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『産廃SSこんぺ 「生き残った少女」』 作者: 海
――それは、いつもの風景。他愛のない日常の始まり。
縁側に少女が三人。
掃除途中の箒を持った霊夢、縁側で茶を飲む魔理沙、そしてレミリアである。珍しく今日は咲夜とは別行動のようだ。
脈絡のない話で談笑している中、魔理沙がふと、疑問に思ったことを何気なく投げる。
「なあ、レミリア。お前って悪魔なのか?吸血鬼なのか?いまいち違いがわからないんだが。」
レミリアは得意げに答える。
「正確には、どちらでもある、かしら。この翼を見れば悪魔よね。でも吸血鬼でもある。一言に言うなら、『吸血鬼な悪魔』だね。歴史を勉強しなさい、魔法使い。」
それに対して口をとがらせる魔理沙。
「答えになってないぜ。まあでもいいかげんな存在だってことはわかった。翼で思い出したけど、フランドールとお前は、なんで翼が違うんだ?腹違いの姉妹とかか?」
レミリアはやや不機嫌に答える。
「私もフランも、同じ大切な両親から生まれた愛の結晶よ。羽が違う理由は随分昔に忘れちゃったけど。」
「そうか。じゃあ私がその理由を解き明かしてやる。わからないことを解決する、霧雨魔法店の仕事だぜ。任しておけ。」
そう言うと、縁側から立ち上がり、箒に跨る魔理沙。
「資料を見るから、お前のとこの図書館使わせてもらうぜ。」
「好きにしなさい。咲夜に会ったらもうすぐ帰るって言っておいて。」
魔理沙はその言葉を背で聞き、空へ飛び出して行った。
「本当のところどうなの、レミリア。」
「何が?」
「翼が違う理由。はっきり言って、あんたたち姉妹って全く似てないわよ。」
「長く生きてると、重要でない瑣末なことは忘れるものさ。それでも、私とフランは実の姉妹だってことは確かだけどね。」
「ふーん。まあ、人間じゃないしそんなものなのかしらね。」
霊夢は興味無さそうに箒を動かした。
場所は変わって、紅魔館の大図書館。
珍しくパチュリーに対してお願いをする魔理沙の姿があった。
「パチュリー、お前レミリアとフランドールで翼が違う理由って知っているか?」
「……興味ないわ。そんなこと、本人に聞けば?」
「本人に聞いても梨の礫で、興味が湧いたんで調べてるんだ。そこで、私はこの紅魔館に着目したんだ。結構歴史がありそうだし、過去帳みたいなのとか日記みたいなのはここにないか?」
「まあ、あるかもね。見つけるのは面倒だけど。」
「そうか。じゃあ探してみるとするか。今日は本を借りに来たわけじゃないから、邪魔しないでくれよ。」
「……盗人の思考はよくわからないわ……」
そう言うと魔理沙は、近くを歩いていた小悪魔を捕まえて場所の目星を聞き込み始めた。
「……小悪魔が言ってたのは、この棚か。さて……」
目星のついた本をひょいひょいと取り出してはパラパラとめくり、見当が違えばすぐ次に移る。そんな風に検索を魔理沙は行なっていった。
しばらくして、魔理沙の眼前、図書館の閲覧机に分厚い革表紙の本が置かれている。
タイトルは特に書かれていない。魔導書の類ではないが、開いてみると全部ラテン語で書かれているようである。それでも魔理沙は魔法使いの端くれ、この程度の言語なら造作もなく読める。それにしても、装丁が比較的新しい。いつごろ書かれたものか、わからないが、外れだったら次の本に移れば良い。
中に書かれていたのは――……
これは私が彼女に聞いた話と、私が推察、遠見、演繹した話を再構成したものである。歴史が遡るほど、最早記憶の彼方にある古びた出来事なので、断片的な情報となり、多少の矛盾が含まれていることを読者は許容して欲しい。
後の歴史家が宗教改革と呼ぶ時代のこと。既成の教会や領主の権力に対し、民衆が疑問を感じ始めた時代のことである。この地、欧州中央部の荘園に暮らす農民たちの間でも、永年に渡る不満は溜まりつつあった。
レミリアの父(父や母について、あえてここではその名前を記さない。読者にとっては瑣末な情報であるからだ)となる男は、この領地を治める諸侯の一人である。それほど大きな領地ではないが、敬虔なカトリック信者であった父は、国王に仕えて平穏な支配を行うことこそ、神に与えられた使命であると認識していた。
父の祈祷――
PATER NOSTER QUI ES IN COELIS.
SANCTIFICETUR NOMEN TUUM.
ADVENIAT REGNUM TUUM.
FIAT VOLUNTAS TUA
SICUT IN COELO ET IN TERRA.
PANEM NOSTRUM COTIDIANUM
DA NOBIS HODIE.
ET DIMITTE NOBIS DEBITA NOSTRA
SICUT ET NOS DIMITTIMUS
DEBITORIBUS NOSTRIS.
ET NE NOS INDUCAS INTENTATIONEM.
SED LIBERA NOS A MALO.
AMEN.
雨季の到来を告げるような、朝霧のかかった夜明け。この時間に礼拝室から出てきたのは、中年の壮健な男である。彼は朝からざわつく心を鎮めようと苦闘していた。もうすぐ、彼の第一子が産まれるのだ。彼にとっては当然初めての経験である。妻が産気づいた昨日の夕刻から、屋敷中がてんやわんやの大騒動であるが、張本人たる彼には特にすべきことはなく、ただ自室で悶々としているよりほかなかった。
果たして、男か女か。判別を占い師に頼る者もいるが、彼は信仰心からそのような邪術にすがることなく、ただ生まれてくる赤子を早く抱きたいと願っていた。世継ぎが生まれればそれでよし。娘であっても器量よく育てば家名を響かせることだろうと、そう思っていた。いずれにせよ、此処から先は女の領分。父となる男はただただ待つしかない。
それから数刻後。廊下を誰かが走ってくる音がする。来たか、と彼は席を立ち、扉を開く者を待ち構える。
「御生まれです、ご主人様!」
「おお、生まれたか!男か、女か?」
「健やかな女子に御座います。」
「そうか、よくやった。今から向かうが、大丈夫か。」
「はい、奥様とお子様がお待ちです。」
一般的な貴族であるならば、跡取りではない女子の誕生には肩を落とすことだろう。しかし、彼は新しい命を、自分と妻の体と魂から生み出した神の奇跡に素直に感謝するのだった。男は足早に妻の下へ向かう。
ベッドに横たわる、彼の妻。そしてその傍らに眠る、彼らの子。父は妻にねぎらいの言葉をかけて、その子を見つめた。薄い金髪に、透き通るような肌。赤子のうちから、父はどこか妻の面影があるその子を見て、この子が己の魂を分けて生まれたのかと、感動に打ち震えるのだった。
母となった妻が笑う。
「名前は、決めているの?」
母が父に問う。父は笑顔でそれに答える。
「ああ、決めている。この子の名前は、レミリア、だ。」
「素敵な名前。きっと素晴らしい婦人になるわ。」
「ああ、天にまします我らの父よ。私どもにかくも幸いなる奇跡を賜り、ありがとうございます。」
かくして彼女、レミリアという子は、この世に人間として生を受けた。彼女の行く末は――
レミリアが物心ついたほどの時。父の仕える国全土に渡る大規模な農民の反乱があった。宗教改革、民衆の意識改革の始まりの頃のことである。農民たちは年貢の軽減、農奴の解放などを求めて武装蜂起したのだ。
反乱は各地へと飛び火したが、幸いレミリアの暮らす領地では起こっていなかった。それでも父は、近隣の諸侯と反乱鎮圧のために屋敷を空けることが多くなっていた。
雨が降っている。日本の梅雨時のような、降ったり止んだりを繰り返す、ジトジトと尾を引くような長い雨。このような外出には向かない日にも、父は配下を引き連れて、雨の中馬を走らせて行った。
家で待つは、母と子、その従者たちである。母の部屋で、幼いレミリアと母は話をしている。
「おとうさまは、きょうもおでかけなの?」
「そうですよ。ご友人たちのために戦っているの。」
「あぶなくないの?」
「もちろん危ないわ。でもね、人を助けるということは、大切なことなのよ、レミリア。」
「わかりました。」
「そう、偉いわね。お父様が帰ってきたら、褒めてもらえるわ。」
「ほんとう?うれしい!」
レミリアは幼くして聡明な子供であった。きっと大変博識な婦人へと育ち、諸侯を魅了することだろう。父も母も、彼女の成長を遠からぬ幸せとして待ち望んでいた。
「それでは、神様にお父様の無事をお祈りしましょう。」
「はい、おかあさま。」
母とレミリアは部屋を出て、廊下に控えていた従者を連れ、礼拝室へ向かった。
「――アーメン。」
「――あーめん。」
礼拝室の聖母子像に祈りを捧げる母と子。レミリアにはまだ祈祷文の意味など分からないが、毎日繰り返していることでそらで暗唱できるほどに覚えていた。
その背後から、近づく者があった。控えていた従者の一人。
彼女の動機や、背景は、父が後に聴きだしたものである。
従者、彼女は農民の出身である。そして、隣の領内で反乱を起こしている者の一員と、恋人の関係にある。彼女は、今日父が自分の恋人を討伐に向かったことを、レミリアの父母の会話から盗み聞きしていた。いずれ反乱の首謀者たちは残らず捕らえられ、処刑されるだろう。もしかしたら彼女も、領内に関係する農民ということで処罰されるかもしれない。
そう考えた彼女は自暴自棄になって、その懐から包丁を取り出したのだ。
彼女がその刃を母へ突き刺すその前に、他の従者から叫び声が上がり、母は振り向いた。そして無意識のうちに凶刃から我が子を守るべく、レミリアへと手を伸ばした。
それを見た彼女は、どちらを刺すか、一瞬で解答を出した。
――子供を殺せば、最大限の絶望を与えられる――
母がレミリアに覆いかぶさる速さと、伸びてくる刃物。どちらが早かったのかは、数秒後に吐露された。母の絶叫のような悲鳴によって。
他の従者によって取り押さえられた彼女は高らかな笑い声を上げ、それに混ざるように母の悲痛な叫びが礼拝室に響き渡った。
「ぎゃあぁぁぁ!!いたい、いたい……!!」
レミリアは背中から包丁を突き刺され、何が起こったかわからないまま、ジワジワと染み渡る痛みに泣き喚いた。
「レミリア、ああ、レミリア!!いやああぁぁぁ……!!」
母はすぐさまレミリアから凶器を抜き取ったが、その途端大量の血が傷口から吹き出した。それを何とか止めようと、必死で手で傷口を抑えようとする母。体を我が子の鮮血に染めながら抱くその姿は、さながら血まみれの聖母子像のようであった。
体が小さければ、凶器の相対的な傷口は大きくなる。然るべき必然として、ほどなくレミリアは息を引き取った。
その生命、わずか3歳にして――
従者が泥にまみれながら早馬を走らせ、その日のうちに父は帰ってきた。待っていたのは、泣き喚く妻の姿と、その前の冷たい骸と成り果てた最愛の娘の体。
父は、憚りもなく泣き叫び、娘の体を揺さぶり、その冷たさと固さに戦慄と慟哭の涙を流すのだった。
下手人の従者は、父が犯行の動機を聴きだした後、その日のうちに父自らの手によって斬首された。
――あきらめるしか、ないのか
悲嘆の夜、父は自室に籠もり逡巡していた。眼前の机の上には一冊の本がある。
かつて異端者を捕えた時に押収した、邪教の本。人を呪う方法や、男を骨抜きにする簡単な方法など、陳腐な儀式と呪文が書かれていた。当然死者を生き返らせる儀式などない。しかし、その中にあって異彩を放つ、細かい手順と呪文、儀式の方法が書かれた、悪魔を呼び出す方法。悪魔と取引が出来れば、その願いはなんでも叶うと書かれている。
――本当だろうか
敬虔な信者である父からしたら、眉唾もいいところの本である。通常ならば、さっさと焚書していただろう。手元に残したのは、他の異端者摘発に役立つという考えである。
それは神との訣別ではないにしろ、「死んだ我が子を蘇らせて欲しい」という、何時の時代でも普遍的な報われぬ思い。天の主はその嘆きには沈黙し、人間は絶望という心の汚泥を沸き立たせる。
――最早、これしか方法はない。
――ああ神よ、神よ。哀れな子羊の一時の愚行を許し給え。
レミリアの遺体が安置されている部屋に人払いをして、父は暗幕を張り、魔法陣を描き、書物の通りの供物と香を焚く。そして、呪文を唱え始めた。
「我が欲するところの霊よ、我は全能の神の力を得て、ここに汝を呼び出す。――」
何度目かの詠唱の末。炊いている香の悪臭が部屋中に広がり、目の痛くなるような供物を燃やした煙の中、父は確かに悪魔に遭遇した。彼の瞳に映ったのは、煙にまみれて現れた、ローブをまとった老人の姿であった。幻覚なのか、現実なのか。その正体は判然としなかったが、老人の声を父は聞いた。
「我の力を欲するは何者ぞ。」
身動ぎしながら、父は言葉をつなぐ。
「悪魔よ、悪魔よ、私の願いを聞いておくれ。」
「然らば、汝の願いを述べよ。我の代価はそれによって決められよう。」
「私の、死んだ娘を生き返らせて欲しい。その為ならば、何でも捧げよう。」
悪魔は頭を振った。
「死者を生き返らせるなど、無理だ。しかし、その姿のまま、転生させることはできる。」
「私の娘はどうなるのだ。」
「悪魔として生まれ変わる。日の下では歩けないが、その姿、心は永遠だ。」
我が子を悪魔にすれば、蘇らせてやるという悪魔の提案。父は最早善悪の判別つかず、その心をかき乱されたまま言葉を出した。
「悪魔だと……――そうか。わかった。して、捧げるべき供物は何だ。」
「お前と、その妻、二人が次に育てる子供の魂を頂く。」
「なんだと。そのようなこと――」
「それ以外に、我の所望するものはなし。」
「……おのれ、悪魔よ。わかった。約束しよう。」
「子供をもうける猶予は5年とする。では、契約成立だ。娘というのは、その骸だな。」
悪魔はレミリアの亡骸に近づき、その顔を覗き込む。父は魔法陣の外に出るわけにもいかず、悪魔に遭遇しているという、襲い来る恐怖に打ち勝つべく心の中で賛美歌を歌っていた。
悪魔の骨のような両腕が亡骸に伸びる。するとその両手から青い煙がもうもうと湧き出し、レミリアの体を包んだ。そして全身が煙に包まれると、その体はふわりと寝床から浮き上がった。彼女の遺体は悪魔に抱えられるようにして、部屋の中央に運ばれる。何か、聞き取れないような呪文を悪魔は唱えている。そう父が気づいた後、雷が落ちたような轟音と閃光とともに部屋中の煙が吹き飛んだ。
静まってから目を開けた父は、悪魔がいないことを確認してから、レミリアのそばに駆け寄った。そこで目にしたのは――
輝くような金髪は、霞のように青く。
背中には、胴体ほどもある、コウモリのような翼。
まぎれもなく、彼の子は悪魔へと転生したのだ。おお、と涙を流し呻きを上げる父の前で、彼女、レミリアは目を開けた。
「――おとうさま。ないているの。」
「ああ、レミリア!!お前はレミリアなのか……?」
「そうよ。わたしはレミリア。おとうさま、どこかいたいところがあるの。」
「なんでもない、なんでもないんだよ。ああ、神よ――」
父はレミリアを強く抱きしめ、神への祈祷を捧げた。レミリア自身は、何が起こったのか記憶が混乱し、ただ父が泣いているので、何か悪いことがあったのかな、と思っていた。
父が妻にレミリアを会わせた時、即座に彼女は間違いなくレミリアであることを認め、父と同様に彼女を抱きしめた。青くなったとはいえ、彼女の髪の手触りは、以前と同じものであった。
「すまない、レミリア。もうお前は、日の当たるところを歩くことはできないんだ。」
「どうして?」
「お前は、一度死んだのだよ。そして、悪魔として生まれ変わったのだ。」
「あくまってなに?」
「人間とは、少し違う生き物だよ。」
「じゃあ、おとうさまもおかあさまも、わたしとはちがうの?」
「そんなことないわ、レミリア。貴方はそれでも私達の大切な子供よ。だから、これからも一緒に暮らすのよ。」
「よかった。おなじなのね。」
「そう、同じよ。今までと同じ――」
果たして、今までと同じ、とはいかなかった。レミリアは昼間は外を出歩けないので、帳を閉めきった部屋で過ごし、夜に父と散歩したりしていた。必然的に、だんだんと夜型の生活になっていった。できる限り両親はレミリアと時間を共にしようと、日中の時間を削って眠り、夜に家族の団欒を迎えるのだった。
レミリアは、公式上では死亡したことになっていた。一見の外観も変化しているため、領内を闊歩する際に生存を咎められることも無い筈であった。それでも両親は念を入れて、屋敷で世話をさせる用人は最小限に抑えさせた。そのため、レミリアは行動になんらの制限がある訳ではないが、触れ合える人間はごく限られたものであった。当然領地の者に知人などおらず、ただ親子のみが彼女の存在を秘匿していた。
農民の反乱は収まり、気怠い平穏な農村の風景が戻ってきた。しかし、彼の地の平和な路端で交わされるうわさ話が出ていた。いわく、領主の家には人間ではない者が住んでいると。背中に悪魔の翼があり、夜な夜な領内を出歩いていると。
父は、うわさ話を放置するわけにはいかなかった。教会の耳に入れば、彼ら自身に問責が下ることは明白である。そこで、父は領地替えを王に願い出るのだった。新たな地に封ぜられれば、見知る者はいないのだから、娘が悪魔であることなど露見しない。そう考えたのだ。
王は、父の願いを受け入れ、隣国との境の地に領地を移した。
出発の日、ガラガラと音を立てて動く馬車の中から、レミリアは初めて見る住民の不安げな顔を覗き見ていた。今までの知人とは違う、見たこともない畏れ慄いているような表情。それを見て、私は悪魔なんだ――と暗い影が心に落ちた。
新たな領地は、何度も隣国との紛争に遭っている地であった。その時代ごとに仕える王国は変わるような、不安定な土地柄。しかしかえってそれがレミリアのような異端な者を抱える父には都合が良かった。不安の雲が渦巻くこの地では、それこそ元から悪魔、悪霊、怪物の類は目撃されているので、彼の娘のうわさ話など埋もれると目論んだのだ。
確かに父の思惑通り、新しい領地では、レミリアの噂など上ることもなかった。その頃にはレミリアは一人でも夜の時間を潰せるようになり、本を読んで過ごしたりしていた。この聡明さも、我が子は人間離れしている、と両親は感じていた。
そんなある夜のこと――父とレミリアが部屋で語り合っている。
「お父様。最近、私喉が渇くの。どうしてかしら。何を飲んでも、変わらないの。」
「住む場所が変わったから、空気が乾いているのではないかな。」
「ううん、違うの。そういうのじゃなくて、何かを飲みたくなるの。」
「何かって、なんだい。」
「わからないけど、体が、欲しい、欲しいって言っている気がするの。」
「何だろうね。医者に見せるわけにもいかないし、困ったね。」
「うん、でも、大丈夫よ。このくらい、大したことではないから。」
「そうか。レミリアは我慢強いな。」
「そうよ。お父様の子供だもの。」
他愛もない父と娘の会話。そして、本を取ろうとした父は小机の上にあったグラスに引っ掛けてしまい、それを落として割ってしまった。何の気なく片付ける父の前で、レミリアはその赤い瞳を大きくしていた。
「ねえ、お父様。」
「なんだい、レミリア?」
「手に、傷があるわ。」
「本当だ。これくらい大丈夫だよ。」
「お父様、その傷を見せて。」
「どうしたんだい、レミリア?」
父は小さな赤い傷口をレミリアの眼前に持ってくる。それをじっと凝視していたレミリアは、おもむろに父の手を取り、傷口を舐めた。
「手当してくれるのかい。」
「……お父様、私、この血が飲みたい。」
「何を言っているんだ、レミリア。」
「私が飲みたかったのは、これなの。今、舐めてわかった。私の乾きは、これが欲しかったの。」
「……そうか。悪魔の中には、人の血を好むものもいるという。そういうことなんだな。」
「ごめんなさい、お父様。でも、私は――」
「いいんだ、レミリア。さあ、飲みなさい。きっと、乾きも癒えるだろう――」
父はガラスの破片で手を切り、その手をレミリアの口へ持ってくる。おずおずとその手をレミリアは取り、傷口に口付け、その血を一口、飲み込んだ。途端に彼女の心は幸福へと誘われ、満たされていくことを感じていた。
「……ごめんなさい。お父様。」
「いいんだよ、レミリア。お前がこうなってしまったのも、私に責任があるんだ。だから、何も気にしなくていい。」
「お父様――」
「これからも、もしその乾きを覚えたら、私やお母様に言いなさい。必ず、私達が癒してあげるから。」
「ありがとうございます、お父様。」
もし、ここで人の生き血を口にしなければ、レミリア、彼女は違う種族の悪魔へとなっていただろう。悪魔はその行動によって定義されるからだ。人が彼女を吸血鬼と呼び出すのはもっと時代が下ってからだが、その運命を彼女はいずれ必然として受け入れることとなる。
こうして、彼女は人の血を飲む吸血鬼となった。はじめは、父。やがて母。親族の血をわずかに飲み、それで渇きが癒えるのだから、世間には問題は生じなかった。
「――お母様。見て。私、少し空を飛べるの。」
「まあ、すごい。その羽根は、羽ばたけるのね。」
「うん。お母様やお父様に飲ませていただいたら、体から力が出てくるの。」
「いつかは、夜空を舞うことができるようになるかもしれないわね。」
「本当?それはすごいわ!」
「ええ。貴方なら、きっとできるわ。」
どちらかと言えば、母の方はこの境遇に順応するのが早かった。ひとえに母の愛なのかもしれない。
そして、両親には忘れてはいけない契約があった。次の子の魂を差し出す、つまり、子供をもうけながら、それを手放すということをしなくてはならない。
もちろん正気の沙汰ではない。しかしレミリアが悪魔へと生まれ変わって以降、彼らの心は常人のそれとは少しずつ外れてきていた。次の我が子の魂と、レミリアの命。彼らの心は、もう既に天秤が下がりきっていた。然るに彼らが出した結論も、些か常軌を逸しているのだった。
レミリアが生まれた日とは異なる、清々しい夜明け。父は自室にて事の次第を待った。良い天候に関わらず、その顔には子供の誕生を待つのとは別の不安が影を落としていた。
果たして、悪魔を欺けるのか。
数刻後、使いの者が部屋の扉をノックした。椅子から立ち上がり、従者を出迎える父。
「――お生まれになりました。」
「……そうか。男か、女か。」
「それが、その――」
「なんだ、申せ。」
「……死産です。」
「……そうか。わかった。今から妻に会っても良いか。」
「はい。大丈夫です。」
異常な事態にも動することなく、父は達観した風に廊下へと踏み出した。
そして妻の部屋、ベッドに横たわる妻の傍らにて。
「……よくやった。これで、私達の呪いも解けたようなものだ。」
「……本当に、これで、良かったのかしら?」
「大丈夫だ。現に悪魔は子供の魂を連れて行った。結果が全てだ。」
「ごめんなさい、貴方。私は――」
「良いのだ。これも、私達家族のためだ。後悔なぞ、ない――」
一見したところ、悪魔との約束通り、彼らは子供の魂を捧げたように見える。しかし、父と母は「自らの」子供の命を差し出すことはできなかったのである。では、生まれて死んだ、赤子は何か。
その子は、母が従者の一人と一夜の契りを交わしてもうけた、不義の子である。表面上は、父と母の子。しかし実際には、愛情なくして生まれた子。その命を捧げ、彼らは悪魔を出し抜こうと考えたのだ。
子供の命を差し出すなど、とてもできない。しかし、愛情という行為なく生まれた子供なら、少なくとも父には「愛する」という気持ちはない。妻は、一人でその業を背負おうと伝え、夫もその覚悟を受け入れた。
果たして、うまくいくだろうか。
その夜、人払いをした父の自室で、父は再び魔法陣の中に立ち、香と供物の煙の中で呪文を詠唱している。
果たせるかな、あの時と同じ、悪魔が出現した。
「これで良いのだな、悪魔よ。」
「ああ、確かに魂を頂いた。次は可愛い普通の子供を産ませるが良い。」
「もう、お前が私の前に立たないことを願っている。」
「そうかな。いずれまた、お前は私を呼ぶ日が来ると思っているぞ。」
「それは呪いか、悪魔よ。私はいまだ神への信仰は捨て去っていない。」
「それは結構なことだ。」
そして悪魔は霧のように消え去り、一人残された父は安堵の溜息をついた。
「お母様、またお腹が大きくなったわね。私の時もこうだったの?」
「ええ、そうよ。今度の子は、あなたの弟か、妹になるわね。」
「早く会いたいな。弟だったら、私がちゃんとお父様の跡を継げるよう教育しなきゃ。妹だったら、一緒に遊べるようになったらいいわね。」
「そうね。無事に生まれるよう、お祈りしてきましょうか。」
「はい、お母様。」
レミリアは、その悪魔の姿とは裏腹に、神への信仰は変わらず持っているのだった。十字架も、聖歌も、彼女を恐れさせるものではなかった。
そして、三度目の、その日がやってきた。
「――お父様、今日はお母様とは会えないの?」
「今、お母様は子供を産むために頑張っているのだよ。そこに私達がいると、かえって邪魔になってしまうんだ。」
「待つしか、ないのね。」
「そうだ。レミリアも、姉となる心構えはできたかな。」
「少し不安。私は、お父様やお母様以外に、仲が良い友達とかいないから――」
「すまない。嫌なことを思わせてしまったね。でも、これからは一人じゃないよ、レミリア。」
「はい。お父様。」
報告を待ちわびる、人生何度目かの朝。父は寝床を娘に譲り、レミリアは今日は父の部屋で寝ている。
ウトウトとしていた父は、窓辺に差し込む柔らかい朝霧の光に目を覚ました。空は暗青色に色づき、昨日降っていた雨は止んだようである。膝に落ちている読みかけの本を閉じ、書棚に戻すために椅子から立ち上がる。娘はすやすやと眠っている。その顔を見て、父は自らの身に降り掛かった奇妙な因果に思いを馳せて足を止める。
――この子は、いつまで生きるのだろう。悪魔は、どれだけの寿命を持つのか。
――いつまでも幽閉しているわけにもいかない。いつか、どこかで外の世界に出世せねば……
もしかすると、弟や妹よりも、ずっと長生きするかもしれない。或いは、すぐに朽ち果てるかもしれない。それは今まで何度も気にかけてきたことだが、娘の安らかな寝顔を見ると、この子には幸せな人生を送って欲しいとも思うのだ。レミリアの感性は人間のそれと同じであることを願いながら。
娘の未来を憂慮していたその時、遠くから足音がする。来たか、と本を書棚に納めて扉の開けられるのを待つ。数秒後、扉はノックされ、侍従が姿を見せる。
「御生まれです、ご主人様。」
「そうか。男児か、女児か。」
「健やかな女の子でございます。」
「おお。妻は、無事か。」
「はい。ご無事に出産されました。」
「わかった。すぐ支度する。」
次女の誕生。父は羽織るものを着て、妻の元へ行く支度をする。侍従にレミリアの面倒を見るように告げ、部屋を出た。
妻の部屋で、彼女とその子に対面する。
「ありがとう。私達にも、これで福音が訪れたというものだ。」
「良かったわ。この子も、きっとレミリアみたいに良い子に育つわ。」
「そうだ。この子の名前を考えていたのだが、この土地風の名前にしようと思うのだが、良いだろうか。」
「それは良い考えね。なんて言うの?」
「フランドール。この子は、フランドールだ。」
「まあ、素敵な、異国風の名前ね。良い響きだわ。」
「きっと、私の子の名前が隣国風ということは、外交的にも良いと思うのだ。」
「そうね。この子も大人になったら、きっと喜ぶわ。」
レミリアは起きた時に侍従の者により妹の誕生を聞いた。そして、廊下に駆け出し、母の部屋の扉を開けた。
「お母様!ああ、良かった。生まれたのね。」
「そうよ、レミリア。あなたの妹よ。」
布団に包まる生まれたばかりの妹を、その赤い瞳をキラキラとさせてレミリアは見つめる。
「この子は、羽がないのね。」
「そうね。でも、あなたと変わりない、私達の子供よ。だから、あなたも優しくしてあげてね。」
「はい、お母様。名前は、何ていうのかしら。」
「フランドールよ。良い名前でしょう?」
「可愛い名前ね。私が一緒に、一杯遊んであげるわ。」
レミリアの喜ぶ姿を見て、父と母はにこやかな笑顔を交わした。思うことは同じである。私達家族に幸あれ、と――。
それからの数年間は、彼ら家族にとって幸福なものであった。過ごす時間帯に関わらず、姉レミリアはフランドールの世話を積極的にしたし、妹の日々の成長を見ることが大変楽しかった。まだフランドールは姉が悪魔であり、自分とは異なる命であることを認識できなかった故に、彼女はそのことを気にせず姉と遊べるのだった。幼い時分には屋敷から出ることも少なく、ほとんどレミリアが相手をしていた。そのためか、フランドールが幼子なりに外へ出かけられるようになっても、彼女は姉の側から離れなかった。外を大手を振って歩けないレミリアにとっては、妹の存在は何よりも嬉しかったのだろう。
両親は言葉にはしなかったが、普通の人間である我が子の成長は、人間の社会で生きていく彼らにとって世間体というかけがえの無いものを与えてくれると感じていた。
こうして彼ら4人の家族は、幸せな数年間を過ごすこととなる。
――その日が来るまでは。
夕刻迫る中、レミリアはベッドから起き出し、着替えて屋敷内を闊歩した。今日は妹フランドールの誕生日なのだ。今年で齢5歳になる妹は、既に姉が悪魔であることを認識していたし、子供特有の無邪気さによって、そのことを何の疑問も無く受け入れていた。
屋敷中が誕生日を祝う準備で忙しい。この日はフランドールにとっても大切な日だが、両親にとっても、人間らしいわが子の祝祭を行う楽しき日であった。彼らは近隣諸侯からの祝いの品や、手紙の整理と忙しさを楽しんでいた。
以前レミリアはそんな妹の祝祭を目にし、家族以外に誰も祝うことの無い自らの誕生日を考えて、やや陰鬱な気分になることもあった。両親はそれをわかっていたので、この日の祝い事は姉妹二人のものであると言い聞かせ、事実そのように分け隔てなく杯を交わすのだった。
食卓に着く家族。豪勢な料理が目の前に並び、特別な日であるという気分を盛り立てる。
「では、始めよう。我が娘、フランドール、そしてレミリア。誕生日おめでとう。天にまします我等が父よ、わが子らの健やかなる成長に感謝致します。――アーメン。」
父がそう告げて、祝宴が始まる。
「フラン、今日はドレスの袖を汚しちゃだめよ。もう5歳なんだから、淑女の嗜みを学ばなくてはならないわ。」
レミリアは笑いながら妹に声をかける。
「大丈夫よ、お姉さま。私は、もうそんなことはしないわ。ああ、美味しい。」
食器を器用に操り、フランドールは食事をしている。その姿を見て、父が言った。
「やはりレミリアの教育が良かったのだな。さすがは私の娘だよ。二人とも、とても良い子だ。」
「ありがとう、お父様。ああ、教えて下さったのは、お母様ね。」
「立派な淑女になるのよ、レミリア、フランドール。あなたたちは、私たちの大切な子供なんですからね。」
母はそう言って笑った。
食事の後、歓談する家族。他愛の無い話に花を咲かせている。
その談笑の最中、突然フランドールが立ち上がった。
「どうしたの、フランドール?」
母の問いかけに、彼女は苦しそうに答える。
「……背中が、背中が、痛い……痛い……」
腰を曲げて、背中を上へと向けるフランドール。そのまま蹲り、膝をついた。
「どうしたの、フラン?大丈夫?背中が痛いの?」
レミリアは心配して妹の傍に座り込む。そして痛みを和らげようと、背中を撫でた。
そのときである。
「うううう、ううああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
フランドールの衣服の背中がありえない大きさに膨らむ。3人が驚いている眼前で、彼女の肌と衣服を突き破り、そのふくらみの正体が飛び出してきた。
それは、血塗られた木の枝のように見えた。しかし、花も葉もなく、代わりに色つきガラスのような、宝石のような煌きの葉が出ている。
フランドールは両手を床につき、はあはあと荒い息をしている。
「……なんだ、これは?フランドール、大丈夫か?」
父もフランドールの傍に寄り、その姿に戸惑う。
「……痛い、痛い……はぁはぁ……」
彼女は背中を突き破って生えてきた、「翼」の痛みに涙を流している。
「……まさか、これは……いや、そんなはずは無い……もう契約は終わっているはずだ。こんなことは、あってはならないことだ……」
父はすぐに子供の変異の原因に思い当たった。母も、その言葉を聴き、ああ、と言葉を出した。
「……フランドール。痛いか?大丈夫か?」
父は気を取り戻したかのように、娘の容態に気をやる。
「……はぁはぁ……だいじょうぶ……痛くなくなってきたわ……」
フランドールは弱々しく言葉をつむいだ。
この光景を目にし、レミリアは事態の原因こそわからなかったが、妹におきた変化の正体には気づいていた。
「フラン……あなた、もしかしたら、私と同じ悪魔になってしまったのかしら。」
「そんな……だって、この子は、人間として……」
母はそこまで言って口をつぐむ。「この子」ではない、その前に生み、生け贄に捧げた赤子のことを思い出したのだ。
「とにかく、真相を聞かねばなるまい。……もう二度と、あんな儀式はしないと決めていたのだが。」
父はそう言って天を仰ぎ見て目を閉じた。
3度目の儀式。今までと違うのは、魔方陣の内側にいるのが父一人でなく、家族三人であるということだ。父以外の二人、妻とフランドールは行われる暗黒の儀式にただ恐れ戦いている。信仰の篤い父が、このような血生臭い儀式を行い、レミリアの命を繋ぎ止めたとは知っていたが、実際に目にすると吐き気や恐怖が襲ってくるのであった。
レミリアは、家族にもしものことがあった時のためにと父が諌め、仕方なく別室で待機している。
父の詠唱の最後。ひときわ供物の悪臭と香の煙が濃くなった瞬間に、その悪魔は再び姿を見せた。
「こんばんは。今日は家族揃って私に願掛けかな。結構なことだ。」
老人の悪魔はそう言ってくぐもる様な笑い声を上げた。母と子供、2人は恐怖のあまり声も出すことができない。
「ああ、そちらのお嬢さんは、私と同じ悪魔なのだから、魔方陣の中で窮屈な思いをしなくても良いのだよ。」
その言葉を聞き、父は声を荒げる。
「何故だ、悪魔よ!!お前は、約束通り、我が子の魂を連れて行ったではないか!!契約は満了したはずだ。何故、また我が子に厄災を振り掛ける!?」
悪魔は楽しそうにケタケタと笑う。
「ははは、あれがわが子だと?よくもそんな嘘が言えたものだ。お前の血など、一滴も入っていないではないか。そのことが判らぬとは言わせぬぞ。」
父は反論しようとした口を閉ざす。彼の企みは、すべて見抜かれていたのだ。
「だが、私は慈悲深いからな。お前の企みに乗ってやったのよ。だから、その捨てた子の魂で満足している。だがな、契約の際に、何と言ったか覚えておるか?
私は『次に育つ子』の魂を頂くと言ったのだ。『次の子』の魂は頂いた。しかし、『育つ』という条件が欠けておるのだ。どういうことか、判るかの?」
「……それで、この子を再び悪魔へと変えたというのか。」
「左様。魂はいらぬ。しかしその子の人間としての人生は頂く。よって、その子が5歳になるとき、人間としての生を終え、悪魔へと生まれ変わる呪いをかけたのだ。今度はちゃんと間違えぬように、お前の精にな。ふふふふ。」
父は顔を真っ赤にしている。
「付け加えておくと、その娘を悪魔へと変貌させた呪いは、お前が捨てた子供の魂の一部を削ったものだ。生まれ出ることを許されなかった赤子の嘆きを糧としてな。美しいであろう?
どうした、一人を育てるも、二人を育てるも同じではないか。何を悔やむことがある?おっと、怒りに任せて私に斬りかかるなよ。うっかり魔方陣から出てきたら、お前を殺してしまうかも知れぬ。ふふふふ。」
その言葉に、父は、無意識に腰の剣に伸ばしていた右手を戻す。魔方陣があれば悪魔は召喚されても襲い掛かってこない。一歩でも踏み出せば、術者の命は保障されない。それが悪魔召喚のルールなのだ。
しばらく父は逡巡、沈黙し、言葉を出した。
「……ああ、貴様の悪しき行いを咎める資格は私にないことがわかった。だが、せっかく呼び出されたのだから、また私の願いを聞いてくれないか。」
悪魔は笑った。
「欲深いやつだな。話だけなら聞いてやろう。して望みとはなんだ。」
「我が子二人を、悪魔から人間に戻して欲しい。そのためならば、私の命が所望であるならば、捧げよう。」
「この期に及んで、まだそのようなことを望むのか。それは無理だ。」
「おのれ……」
怒りに震える父の姿をさも面白いものを見ているかのように悪魔は嘲笑した。
「だが、信仰の篤そうなお前にとって、悪魔の娘二人を抱えて生きるのは苦しかろう。その苦悩を哀れみ、慈悲をくれてやろう。男よ、お前はその魔方陣によって、私から身を守っていると思うのなら、それは間違いだ。何故かわかるか?」
「……何故だ。現にお前は踏み入れられないだろうが。」
「何故なら、魔方陣の内側に、既に悪魔が入っているからだ。ふふふ。」
その言葉を聞き、父はハッとフランドールに視線を向けた。そうなのだ。魔の者の進入を拒む魔方陣であるとしても、内側に既に悪魔がいるなら、その危険性を排除できない。
「お前の最初の子供は吸血する悪魔になった。その娘もまた、いずれそうなるだろう。それに加えて、私から祝福を授けてやろう。娘よ。その右手を開き、強く握れ。」
「やめろ!!やめなさい、フランドール!!」
父の声は娘に届かなかった。その命を捧げた悪魔の命令は、血族の絆を凌駕する。ぼんやりとした視線でフランドールは自身の右手を眺め、その掌を開いた。
「さあ、握るのだ娘よ。強く。強くな。」
フランドールは悪魔の言葉に従い、右手を強く握り締めた。
その刹那。
フランドールの視界が赤く染まった。父と母は大量の血を吐き出し、ビシャビシャと魔方陣の文様の上に鮮血が飛び散る。
「ごはあっ!!!!ごへ!!!」
父も母も倒れ伏し、吐血を続けている。悪魔は彼らの内蔵をフランドールに破壊させたのだ。
「お前たちの娘は、右掌に破壊の目を持つ悪魔となった。人ならざる力だ、喜べよ。ああ、もう聞こえないかな。」
「あぐっ……!ま、て……」
悪魔は笑いながら、煙の中に掻き消えていった。残されたのは、地に伏す両親と、その子、フランドールである。彼女は空ろな目で両親の姿を眺めていた。そして、急に憑き物が落ちたかのように取り乱し、泣き出した。
「お父様、お母様……うわあぁぁぁぁ……」
父も母も、揺り動かしても全く返答が無い。フランドールの認識としては、儀式の途中から意識が薄れ、曖昧の中で右手を握った、ただそれだけである。それによってもたらされた結果が、思考を超えていた。
「……お父様!お母様!」
そこに扉を開けて、レミリアが入ってきた。儀式の最中、どうしても心配が拭えずに、外の廊下で立ち聞きしていたのだ。そこに父と母の悲鳴が聞こえ、慌てて入ってきたという次第である。
父も母も、既に息絶えていた。父母の遺体の傍で悲嘆に泣きながら、彼女は妹に問いかけた。
「何が、起こったの……?ねえ、フラン、教えて。」
フランドールが答えた。
「私が、右手をきゅって握ったら、倒れたの……」
意味がわからない。レミリアは混乱した。原因と結果。因果が完全に逸脱している。しかし、その惨状が妹によってもたらされたことは理解できた。
「あなたが、手を握ると、そんなことになるの……?信じられないわ……」
「わからない、わからないわ!」
フランドールは頭を抱えて蹲っている。その姿を見て、レミリアは彼女達悪魔の本質とその運命を朧げに理解した。
悪魔は、人に害なす者。人とは相容れぬ者。
それは両親との絆すら破壊するほどの運命。このことは、レミリアを悪魔の力で蘇らせた時から定められていたのだ。
天を仰ぎながら彼女は叫ぶ。
「私達は、私は、こんなことを望んでいないのに……!」
魔道に堕ちたる彼女の嘆きは、最早天上の主に届くことはない。
後日、曇天の下葬儀がしめやかに行われ、姉妹は寄り添う棺に収まる両親に別れを告げた。
跡継ぎなく領主の死んだ家は、程なく没落していくことになる。傍の者からそれを聞いたレミリアは財を売り払い、隣国へとフランドールを連れて流れていった。同じく没落した貴族の家を買い、口の堅い最低限の使用人を雇い、人間社会から隔絶されることを望んだ。
レミリアは妹に言い聞かせた。
「フラン。貴方はとても恐ろしい力を身に着けている。でも決して使ってはいけない。……どうしてかは、わかるわよね?」
「……お父様と、お母様に……」
「……ごめんなさい。言わなくて良いわ。ただ、あなたはこれから静かに暮らすのよ。静かに、ね。」
そのような生活の中で、レミリアは次第に妹との距離が離れていくのを感じていた。両親との突然の別れの日以来、フランドールの右手が使われることはなかったが、彼女は妹を無意識のうちに遠ざけようとしていたのかもしれない。無意識の忌避は、やがて直接的な離別へと変わっていった。フランドールもどこかよそよそしい姉から離れるようになり、姉妹は自然に同じ家の中で別々の時間を過ごすようになっていった。
彼女たちは最も親しい他人との関わりを失い、その成長は止まってしまった。
――これより姉妹は空虚な300年あまりを孤独に生きることになる。
両親との離別後、レミリアはフランドールを恨んだわけではない。しかし、彼女の子供らしい精神では、フランドールが両親を奪ったという事実を咀嚼できなかった。そのため彼女の心の片隅には、妹に対する漠然とした怖れが次第に芽生え始め、それを自覚してきていた。
レミリアは夜の空を散歩しては憂さ晴らしをし、フランドールは自室に篭って本を読むばかりの生活。時折従者から血を飲み、乾きを癒す。フランドールには、彼女の力が増すことを恐れたレミリアは、血を別の形の食事として与えるように従者に命じていた。
夜空を飛ぶ。中世の夜の空は漆黒という言葉にふさわしい暗さでレミリアを包み、地上の人間からは彼女の姿を見ることはできない。時折街の鐘楼などで羽を休め、彼女は夜空を滑空する。別にわざわざ見つかる危険を犯してまで、毎晩空を飛ぶ必要はない。しかし、彼女はどうしても空を飛びたいのだ。それは、己に秘められた力を両親に褒められたことが、無意識に作用していたのかもしれない。あるいは、父母から残された力を使用することで、彼らとの思い出を忘れないようにしていたのかもしれない。
皮肉なことに、事ここに至ってようやくレミリアは外出の自由を得、フランドールは逆にかつてのレミリア同様に屋敷に籠もることとなった。
孤独なはぐれ悪魔である彼女たちは、魔性の者とのコネクションもなく、またその魔力を使う方法を教えてくれる者もいなかった。従って、レミリアは空を飛ぶ程度しかできない、ひ弱な悪魔であった。それ故、屋敷の外の人間を襲うこともなく、討伐されることが無かったのは幸運だったかもしれない。
傍に仕える者は段々と代を重ねていったが、異形の彼女たちと積極的に関わろうとする者はいなかった。
そんな彼女の運命は、ある夜変転することとなる。
夜空の散歩から帰ってきたレミリアは、来客の知らせを受けた。草木も眠る丑三つ時である。通常の人間ではないことは確かだ。警戒して彼女は応接間へと向かった。
間の扉を開けて、来客を出迎える。
「こんばんは。夜分遅くに来客があるとは思いませんでしたわ。して、何用でしょう?」
静かにレミリアは相手の反応を待った。
客は、薄紫色の髪をした若い女性である。とは言え夜更けに出歩く女は魔性の者か、あるいはそれらを狩る者か。そのことを彼女は理解していた。
「……こんばんは。夜分遅くに失礼するわ。用件というのは、申し訳ないんだけど、家がないのよ。しばらく滞在させて下さらないかしら。……主が魔性の者と聞いているのでね。」
単刀直入で不躾な願い。それにレミリアは笑った。
「あら、どこでそんな話を聞いたのかしら。まあ、ご覧の有様だけど。」
そう言って、彼女はローブに隠していた翼を広げた。それを見た相手は、特に驚く様子もない。
「……悪魔なのね。丁度良いわ。自己紹介がまだだったわね。私はパチュリー。人はパチュリー・ノーレッジと呼ぶわ。海を渡った、英国生まれの魔女よ。」
淡々と彼女は答えた。
魔女。少し安堵したレミリアは、幾分顔を緩ませて言った。
「島国の魔女がどうして大陸へ渡ってきたのかしら。理由が聞きたいわね。」
「単純に知識の探索よ。もう母国の書籍は読み尽くしたわ。こちらの国なら、もっと秘儀の数々を学べると思ったのでね。」
「でも、どうして私のところへ?」
「占いでそう出たのよ。この家に住むものは私と相性の良い魔性の者ってね。さっき確かに夜空に飛び立っていく貴女を見たわ。」
「占いか。魔女らしいわね。面白い。それなら、うちに滞在しても良いわよ。退屈に飽かしていたところだし、面白い話を沢山聞かせてくれるならね。」
「……あんまり人と話すのは好きではないのよ。息が詰まるわ。」
「病弱ね。まあ良いわ。部屋をあげる。そこで好きなように生活なさい。」
「ありがとう。話のわかる悪魔で助かったわ。大方の悪魔はとんでもない代償を求めるものだから。私のつまらない話で良かったら、いくらでもしてあげる。」
そう言って、彼女、パチュリー・ノーレッジは初めて笑顔を見せた。
悪魔は大きな代償を求める、か。レミリアは自嘲気味に心の中でその言葉を反芻した。
パチュリーは、人付き合いのないレミリアから見ても変な人物であった。日がな一日部屋に籠もり、本を読んでいる。かと思えば、魔法陣を書いて何らかの儀式を行ったりもする。その上どこにも出歩いていないのに、彼女の部屋には日増しに本が積まれていくのだった。
「一体何でそんなに本を読むの?せっかく異国に来たのに、出歩いたりはしないの?」
一度レミリアはそう尋ねたことがある。
「本の集まる魔法を知っているのよ。こうやって私は、国中から読んだことのない本を集めてくることが出来る。数多の本の知識は、一見を越えるわ。だから、泥臭く薬草を集めたりはしないのよ。」
パチュリーはそう答えた。
「魔法、か。今まで私はそういうことには全然興味がなかったけど、私にもできるのかしら?」
「……変な悪魔なのね。魔法を使ったことがないなんて。聞いたことがないわ。」
「少し私は高貴な生まれだからね。でも、やってみようかしら。」
「……教えろ、ということね。まあ良いわ。きっと適性は高いだろうから、簡単なことよ。」
こうして、レミリアはその体に秘められた魔力の使い方を学ぶのだった。世人は彼女のような者を吸血鬼と呼び始めた頃である。必然的に、人間の恐れる吸血鬼の魔力と身体能力を高めていくことになった。同時に、力をつける程に、ニンニク、流水その他の弱点もはっきり定義されていくのだった。元が洗礼を受けた信心深い人間であるためか、十字架は効かなかったが。
パチュリーはレミリアの要請を受けて、フランドールにも魔力の使い方を教授した。もっともフランドール自身はそれよりもパチュリーの蔵書の方に興味があり、読める本、魔導書の類を増やすために学んだのだった。
しかし、彼女の右手の破壊の目は依然として力を持っており、それを知ったパチュリーに危惧された。
「……妹様の右手は危険すぎるわ。あれは見たこともないような強大な魔力を持っている。彼女を外に出すことは、私達の身を破滅へ導きかねない。……できれば、管理された部屋の中で過ごして欲しいのだけど。」
ある日、パチュリーはそうレミリアに進言した。
「やはりパチュリーもそう思う?昔は分からなかったけど、魔術を覚えた今になって、私もあの子の危険性が分かってきたわ。……やはり、幽閉するしか、ないのかしら。」
レミリアも、このまま放置した場合、妹はいつか災厄の火種になりかねないと予感していた。それは彼女の運命視の力の芽吹きだったのだろう。姉妹はその身に秘めた魔力の使い方を学ぶことで、自ら固有の能力を開花させつつあった。
「そうね。それが良いと思うわ。『正しい』力の使い方を覚えるまではね。」
「わかった。私からフランに言うわ。」
「……お願いするわ。」
レミリアはフランドールの部屋へ向かった。最近はあまり言葉を交わしていない。食事の時に顔を会わせるぐらいだ。不仲というほどではないにしろ、彼女達の距離は日増しに遠くなっていた。
フランドールは部屋で本を読んでいた。レミリアが入室しても、顔を上げずに没入しているようだった。
「フラン、話があるのだけど。」
「何、お姉様?」
フランドールは本から目を離さずに答えた。
「端的に言うわ。貴方の右手は危険だから、しばらく地下室で過ごして欲しいのよ。」
レミリアは、子供特有の歯に衣着せぬ言い方で告げた。それを聞き、フランドールは本を閉じてレミリアの方を向いた。
「あら、お姉様。私のことが怖いの?それはそうよね、何せお父様やお母様の命を奪ったのは、この右手だから。当然よね。いよいよ持って、親殺しを幽閉しようと考えたわけ?」
フランドールは嘲笑するように、右手をひらひらと姉に向けて振った。
「そういうことを言ってるのじゃない!貴方が、外でその力を使ったら、どういうことになると思う?間違いなく、私達は討伐されるわ。忘れないで。私達は、まだ悪魔としては見習いもいいとこなのよ。」
レミリアは語気を荒げて告げた。
「弱虫なお姉様ね。……まあ良いわ。地下牢だろうとこの部屋だろうと、どうせ変わりはしないわ。でもパチュリーの本ぐらいは読ませてよ?」
「……ああ、許すわ。食事は部屋に運ばせるようにする。我慢してね。」
言葉の弾みで出た、地下室というフレーズに、レミリアは少し後悔した。一方のフランドールは別に気にも留めていなかったが、父母から社会性を学んだ期間が長い分だけ、妹を軟禁するという行動に自己嫌悪するレミリアであった。
――私は、フランドールを恨んでいるのだろうか。
レミリアは妹について考える度に、そのような思考に陥りやすくなっていた。彼女にとって小さな世界のすべてであった、両親の愛情を断ち切った妹の手のひら。それを恐れているという自覚はあった。
――それ故に、私は妹を封印しようとしているのだろう。恨んではいない。恐れているだけだ。
――私は、妹に殺されるのが怖いのか?
朝になり、レミリアは一人自室で微睡みながら考える。自らの命惜しさに妹を封じ込めようとしているのか。だが父母を亡くしたのは妹とて同じ、ならばせめて姉妹仲良くできないものなのか。しかしレミリアにとって、フランドールはどこか彼女とは異質な存在であることを無意識のうちに感じていたのだろう。彼女の翼は、悪魔らしくない奇妙な宝石の羽。その外観がレミリアには妹以上の隔たりを生じさせる原因の一つかもしれない。
――宝石の羽、か。私の蝙蝠の羽とは似ても似つかないわね。
実際にその翼の違い以上に、レミリアとフランドールは違うのだ。レミリアは死後悪魔に転生した者。フランドールは生きながら悪魔へと変わった者。その違いかもしれない。
また、彼女はフランドールが両親を殺害した現場を目撃していない。そのことが、単に操られたと主張する妹の言葉をそのまま受け取れない疑心暗鬼のような感情をわずかながら生み出していた。
――私は、もう家族を失いたくないのだ。だから、妹が討伐される様を見たくない。
――どうすれば、わかってもらえるのだろう。どうすれば、彼女を教育できるのだろう。
この答えを出すには、まだ時節が悪かった。従ってレミリアは時を待ち、その解答を得る適切なタイミングを図らざるを得ないのだった。妹のことを思うと、愛されていた両親との離別を想起し、ともすれば暗闇に落ちそうになる。その心が、彼女をして地下室という発想に至ったのかもしれない。
結局、このことによってフランドールは生まれてからこの方、ほとんど外に出ていないことになった。健常な人間であった時でも、父母が家に残されるレミリアに配慮して外に連れ出して来なかったためである。それ故、後世になって彼女は人間の姿を見忘れるほどになる。
――時代は下る――
世界の歴史で、革命と呼ばれる時代の到来である。旧来の貴族はブルジュワジーの前に次々と力を失い、没落していった時代。レミリアたちの住む首都から離れた街にも、革命の余波は到来していた。
幸いレミリアは荘園を持つ領主ではなかったため、反乱を受ける恐れはなかった。しかし街中の内紛の熱気には辟易していた。
「なんで、人間は内輪揉めの戦争が好きなんだろうね。パチェ、何か知ってる?」
「……愚かなだけよ。こういう方法でしか、自分たちの国では新しい時代は作れないと考える者が大勢なの。だから、これからもこの空気は変わらないでしょうね。」
本から目を逸らさずにパチュリーは答えた。つまらなそうに、レミリアは言葉を続ける。
「最近、この混乱に乗じて、町中でも吸血してみたのだけどね。あだ名が付いちゃったわ。スカーレットってね。そのスカーレット嬢は、夜陰に紛れて血をすすり、その衣服を鮮血に染めるそうよ。」
そう言ってレミリアは笑った。
「レミリア・スカーレット。……まあ良い名前なんじゃない?吸血鬼としては。」
「じゃあこれからはそう名乗ろうかしら。それにしても、町中が本当に埃っぽくて嫌だわ。パチェは当分出歩けないわね。」
「……そんな自殺行為はしないわ。でも最近は本の『入荷』が少ないの。こんな鉄の時代になって、魔法を極めようとする人物が減ってきたのかもしれないわね。」
パチュリーの予見通り、やがてその国は目まぐるしく政権が変わり、欧州全土を巻き込む動乱の中に飲み込まれていくのだった。
次第にレミリアとパチュリーは、この国が疎ましくなった。さりとて、この地を離れてどこに行くか。欧州にあては全くなかった。どこもかしこも動乱を経た混乱が収まっていないのだ。
「どこか別の国に移ろうかしら。何百年も生きてきたけど、もうこの国は嫌になってきたわ。だけど、今更どこに行っても同じよね。パチェ、どこか良い処知らない?」
「……良いかどうかはわからないけど。新天地は2つあるわ。西の大陸の国と、東方の租界。」
「新大陸は知ってるけど、その租界って何なの?どこ?」
「清帝国からこの国が奪った街の区画よ。本によると、文化的にはこちらと変わらないし、東方の文明の影響もあるみたい。もし行かなければならないならば、泥臭い新大陸よりは、私はそちらが良いわね。」
「東方か。少しは面白そうね。何百年もこの地にいて、もう飽きてきたのかしらね。良いわ。そこへ行きましょう。」
「もう新しい魔術書は、ここでは書かれないかもしれない。私も同行して良い?」
「ええ、大歓迎だわ。でも、海を渡らなきゃ行けないのに、吸血鬼な私達姉妹はどうすれば良いのかしら。」
「確か以前読んだ本に、吸血鬼は棺に入っていれば良いらしいって書いてあったわ。」
「棺桶か。いよいよもって、インモータルな存在になってきたわね。ところで何て言う街なの?」
「上海。帝国の貿易港よ。」
東方の地。今まで考えたこともなかったが、何百年振りに好奇心が鎌首をもたげてくるのをレミリアは感じていた。
結局レミリアは屋敷を含めた財を売り払い、上海へと旅立つ船に自らとフランドールの棺を載せた。棺を含めた荷物の管理を任されたパチュリーは渋々といった感じで船旅を請け負うのだった。
かくして、二人の吸血鬼と一人の魔女は欧州を旅立って行った。
上海。欧州の租界となったことで、急速にその様式を取り込んでいく、渦潮のような港町。その中にレミリア達は居を構えた。そこは今までの戦争に沸き立つ街とは異なる、変化していく街特有の忙しなさがあるのだった。同時に、大陸の人間、不穏分子、魔性と欧州のそれとが出会う、路地裏から何が飛び出してくるか分からない魔窟のような街とも言えた。
接収した街中の通りに建てられた、赤煉瓦の屋敷。その中の窓辺から、レミリアは本国で買い付けた紅茶を飲みながら、ぼんやりと明るい夜の街と遠方の暗い海上の空を眺めていた。引っ越しの煩雑な騒ぎが終わり、いよいよもって彼女は上海の住人になろうとしていた。
――随分と流されてきたものだ――
そのような感傷を抱く、小さな悪魔。彼女の精神は幼くとも、その感性は老成していたのだろう。
――私は、なんで東方の地に逃げてまで、必死で生きようとしているのだろうか。
――ただ長生きすることを望む悪魔とは、何が楽しいのだろう。
――いや、違う。私は本当に「生きて」いない。誰にも関わりを持たず、存在するだけ。
――この地で、不死者なりに、生き始めてみようか。
レミリアはカップのお茶を飲み干し、窓辺から離れた。この東方の地でも、今までと同じように本を読み続ける友人の元へ向かう。彼女の部屋は最早図書館とも呼べるほどの蔵書量となっている。以前船にどうやって積み込んだか尋ねたら、「魔法よ」との一言だった。
「パチュリー。入るわよ。」
「どうぞ。何か用かしら。」
相変わらず本から目を離さずにパチュリーは答えた。
「貴方は、使用人とか要らない?」
パチュリーが顔を上げる。
「唐突に変なことを聞くのね。確かにそろそろ、本の整理とかはしなければいけないけど、大丈夫だわ。どうしたの、そんなことを聞くなんて。」
「ちょっと心変わりしてね。この街で、東方の魔性を雇ったら面白いのじゃないかと思ったのよ。」
「……本当に風邪でも引いたのかしら。そんなことを言うなんて、貴方らしくないわ。まあでも、少し興味を惹かれるわね。どうやって集めるつもり?」
「あの人間が読んでいる、新聞というものに広告を出すのよ。魔性の者だけに判るようにね。そうね、とりあえず門番と庭師辺りを募集しようかしら。」
「要するに、私にその雑事をやれ、ということね。仕方ないわね。」
「ありがとう、パチェ。」
一週間後、当地の新聞の求人欄に奇妙な広告が載った。
募 集
守衛、庭師 若干名
無 給
待 遇 応相談
紅魔館
一見したところ、冗談のような広告である。パチュリーは、あえて連絡先を書かなかった。紅魔館とは、当地の魔性たちに呼ばれていた邸宅の名前である。人ならざる者のみ、その場所がわかるように。
掲載された新聞を読みながら、パチュリーはレミリアに言葉を投げた。
「……面接ぐらいはやって欲しい。」
「仕方ないわね。まあ私が言い出したことだし、あの広告に引っかかる妖魔の類を分別してやるわ。」
レミリアはまだ見ぬこの地の魔性どもに心を躍らせた。
数日後、夜更けの館の門を叩く者があった。レミリアはいそいそと着替えて、応募者を出迎えるのだった。
使用人に扉を開けさせる。
「こんばんは。こんな夜更けに何用でしょう?」
とりあえず、普通の応対をして様子を伺う。
「はい、こんばんは。私は新聞の広告を見て、やって来ました。美鈴と言います。」
来たか……とレミリアは心の奥で笑った。
「と言うと、普通の人間ではないのね。魔性の者かしら。」
「はい。名も無き妖魔の端くれです。大陸を旅して、この上海にやって来ました。右も左もわからない所ですが、庭の手入れは得意です。」
「そう。私はレミリア。レミリア・スカーレットって呼ばれているわ。こんな風よ。」
そう言ってレミリアは翼を広げた。
「奇遇ですね。私の姓も紅。スカーレットです。」
「それは愉快ね。決めたわ。貴方に仕事をしてもらうことにする。……まあ、そんなに硬くならなくても良いわよ。」
「わかりました。これからよろしくお願いしますね。」
そう言って、彼女、紅美鈴はにこやかに包拳礼をした。
「何で、あの女を雇ったの?こう言っては悪いけど、貴女最近どこか変よ。彼女は結構仕事が良くできているけどね。」
パチュリーの疑問にレミリアは答えられなかった。
「……どうしてだろうね。私もよくわからない。ただ、少し大陸の風に当てられただけかもしれない。」
「ところ変われば心も変わる、かしら。」
「そんなのではないと思うよ。文化を学ぶってことかな。」
「……意外な一面を見たわ。」
レミリア自身も、大したことではないにしろ、己が心理的に未踏の部分へ入ったことを感じていた。それは、惰性に流れる自らの運命を変転させる力の発露だったのかもしれない。
雇った紅美鈴という門番兼庭師は中々優秀な使用人であった。その仕事だけでなく、大陸の文化人の嗜みなども披露してくれたので、レミリアは彼女と仲が良かった。
20世紀初頭、上海租界。
確かに彼女たちは租界の生活に適応していたのだろう。欧州にいた時よりもレミリアは積極的に夜の街中を闊歩し、気の向くままに遊んでいた。混沌とした都市の狭間やビルの中には、人間同様に魔性の者たちの集まるバー、遊技場などもあり、レミリアにとって遊ぶことには何不自由ない場所であった。
そのようなダンスホールにて。最近レミリアは美鈴を連れて彼の地の魔性が集まる場に出入りしている。眼前には、バンドの演奏に合わせて、男女の名も知れぬ人間や妖怪たちが舞い踊っている。アジア人風の者もいれば、欧州から流れてきたような者たちも多い。
「お嬢様は、踊らないのですか?」
美鈴はテーブルでぼんやりとその光景を眺めているレミリアに声をかけた。
「流石に子供の妖怪はいないわね。こんな小さい子と一緒に踊る紳士はいないみたい。」
レミリアはそう言ってグラスを傾けた。
パチュリーは全く外出をしないので、このような場には来ない。一方で美鈴は社交性が十分あるので、お供の者として最適であった。
「ここを見るに上海租界っていうのは、人間にしろ妖怪にしろ、世間から追い出された落人たちの楽園なのね。」
「政治的な原因もあると思います。本土の不穏分子もかなり潜伏していると聞きました。」
「『共産党』だっけ?新しく流行っているのは。」
「そうですね。ロシアが倒れて以来、世界中で流行しているようです。」
「つまらない思想ね。まあでも、民衆の凡庸さを肯定してくれるから、人気が出るのかしらね。」
グラスの残りの酒を飲み干し、レミリアは告げた。
「夜ももうすぐ明けるし、そろそろ帰るわ。」
「わかりました。帰りの車を手配してきます。」
そう言って美鈴は席を立ち、ハイヤーを手配しに外へと歩いて行った。
帰りの車の中で、シートにもたれてレミリアは息をついた。
「自動車って良いわね。この車が走れるように路面も綺麗に舗装されるし、普及するのも頷けるわ。」
「確かに自動車が走るようになって、街中の泥道はほとんどなくなりました。」
美鈴が答える。
「でも私は、自分の翼で空を飛びたいとも思うのよ。こんな眠らない街中じゃ、無理だけどね。」
「私もその気持ち、わかります。」
「こうやって時代に順応していくのね。現代の人間が夜を恐れるのは、魔性の者のためではないわ。彼らが夜に恐れる相手は、他の人間よ。何しろ夜がこれほど明るければね。」
しかし、吸血鬼の身を焼くには程遠い、人工的な街の明かり。それにレミリアはある種の心地よさを感じてもいた。そして彼女は流れていく車窓の夜景を眺めながら、かつて自分が存在していた、あらゆる魔性を覆い隠す中世の夜陰を懐かしく思うのだった。
時には、挑みかかる妖怪の類もあった。しかしレミリアとて、何百年も生きている悪魔。紆余曲折の末、彼女の力は平凡な魔性の者をなぎ払うほどに強大になっていた。
そうやってレミリアが租界の生活を満喫する一方で、この東方の地に来ても、妹は相変わらず家に籠っていた。もしかすると彼女は、長い孤独の中で他人に対する興味を失っていたのかもしれない。レミリアとしても、妹への興味や関心を惹く努力は百年以上前に諦めていた。それで彼女が問題を起こさなければ、良しとしていた。
最早レミリアも妹への黒い感情が尽き果て、無関心を装っていたのかもしれない。
――やはり、現地の妖怪を雇って良かった。ここに来て良かった。
レミリアは眼下の上海の通りを眺めながら、そう思うのだった。
東方の混沌とした街に来て以来、彼女は身体的な成長こそ無いものの、精神的には大きく成長していた。
しかし、その日々も永遠ではなかった。世界恐慌の煽りを受けて、経済は停滞し、商売人は次々と倒れていった。特に貿易の縮小は港湾都市である上海の商人に少なからずダメージを与えた。街中には冷たい風が吹き、失業者の一部は、新たに発足した共産党という組織へ仲間入りしていく者も多かった。
レミリアはそうした人間社会の動向を目の当たりにして、かつて自分たちが欧州を追われることになった時と同じ空気を感じていた。
「また、ここでも民衆が戦争をしようとしている。昔パチェが言ったように、戦うことでしか時代は変わらないと考える者が大多数なのね。」
深夜のティータイムをパチュリーと過ごしながら、レミリアはそう毒づいた。
「今度は、王権に対してではなく、かつてその王権を打倒したブルジョワジー達へ矛先は向かっている。水は低きに流れるとはよく言ったものだわ。前時代的な植民地システムも終焉が近いわね。」
「流石は知識人ね。そうすると、今度は私たちはどこに流れれば良いのかしら。」
「……私達の生きる場所は、もう世界中どこにも残されていないかもね。ただ滅び行くだけかもしれない。それでも私は本が惜しいし、簒奪する者を許しはしないけど。」
「生きる場所、か。やっと好き勝手に生きる方策を見つけ出したってのに、運命とは皮肉なものね。私の力で、滅び行く私達の運命を変えることはできるかな。」
「お願いするわ、ご当主様。」
魔性の者たちは、時代によって殺されて滅ぼされていく運命。レミリアはそれを甘受するような性格ではなく、何か手を打つべく思案していた。
朝日が昇り、日の差さない部屋で彼女は床につき、目を閉じながら考える。
――まだ、ここでも私は生きようとしている。それほどにこの生命が惜しいのか。
――不死者とは、人一倍己の命に執着を持つ者なのか。
何故自分は生きようとするのか。答えのない問答を繰り返し、彼女は己の半生を振り返る。
上海租界。革命。フランス。パチュリー。魔法。妹の破壊の目。父母との離別。誕生日。姉となった日。初めて血を飲んだ日。そして、悪魔として再誕を果たした日。
そこまで考えた時、彼女の脳裏に陽炎のように遠い記憶の映像が写った。
それは、蘇った我が子を泣きながら抱きしめる、父母の姿。
――ああ、そうか。遠い記憶の、父の命がけの願いで、私は生き永らえることを望まれたのだ。
――だから、生きなければならない。それこそが、私の存在証明だ。
不死者たる吸血鬼。しかし彼女の存在は、何が何でも生きて欲しいという、父の願いによって生まれた。レミリアはそのことに気づいたのだ。命を惜しんだのは、今は亡き父母の願い。妹を封じ込めたのは、彼らの悲願を砕かぬように。数奇な巡り合わせにも、一つ一つ未来へ繋がる意味が眠っている。
――まだ生きよう。私はまだ大人になっていない。父や母の思いに応えられていない。
――所詮この身は不死なる者。どれだけ生きられるか、試してみるのも一興だ。
己の生きる意義を理解した彼女は、安住の地を求めて、さらなる東方の幻想郷に活路を見出したのも当然と言えよう。もっとも実際にはパチュリーが見つけ、レミリアが承諾するといういつもの流れであった。
「私の占いだと、もうしばらくしたらこの街は火の海になるわ。」
ある日、レミリアはそうパチュリーに告げた。
「……いつから占い師になったのよ。でも、あなたが言うと説得力があるわね。その根拠はあるの?」
「ないわ。ただ、直感というか、運命的な予見というか。説明するのは難しいわね。」
「確かに町の外ではトーチカが組まれているし、いよいよここも戦争に巻き込まれていくのは確実ね。あながち間違ってはいないと思う。」
「……例の場所、行けるのでしょう?もうそろそろ引越しの準備をしたほうが良いわ。」
「もう準備はできているわ。あとは私達が行くだけよ。美鈴も付いて行くって言ってるし、貴方もそろそろこの街にお別れをしておくべきなんじゃないかしら。」
「お別れね……別に良いわ。短い期間だったけど、結構楽しい街だった。人間の作るものは、みんないつか壊れていく運命にあるのよ。数十年てところかしら。一時の逢瀬を楽しんだわ。」
その晩、彼女たちは上海の街から姿を消した。そしてその一週間後、館は爆撃機から投下された爆弾によって跡形もなく消し飛んだ。
以上が私が彼女から聞いた話、二人で体験した出来事の記録であり、彼女の物語である。
幻想郷に来てからの話は割愛した。それは思い出話とするにはあまりにも最近すぎるからである。
彼女は普段自分のことを語りたがらない。あくまでも興味は自分の内面ではなく、外に向いているからと考えられる。この私のインタビューがなければ、誰にも聞かせなかった彼女自身の歴史だろう。
彼女の誕生日を記念して
パチュリー・ノーレッジ
本を閉じ、大きく深呼吸する魔理沙。彼女が読んだのは、かつてパチュリーが行った、レミリアへのインタビューの記録だった。
(こんな物があるとはな。でも、なんでレミリアやパチュリーは教えてくれなかったんだろう?書かれたのは最近みたいだし、忘れている訳ではないと思うんだがな。)
実際に覚えていたかどうかは聞かなければ分からないが、何となく隠した理由も想像できる魔理沙であった。
(多分、あんまり人に話しても面白くないからか。レミリアの性格からして、意気揚々とこんな話はしないだろうしな。でも、あいつら姉妹で羽が違う理由ぐらいは教えてくれても良いのに。)
本を閲覧机に残したまま、魔理沙はパチュリーの元へ向かった。
「……目当ての物は見つかったぜ。まあ、あれだ、お前が書いたんじゃないか?」
パチュリーは本から目を逸らさずに答えた。
「……読んだのね。じゃあレミィや私のことも理解したかしら。」
「ああ。途中で会話とかお前が見ていないようなところが挿入されていたけれど、あれは何だ?あんなに昔の会話を覚えているのか?」
「限りなく現実に近い創作よ。こんな感じだったと思うってことと、魔法で遠見したこと、それとレミィのインタビューで聞いた内容。あまり人前に出したくはないのだけどね。」
「作り話か。意外な一面だな。」
「レミィの要請で書いたのよ。昔話を一々するのは面倒臭いから、まとめておいて欲しいってね。結局興味を持つ者は、この幻想郷では貴方以外にいないみたいだけど。」
「そうか。私も人に言いふらしたりはしないつもりだ。……しかしお前たちも結構色々な場所を転々として来たんだな。」
「……最終的に私たちの安住の地は、幻想の国しかなかったのよ。それが運命ね。」
「ここも結構物騒なところだと思うんだがな。でも妖怪たちにはそうでもないか。」
目的は達せられたものの、些か釈然としない魔理沙であった。
所変わって、博麗神社。
レミリアが霊夢の背後から抱きついている。
「ねえ、暇なんでしょ。遊んで欲しいわ。そんなに掃除ばかりしていないでさ。」
「あんたは、遊んでいれば良いけど、私はこれも仕事なの。邪魔しないでよ。そんなに暇なら、何か面白い話でもしてよ。」
「……うーん、そうね。じゃあ、こういうのはどうかしら。『500年以上生き続けた少女の話』。」
ここより、物語は始まる。
レトロスペクティブ紅魔郷
12/16追記
産廃こんぺの末席を頂き、ありがとうございました。とても楽しかったです。
以下、コメント返信と解説です。
1.さん
レミリアのストーリーを考えるのは楽しかったです。世界史の教科書をつまみ食いしながら書きました。
2.さん
どの部分をあやふやに書くかで苦労しました。最終的に不明とした設定も結構あります。
3.さん
呪いのかけ方で、フランちゃんが生まれるまで7人赤子を殺す話も考えましたが(7人分の魂=虹の7色)、テンポがひたすら悪いのであえなくボツにしました。
結果として宝石の羽の逸話を埋め込めなかったのが少し心残りです。
4.さん
ありがとうございます。過去話はSSの基本ですね。
5.さん
咲夜さんの出会いの話は、また別に考えているものがあるので、このSSには含めませんでした。個人的に同じ登場人物で全く別の設定を書くのは難しいです。どうしても以前の作品に引きずられてしまいます。
誕生日記念なのは……実はこの話、今年の夏コミケで紅魔郷頒布10周年なのを記念して夏に書いていたのが、締め切り過ぎてしまったものですので……
6.さん
紅魔館のメンバーの話が人気なのは、妄想の余地が他作品よりとても広いのがあるかもしれません。
7.さん
このSSを書くにあたって、「紅魔郷の設定だけを使うこと」という制限をつけました。10年前に、紅魔郷が頒布されたときでもこういうSSが一杯あったよな、という個人的な回顧です。
8.さん
読み返すと彼は不幸の塊ですね。幻想郷で大暴れしているレミリアたちを見て、きっと草葉の陰で喜んでいるでしょう。
12.さん
紅魔郷エンディングのレミリアの一言が非常に印象的なのです。長く生きることが当たり前な妖怪であったら、「生き続けた」っていう表現は使わないんじゃないかと。だから元は人間なんじゃないかという妄想を膨らませました。
13.さん
文体って難しいですね。経験に基づく描写なら濃く書けるのですが、流石に500年生きてはいないので。このレミリアは部分的にお祖母ちゃんになっています。
14.さん
狂った妹に振り回されるレミリアにはしたくなかったのかも知れません。産廃成分が不足しているのが少し心残りですが。
15.さん
レミリアが良くも悪くも感受性豊かなのは、ちゃんと真っ当に育てられたからじゃないかという妄想です。
16.さん
紅魔館のメンバーは二人揃うだけで勝手に動いてくれるので話が作りやすいです。それだけみんなに愛されているキャラクターが揃っているのですね。
17.さん
まだ紅魔郷しか世に出ていなかったときは、彼女はカリスマだったんですよ……今や見る影もないですが。そんな古いレミリア像で書きました。確かに美鈴との出会いがあっさりし過ぎたかな、と思います。
19.さん
舞台の設定は、主に教科書と映画からの知識です。上海租界に行きたいですね。
インタビューなのは、つまりあの映画の影響をもろに受けていますね。ガンズのカバー曲が主題歌の。
20.さん
コンペの告知から時間があったので、文章を推敲できました。主催の紅魚群さんに感謝です。
レミリアは情けない姿も可愛いですが、格好つけた姿も可愛いですね。
沢山のコメントと評価をありがとうございます。とても楽しい企画に参加できて嬉しいです。
おまけ:Twitterやってます。
海
https://twitter.com/OceanoftheMOON
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2012/11/19 17:48:52
更新日時:
2012/12/17 00:27:04
評価:
16/22
POINT:
1530
Rate:
14.14
分類
産廃SSこんぺ
レミリア
フランドール
パチュリー
美鈴
過去話
色々思うところあるけど整理できん
事実の欠片を編集し、面白いことは誇張して、知らない所には触れないで、憶測を盛り込んだ創作物。
悪魔にして吸血鬼の少女達の『物語』は、語り手と聞き手の数だけある。
まぁ、何にせよこれも一つの「お話」
これが事実か。はたまた誕生日を祝うちょっとしたジョークなのか。
そういえば、咲夜さんはどうしたんだろうか。まぁ良いか。咲夜さんの過去ネタは既に世の中に多いですし。
私が過去話系のネタが好きなのも相まって100点を……。
紅魔の過去推測ものって未だに勢い途絶えないよな・・・・・人気作たる所以か。
面白いというか、安心して読める。
この素晴らしい作品に、こんなウンコみたいな感想でごめんなさい
だから、レトロなのかと合点しました。あらゆるお話は、ここから始まるってことですか。
素晴らしい。
終始淡々と綴られていましたがそこがある意味リアルにも感じられました。
長いお話だから場面転換も重要ですね。
姉妹が悪魔になった後、パチュリーや美鈴と出会う下りにもう一つ盛り上げどころが欲しかったかな、とは思いました。
この後レミリアは幻想郷で暴れまくることになるのでしょうが、この話のレミリアは達観した印象があるので。
インタビューからの創作ゆえ盛り上がりや急展開はないものの、不思議と最後まで読みたくなるお話でした。
丁寧な文章表現に思わず話の中に引きこまれてしまいました。
レミリアのキャラ感が変わったかもしれない。賛美。