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『奈落の魔理沙』 作者: 海
この世ではない、地下深く、霧雨魔理沙は文字通りの地獄にいる。いつからいるのか、何でいるのかは思い出せない。残っているのは自分の名前、その生前の姿だけである。生きていた頃の記憶は亡者に転生した時に失われたのか、あるいは限りなく続く責め苦によって削られてしまったのかもしれない。
それでもなお、繰り返される拷問の中で、時折眼前の地獄絵図とはかけ離れた光景が浮かぶことがある。それはもしかしたら生前の記憶なのかもしれないし、それすらも現在の責め苦を際立たせるための苦痛なのかもしれない。魔理沙は、その光景を観る度に何かを思い出そうとするのだが、その刹那、地獄の責め苦によって引き戻され、一際大きな絶叫をあげる。
今、地獄にいるということは、過去に犯した罪の償いをしているということだろう。しかしその罪すら思い出せない亡者と成り果てた魔理沙は、数多に繰り返される理不尽の前に、命を持たぬ吹き溜まりで踊る木の葉に等しい。
魔理沙が目覚めるのはいつも同じ石窟の牢の床である。地獄の亡者は、地獄それ自体から生み出され、責められ、殺されて、再び地獄より湧きだしてくる。魔理沙もまた、獄卒の鬼たちの責め苦による死を迎えた後、再びこの狭い石窟で意識を取り戻す。
亡者の魔理沙には、苦痛を感じるだけの心が残されている。どれほどの激痛、何度の死を迎えても、魔理沙が己の境遇を理解し、嘆き、恐怖に怯えることのできる能力は消えることはない。己の痛みのわからない者に対する責め苦など意味をなさないとも言わんばかりの、まさに地獄の恩赦であり、亡者、魔理沙の持つ唯一つの「個」である。
石窟の床の上で目覚めた魔理沙は、己を取り巻く熱気、臭気、そして世界を覆い尽くす亡者の絶叫によって「帰ってきた」ことを知った。その事自体には恐怖や絶望はない。これから行われる責め苦に比べれば、そのようなちっぽけな心のあり方など芥子粒が如しである。
積年の汚れに塗れた床から起き上がり、魔理沙の口から自然と嘆きが溢れてしまう。
「…もう嫌だよ…………虐めないでよ……………殺さないで…………私が悪いですから……………お許し下さい…」
誰にも聞こえないような、微かな嘆き。そんな魔理沙のつぶやきを、その鬼の耳で拾ったか、もしくは零れた涙の床に落ちる音を聞いたのか、獄卒はすぐにやってくる。
「おー、起きたか。地獄に生まれておめでとう、魔理沙。起きたんだったら、死ななきゃなんねえなあ?おい?」
巻き角を二本生やした赤い肌の大男の鬼。魔理沙を担当する獄卒の一人であり、亡者の揺りかごから墓場までを見守る地獄の天使である。
「………うわあああ…………」
魔理沙はその顔を見て、何も言えず泣きだしてしまう。
「なんだ、てめえ!優しい声をかけてやったのに、なに泣いてやがる!!おい、こら、聞いてんのか魔理沙?おはようございますぐらい言えねえのかてめえは!?」
仏の顔も三度まで。獄卒では、魔理沙のとても短い一生において一度でも見せれば十分なのだろう。
「…ひいっ!!ごめんなさい、ごめんなさい!!私が悪かったです、許してください!!………お、おはようございます―」
「んだとこら!!地獄に朝なんてねえんだよ!!お天道さまはここまで届きゃしねえ!!お前は、俺様に喧嘩売ってるんだな?おい?こちとらてめえのクソみてえな腹わた食い過ぎて吐きそうになってるってのに、お前はそんな俺様がゲロるとこ見てえだと?ふざけるんじゃねえ!!!!」
魔理沙からすれば、獄卒は理不尽の塊に見える。獄卒から見れば、魔理沙は「おもてなしをする」お客様である。
「あああ、すいません、すいません!!そんなつもりじゃないんです、許してくださ―」
「おめえを許すのは俺の仕事じゃねえ!!てめえのケツの始末をつけて欲しいだと、おい!?そうか、魔理沙、今度の人生も俺様に痛めつけて欲しいってんだな?上等だ、このクソ亡者が!!」
「ひいいい!!!おねがいです、わたしがわるかったです、反省してます、今度はちゃんと生きます、だからお助け下さい……」
「てめえを助ける奴なんざ知らねえよ、魔理沙。まあいい、今度もせいぜい長生きして、ちったあ腹わた美味くしろよ?」
「うあああああああああ!!!!!!!!!!!」
よくある地獄での日常の光景。魔理沙にとって「初めてではない」が故に、彼女が最も悲嘆にくれる会話を心得ている獄卒。同じく「初めてではない」ために、これから行われる地獄の責め苦を想像し、嘆く亡者、魔理沙。閻魔の敷く秩序の下、今日も地獄は平常運転である。
「さて、今回はどこが空いてんだ?しかし、順番待ちなんてないんだから、苛つくこともねえよなあ、魔理沙?」
「は、はい……そ、そうですね………」
少しでも獄卒の責め苦が和らぐことを期待して、魔理沙は大抵の場合オドオドとしている。
無限に見える地獄の広さに比べたら魔理沙の移動できる範囲は無きに等しい。そのため、拷問道具は同じ物が繰り返し使用されやすい。一応責められる亡者に対して不足はないのが建前であるが、これらの道具は人間の歴史が生み出す想像の産物である。人間が想像できた限界以上の拷問は地獄にはない。
それに加えて獄卒にも好みがあり、同じ担当の亡者には同じ責め苦が用意されることが多い。一人をじっくり痛めつけるのが得意な鬼もいれば、複数人をまとめて調理するのが得意な鬼もいる。魔理沙にあてがわれた鬼は、前者であった。おそらくは罪業の種類によって、あるいは亡者に落ちた者の本性によって割り当てられているのだろう。
「どうだ、魔理沙?たまには自分で選んでみるか?」
「わ、私には選べません……お好きになさって下さい……」
「まあ、てめえの意見なぞ聞かねえけどな。でもいま一瞬ときめいただろ、魔理沙?おい?」
「……はい……嬉しいです……」
生前の魔理沙がもし今の自分を見ることができたなら、あまりにも信じられない光景だろう。我を求め、貪欲を是としてきた自分とはかけ離れた、へりくだる亡者。それが今の魔理沙である。
もっとも、亡者にとって獄卒に追い回されて絶叫をあげるのは当たり前の在り方なのかもしれない。
「んー、定番の金網が空いてるな。魔理沙、喜びな。今回のお前の命は、今まで何度も楽しんできた網焼きだぜ?」
「い、…ひいいぃぃぃ………お願いします、あれだけは、かんべんしてください………」
「うん、満点の答えだ。きっとお前を地獄に叩き落とした閻魔様も満足するぞ。」
「…ああぁぁ…」
魔理沙はどの拷問具がどれだけの苦痛をもたらすのか、覚えている。亡者に転生して以来、その記憶だけは消えにくいように魂に刻まれているのかもしれない。それが魔理沙に喜びをもたらすことは一切無いが。
「よし、さっさと始めるぞ。火も消えてるし、時間がかかりそうだしな。おい、魔理沙。大人しく網に寝転びな。」
「は、は、はいぃ……」
魔理沙は獄卒の命に従い、おずおずと岩場に置かれた金網にその身を横たえる。反抗することなどできないし、もし口ごたえをしようものなら、獄卒は嬉々として「下拵え」を始めるだろう。
「なんだ、こら!!!てめえ!焼く時に俺様に醜いツラ拝ませたいのか!?網で焼くときは、背中を上に向けろって何度言ったらわかるんだ、こら!!!」
「ひいい!!!すみません、間違えました!!!おっしゃるとおりです!!!今すぐ―」
魔理沙の言葉を聞くより早く、獄卒の蹴りで魔理沙は金網から吹き飛ばされる。近くの岩に激突し、魔理沙は絶叫を上げた。
「ぎぃゃあああぁぁぁぁ!!!!!!背中が、背中がああ!!!!ああがぁぁ!!!!!」
鬼の蹴りで岩に背中からぶち当てられて、魔理沙の背骨はひびが入ったか砕けたかしたのだろう。内蔵が飛び出さないところ、一応鬼なりの手加減はしているらしい。
「こら、さっさと来い!!!手間かけさすんじゃねえ!!」
「あ、ああ、痛い!痛いいい!!っっっっ!!!………ダメです、立てません、……ううう…」
「クソ亡者が!おめえほど手間のかかるやつはいねえよ、クソが!!」
獄卒は魔理沙に近寄り、髪を鷲掴みにする。
「いぎッ!痛い!すみません、すみません!!」
そのまま魔理沙の絶叫を意に介さず、ずるずると引きずり、金網に戻して投げ落とす。
「ぐへっ!!」
「さっさと寝ろ、クソが!」
魔理沙は激痛を噛み潰しながらなんとか体をうつ伏せにして、手脚を大きく広げる。
「ふん、やり方は一応そのクソ頭でも覚えてるんだな、おい?それともあれか、生きてるときゃ股広げるのが好きだったのか、てめえは?」
「…ひ、お、覚えてないです…すみません、すみません……」
「まあいい、始めんぞクソが。道具持ってくるから、そのまま動くんじゃねえぞ。」
もし魔理沙が大人しく金網に寝そべっていたら、獄卒が離れてる隙に何かできるだろう。もちろんそのような事はしても意味はないし、その後を考えたら絶対にできないことだった。いずれにせよ、地獄に逃げ場など無い。
ーーーーー
何故、私がこんな目に遭わねばならないのだろう。魔理沙は生前努力家であったためか、己の置かれた境遇を考えずにはいられない。
確か、友人たちだって、私から見れば同じような悪事を働いていた気がする。もしかすると、その友人たちも地獄にいるのか?確かめることはできないか。人のことを考えるのはよそう。でも、私はどんな悪事を行ったんだろう。思い出せない。罪もわからず、ただ責められるだけなんて、あまりにも理不尽じゃないか。これじゃあ反省もできない。「次」に活かせない。本当は、記憶を奪われて、身勝手な暴力に晒されているだけなんじゃないか。どうしてだ。私だって、人並みの人生を送ったような気がするのに。
魔理沙は勘違いをしている。裁きによって刑に服する囚人のあるべき姿には、模範囚として規定された刑期を終えて、償いをすることがある。地上の法では様々な解釈があるが、この地獄においてそれは亡者に与えられた義務であり、「次に活かす」権利ではない。
つまるところ、生前の反省を促すことはされないのだ。罪を償った後は、魂だけを残して自己の全ては消え去る。地獄の次の生は地獄ではない。その来世に備えるための魂の浄化が地獄の責め苦の作用であり、生前の記憶、経験、反省など、それらは魂の浄化を阻むカビが如くである。
地上で行われなかった正義の復活、魂の救済。それらの題目で自らを正せるのは、「生きているうちだけ」。
亡者の行える善行とは、苦痛に踊る姿で生者を正す、それだけだ。
−−−−−
「よし、持ってきたぞ。短い命にお別れはできたか、魔理沙?」
仕事道具を持って獄卒は帰ってきた。魔理沙だけではないので、長年使い慣れた拷問道具であろう。
「網焼きも随分長いことやってるけどなあ、今も昔も亡者の悲鳴なんて変わんねえな。人間ってのは、進歩しねえのかね?どう思う、魔理沙?」
魔理沙は顔を金網に伏せたまま答える。
「…そうかもしれませんね……はい、そう思います……」
「まあ、人間の体が千年ぐらいじゃ変わんねえんだから、頭の中身も変わんねえよな。実際脳みその味なんて一緒だしよ。そして、いつの時代も地獄に落ちるバカどもがいるってことだなあ。まあいい。おい、縛るぞ、魔理沙。動くんじゃねえぞ。」
「はい……」
獄卒は魔理沙の手首足首を金網に黒縄で縛り付ける。見た目はただの黒い縄だが、これこそがこの地獄の名前の由来ともなる八大地獄最強の縄である。どんな熱にも耐える、決して亡者には解けぬ縄。まさに地獄の神器だ。
獄卒は手際よく魔理沙の体を金網に拘束した。これ自体は全く責め苦でも何でもないが、魔理沙は縄に縛られた時に「命を諦める」感覚をいつも覚える。
「実はよ、こいつを取りに行ったら、別の奴が使ったばかりの黒縄があってよ、手間省くために持ってきてやったぜ。良かったな、魔理沙。怖がってる時間が短くなったぜ。」
獄卒は古臭い壺を魔理沙の金網の横に置く。うつ伏せの魔理沙には中身は見えないが、その壺を一瞥しただけで、魔理沙の心の火種が灯り、絶叫した。
「ひ、ひぎゃあああぁぁぁ!!!やめて下さい!お願いです!せめて、殺すなら楽に殺して下さい!!!!」
「こいつを使わなかったら意味ねえだろ、馬鹿か?しょうがねえな、魔理沙のお願いとあらば、いつもより早めに『引く』しかねえな。」
「いやあああぁぁぁ…………」
獄卒は肝心の責め苦が始まると、連行していた時と比べて荒々しさが消える。鬼神長のもとで働く鬼なりに、仕事には真面目に取り組むという姿勢なのかもしれないが、余計にそれは魔理沙を恐怖させるのだ。
獄卒は壺から細めの黒縄を引き出した。それ自体が黒いだけでなく、墨のような液体が滴っている。
「別に目分量で引くのをすっ飛ばしても結果は変わらねえんだが、これも閻魔様が決めた刑罰だからな。ちゃんと手順通りにやんなきゃならねえ。おい、魔理沙?痒いところはねえか?背中を掻いてやってもいいぞ?」
「…助けて下さい……閻魔様、お願いです……私は反省しました……だから、もう十分です……」
「ぼけてんな。亡者の相手はほどほどにしとかねえといけねえな。」
獄卒は魔理沙の呻きを意に介さず、墨の縄を魔理沙の背中にまっすぐ「引く」。
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!熱い、熱いぃぃぃぃぃ!!!!!!ああぎゃあぁぁぁ!!!!!」
「さっき言っただろ。『使ったばかり』ってよ。熱が残ってるけど、たまにはいいだろ?」
獄卒は悲鳴に表情ひとつ変えずに、何度も魔理沙の背中に黒縄を打つ。それは大工が木材に墨引をするのと道具も意味も同じである。本番のための目当てをつけているのだ。
「熱いぃぃぃぃぃ!!!!!!」
「えーと、これで百八本、ちゃんと引けたな。自分の仕事ながらてめえの背中も綺麗に見えるぜ、魔理沙?」
「……あついようぅ……痛い、やめて……」
魔理沙は黒縄を離され泣きじゃくっている。その背中は「規定通り」百八本の黒線で彩られた。人間が見たら、アウトサイダーアートのようにも見える妙な紋様。鬼の感性だろう。
「ノコも壺に浸けたまんまだ。いつもこうなら楽ちんなんだがな。」
獄卒は壺から小振りの鋸を取り出す。これで魔理沙を引くのだ。
「ほら、見えるか、魔理沙?熱いって思うんなら、こいつをてめえのホトに突っ込んで冷ますっていうのもありだぞ?」
「か、かんべんしてくださいぃぃ……痛いのいやぁぁ……」
「いい返事だ。亡者の鏡だよお前は。」
魔理沙は本当に性器に鋸を突っ込まれるのかと恐怖したが、獄卒はそちらには行かず、手順通り黒線に沿って魔理沙の背中に鋸を引き始めた。
「うぎゃああぁぁああぁぁぁ!あああぁぁぁ!!!!いだいいいぃぃ!!!!」
この鋸引きは魔理沙を切断するためのものではない。次の手順のために、「少し」傷をつけているのだ。
「ぎゃあああああああぁぁぁ!!!!」
獄卒は特に喋りもせず、真剣な面持ちで背中に鋸を入れていく。なにしろ百八本ある上、少しでも深すぎたら魔理沙はすぐに死んでしまい、獄卒の評判に関わる。深すぎず、小さすぎず、痛すぎず。規定通りにきっちりと。地獄の匠の技であった。
−−−−−
「あなたが今日からお世話になる霧雨魔理沙さんですね。はじめまして。よろしくお願いします。」
魔理沙が初めてこの獄卒の鬼と対面したのは、裁きが終わり、転生をし、官庁の一部屋であった。
「お、おう。こ、こんにちは。はじめまして、だ。私が霧雨魔理沙だ。よ、よろしくな。」
何の変哲もない殺風景な地獄の鬼たちの居室。別段地獄のようには見えない、割りと綺麗な部屋。その獄卒は普通の商人のような着物を羽織り、頭を軽く下げた。佇まいは大きな体の商人のようだが、頭には二本の角が見える。そのことが魔理沙に否が応にもここは地獄だ、油断するなと告げているように感じられた。
居室の片隅の応接机で対面している。一見お客様のような感触だが、魔理沙の席の後ろには看守が立っている。
「もうお分かりと思いますが、魔理沙さんが来られたのは八大地獄が一つ、『黒縄地獄』です。それがどのようなものかは、ここでは申し上げることはできません。では一応、規定ですので、直接私から仕組みの説明だけさせて頂きます。よろしいですか。」
「ああ、いいぜ。教えてくれ。地獄を見ることなんて生きてる内はできないことだからな。生まれ変わったらみやげ話になるぜ。」
「では説明します。魔理沙さんは、これから転生前の罪滅ぼしとして、ここの地獄に置いて贖罪をして頂きます。地上で言うところの懲役、のようなものです。これが済みませんと、来世に人間に転生することができません。そればかりか、正しく転生できずに魂が消滅してしまう恐れがあります。なので、必ず規定の手段で贖罪を行なって頂きます。ここまではよろしいですか?」
「ちょっと待ってくれ。まあ大体地獄ってのはそんなところだとわかっているんだが、問題はその私の『罪』だ。転生してからずっと思い出そうとしているんだが、どうしてもこれだけは思い出せない。これでは罪滅ぼしなんてできなんじゃないか?」
「皆さんそうおっしゃいます。しかしながら、地獄に転生後、罪の記憶が消えるというのは実は閻魔様の計らいなのです。これから来世のための試練に挑もうとするのに、いつまでも前世の記憶を引きずっていたり、後悔しては辛いでしょう?本当は、生前の人格というものも、地獄での罪滅ぼしには必要ないと言われる閻魔様もおられるんですよ。でも、現在では、それは忍びないというのが大勢の意見となっております。ですから、案ずるにはおよびません。毎日、規則正しく役に励まれればよいのです。」
「なるほどな。そういう考えなのか。まあ確かに言われてみればそんな気もする。すまない、続けてくれ。」
「おわかり頂けて何よりです。では続きです。地獄で行われることは、多分想像の範囲を超えることではありません。中々時代の情勢に付いて行こうとしているのですが、最近は世の中の動きが早いですから。それでも、今この私や居室を見ていただければわかるように、なるべく時代と乖離しないように合わせております。」
「うん、私もここに来てびっくりだ。生前にどんなところで生活してたか記憶が曖昧なんだが、むしろ地上より都会的だな。あんたも、鬼なのにすごく話がしやすい。気を悪くしたらすまないんだが、獄卒ってのはもっと荒くれ者かと思っていたぜ。」
「ここだけの話ですが、地獄にくる人によって、この庁舎や応対する獄卒は違うのですよ。魔理沙さんがフランクに私とお話できるのも、きっと生前の罪がそれほどではなかったのでしょう。」
「人による、か。そうか、私もまだまだ捨てたもんじゃないってことか。」
魔理沙はここに来て、初めて少し顔を緩ませた。そういえば、生前会った鬼たちとも結構話ができていたような気がする。鬼っていうのも時代によって変わっていくんだな、魔理沙はそう感じていた。
「では話の最後です。これから、魔理沙さんが生活されるお部屋にご案内します。なにしろここは手狭な事務室ですので。そちらは地獄と環境が似ているので、多分慣れやすいかと思われます。では行きましょうか。」
「そうだな。やっぱり地獄の現場を見てみないと質問も出てこないだろうしな。ああ、わかった。じゃあ行こうぜ。」
獄卒の鬼と魔理沙は席を立ち、部屋のドアに向かった。先ほどまで付いていた看守は、おそらくもう役目を果たしたのか姿を消している。獄卒が先頭に立ち、魔理沙はその後ろを歩いていった。
さっきの部屋に比べると、廊下は結構古臭いな。ちょっとカビの匂いがする。まあいい。これで娑婆ともお別れだ。魔理沙は努めて気軽にそう考えていた。
−−−−−
時間をかけてゆっくりと魔理沙の背中に刻まれた、百八条の傷口。一本一本を引かれる度に、魔理沙は比較的「控えめな」悲鳴を上げた。実のところ、大して痛い傷ではない。この後に行われることを魔理沙はその身をもって知っており、それ故の恐怖から感覚が鋭敏になっているのかもしれない。
「うん、今日の出来はあんまり良くねえな。すまんな、魔理沙。あんまりてめえの背中を美しく出来なかったぜ。まあ、お楽しみはここからだから、気にすんなよ?」
「いたいぃぃ……痛いようぅ……あぎッ!!」
獄卒が鋸刃の先端で軽く傷口を撫でた。ちゃんと感覚が通っているか、確かめたのだ。熱い薄刃の鋸で引かれた傷は、背中の皮膚の毛細血管程度は収縮させて出血を抑えられている。
「よし、じゃあ詰めてくぞ、魔理沙。いつものように一本一本じっくり詰めてやるから、一つ終わったと思ったら数えるんだぞ。わかってんだろうな?」
「…ひぃぃぃ……はい、がんばります……」
「数がわかんなくなったら、代わりにでかい声で絶叫してもいいからな。よっこらせっと。」
獄卒は別の大きめの壺を金網の傍らに置いた。魔理沙は自分がそれを見たら恐怖することがわかっているので、顔を伏せている。
鬼は壺の中から一握りの黒い砂をつかみ出す。これを魔理沙の背中の線に詰めていくということだ。
「あっっぎゃあああああぁぁぁぁ!!!!ああああ、ああああ!!!!ああああ!!!!」
最早悲鳴とは呼べないような絶叫をあげる魔理沙。傷口に塩を塗りこまれる、そんなものではない。薄い切り口を指で押し広げられて、黒砂を入れられているのだ。この砂は黒縄と同様に、どんな熱でも燃えることはないし、溶けない。地上のどの金属よりも確実に熱を伝えるという代物だ。もし魔理沙が生前に手にしていたらきっと格好の研究材料になっただろう。それが今、前回の使用者によって熱せられているため、普段とは違う激痛が走った。
「うん、いい声だ。ちゃんと数えられたな。じゃああと百七本だ。途中で止めやがったら、砂を全部落として最初からだぞ。いいな?」
「あぎ、あぐっ、ぐぅぅぅぅ!!!!…は、、いっっ」
まるで背中に軟膏を塗るように、丁寧な手つきで傷を広げ、隙間なく砂を詰めていく。もし魔理沙が亡者でなく地上の人間だったなら、とうにショック死しているだろう。その意味で亡者と生者は別の生き物なのだ。
魔理沙は途中でやめることなく、言われたとおりに絶叫を上げ続けた。獄卒が黒砂を詰め終えた時には、背中を彩っていた赤い線は消えて、再び黒い紋様が太く刻まれている。
「よし、できたぞ。どうだ、魔理沙?俺の按摩も中々いいだろう?」
「…いだいよ……ゆるして……たすけてください……」
「そろそろ悲鳴をあげるのも限界になってきやがったか。じゃあ、魔理沙、てめえの粗末な命に最後に点火して一発でかい火柱を上げような。」
「…たすけて……たすけて……たすけてくださいぃぃぃぃ……」
「それじゃあ魔理沙、頑張って他の亡者どもに負けない炎をあげような。」
「…いやあぁぁ……だれか、たすけて…………」
魔理沙は嘆くのが遅すぎた。心の底から己の悪事に許しを請う、そういった良い意味での卑屈さが足りなかった。もう二度と、そのような事はできない。
−−−−−
私は確かに殺されたはずだ。あの激痛だって覚えている。なのに、なぜ、またこんなところにいるんだろう。ここは最初に連れられてきた穴の中じゃないか。また、生き返ったのか?どうして、どうして。
魔理沙が初めて地獄で死んだ時、絶え間なく続く苦痛の中から、突然石の床の上にいることに気づいた。それは思っていたような死に方ではなかった。時間が、記憶が巻き戻ったような感覚で最初の穴蔵にいたのだ。
そして、魔理沙がこの地獄の仕組みに思慮する間もなく、獄卒はやってきた。
「ふん、簡単に死にやがって。てめえ、貧相なのは体だけじゃねえんだな、おい?だったら、俺達がてめえを一流の亡者になれるように、鍛えてやんねえとなあ、魔理沙?」
「お、お前……さっき、私を痛めつけた、のか?」
「初めてだから頭の中身がぐちゃぐちゃになってんのか?てめえは、質問なんてできる立場じゃねえんだぞ?まあいい。最初だから教えてやる。さっきてめえは確かに死んだよ。この俺に心臓を食われてな。いろんなハツを食ってきたけどよ、てめえのはクソの匂いが染みこんでていて途中で戻しそうになっちまったぜ。」
「じゃ、じゃあ、まだ、ここは地獄なのか?嘘だろ……?」
「たりめえだろうが。あんな適当な責めでくたばりやがって。あんなのは俺様の味見だよ。これからてめえをどうやって焼くかってのな。」
「や、焼く……?まさか、本当に地獄でそんなことをしているのか……?」
「きっとおめえが生きてる間、ガキの絵本かなんかで読んだ通りだぜ。どうだ、地獄の初体験は?ま、これでてめえも晴れて亡者の仲間入りってわけだ。」
魔理沙は少し卑屈な態度で語りかけた。連行される前の獄卒の優しさに期待しているのだ。
「そんなこと、したら、また死んじゃうぜ……ほら、反省したからさ、おとなしく、この岩屋にいるからさ……見逃してくれないかな……?」
「なんだと、このクソ亡者が!!!こちとら額に汗しててめえらの罪滅ぼしを手伝ってやってるってのに、おめえはケツでも掻いて寝ていたいだと!?上等だ、このクソが!!おめえは特別に最初っから全開で傷めつけてやるわ。魔理沙、良かったな、てめえはいわゆる『スペシャル』ってやつだ。喜べよ?」
「ひ、や、やめろよ……そんなつもりで言ったんじゃない―」
「口ごたえすんじゃねえ!!おら、来い!!さっさと次の責めにいくぞ、おい!!」
獄卒は魔理沙を掴み引きずって行く。
「なんで……どうして……?会ったときは、あんなに親切だったのに……」
「そりゃおめえ、仕事だよ、しごと。役所で、がら悪い連中がたむろしてるって言われると閻魔様とかが怒るからな。この仕事に就いてから、墨だって入れられやしねえ。ま、おめえにはもうどうでもいい話だ。俺のことなんて気にしないで、せいぜい地獄の責め苦で楽しみな、魔理沙。」
「……嫌だぁ……あんまりだよ……痛いの、嫌だぁ……」
「お、いいじゃねえか。そんな感じだ、亡者ってのは。泣き叫ぶのが仕事ってな。ほら、行くぞ。」
魔理沙はまだスタートラインに立ったばかり、ゴールは遥か彼方だ。
−−−−−
獄卒は金網の下に薪を入れている。これから罪深き亡者を焼いて清めんがための準備だ。
「おめえにはわからないだろうが、ここの火力は地獄の中じゃ大したことないんだぜ。もっと、炎専門の地獄ってのがあるからな。まあ、お前にはこの程度のチョロ火で十分だろ、魔理沙。」
「あぁ……あぁ……いやだぁぁ……」
「もう会話にならねえか。まあいい。お前と話してもつまらねえしな。でもやっぱり魔理沙、てめえは炎の中が一番輝くぜ?」
話しているうちに薪の準備は終わり、獄卒は火打石を取り出した。
「よし、魔理沙。今度の命、最後の言葉だ。何か言い残すことはあるか?ま、すぐご対面だがな、気分を盛り上げる呼び水ってやつだ。」
「……お願いです。私は本当に、本当に悪いことをしてきました。きっと色々な人を傷つけました……いま、反省してます……もし、皆さんにまた会えたら、命がけで償います……だから、ですから、お許し下さい……」
「俺は坊主じゃねえけどよ、仏教で言うんだったら、まだ『我』にとらわれているつうんだろうな。全然だめだって俺でもわかるぜ。あれだろ、魔理沙ちゃんの体が可哀想だから助けてくださいーって言ってるのと同じだな。そんな罪深い魔理沙には、清めの炎だ。」
「……嫌だ!!!死にたくない!!!!だれか、だれか、たすけてください!!!!かみさま、ほとけさま、いいや、ここから出してくれるなら、どんな方でもかまいません!!!!どうか、どうか、おたすけくださ―」
「カチってな。」
獄卒は魔理沙の懇願など耳に入っていないようで、薪に火花を飛ばした。途端にこの世ならざる炎をあげて、見る間に金網上の魔理沙を炎が覆い尽くす。
「ぎやあああっっっっい!!!あああッッっッ!!!!あ、ぁぁぁ……っっっっ!!!!」
燃え立つ炎に空気を奪われて、魔理沙は息ができない。吸い込もうとするが、火炎が喉を焼いてしまう。先ほどまでの悲鳴が嘘のように、魔理沙は静かに、最大の絶叫を上げた。
そして、背中に背負った黒縄紋様が熱を持つ。黒い条痕は炎の中でも色を変えず、その隙間の肉だけが焼け爛れ、溶けて、炭となり、蒸発していく。地上ではありえぬ、地獄の業火。次第に魔理沙の体は表面から蒸発するように燃え尽きて消えて行く。その姿は、まさに黒縄と化すが如しである。
「もう聞こえねえよな、魔理沙。てめえの腹わたはクソまずいけど、肉の煙は中々いけてるぜ。腹がへる匂いだな。」
最大の苦痛が、最大の悲鳴を伴うとは限らない。静かに、黙々と、魔理沙は業火に焼かれていた。
魔理沙の体はただ静かに、燃え尽きていく。
そして肉と骨を焼き尽くした後、黒縄と黒砂がさらさらと、金網の下に落ちていった。
「この落ちていく砂が黒くなくなったら、終わりらしいけどな。魔理沙、まだおめえには全然早いようだぜ。」
黒縄、黒砂の色は亡者の罪の色なのかもしれない。もっとも、この獄卒は未だかつて色が変わるところなど見たことがなかった。
−−−−−
魔理沙は地獄行きを言い渡された後、彼岸の官吏に連れられて小部屋へと案内された。部屋の中央に、官庁に似つかわしくない、古風な木製の棺が置いてある。
「これから、お前は地獄へと転生する。地獄では、わかっていると思うが、獄卒たる鬼たちがお前を責め抜く。それにあたり、転生先の体をお前は選ぶことができる。伝統的な亡者の肉体と、生前の最盛期の肉体の二種類がある。亡者の肉体は見た目に劣るが、頑丈だ。どちらを選ぶかは、お前に許されている。どちらかを選べ。」
官吏は事務的に魔理沙に告げる。
「なんだよ、それ。そうだな、クラシックな亡者スタイルに良いイメージがないから、今の身体の方が良いな。こっちにするぜ。」
「本当に良いのか?」
「そんなにきついのか、地獄は。でもどうせ虐められるなら、慣れ親しんだこの身体が気に入っているんだ。二言はないぜ。」
「そうか。では、新たな肉体は必要ないのだな。」
「せっかくだから、その亡者の肉体ってのを拝みたいんだが。もしかしたら気が動くかもしれないし。」
「その必要はない。地獄で数限りなく見ることになる。それに、もう決定した。お前はその姿のまま地獄へ行く。」
「頭が固いな。まあいい。さっさと手続を進めてくれ。」
魔理沙はやや投げやりな口調で促した。内心では身体が変わらないことに喜んでいるのだが。
次の小部屋は、なにも無かった。何人かの官吏が四方に立ち、魔理沙を注視している。
「この部屋の中央に立て。これよりお前を地獄へと転生させる。早くしろ。」
「本当にお役所仕事だな。小粋なトークもないのか。嫌だって言っても、仕方ないしな。」
魔理沙は歩を進め、一人部屋の中央に立つ。
すると、今まで役人然としていた官吏は感傷的に言葉をかけた。
「さらばだ、霧雨魔理沙。私は、お前が生きていた時から知っている。四季様が目をかけていたからな。しかし、結局お前は、四季様の厚意及ばず、地獄行きとなった。
私は、お前が憎い。霧雨魔理沙よ、命ある人間であったときは、あれほど心優しい四季様の忠告を無視して、悪逆非道の限りを尽くした。何度この手で制裁したかったことか。だが私は、お前を裁く者ではない。だから、ここで、お前が地獄に落ちるのを見届けて慰めとする。
さらばだ。」
「お、おい!!お前、私のことを知っていたのか!?じゃあ、なんで、映姫に―」
魔理沙の言葉の途中で、足元の床は消えた。落ちていく、そう気づいた時には、魔理沙の視界は既になにも映らぬ暗闇の中にあった。
「本当に、残念だ。流星の如き人間、霧雨魔理沙よ。お前はいずれ地に落ちる運命にあったのだな。」
官吏はそう独り言ち、部屋を後にした。その後ろで、地獄への大穴が口を閉じていった。
−−−−−
魔理沙は、再び石窟の中に意識が戻った。焼け死ぬ、そう思った時に、いつもここにいる。
「…またか……。もう、十分だ……。どれだけ、焼かれたんだ……」
本当に再生しているのだろうか。もしかすると、今までのは夢か、時間が巻き戻ったのではないか。そう疑念を抱いたときに、慣れた声が聞こえた。
「おー、起きたか。地獄に生まれておめでとう、魔理沙。起きたんだったら、死ななきゃなんねえなあ?」
−−−−−
「霧雨魔理沙に判決を言い渡します。」
映姫は実に無感情に眼下の魔理沙に言葉を投げた。
一呼吸置いて、
「主文、霧雨魔理沙を八大地獄が一つ、黒縄地獄に処す。」
魔理沙は耳を疑う。ちょっと待て、地獄だと?
「お、おい?いま、地獄って言わなかったか?なんでだ、さっき、あれほど私の善行を見ていたのに―」
映姫は機械的に言葉をつなぐ。
「理由を申し渡す。お前は、生前人妖問わず、数々の盗みを働いた。己の欲を満たし、害なした者たちに報いることもせず、生きている限りその悪行を続けた。
加えて、その者たちに『死ねば返す』と妄言を重ねた。被害を受けた者たちの積年に渡る嘆き、無念は、お前の善行によっても補うことはできず、世間に与えた影響は甚大であった。
加えて、お前は自らの力量を知るがゆえに、己より弱き者どもを陵虐し続けた。人間を殺めることこそ行わなかったが、人間の姿をなしたる妖怪に対しては、殊更非道の限りを尽くした。
加えて、人間の道を自らの意志により踏み外して魔道に堕落せんと欲し、結局その目的を達することなく、世間にとっての恐怖であり続けた。
霧雨魔理沙、お前の改悛の情はこの死後の法廷においても見受けられず、私は、お前にやむなく、地獄への転生を命ずるものとする。」
魔理沙は、反論したいのだが、映姫の言葉一つ一つが生前の行いをフラッシュバックさせて思考の糸を解いてしまう。かろうじて、映姫に知人としての配慮を求めるしか無かった。
「な、なあ、映姫。私たち、今まで何度も話し合ったよな。みんなはお前のこと口うるさいだの話が長いだのして倦厭してたけど、私はちゃんと話を聞いて、行いを正していたと思うんだ。」
「私はお前と話し合ったことなどない。生前のお前に忠告はしたが、お前の意見などは一度として聞き入れたことはない。そして、お前は諫言に耳を貸さず、勝手気ままに生きてきた。そのことは、私には隠せない。この浄玻璃の鏡によって、お前がどれだけ私の言葉を愚弄していたかも分かっている。
そして今も、私はお前の言葉など聞くつもりはない。」
映姫は怒りもせず、笑いもせず、霧雨魔理沙など路傍の石のごとくに見つめている。魔理沙はその瞳を見てしまい、察した。
ああ、この人は、私になんて、気をかけていなかったんだ。私は、死んだあとにまで、孤独なんだ。
「以上をもって、本日の裁定を終了する。」
映姫は席を立ち、真横の扉に向かう。
「ま、待ってくれ、映姫、いや、四季様!!私は、まだ、あんたに言うことが―」
扉の前で足を止め、目を閉じて俯いた後、映姫は先程の閻魔然とした言葉とはかけ離れた、今までになく優しい口調で魔理沙に語りかけた。
「私は、貴女が生きている間、本当に、本当に心配しました。このままでは、私が貴女を地獄行きにしなくてはならない、それは嫌だと。でも、ごめんなさい。貴女の罪は、『救いようがない』の。私を恨んでもいいわ、魔理沙。地獄の責め苦は本当に辛いのよ。己の罪を忘れるほどに。
でも、いつか、また地上に帰ってきてね。さよなら、魔理沙。」
それは、魔理沙が生前に聞いたこともないような、優しく、しかし、悲しそうな声であった。
「映姫―」
魔理沙が声をかける前に、映姫は扉の向こうに消えた。後には魔理沙が残され、その後ろから連行せんとする官吏が近づいてきていた。
−−−−−
魔理沙は、地獄の業火で焼かれる度に思うことがある。
ああ、水が欲しい。水を、水を。
それは一瞬で絶叫に掻き消える思いだが、それこそが、魔理沙の忘れている罪だ。生前、目に入る物すべてを欲した霧雨魔理沙の、最期に得られないもの。
魔理沙は、この地獄から一滴でも水を得ることが出来れば、苦しみから解放されるのだ。しかし、灼熱の黒縄地獄に水のあるはずもない。
存在しないものを求める地獄、それがこの黒縄地獄。
最近世間では地獄の絵本が売れているらしいですね。私もブームにあやかってみました。なるべくクラシックな地獄を再現するのは色々思うところがあります。昔の人はえらくおっそろしいものを考えたものですね……
地獄に落ちるキャラクターは誰かな?って思った時に、多分0.1秒もかからずに魔理沙が浮かびました。すまない、魔理沙。まあ、カンダタみたいなものだから、多分蜘蛛の糸は落ちてくるよ。
PS
よっちゃん大好き
海
- 作品情報
- 作品集:
- 4
- 投稿日時:
- 2012/07/06 16:06:10
- 更新日時:
- 2012/07/07 01:06:10
- 評価:
- 7/10
- POINT:
- 770
- Rate:
- 14.45
- 分類
- 魔理沙
- 地獄物
- お前の罪を悔い改めなさい(予測変換)
どうせ罪を罪とも思っていなかったんだから、記憶を消されても大したことないですね。
最初の頃に比べるとずいぶんと卑屈になったけど、魔理沙は何回『転生』したんですかね? まだ一桁だったりして。
早く魔理沙の贖罪が済むことを祈ります。地上が滅びる前までに終わるといいね。
しかしその追伸にはどのような意図が……?
この手の地獄の責め苦を見るたび、色々な疑問が渦を巻きます
地獄の責め苦は昔からオールドタイプ 肉体を虐めるのはそりゃあどんな精神性を持ってしても克服できない苦痛でしょうが、それで亡者は悔いるのかとか
地獄の閻魔のいう善なる生き方は一体どんなものなのか どんな生き方も罪を犯さずにおられず、悪行以上の善行を積むか現世に留まり続けるしか地獄の苦輪から逃れる術はないのかとか
罪を問われるのならいっそ最初から生まれないことこそ無上の善行ではないのかとか(無知)
壇上の上で一方的に判決を下すお偉い裁判官様方は、閻魔としての自覚などない普通の人間として転生したら善の生き方を本当にできるのか?とか
亡者をいたぶっても、生の欲を持った生物の苦痛を上回ることはできないのではないか?とかとか…
地獄者は色々考えさせられるから好きかも…
でも死んだら拷問いやです もう一度現世に生まれたい現世への執着を捨てられない人たちだけにしてくださいませ
偽善で動きながら魔理沙を改心させれなかった四季は犬畜生以下だ。
でも、それは搾取されるがわにとっては苦痛でしかない。