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『華扇がにゃんにゃんする』 作者: kurusu
「おはようございます、仙人様」
ああ、この声は憎い憎いあいつの声だ。
「……まだ、生きていたなんてね。青蛾」
「これからも生き続けますよ、華扇」
闇の密室。
何も見えない暗闇。
私は壁に固定されている、悪しきものを封じる護符を張り付けられて。
影は三つ、役者は十分。
「明かり、つけますよ?つけちゃいますよ?」
きっとその唯一の光が、私の心から光を消し去ってしまうのだろう。
いずれこうなる、わかっていた。
だから、私は避けていた。
『彼女』を救う方法を手に入れるために。
カチャッ
「……芳……香」
「ほら、あいさつは心のオアシスらしいですよ、ちゃんと挨拶しなさい、芳香」
青蛾は芳香に後ろから抱きつくと、首の根元を締めた。
私の知っていた彼女は、ただ苦しむだけ。
「やめなさい……!」
「しつけですよ、芳香の」
「助けたいですよね?」
「でも、動けませんね、あら……大変」
「見殺しにしちゃいます?『また』『今回もね』」
「やめっ……やめて!!」
必死に手足に絡んだ鎖を引き千切ろうとするが、体が締め付けられる。
「良い表情ですね。恍惚しちゃいます」
「でも、安心してください。芳香は痛みを感じません」
そう、私が改良したのですから
「外道!悪魔……!!」
「酷い言いぐさ。死人をどうしようが勝手でしょう?」
「それに、彼女は喜んでいるのですよ?私の役に立てて」
あいつは狂っている。
だから、『彼女』の人生も感覚も狂わされた。
「その拘束具、外してあげてもいいよ?」
「……は?」
「どうか、この子を助けてあげてくださいよ」
手のひらを天井に向けて青蛾は語る。
「私に使われるとこの子は喜ぶんですけど……貴方はどうやってこの子を喜ばせるんですか?」
そのまま拳を作り芳香の顔面を殴打する。
「あら、気持ちよさそう」
芳香は何も答えず、ただ口から血を流すだけだった。
「青蛾ぁぁぁぁぁぁ!!」
「怒った顔、やっぱり可愛らしいですね」
倒れた芳香を引きずり青蛾は華扇の目の前へと歩き始める。
まるで物を扱うように、足元に落ちている刃物が芳香の足を傷つけても青蛾は動じない。
「これって、貴方の何なんでしょうね」
「私の……大切な人だった!」
青蛾は華扇の顔面にギリギリまで自分の顔を近づける。
そしてニヤリ、笑った。
邪悪な笑み。
「私のことは好きですか?」
「大嫌い」
「好きにしてあげますよ」
その反応を予想していたかのように、懐に用意していた札を一瞬のうちに華扇の額に張り付けた。
「なっ……!?」
「これで貴方は私の物……最後の仕上げです、後は心を壊さないと」
「好きですよ……華扇」
二人の唇は静かに触れ合い、ねっとりとした糸が口から垂れる。
獲物は蜘蛛の糸に絡まった。
「……な……にこれ……」
体が痺れ、心の落ち着きが次第になくなっていく。
自分が自分でなくなるような感覚、恐怖を抱いた。
「愛ですよ、私の」
「普通じゃない私の、愛です。寂しかったんですよ」
そのまま華扇を抱き寄せる。
「……こうすることでしか、私は満たされないんです」
寂しげな、私の知っている昔の彼女に似た声が頭の中でこだまする。
甘く、抉るような感覚。
「青蛾……?」
ああ、私の名前をまた呼んでくれた。
「怪訝な顔も好きです」
少し恥ずかしくて、柄にもなく青蛾は顔を赤らめてしまう。
道具として存在している芳香は、ただ青蛾の足場として利用されるだけ。
「はい、もう痛いのはおしまい。これからは痛くする番よ」
華扇と拘束具を切り離し、解放させる。
物理的には解放されたが、もう心が逃れることはないだろう。
「え……」
「では、早速♪」
ごめんなさいねと、華扇の札に青蛾は自分の気を込めた。
「この札は貼られたね、何でも言うことを聞いてしまうんです」
「だからっ、まだ善の心が残っているうちにっ、やってほしいことがあるんですよっ!」
何がおかしいのか、青蛾は愉快に笑う。
突然興奮し始め、まるで念願の目的が叶ったような喜びの仕方だった。
「ここに」
「貴方の」
「二番目に大切な物がありますよね……?」
「ぶち壊して……ねっ?」
邪悪な笑みを浮かべる。
表情が引き攣ったまま、華扇は青蛾から斧を受け取る。
その斧はとても重く、人の顔を叩き割るには十分な硬さだった。
「な……っ……!ぁっ……!?」
最後の意識が抵抗するが、いつの間にか華扇は芳香の目の前で斧を振りかざしていた。
青蛾がよしと言うまで斧を叩きつけてはいけない、そういう札のやることリストだった。
「芳香、今までありがとう」
「最高な最後だから、このお札も剥がしてあげるね」
ケタケタと笑いながら芳香の札を青蛾が剥がす。
芳香は、生前の全ての記憶を取り戻した。
そして目の前の現状を理解し、一言だけ口から零した。
「……華扇、ありがとう」
「ぁ……ああっ……!?」
必死に目の前から退こうと華扇はもがいた。
しかし
「やっちゃえ」
命令は下った
「い゛っ……いやああああああああ゛゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!!」
斧の先端が芳香の顔面に亀裂を作る。
何度も何度もがしがし、がしがしと二つに分かれるまで斧は振り下ろされる。
血渋きが周りを染める、赤黒く染まっていく。
血の色は赤、それは人間だった証。
走馬灯さえ芳香には与えられない、痛みの刺激で頭を埋めてしまうからだ。
次第に二人の悲鳴は薄れ、徐々に一人の歓声が密室に響き渡る。
「あははは……あははははははは!!」
「これで私は貴方の物、貴方は私の物です……華扇」
例えそれが壊れた愛だとしても、
それは私の望んだ、私を愛してくれる唯一の彼女だから。
「っ……はは……そう…………です……ね」
血に塗れた斧を手放し、華扇はその場に跪く。
「……っ……ふふふ…………あはっははははははっ……!!」
いつの間にか悲鳴は消え、笑い声だけが響く。
「笑いましょう、華扇。笑顔がやっぱり素敵ですよ」
「ええ……ええ、そうね……。ふふふ……」
「壊れるくらいに愛してますよ、うふふ」
これからも、いつまでも。
二人でこの世界を見ましょう、二人だけの感覚で。
ようやく、貴方と愛することが出来たのだから。
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2012/10/16 17:26:36
更新日時:
2012/10/17 02:26:36
評価:
2/4
POINT:
260
Rate:
11.40
分類
青蛾
華扇
ちょいグロ
助けに来ておいて、自分も彼女と同じクソダメに堕ちたのだから。
救えなかったが、二人は幸せになった。
ふぅ……