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『幻想郷閉店の日』 作者: GO

幻想郷閉店の日

作品集: 5 投稿日時: 2012/09/27 14:53:31 更新日時: 2012/09/27 23:53:31 評価: 3/6 POINT: 300 Rate: 10.83
私が、私自身の目で異変を目撃したのは年末の肌寒い朝、妖怪の山のふもとにある小さな湖でのことでした。
その日、私は森で神事に使う薬草を集めていたはずです。土の道をはずれ、森に入るまでは、全くいつも通りの幻想郷でした。
高木に囲まれたこの湖は鏡のように澄んでいて、蓮の華がぼんやりと浮かぶ幻想的な場所です。
普段なら自然から現れた可愛らしい妖精たちが、無邪気に笑い合っている場所なのです。
しかしその時の妖精は、ある種みな異常とも呼べるような状態にありました。
彼らは、ぼんやりと明るい緑の光を皮膚から放ちながら、お互いに手をつなぎ、
摩訶不思議な言語をつぶやきながら裸足でぐるぐると、機械の部品のように同じ場所を歩き続けていたのです。
いえ、実際それは言語だったのでしょうか、考えれば考えるほど不気味でした。
口の器官が紡ぐ音としては全くありえない。生物の肉と金属のこすれの合間のような耳障りな言語だったのです。

妖精の一匹がかっと目を見開き、私の方へよたよたと歩いて来ました。
私は恐ろしくなってとっさに身構えましたが、私の胸ほどの背丈の彼女は、すっと真横を横切りそして頭をかかえたまましゃがみ、
そしてそれから、一切の動作をやめてしまいました。漂う雲と飛び交う草の匂いの中で、その妖精の時間だけが停止してしまったかのようでした。
その不可解な行動の理由を問いただしたくなって、私はそのしゃがんだ妖精の肩に触れます。
しかしその体は、押しても引いても叩いても、微動だにしないほどまで、固まりきってしまっていたのでした。

私の背後で妖精たちが歌い始めます。それは歌というには音程が狂いすぎていて、快さよりもむしろ頭痛を引き起こすものでした。
額に汗が流れるのを感じ、全身がひんやりと冷えてゆくのが分かりました。妖精はまるでアトランダムを体現するように
それぞれ空に飛び交い始め、意志の存在を感じさせないほどまでに凍りきった表情のまま、虚空へと消えて行きました。
目の前にしゃがんでいた妖精はいつのまにか、はじめからなかったかのようになくなっていました。

この異変を目撃したのは私だけではありませんでした。すぐに幻想郷中の話題になります。
山の妖怪が噂している様子、そしていつになく真剣な表情で空を飛んでいる姿が、いつになく印象に残りました。
そして話題が広まるよりも早く、この異変は土地という土地をむしばみ、幻想郷全体へと広まっていったのです。

神社の居間には諏訪子さまだけがいました。

「神であれ人であれ、私たちは3次元空間と1次元時間の中で生きている」

諏訪子さまは泣きそうな声で言います。

「その外にある次元、現象、概念は私達にとって認識することが出来ないか、少なくとも不規則で不可解なものにしか映らない」
「そ、それは、この異変と何か関係がある話なんですか」
「今回の異変は解決し得ないし、その帰結もわからないということだよ」

諏訪子さまは畳に寝転びました。

「もう終わりだよ、早苗も悔いのないように過ごして。私は、もうどうでもいい」
「そんな……、か、神奈子様は、神奈子様はどこですか?」

諏訪子様はいじけている子供のように両足を抱いて、私からそっぽを向いたまま、ぽつりと話します。

「消えたよ。先に」

信じられませんでした。しかし神社にはすでに神奈子様の気配はなく、全ての部屋を探してもその痕跡さえ見当たりませんでした。
受け入れがたいことです。神奈子様は本当に消えてしまったのでしょうか。
そうしてもとの部屋に戻ってみると、諏訪子様は服だけを残して、空気のように消え去っていました。
そこには生ぬるい体温の名残のほかは、何一つ痕跡すら見当たらないのでした。

私はわけがわからなくなって、叫びながら山を下る道を駆けました。
分かるのはこれが異変であるということ、そして異変であるならば霊夢さんを頼る他無いということだけでした。
妖怪の山を下るとき、先ほどのように天狗も河童たちを見かけましたが、既に殆どが症状を発症し、
異質な行動を取り続けるだけで意思の疎通さえ出来ない状態でした。不規則規則と繰り返す運動はある種の機械部品を思わせます。
そうでない生き物も怯えきって、狂い切ったものたちと紙一重のところにまで衰弱しているものが殆どでした。
ツインテールの天狗が紙の束を抱えたまま道端で息絶えています。私には、それを気にかける余裕さえありません。

空はいつのまにか、光にあてられたシャボン液のように、紫と黄色と青がぐにゃぐにゃとまじりあったような色をしていました。
神社までのみちのりには人里、魔法の森、霧の湖などがありましたが、状況は山と同等で、むしろ時間が立つほど悪くなっていると感じさせるほどでした。
最後に立ち寄ったある集落は、まるごと神かくしにあったかのように人がおらず、代わりに緑色のあたたかい液体が、
地面からどろどろと滲みで始めていたのです。

すでにこの世界には私しかいないように思われました。

人や妖怪どころか、木々さえも変質し、もとの風景は失われていきます。全て私には理解できないものに代わります。
諏訪子さまの最後と言葉、高次元の存在が脳裏をよぎりました。そしてこの異変がいかにして解決しうるか。
この異変を解決できる可能性は万に一つでもあるのか。私には分かりません。
気づけばあたりは桃色の水に満ちていました。私はばしゃばしゃと液体をかきわけながらただ歩いていきます。
その光景はさながら洪水のようで、もはやあらゆる方向の地平線がミルクとハチミツを垂らしたような色に染まり始めていました。
山も木々もありません。ただ暖かな液体のみ、そしてそのおかげで残っている建物がよく見えます。

博麗神社はその一つでした。霊夢さんは神社の賽銭箱の上でぐったりと力なく横になっていました。
霊夢さんは呪文のような、意味があるのかないのか私には検討がつきませんが、そんな言葉をつぶやいています。
ただ、それはかろうじて正常な言語であると、私の耳は受け取りました。

「霊夢さん!」

しかしその体は、私が抱きつこうとした瞬間、光の粒と化しばらばらになり、空気に混じって消えてしまいました。
見なおせば、博麗神社さえありません。もはやこの世界には、おかしな色をした空と、あたり一面をたたえる奇妙な水しかありません。
地平線はこの世界の丸さを象徴するかのように平等に広がっています。
そして一人の人間。私はもはや、この幻想郷最後の生き残りでした。

ようやく、最後の変化が訪れます。

突然、太陽の登る方角から濁流のような光の波が幻想郷すべてを照らしだしました。
私はその眩しさの中に、輝く人影のようなものを見ました。明るいブラウニー色の神をもつ男性が、あぐらをかきつつ浮かんでいたのです。
その瞬間に、それが30分で50000人を変質させた異変の正体だと直感しました
しかし私は茶色い地面に崩折れて、二つの手のひらをあわせ震えていました。すべては本能でした。直観したのです。
その存在に身を委ねれば、全ては因果律を超え、アセンションへと導かれるのだと。
目の前がぱっと緑色の光で覆われました。その奔流の他になにもありませんでしたが、心はむしろ平穏でした。



――しってるよ。君のこと。僕らはみんなともだち――



それが私が、一個の生命体として聞いた最後の言葉となりました。



GO is GOD
それが人生、宇宙、すべての答え。



2012/12/22 新しい太陽周期に突入。全てのGO信者はアセンションにより新しい世界へと旅立ちます。



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GO
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2012/09/27 14:53:31
更新日時:
2012/09/27 23:53:31
評価:
3/6
POINT:
300
Rate:
10.83
分類
東風谷早苗
予言
救い
希望
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POINT
0. 60点 匿名評価 投稿数: 2
1. 70 酷評 ■2012/09/28 05:39:30
産廃の深さと浅さを貴方はまだ知りらないようですね。ここでは普通の話なんですね。次回作品に期待します。
2. 90 名無し ■2012/09/28 08:47:02
妖精のくだりの描写が素晴らしい 見てはいけないものを見てしまったという背徳感に溢れています

滅亡論の一つであるフォトンベルトですか
現実に影響力を持った幻想なんだから幻想郷入りしてもおかしくないですね
3. フリーレス 名無し ■2012/09/28 21:15:25
騙されてはいけない
GO is not GOD
GOは屑である
6. 80 めりえるらんど ■2012/10/03 02:28:38
終末の空虚感と、終末のやさしさと、言いしれぬ壮大感を感じるいはなしでした。壊れてゆく幻想郷の末に待ち受けているアセンション。独特の世界観にやられました。
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