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『ふぉーげっと・ふぇありー』 作者: ウナル
※このSSは東方Projectの二次創作作品です
※このSSには性的表現、グロテスクな表現が含まれて居ます。
「それじゃあいくよ! さーいしょーはぐー!」
今日もまたチルノちゃんと私は森の中で遊びます。
本日の遊びはかくれんぼ。二人だけでかくれんぼ。
「じゃーんけーん……ぽん!」
「ぽん」
「あはは! 大ちゃんの負けだね!」
「そうだね。チルノちゃん」
ジャンケンで私はチョキを出し、チルノちゃんのグーに負けました。もちろんわざとです。チルノちゃんは最初に絶対にグーを出します。何回も教えたのですが、一向に改善しないのはご愛嬌でしょうか。
とにかく私はかくれんぼにおいて、チルノちゃんに負けるようにしています。チルノちゃんが鬼になるとかくれんぼをしていたことを忘れて他の遊びを始めてしまうことがあるのです。そうなると私は日没までずっと来るはずもないチルノちゃんを待って木陰に隠れることになります。一度、意地になって隠れ続けてみたこともあるのですが、三日後に何食わぬ顔でリグルたちと遊ぶ姿を見て全てを諦めました。
「大ちゃんはジャンケン弱いなあ! じゃあ隠れるよ! 百数えてから探してね!」
「うんわかっているよチルノちゃん。いーち、にー、さーん」
答え、私は木の幹に顔を伏せて数を数えます。
チルノちゃんは大声を上げながら森の中へと駆けていきます。あんな声を出してはどこに向かったのかすぐわかるのに、チルノちゃんはいつでもああやって大きな声を張り上げます。
「きゅうじゅきゅ、ひゃーく」
百数えて私は顔を上げます。百秒の間つむっていた目には日差しが眩しく、ちょっと顔をしかめてしまいます。さらさらと音を奏でる木の葉に鳥の声。眠たくなるようなのどかな昼時。
「もーいーかい?」
「もーいーよー!!」
律儀に答えが返ってきます。
これで大体の位置は把握できました。あっちです。
ところで、世間ではチルノちゃんをバカだのアホっ娘だの言っていますが、それは間違いだと私は思います。例えば、かくれんぼにしてもチルノちゃんは一度見つけられた場所には二度と隠れません。それどころか隠れた場所の弱点を探り、改善を試みてきます。木の陰に隠れていて見つかったなら今度は木の陰に穴を掘って隠れてみたり、湖のほとりに隠れてダメなら湖の中に潜ってみたり。何も考えない故の発想力ではチルノちゃんは幻想郷でも一、二を争う能力を持つと思います。だからチルノちゃんは決してバカとは言えず、むしろ天才と区分されてもおかしくない娘だと思うのです。
でもやはり、チルノちゃんはバカなのです。
バカ以外の何物でもないのです。
「みーつけた」
「わわっ!!」
木陰にじっと丸まっていたチルノちゃんに声をかけます。
チルノちゃんは目をまん丸くしてキョロキョロと辺りを見回します。周囲は木々で隠されたここは、もちろん一目でわかるような隠れ場所ではありません。
「大ちゃん! どうしてわかったの!?」
「チルノちゃんのことなら、私は何でもわかるんだよ」
私の答えにチルノちゃんは不満げに頬を膨らませます。百秒の間で見つけられた場所としては最高の隠れ場と思っていたのでしょう。そして恐らく、その判断はどこまでも正しいのだと私は思います。
「もう一回! もう一回!」
「うんいいよ。じゃあまた百数えるね」
何度やっても同じだよ、とは言いません。言っても理解してくれないのはわかっているから。
再び木の幹に顔を伏せて数を数えます。チルノちゃんが真剣なのはその足音からもわかるのですが、悲しいかな、真剣であればあるほどパターンなんてものは固定かされるものです。
次は岩場か沼の方か。
もちろんチルノちゃんはそこを絶対の自信を持って隠れ場とするでしょう。当たり前です。チルノちゃんは今日初めてそこに隠れるのですから。
「きゅうじゅきゅう、ひゃーく。もーいーかーい?」
百数えてチルノちゃんに聞きます。しかし答えはありません。
「?」
首をかしげて私は岩場の方へ向かいます。川の流れるここは河童もお気に入りの休憩スポットです。その一角にある窪地はチルノちゃんがよく見つけ、よく隠れる場所です。
「あー」
その姿を見て私は思わず、ため息をついてしまいました。
さらさらと流れる川の流れ。そこに赤い血を混ぜながらチルノちゃんは倒れていました。
大方岩場に登って足を滑らせたのでしょう。空を飛べるくせにどうしてこんなに簡単に死んでしまえるのか不思議でなりません。
ともあれ頭をかち割られたチルノちゃんは死んでしまいました。その身体は青い粒子に解けていき、やがては川に溶けた血の赤も消えてしまいます。
「……またか」
これからのことを思うと憂鬱で仕方ありません。しばしの間、私は岩場に座りぶらぶらと足を揺らしていました。
「よーし。行くか」
ぱしん、と両頬を叩き、私は立ち上がります。世の中第一印象が大事です。
私は妖怪の山の中腹にある洞窟を目指します。妖精サイズでなければ入れないような狭い洞窟です。そこには地下水がにじみ出ており地下の冷たい空気に冷やされ、わずかな氷を張っています。その氷の中心に青い繭はあります。まるで凍った青い焔のようにチルノちゃんは居ます。正確に言うならこれはチルノちゃんになる前の卵みたいなものです。氷の内側で再びこの世界に生まれ出るのをこうして待っているのです。
妖精は死んでも、また再び生れ出る。
だからこそ妖精にとっての死とはびっくりするくらい軽いものです。せいぜい一回休み、風邪を引いたから学校を休むくらいの気持ちです。それはチルノちゃんも同じ。だから博麗の巫女とかにも突っかかっていきます。そして死にます。
普通、妖精とはいえ死ぬのはともかく死ぬまでは痛くて苦しいので、できるだけ死なないようにします。もしくは死ぬなら即死しようとします。でもチルノちゃんはそんなことお構いなしです。何も考えず突っ込んで行って死にます。
「……ん……」
小さな産声を上げて、氷の前に青い粒子が集まります。
それはだんだんと人型を取り、やがて氷の羽を持った妖精の姿へと変わります。
「おはよう。チルノちゃん」
しばらく呆け顔をしていたチルノちゃんだけどやがては目を瞬き、私に向かい口を開きます。
「おまえだれ?」
私は思うのです
チルノちゃんはやっぱりバカだなあ、と。
◆ ◆ ◆
「そっかー。大妖精って言うのかー」
「みんなは大ちゃんって呼んでくれるよ」
神様のきまぐれか自然からの警告か、チルノちゃんは一回休みになるたびに記憶がなくなります。名前や自分が氷の妖精であることくらいは覚えていますが、それ以外の記憶はすっかりリセットされてしまうのです。戦いの記憶も、スペルカードも、そして親友の名前も。
「……と言う訳で、チルノちゃんは私のお友達だったの」
「へー」
涙なしでは聞けない私のチルノちゃんの感動友情秘話も、記憶の無いチルノちゃんにはただの他人事。鼻をほじりながら、気の無い返事をしてくれます。
「まあいいや、じゃあ大ちゃん。一緒に遊ぼうよ」
「そうだね。何して遊ぶ?」
「んー」
チルノちゃんは腕組みして考え込んでしまいます。恐らくその小さな頭では最高に楽しい遊びを考え中なのだと思います。そして数秒後、ぴこーんという音でもしそうな顔でチルノちゃんは立ち上がります。
「すごい遊び思いついた!」
「どんなの?」
「えっとね! 一人が探し役になってね、他の隠れた人を探すの!」
それを世間ではかくれんぼと言います。
もちろんそんなツッコミもするつもりは毛頭ありません。自分の天才的な閃きに陶酔するチルノちゃんの笑顔。それを崩すことなど八坂神が許しても私が許さない。
「うん! すごい面白そう!」
「でしょ! あたいったら天才ね!」
自画自賛し、洞窟を飛び出すチルノちゃん。そんなチルノちゃんの背中を追いかける私。
もう数えることすら辞めたいつもの同じ光景。
だけども私はチルノちゃんの笑顔さえ見られれば幸せです。
だから、これでいい。
これでいいんです。
事件が起きたのはそれから数日後でした。
その日、いつものようにチルノちゃんは死にました。今回は幽香さんの畑に飛び込んでいった結果でした。幽香さんの傘から放たれた弾幕で半身が消滅。痛みはなかったと思います。
ただ誤算だったのは私もその巻き添えを受けてしまったと言うことでしょうか。
半端に弾幕を受けた私はチルノちゃんと違い、即死できませんでした。結局数時間の間、私は痛みにのた打ち回ることになったのですがそんなことはどうでもいいのです。
チルノちゃん。
チルノちゃん。
チルノちゃん。チルノちゃん。チルノちゃん。
このままじゃチルノちゃんの生誕に立ち会えません。そんなのは嫌です。チルノちゃんの初めての相手は私じゃないとダメなのです。純真なチルノちゃんのこと、初めてであった見ず知らずの人にもホイホイ付いて行ってしまうことでしょう。それは心配でなりません。どんな酷い目に合わせられるでしょうか。そんな記憶なんてチルノちゃんにはいらないのです。
早く死ね。
早く死ね。
早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。早く死ね。
声も出せない状況ながら、私は自身の身体に呪詛をかけます。
でも血は遅々として流れ出るだけで、なかなか私の身体を殺しません。いっそ幽香さんがトドメを刺してくれれば良かったのです。本当に大事なところで詰めの甘い人です。死ねばいいのに。
無限とも思える時間をかけて、ようやく私は死にました。
チルノちゃんとの時差は数時間にもなっています。果たして間に合うか。好奇心旺盛なチルノちゃんは生まれ出るなりどこかへと飛んで行ってしまうでしょう。
私は木の幹の中で生まれ出るのを今か今かと待ちます。
もう待ち切れません。
未完成な身体ながら私は繭から飛び出しました。指先はまだちゃんと形になっていなくて、ドロドロの皮膚によって水かきみたいになっています。まだしわくちゃの羽では飛ぶこともままなりません。チルノちゃんの洞窟まで地道に走らざるを得ませんでした。筋繊維がちゃんとつながっていないためか足がもつれます。岩肌が足裏の肉をゴリゴリと削ります。まだ完全に固まっていない肌は木の枝ですら簡単に切れてしまいます。
「チルノちゃん!」
でもそんなことを気にしている余裕はありません。
一刻も早くチルノちゃんの元へ行かないと。
通常の倍の時間をかけて、ようやく私は山の洞窟へと辿り着きました。しかしそこにチルノちゃんの姿はありません。
「っ!!」
どこかへ出かけてしまったのでしょうか。私は洞窟から転がり出るようにして外へと出ます。もしチルノちゃんが一人で出歩いているなら話は簡単です。チルノちゃんの初期行動パターンは頭に入っていますから。問題は誰かに出会ってしまった場合です。そうなると行動パターンは無限大。もはや予測は不可能です。
とにかく私は手近な場所を歩き回ります。意識は朦朧とし、身体はボロボロと崩れ始めます。
あ、アゴが落ちた。
「―――――っ」
見つけました。
山にある丘の上、そこにチルノちゃんが足を伸ばして座っています。それだけなら良かったのですが、その隣には白髪の女が座っています。
藤原妹紅さん。
お薬使って不死身になった人。
いつもは竹藪に引きこもっているくせに。他人なんて興味無いって顔してるくせに。なんでこんな時だけ。
「食べる?」
「おおっ!!」
それでなんでチルノちゃんは、おにぎりなんか貰っちゃって、そんなににこにこ笑顔になっているの? 私の作ったおにぎり、すごく美味しいって言ってくれたのに。
なんで、その時と同じ顔をするの?
私のおにぎりのこと、忘れちゃったから?
「んじゃ、私は行くから。もういきなり攻撃しないでよ。普通の人なら死ぬから」
「おー!」
米粒を飛ばしながらぶんぶんと手を振るチルノちゃん。妹紅さんは軽く手を振り、その場から去って行きました。その背中を睨みつつ、私は手近な岩場に向かいます。目的の物は一抱えもある石。うん。これくらいで十分かな。
「はぐはぐ!」
一心不乱におにぎりを頬張るチルノちゃんに、後ろからそっと近づきます。
ずるべちゃ。ずるべちゃ。
ただれた足が泥のような音を響かせますが、チルノちゃんは気付いていないようです。
しかし流石に背後に立つと気付いたようで、口についたご飯粒をつまみながらこちらを振り返りました。
「おまえだれ?」
ああ、やっぱりチルノちゃんは可愛いなあ。
不思議そうに目を丸くしているチルノちゃんに私は石を叩きつけました。
頭をかち割られたチルノちゃんはピンクと灰の破片を撒き散らして倒れます。ぎょろりと向いた瞳と痙攣する身体。あの可愛らしいチルノちゃんには似つかわしくない凄惨な最後です。
ごめんねチルノちゃん。でも、やり直さないと。あんな人の記憶なんか要らないもんね。初めての人は私じゃないとダメなんだよ? チルノちゃん、私のこと親友って言ってくれたじゃない。大丈夫、美味しいおにぎり食べさせてあげるよ。こんなのよりずっと美味しいんだから。
地面に落ちた白米を私は踏みつぶします。その勢いで右足が折れたようですが、別に構いません。
這いずりながら、私は地面に転がった石の前に立ちます。
今度は一発で死ねるように精いっぱいの力で。
ゴッ!!
私は死にました。
◆ ◆ ◆
それからはいつもの通り。チルノちゃんと出会いお友達になりました。
だけども今回の事で、今まで持っていた疑念と欲望が膨らむこととなってしまいました。
疑念というのはチルノちゃんが誰にでもホイホイついて行ってしまうお尻の軽い子なんじゃないかという事です。もちろん、記憶のないチルノちゃんを責めることはできません。
しかし私は怖いのです。今回は未然に防げましたが、またチルノちゃん誰か別の人に懐いてしまうのではないか、と。
世界で私ほどチルノちゃんを知る者はいません。数え切れないほどの月日を共に過ごし、チルノちゃんが死ぬたびに何度も何度も生誕に立ち合いました。でもチルノちゃんはそのことを忘れてしまいます。忘れて他の人に懐いてしまうかもしれないのです。私はチルノちゃんのためにこんなにも頑張っているのに、チルノちゃんは全部忘れてしまうのです。そのことを悔しいとも不条理とも思います。でも仕方の無いことともう諦めました。私ができるのはただただチルノちゃんに友達になることだけです。
でも、ふと思うのです。
記憶の欠片でも良い。
なにかチルノちゃんに私との『証』を残せないか、と。
だってそれさえあればどんなにチルノちゃんが他の人と仲良くなっても、私のとの絆は消えない気がするから。
私との日々を証明してくれると思うから。
転機となったのはふとした偶然からでした。
いつものようにチルノちゃんは死んで、私はチルノちゃんの誕生に立ち合いました。そこで一つだけ、チルノちゃんに変化があったのです。
「チルノちゃん、それどうしたの?」
「ほへ?」
チルノちゃんのトレードマークの青いワンピース。その裾がわずかに切れていたのです。
普通、妖精の服は身体とセットになっています。カタツムリの殻みたいなものです。時代によって変化することはあっても、生まれた時から傷がついているというのはちょっと珍しい。まあ私のように無理に生まれ出ようとしたらこういうことも起こるのですが、今回のチルノちゃんは十分な時間をかけて生まれ出ています。本来ならばこんなことは起こらないのですが。
「あ」
そこでふと思い出しました。
チルノちゃんが死ぬ前、一緒に永遠亭を冷やかしに行ったことを。
永遠亭ではたびたび月の道具の展示会が開かれており、好奇心旺盛な妖精たちは展示会のたびにそこへ遊びに行き問題を起こします。とはいえ、妖怪兎たちが見張っているのでそれほど大事になることはありません。
そこに飾られていた短剣。それをチルノちゃんは振りまわしたのです。確かそのときに裾の方を切ってしまっていたような。結局、鈴仙という兎の方に追い出されたのではっきりと覚えていないのですが他に裾を切るような心当たりはありません。
これは仮定の話ですが、もしかしてあの短剣には切ったものを決して治らなくするような力があったのではないでしょうか。
永遠亭に住まうお姫様は永遠を操る力を持つと聞きます。
その彼女ならそんな力を持つ道具を持っていても不思議ではないと思うのです。
私の中に薄暗い感情が生まれ出ました。
「―――――」
私は永遠亭に忍び込み、例の短剣を盗み出しました。妹紅さんを焚き付け永遠亭を襲撃させ、その隙に短剣を奪い取る。準備に手間取りましたが、実行は驚くほど簡単でした。永遠亭の人たちも危機意識がないですね。そんなことだから妹紅さんなんてストーカーを生み出しちゃうんですよ。
ともあれ、こうして短剣は私の手の中にあります。
そして今、私はチルノちゃんの前に居ます。すでに時刻は深夜。湖の上に氷のベッドを作って眠っているチルノちゃんは、まったく目を覚ますそぶりを見せません。
「これでチルノちゃんを……」
興奮と不安で指先が震えます。
本当にこんなことをしていいのかという自責の念と、チルノちゃんに『私』を刻みこめるという幸福が心の中でせめぎ合い、倒錯的な快感へと変わってしまいます。
「だ、大丈夫。顔とか目立つところにはしないし、本当に少しだけだから」
はあはあと変態じみた呼吸をしながら、私はチルノちゃんの膝小僧に短剣の先を向けます。ほんの少しだけ力を込めます。
「こ、これで……」
短剣を鞘に戻し、私は足音を殺してチルノちゃんから離れます。森に入る直前、月明かりに照らされたチルノちゃんを今一度見ます。膝小僧にできた擦り傷みたいな小さな切り口。そこから赤い血がぷっくりと膨らみ雫となって落ちました。
結論から言えば、私の推測は全て正しかったようです。
チルノちゃんの傷は一夜明けても癒えることはなく、ほんの少しずつですが血を流し続ける生傷でありつつけました。また『一回休み』になってもそれは変わらず、膝小僧の傷は残り続けました。
「大ちゃん。ここ痛い……」
「大丈夫だよ。チルノちゃん。ほら、お薬塗ってあげるね」
ぐずるチルノちゃんに軟膏を塗り包帯を巻いてあげます。多少痛みが和らぐのかチルノちゃんは涙を拭き、あの不遜な顔を取り戻していきます。でもやっぱり傷が気になるのか、以前ほど唯我独尊な態度は身を潜めているように思えます。そんなチルノちゃんを見ていると、私は背筋を撫でられたような快感を覚えてしまうのです。
傷ついたチルノちゃん。それを看病する私。
傷つけたのも私、それを癒すのも私。
私だけの傷。私だけのチルノちゃん。
これは私だけの権利。
私は、少しずつチルノちゃんを傷つけるようになっていきました。
初めは目立たないところにちょっとだけ。
でも今は色んな所に切り傷を刻むようになりました。
ただ顔だけは傷つけません。チルノちゃんの笑顔はどうしても傷つけられなかったのです。
「うっ……ひっく……」
「どうしたの? 大丈夫?」
再び生れ出たチルノちゃんに優しい声をかけます。
チルノちゃんは全身切り傷だらけ。致命傷ではないけれど、決して癒え切れない傷は生まれたてのチルノちゃんには耐えがたい苦痛なのでしょう。かさぶたにすらならないこの生傷は包帯をきつくまくか、患部ごと焼くかでもしないと血が止まりません。
しゃくり上げながら、すがるようにチルノちゃんは私を見ます。
「痛いの……身体中……痛いの……」
「大丈夫大丈夫だよ。ちゃんと良くなるよ。それにチルノちゃんは強い子だもん。これくらい平気だよ」
「ほんとう……?」
「うん!」
力強く私は頷いて上げて、チルノちゃんの治療に入ります。とはいえ、私ができることはひどく簡単なものばかり。軟膏を塗ったり、包帯を巻いたり、ちょっとした縫合をしたり。それでもチルノちゃんは、少しずつ引いて行く痛みに魔法使いを見るような視線を私に投げかけてくれる。
「すごい! すごいすごい!」
「そんなことないよ」
惜しみない称賛をくれるチルノちゃん。先ほどの曇り顔が一転、憧憬の眼差しを送ってくれます。
「これでよしっ、と」
「わぁ!」
包帯を巻かれた身体はチルノちゃんのオシャレセンスを刺激したのでしょうか。嬉しそうに洞窟から走り出し、くるくると回って見せます。
「っ痛!」
「ダメだよ。急に動いちゃ」
「……うん、ありがとう。えっと」
「私は大妖精。みんなは大ちゃんって呼んでくれるよ」
私はにっこり笑んで答えます。
「大ちゃん! ねえ! 一緒に遊ぼうよ!」
爛漫に問うチルノちゃん。その傷が決して癒えないことも、そもそもその傷を私がつけたことも知りません。
バカなチルノちゃん。でもそんなチルノちゃんが私は大好きです。
◆ ◆ ◆
どうしてこんなことになったんだろう。
私はただチルノちゃんに覚えていて欲しかっただけなのに。
「いっ……いぎっ……! だ、大ちゃん……なんでぇ……!」
「ごめんねチルノちゃん。でも仕方ないんだよ」
片足になったチルノちゃんが、ずりずりと這って逃げようとします。でも腕を縛り上げられた遅々としたその動きでは私から逃げる事なんてできません。短剣に着いた血のりをスカートで拭って、私はチルノちゃんを追いかけます。こつこつと近づいてくる私の足音にチルノちゃんの顔が引きつります。
「やだあ……やだあ……っ!」
「そんな顔しないで……悲しくなっちゃうよ」
チルノちゃんにのしかかります。片足を失って力が出ないのか、チルノちゃんの身体は驚くほど簡単に捕まえられました。
「次はもう一本の足だよ。それからおてて。右と左。どっちからがいい?」
「やめてよ……なんで……なんでこんなこと!」
かっ、と視界が赤に染まります。思わずチルノちゃんの鼻先に短剣を突き立てます。
「ひっ!?」
「悪いのはチルノちゃんじゃない!!」
目尻に浮かぶ涙が悔しい。本当はこんなこと言いたくないのに。
あの日まで私とチルノちゃんの関係はうまくいっていたんです。
相も変わらずチルノちゃんはすぐに死んでしまい記憶を失うけれど、私は心の余裕を持って迎えられるようになりました。今でもチルノちゃんは他の人になびいてしまうことがあるけど大丈夫。だって本当にチルノちゃんを支えられるのは私だけだもの。
チルノちゃんは傷を手当してくれて色々心配してくれる私にすごく懐いてくれていたし、私もそんなチルノちゃんと一緒に居る事に幸福感を覚えていました。逆に周りの人は傷だらけのチルノちゃんをいぶかしんでか距離を置くようになりました。それによってますますチルノちゃんは私と一緒に居るようになりました。
それが崩れたのは慧音さんのせいです。
「どうしたんだこの傷は!?」
人里を訪れていた私たちに、慧音さんが突然声をかけてきました。血相を変えて私の手からチルノちゃんを奪い去ります。慧音さんは私の方を一瞥すらせず、チルノちゃんの身体を触診します。かっ、と全身の血が沸騰します。だから里には来たくなかったのに。チルノちゃんの好奇心がここに来て裏目に出たようです。
「いったいこの傷はどうしたんだ?」
「え、あ、あたいわかんない。最初からだよ」
慧音さんの勢いに押されるようにチルノちゃんは答えます。とはいえ、その答えが何の意味も成していないのは明らかだ。慧音さんは思い出したように私を見つけ、つかつかと近づいて来ます。
「どういう理由か、心当たりはないか?」
何の断りも無しにこれです。私を見下しているのがありありと伝わってきます。たかが妖精、何か知っていれば儲け程度にしか考えていないのでしょう。
「……この傷、ただの傷じゃないぞ。深く歴史に根差している。私の力でも修正できないかもしれない」
できていたら消していたのかこの女。
私のチルノちゃんの絆の証を。
ふざけるな。
ふざけるな。
ふざけるなっ!
「とにかく、なんとかして治療しないと。そうだ。これから永遠亭に」
「――待ってください」
私は顔を伏せ、考え込むように唇に指を当てます。私の言葉に動きを止める慧音さん。もしこのまま永遠亭に連れていかれれば私のやったことの全てがばれてしまうでしょう。短剣の件も今まで特に動きはありませんでしたが、チルノちゃんの傷を見ればあのお姫様は事情を全て察してしまうでしょう。そうなれば全てはお終いです。チルノちゃんの傷は癒され、私とチルノちゃんはこの女どもによって引き裂かれてしまうかもしれない。
そんなこと許せません。
何とか、何とか止めないと。
「……もしかしたら、いえ」
「なんだ? 何か知っているのか?」
意味ありげな言葉で慧音さんの興味を引きます。とにかく時間を稼がないといけない。
今この瞬間だけでいい。
感情を殺せ。役者になりきれ。落ち着いて行動に時間をかけろ。
思いつめたように押し黙った私に、慧音の喉がなります。
「一晩だけ……時間をいただけますか?」
「ねえねえ大ちゃん? どこ行くの?」
「……………」
チルノちゃんの問いに答えず、私は山の奥へ。私の隠れ家にしている洞窟へとチルノちゃんを招き入れました。
「ちょっと待っててね、チルノちゃん」
「うん」
何の疑問も持たず岩の上に座るチルノちゃん。私は荷物の中から目的のものを探します。
「大ちゃん、もしかしてあたいの傷治るの?」
期待に満ちた瞳でチルノちゃんが聞いてきます。
「――そうなったら、チルノちゃんは嬉しい?」
「うん!」
大きく頷かれてしまった。そうだよね。チルノちゃんにとっては、その傷は傷でしかない。無いことに越したことはないものなんだよね。
「だってね、傷が治ったら大ちゃんと――」
ひゅん。
小気味良い風切り音を出しながら、こん棒がチルノちゃんの頭を直撃します。
その一撃でチルノちゃんは昏倒。今まで幾度となく繰り返してきたことだけに、手加減は完璧です。その傷だらけの腕を縄で縛り上げ、地面に寝かせます。
「……誰にも渡さない」
私は隠し持っていた短剣を取り出します。
もう、こうする他ない。
チルノちゃんを私無しでは生きられなくする。
石のまな板を地面に置き、短剣の刃をそっと右足に添えます。大きく息を吸い、全身から勇気を集めます。
奥歯を噛み締め、こん棒を振り上げます。
振り下ろす。ぶっ、と皮が切れる音。何度も何度も体重を込めて、チルノちゃんの足を切り落としていきます。
「あっ……あぅあがあああああああああああああ…………!!」
流石に痛みで気が付いたのか、チルノちゃんが暴れ始めます。でももう遅いよ。最後の一押しでチルノちゃんの足は完全に千切れました。
「いっ……いぎっ……! だ、大ちゃん……なんでぇ……!」
チルノちゃんが泣いています。
訳がわからないと嘆いています。
そんなチルノちゃんに、どうにも私はやるせなくて、思わず叫んでしまいます。
「悪いのはチルノちゃんじゃない!!」
何でもかんでも忘れてしまうチルノちゃん。
私のことも、二人の思い出も何もかも忘れちゃうチルノちゃん。
そんなチルノちゃんに、何か残したいと思って何が悪いの。
「どうせ、チルノちゃん……傷が治ったらどこかに行っちゃうんでしょ?」
「な、なんで? あ、あたいそんなこと」
「私のことなんか忘れて他の人のところに行っちゃうんでしょ?」
「違う、違うよぉ……」
「私は、こんなにチルノちゃんのことを思っているのに!」
短剣を残った片足に突き立てます。
上がる悲鳴。その声に胸がきゅうと締め付けられます。
「なら! もうこうするしかないよ! チルノちゃんはもう私無しじゃ生きられないんだよ!? 手も足もいらない! 私が全部面倒見てあげるから! こんなこと他の人じゃできないよね? ダルマになっちゃったチルノちゃんなんか誰も見向きもしないよね? この世界でチルノちゃんを愛せるのは私だけになるんだよ!!」
もう声も出せないのか、チルノちゃんは口を開閉しながら焦点の合わない視点を震わせている。
「……大丈夫だよ。だって私はこんなにもチルノちゃんを愛してるから。もう絶対に離さない。あんな奴らに渡すもんか。だから、だから!」
力任せに短剣を走らせます。自分でも驚くほどの力で短剣はチルノちゃんの足を切り裂きました。
「許して……チルノちゃん」
処置は粛々と進みました。チルノちゃんの両手足は癒せない短剣によって裁断され、大量の血を噴出させています。やがてチルノちゃんは出血多量が原因か、青い粒子となって消えました。再び生れ出たとき、チルノちゃんは両手のない姿で生を受けるのです。その痛みは今までの比では無いでしょう。その時に優しく支えてくれる相手が居たならば、チルノちゃんはきっとその人に傾倒してしまうはずです。
「早く行かないと……」
立ち上がり、チルノちゃんの洞窟へと足を向けます。
その時、ちょっとしたでこぼこに足を取られてしまいました。
「あ」
手から短剣が離れます。それはちょうど地面に落ちて行き、倒れ込む私の身体に先行します。
かつん。
地面に短剣が立ちます。それはちょうど私の首の正面で、倒れ込んだ私の身体は、吸い込まれるように地面に倒れ込みました。
「か――っ」
びっくりするくらいのあっけなさで、短剣が首を貫きました。
さらに重力によって捻じれる身体。
短剣の切っ先が頸動脈を切り裂く。
「―――――っ!!」
電撃のようなシグナルが脊髄を駆け巡る。
もう痛いと思うような余裕すらなく、脳みそが暴れるような感覚に悶えます。
「かっ、いっひっ、あ―――」
両手で首を押えても血は止まりません。この短剣は傷を治させない。一度致命傷を負ってしまえば、全てが手遅れになります。そしてその一線を、恐らくは超えてしまったのでしょう。
呻き声を上げながら私は洞窟の出口に這いずります。
こんなところにいられません。チルノちゃんの元に行かないと。チルノちゃんの傍に居ていいのは私だけなんだから。
「や、やだ……やだぁ……!」
ずっとチルノちゃんを見ていた。
チルノちゃんのために尽くしてきた。
なのに、なのにこんな終わり方――――、
「あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああっ!!」
いやだ。
死にたくない。
まだ終わりたくない。
だってまだ何も掴んでいない。
私はチルノちゃんに何も残していない。
それともこれは何かの罰なの?
チルノちゃんを傷つけたから、神様が罰を与えたの?
やだ。やだ。やだ! やだ! やだ! やだ!
一度でいいのに。
たった一度で私は満足したのに。
どうしてこんなことになったの?
何もかも私が悪かったの?
「……ちるの……ちゃ…………」
私はただ、チルノちゃんに覚えていて欲しかっただけなのに。
「あぎゃああああああああああああああああああああっ!!」
洞窟の中でチルノは悶える。
生れ出た途端、途轍もない痛みがチルノを襲ったからだ。
あるはずの四肢。それが失われた理由をチルノは知らない。
血は止めどなく噴出し、チルノの中から命を根こそぎ奪い取っていく。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
その痛みが手足を失っているためとも、暴れ叫べば余計に死期が近づくこともチルノは知らない。
何もかも忘れたチルノは、ただ本能の赴くままに声を張り上げ助けを求める。
そうしてチルノは死んだ。
死んで、また同じ場所に生れ出た。両手足を失った姿のままで。
「あ、あ、あ、――――」
数十回もの生と死が、チルノの精神を少しずつ摩耗させていく。それは不完全な存在を世界がすり潰そうとしているようだった。
無限とも思える苦痛の中でチルノの中に一つの言葉が浮かび上がる。
「…………大……ちゃん……」
それの意味するものをチルノは覚えていない。
それがいつでも自分の側に居てくれた人だとチルノは覚えていない。
そしてそれが、もう二度と自分を助けてくれないとはチルノは知らない。
大ちゃんと呼ばれた妖精も、無限とも思える生と死を繰り返しながら消滅していった。
そうしてチルノは、何万もの死の中で消滅していった。
「どうしたの、慧音」
「ん、妹紅。いやな。ある妖精のことが気になってな」
「チルノのこと?」
「ああ、もうずっと会っていない。少々気がかりなことがあったのだが」
「でも妖精なんてそんなものでしょう? 気のまま生きて、あっさり死んで。それでまた生れて」
「……まあ、そうかもな」
「そのうち、またひょっこり顔を出すわよ」
「ああそうだな。また」
しかし二人の妖精は――、
二度と幻想郷に姿を現さなかった。
―おわり―
人の記憶に残るって、難しいね
コメントありがとうございます
>>NutsIn先任曹長様
ちゃんとチルノちゃんには残ってたのに。大ちゃんの思いは届いていたのに。それを大ちゃんが聞くことはありませんでした。
>>ギョウヘルインニ様
とはいえ、慧音先生はきっかけです。根本的な解決がなされていない以上、いずれはこうなっていたのではないでしょうか。
>>紅魚群様
可愛いは正義、可愛いは罪、ですね
>>4コメ様
そういえば死亡ループでした。コメされて初めて気づきました。ミザリーは傾倒したファンの狂気が生々しく描かれた素晴らしい映画ですよね
>>5コメ様
私の中で大妖精は良い子なのです。でも良い子だからこそ色々ため込んで異常な方向とかに走るみたいです。精神崩壊エンドは、よい題材が見つかったら……ということで一つ
>>6コメ様
この大ちゃん自信がない子なので、それがすべてを狂わしたのでしょうね。
しかし、大ちゃんにはヤンデレが似合う。
>>7コメ様
はああああああああああああああああああああああああああいいいいいいい!!
>>んh様
それでも一途に恋しちゃうのが大ちゃんの罪なところかと
>>まいん様
一生懸命な子ほど追いつめられちゃうこの世の中ですね
ウナル
http://blackmanta200.x.fc2.com/
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2012/10/12 13:54:45
更新日時:
2012/11/02 10:50:01
評価:
9/12
POINT:
970
Rate:
15.31
分類
東方
大妖精
チルノ
ヤンデレ
11/2コメントに返信しました
刻み込まれ、磨り減り、消えて逝く存在。
二人の不滅に近い存在は、膨大な回数の死により消滅してしまったが――、
――彼女は確かに、名を呼んでくれた。
ヤンデレなんて言葉で片付けるのはあまりにもったいないお話でした。大ちゃんは悪くないよ、チルノちゃんが可愛すぎるのがいけないんだよ。
ミザリー大ちゃんかわいい。
ウナルさんの大ちゃんは悪意がないのに誰かを不幸にするので大好きです。
以前のウナルさんの作品の花園の妖精のコメントで言っていた大ちゃん精神崩壊エンドも見てみたいです
妖精なんだからただ遊ばせておけばよかったのに 居心地がよければ向こうから自分のもとに戻ってきてくれるでしょう
全てを自分でやろうとしたから、大ちゃんもおかしくなってしまったんだ
それにしても大妖精がこの手のキャラをやるとはまり役過ぎて困る 某ヤンデレ過ぎて眠れない東方でも大ちゃんだけレベルが飛びぬけてたなぁ