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『十四の瞳』 作者: めりえるらんど
それは、よく晴れた日のお昼頃に起きた出来事でした。
いえ、地底では地上の天気なんて観測できないのですが、こいしちゃんはちょうど地上で遊んできた帰りだったので、その日がどれほど晴れわたっていたのかわかったのです。たのしく遊んできたそのお土産話を、おねえちゃんにいっぱい教えてあげよう。そう思いながら、るんるんと軽い足取りで、こいしちゃんは帰路についていたのでした。
しかし、おうちに帰ってきたとき、こいしちゃんはなにかが変だと気づきます。いつもなら玄関までお出迎えにきてくれるはずのペットたちが、一匹も、やってこないのです。
不思議に思いながら、こいしちゃんはとりあえず、おねえちゃんの部屋に行ってみることにしました。すると、部屋の前には何匹ものペットたちが。近づいてみると、どうやら室内も多くのペットたちであふれかえっているようでした。
ひとごみ、いいえ、ペットごみ?をかきわけながら、こいしちゃんは部屋のなかへ入りこみます。すると、その中心部には、うずくまったおねえちゃんの姿がありました。
「どうしたの、おねえちゃん?」
おねえちゃんはくるしそうな声を上げるばかりで、こいしちゃんの問いかけには反応しません。代わりに、隣にいたペットのお燐が答えてくれました。
「ああ、こいしさま……これは、違うんです。その、……私が、悪いんです……」
まるで弁解するような口ぶりで、しかもかなり切羽つまった様子のお燐。
「なあに?なにがあったの?」
「ええと、……おくうが、最近ますます物忘れが激しくなって。それで今日、仕事に支障が出てしまったので、たまにはお灸を据えてやろうと私が弾幕を振りまいたんです。そしたら、……たまたまそばを通りかかったさとりさまに、流れ弾が当たってしまって……」
お燐のお顔は真っ青でした。その色が明るい赤髪と対照的で、なんだか可笑しくって、こいしちゃんはわらいました。
「笑い事じゃないですよ、こいしさま!」
「あら、そう?ごめんなさい。そんなことがあったのねー、だいじょうぶ、おねえちゃん?」
おねえちゃんは、こいしちゃんの声には気づいているようでした。けれど、少しだけ指を動かしてみせただけで、会話に応じられる状態ではないようです。よく見ると、まるで目隠しをしているかのように、おねえちゃんのあたまには包帯がぐるぐると巻かれていました。
「当たりどころが悪かったんです……横顔を掠っただけだったので傷は深くなかったんですが、……眼の表面が、削られてしまったようで……」
「おめめ?お顔についているほうの?」
「ええ。……両目です。応急処置はしましたし、さとりさまご自身の回復能力が優れていたおかげで、なんとかこれ以上悪化せずに済んだものの。その、視力を、失ってしまわれたようです……」
ほんとうに申し訳なさそうに、心苦しそうに言うお燐。その後ろに立っているおくうは、いったいなにが起こったのか理解していないようでした。
おねえちゃんは痛みに震えながらも、第三の眼をこいしちゃんのほうに向けました。でも、おねえちゃんのちからではこいしちゃんの心を読むことができないはずなので、こいしちゃんがなにかを言わなければ、おねえちゃんとのコミュニケーションはとれないのです。こいしちゃんは、その開かれたサードアイのあたまの部分を、ぽんぽんとやさしくなでます。
「だいじょうぶだよ、おねえちゃん。わたしは、ここにいるよ」
ぱちぱちとまばたきをするサードアイ。おねえちゃんは、うめき声のなかで一度だけ、こいしちゃんの名を呼びました。
「う、ぅう……こ、…いし……」
その姿が痛々しくって、でも目をそらしたくはなくて、こいしちゃんはサードアイと見つめあいます。そして、一歩前へ進むと、つらそうにしているおねえちゃんの手をぎゅうっと握ります。
「だいじょうぶだからね、おねえちゃん。わたしが、なんとかしてあげるから!」
どん、とむねをたたくこいしちゃん。その言葉におねえちゃんが答えることはありませんでしたが、こいしちゃんはこのとき、決心していました。
おねえちゃんの眼が見えなくなったのなら、そのぶん、わたしがおねえちゃんをまもってあげよう。
こいしちゃんは、おねえちゃんのからだを、ぎゅっと抱きしめてあげました。
次の日の午後には、おねえちゃんの病状は会話ができる程度にまで落ちついていました。
こいしちゃんは、昨日地上で見たことや聞いたことを、おねえちゃんにお話しました。おねえちゃんは、口元をゆるめ、笑顔で聴いてくれました。
「なるほど。地上にはたくさん面白いものがあるのですね」
「うん、そうなの!今度はおねえちゃんも一緒に行こうね!」
「ええ、……。行きたいのは山々なのですが。この眼では、ちょっと……」
おねえちゃんのお顔は笑ったままでしたが、その声色はかなしみの色を帯びていました。こいしちゃんは、そうか、とじぶんの失言を悔やみます。
おねえちゃんと一緒に、地上へ出かけていったところで。
おねえちゃんにはもう、その景色を見ることが、叶わないのです。
ごめんね、と謝ったらますます気まずくなりそうだったので、こいしちゃんは黙りこみました。そして、ちょっぴり不自然に、急に話題を変えてみせます。
「そういえばね、地上でおいしいお菓子をもらってきたの!あとでおねえちゃんにもたべさせてあげるね!」
こいしちゃんの気遣いを察したのでしょう、おねえちゃんはすぐに順応し、また明るくほほえみます。
いろいろな話をしているうち、おねえちゃんはうとうとし出して、そのまま眠りについてしまいました。怪我のせいで体力を消耗し、疲れてしまっていたのでしょう。
こいしちゃんは、いつもの帽子をかぶり、部屋から出ていきます。このままでは、おねえちゃんはかなしい毎日を送ることになってしまうはず。なんとか、それを防ぎたい。こいしちゃんはそう思っていました。
こいしちゃんは、無意識を操る能力をつかって、いつも通りだれにも気づかれず、おうちを出ていったのでした。
こいしちゃんが歩いていると、前方に、座っているひとの影が見えてきました。
そのひとはあたまに角が生えていました。たぶん、鬼なのでしょう。こんなにはやい時間から、もう何本もの酒瓶を開けてのんでいるようでした。
ひとりでのんでいるというのに、そのひとはたのしそうでした。お酒をぐいぐいのみ、愉快そうに目を細めます。その眼を見ながら、こいしちゃんは考えました。
そうだ、おねえちゃんの眼がつかえなくなってしまったのなら、ほかの眼をプレゼントしてあげればいいんだ。名案だな、とこいしちゃんはわくわくした心をおさえられませんでした。
こいしちゃんがどんどん近づいてゆくのに、鬼はまったく気づきません。当たり前です。こいしちゃんは、無意識を操るちからを持っているのですから。
まずは右眼からにしよう。そう思い、こいしちゃんは、鬼の右まぶたを押さえつけました。そして、その眼を引っぱり出そうとします。
しかし、そこで鬼はさっと後ずさりました。いくら気配に気づかないとはいえ、なにかがじぶんの顔に触れれば、反射的にそういう態度をとってしまってもおかしくありません。けれど鬼にとって、それはもう手遅れでした。鬼の右眼からは、つうっ、と血が伝っていたのです。
こいしちゃんが握っていたのは、鬼の右眼の欠片でした。眼をまるごと抜きとる作戦は、失敗してしまったのです。鬼は警戒した様子で周りをきょろきょろ見渡していましたが、右眼はもう、なにも見えていないでしょう。こいしちゃんは、欠損した眼にはもう、興味がありませんでした。
よく考えてから行動すればよかったな、とこいしちゃんは後悔しました。
鬼が持っていた杯のなかに、眼の欠片をこっそり返してあげてから、こいしちゃんはその場をあとにしました。
そのまままっすぐ向かっていくと、また誰かの影を見つけました。
そのひとは、こいしちゃんもよく知っている人物でした。話したことはないものの、地上へ出かけるときは、いつも見かける顔なのです。角は生えていませんが、そのひとも鬼の一種だということを、こいしちゃんは知っていました。
次はこのひとの眼を狙おう、とこいしちゃんは思いました。しかし、さっきのように失敗してしまっては、きれいに両眼を奪うことなどできないのです。まずは気絶させてからじゃあないと、とこいしちゃんは攻撃の機をうかがっていました。
そして、そのひとを見つけてから数分経ったのち、こいしちゃんは背後にまわり、すぐそばに立って弾幕を振りまきました。無意識を操るこいしちゃんだからこそできる、近距離からの不意打ち作戦です。
作戦は見事成功しました。そのひとは、ぱたり、と人形かなにかのように倒れこみます。腰からふとももにかけて、おおきな傷ができていました。やりすぎちゃったかな、と思いながら、こいしちゃんはそのひとを抱き起こします。
閉じたまぶたをこじ開けてみると、そこには、濃い緑色のひとみがありました。それを見たこいしちゃんは、ぱっと、そのひとの肩から手をはなしました。
緑色の眼は、たしかにきれいですし、そのひとにはよく似合っています。けれど、おねえちゃんにはどうでしょう?ううん、ぜんぜんにあわないわ、とこいしちゃんはぶんぶんくびを振りました。
世の中には、いろいろな色の眼があるのです。それをすっかり失念していました。
倒れたまま、そのひとはぴくりとも動きません。でもまあいいや、と、こいしちゃんはその場をあとにしました。
そのまままっすぐ進んでしまうと、地上に行きついてしまいます。今日はそういう気分でもなかったので、こいしちゃんは来た道を引きかえすことにしました。
途中、しばらく誰にも会いませんでした。あの角の生えた鬼がいた場所も通りかかったのですが、そこにはもう、誰もいませんでした。誰かいないかなあ、と注意ぶかく辺りを見まわしながら、こいしちゃんはおうちへ向かってゆきました。
すると、遠くのほうに、ちいさな影を認めました。ひとのかたちではありません。それは、一匹の黒猫でした。
「あらら、お燐。こんなところでどうしたの?」
こいしちゃんは正直、おねえちゃんのペットの顔を全員覚えきれていませんでした。なので、おうちには名前のわからない猫がたくさんいます。けれど、お燐はよくおねえちゃんと一緒にいることが多かったので、ひとのすがたをしていなくても他の猫たちとなんとか見分けがつくのでした。
「あ、こいしさま……。こんにちは」
こいしちゃんに突然話しかけられるとたいていのひとは驚きますが、おねえちゃんや、おねえちゃんのペットたちは違います。お燐たちにとって、そんなことはもう、慣れっこなのです。
「今はちょうど休憩の時間で……ちょっと、ひとりになりたかったんです」
ぱっとひとのすがたに変身し、愛想笑いをうかべるお燐。けれど、まだ昨日のことを引きずっているのだということは、その顔を見れば痛いほどによくわかりました。
こいしちゃんは、考えました。そういえば、おねえちゃんの眼があんなことになってしまったのは、このこのせいなのです。このこが放った弾幕が当たってしまったから、おねえちゃんは視力をうしなってしまったのです。
「ねえ、お燐。聞いていい?」
「? 何ですか?」
「その眼、おねえちゃんのために、くれない?」
その質問にお燐が唖然とするよりはやく、こいしちゃんはお燐のからだをおさえつけていました。
お燐はすぐに手を動かします。このこはおねえちゃんのペットのなかでも、かなりの戦闘力を誇っている猫なのです。特にぞんびふぇありーと呼ばれる一風変わった弾幕は、いったん出されるとなかなかやっかいな攻撃でした。
なのでこいしちゃんは、それが出てくる前に、お燐の両手を封じます。両手首をがしっと掴み、そこで弾幕を爆発させました。その痛みにうめいたお燐の声は、ひとのものではなく、まるでけもののようでした。
手を攻略したのなら、次は足です。こいしちゃんはお燐のふくらはぎに向かって、細長い弾幕を放ちました。それはお燐の両脚を貫き、傷口からはこのこの髪の色のように真っ赤な血が、ぷしゃあ、と飛び散ります。
がくりと、お燐は膝を落としました。そしてそのまま、あおむけに倒れてしまいました。からだがぴくぴくふるえているので、まだ生きてるな、と思ったこいしちゃんでしたが、顔を見てみるとそこには見開かれたひとみが。まばたきもせず、お燐の顔は銅像のように静止していたのです。
しんでいるのは一目瞭然でしたが、いまのこいしちゃんにとって、お燐の生死はあまり関係のないことでした。とにかく、まぶたが開きっぱなしの状態なら、眼も抜きとりやすい。かしこいこいしちゃんはそう考えたのです。
しかし、眼球を引っこぬくという作業は、存外むずかしいものでした。眼とまぶたのあいだからがんばって眼窩に指をつっこむのですが、なかなか奥のほうまで指が届きません。すこしちからを入れてみると、ぶちゅ、っと眼球がへこんでしまいました。
眼って、こんなにやわらかいものだったのね。知らなかったわ。そう感心しながらも、めげずに眼を取りだそうとします。しかしやがて、こいしちゃんはひらめきました。それを実行するため、いったん指を引っこめます。
こいしちゃんは、ちかくにあったかたい石を、思いきり地面にぶつけました。それを何度か繰り返すと、今度はがりがりと地面にこすりつけ、けずっていきます。そうして十分ほどかけてできあがったのは、先端がとがった、鋭利なナイフのような石でした。
それをそっと、お燐のまぶたにあてがいます。つう、っと切りこみを入れると、そのまま皮膚を、肉を切っていきます。こうすれば、眼を取りだしやすくなるに違いありません。
しかし、こいしちゃんは、うっかり手を滑らせてしまいました。軌道を変えた鋭利な石は、眼球の上部五分の一ほどを、すぱっとスライスしてしまいます。こんなに慎重にやったのに、とこいしちゃんはショックを受けました。
けれど、がんばりやさんのこいしちゃんは、これくらいではめげません。お燐がだめだったのなら、また次のターゲットを探せばいい。こいしちゃんは立ち上がり、あたたかい液体に染めあげられたその場をあとにしました。
こいしちゃんはおうちに帰ってきました。
けれど、玄関からではありません。裏口からこっそり、ひっそり入りこんでいきました。しばらくだれもいない廊下を歩いていくと、後方からこつこつと、足音が聞こえてきました。
振りかえると、そこにはおくうがいました。お燐と同じく休憩中なのでしょう、のんきに、たのしそうにはなうたなんか歌っています。ちょっぴりだけ、音痴でしたが。
案の定、こいしちゃんには気づいていないようで、そのままこいしちゃんの横を通りすぎていきました。どこへ行こうとしているのかはわかりませんが、チャンスだ、とこいしちゃんは思いました。おくうはお燐と同じくらい、いえ、もしかするとそれを上回るかもしれないほどの戦闘力を持っていますが、それは正々堂々と真っ向勝負をした場合の話です。頭の回転はお燐と比べものにならないほど遅いので、油断しているところをいきなり攻撃されたら、きっと即座には対応できないでしょう。
今こそ不意打ち作戦だ、とこいしちゃんは考えます。なにも知らず歌っているおくうについていき、おくうが廊下の角を曲がろうとしたとき、作戦を開始させました。
おくうはあっけなく、ほんとうにあっけなく、倒れました。そしてそのまま、動かなくなってしまいました。まるで赤子の手をひねる、いえ、ただちょこんと触れただけのように。
すこし長い前髪をのけると、おおきなおくうのひとみがよく見えるようになりました。その色は黒、おねえちゃんにもきっと似合います。さっきみたいにまちがって傷つけないようにしなきゃ、と、こいしちゃんはとがった石をおくうの左まぶたにさしこみました。
時間をかけて丁寧に、まぶたを切ってゆきます。まぶたなんて薄っぺらいものなのだから、紙を切るのと同じようなものだ、と思っていたら、案外そうでもありませんでした。ぶちぶちと、肉を切る感触が指先に伝わってきます。ぱぱっとはやく切り裂きたいのに、地味に手間がかかるので、こいしちゃんはもどかしい思いをしていました。
あるていど切りこみを入れたあと、こいしちゃんはそこに指を入れてみました。ぬめっとした感覚が指先から染みこむように伝わってきて、不思議な感じでした。奥の奥までひとさし指をさしこむと、眼球の裏でなにか細い筋のようなものがいくつか伸びているのを確認できました。
どうしよう、とこいしちゃんは思いました。この筋はきっと、こいしちゃんやおねえちゃんのサードアイから伸びている、あの長いコードのような役割を果たしているのでしょう。ということは、この筋ごと眼を抜きとらなければ、あとで眼球をおねえちゃんの眼窩にしまいこむときにたいへんかもしれないのです。
考えた結果、こいしちゃんは、おくうのあたまごとおねえちゃんのところに持っていくことにしました。全身を持っていくのは面倒なので、首元に適当な弾幕をぶつけ、あたまとからだを切り分けました。断面から大量の血が出ていたので、こいしちゃんはじぶんの服が汚れないよう、手をなるべく伸ばしておくうのあたまを遠ざけながら持ち運びました。
よかった、これでおねえちゃんに眼を渡すことができる。おねえちゃんとまた、目を見て会話することができる。おねえちゃんを地上へ連れていって、たくさんの風景を見せることもできる。
こいしちゃんは上機嫌でした。るんるんらんらん、スキップしながら、軽い足どりでおねえちゃんの部屋へと向かってゆきました。おねえちゃんのことがだいすきなこいしちゃんは、とても、とってもしあわせでした。
*
「そういえば、最近は様子を見に行っていませんけれど。大丈夫ですかね?」
食事の片付けをしながらふと早苗が尋ねる。神奈子はあぐらをかいて茶を飲みながら、うむ、と頷いた。
「まあ、大丈夫だろう。あの鴉は八咫烏との相性がいいようだし。普通にしていれば、何ら問題は無い筈だ」
普通にしていれば、ですか。早苗は手を止めずに作業を続けながらも、会話を続ける。
「普通、というのがどういうことなのかはわたしには解りかねますが……つまり、健康体でいれば平気だってことですかね?」
「ああ。たとえ体調を崩しても、よほど深刻なものでなければ特に気にする必要もない、無問題だ。何かがあって急に死んだりしなければな」
「なるほど。ちなみに、こんな話は不謹慎ですけれど、万が一死んでしまったらどうなるんですかね?」
飲み終え、空っぽになった湯呑みを早苗に手渡しながら、神奈子はううむと声を上げた。
「そうだな、私も始めての試みなので詳しいことは断言できないが……依代を無くしてしまった八咫烏が、暴走する可能性は考えられるな」
「暴走……。あれだけのエネルギーを孕んだ存在ですから、放っておいたら地霊殿がまるごと崩壊するくらいの事態になりかねませんね」
「地霊殿だけでは済まないだろうな。地底全体が大惨事になる可能性も充分考えられる」
物騒なことをさらりと言ってのける神奈子。早苗は苦笑し、まあでもあれだけのちからを持った妖怪がそんな簡単にくたばるとは考えにくいですしね、と意見を述べる。
「まあ、あの鴉については当面心配ないですかね。生きていてくれればそれで」
「死んだら地底が全滅するかもしれないがな」
「もう、また物騒なことを……。ああ、そういえば、夕食後のデザートは何がいいですか?丁度この間、美味しそうなお饅頭を手に入れたのですが……」
守矢神社はいつも通り、平常運転のようである。これから待ち受けているであろう惨劇に、ふたりが気づくはずもなかった。
*
こいしちゃんは、うきうきしながらおねえちゃんの部屋へと足を踏みいれました。
無意識を操る能力を解除していたので、おねえちゃんも足音で気づいたらしく、誰ですか?と尋ねてきます。わたしだよおねえちゃん、と、こいしちゃんはやさしく答え、おねえちゃんの表情も笑顔に変わってゆきます。
「こいしでしたか、お帰りなさい。……おや、なんだか生臭いですね。魚でも食べてきたのですか?」
ううん、ちがうの!とこいしちゃんは元気に話しはじめます。
「あのね、おねえちゃんにプレゼントがあるの。とってもすてきなプレゼント」
「プレゼントですか?あら、それは嬉しいですね。いったいなんでしょう、楽しみで……」
と、そこで、すさまじい爆音が響き渡りました。
地に響くような、ただごとではないような強烈な破裂音。まるで何かが爆発し、暴走したかのようでした。
続いて、重々しい地鳴りが床からがたがたと伝わってきます。一体なにが起こったというのでしょう。
様子を見てくるね、おねえちゃんはそこで待ってて!と、こいしちゃんはおくうの頭部を床に置きます。そして割と軽い気持ちで、部屋から出ていったのです。
その数分後、おくうの胸に埋めこまれた八咫烏の暴走によって、一瞬にして地霊殿は消し炭になってしまうのですが。
そんなことをまだ知らないこいしちゃんは、おねえちゃんを救えたという満足度のもと、満面の笑みで廊下を駆けまわっていたのでした。
こちらのサイトでは初投稿になります、めりえるらんどです。
病の炎、嫉妬の炎、闘志の炎、こころの炎、灼熱地獄の炎、核熱の炎、恋の炎。
地霊殿の皆さんはそれぞれの炎をそのひとみに宿していて、面白いなって思います。
今回は、ヤマメさんの登場は省かせて頂いたのですが。
ちなみに、タイトルの十四というのは、早苗と神奈子以外のすべての眼球の数です。
さとりで3つ、こいしで2つ(閉ざされたサードアイはカウントしていません)、勇儀とパルスィで2つずつ、お燐で2つ、おくうちゃんで3つ(八咫烏さまの目も合わせて)。
眼球がすきです。視神経がすきです。
地霊殿でどうしても眼球ネタをやりたかった。
めりえるらんど
- 作品情報
- 作品集:
- 5
- 投稿日時:
- 2012/09/30 16:20:42
- 更新日時:
- 2012/10/02 22:12:30
- 評価:
- 4/5
- POINT:
- 380
- Rate:
- 13.50
- 分類
- こいし
- さとり
- お燐
- おくう
- 勇儀
- パルスィ
- 地霊殿
- 眼球
よいこのこいしちゃんは、しこうさくごのすえに、ついにおおきな、きれいなおめめをげっとしました。
思慮というものが欠落した少女が手に入れて、お姉ちゃんにプレゼントしたのは、『裏目』でした。
が、爆発オチでさとりの反応が見れないのが投げっぱなしのように感じる。
病の炎?