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『残暑、逢瀬、そして――説教』 作者: NutsIn先任曹長
幻想郷の管理人を勤める妖怪の賢者、八雲 紫。
幻想郷の結界を守護する楽園の巫女、博麗 霊夢。
二人は、並んで正座をしていた。
何故、こんな事に――。
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夏。
紫と霊夢は、忙しかった。
紫は冬は冬眠してしまうので、それ以外の季節、特に冬の対局の季節である夏には精力的に働いた。
外界では大企業の経営者として、幻想郷では龍神様より託された管理人として、世界中を、セカイ中を、飛び回った。
有力者と会食し、紛争地域のミリタリーバランスの境界を見切って商売をし、幻想郷の境界を点検し、配下の式神達の一斉メンテナンスを行なったりした。
一部作業は、普段からやっておくべきこともあったが、忙しついでに片そうと、紫の右腕である九尾の式神、八雲 藍がスケジュールを組んでしまった。
これは紫が配下の指示に逆らえない、数少ない事例である。
霊夢は、夏場に活気付く妖怪共の退治に勤しんでいた。
口で言えば分かる、幻想郷の有力者である上級妖怪達を大勢知己に持つ霊夢ではあるが、人里の住民達に悪さをするのは獣と形容するにふさわしい下級妖怪であった。
普段は各勢力の領地(シマ)での揉め事はそれぞれの勢力の私兵が当事者をシメているが、いかんせん、この季節は雑魚が力をつけ、爆発的に増殖する。
自前の戦力ではキツいので、助っ人を頼むことになる。
妖怪に対しては驚異的な攻撃能力を発揮する人間の少女――異変解決人達は、ある者は仕える主人の命で、ある者は正義の名の下の虐殺に酔いしれるため、またある者は小遣い稼ぎに奔走した。
ちなみに霊夢が働くのは、博麗の巫女としての義務もあるが、前述の最後の理由もちょっぴりあったりする。
異変解決人達の中でも、やはり霊夢は別格であった。
一働きするだけで、下級妖怪の群れがあっけなく壊滅した。
そんな彼女がフル稼働している事から、妖怪の増殖具合が分かるというものだ。
霊夢の腋むき出しの変形巫女服が血に塗れていない日は無かった。
霊夢の妖怪退治、いや、虐殺が何日も続けば、下級妖怪の下級たる脳みそでも、霊夢の恐ろしさが学習できてきた。
夏も終わりに近づくと、妖怪は紅に染まった霊夢の姿を見ただけで、悲鳴を上げて逃げ出すようになった。
連日の『掃討』で疲弊した霊夢は、『標的』のそんな態度に額に青筋を立ててイラつきを覚えるのだった。
雑魚妖怪が霊夢に遭遇する。
悲鳴。
イラッ!! ビキビキィッ!!
辺りは、血の紅に染まる。
ヒッ!! ビキィ!! 紅。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夏は終わった。
朝晩は涼しくなったが、まだ日中は残暑が厳しい。
しかし、なにはともあれ、夏は、終わった。
霊夢は境内を掃除する手を止めた。
一月ほど掃除を怠って荒れ放題だったが、すっかり見違えるほどに綺麗になった。
竹箒を所定の位置に立てかけ、井戸の水で顔と手を洗う。
そして、宙を凝視する。
「来たわね」
霊夢の視線の先の空間が裂けた。
その『スキマ』から上半身を表した美女。
「ごきげんよう、霊夢」
八雲 紫だった。
「私がご機嫌に見える?」
そう言った霊夢に、スキマから飛び降り歩み寄った紫。
「あらぁ、御挨拶ね。違うのかしらぁ?」
逆に霊夢に問う紫。
霊夢の返事は――、
「……嬉しい」
――紫への抱擁だった。
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人里の小洒落た区画。
少なくない数のカップルが、乳繰り合いながら通りを行き交っていた。
同性での結婚も番うことも可能な幻想郷だから、男同士、女同士のペアも少なからずいた。
そんな中の一組の熱々恋人女性カップル。
黒髪の少女は、年長の金髪美女の腕にしがみ付きはしゃいでいた。
美女はそんな無邪気な少女を見て、愛おしそうに微笑んだ。
博麗 霊夢は、普段身に着けている巫女服や蝶の羽のようなリボンと共に博麗の巫女の責務を神社に置いてきて、今は一人の少女として逢瀬を楽しんだ。
八雲 紫は、会社の経営状況も幻想郷の行く末も自身の年齢も忘れ、今は可愛い恋人の少女と楽しい時間を共有することに専念した。
ショーウィンドウの中の買う気のない洋服を見て、お互いに似合うのではと言い合う霊夢と紫。
立ち寄ったペットショップで、ケージの中の妖獣にちょっかいをかけて吠えられ、ビックリして紫に抱きつく霊夢。
オープンテラスでケーキとお茶を楽しむ二人。口の横に付いたクリームを霊夢に舐め取られ、顔を真っ赤にする紫。
時間は夕方になろうかという頃だろうか。
紫と霊夢は、ピッタリと寄り添いあいながら歩いていた。
「霊夢、疲れた?」
「ううん、全然」
紫の気遣いに、否定の返事をする霊夢。
「霊夢……、少し、休んでいかない?」
紫の指差した先。
休憩の可能な、紅魔館を安普請で再現したようなホテルがあった。
……こくり。
紫の提案に、無言で肯定の意を示す霊夢。
『御休憩』といいながら二人が本当に休んだのは、制限時間のラスト十分ぐらいだろうか。
心地良い疲労と何かしらの満足を得られ、ホテルを後にする紫と霊夢。
密着度合いが、より一層高まっているような。
二人は幸せの絶頂であった。
絶頂から転落する予兆は、二人の前を横切って行った、大鎌を担いだ死神だった。
血相を変えた死神が走ってきた方。
仁王立ちの少女。
死神の上司である閻魔様。
四季映姫・ヤマザナドゥが、そこにいた。
弛みきっていた為に、対応が遅れた。
紫と霊夢が目を逸らす前に、映姫と目が合ってしまった。
逃走は、許されなかった。
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スキマで博麗神社に戻った紫、霊夢、そして映姫。
寝室で一張羅を脱ぎ捨て、いつもの服装に着替える紫と霊夢。
二人はトイレで用足しを済ませ、居間に三人分の茶菓を用意した。
五枚重ねの座布団にちょこんと鎮座した映姫。
ちゃぶ台をはさんで、映姫と向かい合うように、いや、俯き加減に正座した紫と霊夢。
準備完了。
映姫様の説教(ショー)タイムはこうして始まった。
貴女達には、幻想郷の守護者としての自覚があるのですか――。
日々、研鑽に勤め――。
私の部下にも約一名、勤労意欲の著しく低い者がおりまして――。
そうです!! 全て小町が悪いのです――。
霊夢、貴女は人々のために働きなさい――。
八雲 紫、何でも式神任せにしないで善行を積みなさい――。
確かに親睦を深めることは大切です。しかし節度というものが――。
小町が珍しく私の仕事場に来て相談事があるというから外出許可をもらって――。
仕事のサボタージュに閻魔を担ぎ出すなど言語道断!! そもそも小町は――。
貴女達はそろって職場放棄をしたばかりか、あ……、あのようないかがわしい場所で――っ!!
何ですか、あの回る寝台は!? 寝具が充実しているのにルームサービスがしょぼいのはどういうことか――!!
ここで映姫は一息ついて、麦茶を一口飲み、水羊羹を一切れ頬張った。
麦茶は煮出して作り、キンキンに冷やしたヤツで、水羊羹は、博麗神社の数少ない堅気の人間の参拝客がくれた上物である。
紫と霊夢の目の前にも同じ物があるが、手は一切付けられていない。
映姫は、彼女のほうをチラチラと見ている紫と霊夢に飲食の許可を出す事無く、引き続き説教を続けた――。
――ですから、二人とも分かりましたね。それが貴女達にできる善行です。
ようやく、映姫様の有り難くて涙も枯れ果てたお説教が終わった。
紫と霊夢は、ハイ、ハイと、返事とも相槌とも取れるような言葉しか発することは無かった。
意見などしようものなら、映姫の二倍返し、三倍返しは必須であるから、これが最善であった。
二人の見送りを断り、映姫は博麗神社を去っていった。
……。
…………。
………………。
映姫が去って数分が経過した。
霊夢の巫女の勘も、紫の膨大な年月と修羅場で培った経験則も、危険は去った事を告げていた。
先ずすべきこと。
とりあえず、目の前の温くなった麦茶と水羊羹を腹の中に片付けよう。
二人きりの居間。
だらけきった紫と霊夢。
ついさっきまでの緊張感が嘘のようだ。
「……」
「……」
見つめあう二人。
「……ぷっ」
「……ぷぷっ」
吹き出す二人。
もう、我慢の限界だった。
「ぷくくっ……、あ〜〜〜〜〜っはっはははははははははぁ〜!!!!!」
「ぷ〜っくっくっく……、は〜、あ〜はっはっははははははははははっ!!!!!」
笑い転げる二人。
紫は腹を抱えて畳の上でバタ足をしている。
裾の長い導師服の最奥に秘匿された、霊夢にしか見せていない、黒レースの布地が見えそうだ。
霊夢はゲラゲラ笑いながら畳を己の拳で滅多打ちにしていた。
激しい動きにサラシが緩み巫女服の脇の隙間から、紫にしか吸わせていない、つつましい双丘のピンクの頂が見えそうだ。
「おじゃましまー……、ホントにお邪魔だった……?」
紫と霊夢の共通の知人である、鬼の伊吹 萃香が一升瓶を携えて遊びに来た。
萃香が出くわしたのは、汗だくで荒い息を吐いて抱き合っている紫と霊夢であった。
「ひぃ……、あ、萃香、いらっしゃい」
「はぁはぁ……、あら、萃香」
何とか落ち着いた二人は萃香を居間に招きいれようとした。
「あ、ちょっと待った。今日はツレがいるんだ」
小柄な萃香と比較するとより大柄に見える女性。
「お邪魔するよ……」
死神の小野塚 小町であった。
「あら、また会ったわね」
「?」
霊夢の問いかけに、きょとんとした表情の小町。
あの時、紫と霊夢に気付いていなかったようだ。
「いやね、こいつ、一人で黄昏て酒を飲んでたもんでね」
「いや……、ちょいと個人的な事で四季様と揉めちゃって……」
普段は江戸っ子気質で威勢の良い小町が、えらくしょげていた。
「そんな落ち込んでちゃ酒が不味くなるよ。だから一緒に飲もうと思って無理に連れてきちゃったけど……、いいかな?」
「私は構わないわよ。てか、いつも断りも無く神社で宴会おっ始めるじゃない」
「私も構いませんわ。酒を酌み交わしながら、色々と聞かせていただきましょう」
そう、色々とね……。
紫は、口元を愛用の扇子で覆い隠した。
「ウチでは恋愛成就にも御利益があるわよ」
霊夢の言葉に、小町がギョッとした顔になった。
御利益云々は初耳だ。恐らく霊夢はカマをかけたのだろう。
効果は覿面だった。
「恋バナか〜、良いね〜!! これは最高の酒の肴だ!!」
萃香は無邪気に喜んでいる。
霊夢が人数分の杯と箸と、以前に紫があげたウニの瓶詰めを持ってきた。
酒が満たされる杯。
準備完了。
乾杯!!
四人の杯は、一息に干された。
小町への最初の質問は、
やっぱり、
ずっと気になっていた、
映姫の首筋に付いていたキスマークについてだろうな。
夏の終わりの、だだ甘な、ゆかれいむ劇場。
私が書きたかっただけ。
2012年10月8日(月):コメントへの返答追加
>海様
平和の影に修羅場有り。
>まいん様
浄玻璃の鏡……ではない、普通の手鏡を見せれば、四季様は御自分の真っ赤なお顔を見ることでしょう。
これこそが、動かぬ証拠!!
>ギョウヘルインニ様
この期に及んで黙秘権を行使する四季様に、自白剤(酒)の投与を許可する!!
さて、ゲロしてもらおうか!!
>15様
内輪だけでは色々と腐ってしまいますから、第三者機関に審問させるのも有効かと。
いつも無駄に長いので、たまには短編SSをば。
NutsIn先任曹長
http://twitter.com/McpoNutsin
作品情報
作品集:
4
投稿日時:
2012/09/16 15:47:32
更新日時:
2012/10/08 23:07:11
評価:
3/15
POINT:
470
Rate:
6.60
分類
霊夢
紫
ゆかれいむ
映姫
小町
萃香
紅白衣装って、まあ、そういう意味ですよね。カモフラージュ。
さぁ、他人を妬む前に貴女の口から
あの人とどの位アツアツなのか話して下さい。
罰は小町さんにみんなの前で告白ですね?
幻想郷の「維持」の一環なんやなw
珍しく短編なので感想も短く。