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『産廃SSこんぺ 「天国へようこそ」』 作者: ジョルジュ
「困った」
困った。
困った。
本当に困った。
朝起きたら自分が等身大の芋虫になっていた時ぐらい困った。
何せ周りには何も無くなってしまったのである。光も無くなっているから真っ暗で何も見えない。
ふと、床も無くなってるから私はどんどん落ちていくんじゃないかと思ったけど、重力も無くなっているので無問題だった。
文体が失われないのはご都合主義に他なるまい。
「うーん」
友人のメリー……メリーだっけ、マリアだった気もする。あれ、メアリーだっけ。ジェニファーだっけ。
存在自体が無くなっているから、つられて私の記憶も曖昧だ。
まぁともかくその友人もいなくなってしまったし、私が好きだった……ナントカ氏もいなくなった。
多分私を子宮で育てた女性もいなくなってるだろうし、陰茎の先端から私をひりだした男性もやはり、影も形も無くなっているのだろう。
孝行したいときに親はいないとはよくいったものだなあ。わはははは。
さて、死ぬとしよう。
そういえば私は将来小説家になりたかったけれど、こうなってしまったらもう無理だ。
ペンも原稿用紙も無くなってしまったし、そもそも読者がいなくては話にならない。
夢も希望も無い。
オンボロ自転車に乗ってゴミ捨て場の空き缶を集めてる人ぐらい希望がない。
そういえばああいう人たちもいなくなってしまったんだなあ。彼らはさぞかし喜んでいるだろう。
そうだ、天国に行こう!
私は思い立った。
天国には多分、それはもう美味しい物とか、オイシイ者とか沢山あるに違いない。
それに、地獄よりは天国の方がいいだろう、多分。きっと。ゼッタイ!
私は右腕で自分の側頭部を思いきり殴りつけた。
鈍痛が走り、一瞬よろめいた気がしたが、そういえばここに三次元的空間はまだ存在しているのだろうか。
三次元的空間が存在していないのであれば、私は今や三次元的存在では無くなっているのかも知れず、それを物理学的、或いは量子学的に考慮するならばそもそも私自体まぁいいや。
ともかく私はそうして何度も何度も側頭部を殴り続けた。
十回ぐらい殴ったところで意識が朦朧とし始めた。
ああそろそろ死んじゃうかなあ、死んじゃうかなあと思い始めたところで、私は死の概念自体が無くなっているのかも知れないと心配し始めた。
実際、もう既に五百十二回側頭部を殴ったけど、ちっとも死ねないじゃないか。
「がっかりだわ……」
私は天国に行くのを諦めた。
だけど、私は天国に行くのを諦めきれなかった。
どっちだろう、なんかそんな感じ。
それにしてもフラフラする。
フラフラするのはさっき怒濤の勢いで拳骨を側頭部及びこめかみにぶつけたからであって、決して覚醒剤を二の腕に注射したわけではない。
ついに脳内でキリストが腎虚で死んでしまった。
無数の鉄人兵団が私の右脳を蹂躙して刺激する。
おかげでだんだんと眠くなってきた。俗に「気を失う」と表現されるアレだ。
星と銀河の行く末が見える。それはとても美しい。
「 」
何も無くなった空間で私は眠りに落ちた。私は私自身が眠っていることを理解していた。いや、事実としての理解ではなくて、架空の理解なのかもしれない。
それはレム睡眠の賜物とでも呼べばいいのだろうか。私は何を言ってるのだろうか。
まあ、人間微睡んでいる時などは大抵そんなものだ。不明瞭な言葉に終始し、相手には結局なニモツタワラナイナラバサッサトネテシマウノガトクサクダ。ソウカン
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……ん、蓮子さん起きてください」
「……?」
唐突に、私は誰かに起こされて目を覚ました。
そこに最早暗闇は存在しておらず、起伏一つない平坦な地面が地平線の向こう側まで続いていた。
地平線の上側、つまり空は一枚絵のようにのっぺりとしていて、赤色と青色と緑色の光が交互に連続して発光している。
「蓮子さん、蓮子さん、起きましたか。起きましたか」
彼方からやけに手足の痩せ細った女の子がこちらに向かって、地上数センチのところを浮遊しながらこちらへ迫ってきている。
慌てて私は腰に手をやり、ホルダーから拳銃を取り出して女の子に向かって発砲した。
弾丸は見事女の子の眉間に命中し、彼女は地平線の方向へ吹っ飛んで消えた。
すると、後ろの方から声がした。
「蓮子さん、蓮子さん、起きましたか。起きましたか」
彼方からやけに手足の痩せ細った女の子がこちらに向かって、
地上数センチのところを浮遊しながらこちらへ迫ってきている。
慌てて私は腰に手をやり、ホルダーから拳銃を取り出して女の子に向かって発砲した。
弾丸は見事女の子の眉間に命中し、彼女は地平線の方向へ吹っ飛んで消えた。
すると、後ろの方から声がした。
「蓮子さん、蓮子さん、起きましたか。起きましたか」
彼方からやけに手足の痩せ細った女の子がこちらに向かって、
地上数センチのところを浮遊しながらこちらへ迫ってきている。
慌てて私は腰に手をやり、ホルダーから拳銃を取り出して女の子に向かって発砲した。
弾丸は見事女の子の眉間に命中し、彼女は地平線の方向へ吹っ飛んで消えた。
すると、後ろの方から声がした。
「蓮子さん、蓮子さん、起きましたか。起きましたか」
私は頭がいいので、彼女を消すのを諦めた。そして、白い歯をキラリと輝かせながら応じる。
「起きました。ところで、あなたはどうして浮いているの?」
すると女の子は、少し怒ったような口調でこう言った。
「好きで浮いているわけではないのです。私も地に足をつけて歩きたい。私は自分の足で歩けないのです」
「それはどうしてですか?」
「それは私が植物人間で、手足がすっかり衰えてしまったからです。杖が無ければ立つ事すらできません。だから浮くしか無いのです」
なるほど。それはそれは納得のいく理由だ。試しに私はもう一度女の子を拳銃で撃った。
彼女はまた地平線の彼方まで吹っ飛んでいき、不意に私は肩を叩かれた。
振り返ると女の子が立っていた。
私は頭がいいので、すぐに一つのパラドクスに気付いた。何故なら私は頭がいいからだ。どれぐらい頭がいいかというと、私は頭がいいのである。
「植物人間なのに、どうして意識があるの?」
「ここがあなたの夢の中だからです。夢の中なら私だって意識があります」
なんということだろう。
女の子の言う事が真であるならば、私は彼女と夢を共有している事になる。
しかしながら私はDCミニを装着した覚えはないのだ。もちろんメノクラゲに刺された覚えもないし、エリスと関係を持った覚えもない。
いや、あるいはこの女の子は私が脳内で組み立てた創造物ではないだろうか。確かに私には、病弱の少女の心臓を食べたいという、年頃の女の子なら誰でも持っているであろう欲求があるけれど。
大体この世には何もなくなってしまったはずだ。
ここが夢だというのは納得しても、彼女が外的存在だという事には納得できない。
それはつまり、αとβを掛け合わせてもΣにはならないのと同じ理屈だ。
「ところで、どうして私を起こしたの?」
「すっかり忘れておりました。天国の場所をご存じではないですか?」
「それは好都合」
実際それは好都合だった。私も天国の場所を探していたからだ。
「天国には○※×★さんがいます。○※×★さんはきっと私に素敵な手足をくださります」
○※×★さんという人を私は知らないけれど、クリプトドンとサーベルタイガーを足して六で割った、六本足の生物を思い浮かべて納得する。
だがそこにもやはり一つ疑問は残されていた。
すなわち、ここが夢の中であるならばここから天国に赴いてもそこはつまり私の世界、私の脳内にある場所であって、それは本来の天国とは言い難いのではないか。
「何を考えておられるのです、何を考えておられるのです?」
「○※×★さんという人を私は知らないけれど、クリプトドンとサーベルタイガーを足して六で割った、六本足の生物を思い浮かべて納得する。
だがそこにもやはり一つ疑問は残されていた。
すなわち、ここが夢の中であるならばここから天国に赴いてもそこはつまり私の世界、私の脳内にある場所であって、それは本来の天国とは言い難いのではないか。
って考えてたわ」
「なるほど。ここが夢であるということを懸念しておられるのですね。ならば簡単な話です。ここを夢でなく現実にしてしまえばいいのです」
なるほど。それは名案だ。
私は一旦目を瞑って、電脳世界に潜む一匹のキリギリスに思いを馳せた。
キリギリスは今必死に戦っている。自慢の羽を巧みに使ってカマキリと戦ってる。
そうだ、そこでアッパーカットだ、そこで対戦車砲をぶっ放せ。
「よし、これでこの世界は夢じゃなくて現実になった」
「おめでとうございます、おめでとうございます」
目を開くと、そこには何も変わらぬがしかし確かに現実へと変貌した世界が広がっていた。
この状況を文章という愚かな表現レベルにまで落として示すのは到底不可能である。
何もかも概念で理解せねばならない。ここは夢ではなく、現実なのだ。
私は頭がイイのでまた一つパラドクスを発見した。
確か、現実世界からは私以外何も無くなったのではなかったか。
それなのに今ここには確固たる世界が延々と展開されているのだ。
でも私はあえてその問題を考えない事にした。何故なら、人は様々な事を見て見ぬふりをし、そうしてオトナになっていくのだから。
終
「という夢を見たのよ」
「はあ。それはともかく、もうすぐ期末試験よ」
「……」
ジョルジュ
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2012/11/19 15:54:20
更新日時:
2012/12/17 21:28:38
評価:
9/11
POINT:
660
Rate:
11.42
分類
産廃SSこんぺ
ハレルヤ!!
できることならもっとぶっ壊れた文章にしてほしかった。
でも夢ってこんな感じですよね 同じシーンが繰り返されたり
自分が何をするべきなのか決められてたり唐突に人が出てきたり
ここまで細かく夢の内容を覚えている蓮子が不思議でした
案外夢に出てくるのってこんな連中かも?
あんだけ夢の中で頭いいアピールしてたんだから、期末試験は余裕だよね。