Deprecated : Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/imta/req/util.php on line 270
『博麗の呪い』 作者: NutsIn先任曹長
幻想郷。
その名の通り、幻想の存在となった妖怪、精霊、神、その他諸々が暮らす理想郷。
その幻想郷を覆う博麗大結界。
これは、博麗の巫女と呼ばれる、幻想郷最強の存在によって守護されている。
先ごろ、新しい巫女に代替わりし、前の巫女であり現在の巫女の母である博麗 霊夢は引退後に地底観光に出向き、そこで不慮の事故にあい、夫を亡くした。
現在、霊夢は地霊殿に身を寄せ、隠棲生活を送っている。
幻想郷は、今日も平和である。
では、明日は、明後日はどうだろうか?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「い……っ、いやぁぁぁぁぁ……。許して……」
ぶひぶひ。
「あ、あなたのトラウマを握れば……、ペットとして調教しやすくなると、ひっ」
がぶっ。
「あっい、たあああああっ!! 痛いですっ!! 痛いっ!! やめて、良い子だから……」
がぶっがぶっ!!
「イギャアアアアあっ!! やべ、やめろぉぉぉぉぉっ!! ご主人様の命令が聞けないのがあ゛ああっ!!」
ぶひ〜、ぶひ〜!!
がぶがぶ、むしゃむしゃ、がつがつがつ……。
「おぉぉぉがっはあああぎゃがばらがはがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぅぁぁぉぇあぁぁぁ……」
ぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひ……。
ぐちゃぐちゃはぐはぐもっちゃもっちゃ……。
あたいは仕事道具である猫車の点検を終えた。
車輪は快調に回るし、荷台はピカピカ。肉も骨片も無し!!
あたいは、不意に、猫車の荷台に乗りたくなった。
ちょこんと荷台に体育座りをしてみる。
うん、狭いね。
座ったまま、こてん。
無理すれば、全身が荷台に収まるかにゃ?
ぐぐ……っ。
も、もうちょっと、縮こまれば……、ぐる……じい……。
いだい……、げど、我慢……。
みち……みち……。
めき、めきめき。
ぶちぶちっ。
ぐぐっ、ごきっごきっめきぼきぐしゃめきめきょぐちゃごちゃ……。
うにゅ〜、ようやくお仕事終わったよー。
さぁ〜て、いつもの温泉に着いたし……。
うにゅ? 何すんだっけ……?
うにゅっ!!
そうだ!! お風呂だ!!
早速、私は服を脱いだ。
さとり様からいつも言われているように、ちゃんと畳んで、と。
お燐からいつも言われているように、飛び込んだりせずに、そっと……。
ふぅ〜。
ちょっと熱めのお湯に、疲れが溶け出すよう……。
ぐつぐつ。
ぐつぐつ。
ぐらぐら。
ぐらぐら。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
幻想郷の管理人である妖怪の賢者、八雲 紫は地霊殿の火災現場に来ていた。
火元は、元・博麗の巫女である霊夢が住んでいた離れである。
紫は鬼が率いる自警団が現場検証をしたそこを、自分の目で検分した。
石造りの建物は、屋根が焼け落ち、
高熱は窓の鉄格子も鋼鉄の扉も無残に溶かしていた。
扉に鍵はかかっていた。
これは、霊夢を最後に『使用』した、さとりの人型に変化できるペットの証言と一致する。
建物内は消し炭と化しており、霊夢の遺体の検証どころか、その存在の有無ですら確認できない。
紫の目線は、離れから焦げた渡り廊下を経て、やはり無残に炎上した地霊殿本館に移動した。
一通り、火事場見物を済ませた紫は、続いて殺人現場に向かった。
殺『人』と便宜的に言っているが、殺されたのは妖怪である。
最初は、地霊殿当主の古明地 さとりが殺された豚小屋である。
さとりは衣服を剥ぎ取られ、餌箱で食欲旺盛な豚共に食い殺されていた。
独特の獣の匂いに、新鮮な血の匂いが混じっている。
もう遺体も豚もいないが、血塗れの餌箱が残されていた。
かつて、この餌箱にぶつ切りにされた霊夢の夫が放り込まれて豚の食欲を満たし、
霊夢は床に這いつくばらされて豚に夫だった餌が食われる光景を見せ付けられながら、その豚達の性欲の処理をやらされていた。
それらを指図して、笑顔で眺め、霊夢を屈服させたさとりが、その現場で、それらの凶行を行なった豚達に食われるとは……。
次に紫が向かった地霊殿本館の裏手では、誰かが号泣する声が聞こえてきた。
建物が無くなったから、声がよく通った。
「お燐ちゃぁぁぁぁぁんっ、何故、誰が、こんな事をぉぉぉぉぉっ!!」
紫の式神、八雲 藍のそのまた式神の橙である。
橙と火車の火焔猫 燐は、同じ猫の妖であることから仲が良かった。
そのお燐は、自身の愛車である猫車の荷台に、無理矢理詰め込まれていた。
遺体収容時に猫車をひっくり返すと、まるで押し寿司のように四角くなった遺体がすっぽりと出てきたと、自警団の鬼が言っていた。
橙はお燐の猫車が置いてあったらしい場所に、そっと地上で摘んできた花々を供えた。
紫はそれを見届けると、その場を後にした。
地霊殿から少し離れた場所にある岩場。
ここは、八咫烏の力を得た地獄鴉の霊烏路 空がちょくちょく寄る場所であり、
彼女の遺体が発見された現場でもある。
「紫様、こちらです」
一足先に来ていた紫の忠実な式神、八雲 藍が恭しく出迎えた。
藍の指差した先に、小さめの温泉があった。
ここは、殺されたお空のお気に入りの場所だそうだ。
「霊烏路 空は、この温泉に浸かって死んでいました」
湯気が立ち上る温泉。
傍に畳まれた女物の衣服。
紫も見覚えがあるから、お空の物に間違いないだろう。
衣服の傍には、紐のついた空の籠があった。
この籠でお空は好物のゆで卵を作ったのだろう。
この煮えたぎる温泉で。
紫は、藍にお空の衣服を持ち上げさせた。
その下から、いくつか卵と緩衝材が入った籠が出てきた。
紫は卵の一つを手に取り、下に落とした。
ぐちゃっ。
生卵だ。
お空はここにゆで卵を作りに来たのだろう。
それが何故、自分自身の水炊きにメニューを変更したのだろうか。
目下のところ、今回の事件の最重要容疑者は、生死不明の博麗 霊夢だ。
彼女には動機がある。
博麗の巫女を引退した霊夢の身柄は、本人には内緒で紫にオークションに掛けられ、地霊殿が競り落とした。
入金を確認した紫は、霊夢とオマケである霊夢の夫を地霊殿に行くように仕向け、程なくして『納品』されたとの連絡が来た。
さとりはずいぶんと厳しい『調教』を行なったようだ。
紫はスキマ越しにその光景の一部を見物したが、なかなかに楽しそうだった。
紫が豚小屋の件を知っているのは、その時に覗きを行なったからである。
前に一度、紫はさとりに、霊夢を飼っている離れに通されたことがあったが、そこには、かつて一世を風靡した巫女の面影はなかった。
霊力も能力も危機回避能力――いわゆる『勘』も失った霊夢は、見事なまでに、さとりのペットに成り下がっていた。
さとりの命令一つでその場で裸になり、紫に奉仕を行なって見せた。
さとりから許可を貰った紫は多少無茶な扱いをしたが、霊夢は悲鳴の代わりに嬌声を上げた。
その後、次回も霊夢で紫をもてなす事を約束したさとりと別れたが、これがまさか今生の別れになるとは……。
『力』の無い、ただの人間の霊夢がどうやってさとりの洗脳を解き、脱走して火を放ち、妖怪三人を殺めたのか……。
まだ分からない事だらけだが時間を掛ければ、そのからくりも解けるだろう。
紫は藍と橙を引き連れ、霊夢捜索の準備をするために地上に帰還した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
博麗神社に向かう八雲一家。
真っ先に彼女達の目に飛び込んだのは、
神社の敷地内にある温泉から噴き出す無数の地霊であった。
旧地獄の地霊の封印が解けたのか!?
地霊の管理をしていた地霊殿は、現在機能していない。
地霊の封印や駆除は普段はお燐が、あと博麗の巫女がたまにバイトでやっていた。
しかしお燐は既にいないし、今から巫女を派遣しても間に合わない。
地底に無数に仕掛けた監視用式神からの報告では、既に旧都は地霊の大群に蹂躙され、犠牲者が多数出ている。
地霊殿跡地に屯していたさとりのペット達など、真っ先に全滅した。
もう、旧都へ通じる橋の近辺にも、地霊がちらほら見え始めた。
地上へ地霊が溢れるのも時間の問題となった。
妖怪の賢者である八雲 紫の決断は、迅速かつ確実なものであった。
その時、
旧都を仕切る鬼の星熊 勇儀と配下の鬼達は旧都を捨て、
橋姫の水橋 パルスィが管理する大橋まで後退して、
難民を救うために地霊と戦っていた。
その時、
土蜘蛛の黒谷 ヤマメおよび彼女の同族である土蜘蛛衆、それに釣瓶落としのキスメは、
難民の第一陣と共に地底を脱出するために歩を進め、
地上へ続く出口の光をようやく目にした。
その時、
地底のあらゆる箇所に仕掛けられた爆薬の、
電子機器と式神の複合式起爆装置が一斉に起動した。
全て、正常に、確実に、起動した。
その時、
幻想郷は、
地震に襲われた。
地上の損害は、軽微だった。
そして、温泉や間欠泉地下センターの大規模な地霊の噴出は、止んだ。
それからしばらくして、
地底世界の壊滅が確認された。
生存者は、現在まで確認されず。
地霊殿での事件の現場も、証人も、捜査資料も、何もかも、
忌まわしき記憶と共に、土砂に埋もれた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
地底世界消滅の騒動が一段落して、
紫は、この大異変にもかかわらず、
まだ一度も博麗の巫女を見かけていない事に気が付いた。
博麗神社。
境内では、巫女は掃除をしていなかった。
素敵な賽銭箱は、相変わらず空だった。
居住部では、巫女はお茶を飲んでいなかった。
寝室では、巫女は惰眠を貪っていなかった。
倉庫では、巫女はいなかったが、代わりに二つの人影が斃れていた。
紫は、その二人は、封獣 ぬえと二ッ岩 マミゾウであり、
二人とも既に死んでいることを確認した。
二人とも、呪符による能力封じをされた後、急所に退魔針を突き立てられていた。
符も針も、博麗の巫女の得物だ。
この時点で、博麗の巫女も捜索、捕縛の対象となった。
紫は、霊夢と巫女の母娘の捜索は難航すると予測した。
殺されたのは物事を正体不明にする能力者と、外界でも名の知れた変化の達人である。
何らかの方法で、二人の能力を奪って我が物としている可能性がある。
そして、霊夢は博麗の巫女だった頃は『空を飛ぶ程度の能力』――あらゆる干渉を受け付けない能力を持っていた。
巫女を引退して能力を失ったからこそ、さとりの精神攻撃と調教に屈したのだが。
最悪の場合、新しい巫女を用意しなければならない。
紫が今後の方針を模索している時、
右腕である藍が現れ、
地霊殿の生き残りが永遠亭に収容されたとの報告をした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
古明地 こいし。
地霊殿当主、古明地 さとりの妹かつ唯一の肉親である。
そして、地霊殿の惨劇の、唯一の生き残りである。
永遠亭の集中治療室では、当主、蓬莱山 輝夜の側近兼、診療所の所長である天才薬師、八意 永琳が自ら、こいしの治療に当たっていた。
こいしの全身の火傷は酷く、永琳ですら手こずる程の重症であった。
頭髪と皮膚は焼け焦げ、ずる剥け、血膿を吹き出し垂れ流し、閉じたサードアイなど炭の玉と化していた。
こいしは地霊殿の火災で大火傷を負いながら、無意識操作能力で周囲の目を誤魔化し、地底が埋め立てられる寸前に脱出したのだろう。
逃げ出したということは、犯人の顔を見たのか?
紫は永琳から、こいしへの質問を、一つだけ許可された。
なら尋ねる事はこれだ。
誰にやられた?
こいしは絶叫した。
治療の最中上げていた悲鳴よりも大きな声で。
怪我の傷みなど物ともせずに、手足をジタバタさせて。
「れいむぅぅぅぅぅ!! れいむ、れいむ、れいむぅぅぅぅぅっっっ!!!!! れいむ!! れいむ!! れいむぅ!! れいむ、れいむ、れいむれいむれいむれいむれいむ……」
永琳は助手の因幡に命じて持ってこさせた、大量の鎮静剤を投与した。
こいしは、なおも、れいむれいむと呟いているが、やがて声は小さくなり、大人しくなった。
紫と永琳がこいしの治療について話している最中、また急患が担ぎこまれた。
永琳は、全てを投げ出して、新たな患者の元へ走った。
やはり大火傷を負い、ストレッチャー上の血膿塗れの包帯でグルグル巻きの患者には、大量の氷嚢が載せられていた。
絶叫。
怒号。
泣き声。
あの患者が蓬莱山 輝夜でなければ、理知的な永琳があそこまで取り乱すことは無かっただろう。
不死の姫である輝夜は、同じく不死の蓬莱人である藤原 妹紅と、毎度おなじみ殺し合いをしていた。
今日は妹紅が圧勝した。
輝夜は火達磨となって死亡。即、リザレクションした。
だが、本来なら傷一つ無い状態に蘇るはずが、死亡する寸前の、焼け爛れた状態で復活したそうである。
以上が、輝夜を担ぎ込んだ妹紅と永琳、医療スタッフの会話から分かったことである。
紫は、たった今、どよめきが起こったストレッチャーのほうを見た。
輝夜が死んだ。
遺体は消滅し、汚れた包帯が人型をしばし維持した後、ペシャリとへたった。
程なく、そのストレッチャーの上に光の粒子が集まり――、
「ギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァァァァッッッ――――!!!!!」
――皮膚が捲れ炭化し、その下の赤身を露出した人型が、騒音を口と思しき穴から迸らせながら出現した。
この調子では、永琳は輝夜の対応に掛かりきりになり、もうこいしから情報は引き出せない。
どころか、新たな異変を目の当たりにしてしまった。
紫は暇を告げ、取り乱す師に代わって返事をした弟子の鈴仙・優曇華院・イナバに軽く手を振るとスキマに身を潜らせた。
それから一日も経たず、
永遠亭は壊滅した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
集中治療室。
人型に血膿の染みのついたベッド。
その傍らに倒れた人型兎妖怪の死体。
床に落ちている、刃こぼれだらけのメスで顔面を切り刻まれたようだ。
このナース服の死体には本来は首から下げている、プリペイドカードや電子鍵の機能を持った、永遠亭スタッフのIDカードが無かった。
地下実験区画行きのエレベータ前。
包帯が巻かれた小柄な人影がフラフラと、閉ざされたエレベータの扉の前に立った。
扉には、『L5以上の関係者以外立ち入り禁止』と書かれている。
人影は、『鈴仙・優曇華院・イナバ』と辛うじて読める、血塗れのIDカードを読取装置にかざした。
すっ、と扉は開いた。
人影がエレベータに乗り込むと、すっ、と扉は閉まった。
扉の上にある、エレベータの階数表示の光は、最下層で停止した。
八意 永琳は、研究室で苦悶していた。
ちらと、傍らのベッドで死んだように眠る、忠誠を誓う姫を見る。
今は薬で無理矢理眠らせている。
目が覚めたらショックで死んでしまう。
ここに運び込んでから、もう何度も輝夜は死んで、死ぬ直前の状態でよみがえった。
データを取るため、止むを得なかった。
永琳は月や外界の医療機器を駆使して、輝夜のリザレクション能力の不全の原因を探っていた。
これは、ゲームソフトで言うところの安全圏でのセーブデータが、『詰んだ』状態の物に上書きされているとしか思えない。
そんな『蓬莱の薬』の呪いのプログラムを改竄できる存在など、
神――。
それも幻想郷に住まう者達よりも上位の神ぐらいしか――。
ふと、永琳は顔を上げた。
部屋の出入り口に、ヒトの気配。
そこには、古明地 こいしが立っていた。
こいしは、嗤っていた。
包帯で覆われて表情は分からないが、確かに、嗤っていた。
永琳は無意識のうちに弓を取り出し、必殺の矢を放った。
矢は狙い過たず、こいしの額を射抜いた。
こいしは嗤いながら後ろに吹っ飛んだ。
その先には外界の機器が、配線むき出しの状態で設置されていた。
こいしは『酸素』と書かれたボンベを数本道連れにしながら、高圧電流の流れる配線を引き千切りながら、相変わらず嗤いながら倒れ、息絶えた。
倒れた拍子にバルブの壊れた酸素ボンベ。
切断された配線から迸る火花。
永遠亭地下、最下層。
危険な薬物、細菌類を扱う実験区画。
爆発、爆発、爆発。
破壊の焔は厳重に封印されたウィルスの培養室や、危険薬物の保管庫の扉を解き放ち、机や棚をひっくり返した。
床に落ちた瓶は割れ、中身の液体は床にできた亀裂に吸い込まれていった。
そんな瓶の一つには、『植物成長促進薬』と書かれたラベルが貼られていた。
最下層の崩落によって、倒壊する永遠亭。
永遠亭自慢のカフェテラス。
厨房では、大勢の因幡達が丁度ランチの仕込をしていた。
破断したガス管が過剰な炎を発し、ランチメニューを冷しゃぶから血の滴る因幡厨房員の丸焼きに変更させた。
込み合ってきていた待合室はパニック状態になり、我先にと出口に殺到し、そこで死傷者を大量生産していた。
自ら殺めた死体の山がバリケードとなり、避難は遅々として進んでいなかった。
入院患者達がベッドに横たわる病室。
病棟の倒壊に恐慌状態になった看護師の因幡は、手を貸していた患者を放り出して逃げ出した。
松葉杖を手放してしまった患者は、逃げようとする他の患者達の車椅子に轢き殺された。
健康な有力者が入院しているVIPルーム。
だだっ広いベッド。
肥えた人里の富豪の上で腰を振っていた美女は、下を富豪の巨根に、上を降ってきたシャンデリアに貫かれた。
下半身を押しつぶされた富豪は、程なくして降り注ぐ瓦礫と抜け落ちた床にかき混ぜられ、周囲のゴミと一体化した。
輝夜と永琳が月から持ち込んだ、オーバーテクノロジーの産物を収めた倉庫。
強固な倉庫も土台が沈み込んだことにより、易々とひっくり返った。
そして、安全対策がなされているはずの品々も易々と壊れ、迸る破壊の波動は、永遠亭の辛うじて倒壊を免れていた家屋を破壊した。
藤原 妹紅は、因幡 てゐ等因幡達と入院患者を連れて永遠亭を脱出した。
迷いの竹林を一足先に抜けた妹紅はてゐ達を待った。
来た。
てゐは背中と両脇に年端の行かない子供の入院患者を抱えて疾走していた。
あと少しで竹林を抜けようとしたその時。
てゐ達の姿が消えた。
てゐ自らが掘った落とし穴に嵌ったのだ。
土壇場で運に見放されたてゐ。
彼女達の小さな身体は、急成長した竹に貫かれて天高く持ち上げられた。
子供の患者達は即死したが、妖怪のてゐは散々苦しんだ後にようやく死ねた。
妹紅は落ちて来た人参のペンダントを握り締めると、永遠亭の生き残り達と、なおも醜く成長を続ける竹林を後にした。
紫は、危険な薬物、細菌の流出が確認された永遠亭を中心とした、迷いの竹林一帯を立ち入り禁止にした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
もし、この時点で八雲 紫が適切な手を打っていれば、
少なくとも、
幻想郷住民の全滅だけは避けられたかもしれない……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
紅魔館。
当主、レミリア・スカーレットは、メイド長の十六夜 咲夜の淹れた紅茶を賞味しながらアルバムを眺めていた。
写真の中央に写る、憮然とした表情の変形巫女服の少女。
前・博麗の巫女である、博麗 霊夢。
レミリアは霊夢のオークションで最後まで地霊殿と争った。
結局は競り負けてしまったが、今でも霊夢への未練は断ち切れていなかった。
レミリアは地霊殿の大火災の報は聞き及んでいるが、いずれ霊夢に会えそうな予感を感じていた。
きっと、これは、運命。
再び見えることが叶ったら、
地下の物理的術的に強固な牢屋で飼ってやろう。
妹のフランドールの居室と同等の部屋である。
多少無理してでも霊夢の血を飲み干し眷属にすれば、地霊殿のようなヘマはないだろう。
わが友、霊夢よ。
再会を心待ちにしているぞ。
紅魔館、正門。
門番の紅 美鈴は門柱にもたれ掛かって寝ていた。
風が吹いた。
ぎぎぎっ、ときしんだ音を立てて僅かに開く門。
ズルズルと崩れ落ちる美鈴。
門柱に、赤黒い線が引かれた。
紅魔館の誇る地下の大図書館。
「むきゅむきゅ……」
そこを塒とする魔法使い、パチュリー・ノーレッジは目当ての本を本棚から取ろうと、本が山積みになった床を縫うように歩いた。
こけっ!!
「むぎゅっ!?」
パチュリーは本の山に躓いた。
そして、そのまま目指していた本棚に激突した。
どさどさどささ――っ!!
「むぎゅっ!? ぶぎゅえっ!! ぶぎゃっ!!」
司書を務める小悪魔は、主であるパチュリーの災難を聞きつけ慌てて飛んできた。
「こあっ!? こあこあこあ〜!!」
麓からマグマの如き赤い液体が湧いてくる本の山。
小悪魔は本をどけようと近寄った。
ぐぐぐ……っ。
「こぁ?」
物音に視線を山よりさらに上に移す。
パチュリーを殴り殺し、圧死させた無数の分厚い本がしまわれていた本棚。
それがバランスを崩し、まるで小悪魔が主の元に来るのを待っていたかのように――・
「こ――ごあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁ――――」
ずどおおおおおぉぉぉぉぉ…………ん。
巨大な塔のような本棚は、小悪魔とパチュリーの墓と化した本の山を押し潰した。
紅魔館の大広間。
通常はここでパーティー等の行事を行なうが、
現在、ここにいるのはたったの三人。
当主のレミリア、幽閉されていた地下室から出された妹のフランドール、そして従者の咲夜である。
特別に咲夜も同席を許され、三人でティータイムとしゃれ込んでいた。
だが、テーブルの茶器は四人分あった。
「霊夢……、早く、いらっしゃい」
「ねぇお姉様ぁ、霊夢が来たら壊してい〜い? あの巫女上がりのババァ、地霊殿をヤッたっていうじゃな〜い」
「まだ駄目よ。八雲が探しているそうだから。まぁ、引き渡すまでは遊んでもいいわよ。私の後でね」
「ちぇ〜、咲夜〜、お茶、お代わり〜」
「はい妹様、只今――」
がしゃーんっ!!
陶器が砕ける音。
立ち上る湯気と香り。
咲夜がティーポットを落としたのだ。
従者の粗相に、レミリアとフランドールは何も言わなかった。
絶句したともいう。
「あ゛……、あ――」
手の指は節くれ立ち、
顔はこけて皺だらけになり、
銀髪は白髪となって抜け落ち――、
――咲夜の身体は塵となって崩れ落ちた。
後には襤褸切れと化したメイド服と、
まるで数百年間手入れしていないかのような、くすんだ銀のナイフと、
錆付き朽ち果てた懐中時計が残された。
咲夜の『時間を操る程度の能力』が暴走させられた!?
レミリアとフランドールは辺りを見渡した。
広間全体が殺気に満ちている。
みし……。
みし、みし……。
何かが軋む音がする。
ここにきて、ようやくレミリアはこの耳障りな音の意味するところを理解した。
咲夜が死んだことで、
紅魔館の拡張された空間が、
元に戻りつつある。
ぼこおぉぉぉっ!!
崩壊した天井が、原型を留めたままスカーレット姉妹を押しつぶさんと降ってきた!!
キュッとして――、
フランドールは天に右手を掲げ、握り締めると――、
――ドカーンッ!!
――『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』で『目』を破壊された天井は、細かく粉砕された!!
ぱら……、ぱらぱら……。
無害になった瓦礫が優しく広間に降り注いだ。
そして、無蓋になったために、陽光が優しく広間に降り注いだ。
吸血鬼姉妹には全然優しくないが。
「ガ――!? ギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アァァァァァ――――ッッッ!!!!!」
直射日光を浴びたフランドールは悲鳴を上げながら炭になり、灰になっていった。
そんな状態でもフランドールは太陽を握り締めるように、破壊しようとするように、天空に右手を広げ――、
ぼろ……。
――指がへし折れ、崩れ、握り締めることはできなかった。
静寂。
静かに、フランドールの手が、足が、色とりどりの宝石を鈴なりにした翼が、ブロンドの髪が、
ぼろぼろ、ぽろぽろと、塵となっていった。
妹の首がもげ、砕け散ったのを見届けたレミリア。
彼女は辛うじて日の光の差し込まぬ物陰に逃げ込むことができていた。
レミリアは、己の運命を見た。
「霊夢、わが友よ、わが下僕に相応しい女よ――」
レミリアの手には、咲夜の形見となった銀のナイフ。
「自分の運命ぐらい、自分でケリを付けさせて貰うぞ」
銀のナイフは、レミリアの薄い胸を易々と貫いた。
からん。
ナイフが、レミリアの成れの果てである灰が積もった床に落ちたのを合図に、
紅魔館は、一気に崩落した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
幻想郷が、
狂い始めた。
人が、妖が、
自然が、
幻想郷の森羅万象が、
狂い、狂い、狂った……。
各地で異常現象、原因不明の騒乱が確認され、
有力勢力はそれらの対応に忙殺された。
あるいは、対応すらできずに壊滅した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
冥界。
白玉楼。
客間に敷かれた布団の上で、老人が血まみれになって事切れていた。
死体の周りを漂っていた幽霊らしき半透明の物体は、やがて消えた。
広い屋敷内を逃げ惑う、白玉楼で働く幽霊達。
彼等を追い、斬り、滅しているのは、一人の少女。
ボタンの千切れとんだブラウスを羽織っただけの少女。
半笑いの虚ろな表情の少女。
歩くたび、はだけた胸の先端の桃色が覗く。
歩くたび、無毛の秘裂から白い粘液が溢れ、乾いた血がこびり付いた太腿を伝い、穢し、一部は床に雫をたらした。
白玉楼の庭師にして剣術指南役、魂魄 妖夢は、剣術の師であり実の祖父である魂魄 妖忌に犯され、純潔と正気を失った。
一足先に狂っていた祖父を殺した妖夢は殺霊鬼となり、白楼剣と楼観剣を正気の時以上に正確に力強く振るい、屋敷内を徘徊した。
賑やかな楽の音が漏れ聞こえる座敷。
妖夢は静かに、いつものように、慌てずに襖を開けた。
そこでは、幽霊楽団、プリズムリバー三姉妹の演奏と卓いっぱいの酒食を楽しむ白玉楼の亡霊姫がいた。
西行寺 幽々子は先代庭師の妖忌が孫娘を呼びに行った後、二人を待ちきれずに宴を始めていた。
妖夢と厨房の料理担当の幽霊の料理に夢中になっていたため、妖夢が座敷に入ってきたことに気付かなかった。
気付いたのは、三姉妹の末っ子であるリリカが妖夢に、彼女が担当するキーボードごと一刀の元に切り伏せられて、演奏が中断したときだった。
もぐ……。
幽々子は、頬張った料理を咀嚼した。
妖夢は両手で握っていた楼観剣から左手を離し、くびれと丸みを帯び、女らしくなってきた腰に装着した白楼剣を抜き、メルランの豊満な胸の谷間に突き立てた。
もぐ……。
幽々子は、従者の非現実的な演舞を見ながら、なおも料理を咀嚼した。
妖夢は右手の楼観剣を振り上げた。
三姉妹最後の生き残り、長女のルナサは苦楽を共にした愛用のバイオリンを頭上に掲げた。
刀をそれで受けようというのか。
愚か。
振り下ろされた刀身は楽器を両断し、ルナサの頭の中程まで食い込んだ。
やはり片手では真っ二つは無理だったようだ。
ごくん……。
幽々子は噛み潰され、唾液と混ぜ合わされた料理を息と共に飲み込んだ。
妖夢は二刀を握り締め、己が主のほうを向いた。
ここで初めて妖夢に感情が浮かんだ。
喜び。
極上の獲物を前に愉悦を覚えていた。
「――」
幽々子が何か言おうとした。
遅い。
皿を蹴散らし、料理を踏み潰しながら二百由旬の卓の上を疾駆し、幽々子の首を刎ねた妖夢の一連の動作に比べれば。
花をつけない庭一番の大木である西行妖を始め、植物の悉くは枯れ、朽ち果てた。
人も幽霊もいなくなり、ただ、ハラキリをした少女剣士の亡骸のみが残された白玉楼。
顕界と冥界を繋ぐ、長大な階段。
その進路を塞ぐ、巨大な門。
かつての『春雪異変』の折に紅白巫女と黒白魔法使いが力づくで押し通った時にできた損傷の補修痕が見られる巨大な扉。
軋むような音を発して、扉は閉ざされた。
門は消え、階段は消え――、
幻想郷の冥界へ続く道、
いや、冥界そのものが、消えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
地底、永遠亭、紅魔館、そして白玉楼。
幻想郷で幅を利かせていた勢力が、次々と潰えていった。
紫は仙界の道場で暮らす『神霊廟』と呼ばれる勢力の頭、豊聡耳 神子と、この度の厄災の対策についてホットラインで会談をしていた。
にわかに電話の向こうが騒がしくなった。
『芳香、止め……!!』だの『青娥殿が!!』だの『ヤンシャオグイ』だのといった言葉が切れ切れに聞こえてきた。
何かが暴れる音、弾幕が放たれる音、暴力の音、音の暴力。
ぷっ……、つーつーつー……。
たった今、またひとつの勢力が壊滅したようだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
幻想郷上空を飛翔する聖輦船。
八雲 紫は、守矢神社、命蓮寺の面々と緊急の会合を開いていた。
現在までに判明していることを、藍は船内の会議室備え付けの黒板に書き連ねていった。
今回の惨事には、現役および先代の博麗の巫女が関与している。
現在、全力で二人の行方を捜索しているが、その足取りは杳(よう)として掴めていない。
足取りだけでなく、彼女達の『攻撃』が何かすら理解できていない。
後は、全員が思いつきや根拠の無い推論、感情論を適当にわめき散らした。
次は自分達ではないかと、彼女達も不安なのだ。
幻想郷のために尽くした霊夢を用済みになったからと売り払ったから、復讐されてこうなった。
誰かの発言で、会議室が途端に静まり返った。
そんな事、彼女達だけでなく、幻想郷の住人達全員が察しているだろう。
そして、誰一人それに反対しなかったことも承知しているだろう。
発言者も含めて。
今はそんな事を言っている場合ではない。
現在進行中の問題を、皆で力を合わせて解決しようではないですか。
立ち上がり、凛とした声を会議室に響かせたのは、命蓮寺の住職、聖 白蓮である。
彼女は霊夢のオークションに参加していない。
だから霊夢達の復讐の対象にはならないと、心のどこかで思っているのかもしれない。
先程の問題発言は、命蓮寺の連中が座っている辺りから聞こえたような……。
言うまでもなく、霊夢夫妻が罠にかかりに地下に出かけた時、彼女達も黙ってみていた連中の同類である。
そして、博麗神社で殺されていたぬえとマミゾウは、命蓮寺に厄介になっていた妖怪である。
命蓮寺だけ安全ではないということは、自明である。
続いて声を上げたのは、守矢神社の二柱の神の一人、八坂 神奈子である。
現在、守矢信者および山の天狗達を総動員して、博麗の巫女達の捜索と有事の備えをしているとの事である。
残存勢力で、最大の人員を要する妖怪の山。
天狗の組織力、河童の技術力、神々の加護による農業力。
そして水や鉱物、木材といった豊かな山の恵み。
自活可能な勢力である彼女達は、いざとなれば山を封鎖して、厄災をやり過ごそうとでも考えているのだろうか。
守矢も霊夢オークションには参加していない。
だが、霊夢を獲得した地霊殿とは浅からぬ付き合いがあり、
かつて霊夢をライバル視していた守矢の風祝、東風谷 早苗は、霊夢の地霊殿でのペット生活を伝え聞いて、腹を抱えて嗤ったそうである。
こんなことが無ければ、近々、地霊殿を訪れ、霊夢で遊ぼうかと考えていたそうである。
当然、霊夢から信頼され、それを裏切り陥れた紫は、霊夢から一番恨まれているだろう。
微妙な空気になった会議室に、ノックの後、入室した者がいた。
龍宮の使い、永江 衣玖である。
龍神の詔を伝えにきたのである。
息を飲む一同。
「龍神様の言葉を伝えます」
ごくり。
「終わり、だそうです」
すたすたと退室する衣玖。
たった一言の意味を咀嚼して、分かりやすくするのに、しばしの時間が必要だった。
龍神様が幻想郷を見限った。
そういう意味に解釈した一同。
不毛な会議を切り上げ、直ちにそれぞれの本拠地に帰っていった。
聖輦船から飛び立った衣玖は、人里の閑静な住宅地に向かった。
20世紀末から21世紀初頭の日本の佇まいを髣髴とさせる一角。
そこにある文化長屋(アパート)。
衣玖は外階段を上り、『永江』と書かれた表札のかかった二階の一室の前に来ると、鍵を開け――既に開いていた――、中に入った。
この部屋は、衣玖が人里に龍神様の言葉を伝えたり空気を読んだりする拠点として借りているのである。
あと、衣玖の個人的な、それ以外の用途にも。
少々乱雑なキッチンとユニットバスの部屋に挟まれた狭い廊下を抜け、リビング兼寝室に入ると、帽子も脱がずに床に散らばったゴミや洗濯物や雑誌を避け、ベッドに歩を進めた。
ベッドの布団は、こんもりと盛り上がっていた。
衣玖はその盛り上がりを揺すった。
「総領娘様、起きてください」
「んん〜……っ、衣玖ぅ、プライベートでは天子って呼んでって言ってるでしょ〜……」
ひょこっと布団から顔を出したのは、青い長髪の美少女だった。
天人くずれの比那名居 天子である。
「そんな事はどうでもいいです。直ぐに着替えてください。幻想郷を出ます」
「何よ、そんな事って……」
「幻想郷が滅びます。急いで天界に帰りますよ」
「……どういうこと?」
肉体関係を持つに至った衣玖のただならない様子に、天子の寝起きの脳みそにも異常事態は分かったようである。
「龍神様は、幻想郷の庇護を放棄なさいました。幻想郷は、博麗に侵食されつつあります」
「博麗……? 巫女の?」
「正確には、博麗の巫女の力の源といいましょうか、思念といいましょうか……。それによって幻想郷の理が書き換えられています」
「え……!?」
天子はベッドから身を起こした。
布団がはだけ、裸身が露になるが、天子は控えめな胸を隠そうともしなかった。
「幻想郷に存在するあらゆる物……、人も妖怪も生き物全て、いや、無機物も空気も重力も魔力も、幻想郷内の万物は博麗の思うがままです」
「幻想郷の守護者が、幻想郷そのものになったって訳なの……!?」
「そうなりつつあります。既に地底世界が地霊の暴走で壊滅し、能力者の何人かが力が制御不能になって自滅したことが確認されています」
「いまや、幻想郷自体が幻想郷住民の敵になったのね……」
「幻想郷にいる以上、私達も例外ではありません。天子、急いで服を着て!!」
衣玖は、恋人の少女を名前で呼ぶと、身支度を急かした。
天子はベッドから飛び出すと、慌ててその辺に脱ぎ散らかした衣服を着込みだした。
その間、衣玖は大きめのバッグを押入れから引っ張り出し、荷物をまとめ始めた。
荷物といっても、服や日用品は天界の自宅にもあるし、特に金目の物は無い。
ただ、衣玖と天子の思い出の品々――小物やらお揃いのアクセサリーやツーショット写真やらは部屋中にごまんとあるので、時間の許す限りバッグに放り込んだ。
衣玖の『空気を読む程度の能力』でも察知できなかった。
あるいは能力を失っていたのか。
まあ、どうでもいい。
ぐしゃりっ!!
一瞬だった。
一棟の文化長屋が、一瞬でペシャンコになった。
かつて霊夢が博麗の巫女を務めていた頃、博麗神社が天子の起こした地震で倒壊したことがあるが、
これはそんなモノではなかった。
まるで見えざる巨大な足で踏み潰したかのように、破片をあまり巻き散らかさず、綺麗に潰れていた。
当然、建物の中にいた、衣玖や天子や、その他の住人達も、全員即死した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
妖怪の山。
風光明媚な瀑布、九天の滝。
人型をした青が落ちてゆく。
また一つ、二つ、堕ちて行く……。
滝つぼから清流に流れてきた人型を、天狗の哨戒部隊が川原に引き上げていた。
幾つかは損傷していたが、大部分には外傷は無かった。
デザインの酷似した青色の装束に身を包んだ少女達の亡骸。
『河童の川流れ』という、名人でも失敗するという意味のことわざはあるが、
本物の河童達が、実際に死体となって流される光景は、壮観にして異様である。
河童の少女達は、全員苦悶の表情を浮かべていた。
検死官がまだ到着していないので断定はできないが、
死因は、恐らく、溺死。
突如、河童全員が泳ぎ方を忘れたのか、川で一斉に溺れだした光景を、河童の集落上空を飛んでいた鴉天狗が見かけたそうだ。
滝つぼ付近の水深の深い場所から、一人の白狼天狗が、一人の河童の遺体を抱きかかえて岸に上がってきた。
天狗は遺体を川原に敷かれた布の上にそっと降ろすと、傍にひざまづき――、
――咆哮。
滝の水の落ちる轟音をかき消す魂の叫びに、その場にいた誰もがうなだれた。
椛、にとり……。
河童達の異常をいち早く発見し、犬走 椛が隊長を務める哨戒部隊に知らせたのは、
新聞記者を務める烏天狗の射命丸 文である。
彼女も遺体回収現場に来ていたが、今はもう、カメラのシャッターを押すことができなくなった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
幻想郷は、本格的に、住民達に牙を剥き始めた。
彼岸。
四季 映姫・ヤマザナドゥは、はるか彼方の岸にいるはずの部下の死神、小野塚 小町を待っていた。
定員オーバーの船が転覆して、小町と大勢の魂が三途の川の藻屑になったことを知るのは、もう少し後のことだった。
無名の丘。
「ぃ……、ぁぁ……」
カクカクカクカクカク――。
無機物の、愛も命も無いまぐわい。
人形開放を悲願とするメディスン・メランコリーは、『同志』であるはずの人形達に衣服を剥がれ、陵辱されていた。
やけにリアルに作りこまれた男性器と女性器は、粘液を分泌し、機械的なピストン運動を容易にしていた。
「――――!!」
びゅくっ、びゅるるる……。
最後の人形は、メディスンの膣内で達すると、元の『ただの人形』に戻り、先にメディスンを蹂躙した人形達同様に崩れ落ちた。
「スー……、さん……」
そして、メディスンの顔からも精気が失せ、彼女も『ただの人形』に成り下がった。
彼女の体内に蓄えられた高濃度の毒素が、一気に放出された。
毒の霧は丘全体を覆い、咲き誇っていた鈴蘭は全て枯れ果て、不毛の大地にしてしまった。
太陽の畑。
こちらは、生命の一切が失われた無名の丘とは違い、植物が繁茂していた。
異常なまでに。
巨木のような向日葵が生い茂る中に、廃墟と化した家があった。
床板は植物に突き破られ露出した地面に、日傘が一本、墓標のように突き刺さっていた。
日傘の持ち手には、先端にボンボンのついたナイトキャップがゴルフクラブのカバーのように被さっており、
文字盤が粉々になって歯車もむき出しになった懐中時計の鎖が蔦と共に、傘に絡まっていた。
寺子屋。
校庭には、慧音がつてで入手した黄色いボンネットバス――いわゆる『スクールバス』が停車していた。
車内は、寺子屋の生徒と彼等の幼い兄弟姉妹で満員となっていた。
幻想郷から子供達だけでも避難させようと、寺子屋教師にして人里の守護者、上白沢 慧音と自警団が連れ出してきたのだ。
左ハンドルの運転席では、運転手を務める妹紅がバックミラーの角度を調整していた。
バックミラーには、人参のペンダントがお守りのようにぶら下がっていた。
「阿求……、来なかったな」
「幻想郷の滅びと共に、阿礼乙女の役目も終わらせるつもりなのだろう……」
慧音は幻想郷の記録書『幻想郷縁起』の編纂者、稗田 阿求の幼いながらも思いつめた顔を思い浮かべた。
ぱぱんっ!!
銃声で慧音と妹紅は我に返った。
暴徒が寺子屋に殺到していた。
何人かは猟銃や拳銃で武装しているようだ。
脱出手段の一つであるバスに便乗、というかバスを乗っ取ろうというのか。
護衛として同道する予定の自警団は、幻想郷にそれほど台数の無い自動車を盾にして応戦を始めた。
飛び交う銃弾。
何人倒れても歩みを止めない暴徒。
幻想郷中の人間が殺到しているのではないかと思わせる規模であった。
びしっ!!
流れ弾がバスの窓を撃ち抜き、妹紅の頬を掠めた。
リザレクション不全で、焼け爛れた状態で蘇生した輝夜の悲鳴が妹紅の耳によみがえった。
自分も死ぬ? あるいは死に掛けの状態で永遠に死ねない?
妹紅は恐怖に支配された。
「ひっ……、ひぃぃぃぃっ!!」
気が付けば、アクセルを踏み込んでいた。
スクールバスは正門から飛び出して爆走した。
群集を轢き潰し、黄色い車体に紅い色彩を加えながら。
バスにしがみ付いた暴徒を蛇行して振り落としながら。
路上に放置された八目鰻の屋台に真正面からぶつかって粉砕しながら。
気が付けば、人気の無い田舎道をバスはひた走っていた。
自警団の車両は見えない。
寺子屋を脱出する時に、守ってもらうはずの彼等を蹴散らしたかもしれない。
だが、慧音も子供達も、妹紅を責める事はしなかった。
慧音は言葉少なに、妹紅に進路を指示した。
『厄災』前に、慧音が博麗の巫女に聞いた、博麗大結界のほつれ。
まだ補修はされていないはずだ。
そこを突っ切れば、外界に出られるかもしれない。
バスは道なき道を、先の見えぬ道中を、ただ走り続けた。
幻想郷の未来たる子供達と共に。
「ねえメリー、知ってる? 地獄のデビルバスの噂」
「何そのB級ホラー映画みたいなの?」
「えっとね……、二本角の鬼の少女が運転する血染めのスクールバスが、子供の白骨死体を満載して、夜な夜な『乗客』を求めて走り回ってるんだって!!」
「……蓮子、それって小学校の先生が生徒を早く下校させるために、意図的に流した噂じゃない?」
「この科学万能の時代に? 今やGPSで子供達の居場所は把握でき、監視カメラや監視衛星で24時間フルタイムでモニターされている安全な社会に!?」
「その言い方、私達の倶楽部の活動そのものの否定になるわね……」
「まあ、完璧な安全なんてモンはありませんがね。僅かばかりのスキマから漏れ出す怪異は噂の形を取り、私達の社会に浸透してゆく……ってね」
「ふむ、じゃあ次回の活動は、異世界行きバスへの乗車ね。あ、すいませーん!! この合成パインの乗っかった合成みかん入りプリンを!!」「二つね!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
命蓮寺。
寺の建物が変形した聖輦船は、蟻のように群がる群集を門弟達が嬉々として殺しまくったおかげで、何とか離陸できた。
船内には、大勢の人間や妖怪の信者達がひしめいていた。
だが、霧雨 魔理沙とアリス・マーガトロイドの夫妻は、賓客として特別待遇でもてなされていた。
アリスが彼女の母である魔界神に掛け合ってくれたおかげで、聖輦船は魔界へ避難することを許されたのだ。
滅び行く幻想郷の大空の航海は順調であった。
途中、守矢神社に寄って『予約客』を乗せた後は、全速力で魔界に向かう予定である。
人心地が付いて暇を持て余した魔理沙は、乗員専用通路を歩いて船内を散策していた。
私はツイてる。
アリスにガキができて、なし崩し的に結婚する羽目になったが、これは正解だった。
もし、相手がパチュリーやにとりだったら、私の命も無いところだったぜ。
子供ん頃から人を見下したような態度の霊夢が地底に売り飛ばされたと聞いた時は祝杯を挙げたもんだが。
まさかこんな事をするとはな……。最期の最後までいけ好かないヤツだったぜ!!
魔理沙は鼻唄を口ずさみながら歩いているうちに、聖輦船の機関室に辿り着いた。
魔理沙は無施錠の扉を開け、熱と蒸気を放出しながら、巨大な機械類が蠢く様を見物した。
ピストン、歯車、ボイラー。
「わお!! 何時見ても壮観だぜ!!」
魔理沙はキャットウォークから身を乗り出して、飽く事無く、機械の心臓をまじまじと見つめていた。
手すりをつかむ両手。
爪先立ちの両足。
「――っ!? 乱気流です!! 皆さん!! 倒れないように何かにつかまっていてください!!」
魔理沙の身体は、箒も無しに、宙を飛んでいた。
キャットウォークから強制的に跳ね飛ばされた魔理沙の身体は、放物線を描き、巨大な歯車の上に落とされた。
どんっ!!
「ぎゃ!! っっっ痛〜〜〜〜〜っ!!」
凸凹した金属の上に背中から落ちた魔理沙は、身体をしたたかに打ってしまった。
「ち、畜生……。あれ……?」
魔理沙は痛む身体を擦りながら起き上がろうとした。
だが、頭以外、ピクリとも動かなかった。
脊髄を傷付けてしまったようだ。
「っ!! お〜い!! 誰か〜!! 助けてくれ〜!!」
……。
返事は無い。
身体は相変わらず動かない。
「ちっ!! クソッ!!」
魔理沙は悪態をついたが、
ガチャンガチャンガチャン――。
「え……、ひ!!」
それどころではない事態が迫りつつあることに、ようやく気がついた。
ガチャンガチャンガチャン――。
今、魔理沙が横渡っている巨大な歯車。
それは、噛み合った別の歯車によってゆっくりと回転していた。
ゆっくりと、確実に、魔理沙は頭から歯車の噛み合わせに近づいていた。
「や、誰かっ!! 誰かぁっ!! 助けてぇっ!! 死んじゃう!! 私、死んじゃうからぁっ!! 早く!! 助けてくれぇぇぇぇぇっっっ!!!!!」
魔理沙の必死の叫びは、機械の駆動音にかき消された。
転落しても脱げなかった、魔理沙自慢の帽子が、尖がった先端から歯車に巻き込まれた。
「ぎゃ、い゛ぎゃあ゛あ゛あ゛ああああああああ!! だずげ!! だずげでだずげでだずげでだずげで――――」
ぶちぶちぶっつぃ!!
くせっ毛な金髪が巻き込まれ、束になって引き抜かれた。
「あがぎゃああ゛いだいいだいいだいだずけ゛てあ゛りずばじゅでぃに゛どりぃでい゛ぶごべんだざいゆるじでだずげでじにだぐだ」
ぐじゃばぎぼぎべぎぐちゃばぎゃごぎべちゃぐちゃ――。
頭が金属の顎に噛み砕かれたことによって、魔理沙が唱えていた何の宗教のものか不明な念仏は止み、
続いて痙攣して失禁した身体も金属の化け物に食われていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「機関出力低下!!」
「大丈夫ですか、村紗!?」
白蓮の弟子の一人にして聖輦船の船長、村紗 水蜜は舵輪と周囲のメーターや計器類をねめつけながら、船の不調を叫び、
白蓮は村紗にその不調が問題無いか問いかけた。
「ギアがゴミクズでも挟み込んだかな……。でも、何とかなりそうです」
「そう、良かった……」
聖輦船の艦橋。
特別に設けられた、二つのゆったりとした席。
特別ゲストの魔理沙とアリスの席である。
席の一つでは、アリス・マーガトロイドが寛いでいた。
アリスは、村紗と白蓮のやり取りなど耳に入っていない様子で、大きく膨らんだ腹を撫でていた。
アリスは隣の空席を一瞥し、胎内の子供に話しかけた。
魔理沙ママったら、相変わらずフラフラしているのね。
でも、大丈夫。
魔界には、アリスママのママが新しい人形工房を用意してくれたし、
魔理沙ママにピッタリの義手と義足も買ってくれたのよ。
あなたが生まれたら、アリスママと一緒に『魔理沙ママのお人形さん』で遊びましょうね。
アリスの胎が、ひくり、と蠢いた。
赤ちゃん、喜んでる。
アリスも嬉しそう。
ママ……、××シタイヨォ……。
アリスの胎が、びくり、と震えた。
赤ちゃん、育ってる。
アリスは苦しそう。
ママ……、××シタイヨォ……。
アリスの腹が、ブクブク、と蠢き、震え、衣服を引き裂いて膨張した。
赤ちゃん、育ちすぎ。
アリスは悲鳴を上げた。
白蓮と村紗は後ろを振り向き、変わり果てた姿のアリスを見た。
神霊廟の勢力が壊滅した時に遡る。
神子は、邪法によって使役された子供の悪霊ヤンシャオグイに侵食されて、ボテ腹になってしまった。
強制的に異形の子を宿された神子は、呻きながら周りを見渡した。
道場は静まり返っていた。
普段は少なからぬ人数の弟子達が修行や仕事に動き回っていて、活気に満ちた喧騒が聞こえるのだが。
この騒動で全滅したか……。
暴走した宮古 芳香らキョンシー達は全員機能を停止していた。
すなわち、ただの死体に還った。
キョンシーの大群を神子と共に食い止めた配下の蘇我 屠自古と物部 布都は、
腹と性器を破壊され、苦痛と快感に醜く歪んだ表情を顔に貼り付けて絶命していた。
この惨事の発端である邪仙の霍 青娥の姿は無い。
彼女は、神子達三人がキョンシーを全員倒した直後に部屋に入ってくるなり、無数のヤンシャオグイに食い荒らされた体が弾け飛んだのだ。
襤褸切れと化した羽衣と捻じ曲がった壁抜けのかんざしが、その爆発の衝撃を物語っていた。
青娥の邪仙足らしめる強大な霊力で肥え太った無数のヤンシャオグイは、その場にいた女体、つまり神子達に潜り込んだのだ。
瞬く間に成長したヤンシャオグイは受肉して、この世に悲願であった生を受けた。
母胎を殺して。
だが、折角生まれた異形の赤子達は、いかにも化け物といった醜い産声を一声発した後、相次いで死んでいった。
本来は、術者が何らかの処置を行うものらしい。
どの道、ヤンシャオグイに巣食われた時点で、神子達は助からないのだが。
電話は先程の騒動で壊れてしまった。
だが、まだ手はあった。
神子は陣痛に苦しみながら、床に落ちた抜き身の七星剣を拾い上げた。
陣痛が、いや、身体が引き裂かれる痛みと、誕生を願うヤンシャオグイの濃縮された『欲』に苦しみながら、
神子は剣を投げた。
剣は狙い過たず、部屋の一角にある祭壇のようなものに命中、破壊した。
これは、仙界と幻想郷を繋ぐための術に用いられるもので、壊したことで道場は幻想郷から切り離された。
神子は、被害の拡大を防ぐことができたので安堵の表情を浮かべ――、
――腹と下半身が、成長した化け物によって爆ぜ、苦痛を感じるまもなく命を失った。
しかし、ヤンシャオグイの一体が、仙界の出口が閉ざされる前に幻想郷に彷徨い出ていた。
ヤンシャオグイはフヨフヨと漂い、辿り着いたのは魔法の森だった。
森の瘴気に惹かれたのか。
森の中の一軒家。
そこに向かう一人の女性。
胎内に命の鼓動。
ヤンシャオグイは背後からアリスに進入し、腹の赤ん坊と同化した。
アリスは一瞬顔をしかめたが、気を取り直して帰宅の途についた。
そして今に戻る。
この慌しい中、アリスに寄生したヤンシャオグイはすくすくと、ぶくぶくと成長、肥大を続け、願いを叶えることとなった。
このヤンシャオグイ、青娥が兵器として調整した特別製で、本来持っている『生』への欲求が書き換えてあった。
ママァ……。
ぶしゃぁぁぁっ!!
破水。
「ア゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オオオオオォォォォォ――ッッッ!!!!!」
アリスの絶叫!!
白蓮と村紗は仕事を放棄して、醜悪な出産シーンを見守っている。
赤ん坊の頭が見えてきた。
ママァ……。
今、願いが、叶う――。
ママァ……。
赤子の全身が飛び出した。
アリスとはへその緒によって、望まぬ絆で結ばれていた。
ママァ……。
『バクハツ』シタイヨゥ……。
アリスは、爆発した。
聖輦船の艦橋は粉々に吹き飛び、
船の主要機関及び、操船に長けた村紗と命蓮寺のトップである白蓮を同時に失った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
妖怪の山。
守矢神社。
二柱の神、八坂 神奈子と洩矢 諏訪子。
彼女達に仕える現人神にして風祝、東風谷 早苗。
三人は荷造りを終え、境内に出て聖輦船を待っていた。
彼女達の顔には悲壮感は無い。
魔界での新生活に思いを馳せていた。
彼女達は生き生きとしていた。
普段以上に生き生きとしていた。
大量の信仰を得られたからだ。
幻想郷の終わりを前に、神に縋る者は大勢いた。
彼等で神社の大広間は満杯になった。
三人は仕上げに、信者達に集団自殺をするように唆した。
今死ねば、四季 映姫が天国に逝けるように手配してくれる。
八百万の神の嘘八百を信じた彼等は、配られた猛毒入りのお神酒を一息に呷った。
神社の大広間は、のたうち苦しんだ末に死んだ信者達の死体で満杯になった。
彼等の信仰、無念、呪詛……。
三人はそれらを糧として、力を漲らせた。
大広間は閉め切られ、中にはガソリンが撒かれている。
幻想郷を去る際に、殉教者達を野辺送りにしてやろうという、神奈子達の粋な計らいである。
空に聖輦船が見えてきた。
早苗は、無垢な子供のようにはしゃいで手を振っている。
聖輦船の上部が、爆発した。
固まる守矢一家。
火を噴いた聖輦船は、急に加速して神社に突っ込んできた。
「諏訪子!! 早苗!! 防御陣だ!!」
神奈子は二人に指示を出し、直ちに神の奇跡を発動、三人の前に光の障壁を出現させた。
先程、『生贄』から信仰をたらふく頂いたばかりだ。
たかが船の一隻ぐらい、押し戻してやる!!
聖輦船は、光の障壁に激突した!!
ぱりんっ!!
障壁は、薄氷の如く、あっけなく砕け散った。
あれ?
守矢の三人は、命の危機に場違いな間抜け面をした。
現在の幻想郷。
只今、住民達の幻想的な能力が劣化、暴走しています。
能力の使用は御遠慮ください。
神々の奇跡もまた然り。
大質量に跳ね飛ばされる三人。
しかし、三人とも、曲がりなりにも、神。
それによって死ぬことは無かった。
それによっては、ね……。
湖に林立するオンバシラの林。
その内の一本。
八坂 神奈子は、口から尻まで、聖なる剛直に貫かれていた。
貫かれた穴からは、涎、血、胃液、尿、糞、腸液、愛液、等等の汁を噴出していた。
その様は、串焼きの魚のようだった。
歯と下あごを粉砕された神奈子の目もまた、死んだ魚のようだった。
そんな惨状になっても、神奈子は、まだ、生きていた。
己が血肉となった信者達の信仰心や恨みが、神奈子を現世に留めているようだった。
洩矢 諏訪子は樽に顔から突っ込んでいた。
小柄な彼女がすっぽりと嵌った樽は、まるで湯船のようだ。
直ぐに起き上がった諏訪子は、自分が今、酒樽に嵌っていることに、匂いと味から気が付いた。
自分達の信者を虐殺した、毒酒の樽に。
毒は神にも効くことは、お山に住む秋の姉妹神や厄神、ついでに酒に惹かれてやって来た、旧友を亡くして傷心の伊吹 萃香に飲ませ、
彼女達が吐血と下血に塗れて憤死した様を見た諏訪子自身がよく知っている。
げろ゛ぉっ!! げぼぉっ!!
がま蛙を絞め殺したような鳴き声。
波打つ樽の酒が、紅く染まる……。
東風谷 早苗は、神社裏の林まで吹っ飛ばされていた。
うつ伏せで倒れている早苗は、何とか顔を上げ、現状の把握に努めた。
ここからは神社も墜落した聖輦船も見えない。
近くに二柱の神はいない。
そして、自分自身は手足の骨が折れていて、この場から動けない。
ざっ!!
地べたに這い蹲る早苗の眼前に、誰かの足。
素足に下駄履きの足から早苗は視線を上げ、オッドアイの少女の顔を見て安堵した。
「こ、小傘さん!! たす――」
からかさお化けの多々良 小傘は、いつも二柱の神の威光や妖怪退治人、現人神の立場を笠に着ていた早苗が大嫌いだった。
普段から『退治』と称して、自分や同胞の弱小妖怪達をいたぶっていた早苗への恨みを晴らす千載一遇のチャンスが、今、実現した。
小傘は彼女の本体である傘の先端、洋傘で石突きに相当する部分に物理的な力と妖力を込めて、泣き笑いの薄汚れた早苗の頭のてっぺんに突き立てた。
ぐちゃっ!!
「虫けらみたいな扱いをしていたわちき――私にこんな事されて、驚いた? ねぇ……」
「……ぁ……」
早苗が事切れる寸前、彼女の驚愕の感情が小傘に吸収された。
小傘は恍惚の表情で守矢神社のほう――聖輦船が墜落したほうを向いた。
そして、極上の御馳走にありつけたことを御仏に感謝した。
これが、小傘の、最後の晩餐となった。
墜落した聖輦船が、守矢神社を巻き込み、大爆発した。
ヤンシャオグイの怨念、法力、神の力、妖力、霊力、船や神社に過剰に置かれていた可燃物、爆発物。
それらが足され、掛け合わされ、べき乗された破壊力は凄まじかった。
破壊の波は聖輦船の船体も守矢神社の建物も、
湖のオンバシラもなみなみと湛えられた水も、
飛行能力を持たない下位の天狗達の反乱により、避難活動が殆ど進んでいなかった天狗達も、
使役する動物達が去り、がらんとした道場に一人座する、隻腕の自称仙人も、
何もかも――、
山自体も――、
跡形も無く消し飛んだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
妖怪の山の消滅を目の当たりにした紫は、幻想郷の滅亡が決定的になったことを確信した。
紫は外の世界にスキマを開こうとした。
できなかった。
うすうすは分かっていた。
紫は、藍の式から紫に対する服従コードを削除して、彼女を側近から解任した。
千年以上、紫の式神として働いてきた藍は、紫に一礼をして去っていった。
主の心中を慮ってのそっけない別れであった。
藍は、彼女の式神である橙の元に向かったのだろう。
逝く時ぐらい、好きな者の傍にいたいのだろう。
紫は独り、博麗神社に来ていた。
神社は聖域に相応しく、静寂に包まれていた。
幻想郷は、ここ以外、地獄絵図が展開されているというのに。
紫は素敵な賽銭箱に小銭を放り込んだ。
空箱にコインを放り込んだような音が響いた。
「まいどあり」
そんな声がしたような気がした。
行方不明になった、現・博麗の巫女とは違った、懐かしい声が。
神社の居住部。
居間で茶を啜る、変形巫女装束の少女。
「来たわね、紫」
今回の厄災を引き起こした、第一級容疑者。
元・博麗の巫女にして、現・博麗の巫女の母。
博麗 霊夢。
彼女は、現役の巫女の頃のような少女の姿で、いた。
紫は居間に上がると、霊夢とちゃぶ台をはさんで向かい合うように座った。
霊夢は紫の分の茶を淹れ、紫の前に湯飲みを置いた。
紫愛用の、神社に置いてあった湯のみだ。
紫は礼を言うと、湯飲みを手にし、二三度息を吹きかけ、一口茶を飲んだ。
そして、真相を聞いた。
霊夢は紫に教えてやった。
博麗の巫女、代々の呪いの事を。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
龍神の許可を得た八雲 紫と初代の博麗の巫女によって、妖と妖の退治を生業とする者達を封じ込めた結界を改竄、幻想郷を作り上げた時。
博麗の巫女は、幻想郷に祝福のまじないを掛けた。
龍神、紫、そして博麗の巫女。
その三者が幻想郷を愛し続ける限り、幻想郷もまた不滅でありますように――。
つまり、そのどれか一角が幻想郷を憎んだ時は、滅びに傾くということである。
「――今回の大騒ぎの原因は、あの娘が私の件の真相を知ってしまったことにあったわ」
『あの娘』とは、霊夢の娘である現・博麗の巫女のことだろう。
何でも、地底の飲み屋で一杯引っ掛けていたときに、客として来ていたさとりのペット達が酒の席で霊夢の事を話していたそうだ。
それも、聞くに堪えないような下卑た話題を。
巫女は店を出た彼等の後を付け、人気の無いところで結界を張り、力づくで母親の事をウタッてもらったそうだ。
父の死と母の隠居の真相を知った巫女は冷静だった。
ペット共を血祭りにあげた事で溜飲を下げたせいでもあるが。
現在の母の『所有者』はさとりだ。
幻想郷の管理人である紫が承認した事であるので、迂闊に手を出せない。
何か手はないかと、神社に戻った巫女は文献を読み漁り、博麗の巫女の幻想に掛けたまじないの事を知ったのだ。
そして、その呪い(まじない)を、幻想郷を滅ぼす呪い(のろい)に変える術も……。
巫女は地霊殿に潜入して、霊夢が幽閉されている離れを訪れた。
霊夢は実の娘である巫女を認識できなかった。
ただ、媚びた、飼いならされたペットの笑みを浮かべるだけであった。
おかげで巫女は何の躊躇も無く霊夢を――実の母を殺すことができた。
術を行なうのに、自分以外の博麗の巫女が生きていると都合が悪いのだ。
実の母を殺めた巫女は神社に戻ると術の準備に取り掛かった。
術の起動用の生贄として、幻想郷の『外』から帰ってきた古の妖怪、封獣 ぬえと二ッ岩 マミゾウを、予め捕らえておいた。
一撃で二人を屠り、術を執り行う巫女。
既に準備は終えていたので、後は最後の手順を行なうだけであった。
巫女は、幻想郷のために働いた、愛する両親に対して非道を行なった、さとりを、紫を、幻想郷そのものを憎しみ、呪いながら――、
――自らの命を絶った。
巫女の遺体は血痕も含めて消滅し、魂は幻想郷に還った。
否、幻想郷そのものとなった。
先に幻想郷と同化した13人の博麗の巫女達の思念は、14人目の巫女の憎悪を知っていたので、滅びは彼女に任せることにした。
博麗の巫女の意思は、上位の次元の存在である龍神に謁見し、幻想郷を滅ぼす許可を求めた。
龍神様も思うところがあったのだろう。割とすんなり許可が下りた。
手始めに地霊殿を、古明地 さとりを血祭りにあげることにした。
さとりを豚小屋に向かうように仕向け、父が無残な最期を遂げた餌箱に突っ込むように誘導した。
後は、豚の理性を飛ばし、食欲を増大させ、餌箱の中の活きの良い肉に喰らいつくようにした。
幻想郷のあらゆる物事にあるデータ。
それの数値をちょいと弄るだけで事象が変移した。
練習を兼ねてさとりで試したが、まるでパズルゲームのように蹴躓いて餌箱に頭からダイブした。
巫女の思念は爆笑した。
霊夢の姿で身動きできないさとりの前に現れてやったら、爆笑物の命乞いを始めたではないか。
心の読めない相手には、さとりはとことん卑屈になった。
下衆は下衆らしく豚の餌になってもらった。
さとりの手下であるお燐とお空も始末して、最後に母である霊夢の遺体を燃やした。
霊夢の遺体を燃やす事を本人(の思念)に了解を求めたところ、「勝手にすれば」との言葉を頂いたので、勝手にさせてもらった。
焼け落ちる地霊殿。
少なくない数のペット達が建物と運命を共にした。
炎に包まれた人影が、地霊殿を脱出した。
そうなるように巫女の思念が『操作』したから当然だ。
古明地 こいし。
母の姿でこいつの目の前に現れ、炎の中を追い回してやった。
地上まで体力が保つようにしたから、きっと地上で『霊夢の呪い』だと吹聴してくれることだろう。
紫達が地霊殿跡の操作を終えて引き揚げた後、巫女の思念は地霊の封印を解いて地底世界をパニックに陥れた。
さすが紫。幻想郷の管理人は伊達ではなかった。
最も効率的な手段をとった。
次は、こいしが担ぎ込まれた永遠亭だ。
そのついでに、もう一波乱起こしてやろうと、ネタ探しにその周辺を検索してみた。
藤原 妹紅と蓬莱山 輝夜が、相も変わらず殺し合いに勤しんでいた。
今日は輝夜が負けたようだ。
巫女の意思は輝夜のパラメータを操作して、リザレクション時に身体を死亡直前の状態で復元するようにした。
不死鳥の炎に焼き尽くされた輝夜は、期待した通り、死ぬ直前の苦しみに塗れて復活した。
そして死に、死ぬ直前で復活。そしてまた死――。
輝夜は須臾の生死を永遠に繰り返すのだ。
苦痛と共に――。
続いて、紫が永遠亭を辞した後、こいしを狂わせてみた。
鈴仙を惨殺した後、奪った彼女のIDで永琳の聖域である地下区画に向かった。
巫女の意思はそれ以上の干渉はしなかったが、こいしは期待以上の結果を出してくれた。
かくして永遠亭は壊滅。
跡地は封鎖され、不死身の蓬莱人である永琳と輝夜の救出は不可能となった。
調子に乗った巫女の意思は、幻想郷の全住民の運の値を最低にした。
これで、皆のやる事成す事は裏目裏目になるだろう。
不運は不満を呼び、不幸を呼び、不安を呼び寄せた。
紅魔館では、門番とメイド長の能力を暴走させてみた。
門番は気の流れが制御できなくなって背中が破裂した。
メイド長は一瞬で時の流れにもまれて老いさらばえた。
レミリアは己の運命を悟ったのか自決した。
一番ましな部類の死に方だ。
ここに至っても、紫は事態の収拾に奔走していた。
とっとと幻想郷を捨てて、住民達を逃がせば良いものを……。
巫女の意思は、主だった者の理性のタガを吹っ飛ばしてみた。
その中には、名うての剣豪である半人半霊の老人がいた。
幻想郷は混乱の坩堝と化した。
あちらでは邪仙が術に失敗し、
こちらでは人形に邪悪な意思が宿り、
そちらでは就寝中である花を愛する実力者の能力が暴走して永久に寝てしまった。
巫女の意思は戯れに、巨大な足をイメージして、それで適当な建物を踏み潰してみたりした。
守矢神社の風祝は、幻想郷は常識に囚われないとか言っていたのを思い出し、河童は泳ぎが得意という常識を覆してみたりした。
後は、勝手にみんな、自滅して逝った。
巫女の意思は幻想郷と一体になったが、私怨とお遊び以外では、殆ど見物にその万能の能力を使っていた。
こんなセカイを、自分も含めた博麗の巫女達は今まで愛し、守ってきたのか。
ひょっとしたら――、
自分が手を下すまでも無く、遅かれ早かれ、
この箱庭のセカイは瓦解したのではないか?
龍神様もそう思ったから、幻想郷を壊す事を許可したのではないか?
十四代目の博麗の巫女の思念は、今更な事をぼんやり考えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「――と、いうわけ」
同化した娘の意思を代弁した霊夢は――霊夢の姿をした博麗の巫女達の思念体は、お茶を飲み干し、空の湯飲みをちゃぶ台に置いた。
たんっ。
気が付けば、『霊夢』と紫は幻想郷上空にいた。
眼下に、滅びのカウントダウンが始まった幻想郷の荒んだ風景が広がっていた。
幻想郷の自然の具現である、そこらじゅうにウジャウジャいた妖精達は、厄災が始まったあたりから一人も見かけていない。
もっとそれに早く気付いて対処していれば、もう少しましな結末になったかもしれない。
「ところで紫、私を売ったお金で何をしたの? あんたは私服を肥やすような事はしないと私は、いいえ『私達』は確信しているわ」
『霊夢』の問いに対する答えとして、紫は手にした扇子で地を這う線のようなものを指し示した。
等間隔に建てられた鉄塔の上部に張られた送電線。
紫は、そのインフラ建設に霊夢の代金として得た大金をつぎ込んだのだ。
一方は変電所につながり、そこから人里を初めとした幻想郷の各所に枝分かれしていた。
そしてもう一方は、妖怪の山があった大穴で途切れていた。
原子力、水力、風力、地熱。
様々なエネルギーを使用した発電施設が、妖怪の山にあった。
潤沢な電気のおかげで、幻想郷はかつての明治時代レベルから昭和末期から平成初期に文明が向上した。
知っているくせに。
最後に紫は、幻想郷そのものである『霊夢』にチクリと言ってやった。
「あんたの口から聞きたかったのよ」
『霊夢』は、かつて紫と共に異変解決に活躍していた頃のように、ぶっきらぼうに答えた。
「あんたが幻想郷を愛していることはよく知っているわ。なんてったって私はその幻想郷だから」
ちょっと照れる『霊夢』。
「本当は紫、あんたは飛び切り惨たらしく処刑しようかって『あの娘』は考えていたみたいね。
だけど、幻想郷になってあんたの事を理解して、それは止めたわ」
それは祝着。
紫は芝居がかった仕草でおどけて見せた。
「八雲 紫」
そう言った『霊夢』の姿が膨張した。
そして、消えていった。
「幻想郷の管理人である貴女は、幻想郷の――私達の最期を見届ける義務があります。
これを以って、貴女に対する制裁とします。
―――― さ よ う な ら ……」
一瞬気が遠くなり、気が付けば、紫は今度は博麗神社の屋根の上にいた。
廃墟同然の、外界の、博麗神社に……。
御丁寧にも、屋根には梯子がかかっていた。
幻想的能力を失い、ただの人間となった紫への気遣いだろうか。
紫は、広げた日傘をなんとなく、クルクルと回しながら、
眼前に広がる、壮大な幻影を、その終わりを、最期まで、眺めていた。
微笑みながら。
涙を流しながら。
最期まで。
最後まで……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その後の事は、とりたてて語ることは無い。
八雲 紫は、彼女が外界で経営していたボーダー商事で普通に働いて一生を終えた。
彼女の死後、カリスマ的指導者を失った多国籍大企業のボーダー商事は、お家騒動やら世界不況やらでバラバラになり、やがて消滅していった。
幻想郷のように……。
ただ、紫は晩年に、博麗神社――こっちのセカイでこの神社の名を知っている者は酔狂なオカルトマニアぐらいだが――に足繁く通ったそうだ。
手に、日本酒の一升瓶を提げて。
紫は社殿に入り、直ぐに出てきたが、彼女は酒の瓶を持っていなかった。
時間的に、その直後に不心得物がに神社に侵入したが、中には酒はもとより何も無かったそうである。
その怪談未満の摩訶不思議な噂も、
紫が亡くなってから数年後、
再開発とやらで博麗神社が取り壊されてから、
ぱったりと途絶えてしまった。
神酒を奉納された、真の博麗神社に集う少女達に――、
酒の神夫妻の祝福がありますように――。
幻想郷滅亡話です。
呪いにかこつけて、幻想郷の各勢力や実力者達を無茶苦茶にぶっ潰したかっただけ。
霊夢が不幸なままの幻想郷なんて、滅んでしまえ。
2012年8月5日:頂いたコメントへの返答追加
>2様
ふむ、もう少し可愛がってあげれば良かったですかねぇ。
>3様
龍神様という『オーナー』の了解も得て、取り壊しを行なった『大家』さんでした。
あなたの御意見、痛み入ります。
一層精進して、SSを執筆していきます。
>5様
つまりは、異変解決人達や幻想郷の管理人を陵辱する手段が増えたということでもありますけれどね。
しかしそういうことをした連中は理解しているのだろうか。
それは箱庭のセカイを崩壊させてしまうことだと……。
>んh様
龍神様は創造主にして観察者ですから。
この惨劇を、音楽を聴いて酒をかっ喰らいながら眺めていたんでしょう。
今回は、幻想郷の住民達は霊夢に憎しみやら劣情やらの宜しくない感情を持っているという設定にしてみました。
そのほうが、痛快に箱庭をぶっ潰せるから。
>7様
そう言っていただけて光栄です。
これからもぶっ飛んだ作品をお楽しみに。
>海様
幻想郷住民達全員が、霊夢に対する負い目がありますし、各キャラのパラメータも改竄されていますから、ポコポコくたばりまくります。
幻想郷住民じゃない若干名はとばっちりですがね。
霊夢を貶めた連中よ、呪われよ!!
>まいん様
人の見る夢は儚い。
御霊の見る夢は世の破滅。
私、ディスアスター・ムービーが好きなんですよ。
天変地異や未知の伝染病にパニックになる群集!! 困難に立ち向かう一部の勇気ある人々!!
でも、ハッピーエンドなんかにしませんがね。ゲッゲッゲ!!
紫は幻想郷を愛しています。もし、霊夢もそのくらい愛していたら、幻想郷住民達も霊夢を愛していたら、この悲劇は回避できたかも……。
>矩類崎様
基本的に、私は話を連作にするよりも長編一本にして一気に読みきれる物を好むので、一部尻すぼみ的展開になってしまいました。
でも、そう言っていただけて光栄です。
>夜叉九郎戸沢盛安様
幻想の存在に純粋な『死』は無い。あるのは『忘却』。人々の頭の片隅でただ、朽ち果てるのみ。
ソレを検索してみましたが、かなりアレな作品のようですね……。\すげぇ/
>ギョウヘルインニ様
ははっ!! 恐悦至極です。
>13様
退役して武装を取り払った戦術兵器を好事家に払い下げた程度の感覚だったんですよね。
ゆかれいむ派である私は、この作品を血を吐きながら書き上げましたw。
>15様
こうして、博麗と八雲の因縁は終止符を打ったのでした。
作品への気合の入れ具合や失速加減は、読者様に伝わるものなんですね……。反省。
>16、17様
用済みになった博麗の巫女の末路。
もし皆が霊夢に敬意を払っていたのなら、こんな事にならなかったのに……。
可愛そうな金髪の子の最期。
気の強いDAZEっ娘のメッキが剥がれ、無様に命を削っていくシーンに勿体無い評価です(^^;)。
2012年8月10日:コメントの返事追加
>18様
セカイはいつも危ういバランスの上に成り立っているのです。
賢者はセカイのために、良かれと思ってした行動が、ドミノの端っこを倒してしまったのでした……。
NutsIn先任曹長
http://twitter.com/McpoNutsin
作品情報
作品集:
4
投稿日時:
2012/07/17 16:19:09
更新日時:
2012/08/10 23:08:33
評価:
16/21
POINT:
1630
Rate:
15.76
分類
霊夢が引退して、彼女の娘が博麗の巫女になった幻想郷が舞台
紫
幻想郷の各勢力の理不尽、不可解、残虐な壊滅
幻想郷滅亡
今回はゆかれいむじゃないよ
だってこいつら賽銭という「家賃」払ってないものね!!
引き金役が相変わらずさとりだったり、紫の動機が微妙に説得力不足に思えたり
今ひとつ最大出力を出し切れていない感じかなあ今回は…
ヤンシャオグイの絡め方みたいに巧妙な部分も散見されるだけに
扱いが雑なキャラが些か多い気がしました。
まー滅亡話なら雑でもいいんじゃね?とも言えるけどw
霊夢の嫌われっぷりが面白かったです
―人間だって死に急ぐクジラ達を笑うことは出来ないだろう、エラ呼吸を求めて海に落ちていくこともあるかもしれない。
そんな安部公房のエッセイを思い出しました。バッドラックが招くカタストロフィは面白いものです。
手足をちぎったぐらいじゃくたばりそうにない彼女たちを如何にして殺すか?ってのは難しいですね。
理屈はどうあれ読んだ時に、死んだなこいつ、と思わせたら良いのかも知れません。
まあ霊夢ちゃんを不幸にした奴らには神罰が下って当然ですがね。
人の本能に内在する破滅欲や自滅欲によるカタルシスを味わえました。
霊夢に売り飛ばした理由を伝えた所は、
残酷なまでに幻想郷を愛する紫の気持ちが悲哀を誘っているようでした。
永遠に彷徨い続けるだろうな・
何もない果てしない暗闇の中、
誰も気づかれることもなく・・・
展開がなんだかジェノサイバーぽかったです。
ゆかれいむ好きには悪いけどこういう紫のがしっくりくるわ。紫が霊夢を大事に思ってるとかないわーと思う。
たったひとつの単純な答えだ…
『てめーは 私を怒らせた』」
とはいえ、序盤の地霊殿から永遠亭にかけての流れは本当に素晴らしいと思ったけれども、
後半辺りが若干グダってたのが残念かな。
あるいは、本当に好かれているのかもしれないが、力の強い妖怪って漏れなく性格は最悪(白蓮、神奈子達含む)なので、そういう奴腹の「好き」とやらを考えるに、こうなってもおかしくないですよね。
どれも満足の死に様でしたが、その中でも、やはり……というか、金髪の子が歯車に飲まれるシーンは一服の清涼剤でした。
大満足。
「実を言うと、地球はもう駄目です」みたいな。
紫が霊夢をためらいなく売り払うという、人間とは隔絶した妖怪らしさという部分も
斬新な表現だ