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『たいはい ちれいでん』 作者: 雨宮 霜

たいはい ちれいでん

作品集: 4 投稿日時: 2012/06/15 14:14:51 更新日時: 2012/06/16 23:49:07 評価: 9/10 POINT: 920 Rate: 17.18
 わたしはお姉ちゃんが、大好きだ。
 いくらお姉ちゃんが妹であるわたしを性的な意味で求めるようなヘンタイさんでも、ヒトの姿をとるようになったペットに手を出すダメな人でも、わたしはお姉ちゃんが好きだ。
 さらに言うと、お姉ちゃんとペットのそういう行為を見たら、どんなに機嫌が良くとも心で太陽が地獄釜を茹でるくらい、或いはお姉ちゃんが求めてくれると嬉々として応じて、献身的にお姉ちゃんを気持ちよくさせようとするくらいにはお姉ちゃんが好きだ。大好きなのだ。
 今日は愛しのお姉ちゃんが茶葉を切らしちゃったわどうしよう、と困っていたから地上の紅い館に行ってちょっと拝借してきた。ついでに無意識に紅茶の淹れかたも紙に書かせて。
 そして外から帰ってきて、もらったお茶の入った手提げ袋をお姉ちゃんにあげようと思って、わたしは部屋を覗き込んだところ。
 そこには、ベッドに座って、ナイフを手首に押し当てているお姉ちゃんがいた。
「い、ぎっ……あぁ……」
 そのまま、すーっと手を動かして。お姉ちゃんの手首から、赤いしずくがこぼれ落ちる。滑らせたナイフからも、ぽたぽた。繰り返して色が変わった絨毯に、また染み込んでいく。
 青白い肌が真っ赤に塗られるのはすごく痛々しいんだけれど、お姉ちゃんは痛がってる様子なんて見えない。むしろ、笑い損ねたピエロみたいなひどい顔で、唇をゆがませて、笑っている。目は段々とろけ始めていて、ひぁ……とか、はひ……だとか、気持ちよさそうな声が聞こえてくる。
 わたしは痛いことは嫌いなんだけど、お姉ちゃんはその逆。何か嫌なことがあったり、欲求不満になったりすると、だいたいは手首を切って、紛らしてるみたい。何度も続けてきたせいで、お姉ちゃんの左手は痕だらけ。いっつもぶかぶかの洋服を着てるのは、それを隠すためだと思う。
 覗きを続けると、今日はいつもとちょっと違う。いったいどうするのだろうか、いつもならここで止めるのに、お姉ちゃんはできた傷口に右手を当てて、爪を立てた。
 ぐじゅ、と水っぽい音がして、どぷり血があふれる。いっしょにびくんびくんとお姉ちゃんの体が跳ねて、口からはえっちの時みたいな甘い声が飛び出してくる。
 うっとりした表情で小さく指を動かし続けるお姉ちゃんに無意識をかけて、目の前まで近寄ってみて。……ちょっと、後悔した。だって、今のお姉ちゃんは本当に、わたしが見たこと無いくらい
に気持ちよさそうだったから。わたしがいくら頑張ってもさせてあげられなかった、そんな顔。もうあとちょっとで、飛んじゃうんじゃないだろうか。
 なんとなく胸の奥がかぁっと熱くなって、袋を握る手に力がこもる。好きなはずのお姉ちゃんの溶けた声に耳を塞いでしまいたくなる。
 よくわかんないけれどいらいらした気持ちのまま、落ちてたナイフを蹴飛ばして、ベッドに茶葉の入った袋を投げ捨てた。
 そのまま背を向けて、わざとお姉ちゃんが気付くように、大きな音を立ててドアを閉める。同時に無意識も解除してやった。きっと向こうで、お姉ちゃんは怯えたみたいに肩をびくつかせて、あたりをきょろきょろ見回してるんだろう。そして私の投げた茶葉に気付いて、泣きそうな表情で手首を握ってうずくまるんだろう。
 ちょっといい気味かもしれない。無意識に持ってきていた血の付いたナイフを石の床に落として、思い切り踏みつける。ぱきんと乾いた音がして、銀色の棒は真っ二つに折れた。
「こんなもの……」
 壊してから、気付いた。わたしは、こんな取るに足りないものに嫉妬していたんだ。
 ばっかみたい、と吐き捨てても、どろっとした熱いものはなくならなかった。
 ……もうちょっと、地上に出ていようかな。


 なんのあてもなくふらふら飛んで、そういえば壊したナイフは家のものだったなーと思い出して。気付いたらまた紅い館に私はいた。
 替えの小さめの刃物が欲しかったので、銀色の人から一本くすねてきた。きっとそのために来たんだろうし。
 でもこのナイフはお姉ちゃんには渡してあげない。私がいるのに、こんなものに頼ってあんな方法で気持ちよくなるのがいけないんだから。
 ……一瞬、台所の包丁で手首を切りつけているお姉ちゃんが脳裏に浮かんだけど、気にしないで帰路を飛ぶ。さすがに料理用のごつい刃物でやったりはしない、と思う。衛生的にも良くないし。
 どうやらそれは杞憂で済んだのか、帰ってきて見たお姉ちゃんの袖には、新しい血はついていなかった。
「ただいま、お姉ちゃん」
「ぁっ……おかえりなさいこいし」
 少し離れたまま、声をかける。悪戯を見つかったペットのように肩が跳ねて、おどおどした返事が来た。
 さっきのことをまだ引きずってるのか。相変わらず気分転換が下手な人。
 こちらの様子を伺うお姉ちゃんを横目に、リビングのソファーに腰を下ろす。ふたりで選んだそれは、柔らかく私を迎え入れた。
 飲み物が欲しくなって振り向こうとすると、まだお姉ちゃんのびくついた視線。何かと思ったら、ナイフを持ったままだった。なんとなく可哀想に思えたので、机の上に放り投げると、カラカラと転がって端で止まった。
 お姉ちゃんは、臆病だから。心の読めないわたしに接するときは、おっかなびっくりになってしまった。
 気に入らない。
「え、あの、こいし?」
「……」
 そう思ったときには、抱きついていた。
 固まっているお姉ちゃんにおかまいなく、顔ぐいぐい押し付ける。薄っぺらい胸は、ソファーと同じく柔らかく……ない。大きくわたしを包みいや違う。えーっとそう、わたしを受け止めてくれたのだ。うん。
 一拍おいて、うしろに手が回されて、そっと抱きとめられる。力を入れなおして抱き返すと、お姉ちゃんの雰囲気が穏やかになった。
 ふっと微笑む感じがして、わたしのくせっ毛を梳くように撫でられる。
 お姉ちゃんにぎゅってして撫でてもらうのは好き。嫌な気持ちも全部、ほどけてしまう暖かさがあるから。
 だからだろうか。燻っていた質問も、するっと外に出てきた。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なあに?こいし」
「どうして、痛いことするの?」
 わたしの髪を通った指が、上に上がる事無く肩で止まった。
 硬直の中一拍置いて、ぎゅ、とほんの少しだけわたしを抱く力が強くなって。ふぅっと息を吐いて、お姉ちゃんは口を開いた。
「そうね、ちゃんと説明しておかなくちゃね。……ねぇこいし、貴女にとって痛いって、どんなこと?」
「え。えっと……」
 質問で返されて、ちょっと戸惑う。
「……わかんない。痛いのは、痛いもん」
「そうね。痛い事は、痛いものね」
 でもね、と一区切り。
「私にとっての痛いは、そうじゃないの。端的に言えば、あなたにとっての気持ちいいことに入ることなのよ。要は……ただの自慰行為と同じね。よくこれは自分の存在がどうだとか鬱だからとか言われてるけど、私はそう自分を傷つけたい訳じゃなくて……なんか話してて自分が駄目妖怪に思えてきたけど……まぁ。ただ気持ちいいからやってるだけで他意は無いのよ」
「だいじょうぶお姉ちゃん今も十分駄目妖怪だから」
「へ、こいし?」
 ついうっかり深層意識の本音でもこぼしてしまったみたいだ。ダメダメなお姉ちゃんでもわたしはいっこうに構わないのだけれど、それまで言ってしまったらおしまいな気がした。
「つまり、お姉ちゃんは痛いの大好きなマゾヒストのヘンタイさんだってこと?」
「……身も蓋もない言い方すれば、そうなるわね」
 苦笑しながら言うお姉ちゃんに、納得はした。でも、わたしの中にはまだ靄のようなものが残っている。
 でも、これは言葉に起こすと、どうして言ってくれなかったのかという文字列になるから気持ちをぶんぶんと振って追い払う。お姉ちゃんにとってはとても言い出しづらいことで、それをわたしに説明してくれた。それだけで、十分。
 そして抱き合ったまま、十分ほど経ったくらいだろうか。一定のパターンで髪を撫でられ続けて、わたしがうとうとしてきた頃。思い出したように口を開いた。
「そうそう、こいし」
「ふぇ?」
 お姉ちゃんがわたしからすっと離れる。周りの空気との温度差が少し物寂しい。
「私、貴女がくれた新しい茶葉でアイスティーを淹れてみたの。喋って喉渇いちゃったし、お茶にしない?」
「あ、うん」
 お茶って、わたしが攫ってきた紅茶葉のことか。あの館で飲んできたわけじゃないので、どんな銘柄だとか味はどうだとかもよく分からない。楽しみに待てば、いいのかな?
 ぱたぱたとお姉ちゃんが台所へ小走り。こういったところも、小動物のようで可愛らしい。姉に使う表現ではないのかもしれないが、実際そうなのだ。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
 わたしがソファーに戻って一分もしないで、コップを手に持ったお姉ちゃん。からり、中の氷がぶつかって音を立てる。
 渡されたガラスの中の、いつも飲む物より赤みがかった紅茶。軽く持ち上げて揺らすと、中の液体が妖しく波立つ。なんとなく、普通のじゃないなーって、感じた。
 ぽすんとお姉ちゃんが隣に座って。急かされた訳じゃないけど、美味しいのひとことくらい言いたくなって。わたしは刺さったストローに口をつけた。
「!?」
 液体を吸い上げた途端、舌に快感のようなびりびりとした感覚が走る。
 一拍遅れて、口の中に紅茶の香りと味が広がる。お茶自体は苦味が強いものだろうけど、その中にわたしがよく感じる味も混ざっている。でも、それが何なのかは思い出せない。
 それはともかく。飲み物でこれはおかしいんじゃないのか。絶対何か入ってるよ、いや混ぜたよコレ。
「ーーっ、はぁ」
 もう一回、口をつけて。漏れそうになる声を隠しながら、少し考えてみる。
 これでわかったのは、この紅茶を飲んだときに感じた刺激は性的快感と同種だということ。激しいキスをされたときに、似てる。結局味は分からないけど。でもこれってつまり、
「……どう?こいし」
 媚薬入れたなこの姉。
 あんな話した直後なのに、少し前あれだけ一人でしていたのに、まだするのか。でも今度はちゃんとわたしを求めてくれたから、こんなやり方でも許してあげよう。そう考えるわたしはきっと、かなりお姉ちゃんに毒されている。
「念のため訊くけど。お姉ちゃん誘ってるよね?」
「え、ちょっとそれどういう」
 うん。どうやら相当強いやつ入れたみたい。真意はどうでもいい。もう我慢できなくなってる。
「うん誘ってるよね。いただきます」
「ちょ、こいし!?きゃあっ!」
 体勢を変えて、思いっきり力を入れてソファーの上に押し倒す。下半身を落として、お姉ちゃんと密着させた。
「……お姉ちゃんが、いけないんだからね」
「ひ……」
 わたしの迫力に恐々とするお姉ちゃん。表情は無視して、歯の当たりそうな勢いで口を押し付ける。くぐもった声が伝わるけど、空いた空間に舌を押し込んで黙らせた。
 締め付けるように背中に手を回して、息ができないくらいに強く。申し訳程度に弱点を蹂躙すると、必死な鼻にかかった細かい息が漏れた。
 唾液を流し込んで、かき混ぜて。上の歯の裏を擦りあげると、びくり反応があった。ちょっと嬉しい。
 少し腕の力を抜いて、口内をいじることに集中する。お姉ちゃんの逃げ惑う舌を絡めとって、思いっきり吸い上げると、肩を跳ねさせて、声をあげてこたえてくれた。蕩け始めた目が見ているのは、わたしだけ。
 その事実に恍惚としながら、手を離してお姉ちゃんを完全にソファーに任せる。
 舌を引き抜いて、そっとお姉ちゃんの唇に人差し指をのせる。つやつやと輝くそこは、触っているだけで楽しくなるような弾力がある。
 ぽーっとしたお姉ちゃんの表情を見ながら、もう片方の手でまだ傷の残る、お姉ちゃんの左手首を撫で回す。じっとこちらを見る不安そうな顔になっていくけど。
 期待してるんでしょ?ほんとは。
 わたしはつめを、つきたてた。
「いああぁぁぁあっ!」
 づぷり沈んで、指先が生暖かい感触に覆われる。どくどくと赤い液体が、わたしの手首をしとどに濡らす。
 うわぁ……絶対痛いよ、これ。でも、お姉ちゃんは違うんだよね。
 そんなわたしの心の中を裏付けるように、甘く小さく声を出し続けるお姉ちゃん。ちょっとだけ指を動かすと、大きく嬌声をあげた。
「こ、こいし、ちょっ、まって、ひぐっ!き、い゛ぃいっ!」
「痛くされて感じるなんて、お姉ちゃんもヘンタイさんだよねー」
「そんな、ちがあ゛あ゛あぁぁあっ!?」
 とりあえず、無意識にナイフを持っていたのでもう片方の手に刃を滑らせた。しゅぴっと銀色の軌跡が通った跡には、真っ赤な太線ができている。
「は、ひぎ、い、あぐぅっ!」
「すご……」
 柄を溝に挿し、空いた手でも手首を握るようにして傷口に親指を当てて、そのままぐりぐりと刺激する。身体全体で快楽を受け止めて、ソファーが軋むほど跳ねて悶えるお姉ちゃんの姿は、わたしが今まで見たこと無いものだった。
 頬は桜色どころか朱色に染まり、汗ばんだ服がぴっちりと張り付いている。これはこれですごく扇情的だし、次普通にする時は着たままにしようかな。
「こいしぃ……もっと、もっとぉっ!」
「もっとって……」
 お姉ちゃんは堅物に見えて、実はかなり快感に素直だ。ちょっと焦らすと、というか物足りないと可愛らしく涙目でおねだりしてくれる。もっと焦らしていぢめるのもいいし、もっと気持ちよくしてあげるのもいいし。
 それ自体に悪い感情は持っていないのだけれど、これはちょっとどうしていいやら。もっと痛くしろ、と言われても、わたしはお姉ちゃんのデリケートな場所に傷なんてつけたくない。
 さて、どうしようか。
 迷ってる時間稼ぎに、色々なところをつねったり叩いたりしてみる。痕は赤くなるしぱちんと大きな音も立つんだけれど、刺激が微弱すぎるのかすごく苦しそう。
「こいし、お願い……いじわる、しないでぇっ……」
「してないってば!」
 とうとうお姉ちゃんは光の薄れた瞳から、涙をぽろぽろと流し始めてしまった。罪悪感と思うようにいかない苛つきで、語気が荒くなってしまう。
 望みどおりもっと強く感じる所へ手を下ろそうとして、お姉ちゃんを守るような位置にある邪魔なサードアイに繋がっているケーブルを乱暴に握って跳ね除けたときだった。
「ひぎゅっ!!」
 がくん!首が折れるような勢いでお姉ちゃんが跳ねて、息を詰まらせる。
 硬直がとけて息を長く吐くと同時に、わたしの膝は生温い液体を感じた。
「……あは」
 見つけた。お姉ちゃんの喜ぶところ。
 まさかこんな紐で気持ちよくなってくれるなんて、思ってもみなかった。それも、これほどまでに。
「ねぇ、お姉ちゃん。これ、何?」
「あぅっ!」
 ぐじゅ、とわたしのひざとお姉ちゃんの大切な場所が音をあげる。そこはお姉ちゃんの出した、黄色い汚水でびちょびちょになっていた。
「おねぇちゃん。どうしてお漏らしなんてしてるの?」
「はぁっ……こいし、ちがうの、これは」
「違わないよね?お姉ちゃんこれ握られて、気持ちよくて、漏らしちゃったんだよね?お姉ちゃんは痛くされて感じる変態さんだもん、ねっ!」
「ぎぃいあぁっ!」
 言葉とあわせて、ありったけの力を込めてコードの束を握った。目を見開いて、喉を震わせて、お姉ちゃんは全身でわたしに応えてくれる。それがたまらなく心地よくて、わたしの背筋をびりびりと電流が走っていく。
「あ、あぐ、ぃあっ、か、はぁう!」
 ケーブルを思い切り圧迫したり、千切れる寸前と思えるくらいに引っ張ったり。わたしが思い切り乱暴をするたび、お姉ちゃんは素敵な声で喘いでくれる。えっちな知識をつけるより、最初からこうしていた方が良かったかもしれない。わたしはお姉ちゃんに喜んでもらえればそれで満足なわけだし。
 顔を真っ赤にして、じたんばたんと暴れると形容していいほど激しく悶えるお姉ちゃん。
 そうだ。
 その姿を見ていると、わたしの頭に悪魔的とも呼べる考えが浮かんだ。
 力が弱いといえど、覚も妖怪に変わりは無い。肉体的な損傷に関しては、並みの生き物よりずっと強くできているし回復も早い。そしてそれは、この部分でもいっしょなはず。
 ――どうせなら、もっともっと、壊れちゃうくらいに気持ちよくしてあげよう――
 意識の声の囁くままに、わたしは未だ銀色を保つナイフを引き抜いて、手ごろな一本を取って押し当てて、

 ぷちっ

「―――――――――――――――!!」
 お姉ちゃんの、声にならない絶叫が迸る。生地が破けそうなくらいに握り締めて、脚を電撃でも打たれたかのようにぴんと硬直させて。目を限界まで見開いて、口を大きく開けて舌を突き出して。
 ぼどぼど血を吐き出し続けるケーブル。締めて緩めてを繰り返し刺激を送り続けると、お姉ちゃんの口から低く重い獣のような、呻き声ともとれる快感に耐えているだろう声が流れ出る。
「お゛あ゛あぁぁぁ、ぎぃっ、あ゛ぁぁぁぁあっ!」
 手を動かしつつ、お姉ちゃんの血が付着した人差し指をぺろり。何となくした行為ではあったけれど、舌に快感のようなびりびりとした感覚が走った。……舌に、びりびりした、感覚?まあいいか。お姉ちゃんがこんなに激しくイってくれてるんだから。
 抽出が弱くなるまで、お姉ちゃんの絶頂は続いた。そして一番大きな波を越えたのか、びくびくと痙攣する腰も収まり、詰まっていた呼吸も段々と落ち着いてきた頃。
「……はぁっ、は、は……」
 わたしはお姉ちゃんの無意識にのばした手を取り、ぎゅっと身体を密着させた。息こそ整ってきてはいるものの、やっぱりまだばくばくと心臓は音を立てている。
「そんなに気持ちよかったんだ、お姉ちゃん」
 からかうように問いかけても、返ってくるのは声と呼べない息ばかり。ひゅうひゅうと空気の通る唇、そこから流れた涎のあとを舐めあげると、身体が過敏になっているのかふるふると首を振った。
 ぽーっと光の足りない瞳でわたしを見つめるお姉ちゃん。表情が物足りないので首筋をぺろぺろと舐め始めてみる。くすぐったそうに小さな掠れ声を出してよじってくれた。かわいい。

 ぶち

「ひっ、ぎぃううぅぅぅうぅぅぅう!」
「あ、切っちゃった」
 ちょこーっと動かした、ナイフを持った左手はお姉ちゃんのケーブルを二本まとめて叩き切っていた。一瞬にして緩みきった蕩け顔から膨大な刺激を爆発させた表情に早変わり。
 飛び散る鮮血。しかしそれがわたしたちの服を染めることはない。だって、もう袖は真っ赤だから。
 ぐっと体を起こして、切れた管の何本かをついた膝の下敷きにする。こうすれば下が柔らかいソファーだということも相まって、力加減が少し変わるだけで圧迫したり開放したりを小刻みにできる。手がふさがっても、お姉ちゃんに刺激を与え続けることができて合理的。
 わたしはふと思い立って、絶え絶えに喘ぐお姉ちゃんの、その今しがた切ったばかりのコードから溢れ出る血液をそっと舐めた。
「は、あっ……」
 瞬間、わたしを襲う口から伝わる甘い痺れ。もうひと舐めすると、電撃が軽く背筋を走る。まるで愛撫されてるみたいに、酩酊した心地。
 ――もっと欲しい。
 まるで媚薬のようなそれは、わたしのもともと少ない判断力を奪っていく。
 そのせいか、わたしが思考放棄して管にむしゃぶりつくまで、一分とかからなかった。
「あむ、れる、ちゅ、はぁう、あぁっ……!」
「ぐあ、ぎ、あが、あ゛あ゛あああ!」
 お姉ちゃんの千切れたケーブルを咥えて、舌を這わせて、吸い上げる。そのたびにわたしの口に血が溜まって、鋭敏な中が快感をキャッチする。お姉ちゃんもわたしのそれで気持ちよくなってくれているので、わたしのからだの芯はいっそう激しく揺さぶられる。
 甘噛みして、舌でつついて吸うと、口いっぱいに鉄の味と身震いするような刺激が広がる。それは口から全身に伝わって、快楽に翻弄されてなおわたしを見つめるお姉ちゃんも相まって、わたしをかぁっと燃え上がらせた。
 どろりとした液体を嚥下して、そのたびにふたりで気持ちよくなっていく。ただ傷つけるだけの行為のはずなのに、どうして。
「んぅ、はひ、ぃ、うぅあああっ」
「っは、か、ぁが、あ、ぁーーーーーーー!」
 意識が茫洋として、言葉の体裁を保っていないわたしの声と、叫び続けて、かすれてなお快楽を伝ようとするお姉ちゃんの声。ふたつが混ざり合って、わたしたちを高めて、正気を根こそぎ奪い取ってゆく。
 ただ、舐めてるだけなのに。口に入れてるだけなのに。性器に指を突っ込んで掻き回されるより、ずっとずっと気持ちがよくて。
 もう……だめ。
「ーーーーーーーーーーーーッ!」
 奥のほうで爆発して、体中で暴れまわる雷撃を、お姉ちゃんにぎゅっとしがみついて受け入れる。がたがたとお姉ちゃんも震えて、ああ、一緒にいけそうだな、できたらうれしいなって、思う。
 がくんと折れるようにお姉ちゃんの力が抜けて、思いっきりいってくれたとわかって、狂酔したかのような心地。
 そのまま真っ白になる視界。持ち上げられるような感覚に身を委ねて、わたしはふっと飛んでしまった。
 まっくらに落ちたわたしを受け止めたお姉ちゃんは、やっぱり暖かかった。



「ん……うぅ……」
 まどろみどころかどろどろぐちゃぐちゃの意識に、視界からの光が入る。それがある程度片付けてくれるまで、クッションがお腹の上に置かれたままぼうっとしていた。
 段々と覚醒して、体を起こそうとすると、ある種特有の気だるさに苛まれる。気合で上体をに力を入れ、腰を直角にしてふぅと息をついた。
 なんでこんな疲れてるんだろう。よくよく思い出してみたらわたしほぼお姉ちゃんの血を舐めてただけじゃない。
「わたしもとんだヘンタイさんだよ」
 腹部のクッションを掴んで軽く放り投げる。弧を描いて飛ぶ事無く、脚にぼすりと落ちた。
「はぁ」
 溜まった息を押し出して、背もたれに寄りかかる。乾いたぼふっとした音がしなかったのでよく見たら、お姉ちゃんの血が見事にこびりついていた。見渡して、座る部分にも、床にも、服にも、わたしの髪にも。きっと顔も赤黒いペイントが入っているんだろう。
 でもこの乾き方だと、けっこう時間が経ってるみたい。一緒に寝た、というか意識を飛ばしたであろうお姉ちゃんの姿が見えないのはそういうことだろう。
 再びあの行為を思い出す。わたしは思い立って下半身のコードを引き寄せ、そのうちの一本を軽くつまんでみた。
「ぃったーーーーーーーい!」
 痛い!やっぱり痛い!滅茶苦茶痛い!ちょっとやっただけなのにああもう涙出てきた!どうしてお姉ちゃんはあんなのに耐えられるの!
 落ち着くまで大きく呼吸を続ける。ふつう布に擦れたり日常生活くらいでは感覚が無いのではないかと思うほどなのに、意図的にすると何故こうまで鋭敏になるのか。
 まったく酷い目を見た。
「おはようこいし」
「ひゃいぃっ!?」
 いつの間にか隣に来ていたお姉ちゃんに耳元で囁かれ、跳ねる勢いで驚く。少し、わたしの脅かしを食らうお姉ちゃんの気持ちが分かった気がした。
「起きがけから心臓に悪いよ……おはよ、お姉ちゃん。体は大丈夫?」
「ええ、平気。たくさん出血しちゃったけど、今日くらいは妖怪で良かったと思ったわ」
「いつになく元気だね。ところでさ、お姉ちゃん」
「なぁに?」
 殆どのコードが千切れ、残る二本でしか支えられていないサードアイをぶらつかせているお姉ちゃんに言う。
「アイスティー、作ったじゃない。あれ、血、混ぜてたでしょ」
「あ、わかっちゃった」
 やっぱりね、と溜息。説明するように言葉をつなげる。
「あれ今思い返してみれば、不自然に赤かったし。それからお姉ちゃんが流した血と、味というか感覚というか……それがまったく同じだったし。それと、あの紅茶は吸血鬼の館から持ってきた物だから血を使った物の可能性は高いよね。同封してた紙に血を使えとかそんなこと書いてあったんでしょ?」
「書いてなかったらあんなことしないわ」
「どうだか……」
 怪しいものだ。お姉ちゃんは史上まれに見るヘンタイさんだから、妹に自分の血を飲ませる趣味があったっておかしくない。
 想像の暗く笑ってぽたぽたと血入りアイスティーを作っている姿を払拭して、わたしは次の質問をすることにした。
「あとさ、お姉ちゃん。今サードアイ機能してる?」
「さすがこいしね、鋭いわ」
 こちらを見つめて、きょとんとした顔で呟く。
 そう、お姉ちゃんのは数多のコードが断ち切れ、残すはただ二本だけ。第三の目は下にだらしなく垂れ下がり、鬱血したように腫れて瞳孔を覗くことができない。見る影も無いと言ってもいいくらいだ。
「これなんだけれど。どうも少し寝ただけじゃ回復し切れなかったみたいで、しばらく心を読むことはできなさそうだわ」
「え、じゃあそれって」
「うん、時間が経てば元通りになるでしょうけど。暫くの間、貴女と同じことになっているでしょうね」
 要するに。無意識妖怪古明地さとり、誕生。
(やっばどう反応していいのか全く分からない……)
 内心額に手を当て、考える。あれだけ排斥されてもわたしのように心を閉ざさなかったお姉ちゃんは、相応の理由があったんだろうし。わたしがそれを物理的に消し去ってしまったのだとしたら、悪いことをしたのかも。
「もう、貴女はそういうところ優しいんだから。無意識に任せて、喜んでもいいのよ?」
「わぷ」
 よく分からないことを口走ったかと思いきや、いきなり腕を伸ばして抱きしめられた。やっぱり、お姉ちゃんの胸の上は好きなんだけれども。
「貴女は深層意識下ではね、お姉ちゃんとお揃いになってちょっと嬉しいかも、なんて思ってるのよ?私に気を使わなくてもいいわ」
 そう言って、わたしの首の後ろをくすぐるお姉ちゃん。その声はいつものおどおどしたものよりも、どことなく明るく元気があって。
 お姉ちゃんの言葉を反芻する。深層意識下、つまり無意識下。そこでのわたしの心情をあてたということは、心じゃなくて無意識を読む能力に換わってるということだろう。わたしは操れるだけで詳しく読めないし。
 という事は。わたしの殆どがお姉ちゃんに筒抜けということだ。……何故だろう。ぞくっと来た。
「全てを見透かされてる気がしていけない悦びを感じてるんですか。やっぱりこいしもとんだヘンタイさん、ね?」
「……ああもう」
 そうだった。わたしの大好きなお姉ちゃんは、昔は人の心を読んで、それをネタに相手をからかうのが大好きな妖怪だった。それはわたしに対してもそうで、よく泣く寸前まで弄び最後に聖母のように抱きしめる底意地の悪いことが大好きだったのだ。恥ずかしながら、わたしもされるのが。どっちがマゾヒストか分かった物じゃない。
「……はぁ」
 私の無意識、心が読めるのが嬉しいのか上機嫌なお姉ちゃん。その様子を直に感じていると、考えてたことがどうでもよくなってきた。お姉ちゃんが嬉しいと、わたしも嬉しい。ふたりとも嬉しいなら、幸せ。もう、それでいいや。
「お姉ちゃん、その目っていつごろ治るの?」
「どうかしら。でも昔はどんな酷い怪我でも一ヶ月あれば直ってたから、それより短いと思うわ」
「……ふぅ、ん」
 まだ長く時間は残っている。久しぶりに昔のようなふたりになれると思って、わたしは表情を緩めてちょっと強めに抱き返した。
 ――まぁ、治ってもまた切ればいいよね!
初めまして、雨宮 霜と申します。本来は甘々健全書きのはずなのですが、さとりんのケーブル切りたい!だけの思いで書き上げました。

さてこの作品、いかがだったでしょうか。私はさとこい甘々だと思ってます。続いていく溢れる妹の愛情にさとりさんは果たして耐えられるのでしょうか?

因みに、「覚妖怪の血液は覚妖怪にとって極上の快楽をもたらす」などというよくわからない設定が入っていたり。こいしちゃんの心境も相まって媚薬のような役割になっています。何故こうなったのか私も存じません。

それでは、長々と書くのも性に合いませんし、後書きの方はこれで。また会える機会があることを祈っています。





追記・マゾとサドは表裏一体ですよね。さとりさんはどっちでも似合うけどどっちにせよ普通に愛し愛されることはないと思いませんか?
雨宮 霜
作品情報
作品集:
4
投稿日時:
2012/06/15 14:14:51
更新日時:
2012/06/16 23:49:07
評価:
9/10
POINT:
920
Rate:
17.18
分類
さとり
こいし
サードアイのコードを切りたい
ケーブルカット
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0. 30点 匿名評価
1. 100 NutsIn先任曹長 ■2012/06/15 23:49:55
サードアイ自体を潰したい事はありますが、ケーブルの方とは通ですね。
戸惑いながらも、結局は流される姉。
理屈抜きに無意識に快楽を追求する妹。
辛い事も悲しい事も乗り越えてきた姉妹が恋愛に似た感情を抱くのは不思議ではありませんね。
苦しいだろうに、痛いだろうに、その中に見出した快楽。
素直になったひねくれ者の姉妹の姿を見ました。
2. 100 あまぎ ■2012/06/16 03:05:11
もはや何も言うまい。
ただ100点を投じるのみ……ッ!
3. 100 box ■2012/06/16 14:13:21
圧倒的・・・へんたいさん・・・ッ!
本来は、って、これも超甘々健全なssじゃないですか(とぼけ)
4. 100 まいん ■2012/06/16 15:34:20
愛、これこそ愛です。素晴らしい。
へんたい? いやいや、別に普通でしょう。
6. 100 名無し ■2012/06/16 23:32:31
こいつはエロい・・・
7. 100 名無し ■2012/06/17 06:23:15
いい作品だった
8. 90 名無し ■2012/06/17 23:38:24
ケーブル切断あたりで、全ケーブル切断して取り返しのつかないことに〜なるかと思ったか寸止めでしたか

紅茶いっぱいで甘々すぎます 甘い血液でも流れてるんですか
9. 100 名無し ■2012/06/22 22:28:06
死死死死死死死死死
10. 100 名無し ■2012/10/17 18:51:25
これもラヴ、あれもラヴ。さとりんは本当に自傷癖が良く似合う。
素晴らしい姉妹愛でした。こいしちゃんがやりすぎてさとりんが死んじゃうかとも思ったけどそんなことはなかった。二人の仲が、永遠に続きますように。
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