Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/imta/req/util.php on line 270
『きのこ』 作者: 矩類崎
梅雨が明けてきのこは一度休眠の時期に入る。それまでの一ヶ月間、幻想郷の残り少ない住民は恐怖に怯え続けなければいけない。きのこは人を食う。そして妖怪を食う。木を貪り、漆喰を荒らし、大地を鉄を喰らい尽くす。もう誰も逃げられない。
きのこは昔は霧雨魔理沙と呼ばれていた。しかしそれも、もう、遠い昔のことなのだが。
霧雨魔理沙が死んだ。死んだ。その日は当たり前のように霧雨だった。森の中で腐って死んだ。誰も、本当の原因を知らなかった。博麗霊夢は「それ」を遠目に見た。黒と赤と紫に腐敗し、筋状の傷から緑色の膿が膿が流れていた。それはもう、どう見ても、人間ではなかった。人間ではなかった。
八雲の式神が、パチュリー・ノーレッジの到着を待つように、人々に指示した。八雲藍にも、それがなんであるのか、判らなかった。パチュリー・ノーレッジは、到着してすぐに吐瀉した。集まった一同は驚きに包まれた。咳と落ち着いた言葉以外のものが、彼女の口から出てくると、誰も思わなかったからだ。
パチュリー・ノーレッジは吐くだけ吐いて、何も判らなかった。魔力が存在しないのは判ると言った。つまり、霧雨魔理沙の死体が、少し帯びているはずの魔力が、全く存在しなかった。存在しなかった。パチュリー・ノーレッジはそう言い残し、もう一度胃液をぶちまけて、帰って行った。自分の家に帰って行った。帰って行った。胃液が帰って行った。
八雲紫がやって来て結界を張った。誰もここに近付いてはいけませんよと言った。八雲紫がやって来てそう言ったのだ。博麗霊夢が近付こうとしたので、八雲紫は霧雨魔理沙の写真をあげることにした。
博麗霊夢に、霧雨魔理沙の、腐った死体の、写真を、あげることにした。博麗霊夢は神社に帰って行った。すっかり馬鹿のようになって、帰って行った。
アリス・マーガトロイドの気が触れた。アリス・マーガトロイドが可笑しくなった。人形たちは、虚ろなご主人様を、円の中心に取り囲んで大笑いした。みんな、可笑しくなった。それからアリス・マーガトロイド本人も可笑しくなったのだ。アリス・マーガトロイドが笑った。アリスが笑った!
「魔理沙はきっと生きている!」
それ以来、魔法の森に笑いが絶えなくなった。妖精は喜んで一緒に笑った。魔法の森は笑い声で一杯だった。笑いに充ちて。笑い。
しかし霧雨魔理沙は死んでいた。霧雨魔理沙は死んだ。そして死の七日後に復活を遂げた。神社に、小さな霧雨魔理沙を、アリス・マーガトロイドが、連れてきたとき、博麗霊夢は、可哀想な魔法使いが、人形を作ったのだと、考えた。それは、とても良く出来ていた。小さな霧雨魔理沙は目をくりっと動かして鈴のようにりんりんと笑った。りんりんと笑った。可笑しくなって、アリス・マーガトロイドは笑った。博麗霊夢は嫌な気持ちがしたが微笑んだ。霧雨魔理沙が死んだのに、アリス・マーガトロイドが、人形を使って自分だけの遊びを遊んでいるのが、憐れに思えたのだった。
一週間後、アリス・マーガトロイドの持っている人形は少し大きくなっていた。少しだけ大きくなっていた。大きくなっていた。大きくなっていた。
一ヶ月後、アリス・マーガトロイドの持っている人形はもっと大きくなっていた。もっともっと大きくなっていた。大きくなって行く。どんどん大きくなって行く。それは巨大化してゆく。
掌の大きさの霧雨魔理沙は、本の大きさになり、子犬の大きさになり、更に大きくなって行く。膨れ上がった霧雨魔理沙は、日光を遮って植物を枯れさせた。人々は土を食べて生き延びた。だけどある日の朝、ある日の朝……。それよりかなり前に博麗霊夢は死んでいた。人間の中で、真っ先に餓死したのが、博麗霊夢だった。憐れな最期だった。みんな泣いた。だけどある日の朝……。
大きな霧雨魔理沙が破裂して、胞子が飛び散った。人々は知った。霧雨魔理沙は、きのこだったのだ。腐った茎や根で、地面は豊かだった。大地は豊かだった。きのこは歓びに充ちて殖えて行った。久しぶりに太陽が姿を現した。地に充ちよ。光あれ。あれー。あれー。
小さな霧雨魔理沙が沢山だった。沢山だった。沢山だった。沢山だった。沢山だった。沢山だった。
沢山だった。もう、沢山だった。霧雨魔理沙が一杯に増えてしまった。殖えてしまった。絶望的に殖えてしまった。殖えてしまった。殖えてしまった。これは、大変な事だった。少し考えれば判ることだった。大変な事だった。パチュリー・ノーレッジはまた吐いた。地面に吐いた。地に充ちよ。この胃液ったら普通じゃないと、レミリア・スカーレットは怒った。普通は気持ち悪いと思う、と十六夜咲夜が、口を押さえながら指摘したのだが、レミリア・スカーレットは自分は最後まで絶対に吐かないと言張った。でも吐いた。結局、ここの人達に限らず、幻想郷の全員で吐いた。その吐瀉物からまたきのこが生えて来た。
何という驚き!何という胃液!
きのこは、それも、霧雨魔理沙になって、今度は、人間の子供位の大きさになると、弾けた。胞子になって、飛散する。遍く飛散した。悲惨なことだった。全幻想郷が泣いた。感動したのでは無く、あまりにも悲惨なので泣いた。きのこには皆が困らされた。生えるわ、増えるわ、食うわ、増えるわ。
気が付いた時には世界はきのこだらけになっていて、歓んだのはアリス・マーガトロイドだけだった。そのアリス・マーガトロイドも、結局、きのこに侵食されて、死んだ。アリス・マーガトロイドは歓んだが結局死んだ。きのこは生きている者に寄生し、その全てを食する。生物だけでなくあらゆる質料に寄生し、不思議な力で虹色の光を出して消化してしまう。
何という胃液!何という驚き!
要約。万物は霧雨魔理沙になりつつある。
梅雨の内に、胞子は、発芽し、成育を始める。幼生体は地中に繋がっている。仮足を延ばして、移動もするが、微々たるもので、大抵は大人しい。
真夏に一度、休眠期に入り、勢い良く地面から飛び出し、晩夏を告げる。この飛び出す時の笑い声が、可憐なのだが、それを聞いて、恐怖以外の感情を持った者は、誰も、居ない。誰も居ない。
もうすぐ誰も居なくなる。
力のある妖怪は、もう、宇宙の何処かへ、旅立った。幸せな旅路には、ならないだろう。きのこに追われ、悲しい旅である。
もうすぐ、きのこが、かつて、霧雨魔理沙という名前の者だったことを、知る者も、居なくなる。何故なら、もうすぐ、誰も、居なくなるからだ。
誰も居なくなった。そうしたら、何やら、フランドール・スカーレットが、出てきた。地下室から、何か出てきた。出てきたら、全部きのこで、驚いた。しかも霧雨魔理沙だった。この頃になると、増えすぎて、季節もなく発生したから、地面に根付いてるものも、成長して走り回っているものも、進化して空を飛んでいるものも、様々だった。フランドール・スカーレットは全部壊すことにした。
流石に、ショックが、巨大、だった。フランドール・スカーレットは全部壊すことにした。
フランドール・スカーレットは、きのこを、全部、壊したが、世界は、全部、きのこだったので、結局、世界を、全部、壊してしまった。最期に、フランドール・スカーレットは、叫んだ。
「魔理沙がうざい」
しかしこれを責めてはいけない。フランドール・スカーレットは、あまりに、無知だった。知らなかったのだ。壊したそれが、霧雨魔理沙でなく、不思議なきのこに過ぎなかったことを。そのきのこは、元はと言えば、霧雨魔理沙が、特別に、魔法で、品種改良したものだった。
もう誰も居ないので、こんなことを言っても仕方ない。
もう誰も居ないので、きのこのことを知っている者もいない。
もし誰か、この言葉を見る人が居たなら覚えて置くがいい。
きのこに注意せよ。奴らはもう直ぐそこまで迫っている!!
初投稿になります。御目汚し失礼致します。腕が未熟で全然激しい物が書けず、馬鹿馬鹿しい一品ですが御容赦下さい。
コメント有難う御座います。自分の中の腐った部分がよりまろやかに進行するようで元気が出ます。
>>NutsIn先任曹長さま
始めまして。作戦には迅速さが肝要だと愚考致します。拠って爆破の有効性を再度確認致したいと思うのですが……!
>>2さま
うざさを強調しようとしたら滅亡してしまいました。魔理沙には全く困ったものです。
>>3さま
有難う御座います。ただ暗気持ち悪いだけでなく、少しでも笑って頂けたら幸いです。
>>4さま
噛む度に悲鳴を上げるなど抜群に嫌な仕様であるに違いない……
>>5さま
魔法の魅力に抗えなかったようです。それはそうと、魔理沙きのこは別の用途にも使えるみたいです。
矩類崎
- 作品情報
- 作品集:
- 4
- 投稿日時:
- 2012/07/07 18:19:43
- 更新日時:
- 2012/07/15 03:54:22
- 評価:
- 7/7
- POINT:
- 680
- Rate:
- 17.63
- 分類
- 魔理沙?
増殖する魔理沙の恐怖!! 大して役に立たなかった幻想郷の面々!!
魔理沙は煮ても焼いても食えないから、発見次第、焼却処分だな。
我々にはフランちゃんがいるのだから。