その名は蓬莱山輝夜

注意、この物語は東方projectの二次創作です。
　　　オリ設定等が存在する可能性があります。





君は聞いたか！？ 大地に響かせ雷の如く轟かせる足音を！
君は見たか！？　天に到達するが如く堂々と屹立するその雄々しき姿を！

その得物は、あまりに大きく、あまりに武骨で、そしてあまりにも天井板であった。

蓬莱山輝夜、この名を知らぬ者はおそらくいないだろう。
この見た目が年端もいかぬ少女が肩に担いでいるものは、先ほど言ったが天井板である。
それも燦然と輝く一枚の黄金で構成された、黄金の天井板。

“金閣寺の一枚天井”

幻、伝説、デマ……それが現実となってこの場に存在している。

移動をしている彼女の目的は二つ、一つは威圧だ。
この様な巨大な物を持ち上げ移動する事によって、底知れぬ膂力を不特定多数の者に
見せつける為だ。

もう一つ、こちらが本当の理由である。

“蓬莱許し竜参り”

ニートだの引き籠りだの輝夜に対して罵詈雑言を放った者を探し出してしばき倒し、
その対価として金品を強奪するという、彼女の教育係が若い頃に編み出した路銀の調達法なのである。

なので、彼女が移動の際に起こす足音で人里の人間トメゾウさんの心臓が止まろうが
彼女が移動の際に作る足跡で森の蟻カミューが困ろうが
移動時に引っかかる周りの木々を薙ぎ倒して進もうが知った事ではないのだ。

木々を薙ぎ倒し、辺りに轟音を響かせつつも森の深い所に至る。
その場では、言い争う妖怪リグルとミスティア、その様子を見ているルーミアが居た。

持ち前の優しい性格の彼女は、その争いを仲介しようと考えた。
だが、月の追手から逃げ隠れる生活が長かった為に語彙に乏しく良い言葉が浮かばない。
仕方なく、肩に担いでいる一枚天井を風車の如く振り回す。
自身に注意が向けば喧嘩が一時的に止まると思ったようだ。

風を切り裂く怒涛の轟音、振り回した一枚天井が生み出す驚異の鎌鼬。
その威力に彼女を中心とした大きなミステリーサークルを作り出した。

それでも、言い合いに集中していた三人に気づかれる事はなかった。
どうしたものか？ そう考えた彼女だったが突然に目の色が変わり、
三人に向けて巨大な一枚天井を投げつけた。

ドンっ！！！ ズッ、ズーン！！！

｢くそっ！ 輝夜！ 何しやがる！｣

投げつけた天井は見事に妹紅を下敷きにした。
彼女はこの場で輝夜必殺の修行中で音速のムーンウォークをしていたのだ。
同時に言い争っていたリグルとルーミアも巻き添えを受け下敷きになってしまった。

｢ミスティア……｣
｢助けて欲しいのかー｣

唯一、下敷きを免れたミスティアに助けを懇願する二人、言葉の前に助けに動き出すミスティア。
なんだかんだ喧嘩をしても彼女達は友達なのだ。
いくら強力な妖怪の夜雀といえど、一枚天井はあまりに大きすぎた。
その為、素手では持ち上がる事はおろか、ピクリとも動かなかった。

｢うぐぐ、痛い、痛いよ、ミスティア……｣
｢重いのかー、そこの丸太、使えないのかー？｣

必死にもがく三人を余所に輝夜は妹紅に冷ややかな視線を向けていた。

｢一体何のつもりだ！ 出せよ、さっさとこいつをどけろ！｣
｢ふふ、地面に這い蹲って、何も出来ないのに威勢だけは一人前……お･に･あ･い･の最低な格好ね｣
｢輝夜！ てめぇ！！！｣

天まで焦がす一筋の炎柱、怒髪天を突くという言葉がこれ程までに似合う現象も珍しいだろう。
怒りに任せて妹紅が自身の中心から炎を放出したのだ。
強力な火力は輝夜のなびく髪先を僅かに焦がした。 暖色を顔に投影した彼女の顔は幾分か大人びた印象を与える様であった。

炎の近くに居るリグルとルーミアにとっては冗談ではなかった。
足先に触れようとする炎に汗するも、額や背中に描いた汗はこの世の物とは思えぬ程に冷たかった。

このままでは生きたまま火炙りにされる。
下敷きの二人は一寸でも離れようと地面に指を突き立てて前に進もうとした。
爪は剥がれ、指から手にかけては土の黒さと別の赤黒い色に塗れていた。

｢待って、今助けるから｣

先程指摘された丸太を手に取ったミスティアが地面との僅かな隙間にそれを押し込む。
押し込んだ丸太を持ち上げて、テコの原理で二人を救出しようと考えたようだ。
それでも、天井は上がらずに二人は炎に焼かれていく。

｢くぁっ、熱い！ 熱い！｣
｢助けて、欲しいのかー！｣



その時、香霖堂に居る森近霖之助はミスティアの持っている丸太の説明を誰にともなく呟いていた。

｢名前、丸太……用途は吸血鬼に対して攻撃力200%……どういう事だ？｣

幻想郷ではない場所に飛ばされてしまった霖之助。
自慢の草薙の剣も夜の魔物には効果がない。
製材所に逃げ込んだ彼は咄嗟に丸太を手にして敵の頭を叩き潰す。
霖之助と同じ場所に飛ばされてしまった魔理沙との再会。
この場所の生き残りとの遭遇は彼らの未来に何を与えるか。
そして、知らされる真実。

｢貴女は、お前は……八雲……紫？｣

襲いくる吸血鬼の群から逃げ果せる者はいるのか？
幻想彼岸島。
第225季、夏公開予定。鋭意作成中。



妹紅の無様な負け犬の遠吠えと地面に這い蹲る姿を一通り満喫した輝夜は
丸太を用いずに想像の吸血鬼の顔を握力のみで粉砕した。
体をいくつか痙攣させて動かなくなったそれを彼女は肩に担ぐと今晩の夕食が出来たと嬉々として帰って行った。

｢ギギギ……｣
｢ああああ……｣

無駄な抵抗と解っていても友の為に必死になった。
手の平を怪我しても力の限りに踏ん張った。

｢ごめんなさい、ごめんなさい、リグル……ルーミア……｣

嘗て妖怪だった者はただの二つの焼死体となった。
使っていた丸太は押し込んでいた部位が焼け崩れてしまう。
ミスティアはその場に泣き崩れ、友であった二人が燃え尽きる様を見ている事しか出来なかった。

彼女の首をつかみ立ち上がらせようとする者が現れた。

｢そんな所にいたら、お前まで焼け死んでしまうぞ｣

そう言うと白髪に小さなリボンを結った赤いモンペの妖怪はミスティアと共にその場を後にしようとする。

｢やめて、二人は……私は……｣

抵抗空しく、危険な場所であるこの場から逃げ去る為に担がれてしまった。



ウルトラ上手に焼けた旨そうな焼死体。 海老の様に反らした体は美味の証。
当然、大自然がそれを見逃す訳も無く。
蝿が、戦功一番乗り！ とでも言いたげに二人の体を苗床にする。

残念ながら片方は中身なく崩れ落ちてしまったが、触角のあるもう片方は好きなだけ卵を産み付ける事が出来た。
満足した蝿達がその場を去ろうとした所、正体不明の触手に襲われてしまう。

その場、その焼死体、周りに動くものは皆無。
動く……蠢いているのは焼死体である筈の物体。
突如、背中が割れる、割れた先からは光が漏れている。
孵化、そう孵化だ！ 虫がサナギから成虫に変態する過程と全く同じだ。

辺りを包んだ光が収まると、そこにはリグルの面影のある全く別の美少女が現れていた。

｢やれやれ、私が虫の妖怪で本当によかったよ。 蝿の皆には悪い事をしたけど、こっちも必死だったからね｣

リグルはそう言うと、まだ見ぬ虫妖怪の嫁を求めてその場から飛び立った。

森では実体を失ったルーミアが影や闇という限りなく曖昧な存在となって、楽しそうな声を上げていた。

その場に残されていたのは輝夜が担いでいた黄金の天井板だけであった。