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『余命百日』 作者: まいん

余命百日

作品集: 4 投稿日時: 2012/08/20 10:58:10 更新日時: 2012/09/13 23:23:10 評価: 4/8 POINT: 520 Rate: 12.11
注意、この作品は東方projectの二次創作です。 
   オリ設定、オリキャラが存在します。





博麗神社と人里の間、魔法の森の入り口。
そこには朴念仁で頑固で無愛想な店主、森近霖之助の営んでいる
香霖堂という店が御座います。

前述の通りの人物ではありますが、彼には特殊な力と物への探求心があり、
彼と同じ心を持つ者ならば店の品ぞろえを見た後に必ずや感嘆の声を上げる事でしょう。
商品を売って貰えるかは分かりませんが……。

また、彼と関係のある人物も博麗霊夢や霧雨魔理沙、八雲紫等、幻想郷の重要人物が多く、少ない上客を見渡しても幻想郷の重要人物が多く紛れております。

はてさて、この先彼には何が待ち受けているのでしょうか……。



外の世界に飛ばされる貴重な体験をしたという、現実感たっぷりの夢を見た。
外の世界に向ける思いは尽きる事は無いが、幻想郷で欲しい物は大体揃い、
何より彼の外の世界への思いは手に入る情報によって、
代用ではあるが一応の満足を手に入れる事は出来るようだ。

今日の彼は大八車を息を切らしながら引いている。
特徴と言ってもよい黒と青の服は汗にまみれて肌に張り付き、女性が見ても美しいと思う
白い肌も多量の熱によって紅を引いた様に赤く上気している。

護身用に下げている神剣草薙の剣は彼の能力によって発見され、捨て値同然で妹分から手に入れた品。
争う事の苦手な彼であるが、半妖故に人間に遅れを取る事は無い。
しかし、妖怪が相手ならばそうはいかない。 それ故の護身用である。
妖怪にとっては抜群の威光を発揮するらしく、人間にとって最悪の危険度を誇る無援塚で、
彼が趣味の物品収集を出来る理由の一つであるのかもしれない。

頭がぼーっとし、息を切らしながらも帰宅する。
失った水分を麦茶によって補充して一息つくと、大八車に満載されている物々を見る。
その中で山と積まれた本を見て嬉しそうに微笑んだ。

収集物を店に運び、着替えを行う。 早く仕分けを行い、まだ見ぬ物語に出会いたい。
彼はそう思うも、人生とは往々にして思惑とは逆に力が働いてしまうようだ。

「こんにちは、霖之助さん」

聞こえた声に表情を変えずに振り向き、声の主を探す。

「こんにちは、紫さん。 まだ、約束の日ではないと思うのですが、
僕は貴女にとって見逃せぬ事でもしたのでしょうか?」

その言葉に紫は顔をやや俯かせ、首を振る。

「いいえ、今日は貴方に忠告をしに来ました」

顔に影を潜ませているものの、作られた笑顔は胡散臭いもので、
その表情の裏で何を考えているのか、想像もつかなかった。

「悠久の時を歩む旅人。 自身の速さで歩む貴方の周りは驚く程の速さで駆けて行く。
貴方の大切なものは何か? 何処にあるか、どこに居るか? 貴方は何を望むか?」

おそらくは一般人に解り易く忠告のレベルを落としているのだろう。 と霖之助は判断した。
彼女の言った言葉に今日拾って来たばかりの本が目に入る。
本や物語、情報が頭に浮かぶ中、うっすらと頭の片隅に妹分の顔とその友人の顔が浮かんだ。

「天の時は貴方に機を与え、地の理は貴方に様々なモノを与え、
人の営みは貴方に味方する。見たくないモノがあるのなら貴方は護る為に行動なさい。
必ずや道は開けるでしょう。
忘れた頃に忠告をして差し上げますわ。 努々忘れるなかれ……ふふ」

可愛らしげに微笑し口元を隠したと思えば、
次の瞬間、紫はスキマと呼ばれる空間に消えて行った。
ここが幻想郷で不思議な力を持つ者が多く居るとはいえ、
目の前にしても彼はにわかには信じられなかった。

頬に伝わる汗が顎先から再び滴り落ち、彼は呆けていた頭を戻した。
手拭いで冷ややかな汗を拭い、温くなった麦茶を一息に飲み干す。

収集品の仕分けを終え、普段定位置にしている店内の安楽椅子に腰を掛ける。
彼が読んでいる本は[余命1年]と題名が書いてある。
本の内容に熱中して読んでいる様に見える彼であるが、
その無い様な内容は何処にでもあるお涙頂戴物のC級小説で、
読み終えた彼に待っていたモノは時間を盗まれたという感覚だけであった。

物の収集で夢中になっていた分と紫の小言に付き合わされた分の疲れと共に、
彼の身体に疲労感が襲い掛かる。
半妖故に睡眠は嗜好の様なものであるが、彼は襲い来る睡魔に抵抗の欠片も見せず、
心地の良い微睡に身体を委ね、泥沼に沈み行く意識に手を差し伸べさえしなかった。

〜〜

ここではない場所、ここでは無い時間。
その青年は半身が麻痺をしている様であった。
女性に支えられ、足を不自由そうに引いて歩いている。
病室に到着した彼はベッドに腰掛け、仰向けになる。
白い天井、白い壁。 清潔感を出す為の色は彼に死装束を連想させた。
力を抜く様に息を吐くと、先程まで自身を支えてくれた女性に向く。

「…………」

『…………』

霖之助の脳裏にテキストが用意されていません。という言葉が浮かんだ。
彼は今見ている映像が限りなく曖昧であると感じる。
意識を呼び起こす目覚める刹那の感覚。 彼は漸くこれが夢であると理解した。



彼の手元には昨日読んでいた本があった。 種がわかってしまえば何という事もない。
彼は本を読んだまま眠った為に本の内容を夢に見ていたのだ。

「ん、ん〜」

安楽椅子に座ったまま眠った為に固まった体を伸ばす。
商品の検分を終えた彼は、本のコーナーにそれを並べるとハタキで埃を払う。
軽い掃除をしている彼の元に来客者が現れた。

「いらっしゃい……」

顔を向けず、来客を望んでいない声色で挨拶をする。
足音が聞こえず、不思議に思った彼は疑問を浮かべたまま来客者に顔を向ける。
そこに居たのは紅白の巫女こと博麗霊夢であった。

「……あ……」

「あ?」

「暑い……」

そう言葉を発した霊夢はそのまま遠慮無しに店の奥へ消えて行った。
霊夢の行動は霖之助にとっていつもの事とはいえ、
突飛な行動に制止を呼びかける事さえできなかった。
奥からカチャ、パタンと音が聞こえて我に戻った彼も
霊夢を何ら咎めず表に戻って来るまで静かに待っていた。

「霖之助さん、奥、勝手に借りたわ」

「相変わらず君は遠慮というものが無いのだね……」

紅白の巫女と呼ばれた少女も今は違う服を着ている。
汗にまみれて濡れ鼠となった彼女は霖之助の服を無断で着ているのだ。
霖之助は皮肉を言いつつも、霊夢に対して麦茶を差し出す。
珍しく礼を言いながら受け取った霊夢は、コクコクと飲み干していった。

勘の鋭い彼女に隠し事は通用しない、その為お茶請けもそれなりに上等な物を差し出した。

「……それで、今日は一体何の用だい?」

「別に用件なんか無いわよ。 まぁ、今日は魔理沙が来なかったからね、単なる暇つぶしよ」

返事をせずに彼は脇の本の山に手を伸ばす。
霊夢は霊夢で退屈そうに本のコーナーに足を向け、本を手に取る。
その様子を霖之助は見逃さなかった。

「一応、言っておくが、それは商品だから勝手に持ち出さないで……」

「解ってるわよ、それにこんなのに興味なんかないし……」

そう言いつつも本を持った霊夢は霖之助の近くにある椅子に腰を掛けて、本をパラパラと捲る。
題名は彼が先日読んでいた[余命1年]の続編[余命100日]であった。
霖之助の評価通りの続編はやはりつまらない出来であったらしく、霊夢は早々に飽きてしまう。
その為、本を読んでいる霖之助に一方的に話をしていた。

「お〜っす、香霖。 退屈だと思って……って……なっ、ななな、何で霊夢が香霖の服を着ているんだ?」

「濡れ鼠になったからよ、何ならあんたも借りたら?」

「いっ、いや……遠慮しておくぜ」

「いらっしゃい魔理沙」

最初の勢いはどこへやら、霊夢の様子を見た途端に魔理沙の勢いは弱くなっていく。
最初は控えめに、やがて我が家の如く、遂には我が物顔に……。
これこそが、いつもの霧雨魔理沙だ。 と霖之助は表情を変えずに本に視線を移す。
霊夢と魔理沙が揃って店内は騒がしくなった。
今日も訪れる客はいない、珍しい上客も来ない。
早々に店を閉めると、食事を期待していた二人の為に夕食を作る。
冷麦などは今日の様な暑い日にはピッタリだと火の前で彼はふと思う。

食事を終え、水同然の風呂を沸かす。 二人に先を譲るのは彼なりの配慮なのだろう。
この店の主人は彼であるが、寝床も布団も二人に貸し与える。
彼は店内の定位置の安楽椅子に腰を深くかけ、ランプの弱い光で興味のあった本を読んでいく。
唐突に襲い掛かる睡魔。

……バサッ……。

本を落とした彼は自身が眠った事に気が付かず、心地よい感覚に支配されていた。

〜〜〜

『本日もヒロシゲ36号に御乗車していただき、誠にありがとうございます。
当列車は東京-京都間を僅か53分で走行致します。 尚、車掌室は8号車です。
それでは短い間ではございますが、先人の旅した道を十分にお楽しみ下さい』

四人掛けの席に座る少女が二人。 駅弁にプラ製のお茶の容器。
電車に乗る時間は僅かなのに旅気分であった。

「知ってる? 大航海時代の天文学は学問の中で一番優れていたのよ」
「ええ、まだ見ぬ大陸に香辛料、金銀宝飾。 学問の粋を集めるに値する価値があるからね」
「その学問は突き詰めれば現代のコンピューターに匹敵する程だったそうよ」
「それだけの雑多な計算が求められたって事かしら」
「つまり、天文の位置を見て今の時間が求められれば、現代でもコンピューター並の頭脳を持っているって事じゃない?」
「相変わらずの話の飛躍ぶりに安心したわ」
「まったく、いつも酷いよ……兄さん、いつまで立っているの? 早く座ったら?」



霖之助はいつもの安楽椅子で目を覚ました。
足元に目を向けると、眠る前まで読んでいた[徹底図解! ヒロシゲ36号]という雑誌が落ちていた。
雑誌でありながら外の世界の化学が詰められた内容に彼の探求心が刺激され、
夢中になって読んでいたが、いつの間にか眠ってしまっていた。
本を拾い、支払場の机に置く。 静かに起き、固まった体をほぐす様に伸びをする。
左右に首を振り、自然で慣れた動作で自身の寝室に足を運ぶ。
二人を起こさずにいると後が恐ろしいのか、それとも彼の行動はいつもの事なのか……。
声をかけて、部屋に入って行く。

「……今更、気を遣って何のつもりなのか……」

部屋に入った彼が見たものは、畳まれた布団だけであった。



森の入り口は木々に囲まれ、強い日差しを遮ってくれる。
そのお蔭で店内は暗く、店主の印象と相まって暗い印象を客に与える。
当の店主霖之助は他人の噂に耳を貸す事は無く、今日も読書に励んでいる。

……ガチャ……。

いつもならば、開店休業とはいえ客が入って来た事を見逃さないが、
外の世界の化学や物理の情報誌に熱中していた彼は珍しく来客者の到来を見逃してしまう。

数分間の長い時間が経ち。
霖之助の目と鼻の先に立って待っている少女に漸く気付く。

「ああ、すまない、魔理沙……所でそんなに畏まって今日は何の用だい?」

「香霖、少し時間はあるか?」

魔理沙は全身に緊張を体現している。 霖之助に気付かれてもソワソワと落ち着かない様子であった。
霖之助は何か悪さでもしたのでは? と勘繰り溜息を一つ吐く。

「今日は一体何をしたんだ?」

「あっ、いや、そ、そのな……ええい、おいっ! 早く入って来い!」

魔理沙が外に言葉を投げると、無愛想な青年が店に入って来た。
青年を見た霖之助は魔理沙の態度から何となく事情を把握した。

「……そうか、魔理沙もそんな歳になったのか……出来れば、親父さんに報告して欲しかったな……」

霖之助の憶測は当たったようだ、彼の妹分は父親の代わりとして彼に報告に来たのだ。
先程まで浮ついていた魔理沙は夫となる人物の手を握り寂しそうな表情で霖之助に向かう。

「……すまん、それはこいつとも話し合った上でだ」

「そうか、二人とも幸せにな……だが君、魔理沙を悲しませる事は僕が許さない。 その事を肝に銘じてくれたまえ」

霖之助の高圧ともいえる態度に、青年は物怖じせずに返事をした。
魔理沙は夫に腕組みをし、霖之助にお礼を言った。 長年彼女を見守っていた彼もその表情を初めて見る。
二人で再び礼を述べると、店を後にしていった。

魔理沙に保護者の代わりをしていたと言えば、間違いなく否定されて喧嘩の一つでもする事になるだろう。
自惚れと解っていても、彼は心に穴が空く様な気分を味わっていた。
目線は未だに彼女達が出て行った店の扉を見つめている。
当然だが、この状態で客が訪れれば、来客者と目が合ってしまう。

ガチャ……。

時として物語の様に物事は進む。 彼の見つめている先に偶然という名の必然が訪れる。

「……何?」

「いや、君を見ていたのではないのだが……」

元より表情があまり変わらない霖之助は幸運であったのかもしれない。
先程までの寂しさを払拭し、悟られぬ様にいつもを装う。

「霖之助さん、魔理沙が結婚するって神社に来たわ」

「ああ、さっき二人でここにも報告に来たよ」

霖之助は霊夢の方向を見ていない、手元にあった適当な本に目線を落としたまま話をしている。
彼女から振られた事なので、動揺を完全に隠せず彼の言葉には僅かに寂しさが混じっていた。

「……あの子、最後まで悩んでいたみたい。
……だから、だから……私が抜け駆けして貴方に……」

霊夢は言葉に詰まる、いつからかの長い間胸にしまっていた思いはそう簡単に割り切れるものではない。
それがその思いとの決別であるのならば尚の事だ。

空気を読んでか読まずか、言葉が切れてすぐに霖之助の言葉が被さる。

「霊夢、僕はいつもここに居る。 気が向いたらまたここに来ると良い、君を拒む理由は無いからね」

「ばかね、私が悩んで落ち込んで、ここに来る訳がないでしょ? ……それに今日は別の用で来たのよ……」

霊夢の表情はいつもの様子に戻っていた。 先程までの影を帯びていた表情は欠片も見当たらない。
霊夢が合図をすると、霊夢に良く似た幼女が店に入って来る。

「その子は? まさか……」

「そんな訳ないでしょ! 紫が次代の巫女を育てろって」

それで顔見せに来たのが本来の目的か。 霖之助に挨拶をしている幼女を見て彼はそう思った。
彼自身も先程までの暗い気分は晴れ、幼女に無愛想なまま挨拶を返す。

人に興味を示さず、宙に浮いている様な印象がある霊夢も幼女に接する姿は親子の様であった。
霖之助は見守る様に二人を見ていた。
魔理沙の事があったが、平穏に日々が過ごせられる事を彼は実感した。

霊夢と幼女が帰り、いつもの様に本を読み始める。
客は来ない、趣味に没頭できる。 積まれている本は次々に消化されていく。
外の日は時計の針の様であった。 やがて、ランプに火を灯しても行う事と言えば本を読む事であった。
月明かりが無い夜は時間の感覚を鈍らせてくれる。 彼は昼と同様に物語に没頭していた。

〜〜〜〜

「人間の人生なんてあっという間だな……」

半妖たる彼にとって思い返せば人の人生は、あっという間に走り去って行く様であった。
生まれた時に立ち会い力強い鳴き声はこれから先の厳しい人生を逞しく生きて行く予感をさせてくれた。
オシメを変えた事は一度や二度ではない。
独立して店を構えた後も遊びに来、縁が切れる事は無かった。
大きくなったら嫁になってやる。 はよく言われた事だ。
成長に伴う微妙な思春期の時期も彼によく相談をした。
やがて、僅かな擦れ違いから親子は喧嘩をして、魔理沙は勘当同然の身で実家を飛び出た。
と思えば魔法店を営んでいた。

日々、訪れる妹分とその友人との騒がしくも平穏な日々は崩れない。
自惚れと解っていてもそう思っていた。



「おめでとう魔理沙」

魔理沙側の出席者は霖之助ただ一人。
神社での挙式を除けば霊夢さえも気を遣い出席はしなかった。

場所を移して、披露宴会場にて一同への報告がなされた。
夫も魔理沙を気遣い、親族への挨拶を最小限に済ませる。
一方の魔理沙は短い人生の十数年間について、如何に世話になったかを涙を流して霖之助に感謝を述べていた。

宴もたけなわとなった頃、霖之助は先に暇を申し出た。

「僕はいつもあの店に居る。 用が無くても暇があれば来ると良い」

店に戻った彼はいつもの服に着替え、いつもの場所に座り、いつもの読書に戻っていった。



「おっす、香霖。 今日も来てやったぜ」
「……お邪魔します」

「こんにちは、霖之助さん。 今日も来たわ」

「やぁ、皆。 いらっしゃい」

少し前に比べ、随分とにぎやかになった。 魔理沙にその夫、霊夢に次代の博麗の巫女候補。
何でもないのに集まって、何でも無い話に花を咲かせる。
静かな男に賑やかな女、何にでも興味を示す子供。

魔理沙のお腹には新しい生命が宿っている。
変わらない日々が過ぎて行く中で魔理沙のお腹だけは変化をしていった。

十月十日が過ぎ、新しい生命はこの世に産み落とされ、新しい息吹と声を上げた。
武骨な夫は、いの一番に霖之助の元へ報告に訪れた。 勿論、魔理沙に頼まれたのであろうが、
報告に来た時の彼は明らかに喜び一杯の顔であった。

それから、魔理沙夫妻の生活は娘の魔理亜が言葉を話し、自力で歩くまでの間、平穏な日々が崩れる事はなかった。

〜〜〜〜〜

「畜生、どうしてだ? 私達はただ平穏に暮らしたかった……がぁぁぁあああ!!!」

その日もいつもと同じ筈だった。
朝起きて朝食を摂り、皆で素材を採取し、時間が余ったら香霖堂を訪れて……。
何でもない一日が繰り返されるだけの筈だった。

偶然、本当にただの偶然。腹を空かせた半妖が近くにいた一家に襲いかかっただけ。
幻想郷では珍しくも無い出来事。

襲いかかった妖怪は霖之助や人里の守護者とは比べられない程、獣じみており二足歩行をする獣といっても差し支えない姿だ。
身長7尺、厚い毛皮に覆われた姿は狼の様、爪は獲物を容易に切り裂く鋭さである。
その鋭い爪は魔理沙の利き腕側の肩口を貫通した。

弾幕勝負で幻想郷一二を争う程の実力者であった魔理沙も一線から離れて久しく、
動きの鈍くなった体は妖怪の一撃を避ける事さえ出来なかった。

「おいっ! 魔理亜を連れて早く……」

魔理沙の言葉の最後を聞く前に夫は妻の意思を察し、娘を抱きかかえて逃げ走った。

「ははっ……良かった……さて、邪魔者はいなくなった……」

魔理沙は負傷した利き腕ではなく無事な手で八卦炉を握り、襲い来る妖怪にそれを向ける。

「飯にありつきたかったら……かかってきな!」



本日も開店休業の香霖堂にけたたましい音が響く。
扉の開く音に慣れた様子で挨拶をしようとした霖之助も入って来た人物に驚きを隠せなかった。

「……義兄さん、この子をお願いします」

「待ちなさい、一体どうしたんだ? 事情は解らないが、少し落ち着いて……」

「すみません、魔理沙が待っています」

再び扉は音を上げる。
制止を叫ぼうとした霖之助も、余りの恐怖から解放された魔理亜の泣き声に彼女を宥める様努めるしかなかった。

心配であるのだが、この子を置いていく訳にもいかない。

霖之助はあれから半日程、魔理亜が落ち着く様に抱きかかえていた。
漸く、泣き止んだ魔理亜を見て安堵するも、魔理沙夫妻の事を考えると気が気ではない。

脈絡も無く静かに店の扉が開き、霊夢が入って来る。

「こんばんは、突然だけど妖怪退治の依頼が入ってね。 この子を少し預かってくれない?」

「霊夢……君は帰って来てくれるかい?」

「突然何を言ってるの? 私が妖怪如きに遅れを取る訳がないでしょ」

寝ぼけ眼を擦っている次代の博麗の巫女霊巫(れいむ)は、
霖之助に手を引かれ漸く落ち着いた魔理亜と共に奥の寝室に寝かされた。

霊夢は一言礼を述べ改めて用件を頼むと、店から出て光の無い夜の森に消えて行った。



数日後、文々。新聞の号外には魔理沙夫妻と霊夢の惨殺死体。
そして、件の妖怪の死体が発見されたという記事が大きく載せられていた。



解らなくても、知らなくても、いつも傍に居た親が居なくなれば不安なのだろう。
辛いのだろう、苦しく悲しいのだろう。
霖之助の膝上には不安に心が押し潰され、泣き疲れた少女が二人居た。
彼がしていた事と言えば、優しく抱きしめていただけである。

「こんばんは、霖之助さん……」

いつもの如く唐突に紫が現れた。
目元に疲れが見え、紫に向けられる眼光は苛立ちを隠そうともしなかった。

「紫さん、この子達の前で僕は怒りを露わにしたくない……聡明な貴女ならば解る筈だ……」

霖之助の言葉に紫は溜息を一つ、そのまま何も言わずにスキマを展開して姿を消した。
彼は座っている安楽椅子に身体を預けると、未だ膝上で眠っている少女を優しく抱き、そのまま目を瞑った。

〜〜〜〜〜〜

ここではない場所、ここではない時代。
白い壁に白い天井、彼はこの光景を以前夢で見た。
身体はピクリとも動かず、目に映るのは体から伸びている無数のコードと目線の先にあるテレビだけ。
身体が動かないのは現実で二人が乗っているからだと思い出した。

テレビに映っているのは記者会見というものだろう、以前雑誌で見た記憶がある。
華やかな印象の記者会見、垂れ幕には祝仮想空間実験成功と書いてある。
壇上にいる女性は誰だ? 見た記憶がある、思い出せない、誰か? 誰だったか?

不意に訪れたものは地に足が着く感覚であった。
夢で呟く事は不思議かもしれない、彼は目覚めか? などと言っていた。



「おはよう。 ……そして、さようなら……霊夢、魔理沙……」

目覚めて最初に感傷的な言葉を呟く。
膝の上には未だ安楽を求めて彼にしがみつく少女が二人。

この子達はこれからどの様な人生を送り、どの様に育つのか。
彼はこの先に二人を育てる事に不安は無い、
それでもこの子達が育ち親の事を聞いてきた時どの様に話したら良いか、その一点のみを不安に思っていた。

唐突に目を覚ました二人は寝ぼけ、眼を擦っていた。

「「まだ、眠いよぉ……」」

心配が杞憂ではないかと少し安心した霖之助は魔理亜を抱え、霊巫の手を引いて寝室に寝かしつけた。
先日からの疲れが抜けていない二人はぐずる事も無く、早々に二度寝を始めた。

これからは愛してやまなかった、二人の忘れ形見を育てなければならない。
霖之助はそう思いながらも、これからは本を読む時間も少なくなるのではないか?
とも考えていた。

彼が知識を求め、欲求に則って知識を望み、本を読む時に限って彼の元に招かざる客は訪れる。
それは傍から見たら様式美とも思えるが、彼にとっては冗談にもならない。

扉が開くと彼はいつもの様に感情を込めずに挨拶を行う。
入って来た人物は珍しい客、紫の式八雲藍であった。

「お久しぶりです霖之助様。 本日は我が主に代わり参りました」

中華の官僚の様に手を袖に隠したまま体の前で袖を合わせて丁寧にお辞儀をする。
その姿は交渉人として訪れたと思えるが、隠している雰囲気から僅かな威圧感が感じ取れた。

「我が主からは、不在となった博麗の巫女の代理を直ちに着任させよ、との命です。
こちらに居る次代の巫女候補をこちらに引き渡して頂きたい」

「突然、訪れたと思ったら、随分な言い草ではないか?
君達にとって人間は所詮道具にすぎないと言う訳か?」

先日の紫の件もあり、表情を変えずとも霖之助は苛立っていた。
もし、幻想郷中を八雲が見渡しているのなら、二人の人間の唐突な死を回避できたと考えていたからだ。
彼はそれが勝手な憶測であると理解はしていたが、
それでも親しい者を唐突に二人も失った苛立ちを向ける先がなかったのだ。

彼の心中、思惑を察してか無視してか、それとも主の命以外は意図的に聞いていないのかもしれない。
藍は温和な表情を崩して雰囲気を変える。
脅迫的に威圧的に、袖からは隠していた手を出し暗がりの店内に金色の虹彩を輝かせる。
瞳孔は針よりも細まり、立てた爪は獲物を狙い澄ましていた。

今までに命の危機を感じた事は少なくない。
それでも、藍の威圧は桁が違った。
全身に冷や汗を流しても、彼は冷静を装い次の言葉を探し続けた。

「待ってくれ。 君は知らないかもしれないが、あの子は霊夢が居なくなってから漸く落ち着いたんだ。
今の不安定な状態で巫女に選任する事は危険性があると僕は思う。
もし、可能であるならば、分社をこの店の近くに建てて
博麗の巫女として十分にその役目を全うできる時までここに住みながら見守らせて欲しい」

「良く口が回るのですね、私は貴方に意見を求めに来たのではないのですよ?
言葉は良く選んでください。 紫様が貴方を気にかけていなければ今ここで死んでいます。
もう一度言います。 博麗の巫女を……えっ? はい、わかりました……」

先程まで全身から発していた殺気が見る見るうちに消えて行く。
輝いていた虹彩も極限まで細まっていた瞳孔も店に訪れた際の温和なものに戻り、
元の交渉人の役目に戻る。

「失礼致しました。 我が主より貴方様の用件をすべて飲む様に命じられました。
博麗神社分社を建立する迄の期間、次代の巫女の健康状態の維持をお願いお頼み申します。
また、我が主および私に出来る事があれば何なりとお申し付け下さい」

先程の極度の緊張状態と相まり、余りの変わり身具合に霖之助は、……ああ。 と言葉を絞り出す事しか出来なかった。



穏やかな日差しが木々の隙間から降り注ぐ中、香霖堂の軒先にはビーチチェアが三つ用意されていた。
真ん中の大きな椅子では霖之助が辺りを気にしながら本を読んでいる。
子供用の中位の椅子では大分落ち着きを取り戻した霊巫が空返事の霖之助と楽しそうに会話をしている。
もう一つの椅子に子供は座っていない。
もう一人の子供の魔理亜は霖之助の膝の上に座り、未だ穏やかならぬ心の不安を払拭したく彼の体に抱きついていた。

「ねぇ、あれは何をしているの?」

「分社を建てているんだ」

「分社って何?」

「小さな神社だよ」

「神社って何?」

「そうだな……今度皆で行こうか? 将来霊巫が住む所だからな」

「は〜い、私神社に行く〜」

分社の建立に来ていた力自慢の妖怪達は、親子の様な光景に和やかな空気を覚える。
普段、息をまき争いに明け暮れる妖怪達の表情とは思えなかった。

「さて霊巫、そろそろ休憩にしよう。 皆にお茶を振舞うから手伝ってくれるか?」

「あいっ!」



順調に進んだ分社の建造は一週間とかからずに終了した。
その間に霊巫は活発に霖之助の手伝いをした。
元々病弱な魔理亜は霖之助に抱きかかえられている事が多かった。

その日も客の来ない香霖堂は平常通りである筈だった。

「こんにちは、霖之助さん」

藍を伴い現れた紫はいつもと違い、店の扉から静かに訪れた。
先日とは違い霖之助の瞳に不機嫌さは無く、一緒に居る霊巫や魔理亜にも怯える様子はなかった。

「用件はご存じだと思いますが……」

「ああ、だが、もし間違いが起こる様なら……」

「私を殺すとでも仰るのでしょうか? ふふ、それ位の気概があるのならこの子も問題は無いでしょうね」

紫に手を差し伸べられると、霊巫は不安そうに霖之助を見た。
彼は小さく頷き霊巫の手を握ると紫の前までの数歩を共に歩んだ。
香霖堂から目と鼻の先、巨木の元に造られた祠の程の大きさの神社。
八卦を基にして描かれた方陣に霊巫は誘われた。

「では、力を抜いて目を瞑って」

紫と藍は自身の妖術を方陣に向けて放出していく。
目を覆う強烈な光が辺りを包み、数分という時間を掛けてゆっくりと収縮していった。
光は霊巫の体内に留められたが、彼女自身に不調が起こる様な事は無かった。

「頑張ったわね、貴女の体に変わった事は何もないわ。
幻想郷から少し力を分けて貰える様になっただけ。 異変が起こった時はその力でこの地を守りなさい」

当の霊巫は目線を落として紫の話を半分程度しか聞いていなかった。
手を見て閉じたり開いたり、体に異常が無いと解ると満面の笑みに変わった。
身体を翻すと、自身の好きな人物に向けて走って行った。
藍は眉をピクリと少しだけ動かし、紫は肩を竦めた。

「お父さん! 私、頑張ったよ!」

霖之助は膝を着き飛びついて来た霊巫をしっかりと抱きとめた。



正式に博麗の巫女となった霊巫の元には紫や藍が連日修行に訪れた。
先代の霊夢に才能で劣るが、修行をする霊巫は綿に水が染み込む様に力をつけていった。
この調子ならば博麗神社に住む頃には霊夢と同等程度の力が手に入りそうである。



修行が始まり、数年が経った頃。
その日は霊力の精密調整を行う修行であった。
霊巫の周りには青白い輪が出来、彼女に浮力を与えようとしていた。
髪や先代と同じ赤いリボン、巫女装束の裾が風を受けてはためく。
やがて輪も風も消える。 と霊巫はその場に浮かび上がり空へ空へと浮いて行く。

魔理亜はその様子を霖之助の傍で見ていた。

「ねぇ、お父さん。 私は空を飛ぶ事は出来ないの?」

霖之助の脳裏に在りし日の魔理沙の顔が浮かぶ。
人間とカテゴライズされた者の中で本当に只の人間であったのは彼女だけであった事を思い出す。

「只の人間は空を飛ぶ事は出来ないの?」

霖之助は考えた。
魔理沙の血を引く彼女が空を飛び魔法を使える様になったらどうなるか?
血は争えないだろう……少し良くなったとはいえ、幼い頃から病弱な彼女も弾幕戦の世界に飛び込むかもしれない。

「やっぱり、只の人間は飛べないんだ……」

魔理亜の寂しそうな表情が霖之助の目に飛び込む。

答えは僕が決める事では無い。 答えは、答えは……。

「魔理亜、ちょっと来てくれ……」

霖之助は魔理亜の手を引き、店の奥、倉庫の更に一番奥に連れて行った。
その中で小さいが最も頑丈な金庫を開ける。

「魔理亜。 さっきの答えは自分で探すんだ。
これは君の母親が残した魔道書と八卦炉というマジックアイテムだ。
君が空を飛びたいなら、飛ぶ努力をするんだ。 望みがあるなら、望みをかなえる努力をするんだ」

魔理亜は霖之助から魔道書と道具を受け取った。
幼いから霖之助が先ほど言った言葉を完全に理解していないかもしれない。
受け取った魔理亜が少し考えて思い立った事は空が飛べるかもしれないという事だ。

「ありがとう!」

そこにいつもの暗い表情は無い。
魔道書と八卦炉を前に抱え、店の前までの短い距離、息を切らせて魔理亜は走って行く。

先程まで空高くに浮いていた霊巫は漸く地上に戻って来た。
その場には魔理亜が待ち構え、戻って来たばかりの霊巫に向けて
胸の前に抱いていた魔道書を見せつけた。

「すぐに霊巫に追いついて見せるから」

「楽しみにしているわ」

店先に出て来た霖之助は魔理亜のライバル宣言を見て溜息を吐き、感慨深さを感じていた。

〜〜〜〜〜〜〜

香霖堂の店内。
安楽椅子に腰を深く掛け、うつら、うつらと船を漕いでいる青年が一人居る。
彼の元に居る筈の二人の少女はもうこの場には居ない。

「ああ……眠っていたのか……人の一生は早いものだ……前も言った気がする。
生きている間はきっと同じ事を言い続けるのだろうな……」

((お父さん、掃除をしないとお客さん来てくれないよ?))

「ああ、わかっているよ。 霊巫、魔理亜」

彼はハタキを持つと売り物が置いてある場所の埃をはたき落としていった。



霊巫は成長した。
修行を続けた霊巫は巫女として十分な力をつけていった。
魔理亜が病弱な所為で十分でなかったかもしれないが、父親である霖之助に甘えていた。
いつの間にか呼び方がお父さんから霖之助さんに変わっていった。
子供から大人へ、思春期の頃から距離が段々と離れて行った。
巣立ち、その時期に皆で何度も通った博麗神社に住み込む事に決まった。
霖之助にとって複雑であったが、別れの時の霊巫が嘗ての霊夢同様であった事が僅かな懐かしさを覚えた。
それでも暇があれば香霖堂に顔を出しに来る。

魔理亜も成長した。
幼い頃から病弱であった彼女は霖之助からある物を受け取った事によって、徐々に元気を取り戻していった。
病弱であるが故に小さい頃から霖之助に頼りきりであった。
大きくなっても彼に甘える事はやめられなかった。
そういえば、呼び方はいつの間にか香霖に変わっていた。
やはり、血は争えないらしく、霊巫が霖之助の元を巣立ちしばらくたったある日に独立をした。
彼女が住み魔法店を経営する場所は嘗て魔理沙夫妻と自身が住んでいた。 旧霧雨魔法店であった。



「おっす、香霖遊びに来たぜ」

「僕は君をそんな風に育てた覚えはないぞ」

「連れないこと言うなよ。 ほら、良い物を持ってきたぜ。 松茸酒っていう外の世界じゃ高級品の茸を使った日本酒で……」

「ここでは、ありがたる人がいるとは思えないがね」

「じゃあ、たまにここに来る暇人に振舞えよ」

そういう事なら……。 と霖之助は呟くとありがたく魔理亜の酒を受け取った。
それからは他愛もない話を二人でした。
ここ最近霊巫が店を訪れないが何かあったか? と聞けば、
吸血鬼や隙間妖怪、鬼や天人、現人神や住職、聖徳王に好かれ、
更には有難い仙人様に修行を付き合わされた。 と答えが返って来る。
それはご愁傷様。 と半ば諦めた様な声が聞こえたとか聞こえなかったとか……。

静かな店内の静かな会話。 その静寂は突然の来客者によって妨げられた。

「やっと、あいつらから逃げ切れたわ」

現れた霊巫は息を切らし疲労困憊の表情で言葉を絞り出した。
膝に手をつき、息を整える。
霊巫の様子を見て、いつもの様子で二人は、いらっしゃい。 と声をかける。

「まったく、冗談じゃないわ。 私を見て先代の生き写しとかなんとか言うし……。
私は霊夢様じゃないのよ……いい加減、やめて欲しいものだわ」

怒り心頭、と言っても疲労困憊の状況ではいまいち中途半端で迫力に欠ける。
霖之助は少し微笑み、霊夢と霊巫が重なった様に見えた。

「ここに来るのも暫くぶりだ、積もる話は食事の時にでも話してくれないか? 折角だから食べて行くと良い」

「流石、香霖だ話が分かる。 ここは魔理亜さんも手伝おうじゃないか」

いつかと同じ日常、いつかと同じ穏やかさ、辛みをふんだんに盛り込んだ鍋。
それまでの暑さと一線を画す涼やかな風の流れる季節に汗を流しながら一同は食事をする。
霊巫は文句を言いながらも今までの一部始終を面倒臭そうに話していった。
霖之助も魔理亜も微笑みながら、時には砕け、適当に相槌をした。
彼はこういう時に限って思うのだ、日々流れる当たり前の日常は崩れる事がないと。

〜〜〜〜〜〜〜〜

ギギギ、と重そうな木製の扉がゆっくりと開かれ、いかにもな感じのくたびれた中年男性が顔を覗かせる。
男は静かな室内に靴音を響かせ重々しい足取りで大きくない部屋の奥に向かう。
部屋の奥。 壁にあるのは時計。 であるのだが、その時計は15分までしか描かれておらず、
また針が長針しか付けられていなかった。
見た目では時計としての機能を与えられてはいない様に散見される。
男は残り一分を指している針に手を掛け、零分に針を動かした。

突然、男は脱力しその場に泣き崩れた。 その様子は己の無力を呪うかの様であった。



ここではない場所、ここではない時代。
死に装束を思わせる白を基調とした小奇麗な部屋。

全身麻痺に身体は動かず目に映るものといえば身体から伸びるコードとテレビのみ。
ふと、目線の外側に光が映る。 二度三度と光を放つそれは花火の様であった。
テレビでは何かを言っている。 こういう時に限ってテレビの音声がちらつく、
霖之助の見ている夢だから仕方が無い事であるが、
垂れ幕の文字と記者の様子からあまり良い事は報道されて無いのだろう。



いつもの様に目を覚ます霖之助。
気が付けば日は一番高い位置に昇っており、霊巫や魔理亜は当に帰っていた。
店の鍵は開いているものの来客者は、まったくと言っていい程いなかった。
いつもの事といえばいつもの事である。

彼は少し遅い朝の支度をする。
すっきりと頭を起こし、いつもの安楽椅子に座ると、これまたいつも通りに読書を始めようとする。
何でも無い平和で穏やかな一時に限って、彼の時間を邪魔するかの様に人が訪れる。

「こんにちは、霖之助さん」

「……誰かと思えば紫さんか。 確かに今日は約束の日だ。 商売に必要な品以外ならば好きに持っていくと良い」

「相変わらず早とちりが得意なのですね。 目的はそれだけではないですわ」

「と言うと?」

「貴方は大切な娘の事に対して何か嫌な気がした事は無いかしら?」

「今度は何を企んでいるのですか?」

「質問には答えて欲しいですわ。
あえて言うなら、貴方に嫌われたままでいる事が癪に障る事と
忘れた頃に教えて差し上げる約束を果たしに来ただけです。
貴方が見たく無い光景があるのなら、その為に迷わずに行動なさい」

言葉を言い終えた紫は地面と肘を水平に構え、手を上向きにしていた。
手の上には一見では解らぬ正体不明の鉄の箱が乗っている。

「それでは、今回はこれを頂いてきます。 ふふ……また会いましょう霖之助さん」

「ま、待て……それは……」

紫はいつもの通りにスキマに消えて行く。
霖之助は持って行かれた物を思い、首をかしげた。

「そんなガラクタを何に使うんだ?」

彼の能力で箱はパーソナルコンピューターという名前と物理演算をする程度の能力と判明しているが、
以前に見つけた物と違い、スイッチやボタンの類が付いていなかった。
その為、ガラクタの烙印を押したそれは、店の片隅に置かれていた物である。

それはそうと、霖之助には紫の言葉が少し引っかかった。
一番初めに感じたのは魔理沙と霊夢が死んだ直前の事であった。
霊巫や魔理亜を育てている間も度々その様な感覚は感じていた。
その度に彼女達の意思を無視してでも、嫌な予感が通り過ぎるのを待ったのだ。

彼に引っかかっている事はそれと同じ、魔理亜の元に言い知れぬ不安があったのだ。
丁度今日は魔理亜が訪れる日。
彼は商売を休業し彼女が来るまでの時間、読書で時間を潰そうと考え、積まれていた本から一冊を取り出した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

もし、貴方が少女を自分の好きな様に扱いたいと考え、その為に最良の手段は何かと問われた際、
貴方はどの様な行動に移すか?

霧雨魔法店に突如乱入した男は前述の疑問に対する一つの解を実行していた。

少女は涙を流し抵抗も出来ず、男に組み敷かれ激しく腰を打ち付けられている。
最初は母親譲りの勝気な性格で抵抗していたが、それも男の力に屈服せざるを得なかった。



顔への打撃は腹部に比べて相手の心を折る効果が高い。 それも女性が相手なら尚更だ。
来店一番、無防備な魔理亜に向けて男は軽く打ち放った。

「……あ? 何しやがんだ!」

魔理亜の文句等何処吹く風、男は彼女を地面に投げ倒し、馬乗りの格好で彼女に無表情な顔を向ける。
一発。 二発。
男は硬く固まった拳を顔に放つ。
魔理亜は手で何とか受け止めるも殴られる衝撃は流し様がなく顔に衝撃のみが残る。

男の拳が天高く上がった様子に魔理亜は怯え目尻から涙をこぼし、最悪の言葉、屈服を宣言してしまう。

「やっ、やめてくれ。 何でもするか……ぐべっ!」

魔理亜の言葉を最後まで聞かず振り上げた拳を打ち付ける。
顔に腹に、馬乗りのまま放たれたそれは避ける事も出来ない。

いくつかの痣が出来た頃。
男は当初の目的を行う為、魔理亜から降りスカートに手を滑り込ませ、下着に手を掛ける。
これから行われる行為を恐れ奥歯が噛み合わず音を鳴らすも、
先程までの暴力にそれ以上の恐れを抱き、もはや抵抗をする気力さえなかった。

争った時の興奮の為かそれとも襲われた時の防衛反応か……
下着を脱がされた彼女の秘裂周辺は油でも塗ったかの如く淫靡に輝き、
これから行われる行為の準備が完了していた。

男が亀頭をあてがうと魔理亜の体がピクッと小さな反応をする。
そのまま、肉を掻き分け、柔らかな入り口を裂き、血に塗れた蛇の如く彼女の胎内に侵入を始めた。

男は自身の欲望に忠実だ。
魔理亜を狙っていたのか、それとも女性を襲う気で偶然に見つけたここを襲ったのか。
いずれにしろ打ち付ける身体が激しくなる程に息遣いも激しくなっていく。
今まさに犯されている魔理亜はすべてを諦めて他人事の様に虚ろな表情で人形の様になっていた。
目尻からは涙が一筋、切れる事無く流れ続けていた。

最初の無表情が嘘の様に、愉悦を浮かべている男の口元は酷く歪んでいた。
鼻から僅かに血を流し、顔にいくつかの痣が出来て、
勝気な少女が抵抗一つ出来なくなっている事に酷く満足している。
息遣いも荒く、絶頂に近づいた男は魔理亜の耳元に口を近づけ小さく話す。
途端、魔理亜の目に光が戻り哀願する表情に変わる。

「やめてくれ、それだけは、それだ……ぐぇ!」

男は拳を魔理亜の眉間周辺に向けて放つ。 彼女の行動が男の癪に障った様だ。
再び、暴力の恐怖を思い出し顔を手で覆い元の表情に戻る。

「ゃぇて……やめて……赤ちゃん、出来ちゃう……」

男は一際腰の動きを激しくすると、魔理亜の膣内の一番奥に魔羅を押し込む。
と同時に今まで溜まっていたであろう精を彼女の子袋に向けて盛大に放った。

「ぁ……ぁ……ぁ、酷い……あんまりだ……」

侵入している肉の魔物が胎内で律動し不快な液体が身体に染み入っている。
その感覚が例えようもない不快感でいっぱいだった。
目を歪め、先程から止まらぬ涙が更に流れ続ける。
男は又も癇に障ったらしく、魔理亜を殴る。

結果的に魔理亜は殺される事はなかったが、男が満足しその場を立ち去るまで強姦と暴力は止む事はなかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

先代の時とは違い、物は多いものの綺麗に掃除され、整理も行き届いた霧雨魔法店の部屋。
その部屋では栗の花の様な人によっては不快に思う臭いが充満していた。
魔女を思わせる黒い服を纏った少女は床に大の字に寝たまま顔を覆って泣いていた。
服装はある一点以外の乱れはないがスカートは捲り上げられ、下着は着けてはいない。
彼女の未発達な秘裂からは赤と白の液体が流れている。

顔にはいくつかの痣が散見され、服に隠れているが恐らくは体も……。

嗚咽を混じらせ痛む身体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。
未だ身体は苦痛に支配されている。
魔理亜は乱れた服装を直す事も、トレードマークの帽子を被る事も出来ずに心の拠り所である場所に向け重々しく歩み始めた。

「うぇ……ぐすっ、香霖……私を助けてよぉ……」



夜になり、香霖堂の中ではランプが灯されている。
魔理亜を待ち続け辺りはすっかり暗くなってしまった。
彼女の元を直接訪れようと何度となく考えたが、擦れ違いを恐れてこの時間まで待ち続けたのだ。

静かに開く店の扉。

「こ……香霖……」

「ああ、魔理亜かい? 随分おそ……魔理亜! 一体どうした!?」

霖之助は慌てて椅子から立ち上がり店の入り口に向かう。
短い筈の距離に彼は支払場の机に積まれていた本の山を倒し、品物の置いてある机に足を引っかけた。
魔理亜の肩を掴み再び問う。
当の彼女は目から大粒の涙を溢れさせて、霖之助に抱きついた。

「香霖……怖かった、怖かったよ……」

霖之助に抱きつき、大声を上げて泣き続ける魔理亜は完全に錯乱している様であった。
言葉が通じないと彼は感じ、彼女を抱き返す。

「わぁぁぁぁぁああああ!!! あああああぁぁぁぁぁ……」

霖之助は魔理亜の好きにさせた、泣き疲れるでも、少しでも気分が晴れるならばと考えた。

暫くして、泣き声が啜り泣きに変わった頃、漸く彼女から異臭がしている事に気が付く。

「魔理亜、もし良かったら、風呂に入って少しでも気分を変えたらどうだい?」

「すんっ……すんっ……香霖が洗ってくれるなら……」

この状況ではその様な事に頭は回らなかったが、霖之助は大きく溜息を吐きたかったに違いない。
本当に怖い事に巻き込まれた魔理亜は彼の傍をまったく離れようとせず、ピタリとくっついていた。

(本当に酷い目に遭わされた様だな……)

一時的な幼児退行もしており、服を脱がせる事や体を洗う事もすべて彼がする事となった。
彼女の服を脱がした時、体に出来ている無数の痣が彼の推測が正しい事を伝え、
半乾きとなった血と液体が彼女の身に降りかかった事を暗に伝えた。

霖之助が魔理亜の体を優しく洗っている間、彼女は自分の秘裂に指を伸ばして指を出し入れしていた。
彼の耳に淫靡な音が届いていたが、声を押し殺している彼女に向けて静かに涙を流す事しか出来なかった。



三度目、これで三度目だ。
一体、何の意味があるのだ?
記者会見の夢なんて、何の関係があるのだ?
ロストテクノロジーの取得? 仮想空間の修正順調?

被験者は重病人? 5人の少女と1人の青年?
滅びゆく世界に一つの光明?

訳がわからない……。

プシュ……彼の耳には体内に液体が流される音が聞こえ、彼の見ていた世界は暗転をした。



「一晩中、守ってあげると言ったのに……眠ってしまったか……はは、我ながら情けない……」

布団に二人で眠っている。 ここでいかがわしい事が行われた訳でも愛が確かめられた訳でもない。
言うなれば子供が怖い夢を見て、父親の元を訪れた……そういう言葉がしっくりする。
尤も二人は眠る前から同じ場にいたのだが……。

寝たまま頬杖をつき、魔理亜の頭を撫で、母親譲りの癖のある綺麗なブロンドの髪を手ですく。
彼女の寝顔は穏やかな笑顔に包まれ、本当の意味で救われている様であった。

程なくして目を覚ました彼女は霖之助と挨拶を交わす。
父親と娘、兄と妹、何の変哲もない朝の光景。
顔に受けた痣は痛々しいが、先日に比べれば心に受けた傷も大幅に改善された。

でも、底に残った大きな傷は改善に長い時間がかかりそうだ。

「……なぁ、魔理亜。 一度、永遠亭に行って体を診てもらおう」

「必要ないぜ。 私は香霖と一緒に居られるだけでいいんだ」

「だが……くっ、昨日今日の事だがはっきりと言わせて貰う、もし、もし子供が……」

「私もはっきり言わせて貰う。
香霖と一緒に居られればそれで良いんだ……もし、できていても子供に罪は無いんだ……なぁ、そうだろ?」

男である霖之助にとってその返答は出来なかった。
難しい表情で言葉に詰まり、真剣に悩んでいる眉間には皺が寄っている。
そんな霖之助に魔理亜はモソモソと動いて抱きつく。

「そんなに悩むなよ……お父さん……」



魔理亜は口ではああいう風に言っていたが、心には深い傷を負っていた。
常に目線に霖之助がいなければ不安で仕方が無く、殆どの時間を彼と過ごしていた。
当然、彼が慣れない商売に精を出す時も同じ、里に行く際も彼に腕組みをする程であった。
傍から見たら恋人同士と言われてもおかしくない程である。
勝気であった性格も仲の良い者以外にはなりを潜め、昔の病弱な頃に戻って行った。



「はぁ〜、小さい頃からあんた達は変わらず仲が良いのね」

「おう、私はお父さんと仲が良いんだぜ」

魔理亜の言葉に僅かな疑問が生まれる。
霊夢程ではないがそれなりに勘の働く霊巫は何かがおかしい事を感じ取った。
顔をまじまじと見ると毎日会っている人でも気付けない程の痣を発見する。

「突然なんだよ、恥ずかしいぜ……」

胸を張り、腰に手を当てたまま直立に姿勢を戻し、溜息を吐く。
面相臭そうに表情を変えると、帰る為に入り口に向かって振り向く。

「霊巫、久々に来たというのに、今日はもう帰るのかい?」

霖之助の言葉を聞き、再び溜息を一つ。
先程見た表情とは違う寂しそうな言葉が返ってきた。

「霖之助さん。 魔理亜をよろしくね……」



あの日から何日かが経った、彼女の顔に出来ていた酷い痣が漸く消え去った。
霖之助は表情に出さぬものの内心安堵した。
魔理亜はお世辞にも嬉しい顔は出来なかった。
毎日鏡を見れば、日々薄れるものの、あの時の事を思い出す。
痣が消えても、痣が無くなった。 と思えば思い出す事は同じなのである。

その日は外に出て店の周りで自生している薬草を調べていた。
特に計画していた訳では無い、霖之助の思いつきだ。
魔理亜は久々に母親の残した魔道書から自生している化物茸を探していた。
当然、彼女の視界の隅には心の拠り所である人物がしっかりと存在している。

霖之助の視界から消えるほんの一瞬、魔理亜は蔓に足を掴まれて少しの距離を引きずられてしまう。
香霖堂から目と鼻の先の距離ではあるが、彼女は言葉を失い怯えだす。
目の前に居た男は嘗て魔理亜に乱暴を働いた男であったからだ。
それが今度は体から蔓を生やし、ウネウネと宙で蠢かせている。

男の顔はいつかの様に愉悦に歪んでいた。
言葉を失い涙を浮かべて逃げようとするも魔理亜の足を蔓で絡め引き寄せる。
植物の妖怪に変化した男は、今度は魔理亜を苗床にして少し前と同様の快楽と繁殖をしようと本能のみで動いていた。

男の体や顔が破れ、紙とも布とも判らぬ不快な音が響き、無数の蔓が伸びて行った。
蔓は触手の如く伸び、彼女の体に絡みついていった。

だが、突如妖怪の動きが止まる。

「貴様ぁぁぁぁ! 貴様ぁぁぁぁああああ!!!」

その場には剣を抜いた霖之助が、普段の表情からは想像の出来ない程の怒りを纏っていた。
妖怪は触手の力が抜け魔理亜をその場に落としてしまう。
だが、妖怪にはそんな事を気にしている時間は無く、霖之助の握っている剣の威光に完全に飲まれてしまっていた。
それもその筈、彼の剣は草薙の剣。 草を薙ぐのはお手の物なのだ。

接近した霖之助は斬撃としては並の速さで首と思わしき場所を刎ねた。
返す刀で更に二回、胸部と腰部を切り裂く。
剣の力はこれだけではない、不浄な草をその場で浄化を始めた。
斬られた植物の妖怪はその場で白い炎に包まれ、断末魔の気味の悪い声を上げた。
魔理亜に襲いかかった妖怪に怒りの収まらない霖之助は持っていた剣を頭部らしき場所に突き刺し、彼女の元へ向かった。

「すまない、遅くなった……」

霖之助の表情、言葉遣いはいつもの調子に戻っていた。
魔理亜は安堵に涙を流して霖之助に抱きつく。

「全然遅くない……ありがとう、お父さん」

〜〜

それから、魔理亜は日に日に弱っていく様であった。
とにかく食事を食べさせて気を充実させなければと霖之助は考える。

「悪いな、あんまり沢山食べれないんだ……」

栄養価の高い物を多く用意し、彼女が一日でも早く元気になれるように食事を作る。
少しづつ焦りが焦りを呼ぶ、彼女の困った表情に我に返り自身の行いに呆れる。

「はは、これじゃあ、駄目だな……」

良いアイデアは我に返り、自身に呆れた際に良く出るのかもしれない。
彼は思いつきによって発想を変えた。

「魔理亜、少しなら食べれるか?」

「ああ、食べれるが……」

「今日から食べれる時に少しずつ食べよう、食べたくない時は食べなくても良い」

食事の形態を変えた事は正解であった。 魔理亜は少しずつであるが食事ができる様に戻って行った。
だが、霖之助には何か言い知れぬものが心に引っかかった。

数か月後に魔理亜は嘔吐を繰り返した。
食事は少量ずつの摂取なので問題はないが、
嘔吐は消耗が激しく昼夜を問わない気分の悪さは彼女の精神を確実に削っていった。
霖之助の存在が彼女の精神を支えた。

嘔吐感も数日も経てば完全に治っていた。



「魔理亜、君は良いのか? これは完全に……」

「そうだろうな、よろしくな、パパ」

「君はこの様な形で身籠った事に……」

「何を言っているんだ? 私が母親でお父さんと一緒に育てれば良いじゃないか」

段々と確実にお腹が大きくなっていく、重くなるお腹は彼女の動きを鈍くしていった。
それでも、元より軽い彼女を支える事は霖之助にとっては何でもなかった。

「楽しみだなぁ、後どの位だ? まさか、父親がいなくても子供が出来るとは思わなかったぜ」

「一緒に育てような……魔理亜……」

「ああ、よろしくな」

椅子に座って、編み物用の針を動かす魔理亜。
霖之助は彼女の頭を優しく抱きしめると、涙を堪える事で精一杯だった。



数えていないから正確ではないが、十月十日より少し前。
魔理亜は破水し、出産迄あと少しとなった。

魔理沙の出産には立ち会っているが、出産は女性の仕事だった。
本と辛うじて覚えている記憶を頼りに必要な物を用意する。

陣痛が始まり、それなりの時間がかかったが産婆の手を借りずとも赤子は容易に生まれてきた。
彼は臍の緒を切り、ぬるま湯とタオルで赤子を濡らしている羊水を優しく拭いた。
部屋には赤子の泣き声が響き、魔理亜の胎内からは胎盤がドロリと排出された。
幸いにも、ぬるま湯を張っていた桶に落ちたが辺りには赤い水が少し散乱した。

赤子をベッドに寝かす、これは魔理沙が魔理亜に使っていた物だ、問題がある筈が無い。
新しく張り直したぬるま湯で魔理亜の下腹部を拭っていく。
服も着替えさせて、赤子の近くの布団に寝かせてやる。
赤子が生まれるまで本当に色々な事に遭遇した彼女は身体の痛みが治まった為に静かに寝息を立てていた。

霖之助は床と魔理亜が出産に使った椅子を拭きながら、彼女がこの先幸せに暮らせられたら……と考えていた。



大きな泣き声を上げていた赤子は疲れ果てて、今では静かな寝息を立てている。
霖之助は慈しむ表情で魔理亜の頭を撫で、眠っている彼女はいつかの様に安心した表情で眠っている。
彼は彼女が目を覚ますまで眠る事無く付き添った。



やがて、魔理亜が目を覚ます。

「おはよう、魔理亜」

「ああ、おはよう、お父さん。 ……何かお腹が軽い……寂しいな……」

「そうでもないさ、ほらそこに君が守り抜いた命が居るんだ。 抱いて実感してくれ」

霖之助はそう言うと未だ眠り続けている赤子を優しく抱き上げ、魔理亜の元へ大切に運ぶ。
母子の感動の初対面。 霖之助から愛しの我が子を優しく受け取る。

子の顔を覗き込んだ魔理亜の表情が凍る。
目を見開き、口を半開きにし、僅かに漏れる声は何かを恐れる様であった。
段々と顔に汗が浮く。
凍った表情は段々と溶け、やがて炎が燻る状態と炎を消そうとする状態の間で揺れ動いていた。

「……魔理亜、一体どうしたんだ?」

霖之助は魔理亜から赤子を受け取ると元のベッドに優しく寝かした。

「あいつだ……あいつの目、あいつの口元……顔があいつのものばかり……」

ブツブツと呟いている魔理亜から彼は一瞬だけ目を離した。

「いやだ! いやだ! いやだぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」

出産をしたばかりであまり動けない筈の彼女は叫び声をあげるとその場から外へ走りだした。
赤子は叫び声に驚き泣き始め、霖之助は赤子に目を向ける。目線を魔理亜に戻した時すでにその場に居らず、店の扉は開け放たれていた。
慌てて追いかけようと外へ出るが、辺りを見回しても彼女の姿は見つからない。
赤子の泣き声が耳に入り、追いかける気持ちが二の足を踏む。

「よしよし、すまなかったな……魔理亜……」

霖之助は赤子をあやす事を選んだ。
暫くして機嫌の治った赤子は何が起こったかを知らずに可愛い笑顔を向ける。
彼の表情は若干困っている様だった。

魔理亜の安否が気になり、すぐにでも探しに行きたい。
だが、赤子を置いていく訳にもいかず、また危険に巻き込まれた際の事も脳裏に浮かぶ。
これから暗くなると探す事も難しくなる。 彼は途方に暮れた。

「あら? 霖之助さん、その子どうしたの?」

「霊巫。 丁度いい所へ、魔理亜がいなくなった。 この子を頼む」

「ちょっと待ってよ。 私の話も聞きなさい」

霊巫の言葉を背中に受けつつ魔理亜を探す為に家を出た。
行先は分からない、でも彼の足は自然と進んだ。

息を切らし到着した場所は霧雨魔法店で店の周りには真新しい足跡がある。

「間違いない……」

何故ここに来たかという疑問はこの際どうでも良かった。
後は魔理亜を探し出して帰れば良い程度に安心していたのだ。

……ギッ、ギギッ……。

扉を開け店に入るも人の気配はまったく無い。
隠れていると考え声をかけてみても返事が返って来る訳でもない。

……ギギッ、ギギギ……。

暫く探した後に店から出て、今度は外の周りを探してみる事にした。

……ギッ、ギギギ……。

「あ……ま、魔理……」

霖之助の最も望まなかった形で見つけた、見つけてしまった。
衣服を汚し、木の枝の下にぶら下がっている彼女を……。

膝が震えた、指先が震えた。 奥歯が噛み合わず、涙があふれた。
彼は無我夢中だった。
痛々しい苦悶の表情で固まっている娘を木から降ろそうと、もがいた。
手先には生傷が増えていき、少しであるが服を引っかけたりもした。

地面に降ろす際の彼女の身体に暖かさは無く、人形の様に重く感じた。

先程の無我夢中の際にいくつかの道具を無意識に持ち出していた。
彼は最早覚えていない、先程までぶら下がっていた木の下を一心不乱に掘り続けた。

やがて人一人が入れる墓穴を掘り終える。

「ごめん、ごめんな魔理亜……」

冷たくなり脈も無い娘を優しく穴の中に寝かせ、土を被せていく。
深く掘り下げられた穴は土に埋まり、その上に盛土がされた。

手を合わせ、最愛であった娘に別れを告げて重々しい体を引きずって帰路についた。



「霖之助さん。 取り乱して一体どうしたの? それにこの子は?」

「……その子は魔理亜の子だ……あと、あと、魔理亜が……魔理亜が死んだ……死んでしまった……」

普段の表情からは想像の出来ない事である。 彼は魔理亜の死に涙していた。

「僕は、僕は無力だ……」

いつかの誰かの様にその場に嗚咽を混じらせて泣き崩れた。
霊巫は赤子をベッドに寝かせ、霖之助を見たが、
声を押し殺して泣く彼にどう接して良いか解らず、ただ立ち尽くすしかなかった。



やや、あって大分冷静さを取り戻した霖之助は顔を少し赤らめて霊巫に謝っていた。
泣き腫らした目に少し苦笑したが、喜ばしくない事件が彼女を現実に引き戻した。

「ねぇ、霖之助さん。 魔理亜はさ、幸せだったと思うよ……本当に辛い事ばかりだったかもしれないけど……
最後の十か月間は、ずっと貴方の傍に居られじゃない……」

霖之助の目から再び涙が溢れる。
彼の心の中は様々な感情が色々な色で塗りつぶした様な、ないまぜの状態になっていた。



霖之助は次の日には元の調子に戻っていたが、内心は悲しみを引きずっていた。
霊巫が帰る際、彼女は霖之助の事を心配し多くの言葉を残していった。
思えば、彼女はここ数か月来る事が少なかった。
何か訪れた際に用事があったのかもしれない。 と考えるも、あくまで憶測に過ぎないと彼は考える事をやめた。

伸びをした彼は改めて魔理亜の娘を育てる決心をした。



魔理亜の死から数年は何も起こらず、平和な日々が続いた。
正しくは異変が何度か起こったのだが、霖之助にとっては概ね平和な時期が続いていた。
変わった事と言えば、現人神を名乗る東風谷早苗という人物が時折尋ねる事があった。
何でも彼女と霊巫がとても仲が良いとかで……。

そんな平穏が続く中、霖之助は知らないが異変が起こったらしい。
外からは花火の様な大きな音が響いている。
よちよちと歩ける様になった娘は安楽椅子で本を静かに読んでいる彼の膝の上によじ登ろうとしていた。

やがて数日が経ち、夜中に突然の来客者が現れた。

「こんばんは、霖之助さん」

「早苗さん。 こんな夜更けに一体どうしました? それにその子は?」

「霊巫さんが、弾幕戦の事故で亡くなりました。
彼女が最後に貴方に何度も言えなかった事を伝えて欲しいと言っていました。
貴方にお礼が言えなかった事と、この子次代の博霊の巫女の事」

彼は軽い眩暈を覚えた。霊夢と魔理沙が死に、殆ど同じ姿の少女が自分の元に来るという同じ事が起こったのだ。
きわめて冷静を装った彼は早苗の元から歩いてくる次代の博麗の巫女を魔理亜の娘と共に抱き上げた。
そこに魔理亜の死の時の様に無様に取り乱す男は居ず、彼の瞳は決意に満ちていた。

「僕はこの二人を立派に育てるよ……ありがとう」

〜〜〜

「霖之助さん……」

霊夢の声が聞こえる。 振り向けば当然だが、霊夢の姿をした少女がそこに居る。
苦労してここまで育てた。 ここまで大きな事故や病気もなく育ってくれて良かった。

「香霖……」

魔理沙の声が聞こえる。 声の聞こえた方向を向けば魔理沙の姿の少女が居る。
彼女もそうだ。 成長した姿はあの頃の少女と同じだ。

二人とも本当によか……。

突如、光が霊夢の姿をした少女の頭を通過した。
額からは緩やかな速さで滝の如く血が流れ、両目はそれぞれが別を向き、力無くその場に倒れ落ちた。
血の流れる始点だった箇所は完全に切り離されており、彼女が地面に倒れた際に脳がこぼれ、その場に生肉が落ちる音を響かせた。

霖之助は彼女達を助けようと走ろうとした。
だが、手を伸ばせない、声も出ない。
足は自分のものではない様に重く感じ、非常に愚鈍な速さで彼女達に向かう事しか出来なかった。

視点を動かし魔理沙の姿の少女を見れば、胸から金属製の武器を生やしていた。
胸元から血泡と共に服を朱に染めていく。 手を武器に伸ばし引き抜こうともがいても、
余計に傷口が広がるのみ。 やがて口元から血を流し……手や足がこと切れたかの様に脱力した。

「霖之助さん……」

彼女は僕が育てた。 もう何回か覚えていないが大切な、大切な娘だ。

弾幕戦で彼女の胸を光の矢が貫いた。 浮力を失った彼女は真っ逆さまに地面へ……。

「香霖……」

彼女もだ、何度も何度も酷い目に遭った。 でも、僕は彼女を守った。 だから……天寿を……全うして……。

結婚した彼女は一女を儲けた。 だが、夫の暴力に耐えきれず家を出て霖之助の元に戻っていた。
森で昔の様に化物茸を探していた彼女であったが、後ろから近付いている者に気が付かず。
首に縄が掛けられ気が付いた時には……。



霖之助は何度も何度も彼女達を育てた。
それは義務感からでも何でも無い、彼の愛した妹達の忘れ形見が本当に大切であったからだ。

腹を刺された、首を刎ねられた、岩に潰された、時には村人に暴行された。
火炙りにかけられた、弾幕戦で事故に遭った、妖怪に襲われた。

からん、からん……。

彼の足元に人骨が音を立てて転がり、積もっていく。

「……やめろ……」

凍死した、毒死した、水死した。
殴り殺され、踏み殺され、灼熱の中に姿を消した。

「……やめろ、やめろ! やめろぉぉぉぉおおおお!!!」

霊夢という少女と魔理沙という少女の骸が山となり彼の前に積もった。
その山に駆け寄り、すべての骸を弔ってやりたいと思う。
だが、相も変わらず身体が動いてくれない。

「私、言いましたわ。 貴方が手を伸ばせば救えないものは無いと……
ですが、何故ですか?
これ程まで後悔するのならば自分のものにしてまで守ろうとしなかったのですか?」

霖之助は未だ死に続ける霊夢と魔理沙から目線を外し、声の聞こえた背後を向く。
そこに居たのは八雲紫であった。
彼は怒りと哀しみに我を忘れ、普段からは想像の出来ない言葉遣いと剣幕で紫に詰め寄ろうとした。

「八雲紫! 君か……君が仕組んだ事なのか!!!」

霊夢達の方向に歩みが進めれなかった足は、紫に向かう時は普通に歩く事が出来た。
だが、何もない所で躓き本当に脚が動かなくなってしまう。
紫の姿は当に消えていた。

「くそっ! こんな……こんな茶番はもうたくさんだ!」

暗闇の空間、霊夢と魔理沙が死に続ける中、虚空に向かい彼は咆哮した。

〜〜〜〜

「こんな茶番はもうたくさんだ!」

香霖堂の店内に霖之助の叫び声が響き渡る。
自身の叫びで目を覚ました彼は息を切らし、体中を汗にまみれさせていた。
彼の傍には霊夢と魔理沙が目をパチクリとさせて驚き固まっていた。

「はぁ……はぁ……霊夢? 魔理沙?」

「ええ」
「おう」

「は、はは、悪い冗談だよ……
君達が死に続け、僕が君達を育てる何て……いう……夢を……」

彼の手元には定期購読している新聞があった。
名前は文々。新聞で間違いは無い。 だが、制作者の名が違う。

「な、何だ、これは……第29815季? ぼ、僕は一体どうしてしまったんだ?」

冷静に今の状況を分析しようと呼吸を整える霖之助。
部屋に小さな咳払いが二つ響く、部屋に居る少女達は彼に近づき、もじもじと恥ずかしがっている。

「あのね、霖之助さん。 私達自分の幸せについて考えたの」
「二人して馬鹿みたいだとは思うけど、小さい頃から育ててくれた香霖にとても感謝している」

「でも、私達は貴方にとってそれ以上の存在になりたいの」
「不束者だが、二人いっぺんに貰ってくれないか?」

先程まで取り乱していた霖之助は二人の言葉を聞いている時は極めて冷静であった。
だから、彼女達に返す言葉もあらかじめ決まっており、
彼が生涯妻を娶らないと決めていた事を冷静に思い出せたのだ。

「すまない、二人とも……僕の様な中途半端な人間は妻を娶る権利は無いんだ……
人間が妻なら、相手を先に送ってしまう。
妖怪が妻なら、僕が先に送られてしまう。
二人ともすまない」

彼女達から返事は返って来なかった。
突然、辺りの時間が停止してように動かなくなったからだ。
代わりに聞こえた声は必要でない時にばかり顔を出す、あの妖怪少女のものであった。

「何人も何人も送ったのに、あれ程の後悔もしたのに……
結局貴方は決断できないのですね」

「紫さん?」

「霖之助さん。 目覚めの時間です。 話はあちらか、こちらに再び戻って来た時にでもゆっくりしましょう」

〜〜〜〜〜

幻想郷ではない時代、幻想郷ではない場所。
白い壁に白い床、白い天井。 清潔感を出す為に統一された白は死装束の様であった。
動かない身体、動くのは眼球のみ。
目を覚ました目線の先にはいつも見ていた女性の姿があった。

「おはようございます。 霖之助さん、気分は如何ですか?」

彼は言葉を返そうとしたが、声は出なかった。
彼の喉には無数のチューブが差し込まれており、自立会話は不能な状態であった。
代弁をしてくれる声はしゃがれてニュアンスのバラバラな電子音の様なモノであった。

[悪くない。 闘病、闘病でここ数年は本がまともに読めなかったからね。
……ところで君は八雲? ……いや、違うな。 メリーか? マエリベリーか?]

「ご名答。 もし元婚約者の名前を間違えたら、この場で先に黄泉に送る所でしたわ。
宇佐見霖之助さん」

[僕の名前なんて随分聞かなかった気がするな]

「蓮子が残念がっていました。 新しいお姉ちゃんが出来る筈だったのに……と」

[ところで僕が居た幻想郷は単なる夢だったのかい?]

「いいえ、仮想空間幻想郷は貴方にとって夢でも森近霖之助の暮らしている立派な現実です」

[では、霊夢や魔理沙は?]

「彼女達は貴方と同じ被験者です。 もっともこちらの世界では植物状態ですが」

[彼女達が僕の元に必ず来たのはプログラムか何かなのか?]

「被験者は五人います。 他の三人はそれぞれが望んだ主人を見つけ、それぞれの幸せを見つけました」

[では、二人の幸せは……]

「それは、貴方が決める事です」

[そうか……。 メリー、君や蓮子は妖怪、妖怪と言うが……余命が百日を切った時から、
普通に生きる君達人間の方がよっぽど妖怪みたいだと思ったよ]

「そうかもしれませんわ」

[あと、僕はどれ位生きれる?]

「こちらでは24時間、あちらでは300年ですわ」

霖之助の体内に針が刺され、液体が染み込む感覚を覚えた。
彼の体がこわばり感から解放され筋肉が弛緩していき、水に溶ける様な感覚に支配される。
段々と彼の頭が白くなっていく、睡魔に襲われ眠る前に彼は言葉を呟いた。

[あと300年か……今度は……二人と……幸せに……出来れば……いい……な]

部屋の中が静かになり、先程まで楽しそうに話していた少女の顔が影を帯びていく。
静かにゆっくり、まるで止まっているかの様に時間が進む。
規則正しく鳴っていた音は時間が経つ程に弱いものに変化していく。

やがて、極限まで弱くなった音はただの連続音に変わる。
少女は男に向かって歩み、首筋に指を当て、何も反応が無い状態を確認した。
突如、雷が鳴り外には真っ黒な雨が降り始め、雷の光は彼女の目尻から流れるものに反射していた。

〜〜〜〜〜〜

森近霖之助は目を覚ました。
どうやら、支払場の机に突っ伏してそのまま眠っていてしまったらしい。
彼の目の前では笑顔で彼の目覚めを待っていた人物が居る。

「おはようございます、霖之助さん」

「紫さん、君は相変わらず意地が悪い。
用があるのならあらかじめいってくれれば、お待ちしていましたのに」

彼は立ち上がり、この妖怪少女を無視して朝の準備をしたいと思ったが、何か違和感を覚えた。
大昔から言わなければならない様な、言う事を決められていた様な不思議な感覚。

「あ、の、紫さん」

「何かしら?」

「僕は嘗て君を裏切ってしまった気がする。
紫さんに償いをしようと考えている僕は馬鹿なのでしょうか?」

「いいえ」

「それに、一介の人間である僕が霊夢と魔理沙を娶ろうと思っている。
いくら幻想郷でも常識から外れているのではないでしょうか?」

「いいえ」

「では、僕は君達三人を幸せにしたいと思う事は愚かではないですか?」

「いいえ」

霖之助は立ち上がったまま、肩から力が抜けた。

その場に似つかわしくない騒がしい声が外から聞こえてくる。
その声の主は二人いるらしく、彼女達はそろって扉から店内に入って来た。

「ようやく見つけたわ」
「先日は乙女の告白を無視して逃げやがって」

「「さあ、観念して答えなさい」」

二人の来店に何か安心した感情を覚える。
息を吐いて、呼吸を落ち着け、二人をしっかりと見据える。
いつにも増して真剣な表情で二人の告白の返答をした。

「霊夢、魔理沙。 僕はこの命が尽きる迄、君達が幸せになる様尽くすよ」
周りと自身の時間の流れが違い、時代に取り残されていく霖之助さんは如何でしたか?

相変わらず紫霖にはなりませんでしたが、楽しんでいただければ幸いです。

匿名評価ありがとうございます。
ただただ、感謝です。
コメント返信です。

>海様
積極的に守りなさいと紫に言われ続け
安楽椅子から立ち上がった霖之助は大切な人を守れるかもしれません。


>NutsIn先任曹長様
強い決意を持った者は男であれ女であれ強い力を発揮します。
彼らの行く末には希望が隠れているでしょう。
あの人の作品は私も好きですよ。

>3様
現実で関係があった分だけ苦しかったでしょう。
二人は似た者同士だけに愛する者の為に苦しみ抜いたでしょう。

>keyhuck様
人間はいつか抜かれていきます。
半妖の霖之助だからこそ、人間とは違う視点から物事が見えると思いました。
楽しんで頂きありがとうございます。
まいん
https://twitter.com/mine_60
作品情報
作品集:
4
投稿日時:
2012/08/20 10:58:10
更新日時:
2012/09/13 23:23:10
評価:
4/8
POINT:
520
Rate:
12.11
分類
霖之助
霊夢
魔理沙
オリキャラ
他数名
香霖堂店主の平凡な人生
9/13コメント返信
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
0. 120点 匿名評価 投稿数: 4
1. 100 ■2012/08/20 22:54:11
安楽椅子に腰掛けていては、大切な人は護れない。今度は、霖之助は。
冒頭の紫の警告はそのようなものでしょうか。

個人的には、P・K・ディックの小説、「死の迷路」を思い出させる作りが良いと思いました。仮想世界で死すべき宿命は、いつか我々が機械の体と電子の頭脳を手に入れた時には、解決していてほしいものです。

描かれた絵も、書かれた文章も、掘られた偶像も、いつか誰にも解読できなくなった時に(古代文字のように)幻想はようやく死ぬのかもしれません。
彼や彼女らに幸ある死を。
2. 100 NutsIn先任曹長 ■2012/08/20 23:59:01
優柔不断野郎がハッピーになるのは、コテコテの仮想現実だけだ。
リアルでハッピーになりたきゃ、ドーンといかなきゃ!!

何か……、私の好きだった産廃作家様の作品の香りがしました。
不幸のループの先に希望の光があるところとか……。
3. 100 名無し ■2012/08/21 12:15:08
紫さん(?)は知っている分苦しみも大きかったんだろうな。
繰り返してなお自分の幸せを認めない香霖やるじゃん。
紫さんも自分の幸せを一番に考えないかわいい!
6. 100 keyhuck ■2012/08/30 09:18:28
人間の危うさ、儚さ、を感じました。――目を閉じれば死体が足元に積もっている。
我々は相対的な世界の生き物であるため、同じくこの世で暮らす何かと比較しなければ、本質や特徴は見えてこない。
今回は(半)妖怪の視点から我々の生き様を感じることができました。
大変有意義で、楽しいひと時を過ごすことができてよかったです。(スラスラ読めました)
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