すれば月は魔力を放出しつくして最後は爆発するみたいね」
「なんだそりゃ、結局全員共倒れじゃないか?そんなもん使うわけ無いだろ」 
「だからこそ意味があるのよ。両者とも相手が使用しない事を前提の上で開発してたのね。
 同時にもし攻撃を受けたら起動するぞと言っておけば、絶対に戦争が起こらないと考えたんでしょう」
「でも起動してしまった。末端が独断で使用出来る代物にしては危険すぎるわ。」
「完成する前に月面軍と革命軍の間に戦争が起こったせいよ。
 本当なら軍の最高司令部の命令が無ければ使用できない仕掛けを組み込む筈だったのが、
 空爆で指令系統がズタズタに引き裂かれてしまって、儘ならなかったんでしょうね」

アリスの報告に賞賛と同意の意味を込めて咲夜は頷く。それから最後の質問をぶつけた。

「でも、どうして空の月は巨大化したの?・・・・・・天蓋の月は月そのものじゃ無かったっけ?」
「月は水面や、網膜や、天蓋に映るけれど、どれも本物ではない、本当はもっと恐れ多い物。
 凄まじい魔力を纏って、全ての物に影響を与えているわ。」
「巨大化したのは何に映る月なんだ?魔力が強くなると見え方が違ってくるのか・・・・・・」
「最初の質問の答えは全て。二番目の質問の答えはイエスよ」
「さすがね・・・・・・魔女が賢者と呼ばれるのも納得だわ」
「まー、全部アリスが言ってるだけだけどな。大体月からの情報がそんなに簡単に手に入るか?月のSFドラマかなんかを受信したんじゃないの?」
「ふん・・・・・・ま、貴方の言う事も一理あるわ。実際に行ってみないと証明は出来ないかもね」
「そうだぜ、私は自分の目で見たものしか信じないんだ。ま、お話としては面白かったけどな」

咲夜はアリスの話に疑問を持たなかったので、感情的になった魔理沙がいちゃもんをつけている様にしか見えなかった。

「魔理沙、失礼じゃない。せっかくアリスが苦労して手に入れた情報を教えてくれたのに」
「良いのよ。話したのはいろいろな意見が聞きたかったからだし、私もきつい言葉を使ってしまったわ。ごめんなさい、魔理沙。
 あなた達が真剣に話を聞いてくれて嬉しかった」
「ま、まあ、確かに私も大人気なかったかもだぜ」

場の雰囲気が急にしおらしくなった事で、居心地の悪さを感じた咲夜は、同時にアリスの態度の変化に胡散臭さを覚えていた。
魔理沙は帽子を何度も被りなおし、アリスは机の上の空のティーカップの縁を思案顔でなぞっている。
やがて、さも今思いついたかの様にアリスが切り出した。

「そうだわ・・・・・・ねえ、あなた達。月に行ってみる気は無い?」
















綿月豊姫は桃の木の影で霊夢のよがっている姿を覗いていた。
何者かが後をつけているのは気付いていたが、叫び声に驚いて様子を見に戻り、予想外の人物に驚愕したのがつい先ほど。

「ど、どう言う状況かしら・・・・・・何故全裸?そして誰と喋っているの?」

跪いていた霊夢だったが、やがて身体が汚れるのも気にせずにうつ伏せに倒れこんだ。
股の間に手を当てて、荒い息ずかいで、時たま切なげに声を出している。

「うわぁ、紫ぃ・・・・・・!いい加減に、っ!ひゃう!?やぁ、お尻が、ムズムズするよぅ・・・・・・」
『気持ち良いでしょう?貴方のお尻の穴に指を突っ込んでるからね。うふふ、霊夢がイクまで止めてあげないわよぅ』

豊姫は二人の会話からおおよその経緯を推察し、危険は無いと判断して彼女の前に進み出た。
暫くすると豊姫に気付いた霊夢が素っ頓狂な声を上げて、紫の名前を何度も呼ぶ。

「ゆ、紫、紫ぃ!!馬鹿ぁ、見つかっちゃったじゃないの?!何が、姿が見えないよ!嘘つき、変態、人でなしのクソババァ!!!」
『うふふ、霊夢、霊夢・・・・・・うふふふ・・・・・・』

豊姫は泣き叫ぶ霊夢を落ち着かせようと二言三言話しかけてみたが、無駄だと判断し、両肩を掴んで霊夢を立ち上がらせる。
顔を近づけて凄みを利かせた笑顔で話しかけると、「うぁ」とか「あぅ」とか呟いて大人しくなった。

「これが、通信機ね」

豊姫が霊夢の首からネックレスを取り外してポケットに入れた。

「捕って喰ったりしないからそんな顔しない。大丈夫?もう身体に異常は感じない筈だけど」

言われて霊夢は先ほどから感じていた撫で回される様な感覚が消滅している事に気付く。

「ど、どうして・・・・・・?」
「あの妖怪の趣味の悪さには本当に困りものよね。人を危険な場所に送り込んでおいて、身を案じるどころか危険に晒すような真似をする。
 霊夢、貴方が望むなら幻想郷から連れ出してあげてもいいわよ」

霊夢は豊姫の言葉から危害を加えられる訳ではない事を理解する。落ち着きを取り戻して大きく息を吐くと、豊姫が肩から手を離した。
すぐに自分が裸だと言う事を思い出し、慌てて手で隠そうとする。

「あ、あの、何か着る物を・・・・・・」
「分かった。ちょっと待ってて」

豊姫はポケットから大豆位の大きさの黒い装置を取り出し、口に近づけて小声でぼそぼそと呟いた。

「すぐに私の部下が衣類を持ってくるわ。貴方はその辺の木の影にでも隠れていなさい」

慌てて霊夢は木陰に走って行った。













「月に行くだと?」

魔理沙はアリスの真意を探るべくまじまじと顔を見つめる。

「そんな目で見ないでよ。勿論強制じゃないわ。貴方が月に行きたがっていたみたいだから尋ねただけよ」
「そんな事が可能なの?」

咲夜が顔に表れている疑わしさを隠さずに尋ねた。

「技術的にはね。不足していたのは人手だった。もしあなた達が協力してくれるんなら月に行かせてあげる事ができる。
 ただ返事は出来るだけ早く聞きたいわ。結論は今日中に出してね」

それだけ言うとアリスは二人からメモ用紙に目を移し、なにやら思案顔で書き込み始めた。
魔理沙と咲夜は顔を見合わせてお互いの気持ちを探りあう。やがて互いに同意見であると確信した。

「アリス、私は行けるんなら月に行ってみたいぜ。幻想郷をこんなにした月人に一言文句言ってやりたいしさ」
「私もよ。ここの現状を話せば何かアドバイスが貰えるかもしれないし、お嬢様の為にも一刻も早く元の幻想郷に戻したいから」

アリスは返事を聞くとにやりと笑ってペンとメモ用紙を置き、立ち上がって二人横を通り過ぎてドアに向かった。

「部屋を変えましょう。二人に良い物を見せてあげるわ」

















豊姫が部下に連絡を入れて数分も立たないうちに、玉兎が一人が紙袋を下げて飛んで来た。

「豊姫さま、言いつけ通り女性物の服一式を持って参りました」
「ご苦労様、早かったわね」
「私が選んだ物ですから、豊姫様の好みと違うかもしれませんけど」
「良い感じじゃない、貴方のセンスを知っているからこそ頼んだのよ。忙しいところ悪かったわね。もう戻っていいわよ」
「はい、私でよければ何なりとお申し付けください」

玉兎が来た方向に帰っていく。

「霊夢、出て来ていいわよ。」

霊夢が木陰から姿を現し、紙袋を受け取るとまた木陰に入っていった。
ニ、三分後に再び豊姫の前に姿を現すと、複雑そうな顔で自分の格好を見つめている。

「何でパーティードレスなの?」

胸元が大きく開いた黒のノースリーブのドレスを着て、汚さない様に裾を少し持ち上げている。ハイヒールは履き慣れていない為か窮屈そうだ。

「ごめんなさい。あの子、一寸独特の感性をしててね。特に服装は個性的なのよ」
「どうしてそんなのに頼むのよ」
「あの子は余計な詮索をしないから。軍人がぞろぞろやって来たら貴方も困ったでしょう?」
「・・・・・・」

霊夢は顔を赤くして俯いてしまった。さっきの事を思い出しているのだろう。

「・・・・・・どうして私の姿が見えるの?今の私は精神体の筈なのに」

洋服を着れるのも考えてみれば不思議な話だ。

「結論から言えば私も精神体だからよ。と言うよりこの世界そのものが実態を持たない虚ろな物なの」
「?・・・・・・月は実際に存在するでしょう」
「うーん、何から説明すればいいのかしら?まあ、立ち話もなんだし、とりあえず私の家に行きましょうか」

紫に相談しようかと思ったが、ネックレスは取られているし、先ほどの事を思い出すととても冷静に話が出来るとは思えなかった。

「いいわ。連れて行って頂戴」

豊姫は霊夢が精神的に相当参っているのを見逃さなかった。この機に上手く彼女を引き入れれば、博麗の力を有効活用できるだろう。
そんな思惑が霊夢には手に取るように分かったが、疲れ果てていた為彼女の誘いを断る事ができなかった。
二人は同時に飛び立ち、霊夢は豊姫の少し後ろに付いて飛ぶ。空はもう日が落ちようとしていた。






















アリスが二人を案内したのは狭い地下室だった。三人が部屋に入ると、物が多いこの部屋では満足に身動きも取れない。
ただ目の前におかしな形の椅子が二脚置かれていて、誰かがそこに座れば少しマシになりそうだ。
魔法使いの二人が先ほどの黒い機械について喋っている横で、咲夜は壁いっぱいに描かれた魔方陣に唖然としていた。
パチュリーは主に紙の上に描いていたし、人間は余り見るべきではないと言われていた為、図書館の魔道書を開く機会も無かったのだ。
見慣れない光景にいよいよ自分が場違いな気がしてくる。

「さ、あんた達、何ぼーっと突っ立ってるのよ。この椅子に座って頂戴。月に行きたいんでしょう?」
「は?い、いきなり過ぎるぜ!心の準備とか、そう言うのも考えて欲しいぜ!」
「ふーん・・・・・・ま、そうよね。確かに急すぎたわ。でも、別段準備とか必要無いわよ。簡単に行けるし、帰ろうと思えばいつでも帰れるし」
「いったいどういう方法で行くつもりなの?こんな地下室から・・・・・・天井が開くのかしら?それともテレポートみたいな物?」
「そ、そうだぜ。説明責任はちゃんと果たして欲しいぜ!」
「分かった分かった」

アリスは椅子の横に進み出ると、椅子の肘掛の部分に掛けてある帽子状の物を取り上げた。
見た目は調理場にあるボールの様ないでたちで、外郭はおそらく金属製、頭に触れる部分は皮製になっていた。
それから突起物が何本か突き出ているのが不恰好で、少し禍々しい。

「これを被ってその椅子に座るだけよ。月に行くと言っても直接行くわけじゃない。精神体になって月の様子を見てくるだけ。
 いわば幽体離脱ね」

なるほど、それならば地下室からでも行けなくは無いだろう。

「そ、そうか。そう言う事なら・・・・・・でも危険じゃないだろうな」
「全く、魔理沙ったら普段の大胆さは何処へ行ったの?そんなに私が信用できないのかしら」
「だって、アリスが私の魔法に文句ばっかりつけるから・・・・・・」
「貴方を認めているからこそ率直な意見を言っているだけよ。ほら、座った座った」

半ば引きずられる形で魔理沙が椅子に座らされた。

「ほら、咲夜。あなたも」
「ちょっと気分が・・・・・・」

咲夜は後ずさりするが、簡単にアリスに捕まって同じように椅子に座らされた。
例の帽子を手渡されてしぶしぶ頭にのせる。

「よしよし、二人とも良い子よ。早速月に行きましょうか・・・・・・って言いたいところだけど、椅子に座って帽子を被るだけじゃ無理なのよね」

くすくすと笑う魔法使いの前で二人は怪訝な顔をする。
アリスは二人の帽子をヘルメットの紐の要領で固定し、肘掛に手を乗せて楽にするように言った。

「安心して、難しい事じゃないから、まあ一寸だけ痛いかもしれないけど、むしろ気持ちいい事だから」

悪い予感しかしない。アリスが指をパチンと鳴らすと、肘掛から紐が伸びてきて座っている二人の腕を拘束した。

「わ、何だよこれ?ア、アリス、こんなの聞いてないぞ!」
「幽体離脱って言ったけど、そんなに簡単に魂が肉体を離れる訳無いでしょ。
 しかも二人は月に行かないといけないのよ。精神的な意味で行かないといけないの」
「何をするつもりなの?ちゃんと説明してよ!」
「それは私じゃなくてあの子達に聞いたらいいわ。でも口は利けないから、その身でもって理解してあげてね」
「は?」

アリスが目を瞑り呪文を唱えると壁の魔方陣が光りだした。天井や床に描かれている物も同様に鈍い光を放っている。
やがて光が弱くなり、代わりに黒い霧が魔方陣から漏れ出す。霧は部屋全体に充満し、裸電球の光を隠した。
椅子に縛られている二人はキョロキョロと落ち着き無く辺りを見回し、
怒鳴るようにアリスを問いただすのだが、魔女は淫猥な笑みを浮かべて口に手を当てているだけだった。

「紹介するわ、私の可愛いペット達・・・・・・」

魔方陣から次々に何かが出て来る。
始めは霧に覆われていて良く見えなかったが、部屋に充満していた黒い霧が魔法陣の中に戻っていくと、おぞましい姿を二人の前に現した。

「可愛いでしょう?私が創った魔法生物たちよ。呼びかけに応じてどんどん出てくるわ・・・・・・ってあなた達、私の話聞いてる?
 そんなに叫んでばかりいると喉が嗄れてしまうわよ・・・・・・えっ・・・・・・止めろと言われても、今更止められないわ。
 二人がこの子達を満足させるまではね・・・・・・ふふふ、もう分かったでしょう?幽体離脱にはオーガズムが必要なの。
 それも意識が飛ぶほどのやつがね。
 ・・・・・・あら?あなた達、久しぶりだからかしら?随分と盛っているじゃない。激しく触手を振り回したりして。
 ねえ魔理沙、そんなおびえた目で見ないで。確かに見た目はお世辞にも良いとは言えないけれど、皆とても良い子よ。
 咲夜も狂ったように暴れないの。そうねぇ、この子なんか貴方が気に入りそうだわ。
 私が魔界にいた頃、向こうで暗黒大陸と呼ばれている大地を旅した事があってね、その時傷ついている淫魔を助けた事があるのよ。
 魔界樹の下で包帯を巻いている時に彼女に言われたの。こんなに優しくして貰ったのは初めてだ、何かお礼をさせて欲しいってね。
 何をしてくれるのって訊ねたら・・・・・・・フフフ、なんて言ったと思う?貴方に天国を見せてあげるって、大真面目な顔で言うんだもん。
 思わず笑っちゃった。でも彼女の顔を見てたら本気なんだって気付いたわ。ねえ、咲夜、どうなったと思う?
 ・・・・・・とても神々しい光に包まれた気がした。魔界にもあったのよ、天国は。
 もしかしたらあれは淫魔なんかじゃなくて、地獄に落とされた天使だったのかもしれないわね。
 それでね、どうしてもあの時の気分をもう一度味わいたくて沢山の淫魔に会ったんだけど・・・・・・だめね。
 どいつもこいつもテクニック優先で心がこもっていない奴らばかり、あの時感じた吐き気がするような生々しさには遂にお目にかかれなかった。
 でも、ある日気付いたのよ。もう彼女に会えないのなら自分で創れば良いんだって・・・・・・
 その瞬間から私のネクロマンサーとしての日々が始まったわ。人形を作ったのも彼女の面影を再現したかったから。
 研究に研究を重ねる日々、そしてこの子を創った。あ、勘違いしないでね。魔界で会った淫魔はこの子みたいな人外じゃないのよ。
 そうね・・・・・・とびっきりの美人だったわ。ただ、あの時感じた粘りつくような感覚を再現しようとしたらこうなったのよ。
 咲夜、貴方にも私と同じ素晴らしい体験をさせてあげるわ・・・・・・・えっ、処女なの?
 意外ね・・・・・・でも大丈夫よ。とっても優しい子だから。初めてでも女の喜びが何なのかを教えてくれるわ。
 ふふふ、そうよ・・・・・・この子達を受け入れるの。見た目なんてどうでも良いじゃない。大切なのは心よ・・・・・・さ、声に出して御覧。
 思いは声に出さないと伝わらないわ・・・・・・・大好きですって言うのよ。
 あなた達の触手が、吸い付くような吸盤が、触手の先端から飛び出ているたくさんのひも状のうぞうぞと蠢くミミズのような末端も、
 全部好きですってね・・・・・・うふふ、そうね、愛してますでもいいわ。泣くほど嬉しいのね。ふふふ、愛してます愛してます愛してます、か・・・・・・
 まるで壊れたスピーカー。言い表せない程好きなのね・・・・・・でも一寸その顔はやばいわ。完全に廃人じゃない。
 元に戻れるかしら?・・・・・・五分五分って感じね。
 ああ、そうだ・・・・・・魔理沙、貴方は大丈夫?ごめんなさい、完全に忘れていたわ。
 って、あらら。もう意識が無いのね。月には着けたかしら?全く、幾らなんでも早すぎよ。まあ一人減った分を咲夜に回せばいいか。
 うん?魔理沙ったら失禁してるわよ。トイレには行っておかなかったの?可愛いわ。プラス五点ってところね。
 さてと、私はそろそろ部屋から出るわ。今はこの子達の相手をしていられないから。咲夜、後はがんばってね。死なないように祈っているわ」 





















「まだ着かないの?こんなに遠かったかしら・・・・・・もうだいぶ飛んだと思うけど」

霊夢はすっかり暗くなった月の空を、豊姫の背を追って飛んでいた。

「もうすぐよ・・・・・・ほら、見えるかしら。地平線の少し下に光る線があるでしょう?あそこが月の都よ。」

豊姫の背から目線を遠くに移すと、森の終わりに薄っすらと延びる光の帯を見つける。
霊夢が早く着こうとスピードを上げた時、急な寒気を覚えて身震いした。
一応着替える前に紙袋に入っていたタオルで身体を拭いたが、薄着でかなり飛んだせいで身体が冷えてきたのだ。
手を肩に乗せて震える姿を見た豊姫が、風除けの為に傍に寄り添う。暫く飛ぶと町の上空に出た。
霊夢が以前来た時と変わらず、明るく平和な町だった。

「あそこに見えるのが私の家よ。思い出したかしら?」
「ええ、早く行きましょう。風が冷たいわ」

二人は町の中心の小高い丘にある一際大きな屋敷に向かって飛ぶ。門の前で降り、豊姫が門番に霊夢を紹介した。
大事な客人だと言われ霊夢は少し心強くなる。敵地に一人きりという現状に心細さを感じていたところだった。
玄関に入る前に豊姫が霊夢を呼びとめ、頭から足先まで眺めると、ポケットから扇子を取り出して弱い風を送った。
すると、塩水と風でボサボサになっていた髪や、身体についていた泥が清められるのが分かる。
二人がロビーに入ると大勢の月人が集まって来た。どうやらパーティーを開いているようだ。
霊夢は豊姫を見て、自宅のパーティーなのに何故主催者があんな場所で砂をいじっていたのかと疑問に思ったが、
妹の方が主賓なのだろうと考えて一人納得した。
豊姫は暫く笑顔で接客して、一段落したところで人ごみを離れ、霊夢の方に近づいてきた。

「霊夢、お待たせ。楽しんでる?」
「うん。料理はおいしいし、暖房も効いてる。この為のドレスだったのね」
「まあね、貴方を驚かせようと思って」
「・・・・・・」
「どうかした?」
「う、ううん、別に。ただ幻想郷のことを思い出してさ」
「・・・・・・酷い騒ぎじゃない?」
「知ってるの?」
「ええ・・・・・・私の部屋に行く?詳しく話してあげられるけど。それともまだパーティーを楽しみたい?」

霊夢は疲れていたので早く横になりたかったが、珍しく幻想郷の巫女としての義務感を感じたらしい。
彼女の部屋に案内してもらう事にした。














「咲夜、咲夜!」
「んっ・・・・・・・」

咲夜は魔理沙に呼ばれた気がして重い瞼を開ける。ここは何処だろうか?酷い夢を見ていた気がするが・・・・・・。
目を開けて最初に目にしたのは魔理沙の顔だった。
鈍い頭痛に額を押さえて目を閉じると、すぐに何時もの目覚めとは随分と勝手が違うことに気付く。
まず地面が無い。足を伸ばしても手を回してみても何も触れないと言う、それだけの事でとても心細くなる。
ただ魔理沙が自分の肩を掴んでいる事だけははっきり分かった。

「ここは何処かしら・・・・・・まだ悪夢の続きなの?」
「周りを見ればすぐ分かるぜ」

周りと言っても暗闇ばかりではないか。魔理沙が人差し指で足元を指差すので、咲夜は何も無いはずの下方に目を向け、次の瞬間に驚愕した。
白い靄で覆われた青い星が視界いっぱいに広がっている。
咲夜は思い当たる星を一つしか知らなかったが、記憶が混乱してパニックを起こしそうになる。

「な、何よこれ?私はどうして・・・・・・!?」
「咲夜、落ち着け!どうやら私達は宇宙にいるみたいなんだ。確かアリスの家にいた筈だけど・・・・・・くそ、良く思い出せないぜ」

咲夜が視線を回りに巡らすと、先ほど気付かなかったのが不思議な位、たくさんの星が輝いていた。
右側に首を回し、目を凝らすと一際眩しい輝きを放つ赤い星がある。確か火星だった気がする。
左上にあるのが木星だ。こげ茶色の大きな惑星が、ずっと向こうで色とりどりの星の海に浮かんでいるのが見える。

「魔理沙、私も思い出してきたわ。私達はアリスの家で幻想郷の異変について話していたと思うの。
 それでアリスが月に行こうって言い出して・・・・・・」
「ああ、そうそう!それで地下室に通されて、うん?その後どうなったんだっけ?」
「ええと、へんな帽子を被らされたところまでは覚えてるわ」
「うーん。とんでもなく恐ろしい目に合った気がするぜ・・・・・・やめよう、怖くなってきた」
「そうね、きっと月を目指せば良いんじゃない?なんとなくそんな気がする」
「ああ、私もだぜ」

二人が暫く宇宙空間でフラフラしていると上のほうに月が浮かんでいるのに咲夜が気付いた。

「あ、見て魔理沙!月よ。ずっと上のほうにある」
「本当だ。幻想郷で見たのより随分と小さいな」

魔理沙は箒を持っていなかったので、飛び難そうにしている。
魔理沙が何度もスピードを落として欲しいと頼むと、咲夜がのろのろと飛ぶ彼女の手を引いて、二人はようやく月に接近した。

「よし、行くか・・・・・・何か変じゃないか?前来た時と随分違うぞ」
「ええ。空に浮かんでいる時と同じでクレーターだらけね。前来た時はこれぐらい接近したら森や海が見えたのだけど・・・・・・」
「これも戦争の影響か?」
「うーん・・・・・・」

二人が月面に降下して行っても月の見え方はそのままで、やがて地に足をつけても月の都どころか、
何処までも続く岩場には生物の痕跡すら見つけられそうに無い。

「どういうことだ?戦争で跡形も無く吹き飛んじまったのか?」
「まさか・・・・・・全く痕跡すら残らないなんて変よ。大体大気も無いみたいじゃない」
「ん?咲夜、あそこに何かあるぞ」

魔理沙が指差す先に、確かに建造物らしき物が見える。

「行ってみようぜ」

二人が近づいてみると、鉄骨を組み合わせた足場や、車輪が四つ付いた乗り物、それからおそらく何かの発射台と思われる物があった。
しかし、長い間放置されていると見えて、所々破損している。

「これはどういった物かしら?」
「うーん、さっぱり分からん」

ふと、咲夜は魔理沙が苦しそうに呼吸をしている事に気付いた。顔色も悪い気がする。

「なんだか、苦しいぜ・・・・・・息が、出来ない」
「ちょっと、大丈夫?」

そう言う咲夜も息苦しさを感じていた。二人は荒い呼吸をくり返し、まもなく倒れこんでしまった。




















「楽にして頂戴。飲み物は何がいい?緑茶だってあるわよ」
「じゃあ、それを一杯いただけるかしら」
「分かったわ、緑茶でいいのね。どこかその辺に掛けてて、すぐに入れてくるから」

霊夢は綺麗に掃除された豊姫の部屋を見渡し、部屋の半ば辺りにある手ごろな椅子を見つけるとそれに腰掛ける。
ハイヒールは部屋に入る時にスリッパに履き替えていた。丸い窓からは星と桃の樹と地球が見える。
数分もしない内に、豊姫が緑茶の入った湯のみが二つと、お菓子が乗ったお盆を持ってきた。
豊姫は手ごろなテーブルを運んできて霊夢の座っている椅子の傍に置くと、自身は彼女と向かい合うようにベッドに腰掛けた。

「お待たせ。霊夢、疲れているでしょう?博麗の巫女も楽じゃないわね。あんな妖怪にこき使われるなんて、私なら耐えられないわ」
「・・・・・・」
「あら、ごめんなさい。嫌な事思い出させちゃったわね。それに部外者に身内の事をとやかく言われるのは面白くないものね
 ・・・・・・霊夢、大丈夫?もし休みたいなら貴方の部屋に案内するわよ?」

豊姫が心配そうに覗き込むと霊夢は顔を覆って泣き出してしまった。

「わ、私にも、分かんない・・・・・・ぐすっ。何で紫があんなことしたのか・・・・・・うっ、きっと、月のせいなんだわ。
 前はあんなに優しかったのに・・・・・・ふぐっ、お母さんみたいだって思ってたのに・・・・・・!」
「・・・・・・そう」
「ご、ごめんなさい。貴方にこんな話、迷惑よね。でも・・・・・・」

とうとう声を上げて泣き出してしまった。豊姫は霊夢を引き寄せて自分の横に座らせる。
暫く泣き止まず豊姫の胸の中に収まっていたが、落ち着きを取りすと元の椅子に戻っていった。

「落ち着いた?」
「・・・・・・うん」

霊夢は目元を拭いたハンカチを豊姫に返し、深呼吸をして、それから照れくさそうに頬を掻いた。

「そ、それじゃあ本題に移りましょうか」
「ええ、そうね。ねえ霊夢、私の予想では現在幻想郷の自然環境は大きく姿を変えているはずよ。
 月が接近して見えるようになり、気候は熱帯性のものに変わり、もしかしたら海が出来ているかも。
 それから妖精が凶暴化しているんじゃないかしら?」
「まるで見てきたように話すのね」
「当たってた?貴方が考えている通り、それらの変化は全て月が原因よ。この月でね、戦争が起こったのよ。もう半年になるわ」
「せ、戦争!?嘘、全然そんな感じじゃ無いじゃない」

ロビーで会った月人達も、世間話や音楽や芸能人の話をしていただけで、
多少政治的な内容も話題に上がった気がするが、主に月社会の経済の事だったと思う。

「言っておくけど貴方がこの世界で戦争の痕跡を見つけ様としても、薬莢の一つすら見つけられない筈よ。
 月と言ってもこの月じゃなくて、前貴方がロケットで着陸した星のことよ。そう言えば空中分解したんだっけ?厳密に言えば着陸してないか」
「待って、意味が分からないわ。月は一つでしょう?それともここは月じゃないの?」
「ここは月よ」

豊姫が語尾を強めて言うと、霊夢は何か失言したのかと少し身体を震わせた。

「ここは月よ……それ以外に呼びようが無いでしょ。石も草も木も森も海も町も空も人も完全に月なんだから」
「で、でも、月で戦争が起こったって、貴方さっき言ったわ。この世界にはその痕跡が無いんでしょう?」

霊夢は自身の言葉にハッとして尋ねた。

「もしかしてここは過去の月なんじゃない?だから戦争がまだ起こっていないのよ!
 そして豊姫は過去に戻って戦争を止めようとしている。違う?」
「幾ら月の科学が発達していると言っても過去には行けないわ。だって過去は存在しないから……無い所に行く事は出来ないのね。
 霊夢、ここは新しい月よ。未来には無限の可能性があるのに一つだけの過去に囚われるのは愚かだわ。
 過去が決定しているとしても、失った世界をあきらめるのは嫌でしょう?無いのなら自分で創れば良いのだから」




















「うっ、く、苦しい……!」
「ぐ、ぐえぇ」

魔理沙と咲夜は月の荒涼とした大地で、自身から急速に生命力が失われていくのを感じていた。
あと幾ばくもしない内に絶対的な死が訪れるだろう。精神体の死は即ち自我の消滅を意味する。
二人はお互いのうめき声が聞こえたが、どうする事も出来ず、いっそ死んだ方がマシだと思える程の苦しみにもがいていた。
そんな中、咲夜は誰かが近くの地面に降り立つのを目の端に捕らえた。
何者かの足が傍に歩み寄ってくるのを空ろな頭で認識すると、突如として二人の体を蝕んでいた圧力が消え去った。

「げほっ!げほっ!」
「はぁ、はぁ、はぁ」

荒い呼吸をくり返す二人を見下ろしながら、誰かが冷たさを感じさせる声で静かに尋ねた。

「あなた達、こんな所で何をしているの?返答次第ではこの場で斬首にしてやる。って言いたいところだけど……顔見知りで良かったわね。
 まあ、今更幻想郷の者が来た所で何にもならないよ」
「はあ、はあ、あ、あなたは……依姫!?」

長刀を腰に差して悠然と二人を見下ろしているのはかつて戦った事もある顔だった。
咲夜が何とか立ち上がろうとして、腰が立たずに座り込んでしまった時、先程とは全く違う場所にいる事に気付いて驚愕した。
傍らにあった鉄骨の建造物の残骸は消え、代わりに木造の屋敷が凄まじい勢いで燃え盛っている。
良く見れば焼け落ちた家々がかつて自身を支えていた柱だけを残して、咲夜達の周りを取り囲むようにそびえ立っていた。
どうやら戦争があったと言うのは本当らしい。

「こ、ここは何処なの?私達、さっきまで」
「ここは月です。今はまだね。でも、いずれお姉さまが術を発動させれば穢れたこの月は消え去るでしょう」

二人が何の事か分からずに呆然としていると、依姫はもう話すことは無いと言った感じで剣を振り上げた。
慌てて後ずさる二人に依姫は最後の言葉を送った。

「月面旅行の感想はどうだった?別に面白くなかったろう?幻想郷の自然ならば心配せずともじきに以前の姿を取り戻しますよ」

依姫が剣を横に振るうと二人の身体は真っ二つに割れ、黒い影に変わり、一時漂った後に消えた。




















霊夢は豊姫の顔をまじまじと見つめて何と言ったらいいのか考えていた。
彼女は新しい月と言ったがどういう意味だろう。空に浮かんでいる月が別にあるならこの月は何処にあるのだろうか。

「霊夢、この世界を創ったのは私と月の科学者達よ。本物と変わらない素晴らしい世界でしょう?」

創った?まさか星を一つ創造したとでも?可能だとしてもここに住んでいる人々はどう言った存在なのだろう。

「豊姫、私は貴方が言う事を信じられない。戦争の事も、ここが前訪れた月と違うと言うことも」
「そうでしょうね。たぶんここの住人も貴方と同じ事を言う筈よ。私の事を狂人扱いするでしょうね。
 でも彼らは以前月に住んでいた月人達。皆戦争を経験して、そして死んでいった。死ななかった者も勿論いるけどね」
「え……死んでるの?精神体ってのはそういう意味?まさか豊姫、あなたも死んでるんじゃ」
「私は死ななかったわなんとかね。幻想郷と同じで月人にも二元論が通用するのよ。だから肉体が滅びても魂が存在すれば転生が可能なの」
「……彼らが魂だけの存在だと言うのが本当だとしても、どうしてここが偽者の月だと気付かないの?」
「そういう術を私がかけたからね。勿論一部の者しか知らない事だけれど」
「そんな……」

嘘や冗談の類ではないらしい。霊夢が余りの事に絶句していると豊姫が立ち上がって台所に向かい、
すぐに急須を持ってきて空になった霊夢の湯のみに注いだ。その気遣いが余りに庶民的で霊夢は思わず笑ってしまった。
それで少し場の雰囲気が和んだので、豊姫が今日はもう休みなさいと言うと素直にそれに従った。

「あ、そうそう、幻想郷のことなら心配しないで。明日にも元に戻り始めるだろうから。
 私が最後の術式を発動させれば幻想郷の空の月が巨大化して見えることもなくなるわ。それで異変は解決するでしょう」

空の月が巨大化して見える。とは妙な言い回しだと思ったが、霊夢は特に気にせず宛がわれた客室に向かう。
豊姫の部屋から一つドアを挟んだ部屋に入ると、薄明かりが灯る綺麗な和室になっていた。
猛烈に疲れていた霊夢は敷かれている布団に倒れこむと、すぐに寝息をたて始めた。

「霊夢、霊夢……」

五月蝿い、私は眠いんだ。

「霊夢、起きて。迎えに来たわ」
「……!?」

全く予期せぬ人物が枕元に立っていた。

「ゆ、紫!?」
「しーっ、静かに。見つかったら面倒よ。遅くなってごめんなさいね。ネックレスが外れたせいで追跡に手間取っちゃって」

その言葉で、霊夢は玩具にされた記憶がありありと蘇ってきた。

「帰って」
「えっ?」

わなわなと震えながら紫の顔を見ずに一言だけ呟く。

「ど、どう言う意味?霊夢、奴らに何か吹き込まれたの?でも急がないと……そろそろ魂を戻さないと肉体の方が不調をきたして来る頃よ」

こいつは……そんな大切なことも言わずに……謝りもせずに……

「霊夢、ほら立って。グズグズしていると気付かれるかもしれないわ」
「帰ってっていってるでしょ!」
「だから、貴方の身体が」
「じゃあ、私の身体を持って来てよ。もう幻想郷には帰らないから」
「れ、霊夢、さっきの事だったら謝るわ。私がどうかしてた。二度と貴方に悪戯しないから……危険な目にあわせて本当にごめんなさい」
「うっ……」

くそっ、何で涙が。

「もしここが気に入ったんならまた来ればいい。でも、とにかく一度身体に戻りましょう……ね?隙間ですぐだから」

霊夢は渋々紫の手を取ると、紫が通って来たのであろう隙間空間に足を踏み入れた。

















「お嬢様、お茶が入りましたわ」
「ありがとう、咲夜」

すっかり元の風景を取り戻した幻想郷。紅魔館も湖の近くで何事も無かったかのように佇んでいる。
日中であるため太陽光は決して弱くは無いが、テラスでパラソルを張って紅茶を飲むのがレミリアのお気に入りなのだ。
遠くの水田で稲が順調に育っているのが見える。
丸ごと海水に浸かったのだから塩害どころではない筈だが、豊穣の神が頑張ったと言う事にして置こう。

「あら、美味しいじゃない?どういう種類の茶葉かしら」
「ディンブラと言うスリランカのお茶です。少し渋めの味なので気に入ってもらえるか不安でしたが、御口に合って嬉しいですわ」

しかしアイスティーが入ったカップにシロップをドバドバ入れるところを見ると、やはり少し渋かったのだろう。

「まあ、私も何時までも子供じゃないって事よ。最近妖精たちの我侭が酷かったからね。自分が人からどう見られているか不安になったのよね」
「まあ、それはそれは……」
「何よ?」
「偶には異変が起こった方が良いのかも知れませんね」
「ふん、そう言う咲夜はちょっと我侭になったんじゃない?勝手に月に行ったりしてさ」
「すぐに送り返されましたけどね。魔理沙はその時のショックで寝込んでいますわ。アリスが看病をしているはずです」
「ふーん……まっ、なんにせよ。幻想郷が元に戻ったのはめでたいわ。きっと霊夢達が解決したんでしょうね。
 今晩にでも礼を良いに行こうかな」
「あ……」
「ん?」
「そう言えば昨日人里で巫女に会いましたわ。また宴会をやるとかで食糧を買い込んでいました」
「相変わらずねぇ……まあ、楽しそうで何よりだわ」
マジでこんなに遅れてごめん。
誰もいない会場でやけ酒飲んできますわ。
反省はしている。でもね。もうね。センター試験に遅刻した人間に何を言っても無駄ですわ。
ある意味遅刻する事で時間に支配される日本社会に対する反抗を示しているんだと思う。
あぶぶ
作品情報
作品集:
3
投稿日時:
2012/05/18 16:18:35
更新日時:
2012/05/19 01:18:35
評価:
8/9
POINT:
580
Rate:
12.10
分類
産廃創想話例大祭
霊夢
魔理沙
咲夜
儚月抄リスペクト
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1. 80 NutsIn先任曹長 ■2012/05/19 08:10:55
遅刻魔さんがパーティーに御到着だ。
だが、歓迎しましょう。

そういえば、輝夜にも似たような能力がありましたね。
永遠と須臾。
タイムトラベルとか言うものじゃなくて、作り直すって……!!
神をも恐れぬ所業ですね。

精霊だけじゃなくて妖怪も影響を受けていたんですね。
上位の妖怪達はは徐々に狂気に……。
彼女達が正気に戻ることで異変が収拾したことが分かりました。

元に戻ってよかった良かった。

でも、作者様が遅刻したという過去は作り直せませんよ。
2. 70 名無し ■2012/05/19 09:39:30
ちょっとずつおかしくなってる感じがよくまとまってる。
見事に収束しちゃったのが逆に残念だ。このまま取り返しのつかない段階にまで狂気にまみれて、幻想郷が穢れた月レベルの堕落に陥ったところで月が元に戻りましたよー→なにもかも遅すぎた・・・的なエンドが理想。
3. 80 名無し ■2012/05/19 18:17:50
最初のうちこそ取っ掛かりにくいものを感じましたが、慣れたら病み付きになりますねこの文章。
とんでもなく大きい事件があって、でもとんでもない連中がそれをあっさり片付けて・・・・・・結局はたいしたことにならない、という構図は
月という存在のスケールの大きさと、それに相反する親しみやすさをしっかりとあらわしていると感じます。なんだかんだ人間的な豊姫たちの姿も含めて。
ただ欲を言えば、もう少し幻想郷の大混乱の様子が深く描かれていると、もっとよくなるかなと思いました。
5. 70 んh ■2012/05/19 20:31:24
 お茶淹れるとよねえかわいい。月の自爆システムとか傍迷惑感とか好きでした。

 なんでか読んでいてピンとこない感じが長く続きまして、なんでかな、おもらしと触手か? とか色々考えてたんですが、改めて読むと妖精が出てこないんですねこのお話。凶暴化しているらしいけど、どう凶暴化しているのかわからないので、紫とアリスに唐突感を覚えたのかな、と思いました。
 ただ、意図的にもやもや感を続けてる可能性もありそうなので、書いてる今でもよくわかってないです。

 ところでマングローブには何かなみなみならぬこだわりがあるのでしょうか
6. 40 名無し ■2012/05/19 22:12:46
・いろいろ長い話が続いた割りにはお粗末な結末
・文章がくどい
・海か……
・魔理沙とアリスが出た意味はあるのか?
・設定はそれなりに作りこまれているにも関わらず結局、登場人物が海に行く動機しかなってない、つまり設定がストーリーにうまく活かされているとは言いにくい
・などと削られる要素はいろいろあるのに遅刻って
7. 80 木質 ■2012/05/30 20:51:27
紫はん、年頃の女の子にそんなことしたらあきませんて、そら嫌われますよ。
この二人がしっかりと仲直りできた事を切に願います。

戦争で使い潰され穢れた月が、新しい月に世代交代するという歴史的瞬間に関われた霊夢はある意味で幸運なのでしょうね。

まるで一種の自然現象のような異変。
主人公が解決したわけでも、事態を好転させたわけもでも無い、ただ純粋に関わり、何も出来ずに収束する様を眺めていただけの物語。
主人公が異変に首を突っ込んで大立ち回りして、アッチコッチ引っ掻き回して解決する「ありきたりな」作品が圧倒的に多い中、こういったガツガツしてない消極的な関わり方、王道から決別した展開は非常に新鮮で新たな発見と新感覚の連続でした。
味のある作品です。

あとアリス、お前、過去に魔界で一体何があったんだ…
8. 70 アレスタ海軍中尉 ■2012/05/30 21:26:31
水着の女の子の痴態は大好きです。はい。

分からない…ということはないのですが、結局霊夢たちの行動の意味がよく理解できなかったです。
アリスお前…
9. 60 名無し ■2012/06/01 08:23:54
結局何が起こっていたのかいまひとつわかりにくい話だった…
豊姫はifの月を作って正史にしたとかそういう?

アリスは月見すぎて狂ったのかと思ったけど幻想郷来る前からですか。触手シーンは完全な趣味として咲夜と魔理沙がなぜ呼吸困難に陥ったかもよくわからない。依姫が何かしたみたいですが。二人はどうなったのか。
霊夢と紫の関係にもオチが欲しいかなと思ったり。

今一度重役出勤、どうでしょう
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