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『医療ミス』 作者: box
「師匠」
黒革で出来た硬い椅子の上で、永淋は沈みかけていた意識を引き上げた。
たとえ日輪が休もうとも、医者たる永淋に休みはない。永遠亭から漏れる光だけが、柔らかな夕闇の中で映えている。
しかし、声が求めるのが、ただの覚醒とは違った色を含んでることに、永淋は気づいた。
「・・・話してみなさい、優曇華」
ほんの、僅か。
触れただけで、崩れてしまいそうな。
形を失いかけた表情を浮かべ、鈴仙は小さく口を動かした。
「死んでいたんです、患者が」
永淋は動かない。
「何時間か前に、師匠から任された方々です。その内の一人が・・・」
永淋は、鉛色の体を、椅子から持ち上げた。
白の質量を持った腕を、鈴仙の肩と、その空気にまわす。
「最初は寝てると思ったんです・・・でも、脈も、鼓動も、息も、無くて・・・・」
「・・・・・・・・、」
震える肩を、上に塗られた表情を、永淋は意図して見なかった。
代わりに、強く、頑なに鈴仙を包む。
「自分を責めるのは止めなさい、優曇華」
「でも・・・」
「そもそも、私達の賢しい知恵で、命をどうにかしようとするのが間違ってるのよ」
直後、湿った声が、強かに永淋を叩いた。
「なら、医者は何のために、誰のためにいるんですか」
永淋は何も言わなかった。
言えなかった。
弟子の水浸しの表情に、ようやくの乾きが見えた頃になって、思い出したように永淋は口を開いた。
「患者を霊安室に運びましょう」
「・・・はい、師匠」
鈴仙は、何かが滴った跡を拭わないまま、部屋の番号を告げた。
永淋は、『西行寺幽々子』と書かれたカルテを、弟子の額に叩きつけた。
- 作品情報
- 作品集:
- 5
- 投稿日時:
- 2012/10/28 08:12:12
- 更新日時:
- 2012/10/29 06:32:17
- 評価:
- 6/9
- POINT:
- 590
- Rate:
- 12.30
- 分類
- 八意永琳
この師あってのこの弟子ですね。
絵に描いたような人的ミス……。
この患者、何で入院したんだ?
ヤハリソウイウコトカ